母と惑星について、および自転する女たちの記録
パルコ・プロデュース
紀伊國屋ホール(東京都)
2019/03/05 (火) ~ 2019/03/26 (火)公演終了
満足度★★★★★
素晴らしい舞台だった。再演だが、今年第一四半期のベスト。笑いあり、哀しみあり、愛あり、希望あり。初演では鈴木杏が読売演劇大賞最優秀女優賞をとったが、今回の再演では他の女優もそん色ない。母親役がキムラ緑子にかわり、どうしようもなくジコチューだが、素直で憎めない母親を好演していた。また三女役の芳根京子も大変良かった。初めて見たが、いっぺんでファンになった。
長女の田畑智子が、イスタンブールで詐欺にあい200万のじゅうたんを買わされる出だしも傑作。サイコー
熱帯樹
世田谷パブリックシアター
シアタートラム(東京都)
2019/02/17 (日) ~ 2019/03/08 (金)公演終了
満足度★★★★★
詩的なセリフの底にポッカリと死の淵が口を開けて待っている、耽美的な三島由紀夫ワールド。中嶋朋子、岡本玲、栗田桃子の女優陣が光っていた。矛盾した心境を語りながら、どっちが仮面でどちが素顔なのかもわからなくなる、虚々実々の心理的駆け引きが見事。男優陣ももちろんいいのだが、女性の力に翻弄される哀れな姿をよく演じていた。
一家の主人の鶴見辰吾は、妻の中嶋朋子を人形のように支配していることになっているのだが、実は妻の方が一枚上手。奴隷こそ主人の生殺与奪のカギを握る「主人」であり、主人は奴隷によって生かされている「奴隷」だという弁証法的関係を見事に示していた。息子の林遣都は文句なしにかっこいいが、芝居では最も受け身な存在だった。
昼の回だったが、観客は女性が9割以上。30代から50代の女性が中心で、明らかに林遣都目当て。シアターコクーンの「唐版風の又三郎」も、窪田正孝のファンの熱心さには驚いたが、今回も若いイケメンへの女性の熱心さには驚くばかり。
カミノヒダリテ
劇団俳優座
俳優座スタジオ(東京都)
2022/01/07 (金) ~ 2022/01/16 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
タイロンが悪魔のように喋り出すところから、どんどん芝居に引き込まれ、ジェイソンとタイロンの対決にはまさに固唾を飲んだ。大変な迫力と、人間の振幅の大きさに揺さぶられる舞台だった。母が不品行な行いに突然のめり込んだり、ジェイソンの父を母は見殺しにしたのか、など理由がはっきりしないところもあるが、そこを役者の迫力と力わざでねじふせた。
ジェイソンとタイロンを見事な声色で演じ分けた森山智寛の熱演は圧巻の一言だった。
背景に古い宗教の教えにしがみつくアメリカ南部の風土があるが、そんな理屈抜きに、舞台の事件に心底ゾクゾクさせられた。
つながりのレシピ
秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2019/04/05 (金) ~ 2019/04/14 (日)公演終了
満足度★★★★★
寂しいくせに強がりの男やもめが、亡妻に導かれるようにして、今まで見下していた元ホームレスの青年たちと、心通わせるようになる上質のホームドラマ。プライドだけが支えの実は弱い夫を、葛西和雄が好演。彼の何気ない一言、予想通りの頑迷ぶりに客席は笑いが絶えなかった。同時に、彼のいわば引き算の演技がすばらしく、何気ない所作でもなぜか涙腺が刺激されて、私はずっと涙目だった。私も薄っぺらな誇りを口実に、ふてくされている自分の姿を見出す気がしたからだろう。(友人は、葛西和雄のはげ上がった額もふくめ、向田ドラマの杉浦直樹のようだったと。そのとおりと、私も膝を打った。)
ケレン味ない正攻法のリアリズムで、自宅のパン屋は寅さんの団子屋のような人情あふれる日本人のふるさとに一変。笑いと涙でほんわか浄化されるような、まさに理想的な観劇体験だった。
相方の、亡妻のパン作り友達だった肝っ玉おばさんを藤木久美子が貫禄で演じた。とにかくいまの青年劇場の二枚看板のふたりがすばらしい。
