
親の顔が見たい
劇団昴
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2023/08/30 (水) ~ 2023/09/03 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/09/01 (金) 14:00
座席1階
2008年に畑澤聖悟が劇団昴に書き下ろし、韓国でも上演され映画にもなったそうだ。畑澤の劇団・渡辺源四郎商店でも上演した。そんな有名作だが見るのは初めて。劇団昴の再演、お帰りなさい公演といったところだろうか。さすが現役の教師だけあって、迫真の戯曲。約2時間の上演で、客席は水を打ったように静まり返って舞台を食い入るように見つめていた。何という秀作だ。
客席をわしづかみにする原動力は、何と言ってもリアリティだろう。お安くない授業料を取る名門私立中学の教室で、女子生徒が首つり自殺をした。夕方、学校に届いた遺書のような手紙に、5人の加害生徒の名前が書いてあり、親たちが緊急に呼び出される。舞台は、わが子がいじめに関わったと認めたくない親たちの壮絶な会話劇である。
職業もバラバラ。シングルマザーあり、事情があって孫を育てている祖父母もいる。会話からはそれぞれの家庭の深刻な内情も垣間見えて、いじめ事件と複雑に絡み合っていく。
当初、いじめなどはなく女子生徒が勝手に死んだと主張する声や、いじめがあったとしても自分の子は関係ないと訴える声が出る。いじめ事件などが表に出れば名門私学の名に傷がつくと、先生からかすめ取った被害生徒の遺書を燃やしてしまう場面も出て、驚かされる。
だが、その後の展開は想像を絶する物語だ。
パンフレットによると、畑澤は2006年に実際に福岡県で起きた中二の男子生徒のいじめ自殺をきっかけに、この物語を書いた。「せいせいした」「別にあいつがおらんでも、何も変わらん」という加害生徒たちの態度に衝撃を受けたという。今作では、舞台は親たちが集まった学校の会議室で、加害生徒は別室にいるという設定で出てこない。だが、先生のせりふで「早く帰りたい」「おなかすいた、ピザとって」などと反省などまったくしていない様子も出てきて、恐ろしさが募る。最後の方の独白で、一人の女子生徒がいじめに参加したことを悔い、抜けたいと思うが抜けられないという姿が出てきて、少しだけホッとする。
いじめの中身は苛烈である。だが、こうしたいじめは現実にはたくさんあり、教師にも親の目にもかからず埋もれてしまっているのだろう。被害者はたった一人で苦しみ、死の淵に追いやられている子は少なくないと思われる。この舞台は、こんな現実を激しく主張している。
子どもたちに見せたい舞台。(客席は圧倒的に高齢者が多かった)
見ないと、損するかも。

ヨーコさん
演劇集団円
吉祥寺シアター(東京都)
2023/08/26 (土) ~ 2023/09/03 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2023/08/30 (水) 14:00
「100万回生きたねこ」で知られる作家・佐野洋子の物語。この絵本はよく知っているが、作者については知識がなく、このような波乱の人生だったとは。演劇集団円のこどもステージは幾度か見たが、このステージの作者も務めていたと、今回のパンフレットで知った。
中国東北部で生まれて内地へ引き上げた。父や兄弟を早くに亡くして苦労してきた半生だが、そんな波乱も笑い飛ばしてしまうような豪傑だったようだ。冒頭、愛煙家の佐野がソファで紫煙をくゆらせながら寝転んでテレビのリモコンを操り、「地球と平行に生きてきた」と叫ぶ場面が印象的だ。編集者たちに囲まれる場面も出てくるが、愛されキャラだったことも分かる。
子ども時代のエピソードもふんだんに盛り込まれているが、子どもらしい場面を大人だけで演じていても違和感がない。大小二人の「ヨーコ」を登場させて会話劇に仕上げた工夫もいい。生演奏の歌あり踊りあり影絵あり。基本的には明るいステージで貫かれている。
テンポよく、完成度が高い舞台だった。

