ハンダラの観てきた!クチコミ一覧

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子供の時間

子供の時間

劇団俳小

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2015/03/18 (水) ~ 2015/03/22 (日)公演終了

満足度★★★★★

悪は欠伸のうちに世界を呑む
 リリアン・ヘルマンの傑作「子供の時間」のテキストを的確に読み込み、舞台化した演出の入谷 俊一氏に敬意を表したい。

ネタバレBOX

 翻訳の杉山 誠氏も見事だ。キャスティングの良さ、高い演技力を持った役者達の丁寧な役作りによって、深く重層的なホリゾントを持ち、微妙な人間関係を表現することの難しいこの作品に血が通った。見事である。
誰も見たことのない場所2015

誰も見たことのない場所2015

ワンツーワークス

赤坂RED/THEATER(東京都)

2015/03/13 (金) ~ 2015/03/19 (木)公演終了

満足度★★★★★

観客も当事者
 取材事実を科白にした作品なので、言葉の持つリアリティーと一次情報に纏わりついているその周りの空気のようなものまでが、的確な演出と端的な演技で舞台化された作品である。

ネタバレBOX

 このような手法は、古城氏のジャーナリストとしての経験が遺憾なく発揮された作品でもあるということだ。今回は、再演であるが、再演の為に、再取材と新たな取材をキチンとした上で作品を作ることによって、初演時からの変遷を織り込んでいることも、為すべきことを為しているという意味で評価しておきたい。
 また、取材対象が、自殺に失敗したサバイバーのみならず、青木ヶ原樹海に関わる担当署刑事、民宿経営者、自殺対策支援NPOなど支援団体メンバー、自殺者遺族や恋人など自殺当事者関係者、自殺した者が飛び込んだ列車を運転していた運転手、精神科医、多重債務者支援団体幹部、牧師、精神保健福祉士、歌舞伎町救護センター長等々、自殺者周辺の人々にも取材することによって、自殺の社会学的意味・位置などを浮き彫りにすることで、作品に陰影と深み、重層性が生まれている。
 明確な視座と足で稼いだシナリオ、的確な構成力・演出に、質の高い役者陣の演技で、漸く年間3万人を切るようになったとはいえ、依然、毎日70人程の人が自殺する、この植民地の異常に高い自殺率を考えさせる作品である。
チンチンブラソーブラソーセージ

チンチンブラソーブラソーセージ

ザ・プレイボーイズ

上野ストアハウス(東京都)

2015/03/18 (水) ~ 2015/03/22 (日)公演終了

満足度★★

ザ・プレイボーイズ
はモテることを目標に、10年活動をしてきたという。その最終公演なのだが、う~~~ん、モテる奴って、もっと面白いんじゃにゃいかにゃ~~~~。笑いを獲るってのは、それなりに頭を使うことにゃのだにょ。それが、モテの理由にゃんだにゃ。楽ぴ~~~しにゃ。

ネタバレBOX

 
 シナリオ書いてる人が、真面目すぎるんにゃ。だから、自分自身を茶化していにゃいし、自分自身を茶化せにゃいから、思い込みや決意ばかりが前面に出て、結果、面白みがにゃくにゃる。誰も他人の思い込みなんぞに共感しにゃいよ。テンションの持続についても、自分自身が楽しめにゃけりゃ、持続出来る訳にゃいもんにゃ~~~~。
 ちょつと、哲学してちょ。んで以て、作品の構造をキチンと構築すること、論理で基本を組み立てた上で、次のステップで、初めて箍を外しに掛かること。最初はこの辺りから始めた方が良さそうにゃ。
 以上の事が、総て出来てから、再チャレンジするにゃらすれば。今作では出来ていにゃいと判断したにゃ。
忍ブ阿呆ニ死ヌ阿呆

忍ブ阿呆ニ死ヌ阿呆

企画演劇集団ボクラ団義

シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)

2015/03/11 (水) ~ 2015/03/22 (日)公演終了

満足度★★★★★

忍びの本質
 信長が“うつけ”と呼ばれていた時期から、今川を討った桶狭間、天正月伊賀の乱を経て本能寺の変でその命と勢いを断つ迄を、歴史の表舞台で語られていることではなく、表舞台では謎や不思議と捉えられている事柄を忍びによる様々な術の歴史として解き明かした傑作。