モデルになったホームレス支援団体「てのはし」の年末年始の炊き出しを取材したばかりだったので、一層身近に感じられた。こういう活動に献身する人に改めて頭が下がる。
また元ホームレスや支援団体への、周囲の無理解の壁も描かれていた。「みんな仲良し、世はこともなし」では済まない複雑な日本の現実を考えさせるものだった。
統合失調症の幻聴に、「幻聴さん、幻聴さん。今日は私たちがいるから大丈夫です。安心してお帰りください」などという呪文は、病気をユーモアで包み込む素晴らしい知恵だった。生活保護が貧困ビジネスの餌食にならないように、受給者にまず「ハウジングファースト」というのも初めて知った。細部に丁寧な取材が生きていると感じた。
上演時間2時間5分(休憩なし)という手頃な長さも、客席では好評だった。
斬られの仙太【4月25日公演中止】
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2021/04/06 (火) ~ 2021/04/25 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
戦前の左翼運動を幕末維新の水戸・天狗党に仮託して描いた作品である。農民(大衆)と武士(知識人)の関係をニヒルなまでに冷徹に捉えている。尊皇攘夷の大義のために天狗党と行動を共にした農民の仙太(伊達暁)が、藩の内部抗争にあけくれる運動の実態に嫌気をさして一度は田舎に引っ込む。それでも、天狗党の加多(小泉将臣)に説得され、再び運動に身を投じたのに、最後は切り捨てられる。
加多はかつて仙太の疑問には理があると感じるような広い視野をもつ男である。それでも、最後は泣いて武士の側に立つ。維新後の自由党も、結局、天狗党と変わらないというニヒルな見方もされている。「農民のことを本当に考えているかどうかを見極めなきゃダメだ」というせりふがあるが、そういう革命党なら信頼できるとも取れるし、そうでないから革命党は信頼できないともとれる。左翼演劇の当事者だった三好十郎の転向表明とも、運動批判とも、信条告白とも取れる。前向きに取るなら、農民大衆の側にたったカッコとした運動を作ろうという呼び掛けでもあろうか。
大きな維新の動きを狭い筑波山近辺の出来事で描くので、「オフェーリアの死」の知らせのような、伝聞情報が多い。と思っていたら、ここぞというところでは真剣で斬り合う剣劇シーンが見られて、盛り上がる。女性の少ない芝居だが、芸者役の陽月華に切ない花があった。まじめに働き続ける段六役の樋口寛之も、みんな頭に血が上っている人々の中で、ホッと落ち着ける存在感があった。
もと戯曲は7時間あるのを4時間20分(20分の休憩2度含む)にカットしたというが、話に無理はないし、ほとんど長さも感じなかった。見終わって、清々しさが残った。スピーディーでメリハリのついた見事な演出だった。舞台は、奥がかなり高い傾斜舞台で、セットはほとんどない。そこにふすまを置いたり、木戸を置いたりして、場所の違いを示す程度。目で見るというより、語って聞かせる濃密なセリフ劇である。ただ衣装や刀は幕末の農民、武士をしっかり示していた。
ヒトハミナ、ヒトナミノ
企画集団マッチポイント
駅前劇場(東京都)
2019/04/10 (水) ~ 2019/04/21 (日)公演終了
満足度★★★★★
障害者の入所施設を舞台に、障害者の「性」の問題、福祉・介護の現場が出会う矛盾を描く。シリアスになりやすい題材だが、あけっぴろげなおばさん主任(竹内都子)、出入りの太った金持ち社長(辰巳智秋)が、絶妙のツッコミをいれて、終始笑いが絶えない。出演者に合わせた当て書き(あるいは台本に合わせたキャスティング)が非常にはまっていたし、出演者も、それにこたえて、実に生き生きとしていた。
ほかの人も書いているが、インゲン豆の細かい胚芽とりという、膨大な単純作業の繰り返しが、会話劇の最中、ずっと続けられているわけだが、これは苦労が多くて報われることの少ない障害者介護の見事な隠喩としてみえた。
