ハンダラの観てきた!クチコミ一覧

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Béranger

Béranger

EgofiLter

シアター711(東京都)

2015/05/13 (水) ~ 2015/05/17 (日)公演終了

満足度★★★★★

Béranger
 日本人には馴染みの薄い、ルーマニアの片田舎。1940年。アンチセミティズムを標榜する極右組織、鉄衛団のポーランド人カリスマ、コルネリウ・コドレアヌが1938年に投獄、処刑された為、下火になっていた運動は、38年のカロル2世国王による親政政治を敷いた後にも、鉄衛団残党に大きな影響力を持っていたイオン・アントネスク将軍を中心としたクーデタで政権を奪取。以降鉄衛団の恐怖政治が開始された。

ネタバレBOX

 その政情不安の中、若い頃のウージェーヌ・イヨネスコが如何なる風土で如何なる体験をし、それがその後の彼の作品に如何様に結実していったのかを探るに頗る示唆的な作品である。行動原理として、本質的に情緒原理主義しか持たない日本人にも分かり易く、ルーマニアに於ける魔女の社会性に、複雑な政治情勢をオーバーラップさせて描いているシナリオも評価されるべきであろう。因みに此処に登場する魔女達はロマ族であり、15世紀ワラキア公、ヴラド3世(串刺し公として、また吸血鬼ドラキュラのモデルとされたということで有名)施政下、宮廷公認の魔女の末裔である。因みに
 更に、政情不安で価値観の大幅に下落したルーマニア通貨に変わって、金が重用されていることも興味深い。このことは、攫われたユダヤ人富豪の娘、アンドレアの生死が、父の隠し財産が、金・金貨であるかルーマニア紙幣であるかによって変わる、というリアリティーによって表現されている。ソ連崩壊後の周辺国、ロシアルーブルの下落ぶりは記憶に新しかろう。それとも、殆どの日本人は、1989年が、世界変動のメルクマールであるとの常識すら持ち合わせていないか。安倍のような姑息で頭の悪い支配者が支配者面していられるのは、多数決原理が幅をきかせる現在、とどのつまり、愚衆がマジョリティーを占めているからである。戦争に巻き込まれる責任は、これら愚衆と彼らを先導・扇動した為政者サイド(政治屋、御用企業、御用学者、御用メディア、御用「思想家」、経済マフィアたる銀行・金融業、官僚・殊に2+2日本側メンバーの責任は極めて大きい)の選択にある。
 前段のような状況を考えるのであれば、政治のどす黒さをもっと出しても良かったかとは思う。出し方は、更に難しくなるが、意欲的でラディカルなエゴフィルターなら、将来、このような難しい要求にも応じてくれるかも知れぬ。(願わくば応じられるような政治状況であって欲しいものである。最早、政治的には不可能の声が圧倒的に響くのが気掛かりである)
GK最強リーグ戦2015

GK最強リーグ戦2015

演劇制作体V-NET

TACCS1179(東京都)

2015/05/13 (水) ~ 2015/05/17 (日)公演終了

満足度★★★★

AvsCチームの回を拝見。じゃんけんで勝者が、先攻・後攻を選べる。
 両作品に共通する点で良い所は、それぞれ、主張がハッキリしてブレが無い点だ。流石にガチバトルに参加するだけのことはある。