ネタバレBOX

 
 隋所に笑いを鏤めて観客を飽きさせず、時代の荒波の只中を人間らしく生きようと欲する下忍の夢を、決して諦めようとしないその秘められた情熱を、忍びの術の本質総てを用いて劇化して見せた所が凄い。
 途中、休憩を10分とって約3時間の長丁場だが、絶対お薦めの作品。
本人不在殺人事件

本人不在殺人事件

劇団ピンクメロンパン

山王FOREST 大森theater スタジオ&小劇場(東京都)

2015/03/12 (木) ~ 2015/03/15 (日)公演終了

満足度★★★

13日の金曜日
 殺害された死人が、捜査に当たる刑事に愚痴ったり、あれや、これやの注文をつけるのだが、捜査方針は怨恨と決め打ち。

ネタバレBOX

 無論、犯行当日の天候や犯行推定時刻、凶器の推定や被害者の死亡推定時刻なども分かっているが、はなから怨恨と決めて掛かっているシナリオでは、底の浅さが見えてしまう。決め打ちが余りに強烈なので、ドンデンは落差があるが、それより何より、侘しい被害者の姿が哀れな作品である。
『タヌキさんがやって来た。』/『空中庭園』

『タヌキさんがやって来た。』/『空中庭園』

ユニークポイント/異魂

ザムザ阿佐谷(東京都)

2015/03/10 (火) ~ 2015/03/11 (水)公演終了

満足度★★★

SDFとホームレス

 たぬきさんとは、今作に登場するホームレスの仇名である。日本のホームレスに対応するのは、パリではSDFであろう。sans domicile fixeの略である。

ネタバレBOX

直訳すれば住所不定だ。従って無職では無い場合も結構多い。路上でパフォーマンスをやったり演奏をしたりという人々、メトロ構内、車内で芸を披露する人々などの多くもSDFである。自分もフランスで生活をしていた時に、彼らの避寒して来たモンペリエで数人のSDFとは仲が良かったし、仲良しとまではいかなくとも十数人程度のSDFとは顔見知りであったので、様々な事情を聞いている。
 パリで公演したということであるが、社会階層の分化がフランスは日本の比ではないし、日本のようにウェットな感覚ではなく、世間はドライでアイロニカルである。
 一方、日本より遥かに様式の生きている世界であり、社交儀礼やマナーが生きづいた社会でもあるので、逆説的に繊細な人情が、ユマニスムの伝統の下に生きて働く社会でもある。「タヌキさんがやってきた」については、以上のような差異から、ラストの意味合いが多いに違ってくるような気がする。フランスでの受けの方が良いだろうと想像するのである。
 メルケル首相訪日に関しても彼女はユマニスムの伝統に則った人間中心の論理で物事を判断しその普遍性に於いて物を言っていた。対する安倍の何と情けないこと。アメリカの植民地宰相としてすら恥ずべき御託を並べたに過ぎない。無論、その基本は嘘である。メルケル首相は儀礼上、其処までは言わないが、明らかに距離を置いていた。人間として当然のことである。
ことほどさようにヨーロッパと日本は違う。日本にもキチンとしたことを言う民衆はまだ残っているようだが、力が無い。それに引き換え下司そのものである自民党議員とおもねる庶会派、諸政党。屑そのものだ。主権者たる国民を蔑ろにして何が議員か? 議員の権威は国民の代表である場合のみ、その意味を持つ。然るにその真実の僅かな一端がばらされるだけで、支持率が落ちるような好い加減な首相が諮問機関で論議したアリバイによって何らの権威も権利もないのに、閣議決定に持ち込み、詭弁を弄して法制化を目論むような「政治」状況にあって、我らが採り得る行動。それは、何か? 諸君は自らの頭を使って考えよ。これが唯一の解答である。
ところで、たぬきさんを演じた古市 裕貴は、良い味を出していた。
「空中庭園」
 サーカス芸人の女(空中ブランコ乗り)が出番待ちをしている所へ男が一人訪ねてくるが、矢鱈、理屈が多い。学者タイプの朴念仁で、余り融通が利かない。その性格を表す為に、わざと噛んでいるいるのなら、大したものなのだが、恐らくそうではあるまい。上演中故、詳細は明かさないが、ラスト己の運命が分かっていながら、ステージに向かう女(実は妹)の姿には、ぐっとくるものがある。その意味では、2作に共通したテーマで纏めている。

