
世界も三角、土俵も三角/特殊になれなかった者たちへ
マチルダアパルトマン
インディペンデントシアターOji(東京都)
2020/10/07 (水) ~ 2020/10/11 (日)公演終了
満足度★★★★
マチルダ・アパルトマンの描く若者の日常は非日常である。登場人物もネジが緩んでいてパッとせず、若い人が好むような職業にはついていない。部屋も汚い(笑)。その辺りが若者の日常を淡々と描いた他の演劇(おそらく主人公の部屋は奇麗)とは違っている。基本的にはその場その場の不思議な状況を楽しむべき作品なのだと思う。ただし「世界も三角、土俵も三角」からは極小偽テロリストの論理みたいなものを読み取ることはできた。
二つ目のお話は一つ目の後日譚ということなのだろう。しかし大きすぎるギャップを私は埋めることができなかった。一つ目の終わりが先行きを不安に思わせるようなものだったのならすんなり腑に落ちたのだが。そして彼の相方があの彼女だったのだろうかという疑問が浮かんでそのまま残ってしまった。
例のイラストを止めてしまったのがちょっと残念。

私はだれでしょう
こまつ座
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2020/10/09 (金) ~ 2020/10/22 (木)公演終了
満足度★★★★
こまつ座のこの種の舞台はそれほど好きではないのだけれど、父が戦争に行っていたせいかついつい観てしまう。今回は記憶喪失した復員兵が話の一方の主役で父と同じような任務に就いていたことから昔聞いた話を懐かしく思い出した。幸い父は記憶喪失にもならず実家も空襲に遭わなかったので日本に着いてからはすんなりと帰郷できたのだった。
当時の基本的な用語や社会情勢がふんだんに盛り込まれている。軍の幹部が戦後のどさくさに軍需物資をわがものにする話が出てくるが、戦時中でも物資を不正に蓄え妾をかこっていた奴がいたというのは母がいつも憤っていたことだ。こういう話は井上ひさしの世代のリアルだったのだが私の世代ですでに伝聞であり若い世代には別の宇宙の話で理解は困難だろう。
ストーリーは二つの主題が交錯し、大小さまざまな伏線が張られ、歌あり、踊りあり、タップダンスまであり、とサービス精神旺盛である。私も面白かったで終わらせておけば良いものを、GHQに逆らうなんてそんな勇気のある人々がいたんだと調べ始めるととたんに困ったことになった。フランク馬場は実在するものの川北京子は見つからない。そしてフランク馬場が軍法会議にかけられた形跡はなく、それどころかそれ以降も日米で大活躍するのである。まあこの舞台は事実と空想を作者の頭の中で混ぜ合わせて熟成させたものなのだろう。
イベントの開催制限緩和が漸く実行されてこの舞台も1席飛ばしではなくなった。贅沢な時代の終わりは、関係者には怒られそうだけど、ちょっと残念。

ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~【9月11日(金)開幕決定 / 公演中止 2020年7月12日(日)~8月30日(日)】
ホリプロ
赤坂ACTシアター(東京都)
2020/09/11 (金) ~ 2020/10/17 (土)公演終了
満足度★★★★
少年ビリーがダンスに目覚め、困難を乗り越え王立バレエ団のオーディションに合格するお話。
困難とはいってもダンスについては易々と上達して行く。私が作者ならビリーは育ちが悪いので優雅なニュアンスが表現できないとか余計な話を入れたくなるのだが、このお話のもう一方にはマーガレット・サッチャー首相と労働組合の戦いがあってそんな時間の余裕はないのだ。そして困難は主にその方面からやって来る。「こんな戦いのときに男がバレエなんかやってる場合か」などと父親を含む周りの人々から非難されてしまう。どうやら作者はビリーの物語と同等かそれ以上にサッチャー批判がしたかったようだ。日本の若い観客にとってはサッチャーって誰?だし、年寄りには何を今更となってしまう。少し無理のあるテーマの貼り合わせに思えるが意外に相性が良くストーリーに躍動感と緊張感を生み出し、3時間(含25分休憩)の長丁場を飽きずに楽しませてくれた。
ビリーのダンスは子供にしてはよくやっているなあという以上のものがあったが、親でも親戚でもない私を感動させるまでには至らない。そんな最初から分かっていることに文句をたれていてはいかんよと思うものの、成熟したダンサーの隙のない身のこなしがもっと観たかったという残念感がやはり大きい。ただしフィナーレの群舞は文句なし。これに匹敵するものをもう一つやってくれたら星5つだったのだが。

