タッキーの観てきた!クチコミ一覧

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人形の家

人形の家

劇団東京座

阿佐ヶ谷アルシェ(東京都)

2024/03/28 (木) ~ 2024/03/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

近代劇の代表作であり、フェミニズム運動の勃興に影響があったと言われる作品(翻訳劇)。それを格調高く丁寧に描いており好感が持てる。この劇場では珍しいL字型客席で、舞台美術(調度品)は豪華仕様を思わせるもの。

物語は、端的に言えば<女性の人間としての自立>を描いたものと言えよう。男(父や夫)に守られ、言いなりになっている従順な女(妻)という立場・意識からの解放、今でも色褪せない課題や問題を孕んでいる。同時に自立=働くことは、生活の糧を得る手段だけではなく、生き甲斐といった目的・目標を持つことが出来る。そんな前向きな生き方をも観せる。女は家の中にいるだけの おとなしい人形ではない。

公演は、劇中でタランテラを踊って観せ、女性の明るく陽気な一面を覗かせる。膨大な台詞で紡ぎ、ダンスという躍動感で味付けをする。実に演劇らしい魅せ方だ。また音響・音楽の印象効果、照明の階調による余韻等、舞台技術も上手い。
ただ気になったのが、演技力というか…。
(上演時間2時間50分 途中休憩15分)追記予定

新ハムレット

新ハムレット

早坂彩 トレモロ

こまばアゴラ劇場(東京都)

2024/03/22 (金) ~ 2024/03/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

面白い、お薦め。
トレモロ公演は未見であったが、太宰治の「新ハムレット」を分かり易く 楽しめる作品に仕上げていた。原作を先に読むか、読んでから観るか、そんなことは問題ではない。この公演を観るだけでも原作の面白さは解る。自分は読まずに観劇し、翌日 急いで読んだ実感として言える。当日パンフによれば「原稿用紙に二百枚、五時間の大作」とあるから、勿論 テキレジはしている。

公演の面白さは、独特の舞台美術と役者陣の熱演であろう。勿論、原作の面白さを十二分に引き出した早坂 彩 女史の演出力、その巧さは言うまでもない。この作品を観たいと思ったのは、トレモロが未見であったこと そして「こまばアゴラ劇場」が最後だということ。この劇場の構造を上手く使い、妖しい雰囲気が漂う中で「長編戯曲風小説(レーゼドラマ)を、軽快にかつ濃密に描いた一幕劇」、まさに謳い文句通りの珠玉作。
(上演時間1時間40分 途中休憩なし)㊟ネタバレ

ネタバレBOX

舞台美術は、上演前は紗幕に覆われていたが、始まってみれば長い縁台のような板に形の異なる椅子や梯子状のようなものが脇に取り付けられ、和箪笥や本棚も見える。実はこれ回転し、城内や帆船に見立て情景を作り出す。板の下には蔦が巻き付いており、板や蔦といった自然 温もりを感じさせる。下手には、天井からペットボトルを切り開いて繋ぎ合わせたようなオブジェが吊るされている(アフタートーク:青☆組 吉田小夏女史との対談の中で、<柳>と説明していた)。この真下の床面を開け、階下と行き来する。また下からの照明がオブジェに反射し 青白く妖しげな雰囲気を醸し出す。

登場人物はシェイクスピアのハムレットと同じだが、衣裳が奇抜というか統一性がない。洋服の上に着物を羽織ったり、足元は足袋や草履であったり革靴、スニーカーといったもの。なんとなく情緒不安定な人物が立ち上がっているような感じだ。そして この外見が人物の性格というか気質・気性を表しているよう。また 男役を女優が演じる、例えばボローニアス(たむらみずほ サン)やレアチーズ(清水いつ鹿 サン)、自分を父親と言ってみたり、オフィリア(瀬戸ゆりか サン)から兄さんと呼ばれたりしている。そこに長編戯曲風小説とは違う、人が演じる 演劇という創作の奇知が活かされているようだ。

梗概は、シェイクスピアの「ハムレット」を準えているが、全体として原作者 太宰治の姿が朧げに立ち上がってくるようだ。長板の端を客席側に向け、その先端にハムレット(松井壮大サン)が座る。そして長台詞の独白は、太宰の別作品 例えば「人間失格」のように自己の弱さ軽薄さを嘆くようにも聞こえる。この心情を吐露させるような描き方(演出)が実に巧い。

気になるのが、説明にある「太平洋戦争開戦の直前・1941年初夏、太宰治はシェイクスピア『ハムレット』の翻案(パロディ)を書きあげた。登場人物たちの懸命で滑稽な生き方は、2024年に生きる私たちにどのように響くのか」という一文である。冒頭、男(黒澤多生サン)が原作の<はしがき>を<ト書き>のように読み上げるところから始まる。その中で昭和16年と言い、劇が始まると 王妃ガーツルード(川田小百合サン)だったと思うが、改めて西暦1941年と言う。しかし原作には、その台詞はない。そして原作も劇も終盤に王クローディアス(太田宏サン)が「戦争がはじまりました」 そして帆船が燃え、レアチーズが死んだと。海外では 今だに戦争紛争の火種は尽きることがない。パロディの中に、そんな社会性(警鐘)を潜ませているよう。

照明は、全体的に薄暗く 人物が登場するとスポット的に照らし出す。音楽は劇中 朗読劇の場面でホレーショー(大間知賢哉サン)などが、小太鼓や銅鑼など和楽器を用いて演奏する。それが 何となくリズミカルで妙に台詞と合っており心地が良い。そして物語が進むにつれ、役者陣の演技 特に声圧が増し物語へ集中させる。表層的には滑稽洒脱であるが、その内容は色々な意味で現代性を帯びており奥が深い。
次回公演も楽しみにしております。
純白観想文

純白観想文

劇団演奏舞台

演奏舞台アトリエ/九段下GEKIBA(東京都)

2024/03/16 (土) ~ 2024/03/16 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

面白い、お薦め。
物語は、あらすじにある通り 東京郊外。春に、孫の読書感想文を一生懸命 手伝っている元高校教師・源三。彼を訪ねてきたのは かつての教え子 斉藤潤二。前半はシュールで軽やかなコメディタッチ、しかし或る出来事を境にシリアスな展開へ。内容や展開などは分かり易いと思っていたが、ラストの暗転後のシーンが何を意味するのか手強い。その捉え方によって、物語に描かれている内容がまったく違ってしまう と思えるからだ。