レパートリーシアター

レパートリーシアター

COoMOoNO

キッド・アイラック・アート・ホール(東京都)

2015/03/06 (金) ~ 2015/03/14 (土)公演終了

満足度★★★★★

ムーンライト・シャドウを拝見
 COoMOoNo’sは言葉を相手に届けることを目指し、伊集院もと子が立ち上げたユニットのようだ。今作は、よしもとばななの同名小説を伊集院がシナリオ化し演出した作品だ。  
 ところで言葉を届けるには、無論、がなったり、音声を大きくすればよい、と考えるのは間違いである。反対に聞き取り得る限りで最も小さな声で語るのが良い。主宰の伊集院は、このことを良く理解している。オープニング、一灯のカンテラを灯した主人公が、カンテラを置き、次に一つの蝋燭に火を入れ、更にもう一灯にも火を灯す。丁度、三つの頂点に日が点ると、実に自然に彼との関わりが語られてゆく。その表現は極めて詩的で質の高いものである。

七つの大罪

七つの大罪

シアターX(カイ)

シアターX(東京都)

2015/03/07 (土) ~ 2015/03/08 (日)公演終了

満足度★★★

ちょっとステレオタイプ?
  ベルトルト・ブレヒトとクルト・ヴァイル二人の仕事を一昨年(三文オペラ)、去年(マハゴニーの興亡)とやってきた三年目(七つの大罪)の上演であるが、シアターX「本物の俳優修業」シリーズに位置づけられた作品である。このシリーズ、勉強会やら、ワークショップやらをこなして佐品上演に結実させてゆくのだが、今作では、過去2作より、時間をとって、2週間通常の稽古に近いことをやった上での上演である。
 但し、キリスト教国でもない日本で、キリスト教の罪の概念を反転させ、アイロニーとして用いている今作のアイロニカルな意味をどのくらいの日本人が意識化できたのか? という疑問と、倫理というものを宗教と密接に結び付ける一神教の発想に我々の宗教観や仏教的無常感がどの程度,親和性を持ちうるかについても、もっと掘り下げて欲しかった。
(追記2015.3.10:02:00)

ネタバレBOX


 まして、現在、アメリカの植民地である、この地域は、日毎、夜毎劣化しつつあり、ワイマールを持っていたドイツがヒトラーになし崩しに壊されていったように、日本国憲法が日々ほころびつつある中、ブレヒトの持つラディカリズムを日本国憲法9条1項・2項の無化を画策する安倍への楔として打ち込めるような舞台を期待したかったのであるが、練習期間の短さやドイツの現代日本の専門家でもない演出家を招いての演出には、矢張り無理があったように思う。急速に右傾化する現在の日本。及び日本の知識層の悩み迄は織り込むことができないからである。
 結果、演劇を良く観ている人々にとって、演出・演技は、ステレオタイプに映ったのではあるまいか。ブレヒト自身はカール・マルクスの提唱した知見に大いに共鳴した人であったが、矢張り、現代を生きる我々は、最低限、今カール・マルクスが生きてこの植民地に住んでいたら、何をどのように捉え、集めたデータをどのような哲学・方法によって分析し実践に繋げて行ったかを考えなければなるまい。最近、この植民地でヒットしている本の名を挙げれば、「21世紀の資本」のトマ・ピケティーが、利潤の分配に関して、安倍や竹中 平蔵の言うトリクルダウンを膨大なデータで裏付けつつ否定しているのを取り入れるとか、エマニュエル・トッドがその人類学的アプローチによって、遺産相続の違いによる社会とその社会で形成される意識の差を見たように、また識字率の上昇による社会変革の招致を示したように、そして、識字率が、変革を齎すレベルに達しているにも拘らず、社会変革が起きなかった社会に就いては、その原因を考えたように、定式化できるレベルと変数を用いなければ解が得られないようなケースをキチンと各々調査した上で、その地域、地域に合わせたアプローチを試みて欲しかったのである。そのようにしなければ、真の普遍性たるローカルから他のローカルへの受け渡しは出来ないように思われる。今作で言えば、ここで扱われているモラルを、例えば教育問題として役者達には考えさせるというようなアプローチの仕方が必要だったのではあるまいか? 安倍は、憲法改悪の為に搦め手として教育基本法改悪をやってきた訳であるから。ブレヒト作品の極めて政治的な面をキチンと継承すべきだと考える。