『浦島さん』『カチカチ山』
ヴィレッヂ
東京建物 Brillia HALL(東京都)
2020/10/04 (日) ~ 2020/10/17 (土)公演終了
満足度★★★
「浦島さん」を観劇
太宰 治「お伽草紙」の「浦島さん」を舞台化したもの。とくに中盤は会話の連続なのでほぼそのままである。原作は浦島太郎の物語を太郎と亀のくだくだとした会話で延々と伸ばしたもので、あらすじを書けばただの浦島太郎のお話になってしまう。したがって皮肉や揚げ足取り満載の会話を楽しむべきものなのだろう。ただし竜宮での生活はタイやヒラメの舞い踊りがない地味なもので作者の思いが感じられる。80分休憩なし。
いのうえひでのり演出ということで劇団☆新感線的な何かを期待してしまうが登場人物が3人という時点でそれは無理だと諦めなければいけない。とはいえ亀役の粟根まことさんの(いつもの)怪演がたっぷり楽しめるのは劇団☆新感線ファンには嬉しいところだ。その怪人粟根と渡り合う福士蒼汰さんは大変だったろうが一歩も引けを取ってはいない。しかし私の一押しは乙姫役の羽野晶紀さんである。出番は多くはないが実に個性的でチャーミングであった。今まで私の脳内ではあのお姑さんのイメージが邪魔をして正しい姿をとらえることができなかったが今回で払しょくできたと思う。
以上に述べた「ストーリーは浦島そのもの」「何事も起こらない」に気づくのが遅すぎた、と言うより終わるまで気が付かなかった(笑)ためあまり楽しめなかった。満足度は星3つ。
・会場の東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)について
池袋駅の東側、ヤマダ電機とビックパソコン館の間を抜けていくと小さな公園がある。以前は公園の向こう側に豊島区役所と豊島公会堂の古い建物があって急に寂れてしまっていた。そこにいきなりおしゃれな建物群が出現した。「東京建物 Brillia HALL」はその一つにある。それを見るのが第一の楽しみであった。ホールは3階構造で合計1,300席のほど良い大きさである。できたばかり(とは言っても2019/11開業)で小奇麗だがとくに目立ったものは残念ながらない。

十二人の怒れる男
Bunkamura
Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
2020/09/11 (金) ~ 2020/10/04 (日)公演終了
満足度★★★★★
9月の11本目。「行って、観て、書く」と年齢のせいか今年は昨年までの2倍疲れる。自粛による運動不足とマスクの影響もあると思う。
舞台すぐ横の、観客がフェイスシールドをさせられる席に座った。やはり近いは正義だ。このお話は映画や変種も含めかなりの数を観ていて、いつもはそんなアホなとかツッコミを入れてしまうのであるが今回は何も考えずに舞台と一体化することができた。
3番山崎一さん、10番吉見一豊さんの暴れっぷりはやっていて面白いだろうなあと思う。主役8番堤真一さんはオリジナルのヘンリー・フォンダ並みに正義の味方風味がきつくて少し鼻についた(まあ、そういうお話なのだが)。私の一番の押しは4番石丸幹二さん、理性的というか単純というか、機械のような人物を生き生きと描いていた。あれ、もしかして4番はAIでこれはSF劇だったのか?
かぶりつき席から観た満足度は星5つ。

私たちは全力でホラーに挑みます!
ライオン・パーマ
駅前劇場(東京都)
2020/09/23 (水) ~ 2020/09/27 (日)公演終了
満足度★★★★
9月の観劇も10本目。ノルマは達成した。
構成がしっかり考えられていて気持ちよく決まっていた。と書きたいところだけれど、各パーツの噛み合い具合がもう一つだったというのが正直な感想。花村怜美さんの団地妻的物腰がツボだった。