ネタバレBOX

 今回じゃんけんの勝利者はCチーム。お題は「駅」、先攻を選んだ。作品タイトルは“同じ海を見てた”
 主人公、ゆきは、DVで離婚した母が去った後は、父のDVに耐えている。而も、父を庇うのだ。そして、今でも父に電話を掛け続けている。
 秀人が12年ぶりに戻ってきた。リゾート開発の尖兵としてである。ゆきは、彼を認めない。皆は、ゆきがリゾート開発に反対している為だと考える。だが、彼女は12年前のことを根に持っていたのだ。12年前、彼女の父は、秀人を救う為に命を落とした、彼女はそう信じていた。それで仇として彼を嫌っていたのだ。然し、事実は異なった、あの日、彼女は、彼女を父のDVから解放しようと画策した二人の幼馴染と其処に居た。そして、予測通り、父は彼らの居た場所を探り当て、幼馴染とゆきに暴力を揮う。台風が近づいていた。
ゆきの思い込みでは、父にアタックをかけた秀人と父は海に落ち、波に攫われたが、父は辛うじて秀人を助け、時部は犠牲になった。だが、事実は異なった。父と揉み合う秀人の頭を鈍器で背後から殴り、頭蓋骨が陥没する程の重傷を負わせた彼女も父も秀人も高波に攫われ、父は2人を助けて波に攫われたのだ。
 これが、物語の核心だが、描き方がスピーディーに過ぎ、観客が、物語の描きたいメンタルをじっくり味わう間に乏しい。また、作家の離島に対する愛憎半ばするアンヴィヴァレンツが昇華され切っておらす、作品と作家の距離が狭い点に難が在る。
Aチーム。こちらのタイトルは「"stay”tion~駅~」となっていて、一見、オーソドックスなのだが、タイトルに細工が在る通り、捻りが利いている。始まり方は実にオーソドックスで駅員がアナウンスをしたり、駅のコンセプトを述べたり、通常留まることのない駅に留まり続けている「客」が居る事を告知したりで幕が開く。何れも後の伏線となっている点、作家の資質の高さを感じさせてグー。さて、この「客」、若い女である。記憶を失くしているらしく、自分が誰で何故ここに居るのかも分からない様子。これらのことは、セーラー服の少女との会話などで明らかになってゆく。
 そこへ、30歳になる現在、未だ売れない漫才の芸人カップルが登場する。彼らは、コンビを組んで3年、ブレイクすべく東京で開催される漫才コンテストに出場する為にやってきた。皆の前でその芸を披露するが。イマイチ!! そこへ飛び込んでくる若い男は、何やら暴力の臭いを発散させている。堅気ではないと一見して分かる。かれは、男女のカップルを探す組員。組長の女を奪った兄弟分にオトシマエをつけさせる為に追っているのだった。組長の予想通り、姉さんと兄弟分がやってくる。然し、姉さんと兄弟分とは、本気で愛し合っていた。情にほだされ、親分には、彼らは駅に現れなかったと嘘をついて逃がすことを決意するが、親分もこの駅に来ていた。ヤクザ者同士であるから、オトシマエは命のやりとり。ドスを抜いた親分は、彼らの本気度を測る。結果、親分が折れ、二人を堅気にし、見なかったことにして逃がしてやることになった。
 こんなドサクサに若いカップルが紛れ込んでくる。喧嘩をしている。3年前から同棲しているのだが、彼女は、天井裏から女子のお泊りセットを発見。浮気を疑って喧嘩になっていたのである。決定的な証拠として彼女は説明を求めるが、彼の方は、どうしても説明しない。ただ、自分は潔白だと言い張るのだ。
 彼が説明を拒んだのは、言えば彼女が傷つくと考えたからであった。このお泊りセットは前カノの物だった。3年前ふとしたことがきっかけで喧嘩をした彼女は、怒りにまかせて飛び出し、交通事故に遭って亡くなっていた。彼は、思い出の品を捨てるに捨てられず、屋根裏に隠して仕舞っていたのである。
 ところで、ここで今作最大の見せ場が訪れる。駅に居続ける若い女である。彼女は、皆に語りかけるのに、誰も彼女に気付かない。彼女を認識でfきるのは、セーラー服の少女と駅員だけである。彼女は悟る。自分は死んでいるのだと。そして、思い出す。喧嘩をして飛び出し交通事故で死んだのは自分なのだと。
 最終的にめでたしめでたしで終わるのだが、人の行き交いを出会いと別れの交差点、駅で重層的に描けている点にこの作家の力量を見る。生と死、生きている者同士、ヤクザ、芸人、普通の人々で具体化し、死相即ち虚と生の相即ち実相を、ディメンションを違えて展開するストーリーは秀逸。間の取り方も良い。Cチームの若書きと対照的な大人の作品である。
 
総員死ニ方用意

総員死ニ方用意

タッタタ探検組合

ザ・ポケット(東京都)

2015/05/13 (水) ~ 2015/05/17 (日)公演終了

満足度★★★★★

花五つ星
このタイトルの余りの的確さに惹かれた者も多かろう。特に多少とも軍や軍事、戦争について注意を向けてきた者達にとって、今、この「国」が置かれている状況を、これほど適確且つ大胆に表現することは極めて難しいからである。(ネタバレは更に後ほど追記2015.5.15追記)