絶版・小動物の正しい飼育方

絶版・小動物の正しい飼育方

発条ロールシアター

タイニイアリス(東京都)

2015/03/05 (木) ~ 2015/03/08 (日)公演終了

満足度★★★★★

大人のファンタジー
 食べ物以外に金を使うなんぞ、トンデモナイ!! という中年・初老の三人組。仲間の一人が、黄金町の近くの神社に一軒だけ店開きして居たテキヤの屋台で日当を全部注ぎ込んで、小さな生き物を買って来た。毎日、インスタントラーメンしか食べていない3人にとってとてつもない金額を注ぎ込んだにも拘わらず、食べることもならず、余分な飯迄喰いかねない、ペット。だが、一目、それを見るなり他の2人も完全にイカレテしまう。余りの可愛らしさに自分達にとっての天使だと誰もが認めて仕舞わざるを得ないのである。何だか羽の痕跡迄ある。ということは、鳥? それともホントに天使? (上演中故、ここ迄、追記後送)

アンダーバー

アンダーバー

劇団ねまきクラスタ

アートスタジオ(明治大学猿楽町第2校舎1F) (東京都)

2015/03/05 (木) ~ 2015/03/07 (土)公演終了

満足度★★★

閉塞する時代

 を描く心算なら、このようなオムニバスにするのではなく、一幕物にすべきだったろう。1,2年生の公演とあって、まだまだ経験不足や勘所を掴めないということもあろうが、オムニバスは、主題を漠然とした形にしてしまいやすいことにも留意すべきである。突き詰めた果てで必然的にはじけるなら別であろうが。
 対処法としては、具体的な事例をキチンとフォローすること。一幕物で表現するなら、物語が、自然に展開するシチュエーションは、どんな場所で起こるか、キチンと詰めて考えることである。今作なら、例えば新聞社の編集部でも良いし、派遣を斡旋する会社のロビーでも良い、といった具合だ。今後の延びしろに期待して、星は3つ。

これから~2015version~

これから~2015version~

アンティークス

阿佐ヶ谷アートスペース・プロット(東京都)

2015/03/06 (金) ~ 2015/03/08 (日)公演終了

満足度★★★

丁寧に作られている
 然し、価値観や視座が限定的である。無論、意味が無いというのではない。ただ、プチブル的価値観の域を脱していないという点を指摘しておきたい。これだけ、自分達の足元が脅かされているのに、改訂版の今作にその視点を入れていないのが、問題だと考える。それとも、自分達もまた安全だと本気で信じているのか?

白魔来る-ハクマキタル-

白魔来る-ハクマキタル-

ラビット番長

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2015/03/05 (木) ~ 2015/03/09 (月)公演終了

満足度★★★★★

アンリ バビュルスの地獄(Aキャストを拝見)
 雪の降る時、惨劇が起こる。開演前、舞台はかなり昏めだが、天井からは植物の枝葉が垂れ下がり、への字のように作られた縁側、障子の辺りの枝葉は下手から青のライトで照らされ、オープニングでは、不気味な風の唸り、津軽三味線の太棹の音。明転すると若者達が、漸うの体で転がり込んで来た所である。彼らの背後には、三味の音の後、影が、音も無くこちらへ回り込んでくる。若者達は、怖気をふるうが、この古びた家の者であった。