劇団演奏舞台の公演は何度か観ているが、いずれも演奏ブースは下手にあり目立たないような配置になっていた。が、今公演は中央真後ろに楽器が置かれていた。この公演は今月、中板橋の新生館スタジオでも上演する予定になっており、演奏ブースはどうするのか気になっていたが、なんとなく想像がついた。演奏舞台の特色は、バンドによる生演奏と俳優陣のエキサイティングなアンサンブルだけに、演奏ブースは気になるところ。

本公演は、役者であり奏者の池田純美さんが2度目の演出に挑んでおり、演奏配置と回転模様のような照明が印象的だった。少しネタバレするが、エコーを利かせた台詞も心情面を強調しているかのようだ。結論の捉え方を別にすれば、全体的に分かり易い作風、音楽<『Faraway』(opening)・『霞 草』(ending)>も印象的で良かった。

説明では、「『家族』という小さなコミュニティの中で、わずかな綻びから生じてしまった悲劇を描いたヒューマンドラマ」とあるが、家族という身近な存在・関係だからこそ逃れようのない怖さ。文庫本「羅生門」と散乱した肌着は、この物語を象徴する小道具で、タイトルの所以でもあるような。この濃密な会話劇、生きるためならという理性と本能の鬩ぎあいが 狂おしいほどに伝わる。
(上演時間1時間)

ネタバレBOX

舞台美術は、奥に演奏スペース。部屋中央の座卓の上には、孫の橋爪武彦が小学校5年生の時に書いた「『羅生門』を読んで」と書かれた原稿用紙(読書感想文)と文庫本「羅生門」、そして散乱する肌着。

一人黙々と感想文に向き合う元高校教師で芥川賞作家である源三、そこへ元教え子がやってきて他愛のない会話が続く。そして孫が8年前に亡くなり、その顛末が語られるところから人の心ーその深淵を覗き込むような展開へ。娘 沙織は夫 肇からDVを受けており、生活費に事欠いていた。父の源三に金を借りようとするが 断られる。武彦は白いブリーフが黄ばみ学校では苛められていた。或る日 万引きをして、悪いことと知りながら、生きるためと自分自身に言い訳をした。そして…。一方 沙織は肇を刺し罪に服す。

源三は娘 沙織や孫 武彦を見ているようで観ていなかった。その悔悟のような気持が終わりのない読書感想文の執筆。人を観察し見極めることの難しさ、理性と本能ー生きることとはを問う「羅生門」のテーマと重なるよう。書き終わることがない、そして読まれることのない読書感想文こそが、源三の贖罪。前半に語られる 源三と潤二の止め処も無く漂流するような会話は、人にとっての最後の衣装がパンツなら、源三の最後の砦(生きる より所)は感想文だと、そんな落ち着き方だ。

暗転後のラストシーンが手強いと思った。明転して、沙織が潤二に父 源三の様子を尋ねるシーンへ。それは、単純に考えれば 行方不明になった娘 沙織が潤二と再婚し、父の様子を聞くといったもの。もう一つは、この物語全体が源三の妄想、呆けてきた老人の戯言(回想)を娘が心配したもの、といった捉え方も出来る。そう考えれば、平凡な家族に襲い掛かった現代(普遍)的なテーマが浮かび上がるような気がするのだが…。
次回公演も楽しみにしております。
願望機

願望機

演劇ユニットG.com

ザムザ阿佐谷(東京都)

2024/03/20 (水) ~ 2024/03/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い。SF風であるが、何となく現実らしさも想起させる。
さて、公演「願望機」というタイトルより 映画「ストーカー」の原作シナリオといった方が 通りは良いらしいが、自分は原作は勿論 映画も知らなかった。舞台は、ザムザ阿佐ヶ谷という地下劇場と相まって、怪しげで不穏な雰囲気が漂うもの。そして映画は元々の小説の最終章・第四章のみを抽出したものらしいが、本公演では原作の第一章~第三章の場面も描いているという。

物語は、時間軸の違う二組の話が交差しながら展開していく。この時間軸の違いこそが、原作(全章)の魅力=世界観を表しているようだ。説明にある「隕石の落下以後、そこは〈ゾーン〉と呼ばれる侵入禁止区域となった」、そして「〈ゾーン〉には、どんな願いでも叶えてくれる〈願望機〉とやらがあるらしい」と…。人の欲望の果てにある心底の願望とは何か。

二組の物語は、別々に描かれ交錯することはない。全体の(統一した)雰囲気を保ち、しかも時間軸を違えているため、<ゾーン>という未知の領域が長く存在していることを表している。いつの時代でも人の欲望(もしくは願望)は尽きることなくある。それは人それぞれで違うであろう。願望機…幻想のような、しかし その願望こそが人類の興廃に繋がるような描き方。

濃密な会話の中にコミカルな動作、その演技に魅了される。そして幻影的な照明、不安・不穏を煽るような音響、その舞台技術の効果が物語へ集中させる。観応え十分。
(上演時間2時間40分 途中休憩10分) 追記予定

いい旅、現実気分。

いい旅、現実気分。

人間嫌い

小劇場 楽園(東京都)

2024/03/13 (水) ~ 2024/03/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い。紀行番組「いい旅・夢気分」ならぬ 「現実気分。」というタイトル通り、あるあるといった現実感を伴う女子大生3人組の旅。まだ何者にもなれていない学生が、社会に出る前の浮遊というか不安を抱えた気持がしっかり伝わる。一方、女子大生より年上で社会人、しかもこの島に住んでいる女性たちの心情も浮き彫りにして、自分らしく「生きるとは?」を問うような物語。

旅先は、当日パンフに作・演出で主宰の岩井美菜子 女史が「五島列島の福江島をイメージ」とあるが、劇中では長崎県にある仮想の離島「ツバキ島」、そこにあるゲストハウス「カメリア」が舞台。有名な観光名所、美味しい料理がある訳でもないが、この地味な島なら自分達らしさ、目立つことが出来るのではないか、そんな承認欲求がいじらしい。

