実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/09/12 (火) 13:00
座席1階
「会議」に続いて鑑賞。「会議」が別役作品の中でも上位に来ると書いたが、今作は「会議」を上回る切れ味だった。何げなく発せられている言葉が場の空気を一気に変えたり、登場人物の立ち位置を反転させたりする。このように緻密に組み立てられた戯曲を味わうことができるのは、ほかにはなかなかないと思う。
冒頭は「会議」と同じ裸電球付きの木製電柱とベンチ、そして踏み台。この踏み台に乗って、男が手旗信号をしているところからスタートする。おなじみのせりふ「ここで何をしているんですか」と声を掛ける、乳母車を押した女。ただ、母親らしくない黒い喪服のような出で立ちだ。なんだか嫌な予感がする(笑)
時間を追って、次々に新しい人物が登場する。看護師によって車いすを押されてくる男、「ただいま容疑者を護送しています」とアナウンスをしながら赤いロープに男をつないでくる男。この「容疑者を護送しています」という説明言葉が、後段とんでもない力をもって客席に迫る。言葉の仕掛けはこれだけでない。「会議」と同じように公衆の面前での殺人事件が起きるが、「私は引き金を引いただけ」「私はピストルを渡しだだけ」とか、言葉が重ねられることで、犯人は明白であるにもかかわらず、いったい誰が悪いのか分からなくなる。
どうなってるんだ!という混乱が頭に渦巻く。なぜかそれが爽快感?みたいになって満たされていく。これが別役中毒か。初めて別役作品に触れた人で、こんな中毒症状を呈してはまっていく人もいるに違いない。
シリーズ「べつやくづくし」を演じてきた俳優たちも、戯曲同様、切れ味が増してきている。緻密に組み立てられたせりふを力を抜いて自然に演じられると、戯曲の言葉のマジックが客席を直撃する力を持つようになってくるような感じだ。
1時間半の作品を見て、頭がしびれたまま帰途に就く。これはもう、完全な中毒だ。