実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2023/08/25 (金) 14:00
座席1階
「何のために勉強するのか」「何のために生きるのか」「どんな仕事をしたいと思うのか」。高校生の進路選択で悩ましいテーマだが、これは今も昔も変わらないようだ。ただ、高校生の段階で将来の夢を具体的に描いている子はおそらく、今の方が少ないかもしれない。今作は、やりたいことを見つけたある意味幸せな女子高生の物語。劇団銅鑼らしく、ハッピーエンドを期待して安心して見ることができる。
台本を書いた東京ハンバーグの大西弘記氏は、もともとは高校サッカーの選手であり、そのイケメンの風貌からホストクラブでも働いた経験があるという異色の演劇人と聞いている。彼もまた、自分の人生をささげる職業に悩んだ一人であろう。いろいろ回り道をしながら演劇の道をつかんだ、そんな彼の思い入れも、この戯曲からは感じることができる。
「真っ赤なお鼻」とは道化師クラウンのことだ。病床で子どもたちを励ます姿は本当に勇気づけられる。かつての劇団の俳優で今はタクシードライバーをしながらクラウンをやっているという設定も、本当かと思わせるリアリティがある。
「何のために生きるのか」という解を探すために、僕らの時代は必死になって本を読んだ。加藤諦三の「青春論」などを今、懐かしく思い出す。今時の女子高生はそうした思索をするために本は読まない。行き当たりばったりかもしれないが、行動に移して自分なりの解を見つけていく。そんな行動力には共感が持てる。
ただ、その両親の描き方は今ひとつ。関西出身の母親の関西弁をネタにして笑うのはどうなのか。劇中、両親は娘の成長を見守る重要な立ち位置だけに、もう少しきちんと描いてもいい。
この舞台には、ALS(筋萎縮性側索硬化症)に罹患した母親を介護する高校生男子のヤングケアラーが登場する。この親子の描写には涙が出た。その中でも特に、胃ろうのケアの場面には驚いた。演劇シーンで胃ろうの場面を見たのは初めてだ。とても意味ある場面だ。取り上げた大西氏には敬意を表したい。
客席には夏休みの子どもの姿もちらほら。ぜひ自由研究で取り上げてほしい舞台だ。