おじいちゃんの口笛
東京演劇アンサンブル
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2020/09/23 (水) ~ 2020/09/27 (日)公演終了
満足度★★★★
9月の観劇も9本目。疲れてペースダウン中。
スウェーデンの作家ウルフ・スタルクの子供のころの体験を元にしたお話らしい。絵本は日本語にも訳されている。
CoRich の「説明」にすべてのストーリーが書いてあり、その通りを達者な役者さんたちが丁寧に描いていく。大道具小道具もしっかり用意されていて奇抜な演出もなく安心して観ていられる。
75分と短いこともあって私には物足りなさが残った。心構えを75分にセットして臨むのが良いと思う。

心の嘘
劇団俳優座
俳優座スタジオ(東京都)
2020/09/04 (金) ~ 2020/09/20 (日)公演終了
満足度★★★
9月の8本目。
「これって面白いんですか?」と観客の皆さんに聞いて回りたいくらい見どころが分からなかった。
家族を思い、ぶつかり、すれ違う。そういう物語ではあるのだが「それがどうしたの?」と聞きたくなる。大げさな演技、思わせぶりな言葉はたっぷりあるが実質の中身がない。どうも私はアメリカの現代劇との相性が悪いみたいだ。
年配の俳優さんの演技が的確なことには感心した。

ツバメの幸福
ツツシニウム
キーノートシアター(東京都)
2020/09/09 (水) ~ 2020/09/13 (日)公演終了
満足度★★★★
9月の観劇、オーバーペース気味の7本目。
「幸福の王子」の短い記述を作者の想像力で膨らませた秀作である。
縫子さんとその息子の話、劇作家の話、マッチ売りの少女の話、どれも原作では1ページ程度のあっさりとしたものである。そこに幸福度を計算する父親とその娘、娘の今の恋人と昔の恋人の4人を創造して3つの話に絡ませてくる。
たとえば原作では「マッチ売りの少女がマッチを溝に落としてしまう」としかないところを乱暴な男とぶつかってマッチを落としてしまうということにしている。この男は上記の昔の恋人であってかなり困った人物であることがここまでで観客に十分浸透しているのである。いつマッチを落とすのかと訝しんでいた私は「おおそう来たか」と大きくうなずいた。また作家がマッチ売りの少女に「あなたのことを小説にしても良いですか」と尋ねるところはまあそう書きたくなるよねと思わずニヤついてしまった。
最初の母と息子の話はドタバタギャグで会場では受けているものの私は完全スルーである。しかし不快感を持つ観客がいることも計算の内なのだろう。その後の二つは基本的に落ち着いたものであった。元々原作者はこのような書き加えを想定して簡潔な記述に徹したのではないかという気になるくらい説得力があった。そういうわけで脚本は星5つ。役者さんもみなさんうまい。ただ舞台があまりに貧相である。背景の一枚くらいはあっても良かったのではないだろうか。
コロナ対策は最低だった。澱んだ空気に気分が悪くなった。若い人々で赤字にするわけにはいかなかったのだろうと同情はするものの、またこういう会場設営であったなら行かないだろう。ここはマイナス1、本当はマイナス3にしたいところだ。

フランドン農学校の豚/ピノッキオ
座・高円寺
座・高円寺1(東京都)
2020/08/28 (金) ~ 2020/10/03 (土)公演終了
満足度★★★★
「フランドン農学校の豚」を観劇。
9月の6本目。
あの文章からこのビジュアルが作られることに驚いた。オープニングとエンディングもしっかりできている。メッセージが子供に伝わるとはとても思えないが、まずは劇場に行くと何か楽しいことがあるよということなのだろう。セリフが聞き取りにくいところがいくつかあったのと豚の最終形態がよく分からないものだったのが残念ポイント。星は3つ半。