「真っ赤なお鼻」の放課後
劇団銅鑼
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2023/08/23 (水) ~ 2023/08/27 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2023/08/25 (金) 14:00
座席1階
「何のために勉強するのか」「何のために生きるのか」「どんな仕事をしたいと思うのか」。高校生の進路選択で悩ましいテーマだが、これは今も昔も変わらないようだ。ただ、高校生の段階で将来の夢を具体的に描いている子はおそらく、今の方が少ないかもしれない。今作は、やりたいことを見つけたある意味幸せな女子高生の物語。劇団銅鑼らしく、ハッピーエンドを期待して安心して見ることができる。
台本を書いた東京ハンバーグの大西弘記氏は、もともとは高校サッカーの選手であり、そのイケメンの風貌からホストクラブでも働いた経験があるという異色の演劇人と聞いている。彼もまた、自分の人生をささげる職業に悩んだ一人であろう。いろいろ回り道をしながら演劇の道をつかんだ、そんな彼の思い入れも、この戯曲からは感じることができる。
「真っ赤なお鼻」とは道化師クラウンのことだ。病床で子どもたちを励ます姿は本当に勇気づけられる。かつての劇団の俳優で今はタクシードライバーをしながらクラウンをやっているという設定も、本当かと思わせるリアリティがある。
「何のために生きるのか」という解を探すために、僕らの時代は必死になって本を読んだ。加藤諦三の「青春論」などを今、懐かしく思い出す。今時の女子高生はそうした思索をするために本は読まない。行き当たりばったりかもしれないが、行動に移して自分なりの解を見つけていく。そんな行動力には共感が持てる。
ただ、その両親の描き方は今ひとつ。関西出身の母親の関西弁をネタにして笑うのはどうなのか。劇中、両親は娘の成長を見守る重要な立ち位置だけに、もう少しきちんと描いてもいい。
この舞台には、ALS(筋萎縮性側索硬化症)に罹患した母親を介護する高校生男子のヤングケアラーが登場する。この親子の描写には涙が出た。その中でも特に、胃ろうのケアの場面には驚いた。演劇シーンで胃ろうの場面を見たのは初めてだ。とても意味ある場面だ。取り上げた大西氏には敬意を表したい。
客席には夏休みの子どもの姿もちらほら。ぜひ自由研究で取り上げてほしい舞台だ。

くらいところからくるばけものはあかるくてみえない
果てとチーク
アトリエ春風舎(東京都)
2023/08/18 (金) ~ 2023/08/27 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/08/24 (木) 14:30
座席1階
とてもおもしろかった。真夏の上演にぴったりの恐怖だ。カルトが徐々に人間関係を引き裂いていく様子が、比較的明るい会話劇を通して展開されていく。台本もよく練られていて、回転ドアのように登場人物が入れ替わる演出も戯曲にテンポと力を与えていた。舞台美術も秀逸だった。
最初に登場するのは、オーガニック野菜を栽培する農場。ここで汗を流す二組の夫婦はとても健康的に見えるが、不妊で悩んでいたり、別の夫婦は妻は2人目の子はもういらないと言い切って夫とぶつかるという、深刻な亀裂が見えてくる。実はこの農場、カルトと健全社会の接点。オーガニックだから取っ付きやすいし、魅力的だ。こういう設定がリアルで怖い。
舞台を見ている限り、これらの夫婦の亀裂は当初はそれほどでもないのだが、本当は離婚も不思議ではないというくらい深いものであると客席は思い知らされる。夫と妻は健全な家族であり、お互いを大切に思っている。だが、この小さな亀裂に水がしみこんでいくように、カルトが染み込んでいく。自然に、しかもこの道しかないというくらいな正当性を装って。このあたりも実に現実感を持って、うまく描かれている。だからこその恐怖は後段で募っていく。
謎の宗教のうさんくささに当初は抵抗していた夫が取り込まれていく場面も、とてもリアル。明らかに精神的な病気(幻視を見るなど統合失調症か)で治療が必要なのだが、その症状が「大地から取り込まれた明るいパワー」で軽減した体験を経て信じ込んでしまうというところも、あり得る話だ。カルトがあえて弱みに付け込もうとしているのではない。あくまでも自然な人助け、カウンセリングが実は落とし穴だったりする。
もう一つ、この戯曲の一翼を担うのがユーチューブなどの動画。興味があるものだけを見続けるというネット社会、SNS社会への強烈な批判が込められている。もしも彼らがテレビとか新聞とか自分とは離れたところのニュースに接していたなら、自分が見ている世界が広がることでカルトに取り込まれることはなかっただろう。
しかし、米国のトランプ前大統領の信者たちのように、何百万人の「健全な」アメリカ人が教祖をあがめるように心酔していく状況が現実にある。トランプはカルトの教祖ではないけれど、状況はかなりカルト的。舞台を見ながら、こんなことまで考えてしまった。
客席の思索を四方八方に広げていく力のある舞台である。おもしろくないわけがない。

