満足度★★★★★
斬新で現代的な演出が、マクベスの野心と転落のドラマを、緊張感と迫力ある舞台に実現した。キムラ緑子のマクベス夫人が邪心ない悪女を演じて、運命の皮肉を強く感じさせた。「母と惑星について」に続くすばらしい好演だった。音楽も兵士・騎馬たちの行軍にかかるアップビートな曲、暗い運命を示す不気味な低音の曲など、非常に効果的だった。一貫して闇が残る照明もいい。
演出したロシアのユーゴザーパド劇場のワレリー・ベリャコーヴィッチは2年半前に亡くなっている。この作品をロシアで再演した初日に心筋梗塞で倒れたそうだ。享年66歳。彼については思い出がある。2000年に同劇団が来日した時に、「朝日」の紹介記事に惹かれて「どん底」を見にいった。あのつまらない(失礼!)「どん底」を、こんなにかっこよく、面白くやるのかと、驚嘆したことを今でも覚えている。大胆なテキストレジー、ダンス、群舞、モブシーンなど演劇の身体性を前面に出しつつ、セリフの力をここぞというところで押し出すメリハリ、シンプルな舞台・衣装で俳優に集中し転換も早く、光と闇を効果的に配した照明など。そうした特徴は今回の舞台でも変わらなかったし、より一層進化していた。
十数年、観劇から離れていたので東演がベリャコーヴィッチの指導を受けて多くの成果を上げていたことを知らなかった。今回、彼の遺作をこうして見ることができたのは幸運だった。