昨年9月の「逢いにいくの雨だけど」につづく、横山拓也作品の二回目の観劇。前作も、ジーンと考えさせられるものが後を引いた(今も続いている)が、今回も、障害者の性というだけでない、仕事と人生、夫婦の絆の問題、社会の不寛容の問題、地方と都会と、多面的な問題を映し出す舞台だった。全6場(多分)。100分休憩なし、割とコンパクトな芝居
障害者役の尾身美詞も、一途な雰囲気が良く出ていた。ロシアのチェチェンの中学校人質テロ事件を描いた「US/THEM わたしたちと彼ら」の、疲れを知らずに動き回る中学生役も圧倒されたが、今回は車いすに乗って時々出るだけなのに、存在感があった。
「慈善家-フィランスロピスト」「屠殺人 ブッチャー」
名取事務所
「劇」小劇場(東京都)
2023/11/17 (金) ~ 2023/12/03 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
屠殺人ブッチャーを拝見。 かつて ラビニア (架空の国、もとソ連の一国か)で残虐な拷問を行った男(高山春夫)に対して、 若い女(万里紗)が 復讐を始める。 その冷酷さが怖い。 最初は何も関係なく見えた若い男(西尾友樹)が、実は意外な関係があって事態に巻き込まれる。その過程がスリリング。最後に どんでん返しもあり、息をつかせない。
100分とコンパクトだが、最後まで緊張感に満ちた 芝居だった。
改訂版「埒もなく汚れなく」
オフィスコットーネ
シアター711(東京都)
2019/05/09 (木) ~ 2019/05/19 (日)公演終了
満足度★★★★★
孤高の劇作家・大竹野正則の評伝劇。天才は寡黙で正体がつかめないところが、天才だ。それを支える妻は、凡人ゆえに、身勝手が天才に振り回される悲哀を免れない。西尾友樹、占部房子の主演のお二人がよかった。とくに、夫婦げんかの場面。占部さんの悲痛な叫びは胸に刺さった。
長い長い恋の物語
玉造小劇店
ザ・スズナリ(東京都)
2023/02/14 (火) ~ 2023/02/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
3代にわたる在日韓国・朝鮮人の人生を、ときに大阪の笑いをまぶしながら、つらすぎず軽すぎず、絶妙のバランスで描いた。主軸は戦争中に日本にわたってきたパク・ソジン=木村辰男(うえだひろし)と、社長のお嬢様の桜子(松井千尋)の、遠くから思いあっている恋。
朴は戦争中、監督と社長にはげしくいじめられる。初仕事につらい肥え汲みをやらされ、殴るける、果ては犬の格好までさせられる。監督(野田晋市)の意地悪さが本当に憎々しい。兄は戦死。戦争は終わった後で兄の息子は朝鮮戦争に志願して戦死と、不幸が続く。会社の先輩で実は在日の男(カン・ソンヒョ)は、帰還運動で「地上の楽園」を歌う北朝鮮へ。当時は革新勢力がこぞって帰還運動を後押ししたが、いま複雑な気持ちは抑えがたい。
東京五輪が迫るころ、ベテランのみやなおこ、美津乃あわが、それぞれ木村の子・洋子、桜子の子・珠希で、小学生のかっこうで、無駄にはしゃいで出てくるところから、笑いが醸し出されてくる。珠希は母の桜子に「ガードの向こう(朝鮮人部落の鶴橋)に行っちゃダメ」と厳しく言われていたが、ある日、エイヤっと、ガード向こうの洋子の家に遊びにいく。そこで、赤いスイカと、気のふれた伯母のある出来事に、珠希はショックを受ける。その事件をめぐり、学校に呼ばれて再会する木村と桜子。ここで野田晋市が女校長役で、用務員(笑福亭銀瓶)との掛け合いで笑わせる。悪役とへんな女形を演じて違和感のない野田が見事。
さらに時がたち、桜子の父の社長(コング桑田)が、自分の秘密を語り、後事を木村に託す。がたいのでかいコングの出番は戦前とこの時だけだが、この場面は迫力と重みで強烈な印象を残す。もう64歳の作者のわかぎゑふは、朴の兄嫁と洋子の息子役の二役をやる。とくに息子役は野球帽のつばを後ろにかぶって、アラレちゃん眼鏡をつけ、あまり男には見えないが、でもかわいい子役だった。成績優秀な木村の次男(カン・ソンヒョ)が留学前に、爪とぎでなぜが指の腹をこすっている。パスポートをとるので、ずっと拒否してきた指紋押捺をせざるを得ない。それで癪だから指紋を消すというのは、なるほどと感心した。