闇に咲く花
こまつ座
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2023/08/04 (金) ~ 2023/08/30 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/08/04 (金) 15:00
座席1階
井上ひさしの「昭和庶民伝三部作」の一つ。初演は1987年という、こまつ座のDNAとも言える作品だ。三部作の一つ、軽快な音楽に彩られた「きらめく星座」も泣けてくるが、この作品は派手な音楽はないけど泣けてくる。「忘れちゃ駄目だ、忘れたふりをしているのはなおいけない」という名せりふは、戦争の教訓を学ぼうともしない世界の為政者たちに向けた、庶民の叫びでもある。
舞台は靖国神社や神田明神に挟まれた東京・下町の小さな神社。山西惇演じる神主は、5人の未亡人の協力を得て、お面を作るなどして生計を立てている。だが、終戦直後の混乱で生き抜くには闇市で食料品などを調達するしかない。冒頭出てくるのは、5人が臨月の妊婦を装ってコメをおなかに仕込んで持ち込んでくる場面。警察の取締でバレたら没収、罰金という憂き目に遭う。
戦前、神主がこの神社に捨てられていた赤ちゃんを育てた。この男の子が、野球の名手に育つ。彼の投げる剛速球は並み居るスター選手をなで切りにする実力だ。戦争に取られて戦争中に戦死公報が舞い込むが、終戦後、ヒョッコリ戻ってくる。だが、この剛速球が彼の悲劇の幕を明けることになる。
今作は出演メンバーがユニークだ。剛速球投手の女房役に浅利陽介。こまつ座には初出演といい、山西とはテレ朝の「相棒」で共演し、おなじみの顔だ。5人の未亡人役もなかなかの存在感。枝元萌は言うに及ばす、青年座の尾身美詞もなかなかの奮闘ぶりだ。笑いを忘れずへこたれずに生きる市井のおばちゃんたちを見事に演じている。
音楽はない代わりに2幕3時間に及ぶ長時間、ギターを弾き続けた水村直也もすごい。
為政者・軍人が理屈を付けて引き起こす戦争の犠牲者はいつも庶民。ウクライナでは特に庶民への被害が重大だとして国際的に禁止されたクラスター爆弾が「適切に」(米軍当局)使われているが、ロシア側からの投下も含め不発弾がきっと戦後の庶民を苦しめるだろう。今では報道量も減っていてよく分からなくなっているが、この舞台で表現されている庶民の辛苦は、ウクライナなどでは現在進行形だ。そんな思いで見ていると、「忘れちゃ駄目だ」のせりふが胸に響いてくる。
本日は初日。カーテンコール後も鳴り止まない拍手が、客席の満足の証である。

我ら宇宙の塵
EPOCH MAN〈エポックマン〉
新宿シアタートップス(東京都)
2023/08/02 (水) ~ 2023/08/13 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/08/03 (木) 19:00
座席1階
「パペットを使い、映像と融合する極上の演劇体験」とチラシにある言葉はその通り。テーマが宇宙だけに、映像表現が極めて有効で、しかも小劇場の舞台にフィットしている。あたかも、プラネタリウムの中で演劇を見ているような、すてきな体験ができる。
物語の主人公は少年の姿をしたパペットだ。今作の作・演出・美術を手がけた「EPOCH MAN」]主宰の小沢道成が主にパペットを操る。お母さん役は池谷のぶえ。ある日この少年が行方不明になってしまうというところから物語は始まる。宇宙や星などが大好きなお父さんが事故で亡くなり、宇宙などについての会話を重ねてきた少年が父親を探して出て行ってしまった、という筋書きだ。お母さんは必死になって、息子を探す。
舞台の床から出てくる役者たちの最初の登場シーンがまるで、宇宙船に乗り込んでくるような感じがする。お母さんはそれほど宇宙に興味はないのだが、父と息子が重ねてきた宇宙についての会話を、息子を探しながら追体験していくような筋立てはとてもユニーク。舞台の三方向の壁に満天の星を映写したり、星座を描き出してみたり。個性的な劇作家小沢が映像の専門家と共に、客席を宇宙空間にいざなう。
「ひとは死んだら星になるの?」。そんな子どもの素朴な疑問文に、舞台は真正面から切り込んでいく。登場人物に斎場で働く男性を入れたのは秀逸だ。人間の死の現実と、本当に宇宙の星になるのかというファンタジーがうまい具合に交錯する。
演技力ぴか一の池谷のぶえや、そのほか小沢を含む4人の俳優たちの切れ味のよい舞台づくりで客席の目をくぎ付けにする。カーテンコールはなかったが、カーテンコールを望むような盛大な拍手が、客席の満足度を表している。

こんにちは、母さん
義庵
調布市文化会館たづくり・くすのきホール(東京都)
2023/07/26 (水) ~ 2023/07/31 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/07/27 (木) 13:00
座席1階
吉永小百合と大泉洋の出演映画で注目されている劇作家永井愛の作品。映画は見ていないが、舞台ならではの魅力満載の秀作だと思う。休憩を挟んで3時間。長さを感じさせないすてきな物語だ。
加藤健一の息子義宗の演劇ユニットによる上演。今更のように気付いたのだが、やはり親子だ。目をつぶると、まるで加藤健一がせりふをしゃべっているように思われるからおもしろい。しかし、本作で彼がみせた舞台上での立ち居振る舞いは加藤健一とはまったく違う魅力があって印象的だ。「加藤義宗」という俳優名を刻む舞台になったと思う。
加藤義宗が演じるのは、有名企業のリストラ対策部長として働く男性。一緒にやってきた仲間の退職勧告をして心身共に疲れ果て、助けを求めるように実家に帰ってくれば、一人暮らしであるはずの母の様子が少しおかしい。見知らぬ中国人女性が帰ってきた実の息子を泥棒扱いするし、亡き父に付き従うばかりだった母は今、なんと留学生支援のボランティアをしているらしい。就職後はほとんど実家に寄り付かない息子は世間にたくさんいる。彼らがいつもと変わらぬはずの実家の母の変貌ぶりに戸惑うという、いかにも「あるある」という場面から舞台はスタートする。
この物語の最大の魅力は、隅田川の花火が見られる東京の下町を舞台にした近所のおばさんたちとの付き合いを縦糸にして、息子と同世代の登場人物による夫婦の物語を横糸にして織りなす会話劇である。
こうした物語から紡ぎ出されるものを、加藤義宗は「人間の再発見」と述べている。母は息子を再発見し、息子は母を再発見する。それは母と息子の絆というものをはるかに超えた、人間と人間とが織りなす心の交流というのだろうか。「ああ、そうだよな」と思う場面が何度もあって、「観てよかったよ」と劇場を後にすることができる。
加藤義宗が自ら声を掛けて集めたという出演者たち、道学先生のかんのひとみなど実力のある俳優たちがいい仕事をしている。(今日は客席に道学先生の青山勝さんもいらっしゃっていた)
上下2階建ての舞台セットもなかなか効果的。会話劇、人情物語が大好きなファンならもう一度見たくなる作品に仕上がっている。見ないと損する、と断言したい。