ひとよ
KAKUTA
本多劇場(東京都)
2020/09/03 (木) ~ 2020/09/13 (日)公演終了
満足度★★★
9月の5本目。
前日に映画版「ひとよ」をアマゾン・プライム・ビデオで観たのが悪かったのか笑いの部分が全然笑えず取り残されてしまった。映画版ではカーチェイスまであってやりすぎ感もあるが、細部まで親切に教えてくれて想像力に欠けた年寄りにやさしい。
映画版と舞台版とでは全然違う話と言って良いくらいで続けて見て混乱している現在は満足度の評価は保留としておく。
→後日記:全体では4つ星だが、長男嫁と外国人風人物の笑いは最も嫌いな笑いなのでマイナス1。
*本多劇場は2席ごとに仕切り板があって、換気もしっかりやっている。しかしその後に入った喫茶店では案内された席の両側の若者2人ずつがマスク無しでしゃべるわしゃべるわで、危険は少ないとは思うものの長居は無用と早々に退散した。

ゲルニカ
パルコ・プロデュース
PARCO劇場(東京都)
2020/09/04 (金) ~ 2020/09/27 (日)公演終了
満足度★★★★
9月の4本目。
今回も演劇らしい演劇、しかも硬派の反戦劇である。
歴史上初めて無差別爆撃の行われたスペインのバスク地方の中心地ゲルニカを舞台とし、爆撃までの9か月ほどを描く群像劇である。
革命により没落した貴族の娘が主人公というだけで沢山のドラマが作れそうだがそこに共和国軍と反乱軍の戦争が加わってくるのである。バラエティに富んだ人物が生み出されていると思う反面、作りすぎてわざとらしく感じるところもあった。
娘役の上白石萌歌さんは堅実な演技で紛れもなき主役だった。特に、他人に頼ってばかりの娘から自立した大人へと豹変するところはすっかり引き込まれた。もっともそれは母親役のキムラ緑子さんの憎たらしい演技があって初めて成り立つものだ。おそらく私を含めた観客全員が彼女から鞭を取り上げてひっぱたいてやりたくなったことだろう(笑)。外国特派員役の勝地涼さんは落ち着いた演技で私の一押し。これで重みが着けばとは思うものの「ハケンの品格」での軽目の演技が今の売り物なのだよね。
全員での歌が2度あるが練習していないんじゃないのレベルで星2つ。歌ではないが最後に全員でメッセージを発するところはバラバラで何を言っているのか分からない。ここが数少ないがっかりポイント。
70分+20分休憩+80分。

かがみの孤城
ナッポス・ユナイテッド
サンシャイン劇場(東京都)
2020/08/28 (金) ~ 2020/09/06 (日)公演終了
満足度★★★★
順調に9月の3本目。
分類するとファンタジー少しだけミステリーとなるだろうか。久しぶりに演劇らしい演劇を観た気がする。少なくとも9月の2作は観客を選ぶというか作者が作りたいように作った作品だった。本作は原作が本屋大賞をとったこともあってサービス精神に溢れている。何か変だなあと感じたらそれは伏線で終盤に回収されることになっている。あ、もちろん「どうして鏡の中に入れるの?」といった根本的な疑問はグッと飲み込むしかない(笑)。もっとも長編小説を2時間の舞台にしたのでナレーションが多いなど窮屈なところはある。しかし年寄り頭でも理解に苦しむことはなかった。
生駒里奈さんはNo1グループのセンターとしてはオーラの薄いアイドルであったがそれが幸いして本作のようなしっかりした心を持ちながらもそれを表に出せない、あるいは出さない中学生役にはピッタリである。またこの孤城の中では集められた7人は対等なので生駒さん一人が目立ってしまってはいけない。そういう点でも望ましい特質である。
フェースシールドのせいか全体にセリフの明瞭度が落ちていた。とくに早口で強くいうところはかなり聞きづらい。少しトーンを抑えてゆっくり目にしゃべった方が良いと思う。
コロナのせいで席は一つおき、空いている席に荷物を置いて両方のひじ掛けを独り占めして観劇するなんてコロナ終息後には味わえなくなる贅沢である。思えば夏の小劇場、汗っかきで横幅の広い人の隣になって俺何か悪いことしたっけと泣きたくなったことのあるあなた、今は天国です。