一方、島に住んでいる 若しくは 移住してきた女性たちは、都会では受け入れてもらえないといった挫折感を味わったが、今では自分らしくマイペースで生活している。都会に比べ利便や刺激といったことはないが、それでも「住めば都」といった気持が芽生えているよう。都会から来た女子大生と交流しているうちに、自ずと実感もしくは納得させているような顧(省)みる姿がリアル。

若い女性の本音が炸裂しているかのような内容。動作や台詞は それほど過激ではないが、心のうちにある思いが重く 苦しく、それでいて”今のままではいけない”、といった激情が溢れ出ているような。この離島と東京の二拠点で最先端ビジネスを営む女社長、大恋愛の末 この島に住み着いた女性、島の生活を満喫する女性やドロップアウトした女性など、様々な背景を持つ女性たちを登場させ、多様性ある生き方を模索し 表出させた女性版青春物語。

また日替わりゲストの唯一の男性キャスト<アバンチュールマー君>の存在も面白く、自分が観た回では爆笑が…。カッコいいが、なぜモテないのかが一瞬にして解る。女性と男性のちょっとした思い、その気持のすれ違いが実に上手く表現されていた。
(上演時間1時間50分 途中休憩なし) 

ネタバレBOX

舞台美術は、場内奥のコーナーにクッション、中央に丸テーブルにBOXクッション。本棚や観葉植物、窓や柱には蔦が絡む。エッジングガラス風ライトがミラーボールのような光を放つ。シンプルだが、スタイリッシュなイメージだ。

大学3年生の女性3人組が、ちょっとしたアバンチュールを楽しむといった物語を想像していたが、心の襞を撫でるような奥深さがある話。旅先は沖縄といったリゾートではなく、あえて長崎県の離島を選び、自分たちの存在を目立たせようと目論むが…。しかし 会話からは、給料も福利厚生もそこそこの会社に就職出来れば、などと妥協する姿がリアル。

一方、島に住んでいる女性は、都会での生活に疲れ、心に何らかの痛みを抱えているよう。必ずしも島の暮らしがハッピーとは言えないようだ。
女子大生たちと 島の女性が交流(女子会)をすることで、夫々の現状を再確認する。旅は、普段の暮らしから離れ浮き浮きとした気持にさせるが、この公演では 旅先に日常を持ち込み、単なる旅情気分に浸らせないところが妙。

全編 波の音、星空を思わせる照明など、舞台技術での雰囲気作りが巧い。総じて若いキャストの演技は等身大・自然体のようで 観ていて楽しい。リアルな女性の本音が聞かれたような心持がした。
次回公演も楽しみにしております。
ホワイトデーはブラックでぇい⁉︎

ホワイトデーはブラックでぇい⁉︎

FREE(S)

ウッディシアター中目黒(東京都)

2024/02/14 (水) ~ 2024/04/03 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

タイトル「ホワイトデーはブラックでぇい⁉︎」からも分かるが、バレンタインデーのお返しの意味での甘く浮かれた内容ではなく、目標に向かって努力する。その頑張る姿を通して 生きるとは を考えさせる青春(ダンス部)群像劇。見どころの1つは、勿論ダンスシーンであろう。

或る出来事とダンス部内の人間関係を絡ませ、物語を巧みに展開していく。そこには霊能力(またはオカルト)というか、都市伝説・学校の七不思議といった内容を挿入し、或る出来事の真相に迫る。またダンス部内の先輩後輩の上下関係、仲間との友情など 定番とも思える内容を盛り込み、女子高生らしい楽しみ 悩み苦しみといった内面を浮き彫りにする。

ただ部活というだけのダンスではなく、その活動に意味付けをしたい。そんな時 地(方)域大会が開催されることになり、優勝を目指して頑張ることに…。劇中 何度も出てくる言葉、「仲間とは、信じて 待って 許すこと」だと言う。物語の展開はまさしく この通りで、傷つけあいながらも仲間を信じる。が、そう簡単に許すことはできないこともある。その苦悩は、理屈ではなく感情の制御、整理が出来ないところにある。

そのために 人知を超えた<霊能力>という演劇ならではの虚構性を用いる。或る出来事の真相が、彼女たちの過去と現在を明らかにし 抑えようのない感情が溢れ出る。それをどう乗り越え友情を深めることが出来るか。過去は変えられない、現在(現状)を受け入れるしかない、そんな在り来りな言葉が紡がれる。そんな理屈は解っているが、懊悩は深まるばかり。この内面を描いた心情が もう1つの見所。激しいダンスシーンと激情とも思えるシーン、この外面・内面のシーンを上手く盛り込んだ公演。
(上演時間1時間50分 途中休憩なし)

ネタバレBOX

素舞台。ダンスシーンを観(魅)せるため 広いスペースを確保している。この劇場は 出入口近くに別スペースがあり、この公演でも学校 購買部や裏井戸など 色々な場所に見立てて活用している。

ヒロインは、7歳年上の姉を不慮の事故(火事)で亡くしていた。実は 姉の事故を不審に思っており何とか真実を突き止めようとしている。その手段が霊能力_学校裏にある古井戸に向かって死者(姉)との交信を祈る。死者から直接真実を聞くといった突拍子もない発想である。オカルト、ミステリー要素を取り入れることによって、物語の展開へ興味を持たせる。

さて ヒロインは、姉が創部したダンス部に所属しているが、無目標であまりやる気がないような。しかし、地方大会へ出場して優勝 という近々の目標を持つことによって意識が変わる。ダンス部のメンバーと練習に励むが、その仲間の1人が姉の死に大きく関わっていることを知り、苦悩する。一方、関わった仲間も絶望し…といった双方の心情を描き、物語へ深みを持たせる。

心に葛藤を抱えながら ダンス大会に向けて練習に励む。個別のダンスシーンや全体練習など、多くの魅せるシーン。総じて若い女性キャストの溌剌とした姿が清々しく描かれた群像劇は、大いに楽しめた。
次回公演も楽しみにしております。
タマリ

タマリ

株式会社グループ風土舎

ラゾーナ川崎プラザソル(神奈川県)

2024/03/15 (金) ~ 2024/03/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

面白い、お薦め。
その昔 一世を風靡した芸能人を集め、「あの人は今!?」といったスペシャルバラエティ(TV)番組のタマリが舞台。毎年同じメンバーが集まり、その都度 同じような挨拶を繰り返している。すでに今の現状に甘んじており、ただ昔の栄光を懐かしむだけになった売れない芸能人。年末のテレビ局、1時間後には特番が始まろうとしているが…。