犬と独裁者
劇団印象-indian elephant-
駅前劇場(東京都)
2023/07/21 (金) ~ 2023/07/30 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2023/07/25 (火) 14:00
座席1階
医師から劇作家に転身したミハイル・ブルガーコフの評伝劇。スターリンの評伝劇を書くように頼まれてからの人生を描いた。力作ではある。だが、やや難解でもあった。
何せ、自分に反対するものはすべて粛正してしまう独裁者だ。劇中ではスターリン自身は出てこないが、当時の息苦しさは十分に伝わってくる。表現の自由、言論の自由がない世の中というのは、芸術があったとしてもちっとも楽しくない生活であるというのはよく分かる。
そんな中で、革命家である前は詩人であったというスターリンの詩を、世の中を明るく照らす力としてあでやかな花束に託して舞台で表現してみせた。役者たちによるこの表現力が卓越している。
この劇作家の思いを反転させるような役割を果たす「犬」の存在は面白い。苦悩や喜びなど胸の内を叫ぶように表現しながら舞台を引っ張っていく。ただ、せりふにのめり込んでいくと頭の回転が追いつかないようにも感じた。百年近く前のソ連という舞台だからスッと頭に入ってこなかったのか。

エゴイズムでつくる本当の弟
Stokes/Park
小劇場B1(東京都)
2023/07/19 (水) ~ 2023/07/23 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2023/07/20 (木) 19:00
座席1階
札幌出身の劇作家白鳥雄介による演劇ユニット。今作は自身の生い立ちや家族の実話を基にした作品という。
自分の物語を書くのはどんな気持ちなのだろうか。パンフレットによると、家族にはいいイメージを持っておらず、長年悩まされてきたというが、その悩みに全力でぶつかり、けじめをつけたいとしてこの作品をつくったのだという。「いいイメージでない」エピソードは満載だ。エステティシャンの母は子どもたちとの会話の端々でギャグをかます底抜けに明るい性格だが、兄弟が幼いころに離婚。新たな恋人も離婚していて男の子がおり、連れ子同士で同居をする(結婚はしていない)という展開だった。こういう性格の母親だからだろうか、血のつながっていない息子に対しても兄弟同様の愛情を注いだが、事態は悪い方へ悪い方へと展開していく。
次男(原作者)の結婚式前夜の場面から始まる舞台。軽妙な会話劇で進行していく。兄と弟の関係、さらに連れ子の弟との関係。親が勝手に同居しても、その連れ子たちが家族、すなわち「3兄弟」になれるかというのは別問題である。あえて入籍しないという親の選択が、東日本大震災の緊急避難時に長兄と血のつながっていない末弟との兄弟関係の証明ができず、不利益をこうむるというエピソードがあった。名字が違うままの連れ子同士の兄弟に対する、世間の冷たさも描かれる。
演出はシンプルで好感が持てる。擬人化された飼い猫が登場するが、今ひとつ効果的ではなかったようだ。タイトルの「エゴイズムでつくる本当の弟」は筆者の胸の内をさらけ出した本音だとは思うが、タイトルとしては分かりにくくインパクトに欠けたのではないか。
若者中心の家族劇として、新たな姿を提示しようという意欲作であることには違いない。

