かわりのない 公演情報 TAAC「かわりのない」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    面白い、お薦め。
    夫婦3組による存在(登場)しない子を巡る、いや正確には、夫婦2組と妻に出奔された夫と息子(不在)の愛憎劇といったところ。「変わりのない」か「代わりのない」で意味が大きく違う。説明ー難病の息子の移植手術するために募金活動を行ったがあと少しで目標額に届きそうな時に亡くなったーは、時間の経過とともに少しずつ日常が戻ったということか、それとも亡くなった息子の代わりはいない といったことか。公演では視点を変えて両方の事柄を描いているようだ。それは並んで立っているが、同一空間ではなく、台詞だけがシンクロしている妙。この届かない 聞こえないであろう慟哭こそが不在の(我が)子を強く印象付ける。

    少しネタバレするが、チラシの座っている男女が説明にある募金活動を行った夫婦、後ろに立っているのが刑事。必要なくなった募金活動を続けたことによる詐欺か、実はもっと別の観点で展開していくが、何となくミステリーサスペンス風の様相を帯び 一気に関心が高まる。
    (上演時間1時間40分 途中休憩なし) 

    ネタバレBOX

    舞台美術は、土手のように傾斜した所(八百屋舞台)に、テーブルと椅子、所々に倒れた椅子が重なっている。テーブルの下には穴があり、天井には傘電球が一つ。全体的に抽象的な作り込み。上演前には工事中であろうか破砕音や電車が通る音が騒がしく聞こえる。

    田代健太・由希子夫妻は、説明にある息子 大樹(不在人物)の移植手術のため募金活動をしていたが、あと少しで目標額というところで息子(5歳)が亡くなった。息子が亡くなった喪失感を埋めるかのように、犯罪であることを知りつつ、また募金活動を始めた。そんな或る日、根本大河(不在人物)という子が逃げ込んできた。妻に出奔された男 根本岳の息子である。この子の顔にだんだんと妻の面影が、そして疎んじるようになる。この不在の息子を巡って或る出来事が起きる。近所の医院 橋爪史朗医師を巻き込んで刑事 春日井陽平の聞き取りが始まる。夫々の心情と思惑が絡み、夫々にとっての真実が事実をなかなか明らかに出来ない。そして驚愕の事実と悲しみが観客の心魂を揺さぶる。

    暖(白銀)色系の照明による諧調、ピアノの重低音やバイオリンの音響。そして穴に椅子が転げ落ちることによって不安もしくは不穏な効果を出す。チャイム音と同時に天井から札片(募金)が舞い落ちる。抽象的な舞台美術とは反対に分かり易い情景描写が印象的だ。
    刑事は田代夫婦を別々に取り調べているようだが、その過程の会話はシンクロさせるといった巧さ。それによって夫婦の相互の思い、歪な いたわり が浮き彫りになる。

    因みに刑事の春日井陽平・里美夫妻に子はいない。少し ちぐはぐで 歯切れの悪い会話から、不妊(治療)ということを連想する。陽平の生い立ちも影を落とす。物語は、不在(登場しない)の息子2人が中心におり、父に疎んじられた子を亡くなった子の代わりに面倒見ているうちに、といった錯誤の世界観が描かれている。金では買えない、いや代替できない愛情が痛ましい。
    次回公演を楽しみにしております。

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    2024/02/12 05:44

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