ネタバレBOX

 
 国会では本日午後、安保関連法案が閣議決定され、明日15日には、法案が衆議院に提出される。無論、安倍は丁寧に国民のコンセンサスを得るようなことはしない。それは、先ず、海外で肝心なことを外交的に詰め、コンセンサスを得て、事実上憲法判断のできない“最高裁判所”のある植民地「国」内に持ち帰って、実質憲法の上位にある地位協定を根拠に2+2で詰めてきたことを実現するだけだからである。様々な擬態や嘘、秘密協定と情報公開の不備、官僚達の勘違い(彼らの主人は日本国民であるはずが、実際は、大日本帝国憲法が定めた唯一の主権者であった天皇の代わりにアメリカが居座っただけである。)等々、この植民地の実情は、基本的に隠されている。それは、戦前も戦後も変わらない。その辺りのことは、開演前、舞台上の練習特務艦「喜島」の砲塔二門の間に吊り下げられた垂れ幕に書かれた岡倉 天心の以下の文句“我々は我々の歴史の中に我々の未来の秘密が横たわっていることを本能的に知る”で示唆されている。
 今作で谷村艦長以下の人々が乗り込む船喜島は、第一次世界大戦時に就航した船で、排水量9700t、全長134.72m、最大速21.5kt(時速約39.8km)、乗員726名で現在は練習特務艦として用いられている。尚、谷村と沖縄への海上特攻の任に当たる第二艦隊の旗艦大和の艦長有賀 幸作は、同期のライバルで親友、互いに日本一の軍艦の艦長にどちらが先になるか競争した仲の俊英二傑。片や大和の艦長有賀、片や大怪我の為、下船の憂き目を見た後も海と艦への愛着が経ち切れず特に願って練習艦艦長として帰任した谷村の因縁は、ミッドウェー海戦以来負けっぱなし。暗号は解読され、空母、艦載機、巡洋艦、駆逐艦、潜水艦等々の殆どを失った日本は、起死回生の望みを絶望的な特攻作戦に賭けていた、態々、死にに行く親友を助けるべく、山中博士の発明した新兵器、神雷を装備した喜島で大和救援の為、秘密裏に船出した喜島だったが、軍上層部へは秘密の作戦だった為、大和の正確な位置、出発時刻などの暗号解読で、怪しまれた担当者が軍部から拘束を受け、救援の任に就いたのは大和出撃後15時間の後であった。未だ初日が終わったばかりで、本日2日目だから、ここ迄にしておく。見どころは満載。殊に戦争が始まるということで何が失われてゆくのか、という本質をぐっと掴んで取り出し、登場人物達のキャラクター設定に巧みにそれらを配し、観客に自然と本質が伝わるように書かれたシナリオ、悲痛極まりない現実をキチンと喜劇仕立てにしつつ、見事に本質を表出せしめた演出、各々の役者の演技が相俟って必見の舞台である。
 ところで、今作で喜島に乗り込んだのは実際には百五十数名に過ぎない。艦長、副艦長、神雷の発明者、山中博士そして志願看護婦5名を含めての数である。駆動・操船にさえ不安が募る通常の5分の1の人数だ。海上特攻する大和を救うべく出撃した喜島からは、出港前、鼠が大挙して繋船ロープを伝い逃げて行った。船乗りの常識として、この船は沈む、と言うことである。即ち全員、命は無い。而も、下級兵士たちの噂では、艦長に勝算ありとの判断があったのだと言う。(この矛盾をどう処理するかも注目)論より証拠、大和を追い出撃した喜島に敵機が襲いかかった。博士は、すぐ神雷を作動させ、襲来する敵機を見事木端微塵にした。博士は大空襲で妻子を失っている。彼にとってアメリカは、必滅の敵国である。だが、神雷が、活躍すればするほど、戦争は長引き、双方の損失は、益々増える。救援に向かった大和は、残念乍ら、谷村・有馬両俊英の予測通り、大日本帝国軍の援助の及ばなくなった海域に入った大和への敵機からの総攻撃で3332名の乗組員ともども海の藻屑と消えた。谷村は自問する。神雷を使い続けて、戦争を長引かせ、双方の犠牲を更に増やすのか? それとも喜島と共に引くべきかを。
 この難しい決断の結果は、作品を観るべし!! 何度でも観たい舞台である。観れば、引き込まれて損をした気になどなるまい。
パレードを待ちながら

パレードを待ちながら

劇団新和座

シアターシャイン(東京都)

2015/05/08 (金) ~ 2015/05/10 (日)公演終了

満足度★★★

まじめに取り組んでいるが
 シナリオは良いのに、戦争の何たるかが全然分かっていない殆どの女優達と演出で銃後は描けまい。

ネタバレBOX

 戦争とは何かを先ずは内在化することから始めたい。演じた女優の中で、唯一それなりに努力が形になっていたのは、ドイツ系カナダ人を演じたマルタ役、長谷川 奈美。
 戦争とは何かについてのヒントを一つだけ挙げるならば、混乱即ちカオスである。自らの内の、状況の、情報の、そして信じて来た”もの・こと”の崩壊・破戒の、自由意思の、命の。要は、総ての。銃後に居た女達が背負わされたものは、そのような破戒を日常的に想像力の総てに於いて強制されることであった。時に、現実に愛する者の死の知らせと共に。
舞首ー三つ巴の里ー