個性豊かな芸能人たち、それぞれのキャラクターを立ち上げ、立場と我が儘ぶりを発揮し面白可笑しく観せる。TV画面に映る芸能人ではなく、タマリというスタジオ横にある控室で 素の人間模様を描いた物語。外見と内面(心)というか、何の衒いもなく 建前と本音を言い合うところが見所。

実に濃い演技をするキャスト陣。元天才子役、司会者、演歌歌手、マジシャン、元アイドル、大御所女優などジャンルの異なる芸能人が タマリという控室に会する。そしてそのマネージャーや付き人が芸能人の我が儘ぶりに振り回され右往左往する姿をコミカルに描く。さらにTV局のディレクター、アシスタントディレクターなど制作サイドの人々の思惑も絡ませた複雑な人間模様。罵倒し いがみ合い 出し抜こうとするような芸能界、それでも最後には愛と希望と奇跡が待っている、と思う。

この芸能人たちが居るタマリで ある事件が…そこから物語の本編が始まる。事件を通して、自分さえよければといった身勝手な理屈と行動、そこに人の本音を表す。また一世を風靡した芸能人の背景を紹介しつつ、その芸歴に縛られ身動きできない自分自身を省みる、そんな成長譚も描く。自分の芸歴(キャリア)を活かした創作、その作業を通して再び生き甲斐と、人への接し方を学ぶ。多くの見所を含んだエンターテインメント公演は観応え十分。
(上演時間1時間50分 途中休憩なし)【黄Team】

ネタバレBOX

舞台美術は、上手に階段(上は別部屋、下は飲物 軽食が置かれたテーブル)、下手は階段状になったタマリ_テーブルやソファが置かれている。段差があるから、その上り下りによって躍動感が生まれ、アップテンポな印象になっていた。

子供の時は天才子役と もて栄やされ、演技はもちろん劇団を立ち上げ脚本や演出も手がけていた。しかし 優秀な人物にありがちな、自分が出来ることが何故出来ないのか、仲間を詰り、いつの間にか周りに人がいなくなった。芸能界という浮き沈みの激しい世界、その昔は売れっ子だった人も 今は忘れられた存在。そんな人々に年一回スポットを当てるのが、この年末特番である。

リハーサルを終え、本番を待っている時に事件が…。右往左往する人々、そして我が身を守るために色々な行動・画策する姿を面白可笑しく描く。その姿に人の本音を垣間見せ 笑いと哀感が交じる。実はこの事件…という衝撃の事実以降が公演の本編。目立ちたい人々、その1人ひとりにスポットライトを当てることによって、かつての栄光が甦り 現状を変えるといった前向きな気持にさせる。全体を通して劇中劇 風のようで、観ていて楽しいと同時に考えさせる好公演。
次回公演も楽しみにしております。
みんな出ておいで~

みんな出ておいで~

株式会社AGE POP

DDD AOYAMA CROSS THEATER(東京都)

2024/03/05 (火) ~ 2024/03/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

安土桃山時代か、長島一向一揆を 宗教という信心を利用した人心掌握術ー現代的に言えばマインドコントロールを描いた物語。宗教の捉え方、人の思惑といった多面性を多方面(360度)から観せる。そう言えば、この劇場の近くに青山円形劇場があったことを思い出した。

公演の見所は、人の(信)心、宗教による救い=浄土への導きを利用した深謀遠慮、信仰心があつければ それだけ思考 視野が狭くなるという怖さ。それを戦(いくさ)に絡めて浮き彫りにする。もう一つが四方の客席から観せるというもの。役者は四方八方の視線を意識した演技、それが舞台上は勿論その周りを回る、その動作こそが一つの見方に捉われないことを示唆しているよう。
(上演時間1時間45分 途中休憩なし) 

ネタバレBOX

中央に高くした素舞台、客席は四方に配置。役者は一部の客席通路を通り出入りする。上演前は波(水)音が聞こえ、心安らぐ雰囲気が漂う。念仏を唱えながら人物が動き回り、その地方・地域に宗教の教えが広まっていることを表すようだ。

念仏が上手く唱えられれば 信心深いと見做される。或る日、念仏が下手な浪人がこの長島の地へ、間もなくして織田信長の侵攻が始まる。その攻防によって多くの住民 信徒が犠牲になるが、その死は「おめでたい」ことだと言う。死=浄土へ行くことが出来る、その教えを信じて疑わない。

<宗教>という絶対性、一方、好きになった女性信徒(大事な人)を救いたい。戦(いくさ)の中で、当たり前のように 親は子を守る、その<生命>への執着を熱く語る。本来、この宗教と生命という二項対立しないようなこと、それが "どうして” と考えさせる奥深さ。

ラスト、なっちゃん、おみな 二人を照らすスポットライトが物悲しくも美しい。戦国の世という、謂わば不条理な世界が浮き彫りになる力作。
次回公演も楽しみにしております。
スネーク・オイル

スネーク・オイル

不条理コントユニットMELT

王子小劇場(東京都)

2024/03/06 (水) ~ 2024/03/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

魂の存在を科学的に証明する…いくつかのコントというか寸劇を入れ子のように組み合わせ、独自の世界観を構築した異色作。内容的には人間(魂)と社会(時事)を巧みに描いており、重層的な物語に仕上がっている。

少しネタバレするが、前提は王様ゲームから始まる。そして説明にあるような物語が展開しだすが…。魂を巡る人の物語に、内憂外患を想起させるような時事問題をブラックジョークのように絡め、その(話題の)豊富さが 観ている者の知的好奇心を刺激する。
(上演時間1時間55分 途中休憩なし) 追記予定

通る道

通る道

劇団芝居屋

中野スタジオあくとれ(東京都)

2024/03/01 (金) ~ 2024/03/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

自分好みの舞台。
旗揚げ公演をした<中野スタジオあくとれ>…比較的小さい空間だが、三十三回忌法要に集まった人々の心情を描き出すにはピッタリ。登場人物は5人、そこに三十三回忌法要らしさが出ており、人の死と過疎化という世の移り変わり、その寂しさ侘しさが感じられる。