ストレイト・ライン・クレイジー
燐光群
ザ・スズナリ(東京都)
2023/07/14 (金) ~ 2023/07/30 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/07/20 (木) 14:00
座席1階
ニューヨークのマスタービルダーと呼ばれた都市計画・建設者であるロバート・モーゼスの物語。ストレート・ライン・クレイジーとは、先住の都市住民を追い出してもまっすぐな高速道を通そうとした彼の人生につけられたニックネームだろう。
産業が興り、従事する人たちが集住して都市ができていくが、そのまま放置していては無秩序な街になる。都市の基幹は道路だ。都市計画は、道路をいかように通していくかということに集約されると言ってよい。
ただ、道路建設と言っても単純ではない。特に、既に建物が集まりコミュニティーができているような地域では、コミュニティーを守りたいという住民と、都市全体の交通網を考えた都市計画当局とは衝突することが多い。東京の都市計画道路は関東大震災後というほぼゼロからのスタートで後藤新平というリーダーが辣腕をふるって骨格ができた。だが、戦後の復興計画で道路建設がうまくいかなかったのは、後藤のようなリーダーが東京都にいなかったからだと自分は思う。朝鮮戦争特需で街が急速に発展する中で、東京都が環状道路を建設していくのは至難の業だった。全部で8本ある都心の環状道路の中で、環状三号線など計画倒れになっている道路が依然として残り、都心の渋滞をひどくしている。
この演劇の上演地である下北沢も、東京都が通そうとしている都市計画道路がある。裁判にまでなった小田急線高架化は断念され地下化となり、元線路だった場所は歩いて楽しむ、今やテレビドラマに何度も登場するトレンディースポットに変貌した。立ち退きを伴う道路建設は、北朝鮮の将軍様のような独裁者でもいない限り、今や不可能に近い。下北沢でこの演目が上演されたのは、何だか因縁みたいなものを感じる。
物語はモーゼスがニューヨーク近郊のロングアイランドを庶民の避暑地にするために二本の高速道を建設する場面から始まる。土地所有者である富豪たちとの強硬な交渉や、法の手続きを無視してまで進める仕事ぶりにまず、驚かされる。まさに人間ブルドーザーだ。日本で言えば、田中角栄のようなものだ。懸命に付いていく部下たちが痛々しいが、そこには庶民の生活向上という納得できる理屈があった。
戦争を経て、経済成長の中でニューヨークマンハッタンの高速道整備は難渋する。モーゼスはやり方を変えない。都市生活者として成長している市民たちが組織する反対運動の力を見誤って、時代の流れと共に計画は頓挫していく。「人間ブルドーザー」が都市の発展に力を発揮した時代は既に終わり、都市の成熟にはブルドーザーは害悪となっていた。しかも、彼が信奉した車社会に疑問が投げかけられようとしていた。
高速道計画を阻んだワシントンスクエアは車両通行禁止に。市民がそぞろ歩きをしながら都心の生活を満喫するという今のスタイルの萌芽となった。ニューヨークにはかつての高架鉄道の跡地を遊歩道にするなど、都市遺産というべきモニュメントがトレンディースポットになっている。上演劇場のスズナリがある下北沢のように。
さて、今作は力のある燐光群の看板俳優たちが遺憾なく実力を発揮し、見応えのある舞台に仕上がっている。2時間の上演時間の間、迫力のある会話のやり取りが続き、舞台から目が離せない。モーゼスの人生とは別に、民主主義と都市計画、貧困と富裕など考えさせられるテーマが散りばめられ、観劇後の一杯の席のネタには事欠かない。観てよかったと思える舞台だった。

スローターハウス
serial number(風琴工房改め)
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2023/07/15 (土) ~ 2023/07/23 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/07/19 (水) 14:00
座席1階
実際の事件をモチーフにして人の心の表裏を描き出すというのは、演劇でしかなしえない表現方法なのではないか。神奈川県の障害者施設で起きた大量殺人事件を取り上げた作品はこれまでもあった。だが今作は、殺されたのが一人の障害者でその母親が未成年の容疑者を訪ねていくという設定にして、優生思想に染まった容疑者の胸の内と母親の胸の内が交錯するというすさまじいシチュエーションを現出させた。(現実の大量殺人で容疑者は死刑でこの世におらず、雄弁に語ることはできない。殺人被害者が一人で容疑者が未成年であるというなら、あり得る設定だ)
パンフレットによると、原作の詩森ろばは、この事件の資料を集めておきながら読まなかったという。その理由は「怒りにまかせて正義の物語をペラペラと書くのではないか」ということだった。だが、資料を読み始め、容疑者の尊大さと惨めさのそこかしこに自分がいて、たまらない気持ちになったという。彼女がこう書いているまさにそのことを、客席の一人ひとりが自分の心に痛いほど感じることになる。
「尊大さと惨めさ」。これが重度障害者に対する周囲の人や、全く関心のない人の胸に巣くう隠された感情なのではないか。詩森は、障害者の一番の身近にいる母親ですらこのような感情を持つということを描くことで、日ごろ障害者と全く縁のない生活をしている一人ひとりも同じなんだと迫ってくる。
印象に残るせりふを一つだけ。「障害者カースト」。これは、殺された障害者の母親が、障害者の親による自助グループに参加した際、そこに参加していた親がすべて発達障害を持つ子の親であり、その一人が「知的障害は本当に大変ですね」という趣旨の発言をしたという。その言葉の主に特段の差別感情はなかったと思いたいが、その「ねぎらい」を受け取った方は、自分の子が障害者カーストの最下位に位置することを思い知らされたのだという。
物語ではこれだけでなく、容疑者と母親との会話、そして施設職員の言葉を通してさまざまな投げかけが客席に向けてなされる。静まり返った客席。役者たちを食い入るように見つめる客席。ここ数年の観劇体験でめったにあるものではない。
原嘉孝の感情を抑えた演技は秀逸だった。ジャニーズタレントであるこの人目当てのお客さんもかなりいたと思うが、詩森作品2度目の出演という彼を抜てきした詩森の目は確かだった。障害者の役を演じた新垣恒平もとてもよかった。
この作品はすごい。見ないと損するかも。