舞首ー三つ巴の里ー

鬼の居ぬ間に

シアター711(東京都)

2015/05/06 (水) ~ 2015/05/10 (日)公演終了

満足度★★★

力はあるのだから、物語の理屈を良く考えて
 三つ巴というコンセプトのタイトルだったので、この劇団特有の曖昧模糊とした世界を二層、三層と積み重ねることによって、この鵺的社会のおぞましさを暴く作品になるのかと考えていたのだが、今作では寧ろ殺害そのものの凄惨をエスカレートさせることに重点が置かれ過ぎたように思う。

ネタバレBOX

 
 助役が村の掟に拘る姿は、村の掟通り慣習を貫こうとしてこれまで何度も手を汚して来た事を示す科白にくどいほど出てくるのだが、単にそれが、慣習を守るというにしては余りに徹底していることに、描かれていることだけでは納得がいかなかった。他に背景を描くなどして観客を納得させる内容にして欲しかったのも事実である。(例えば村長に惚れているとか、或いは、登場しないが、自分の子供をかつて村の掟の犠牲に供しているなど)
演劇は、基本的に論理である。従って、これでもか、という強い主張が、登場人物其々の背景に感じられなければ、観客は納得できないのではないか? まして、今作は、基本的に人殺しの話である。インパクトの強い内容なのだから、その内容をキチンと立体化してみせる因果律がなければなるまい。村の掟は、口べらしが基本であるが、そうである為の条件は、貧しさであろう。(新月の晩に新生児を持つ親が集まって、子を籠に入れたままかき回し、誰の子か分からぬようにしてから、調理して食べた話等を入れてもよし。そうすれば、村の貧しさが具体的に観客に伝わる)
残酷さの描き方についても、例えば鴎外の山椒大夫では、幼い子供に焼き印が押される。このような酷さを敢えて作中にキチンと入れることも必要であったろう。然し何件もの殺人を犯さざるを得ないようなエピソードは無く、漫然と村の口減らしが行われて来た状況を理解させるだけでは、作品そのものの深さが損なわれよう。
一方、貧しさ故にそのような事が常態化されている中で、権力の中枢に在る者だけは、掟から一定の自由を甘受しているが、この事実に対する権力者対民衆の構造を明確化して対立を際立たせるという作り方をしていないので、中間管理職としての助役が、自分の家族だけは、重労働や掟の為の犠牲となることも避けられるという支配・被支配の関係も心に突き刺さる強さに欠ける。村長の態度も不徹底だ。
更に、村の総ての矛盾が覆い被さるべき人物である、足の悪い姉に集中的にそれが被さる事態を克明に描いていない点にも弱さがある。
屋根裏

屋根裏

燐光群

梅ヶ丘BOX(東京都)

2015/05/02 (土) ~ 2015/05/11 (月)公演終了

満足度★★★★★

屋根裏
と聞いて最初にイメージするのは、パリに出て来た貧乏な
アーティストの卵達が、希望と夢と幾許かの生意気な論理を武器に社会に殴り込みを掛ける姿だろうか。天に最も近い所が。最も貧しく寒い。おまけに極小の空間である。だからこそ、冒険のベースに最も似つかわしい。

ネタバレBOX


 今作は、23の小話を、このベースで連結えうることによって、究極の目標である世界の実相・真の周辺で走馬灯のように真を乱反射しながら揺れ動く憂き世の有り様を描く。
 初演は13年前に遡るが、燐光群のスタジオ、梅ヶ丘Boxで初の本公演作品として書かれた作品で、今回の上演でも固有名詞を多少変えただけで、他にシナリオの変更はしていない。然し、古さを感じさせないどころか新鮮さを感じさせる所に、今作が、現在も世界各地で上演されるだけの普遍性と鮮度の良さを保つ作品固有の魅力があるのだろう。加えて無論、役者の演技レベルの高さ、自分達の小屋だから、好きな演出が大胆にできるという強みもある。
 坂手氏のシナリオの特徴の一つに人工的な作りを感じる向きもあろう。それは、大抵、引用に対する感性から来ているのだろう。今作でも「日本は滅びるね」など「三四郎」からの引用には照れてしまった。
Palm-タナゴコロ-

Palm-タナゴコロ-

うわの空・藤志郎一座

紀伊國屋ホール(東京都)