IN HER TWENTIES 2020
TOKYO PLAYERS COLLECTION
シアター風姿花伝(東京都)
2020/09/02 (水) ~ 2020/09/07 (月)公演終了
満足度★★★★
9月2本目の観劇。
舞台上手手前から下手手前にかけて半円形に10個の椅子を並べ、反時計回りに20歳から29歳までの主人公役の女優さんが座る。20歳から順に立ち上がって自分のことを語り、過去と未来の自分から突っ込まれるという作りになっている。担当でない年齢の時は友人や同僚役などをも演じる。これが最近ボケの進んだ老人の頭を大いに混乱させてくれたが若い人なら大丈夫だろう。
まあしかし何も大きな事件は起こらない。これならここにいる女優さん達の半生の方がよほど起伏に富んでいるのではないだろうか。今の若い人はそういう現実感のある話の方が共感できて評価するみたいだ。それにしても葛藤がないというか努力が足りないというか、ふあっと流されて行くように見える。それとも努力していることをたとえ物語でも表には出さないというのが現代の若者流なのか。何か年寄りには物足りないので星3つとなる。しかし、24歳役の榎木さりなさんは今田美桜と上戸彩を足して2倍したくらい可愛く美しい。私の子犬のように繊細なハートはいつの間にか盗まれてしまっていた。星1つアップするので返してほしい。

星の数ほど星に願いを
プラグマックス&エンタテインメント/S・D・P/サンライズプロモーション東京
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2020/08/27 (木) ~ 2020/09/06 (日)公演終了
満足度★★★★
コロナの暗雲の切れ間ともいえる9月を勝手ながら「観劇重点化月間」と宣言いたします。目標は最低10本、できれば15本は行きたいものです。その第一弾がこれです。選択肢が少ないので初見の劇団が当然入ってきます。新しい驚きはあるのでしょうか。
さてその結果はというと、内田理央さんをフィーチャーした美しいチラシのイメージとは裏腹な大バカコメディです。これまで私が観たことのないタイプですが、独特な「言葉の外し」が脳みそをほぐしてくれます。一応町工場と銀行員の話というのは池井戸作品へのオマージュなのでしょうけれど観終わってもなあ~んにも得るところがありません。そういう潔い喜劇のファンにはかなりお勧めです。
おまけとも言えるギター演奏が粒のそろった良い音を出していたことと息子のテニスの動きがそれらしく決まっていたことに感心しました。こういうところが締まっていると全て素晴らしいような気になってきます。
それから「バルブはFB認証者優遇に反対!!」さんがおっしゃるようにフェースシールドは意外に気になりませんでした。

天神さまのほそみち
燐光群
ザ・スズナリ(東京都)
2020/07/03 (金) ~ 2020/07/19 (日)公演終了
満足度★★★★
世の中の不条理な出来事をやや不条理な手法で描いた不条理劇。劇そのものは非常によく分かった(と思いたい)。
1席飛びの「ザ・スズナリ」は普段のひどさと比べるとかなり快適だった。
観客は高齢者がほとんどで平均年齢は60歳以上にもなっていたのではないだろうか。
高齢者はコロナで重症化しやすいと言うけれど「ザ・スズナリ」の階段の方がよほど危険だ。
コロナ明けの観劇の2作目。何を書こうか考えているうちに最初のは忘れてしまった。今回もこれだけ(汗)

バロック
鵺的(ぬえてき)
ザ・スズナリ(東京都)
2020/03/07 (土) ~ 2020/03/15 (日)公演終了
チラシの絵はバロック期の巨匠ベラスケスの代表作「ラス・メニーナス(女官たち)」(1656)である。中央にいるのは(本来は)スペイン王フェリペ4世(1605-1665)の王女マルガリータ。このスペイン・ハプスブルク家は繰り返された近親婚のためにマルガリータの弟のカルロス2世で断絶する。おそらく作者はこの絵と逸話からインスパイアされて本作を創ったがために「バロック」という題名にしたのだろう。そしてあの優雅な曲線の左右の階段に象徴される建物の造りがバロック風なのかも(全然知らないけど)。
内容はこういう怪奇ホラーファンではない私にはちょっと退屈だった。前列なら舞台との一体感があったのだろうが後列では薄暗い舞台に目が疲れて目を閉じては大音響で起こされるの連続で集中することができなかった。電話に出ると向こうの世界に移動してしまうというMatrixのような場面や近くにいながらお互いに見えないとかの場面もあって舞台を明るくするわけにはいかないという事情は分かるのだが。
月曜の昼間で、この情勢だから席は飛び飛びと思いきや満席である。スズナリの満席はかなり体に優しくない(泣)。終わって外に出ると太陽が燦燦と輝いてふらつく体を更にゆらす。