明けない夜明け
演劇企画集団Jr.5(ジュニアファイブ)
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2023/07/14 (金) ~ 2023/07/20 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/07/18 (火) 19:00
久留米看護師連続保険金殺人事件をモチーフにした舞台。母が父を殺害したという、被害者家族であり加害者の子どもという立場に立つことになった三姉妹の物語。前作に引き続き、この三姉妹が成長した後を描いた。
殺人者の子であり、被害者家族であるという環境の中で、世間とのかかわりを拒むように生きているという姿が描かれる。特に長女は、世の中に対して激しい拒絶感を示し、新たな人生を作って生きようとする三女と衝突する。主人公の次女は、二人の仲立ちをしながら「明日は幸せになる」と呪文のようにつぶやいている。
三姉妹がいた、という設定は事実なのかどうかは分からない。作者の小野健太郎の創作なのだろうとも思う。だが、この舞台の核心である「殺人の被害者家族であり、加害者家族」という人間関係の描き方は、「面白い」と表現するには語弊があるがとても印象的。3姉妹の性格や立ち位置はかなり違っているのだが、やはり世間から抑圧され続けている半面、世間の中でささやかな幸せを感じながら生きたいという願望を、なかなか興味深い演出方法で描いていく。
客席を三面に配置した円形の舞台中央で、開幕前から二女がぼーっとテレビを眺めているという出だしがまず、印象に残る。そして舞台後方のカーテンからの出入りで時系列の物語をうまく出し入れ。円形の周囲をグルグル走らせるという形も一つなのだが、3姉妹の胸の内がにじみ出てくるような演出がなかなかすごい。
メリハリの利いた舞台。次作がどのようなものになるのか、とても楽しみだ。

おわたり
タカハ劇団
新宿シアタートップス(東京都)
2023/07/01 (土) ~ 2023/07/09 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/07/06 (木) 14:00
座席1階
年に1度、死者を海から呼んで山に葬るという行事に、民俗学者と助手の女性、知人の女性の3人が調査に訪れるという設定。単なるオカルトっぽい演劇と思ってはいけない。物語は思わぬ方向に次々と飛び出し、壮大なる展開を見せる。「美談殺人」もよかったが、この脚本はさらに見事と言うしかない。
重要な役回りで出演する道学先生のかんのひとみがすばらしい。いつもの道学先生の舞台では見られないような、壮絶な演技が繰り広げられる。さらにいえば、舞台美術もいい。お化け屋敷のノリではあるが、物語の雰囲気を大いに盛り上げる。
「連日の猛暑の中の上演で冷や汗が出る幽霊物語」ではなく、土着信仰をベースにしたスペクタクルといった感じか。舞台を静岡県・伊豆にしたところがとてもリアル。タカハ劇団は今回もお勧めだ。

ジン・ゲーム
加藤健一事務所
本多劇場(東京都)
2023/06/29 (木) ~ 2023/07/09 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2023/07/04 (火) 14:00
座席1階
見どころは、ベテラン俳優の加藤健一と竹下景子の絶妙な会話バトル。登場人物の胸の内があふれ出すような言葉のやりとりはこの二人ならではだと言える。老人ホームで過ごす二人が、ジン・ゲームというトランプをめぐって家族や周囲の人の関係や気持ちが織り込まれた会話を繰り広げていくのだが、自分としては結局のところ、トランプをやるかやらないかというところが目立ってしまい、今ひとつ感情移入できなかった。
最初はいかにも紳士、淑女という装いをまとった二人なのだが、男が立て続けにゲームに負けることで、声を荒げたり暴言を吐いたりする。女は「もうあなたとはトランプはしない」というのだが、結局はお付き合いをする。つかず離れずという二人のゲームなのだが、やっぱり休憩を挟んで2時間もやり続けるのはキツいなあ、と感じる。このあたり、いつもの軽妙なカトケンワールドを期待してきたファンにとっては少し辛いところがあったのではないか。

黒星の女
演劇ユニット「みそじん」
吉祥寺シアター(東京都)
2023/06/30 (金) ~ 2023/07/02 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2023/07/01 (土) 13:00
座席1階
歌あり踊りありの陽気な舞台かと思いきや、ラストでぐっと締める意外にも感じる展開。それぞれ罪を背負って入っている女子刑務所のメンバーたちが、個性豊かに躍動する。いい舞台だった。
刑務所が舞台のはずなのだが、二段ベッドに置かれているアイテムはまるで女子高生の持ち物のようだ。本物の刑務所は私物の持ち込みは制限されているはずだから、設定は少しファンタジーの世界。どんな罪を犯したのかは「言ってはならないことになっている」そうだが、問わず語りに明らかに。スーパーの万引き(常習累犯窃盗)、覚醒剤…。どうして実刑になったのかが、舞台が進むにつれて明らかにされる。
おもしろいのはこの受刑者たちの人間関係だ。刑務所のイメージは牢名主がいて新入りをいびったり、という感じだが、ここでは仲良しグループのように友情の筋が通っている。なぜか房対抗ダンス大会をやるという話になって、ファンタジーの色は濃くなっていく。
だが、それぞれが背負った罪の背景には社会の不条理が詰まっていてハッとさせられる。罪人と言うには無邪気な振る舞いも、その裏にあるものとして闇深い事情、思いが表現される。
個性的なメンバーによる少数精鋭。カーテンコールの後思わず涙ぐんだ主宰の大石ともこに声援が飛んだ。コロナ禍で延期になった今作の経緯が胸に去来したのだろうか。それとも…。