ネタバレBOX

 物語は、この老人が、何故、この村には、人が居なくなり、この老人は、何者であるのかを明かすに至る昔話を語る、という形で進められる。
 時は、約100年前、日清・日露戦争後もまだ多くの農民が貧困に喘いでいた。そんな農民の前に開拓をすればその土地は自分のものになる、という話が聞こえてきた。場所は北海道だという。飢饉があれば、年頃の娘は売られ苦界に身を沈めねばならないような時代である。若く自分の土地を持たない多くの者が開拓地に夢をはせた。
 貞夫一家も、そんな夢を負ってこの地に入植してきた一家である。貧しさ故、ここ迄辿りつく為に持ち金の殆どを費やし、新しい土地を農地にする為に必要な牛馬の手当てなど思いもよらない。だが、村長以下、先に入植していた者達は、この一家の為に馬を購入、新入植者への贈り物として与えてくれた。無論、馬は大変高価なものである。村人達が新たな入植者にかける期待の大きさと好意が並大抵のものではないことが、この一事によって示されている。{無論、まだまだ他に多くの一筋縄ではゆかない問い掛けが潜んだ作品ではあるが、上演中である。頗る敏感な人も居るであろうから、ネタバレは取り敢えずここ迄(追記2015.3.12)}
 この後、人々の大きな心の傷が描かれる。その具体例は差別されることによって己の居場所を失くし、自らのアイデンティティーを自らの属する社会(既に失われているので見出しようが無い)に於いて見出せない者。アイデンティティーが成立する為には、二重の前提が確保されねばならない。即ち、社会の類的存在として確立されるべき自己自身の内面と社会の中である役割を果たし認められて在る自己との無矛盾の統一性である。然るに、自らの属する社会全体が、マジョリティー乃至は力ある者から否定され尚且つ自らが属すべき社会からも拒絶されているとあれば「自分」とは、無限の崩壊過程以外何者でも無い。この現象は自らの認識に於いては、無限に深まりゆく虚無感でしかあるまい。平吉の抱えている地獄はこのような四面楚歌であり、自らを自らであると措定できない、まさしく地獄なのである。平吉が狂わないでいられたのは、当に彼が天才マタギだったからであり、狩られる羆に敬愛の念を持ち得たからで、人間界などの及びのつかない世界をアイデンティファイの場として持ちえたからである。逆に、老人が狂気に陥った原因こそ、平吉のような被差別体験を他の人間との関係の中で殆ど味あわなかった為、養い親の平吉を失った後は、寧ろ羆と精神の一体化を果たし、人間にとっては錯誤であることが、彼には条理であったという結論も、意味深長である。
 もう一つ、見落としてならない点がある。貞夫が助かった自分の子(即ち語り手の老人)の命を共同体である村に捧げなければならない、と考えている点である。このような発想は、欧米的な個人意識とは相いれない。日本型村社会乃至は近世迄の道徳律であろう。同時に貞夫の判断に内在する狡さにも注目しておきたい。即ち己の家族を守れなかった罪の意識や弱さ、情けない無力感を、生き残った赤子を魔と規定することによって転嫁し、殺害しようと目論む論理に実に日本的な狡さを見るのである。これこそ、村社会を支える滅私奉公の論理、安倍の目指す国家優先の論理に連なる欺瞞そのものを表象していると見ることができる。つまり、滅私奉公の論理とは、責任転嫁によって更に陰湿に隠されたより凶悪な魔を隠す擬制の論理と見るべきなのである。安倍如き下司は、イスラム国を批判できるだけの内的倫理の統一性を持たぬが故に、非難する資格は無い。無論、イスラム国の蛮行は非難すべきであるが、彼らを生み出した先進国の欺瞞にも同時にキチンと公平・公正な批判の目を向けるべきなのである。

