天保十二年のシェイクスピア【東京公演中止2月28日(金)~29日(土)/大阪公演中止3/5(木)~3/10(火)】 公演情報 東宝「天保十二年のシェイクスピア【東京公演中止2月28日(金)~29日(土)/大阪公演中止3/5(木)~3/10(火)】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    いやあ楽しい!シェークスピアの全作品に触れるというお遊び企画ではあるのだが、しっかりとした物語になっていて、さすがは井上ひさしと感心した。そこに宮川彬良の音楽が重なったところに、高橋一生、浦井健治という人気と実力を兼ね備えた役者さんが登場するのではこれ以上の贅沢はない。

    最初は「リア王」と3人の娘のお馴染みの場面。ここでは天保12年(1841年)のヤクザの親分、鰤の十兵衛(辻萬長)の跡目相続である。アホ真面目な三女のお光(唯月ふうか)が弾き出され、長女のお文(樹里咲穂)と次女のお里(土井ケイト)で縄張りを分割して受け継ぐ。そのとたん、長女の夫の紋太と次女の夫の花平が争うようになる。これは「ロミオとジュリエット」のモンタギュー家とキャプレット家ではないか…。以下どんどん書きたくなるが自粛。105分+20分休憩+95分と長いが全然飽きない。

    ここまでの役者さんも実に良い味を出しているが梅沢昌代さんの明るい魔女風老婆も嬉しくなるような怪演である。そして進行役の木場勝巳さんの変幻自在のうまさにはあきれるばかりだ。

    この場面はシェークスピア作品の何かを考えながら観るのは実に楽しい。私は有名どころの「リア王」「ハムレット」「オセロ」「マクベス」「ロミオとジュリエット」「リチャード三世」くらいしか分からなかったが、通の人は一つ一つの動作にも連想が湧いてくるのだろう。もっともそういうことを一々考えなくても、しっかりとした衣装、美しい舞台装置もあって絢爛豪華な世界をたっぷりと楽しむことができるだろう。文句なしのスタンディングオベーション、絶対のおすすめ。

    ネタバレBOX

    シェークスピア関連の名前の由来の推定

    鰤の十兵衛 = リア王:ブリテン王→ ブリ、テン → 鰤、十
    三女、お光 = コーディリア:三→みっつ→みつ
    お文の夫、紋太:「ロミオとジュリエット」のモンタギュー
    お里の夫、花平:同じくキャプレット→カプレ→かぺ→かへい→花平(読みは、はなひら):ものすごく苦しい(笑)
    お里の愛人、幕兵衛:マクベス
    主人公、佐渡の三世次:リチャード三世(前半は「オセロ」のイアーゴー役)、ちょっと苦しいけれど”リチャード”が”佐渡”になっているのだろう
    三世次のライバル、河岸安:「オセロ」のキャシオー
    きじるし王次:「ハムレット」のハムレット王子の性格そのもの
    紋太の弟、九郎次:同じくクローディアス
    紋太の右腕、ぼろ安:同じくボローニアス:「ぼろ安」はあんまりだ(笑)
    ぼろ安の娘、お冬:同じくオフィーリア:音的にすごく綺麗な対応だし、運命をも予感させる

    宝井琴凌作の講談「天保水滸伝」からの名前はそのままである。

    清滝村:「天保水滸伝」の舞台となる村の一つ。最初、シェークスピア関連で探してしまった(笑)
    笹川の繁蔵:力士でもあった侠客、講談では悲劇の若親分として描かれる。
    飯岡の助五郎:ライバルの侠客、講談では悪知恵の働く悪親分として描かれる。
    佐吉:清滝村の侠客、後に獄門。棺桶屋なのは「ハムレット」の墓堀人からの連想か。ロミオでもある。

    どこから来た名前かわからなかったのは次のもの。

    十兵衛の長女、お文 = 元はゴネリル
    十兵衛の次女、お里 = 元はリーガン
    代官、茂平太
    代官の妻でお光の双子、おさち
    浮舟太夫:佐吉の恋人なのでジュリエット相当。
    おこま婆:「マクベス」の魔女。

    *パンフレット、ウィキペディアなどを参考にした。
    *『天保十二年のシェイクスピア』研究 : 井上ひさし・追悼プロジェクト:磯山甚一, 鈴木健司, 藤井仁奈編著、文教大学出版事業部, 2012.3
    という研究書もある。自力解決を諦めたときに見てみよう。

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    2020/02/15 02:30

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