説明では北国とあったが、舞台は冬の北海道、寒風が吹いており 極寒の様子がしっかり伝わる。それを体現する演技が実にリアル。
死という必然と少子高齢化という抗えない現代日本の課題・問題もちらつかせ、それを抒情豊かに描く。

法要という典型的な儀式、事件も大きな出来事も起きないが、そこに集まった人々の近況も含め人生が語られる。そこに この劇団の「覗かれる人生芝居」の面白さを観ることができる。
(上演時間1時間35分 途中休憩なし)

ネタバレBOX

舞台美術は菩提寺泉水寺の一室。上手 下手に障子の衝立、中央奥に石油ストーブ、そして座卓が2台。シンプルな作りであるが、法要が始まる迄の時間を過ごす 控えの間のよう。寒風が吹いている音響、障子を開けて入ってくる住職の未亡人、そして法要に集まってくる人々が一様に石油ストーブに手をかざし尻を向け 暖をとる。その姿 様子が滑稽であるが実にリアルだ。そこに表現力の確かさを観ることができる。

役者は5人…実の父親 角田正造の三十三回忌法要を行う正一(増田再起サン)、弟の嫁<義妹> 角田妙子(細川量代サン)、そして甥の角田誠司(木の下敬志サン)、姪の赤坂奈美恵(増田恵美サン)、それに住職の未亡人 武田文子(永井利枝サン)と少ない。しかし、何の変哲もない日常会話(夫婦間や子供のこと、仕事や健康等)、その淡々とした語りの中に しみじみとした 人生が感じられるほどの演技力。自分もその場にいて 法要に出席する、そんな錯覚に陥りそう。

この寺まで、以前はバスの運行本数もそれなりにあったが、今では1時間に2本と激減。少子化の影響で小学校が廃校になり、コロナ感染も相まって過疎化が進んだと。後々分かるが、飲み屋もシャッターを閉め(シャッター商店街)、人との交流も無くなってきている。何となく地方都市の厳しい状況が分かるような。

三十三回忌法要の後は、この泉水寺(北海道)の墓じまいをし、東京へ(墓を)移すという。現実的な対応を見せると同時に、故郷との縁がだんだんと薄れていく寂しさ、そこはかとない悲しさが込み上げてくる。
先週、親戚に不幸があり久しぶりに故郷へ帰った。幼き頃に見た風景が遠ざかるようで…そんな哀愁に浸ってしまった。
次回公演も楽しみにしております。
猛獣のくちづけ

猛獣のくちづけ

くちびるの会

OFF OFFシアター(東京都)

2024/02/22 (木) ~ 2024/02/27 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、自分好み。
舞台は渡良瀬川近郊の街、派遣労働者として働く男の 不思議な出来事を通して、世の不条理を浮き彫りにするような物語。
男の周りの人がワニになっていく中、孤独にならないよう友達作りを始めたが…。ワニがどんな比喩をしているのかハッキリしないが、世の中の不安・不穏といった雰囲気が漂う。それがコロナ禍の閉塞感・不寛容といった状況に重なるような気がする。
(上演時間1時間40分 途中休憩なし)

ネタバレBOX

舞台美術は、冒頭 色違いの収穫コンテナが半円を描くよう、不規則に積み上げられている。真ん中にも1つ置かれ、主人公 大貫の部屋のテーブルを表している。その上には 漫画本・TVリモコン、そしてカップ焼きそばを頬張る姿が、一人暮らしの中年男の侘しさを醸し出す。

仕事は荷運びの単純労働、ロボットでも出来るようなもの、と自虐的な台詞。承認欲求と連帯意識といった自己と他者ー人間の根底にある<思い>を描く。演出は、コンテナの配置や積み上げ方を変え、場所や状況を巧みに現す。またワニは、ミニ縫いぐるみや全身 グリーンの衣裳を着ることによって、周り(世の中)の危機的な状況を暗示する。ただ、その滑稽な姿や仕草によって深刻さを緩和するよう。

親や近しい人も含め、多くの人がワニに変身していく。その様子がコロナ感染拡大、その危機的な状況を想起させる。頑張らねば、そんな励ます 又は 煽るような音楽が聞こえる、その幻聴・妄想が人を追い詰める。同時に 周りの状況の緊張・緊迫が社会(世間)の不寛容を増長させているかのよう。八方塞がりの中で人と人が繋がることによって、微かな希望が…。
人間が抱える感情や 社会の課題・問題を、サイエンス・フィクション風(間接説的)にして描き出す。その現実感と演劇の虚構性がうまく融合した好公演。
次回公演も楽しみにしております。
東京在住資格

東京在住資格

劇団BBF

RAFT(東京都)

2024/02/16 (金) ~ 2024/02/18 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

東京という<街>に住み続けることに拘る一人の女性 幸子の心象劇。10代の頃から東京に憧れを抱いているが、その理由が漠然としている。東京とそれ以外の街の違いはなにか といった明確な答えはない。それを10代から30歳頃までの特徴的な出来事を3人の女優(一役3人)で紡ぐ。登場人物は幸子と幸子の周りの人々(7人)といった曖昧な括りで描いており、衣裳もそれを意識した分かり易さ。役者陣は 出捌けせず、ほとんど舞台上におり幸子を見ている。いや 見るというよりは観察・洞察するような役割を担っているようだ。

経験しなければ解らない…東京で暮らしてみなければ、その<街>の居心地の良さや悪さは理解できないかも知れない。一方、幸子が東京に求めるモノ<希望や夢>が曖昧であるがゆえに追い詰められていく様子、それが青春の残酷さとして浮き彫りになる。小さい劇場、シンプルな舞台セットだけに、演技によって幸子の心象をしっかり伝える必要がある。その人物像は等身大の女性として巧く演じていた。
(上演時間1時間45分 途中休憩なし)

ネタバレBOX

平板で組み立てたベンチ状のものが 配置を変えて上手/下手にあるだけ。上演前にはどこかの駅のホームアナウンスが聞こえる。雑踏が東京らしさを表している。幸子は東京に住みたいため東京にある大学(関東商科大学?)へ入学する。4年間をコンビニバイトで生計を立てるという、典型的な女子大生の描き方をしている。そして、東京に居続けるための就職活動やその後の暮らし、その厳しい現実が彼女の漠然とした考え方(東京暮らし)に立ちはだかる。就活の不調、その後 何となく演劇をやりたいとオーディションを受けるといったシーンを入れ幸子の無計画や無目的といった生き方が…。この幸子とそれ以外の周りの人々の遣り取りが、公演の肝だろう。