おまけ:観方によって、イスラム国成立の背景まで読み取れる作品である。少なくとも自分はそのように観ていた。

さて、おまけに記したイスラム国成立についても少し話しておこう。イスラム国の中心メンバーには、イラク、フセイン政権時代のバース党出身官僚や軍人、警察官などが居るということは以前コリッチの別な所で書いた。無論、現在も彼らの動きを見ていれば、それが単に烏合の衆ではなく、相当実務に秀でたメンバーが居ることは間違いない。で直接的にはそのように優秀な人々が何故このようなムーブメントを起こして行ったかである。最も直接的な最近のきっかけは、アメリカが国際法に反し、単に自分達の利益の為にイラク戦争を強行し、フセイン政権を倒し、バース党関係者を追い払ったこと、その後暫定政府を立てさせ選挙を行わせて、シーア派のマリキを首相として傀儡政権を操ったこと、マリキの下でクルドの民兵組織、ペシュメルガは、シーア派と共闘して秘密警察のような役割を果たし、スンニ派を捉えては酷い拷問や虐殺を繰り返したこと。アメリカが開戦の理由とした大量破壊兵器等無かったにも拘わらず、チェイニーやらラムズフェルド、ウォルフォウィッツらネオコンは、イラクの豊富な石油から上がる利権に群がり収奪したばかりでなく、チェイニー等は、復興を大々的に請け負い大儲けした。更に、軍を民営化したブラックウォーターメンバーらは、レイプ、略奪、虐殺等何でもしたい放題やって居た訳だ。ブラックウォーターの社長エリック・プリンスは、SEAL要員だったと言われている。またアメリカ軍の特殊部隊員・CIA暗殺要員に暗殺の仕方を教えたりとCIAエージェントとしても関わっていたとの情報もある人物だ。非公式ではあるが、サブラシャティーラ虐殺の理由とされるレバノンのハリリ暗殺は彼に関わりのある事だと言うし、パキスタンのブット暗殺に関わっていたとの情報もある。何れにせよ、糞野郎だ!! 公式国家レベルに戻ると、英米は、バクダッド等の都市部でも大量のDU(劣化ウラン弾)を使用した。その影響としか考えられない奇形、白血病や癌等の極めて深刻な症例が多発している。因みに、DUから出た核種で長い半減期のものは44億7千万年である。
 更に、米英等イラク戦争で客観的な戦争犯罪を犯した連中は、荒らすだけ荒らし、奪うだけ奪って、キチンとケアもしなかった。その結果、イラク国内に残されたのは、痛みと不可能、混乱と破戒、貧しさと悲惨、不信と恐怖、病と飢え、死の蔓延と絶望であった。このような混乱とカオスからイスラム国は生まれ落ちたのである。即ち、イスラム国を作ったのは、第一にアメリカ、第二にイギリスである。無論、イギリスには、サイクス・ピコ秘密協定の前科もあるのだ。アメリカ、イギリスに、DUというトンデモナイ兵器・弾薬群を使用した戦争犯罪の罪を問うべきである。そして、被災者総てと親族に対し、一人1億ドル(この額は間違いではない、仮に人類の末裔が、44億7千万年後まで残っていたとして、遺伝子破戒による悪影響を半減期だけでも適用する必要があろう。実に控えめな額なのである。実際、寿命を60年で計算すると44億7千万年の間にヒトは7千4百5十万世代を経るから一世代辺りの保証額はたった、1ドル34セント強でしかないのだ)程度の賠償金を支払うべきであろう。それほど被害は酷いのだ。
 
 これらが、我らヒトに負わされた負の性向であるならば、それを現前化させる為に、井保氏は重層化した人間関係を多面的に描くことによって演劇という表象に結実させたのである。


 
梅子と「ボクらの青春交響曲」

梅子と「ボクらの青春交響曲」

『熱きロマンを胸に、生きる勇気と希望を与えるべく突っ走り続ける奴ら。』

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2015/03/03 (火) ~ 2015/03/08 (日)公演終了

満足度★★★

齟齬処理がイマイチ
 作者の書いた作品から、書かれた登場人物が飛び出して現実に関与するという話だが、理屈を捏ねると、設定が甘い。

ネタバレBOX

タイムパラドクス処理もキチンと行われているわけではない。また、物語に登場する人物達が、現実世界に飛び出してくるのは兎も角、そこには齟齬がある訳で、その齟齬を齟齬と感じさせないような飛躍や、次元の異なる設定も弱いと感じた。また、作家が基本的に真面目な人なのであろう。突拍子もなく跳んで、観客の想像を見事にはぐらかすような内容が欲しいのに、しんねりしたシナリオになっている。この辺りはもっと工夫が欲しい。
GHOST SEED

GHOST SEED

カプセル兵団

シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)

2015/02/26 (木) ~ 2015/03/01 (日)公演終了

満足度★★★★

安倍政権下司共への薬 ノブレスオブリージュ 言うだけ無駄か
世界の生態系は5本の世界樹によって支えられている。世界樹は、時が来ると幹が割れ、新たな種子を放出する。然し、時期で無いハズの時に、1本の世界樹が、種子を放出した。

ネタバレBOX

 而も、その種子は、自動人形に奪われてしまった。ヒトは人形を敵視し、世界中の人形は破戒されたかに見えた。然し、誰も恐れて寄りつかない森の中の邸宅には、多くの人形が破戒されずに残っていた。しかもその中の3体は、自動人形だったのである。世界樹によって命の相を、純粋に夢を追い求める姿勢によって純化の勝利を、ノブレスオブリージュによって為政者の心構えを示した作品として、今迄、自分が拝見したカプセル兵団作品の中で最も高い評価を与えたい作品だ。この劇団の特徴である様々な装置や、器具、新種のコンセプト等を身体表現と手短な科白で補完してゆく作法は健在であるが、これだけシナリオの骨格がしっかりした作品を書けるのであれば、このような小手先の技術は割愛するか、別の形に落とし込んで脱皮を図る時期に来ているのかも知れない。
『一人づつ』ご来場ありがとうございました。