グロリア
ワンツーワークス
赤坂RED/THEATER(東京都)
2020/02/27 (木) ~ 2020/03/08 (日)公演終了
ガラガラじゃないかと心配していたら8割くらいも埋まっていた。申し訳なさそうな花粉症のくしゃみがたまにあるだけで咳の声は皆無である。むしろ芝居には好条件であった。
しかし、演出や照明に凝っているのは分かるのだが内容が全くピンと来なかった。グロリアの境遇が悲惨ということもないし、周りの人もごく普通である。これで恨まれてはかなわない。ストーリーを追うのではなく場面場面を楽しむべきなのか。しかしアメリカの雑誌編集部の日常に興味はないし、わざとらしい笑いに付き合う気もない。観方を間違っているのかなあ。

re-call
企画演劇集団ボクラ団義
新宿村LIVE(東京都)
2020/02/20 (木) ~ 2020/03/01 (日)公演終了
満足度★★
死後の世界、親子の愛情、義父との確執、三角関係、冬山とかキーワードを並べてAIに放り込んだら出来上がった戯曲という感じだった。妙にこねくり回していて導入からして分かりにくい。中間のサークルの合宿風景もただの時間つぶしだ。終盤の30分は感動の押し売りで役者さんが頑張れば頑張るほど白っとした気分になった。無駄に長い2時間半。
同じような年齢の役者さんが、あまり役の年齢に成りきらずに「お父さん」「お母さん」「先生」とか呼び合っている。これでは脳内補完能力が減退した老人(私だけ?)は入っていけない。
A3版のチラシのサービスは良いんだけどね。

いのうえ歌舞伎『偽義経冥界歌』 【大阪・東京 休演(2月28日~3月17日) / 福岡全公演中止 】
劇団☆新感線
赤坂ACTシアター(東京都)
2020/02/15 (土) ~ 2020/03/24 (火)公演終了
満足度★★★★★
源義経と奥州藤原氏のお話だがいきなり牛若丸(=義経)が死んでしまうなど、いつもの劇団☆新感線である。予備知識はいらないし、ストーリーの細部を追う必要もない。流れに身を任せていれば役者さんの持ち味を存分に楽しむことができるだろう。
このしょうもないお話の中で、あり得ないくらいの振れ幅の役を生田斗真さんは全力で完璧に演じていた。私の鑑賞力、語彙力のなさで素晴らしさをうまく伝えられないのが残念である。
早乙女友貴さんの殺陣は他の方の2倍のスピードだ。出番も多く、ファンの方はたまらないだろう。演技も牛若丸をある時はわがままでアホな主人、あるときは他者を寄せ付けぬ悪の剣豪として見事に表現していた。
藤原さくらさんのフォーク調、カントリー調の歌が意外にこの時代劇の舞台に合っていた。やや小ぶりの「ギター風楽器」は過大な音量増幅が驚くほど効果的であった。歌は本職だからもちろん良いが、セリフは時々芝居らしくないところがあって一瞬現実に引き戻されるのがちょっと気になった。
そして私の一押しは「りょう」さんである。ダイナミックな演技に痺れっぱなしだった。力を込めたセリフがいささかの揺らぎもなく脳天を直撃する。TVで見る不思議な魅力の女優さんというイメージとは全然違っている。一番、いのうえ「歌舞伎」を感じさせてくれた。
私の中に「髑髏城の7人」のイメージがまだ残っているので豊洲の回転劇場で観たかったという思いが最後まで残った。ちょっと渋々のスタンディングオベーション。満足度は星4つ半。