韓国・朝鮮語のセリフも時折出て、在日であることをしっかり描いている。最後には感動のエピソードもある。在日の歩んだ長い道を印象的なエピソードで描き、日本と韓国の関係、時代と人間の変化、さらには部落問題までも絡めて見ごたえある芝居であった。パンフを見ると、ここに書いたことをふくめ、劇中のすべてのエピソードが、作者自身、あるいは友人の体験だという。
ガラスの動物園
東宝
シアタークリエ(東京都)
2021/12/12 (日) ~ 2021/12/30 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
2年前文学座で見たときよりも発見が多かった。「追憶の劇」という冒頭の宣言のとおり、数年後のトムの回想であること、ローラがビジネス学校に通うふりを半年も続けていたこと、開戦で異国の冒険が(映画俳優だけでなく)自分たちもできるというトムのセリフ。遠くに憧れて家族を捨てて「異国へ行った」父の存在が意外に大きいこと。等々。
ローラと踊ったジムが、誤って ガラスのユニコーンの角を折って壊してしまう。ローラはあまり気にせず、というか清々したかのように「これでこの子も普通の馬になれて、良かったのよ」という。ローラ自身が、普通の幸せを手にできたかのように。その直後、ローラの夢は崩れ去る。天国から地獄へのこの落差は、やはりすごい芝居である。
一幕目は、これが名作戯曲なのだろうかと、不遜にも疑ったが、終幕すると、名作だと確信した。さらに今回は、麻実れいのデフォルメしたワガママで自分勝手で世間知らずの母親ぶりが、自然主義的リアリズムの退屈さを救った。倉科カナの美しさ、愛らしさは、目立たない人物というローラの役柄とは相反したように一幕では思った。しかし二幕の極端な引っ込み思案ぶりから恋の喜びへ、輝く幸せからどん底への、短時間でのジェットコースターなみの落差は見事だった。
魔笛
東京二期会
東京文化会館 大ホール(東京都)
2021/09/08 (水) ~ 2021/09/12 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
序曲の目撃で、主人公の男が、自宅の子どもたちのやっていたゲームの世界に入ってしまう。魔笛の本編は、そのゲームの中の冒険になる。舞台は、斜めにおかれた大きな四角い箱のような形。背後の壁を手前と奥と二重にして、手前の壁を半開きにしたり全部閉じたりして奥行きに変化が出る。手前と奥にさまざまな映像を映し出して、視覚的にわかりやすく変化に富んだ部隊だっった。
歌手も良かった。夜の女王高橋維もコロラトゥーラが絶品。パミーナ盛田麻央が、愛を得られないと思って嘆くアリアが今回、特に胸にしみた。パパゲーノ役の近藤圭の緩急自在なコミカルさも良かった。
厳粛なザラストロの音楽から、「パパパの二重唱」まで音楽的にも非常に多彩で、聞かせどころがたっぷり。改めて名作だと再認識した
恭しき娼婦2018
新宿梁山泊
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2018/10/10 (水) ~ 2018/10/14 (日)公演終了
満足度★★★★★
サヘル・ローズは娼婦役なんだけど、上品なイノセンスと、芯のある強さと、媚びない誇りがあって最高だった!サルトルの戯曲なのに、自警団に追われる朝鮮人をかくまう話になっていてびっくり。見事な翻案だった
オペラ『さよなら、ドン・キホーテ!』
オペラシアターこんにゃく座
吉祥寺シアター(東京都)
2021/09/18 (土) ~ 2021/09/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
ドイツ軍占領下の、多様な人々の動きに、LGBTの問題も絡めた、非常に見応えある「ドン・キホーテ」だった。ピアノの伴奏(服部真理子)がずっとつくが、音楽と場面の演技が、歌わないところでもよく噛み合っていた。ドイツ軍占領下のフランスが舞台で、ドンキホーテになりたい不登校の女の子ベルが主人公だと、見ているとわかってくる(一幕1場)。ベルは夜中、ロシナンテとサンチョの2頭の馬を連れて冒険の旅に出ようとしていると、逃げてきたユダヤ人少女サラを匿うことに(2場)。翌朝、呼びに来た女教師オードリーを、牧場の手伝いの青年、びっこのルイの助けで追っ払い、ベルとサラは「冒険の旅」を歌い、みんなを巻き込む(3場)。