ウェルカム・トゥ・ホープ
ラッパ屋
紀伊國屋ホール(東京都)
2023/06/24 (土) ~ 2023/07/02 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/06/29 (木) 13:30
座席1階
マキノノゾミと鈴木聡のアフタートークまで含めて、とても楽しめた。鈴木いわく「劇作家は夢と希望を書く」からなのか、夢と希望が盛り上がったところでその後の結果を示さず幕を引くという、少し食い足らないところが残念だった。しかし、それを差し引いても、「夢と希望」を十分、客席に振りまいてくれた。(食い足らないから☆4つでもいいと思ったけどね)
タワマンに住む実業家の女性がコロナ禍で事業が傾き、家財などを売り払って場末の安アパートに転居してくる。この安アパート「ホープ荘」には、さまざまな訳ありの人たちが住んでいる。物語は住人たちのそれぞれの事情を明らかにしながら進むが、後段で大事件が持ち上がる。ここで住民たちは一致団結する。
1時間半というコンパクトな作りの中にさまざまなドラマを盛り込んでいて、これぞ劇作家・演出家の腕が光るところだ。ラッパ屋の舞台は軽快な会話劇が身上だと思うが、今回も軽快さの中にユーモアたっぷりで笑えるところが随所にあり、飽きずに楽しむことができる。また、場面転換などで使われる佐山こうたのピアノ演奏がすばらしい。佐山もアパートの住人であるピアニストの役柄で、舞台に見事に溶け込んでいた。
この暗い世の中で、鈴木の言う通り夢と希望をもらいに劇場に来る人は少なくない。今作はシンプルなストーリーだが、そんな小さな期待にきっちり応えてくれる舞台だ。
アフタートークでマキノノゾミが言っていた。「演劇のチケットが12000円なんて、何を考えているのかと思う」。大きな拍手がわき起こった。トークを聴いていると、もちろんどの劇場でやるかにもよると思うが4000円~5000円が採算ラインらしい。小劇場ファンとしては、この4000円の舞台で夢と希望を売る劇作家や役者たちに「ありがとう」の思いを込めながら劇場へと足を運んでいる。とてもすてきなアフタートークで、得をした気分になった。

旅立つ家族
劇団文化座
あうるすぽっと(東京都)
2023/06/27 (火) ~ 2023/07/02 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2023/06/28 (水) 14:00
座席1階
文化座と新宿梁山泊・金守珍のタッグに過度の期待をして劇場へ。結論から言うと、梁山泊の迫力ある舞台を彷彿とさせるような盛り上がりと、文化座の緻密な舞台が融合していい演劇に仕上がったと思う。今や文化座のエース・藤原章寛の熱演が今回も舞台を支えた。
日本占領下の元山(現在の北朝鮮の主要都市)出身の画家・イジョンソプが日本に留学中に知り合った女性・山本方子との物語。時に第2次大戦終結間近。展覧会のため朝鮮半島へ渡ったジョンソプが戦況悪化のため戻れなくなり、半島で生きることを決意した方子は空襲の中を汽車に乗って東京から博多へ渡航する。日本占領下で伝統のチマチョゴリを着た結婚式のシーンはとても印象的だ。
だが、朝鮮戦争勃発で幸せな結婚生活も引き裂かれる。「見ていないものは描けない」と芸術家の心をかたくなに守るジョンソプを、藤原が情熱的に演じる。大音響、歌と踊りが随所に挿入されるところなどは、梁山泊の舞台を思わせる。
文化座の佐々木愛が演じる老境の方子の視点で舞台は進む。今作では激しい動きはないものの、やはり存在感は抜群だ。
メリハリがあってとてもいい舞台なのだが、3時間近くの上演時間は少し、長かったか。梁山泊が花園神社でこの演目を上演したらどうなるだろうか、という私の勝手な妄想が膨らんでいく。(そのような機会があったら絶対に見逃さないようにしたい)