大学時代に付き合いだした男から求婚されるが、彼が大阪転勤になると 東京を離れたくないことを理由に結婚話を渋る。彼に仕事を辞めてほしいなどエゴを押し付ける。翻って東京の街の魅力は何か。田舎の夜は寂しく怖い、と言い 東京は外に出れば誰かがいる。しかし、比喩としての東京砂漠ー見知らぬ人同士にとっては昼間でも寂しく怖く、そして残酷だ。東京という<街>は、地方出身者の受け皿で在住資格など要らない。公演は、幸子の心象と <東京の街>という表現し難い不思議な魅力を描き出そうとしているような。そこにもう一人の 存在しない主人公が横たわる。

幸子(3人)は白ポロシャツにデニムスカート、幸子以外の周りの人々は黒のポロシャツで統一し、敢えて性格や特徴を表現しない。没個性にすることで逆に幸子の心象を鮮明にする。幸子の辛苦や葛藤、その叫びに呼応するように学校の卒業式で見られる 呼びかけ、いや問い掛けをする幸子の周りの人々。幸子が立ち、周りの人々が舞台と客席の間に体育座りをして群唱する。買い物にしても情報収集にしてもインターネットを利用すれば都邑の差はそれほどないと。

ラストは、東京在住資格に拘らない、住居同様 更新せず新しい場所へ。どんな時でも「立ち止まらない」といった前向きな姿勢を見せる。公演は橙色照明の濃淡、その諧調によって情景や情況を印象的に観(魅)せる。また音楽にしてもカラオケシーンやギターの生演奏など、曲が青春っぽくて清々しい。
次回公演も楽しみにしております。
かわりのない

かわりのない

TAAC

新宿シアタートップス(東京都)

2024/02/07 (水) ~ 2024/02/12 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。
夫婦3組による存在(登場)しない子を巡る、いや正確には、夫婦2組と妻に出奔された夫と息子(不在)の愛憎劇といったところ。「変わりのない」か「代わりのない」で意味が大きく違う。説明ー難病の息子の移植手術するために募金活動を行ったがあと少しで目標額に届きそうな時に亡くなったーは、時間の経過とともに少しずつ日常が戻ったということか、それとも亡くなった息子の代わりはいない といったことか。公演では視点を変えて両方の事柄を描いているようだ。それは並んで立っているが、同一空間ではなく、台詞だけがシンクロしている妙。この届かない 聞こえないであろう慟哭こそが不在の(我が)子を強く印象付ける。

少しネタバレするが、チラシの座っている男女が説明にある募金活動を行った夫婦、後ろに立っているのが刑事。必要なくなった募金活動を続けたことによる詐欺か、実はもっと別の観点で展開していくが、何となくミステリーサスペンス風の様相を帯び 一気に関心が高まる。
(上演時間1時間40分 途中休憩なし) 

ネタバレBOX

舞台美術は、土手のように傾斜した所(八百屋舞台)に、テーブルと椅子、所々に倒れた椅子が重なっている。テーブルの下には穴があり、天井には傘電球が一つ。全体的に抽象的な作り込み。上演前には工事中であろうか破砕音や電車が通る音が騒がしく聞こえる。

田代健太・由希子夫妻は、説明にある息子 大樹(不在人物)の移植手術のため募金活動をしていたが、あと少しで目標額というところで息子(5歳)が亡くなった。息子が亡くなった喪失感を埋めるかのように、犯罪であることを知りつつ、また募金活動を始めた。そんな或る日、根本大河(不在人物)という子が逃げ込んできた。妻に出奔された男 根本岳の息子である。この子の顔にだんだんと妻の面影が、そして疎んじるようになる。この不在の息子を巡って或る出来事が起きる。近所の医院 橋爪史朗医師を巻き込んで刑事 春日井陽平の聞き取りが始まる。夫々の心情と思惑が絡み、夫々にとっての真実が事実をなかなか明らかに出来ない。そして驚愕の事実と悲しみが観客の心魂を揺さぶる。

暖(白銀)色系の照明による諧調、ピアノの重低音やバイオリンの音響。そして穴に椅子が転げ落ちることによって不安もしくは不穏な効果を出す。チャイム音と同時に天井から札片(募金)が舞い落ちる。抽象的な舞台美術とは反対に分かり易い情景描写が印象的だ。
刑事は田代夫婦を別々に取り調べているようだが、その過程の会話はシンクロさせるといった巧さ。それによって夫婦の相互の思い、歪な いたわり が浮き彫りになる。

因みに刑事の春日井陽平・里美夫妻に子はいない。少し ちぐはぐで 歯切れの悪い会話から、不妊(治療)ということを連想する。陽平の生い立ちも影を落とす。物語は、不在(登場しない)の息子2人が中心におり、父に疎んじられた子を亡くなった子の代わりに面倒見ているうちに、といった錯誤の世界観が描かれている。金では買えない、いや代替できない愛情が痛ましい。
次回公演を楽しみにしております。
CROWDED CHAOS FANTASY TURBO

CROWDED CHAOS FANTASY TURBO

SPIRAL CHARIOTS

「劇」小劇場(東京都)

2024/02/01 (木) ~ 2024/02/12 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

【ABチーム】観劇。楽しませるに徹した公演。
2チーム同時に同じアクション&台詞、息が合うか否かが見所か。内容は王国(聖者)と悪魔の戦いーー有名なロールプレイングゲームを擬えた展開のようで、勿論、音響音楽も聴いたことがあるような。
ネタバレ厳禁とのこと。
(上演時間1時間15分 +アフタートーク約30分)

ネタバレBOX

舞台美術は、薄汚れた壁(衝立状)ーその上部に蔦のような葉が生い茂り、下部は石垣が描かれただけのシンプルなもの。勿論 アクションシーンを行うためのスペースを確保するためである。2チームのメンバーが次々と現れ対決し、次シーンへ引き継ぐ。そのスピードあるテンポ感が心地好い。