二幕、2時間35分(休憩15分こみ)
Wキャストのうち青組を拝見。ベル役の沖まどかが、小さな体でエネルギッシュに動き回り、舞台を引っ張って、存在感抜群だった。サラ役飯野薫は可憐。オードリー役梅村博美はお硬い女教師が、二幕になると、キビキビした色気のあるダンスで魅せた。道化役のサンチョ冨山直人は絶品で、徴用に出されるのをごねるところは大いに笑わせた。相手やくロシナンテ大石哲史も、うらぶれたが誠実で人情ある老馬の風情がよく出ていた。
修道女たち
キューブ
本多劇場(東京都)
2018/10/20 (土) ~ 2018/11/15 (木)公演終了
満足度★★★★★
良かった。宗教がテーマといっても、大したことないだろうと思っていたら、とんでもない。「献身と救済」という直球ど真ん中の芝居だった!途中は笑いも、劇的な見せ場もたっぷりあって、最後にテーマにドーンと迫る。3時間15分(休憩込み)と長い芝居なのに、休憩後の2幕目(1時間45分)は全く時間の長さを感じなかった。俳優陣もアンサンブル、緩急ともに見事。まれにみる欠点のない舞台だった。
雨
こまつ座
世田谷パブリックシアター(東京都)
2021/09/18 (土) ~ 2021/09/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
最後のどんでん返しが鮮やかな井上ひさしの代表作の一つ。主役の山西淳が素晴らしい。江戸のコジキから、山形の大旦那になりすまし、時には一人二役も声色でやってのける。笑いから悲劇まで、感情の微妙な振幅も自在に表現。さらに標準語から方言までを使いこなして、言葉の劇でもある本作をしっかり支えていた。
主なキャストで13人、加えて村人・女中などのアンサンブル12人、総勢25人という大きな規模に驚いた。パーカッションの生演奏もあり、大変贅沢な芝居。先ぶとで上部が少し曲がった(五寸釘を模した)柱を軸にした回り舞台が、シンプルだが、傾斜場や、段差ある座敷などを表裏に配して、全11場の多様な場面をよく表していた。紅屋の、紅花を大きく描いた背景は、ほかは全てくすんでいただけに、特に際立っていた。
冒頭の久保酎吉の、人形を使った背負われ役も絶品。最初は二人だとばかり思った。そのほか、名前は書かないが、芸達者揃いで、贅沢といえば、これが最大の贅沢だった。
鉄屑拾いのトクが大旦那にうまく成りすませるかどうか、という一本筋で観客をずっと引っ張っていく。そのスリリングは差し詰め「太陽がいっぱい」のよう。トクがで突っ張りであるように、全く副筋に遊んだりはしない。でも、旦那の女房のおたか(倉科カナ)との寝間の場面が、「えつものように」というおたかの催促ひとつで、右往左往するトクに笑いが起きる。天狗に詳しい儒者(土谷佑壱)の人間離れした演技も面白い。
底辺から這い上がる男の一代記としても、中央と地方の対立としても、欲(権勢)に目がくらんだ人間の愚かさとしても、権力と民衆の双方の非情さとしても、実に多くの問題を孕んでいる芝居だった。
おかしな二人
テアトル・エコー
恵比寿・エコー劇場(東京都)
2018/12/01 (土) ~ 2018/12/12 (水)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2018/12/03 (月) 19:00
面白かった。ズボラと超几帳面のふたりの同居生活が、性格の違いて衝突する。その大真面目ぶりやあきれぶりも面白いし、セクシー姉妹との「合コン」の脱線ぶりもよかった。セシリーの胸の谷間!にドキドキしました。
その恋、覚え無し
劇団桟敷童子
すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)