『消えなさいローラ』『招待されなかった客』2本立て
Pカンパニー
西池袋・スタジオP(東京都)
2023/06/21 (水) ~ 2023/06/25 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2023/06/22 (木) 14:00
毎回とても楽しみにしているPカンパニーの「ベツヤクづくし」第3弾。去年の「いかけしごむ」「トイレはこちら」はいかにも別役実というイメージ(私の勝手な思い込み。裸電球の電柱がその象徴)だったのだが、今作の2作品は少し趣が違う。両作とも登場人物は2人。この2人のかみあわない会話劇、真剣に聞けば聞くほど睡魔に襲われるというとっても危険な不条理劇だ。
10分間の休憩を挟んで演じられる両作は薄汚れた壁に囲まれたほこりだらけの部屋に鎮座するテーブルという共通した舞台セットだ。最初の「招待されなかった客」は、魔女の家に招待状を持ってやってくる神父との会話劇。テーブルの上には汚れたままの食器類、ミニチュアでしつらえた街が置いてある。魔女と神父はこの街でつながっていて、神父は魔女狩りで何人も火あぶりにしたが教会の方針が変わって追放されたという男だ。
一方の「消えなさいローラ」も朽ち果てた部屋にあるテーブルと汚れた食器は共通していて、ローラと母が住んでいる。そこに訪ねてくる葬儀社の男。実はローラの母はもう死んでいるのではないかと疑っている探偵社の男だったりして、突き止めようとする男を絶妙な会話ではぐらかしていくところがおもしろい。ローラと母がクロスオーバーしていて、どっちが死んでいてどっちが生きているのか、そして、砂時計のように落とされる砂に埋もれていく動物のミニチュアに生と死を投影させる。「何だこれは」という、この不条理極まりない展開も、別役ならではの筋書きなのだろう。ここが見どころだ。
自分はこれまでこの二つの別役作品を見ていなかったので、何だか別役の違う顔を見たような気がした。冒頭に書いた私の思い込みが少し、薄れたような感覚が残った。

舞台「キノの旅Ⅱ -the Beautiful World- 」【6月22日~23日公演中止】
ゴーチ・ブラザーズ
あうるすぽっと(東京都)
2023/06/15 (木) ~ 2023/06/25 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
鑑賞日2023/06/17 (土) 13:00
座席1階
時雨沢恵一のヒット小説の舞台化第2弾。漫画やゲームなどにもなっており、舞台では連作の短編をピックアップする形で構成されている。人気小説の世界観をどこまで舞台で表現できるか、という観点で書きたい。
小説の世界観は、基本的には読み手の主観でつくられるものだから、多くの読者の考える世界観とそれほど離れていなければよいのかもしれない。しかし、自分としてはやはり舞台では無理があったのではないかと思う。主人公のキノの胸の内は短編をつなぎ合わせていく中ではどうしても二の次になってしまうだろうし、オートバイである相棒エルメスは小説で擬人化するのはたやすいが、舞台だとどんな美術や演出を施しても不自然になる。今作で辻凌志朗が両腕につけているホースはオートバイの部品を模しているのだが、最後まで不自然さが抜けなかった。
映写を活用した演出の努力は多としたい。が、例えばロードムービーのような形ならもっとスムーズだったのかも。舞台で諸国を旅する状況を表現するのは苦労したと思う。一方で、さまざまな文化や背景、価値観を持つ国々が登場する物語の面白さは舞台でも味わえる。どの国が登場するかはネタバレに相当するので触れないが、舞台ではその国の描写や人間たちにあまり深入りしている余裕がないためか、ちょっと表層的な感じもした。原作者がパンフレットで語っている「舞台で魅せるための独創的なアイデア」とは何を指しているのだろうかと思った。
比較するのは適当でないかもしれないが、例えばハリーポッターの映画は、原作の世界観を大切にして作ってあったと思う。これはやはり、映画だからできたのではないか。生身の人間が目の前で演じる舞台では、どうなんだろうか。
やはり、舞台では限界がある。それを承知で、どこまで没頭して楽しめるかにかかっている。

点滅する女
ピンク・リバティ
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2023/06/14 (水) ~ 2023/06/25 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/06/16 (金) 14:00
座席1階
「点滅する」とはホタルのことだ。ホタルのようにはかなく点滅しながら、亡くなった家族が生きている家族の間を飛んでいく。そして、家族の間にあった微妙な関係が変化していく。現世と天国がクロスオーバーする異色の会話劇である。
家族は工務店を経営する父に、少し気の強い母、兄と姉妹である。姉は5年前に事故で亡くなっているのだが、この姉がまったく知らない女性に取り憑いて家族のメンバーが持つ秘密を暴いていく。幽霊をストーリーテラーにしたのは非常に面白いし、成功している。
作者は、家族というどこにでもある人間関係に小さな緊張、微妙な擦れ違いやあつれきを見いだして、家族のメンバーが持つエピソードを非常にうまく構成している。幽霊だから(もう死んでいてこの世にはいないから)ズケズケと真実を指摘していくのだ。死んじゃった家族が天国から見ているもの、それは絶対家族には言えない秘密なのに、それをこの世で暴露されては生きている家族はたまらない。そういう意味ではかなり残酷な会話劇でもある。
自分にとっては物語の切り口がとても斬新に思えた。ピンク・リバティはこのようなスタイルで過去作もやってきたのだろう。もっと早く見ておくべきユニットだった。