さて、途中 客席から説明にある「40代のコンビニ店員おっさんが呼ばれて」…その召喚オヤジ(クリーチャーじゃないところが笑える)がハリセン持って乱入し、若いキャストにダメ出しをする。舞台稽古で演技にダメ出しをする演出家(もしくは舞台監督か)のような。その言葉が台本通りの台詞なのかアドリブなのか判然としないくらい面白い。公演は単独チーム、2チーム、3チームそしてその組み合わせが毎回異なることから、その都度 笑いのツボが違うかも…。

ちなみにABという2チームが演じていたから衣裳は上下で分かち合うような。例えば上着はそれらしい格好であるが、下はジャージだったりして不釣り合いだが、それも一興か。武器も然り。メイクだけは各人オリジナルで雰囲気を出す。
また王国軍(聖者)が聖剣を手にするが、それを簡単に抜くことが出来ないという件、かの有名な「アーサー王の剣」(バリエーションあるようだが)を連想する。色々なオマージュが隠されているような面白さ可笑しさ。

さて 公演の特徴の一つ、下ネタが頻繁に入る。性は食事と同様で欠かすことは出来ない。食生活はとても大切、演劇にとって触性活=下ネタは便秘にならないよう しっかり稽古に励む意で とても大切のよう。それにしてもカオスの世界観だ~。
次回公演も楽しみにしております。
谷崎潤一郎『白昼鬼語』

谷崎潤一郎『白昼鬼語』

楽園王

サブテレニアン(東京都)

2024/02/01 (木) ~ 2024/02/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「人殺しを見に行こう」という衝撃の誘いから始まる『白昼鬼語(はくちゅうきご)』…谷崎潤一郎の推理小説だが、論理的というよりは 心象的であり幻想的な描き方。1918年発表の短編探偵小説、この小説は未読であったが、読んでみたいと思わせるような舞台化だ。全体的な印象は虚実綯交ぜのような独特の世界観、それを音響・音楽、照明の効果的な演出によって耽美的な雰囲気を醸し出す。

物語(あらすじ)の表層的な事象は分かるが、その奥に隠された人間心理は複雑で怪奇といった印象を受ける。小説は 想像でその世界を思い浮かべることが出来るが、舞台化すると視覚・聴覚を通して生身の人物が迫ってくる。冒頭の「見に行こう」は覗き見るといった好奇心の表れ、それを役者が客観的に演じていた。その意味では、感情移入するというよりは 観察もしくは推察といった冷徹な感じだ。その描き方と観劇後の印象が心象的という一見矛盾したような感覚に陥る、見事!
(上演時間1時間20分) 追記予定

カンテン「The Foundations」

カンテン「The Foundations」

カンテン事務局(Antikame?)

座・高円寺1(東京都)

2024/01/24 (水) ~ 2024/01/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

舞台芸術の幅広さ奥深さを感じられる公演であり、好企画。
観劇したのは、Select C「接 ここはクチ以上にモノを伝える」で、架空畳の『柔らかい非流線形のフーガ メメント/アライメント』とSky Theater PROJECT『黒沢家の家じまい』の二作品。タイトルからも何となく想像できるが、前者は抽象的でパフォーマンスという動的な描きであるが、後者は具体的で身近にある出来事を静的に紡いでいる。その意味では素舞台という共通した条件下で、まったく違うテイストの公演を観ることが出来る。それぞれの団体の個性を十分に活かした内容、それを端的に表すに相応しい空間(更地)での企画は面白い。

『柔らかい非流線形のフーガ メメント/アライメント』は、或る役割を担った者たちの独白(言葉)を繋ぐことで、或るコトを準えた又は喩えたような作品。舞台技術の照明等に特徴があり心象的な印象を受ける。一方『黒沢家の家じまい』は、典型的なストレートプレイで、日常にあるリアルな会話劇。
(上演時間2時間10分 途中休憩なし) 追記予定

「八月のシャハラザード2024」

「八月のシャハラザード2024」

ネバーランドプロモーション

萬劇場(東京都)

2024/01/24 (水) ~ 2024/01/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

面白い、お薦め。
事故と事件という2つの出来事を交錯させ、限りある命をいかに未練を残すことなく全う出来るか…硬軟ある描き方だが 基本はコミカル ヒューマンストーリー。観応え十分。
ストレートプレイに歌(カラオケ)、ダンス(群舞)といった魅せるシーンを挿入することで、エンターテインメントとしても楽しめる。
舞台技術の音響 音楽、そして情景描写を効果的に表す照明が印象的だ。勿論、役者陣の熱演が物語にグイグイと引き込んで飽きさせない。虚構性の中に楽しませるという娯楽性、その意味では 演劇という総合芸術がしっかり堪能できる好公演。
(上演時間2時間 途中休憩なし)【Aチーム】追記予定

舞台「GAKUYA」

舞台「GAKUYA」

文化芸術教育支援センター

中目黒トライ(東京都)

2024/01/17 (水) ~ 2024/01/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

第9回新人シナリオ発掘プロジェクト…楽屋をテーマにワンシチュエーションの会話劇をオムニバス形式で上演。「楽屋」という限られた空間で紡がれる人の悲喜交々、とても味わい深い公演であり好企画だ。「シナリオを学ぶ多くの人に自分の作品が形になる場を作ろう!」という意気込みがしっかりと伝わる厳選された作品群。面白い!
少しネタバレするが、上演作品と設定楽屋を紹介する(上演順)。
1.「たかがキス」…舞台楽屋
2.「大橋さんのいる楽屋」…TV局控室
3.「それいけ、グリーン!」…街のヒーローショー
4.「ボックス・オブ・チョコレイト」…ストリップ小屋
自分は、「たかがキス」「ボックス・オブ・チョコレイト」が印象に残った。

前説や最初の作品を上演する前、CAST紹介を兼ねて 各作品の特徴的なシーンを披露したり 劇中へ繋がりを持たせるような演出。例えば、街のヒーローショーの会場間違えや ストリップをイメージさせるような妖艶なダンスなどを観(魅)せる。
少し気になるのは、演技力に差があり 作品の面白さを十分に表現出来ていないような。当日パンフに「キャストの約半分はオーディションで選ばれた新人たち」とあるから無理からぬことかもしれないが…。
(上演時間1時間50分 途中休憩なし) 追記予定