2018/11/27 (火) ~ 2018/12/09 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2018/12/04 (火) 14:00
とても素晴らしい舞台でした。4人の盲目の女性祈禱師たちを神目(カンメ)と呼んでいましたが、こうした独特の命名も含め、美術、衣装、所作、物語の全てから、現代とは違う、しきたりの厳しい前近代的山村の世界が現出します。
そこに起こる幼女の「神隠し」事件や、過去の因縁の糸が絡み合って、テレビでも映画でも見られない、演劇ならではの没入体験を味わいました。ラストの光景も素晴らしいですが、水車が突然回り出す不気味さも抜群でした。
この秋、一番の舞台です。
ショウ・マスト・ゴー・オン【12月3日~4日、12月7日、12月21日~24日昼公演中止】
シス・カンパニー
世田谷パブリックシアター(東京都)
2022/11/25 (金) ~ 2022/12/27 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
大いに笑わせてもらった。とにかく登場人物たちのキャラが立っている。そのキャラによるボケやずれや勘違いやわがままがうむピンチと、素っ頓狂なその解決策が笑いを呼ぶ。そして、何度失敗したり、いさめられても、全然懲りず、何度も同じ失敗をするのもおかしい。いつもの三谷喜劇は後に何も残らないが、舞台監督進藤(鈴木京香)の切ない出来事でペーソスが漂う。
それぞれの俳優が主役級の有名俳優をそろえた豪華キャストで、大変ぜいたくな時間だった。
下手の舞台袖の出来事で、本来とは逆に上手の舞台袖に舞台がある設定。舞台の様子は見えないが、適宜音が聞こえてくるし、(役の俳優たちは)こちらから舞台の様子を見ることができる。舞台・映画の「ラヂオの時間」は、本番中のラジオドラマの舞台裏のてんやわんやが見どころだが、本作はその演劇版と言える。映画で主婦作家を演じた鈴木京香が、今回舞台監督を務めているのも楽しめる。
夏の砂の上
世田谷パブリックシアター
世田谷パブリックシアター(東京都)
2022/11/03 (木) ~ 2022/11/20 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
松田正隆は「静かな演劇」の代表者の一人とされる。去年見た「紙屋悦子の青春」は、大声やコミカルさもある意外と普通の会話劇だったが(もちろん傑作であることは前提)、本作はまさに「静かな」劇だった。初演は平田オリザが演出したというのもうなずける。今回は栗山民也の演出。平田演出は見ていないが、アフタ-トークによると、今回の方がかなりゆっくりと、間(ま)を大きくとって演じたらしい。確かに豊かな間があった。これほど間の引き立つ芝居は珍しい
主人公の治(田中圭)の科白が「ああ」「うん」とか「何や」と、ほとんど合いの手のようなものなのに、そこに非常に豊かなニュアンスがある。ほかの人もだが、特に治に目立つ。これにも大いに感心した。仕事を失い妻にも出て行かれた鬱屈を抱えて、感情を表に出さない、言葉数も少ない人物を好演していた。
チェーホフ劇は到着から始まり、出発に終わる、とだれか言っていた。本作も妹(松岡逸見依都美=好演)が高校中退の娘優子(山田杏奈)をつれてきて、治と同居が始まる。真面目そうに見える優子が、隠れてバイトの先輩を誘惑したりじらしたり、小悪魔的要素があって面白い。治が見てないようできちんと見ていて、先輩の大学生に「早よ帰れ」と繰り返すあたりも。
造船所がつぶれ寂れていく坂の町(長崎らしいが明らかではない)の、無駄に暑いさびれた空気感が漂う。クレーンの赤錆にも通じる。その町で暮らす男、出ていく女、それぞれ確かにそこに生きている手ごたえが感じられた。傑作舞台である。
2.8次元
ラッパ屋
紀伊國屋ホール(東京都)
2019/06/09 (日) ~ 2019/06/16 (日)公演終了
満足度★★★★★
売れない新劇劇団がアニメ原作の「ミュージカル」に挑む物語。おすすめです。ピアノ、歌がうまくて、笑えて泣ける。演劇論にもなっていて、大衆演劇を道具たてにした井上ひさしに似ているところもある。1時間50分。