実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/09/14 (木) 14:00
座席1階
劇場に通い始めて結構な年月が過ぎたが、客席の大半が男女や年齢を問わず泣いているという舞台に初めて遭遇した。障害者雇用をテーマに「差別」に真っ向から取り組んだ戯曲。休憩を挟んで3時間という長さもまったく感じない。これは見ないと損する演目だ。ハンカチも用意しよう。
舞台は黒板に書くチョークを製造する小さな工場。前半は戦後間もない時期で、養護学校(特別支援学校)の先生に頼み込まれて2人の知的障害がある女生徒に職場体験をしてもらうところから始まる。人手が足りず、通常でも忙しい職場だ。最初から「足手まとい」と決め付ける従業員たちの反発は強烈だ。ここに一人の女性が立ち向かう。銀行に就職したが苛烈ないじめに遭って退職を強いられたという出自に、中津留戯曲の真骨頂を見る。
後半は同じ工場が舞台だが、時代は現代。ここでもハラスメントを題材にするなど、差別をベースにした時事性が秀逸だ。戯曲を書くに当たって緻密に取材したという背景が伺える。
後半については、異論がないわけではない。だが、この工場は小さいながらも障害者を「戦力」として受け入れ、それを貫き通している。一部の大企業が「特例子会社」制度を駆使して別会社に障害者を集め、簡単な作業しかさせず障害者雇用率だけを上げているという現実にも触れてほしかった。
知的障害者に知人がいないので分からないが、障害者を演じた役者たちは心底頑張ったと思う。その演技がどれだけリアルだったか、障害者の作業所の人に聞いてみたい。今作は秀逸な中津留戯曲に役者たちがすばらしい演技で応えてできあがった作品である。一人でも多くの人に見てほしい。