『一人づつ』ご来場ありがとうございました。

演劇ユニットG.com

パフォーミングギャラリー&カフェ『絵空箱』(東京都)

2015/02/27 (金) ~ 2015/03/01 (日)公演終了

満足度★★★★★

プロの舞台
 チェーホフの「たばこの害について」とジャン・コクトーの「声」をベースにその対をSF太郎氏の創作によって補完したシナリオが、上演台本になっている。

ネタバレBOX

4パートに分かれているのだが、1.たばこの害について2.声3.耳4.わが麗しの案山子殿、構成が見事である。というのも、1は4に、2は3に其々照応していて、照応する各々の作品は、それぞれの補完作品となっており、必要最小限の暗転でスムースに展開が図れる演出と空間処理の上手さ、役者陣の演技力、シナリオの良さに粋なセンスが加わって、当にプロの舞台である。ラスト、全員で踊るタンゴも、普段からの鍛錬が見えて見事である。
へんしん(仮)

へんしん(仮)

ENBUゼミナール

シアター風姿花伝(東京都)

2015/02/27 (金) ~ 2015/03/01 (日)公演終了

満足度★★★

願望のもと
今、できの良い連中は

ネタバレBOX

“大衆のレベルは落ちる所迄落ちたと見ている”と見て良いのだろうか? “若い頃大衆の二歩先を歩み、これでは理解されまいと半歩先迄減速して来たのに、それにすら追いつく者が極力少なくなった。何と言う劣化であることか!! 何故、ここ迄馬鹿になったのか? 日本の大衆は”などと考えているのかも知れない。出るは溜め息のみだろう。
 ところで、その現況を生きる若者達の不如意が、今作には感じられる。序盤、ちょっと硬くなったか、間のとり方の悪さが目立ち劇になっていなかったが、中盤以降盛り返した。
 何れにせよ、主張は以下のようなものであろう。
 変身を意志や作意の埒外に置くと、生まれ出る瞬間と死ぬ瞬間だけが真に変化し得るチャンスだと捉えるものの、認識を充分突き詰めずに、生死を統一する視座があるかも知れないと思った瞬間、この論理も崩れた。次に頼ったのは想像力である。然し、個々の主体の命は永遠では無い。想像力を何処まで駆使した所で、宇宙の無限に完全に対応できる訳ではない。我らは死すべき存在だから、永遠や無限に主体として関与し続けることはできないことは自明である。結局は、変身願望へ至った原因の傍らで叫びを繰り返し、それも迂回することと似たりよったりだと気づいてしまう為、赤ん坊に戻る。無論、最初の問いが出てくる原因であった、変身願望へ至る原因から立ち上る不如意は解けていない。
 だが、我々に未来があるとすれば、この不如意をそれ自体として認識する縁を得たことであろう。その先には、不如意を立ち上らせる原因の究明は不可欠だとしても。
お月さまへようこそ

お月さまへようこそ

イークエスト・カンパニー

パフォーミングギャラリー&カフェ『絵空箱』(東京都)

2015/02/23 (月) ~ 2015/02/25 (水)公演終了

満足度★★★★

USA
「月の輝く夜に」でアカデミー脚本賞を受賞したJ・Pシャンリィ初戯曲集のうちから『喜びの孤独な衝動』「どん底」「お月さまへようこそ」「星降る夜に出掛けよう」4作をチョイス、オムニバス形式で上演した。
何れもアメリカのマイノリティーについての物語だが、キリスト教原理主義の影響が非情に強いアメリカ社会で、同時にインテグリティーを求められるマイノリティー個々の姿を通して、プロパガンダを散々利用したアメリカの国家経営や、ゴッドブレスユー的価値観維持の持つグロテスクで滑稽な社会を寂しく笑っているような作品群である。

独りぼっちのブルース・レッドフィールド

独りぼっちのブルース・レッドフィールド

ポップンマッシュルームチキン野郎

シアターサンモール(東京都)