ストレンジャーズ イン ザ ナイト

ストレンジャーズ イン ザ ナイト

スラステslatstick

駅前劇場(東京都)

2024/01/16 (火) ~ 2024/01/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

元女子プロレスラー3人がそれぞれ第二の人生を歩んでいたが、そんな彼女たちにトークイベントのオファーが舞い込んで、といったコメディタッチの物語と思っていたが…。少しネタバレするが、ほぼ素舞台、暗幕で囲い あるのは横長の箱が2つ。情景に応じてパイプ椅子が持ち込まれるだけ。出演者は5人(女優3人、男優2人)、演技力が求められるところだが、何となく ゆる~く演じているよう。しかし、それが敢えての演技で、一人ひとりの個性であり生き様が感じられるといった不思議な魅力がある。上演時間は約2時間だが、飽きさせることなく展開していく。

素舞台だが、上手に或るモノが現れた時からSFの不思議な世界へ誘われる。チラシにある「地球の存亡をかけた戦いが始まった!」のだ。人は外見によって惑わされることなく、その人間(本)性を見極めることが重要。地球存亡の戦いは、惑わされ疑心暗鬼になる<心>との戦いでもある。
歌ありアクションありの魅せるシーンもあり、笑わせ楽しませる、そして少し考えさせる公演だ。カーテンコールでネタバレしないようにとあり、「元・悪役女子プロレスラーVS宇宙生物‼」は、ぜひ劇場で。  追記予定

タージマハルの衛兵

タージマハルの衛兵

東京演劇アンサンブル

野火止RAUM(埼玉県)

2021/09/04 (土) ~ 2021/09/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

東京演劇アンサンブルの新拠点・埼玉県新座の野火止RAUMで観劇。新座駅から少し距離(約2㎞か)があるが、事前に予約しておけば送迎車を出してくれるのでありがたい(毎公演かは要確認)。

初日観劇。劇場はひな壇(当日は4段)型で、少しであるが市松模様的にパイプ椅子を配席し観やすく配慮。観た回、それも1列目に小学生と思われる子供が観劇していたが、衝撃的なシーンがありトラウマにならないか心配になった。また同シーンで この劇場では可能な(目測であるが奥行きがある)演出が他の劇場で出来るか気になるところ。
(上演時間1時間55分。前半1時間 後半40分 途中休憩15分含む)【Aチーム】

野火止RAUM劇場は対象外だが、第33回池袋演劇祭参加作品(シアターグリーンBOXinBOX THEATER)になっているため、☆評価は2021.10.10日付。

ネタバレBOX

舞台は5つのキャスター付の衝立(ガラス板)が等間隔に並んでいるだけ。その前(客席側)に薄暗い闇の中に立つ幼馴染の衛兵が2人。衛兵の名はフマーユーン(雨宮大夢サン)とバーブル(和田響きサン)。2人の衣装は、頭にはターバンを被っているが、服装はスーツに棒ネクタイ、革靴である。もちろん手には剣を持っているが第一印象は違和感。が、物語の内容から或る意図が読み取れる。衛兵という規律の厳しい組織人、現代の勤務(仕事)服がスーツ(職業によって制服)であり革靴の象徴であれば、組織という枠に縛られた衣装と言えるかもしれない。しかし観た目の第一印象も大切なんだが…。

1648年。インド、ムガール帝国の首都アグラが舞台。彼らの任務はタージマハルの警備。 背後にこの世で最も美しい存在があるのに、振り返ってその姿を見ることが許されていない。建築家、ウスタッド・イサの細やかな願い、だが皇帝の「これ以上この世に美しいものを生み出さないため」の計画は残酷なもの。 私語厳禁のはずが、いつの間にか2人のダイアローグが進み、日の出とともにタージマハルの方へと振り返った2人が見た光景。

明転後、「これ以上美しいものが作られないよう、建築家や関わった人間2万人の腕を切り落とす」任務を遂行した。2人の姿と血で汚れた床、積み上げられた多数の人々の腕。狂乱しながら自分たちがした「任務」=「仕事」について話す。フマユーンは皇帝命令の「任務」 、パープルは「美を殺す」といった解釈。しかし作業は逆、器具を使って2万人の腕を切り落としたバーブル、切られた4万の傷跡に焼き鏝をあて治療したフマユーン。2人は血を掃除しながら空想した乗り物「エアロプラット(=始め 星へという台詞からロケットかと思ったが、後に飛行機、それも軍用機のイメージ)」や「持ち運び式抜け穴(=ドラえもん の どこでもドアのイメージ」の話を続ける。 この腕を切り落とすシーンが凄惨だ。2人の心情が鬼畜(別 組合わせの2人が黒子役、半裸で顔には墨)となって現れ衝立板に血の手形、血しぶきを思わせる赤塗噴射は顔を背けたくなるほどだ。そして事後処理を淡々と行わなければならない虚無感か虚脱感が痛いほど伝わる。空想した自由の産物「エアロプラット」はいつの間にか戦闘機に変わり、攻撃目標にしやすいタージマハルを目指す。それをどこでもドアから布を取り出し覆い隠そうとするが、それを行う人々の手がないという皮肉。

数日後、この「任務」によってバーブルの念願であったハーレムの皇帝警備という、新たな「任務」に2人が就く直前、彼は突然 皇帝暗殺の計画を語りだすが…。
台詞にあったかどうか定かでないが、たぶん数年後、同じようにフマユーンは衛兵の任務を続けている。そこに現れたバーブル(スーツ、革靴ではない)の幻影は悲しくも美しい。照明で輪郭を抜き取ったジャングル光景で戯れる2人の姿はあまりに無邪気で幼気だ。

個人の集合体としての組織、そこに形成される「権力」、これ以上を作り出さないという傲慢な「美の定義」、極限状態に置かれた「心理」……様々な視点を錯綜させ、舞台美術として存在しない「タージマハル」や姿を現さない皇帝や建築家、そしてフマーユーンの幹部軍人(警備隊長)である父が自然と立ち上がってくる。
ラスト、少年時代の2人の笑い声まではっきり聞こえてくるようだ。 フマーユーンとバーブルのダイアローグが限りなく想像の翼を広げ悠久の旅をしている、そんな印象が後味をマイルドにしている。
次回公演も楽しみにしております。

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