2015/02/22 (日) ~ 2015/03/01 (日)公演終了

満足度★★★★

完成度高し
 ブルースはガンマン。近くで銃声を聞くと25年前に逆戻りしてしまい、以降の記憶が一切なくなる記憶障害を持っている。彼の前職は、ネイティブアメリカン狩りである。が、25年前、弟が町でならず者たちといざこざを起こし、為に一家は襲われてブルース以外の全員が殺された。彼は復讐を誓った。然し、彼は銃声を聞くと25年前に戻ってしまうのだ。一発で仕留めなければならない。(追記後送)
 

ネタバレBOX

 いつもながら、所々に仕掛けられた飛躍の見事さと歴史的事実とその歴史に翻弄された者たちの悲しみ、苦しみをキチンと錘として用いて物語を普遍的な高みに導く辺りは流石である。
 また、回り舞台と箱を用いて出捌けをスムースにし、スピード感を維持、途切れ目のない舞台作りをしている点でも、この劇団のサービス精神が遺憾なく発揮されている。どんでん返しの見事さ、ラストの哲学の深さも、役者陣の出来も上々。
そういう目で見ないで

そういう目で見ないで

パセリス

シアターシャイン(東京都)

2015/02/20 (金) ~ 2015/02/23 (月)公演終了

満足度★★★★

スペシャルステージ
 対バン団体総てと、パセリス各々一作品総てが観れるスペシャルステージを拝見。
 対バンを張るのは、景浦 大輔(落語)、パンチェッタ、スカブラボーの3グループ、対するは無論パセリス。対バングループは、何れも軽妙な擽りの入った作品であったが、今回、パセリスは、人間の心の奥底に秘められた暗く渦巻くものを描いて対照的である。世の中の趨勢がどんどん暗く陰鬱な方向にのめり込む昨今、流石に敏感な感性を具えた浅海氏の作ということになろうか。(追記後送)

わざと食べられる

わざと食べられる

ヒメタヌキモ

新宿眼科画廊(東京都)

2015/02/20 (金) ~ 2015/02/22 (日)公演終了

満足度★★★★

我らに未来はあるか?
ヒメタヌキモとは実在の食虫植物だそうだ。今作は、4本の短編のオムニバスだが、その4本は、総て高尾山に関わっていて内容的にも多くは緩やかな関連を形作る。

ネタバレBOX

 
 拝見したのが最終日だったので、ネタバレも許されよう。一応、四幕構成ということになっているので、当日リーフレットから各タイトルを上げておく。
第一幕「クマ」第二幕「ムーブメント」第三幕「ダイオウイカ」第四幕「わざと食べられる」である。
 背景にある事情は、アラサーか三十路をじき迎える女性達の心理でもあろうが、無論、彼女達が置かれている擬似近代の植民地日本の戯画でもある。当然、女優達個々人によってそれは内在化されてはいるものの、その内在化は世界レベルで見れば、無論、幼稚ではある。
ネトウヨのどうでもよいような喧伝に目くじらを立てたり、恰も価値があるように取り上げてみたりするお茶らけ「メディア」と同時代に生きて、呼吸している多くの日本人の、何にも通過していない軽さを矢張り感じるのである。一例だけ挙げれば、苛めを気にして空気を図り、マジョリティーに擦り寄るなどである。
然し、例えば、2月22日の新聞で報じられたように、辺野古移設に反対している住民を米兵が拉致したことを見ても分かる通り、第一の我々の敵は占領軍である米軍である。実質、治外法権状態で彼らは好き勝手をやり、殆ど処罰されない。処罰される場合でも異常に罪が軽いのだ。これは、植民地政府である現自民・公明連立政権がそのようにはからっているからである。先ずはこういった所に目を向けなければならないはずだ。何故なら、産む性である女性は、子供を産めば、未来に具体的責任を負わざるを得ないからである。無論、父になる男も同様である。再稼働ありきの原発政策の根本的原因は、アメリカの核爆弾製造基地としての機能を期待されているからであろう。そんなことで、我ら自身の命のみならず、未来世代、そして影響を受ける総ての動植物、生き物・微生物、ウィルスの変異迄含めてどう責任を負うのか? 問われているのは、生命の健やかさそのものである。演じてくれた四人の女優達にインスパイアされて自分が、書くことは以上である。

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