2015/05/03 (日) ~ 2015/05/05 (火)公演終了

満足度★★★

隠された意味の表出の仕方
 踊り、パーカション、典型的な悲劇の作り方等は、グー。然し、登場人物達の名前の意味する所を、日本人に類推させようとするのは、無理があろう。タイトルのpalmにしても掌という意味とヤシを掛けたWミーニングになっており、殊にヨーロッパ人にとって、それが西欧・米人がオリエンタルを意識する時の根幹を為すイマージュの一つであり、ムスリムに対するインフェリオリティーコンプレックス克服の意味すら持つことだとは、普通の日本人は考えない。無論、シエルにしたって、フランス語の空を表すle cielから来ていることは明らかなのだ。
 掘り下げが足りないと感じるのは、このような点で、日本にもある宇宙人の話としては、「竹取物語」のかぐや姫がある訳だから、この辺りと絡めるなど、この地域の土着的なもの・こととリンクさせ、融合させることが望ましい。
 音楽、光、ダンスなどで、象徴的に表現するのであれば、もっと抽象度を高くして下らないズッコケ等は排除し、本質的なストーリー展開に絞って良い。その辺りの収束力が、弱いのが、今作の弱みではあろう。また、シエル役に殺陣がまともにできないのだから、キャストを代えるか、本質は変わってしまうが、歌舞伎のような型を用いてケレンミを出すか(これは技術的に到底無理だろうが)何れにせよ、本質的な改変を試みねばなるまい。

ダイニングトーク

ダイニングトーク

T1project

小劇場 楽園(東京都)

2015/04/29 (水) ~ 2015/05/06 (水)公演終了

満足度★★★★

Bagueチームを拝見
表層で観るなら、日本の多くの人々の思い描く幸せのイマージュ。その形が 分かる作品だ。

ネタバレBOX

役者にとっては、かなり難易度の高い作品だろう。科白量の多いことばかりではない。一見、何気なく書かれたように見える言葉が、様々な色調を持ち得るので、演ずる者は、自らの内に対応する何物かを見出し、共演者との辻褄を合せながら物語を紡ぎ出して行かなければならないからである。チェーホフ作品が、内面のドラマツルギーを前面に押し出して成功したシナリオの代表的なものだとするならば、今作は、日本の鵺的な要素を、2組の男女関係の危機を通して表した作品ということができよう。
 無論、通常のドラマが今作の中で成立していない、というのではない。但し、それは、絶妙な間を時に外して齟齬を表出したり、論理で追うべき所を、取り違えた解釈で意味を脱臼させてしまうことを含めてである。
 更に詳しい説明は、上演中でもあり、今のところは、書かない。然し、終演後にその点は指摘することを約束しておこう。
生者必滅デジタイズ

生者必滅デジタイズ

空想天象儀

明石スタジオ(東京都)

2015/05/02 (土) ~ 2015/05/05 (火)公演終了

満足度★★★★

ALLISS
 電脳空間に移住することが、可能になった50年後。サイバー空間では、この世界でトップ企業になった会社の経営するゲームエリアが、凄まじい迄の人気を得ていた。然し、このエリアには、ゴーストと呼ばれるバグが、都市伝説の如く広がっていた。(追記後送)

ホームルームは終わらない

ホームルームは終わらない

すくらんぶるえっぐ(活動終了)

ザ・ポケット(東京都)

2015/04/29 (水) ~ 2015/05/04 (月)公演終了

満足度★★★

設定が不自然
 烏森高校夜間部4年は、現在、4-b一クラスのみ。4-aは、人数が減り4-bに吸収合併され、現在、4-bの教室を使っている関係で4-bだけが、生き残った。
 現在の生徒数は、9名。夜間高校だから、年齢も職業、経歴もまちまち。おまけに、教頭は、生徒からかつて苛めを受けた後遺症というかPTSDから、精神的に立ち直ることが出来ない為、教壇に立つことができない。そんな訳で、教壇に立つ必要のない教頭に収まっている。普段は、用務員の山田くんと将棋を指す日常である。(追記後送)

Rabies2021

Rabies2021

メガバックスコレクション

キーノートシアター(東京都)

2015/05/01 (金) ~ 2015/05/06 (水)公演終了

満足度★★★★★

メガバックスの作品
にはぐいぐい引き込まれてしまう。無論、シナリオの上手さ、作品の面白さを引き出す演出の巧みもある。更に、舞台美術も自分達が自力で作ることでチームとしての結束力や息が合って、どんな状況にも、しなやかにそれで強靭な対応が可能なのである。こういう特徴は劇団桟敷童子と共通するような気がする。何れも、好きな劇団、力のある劇団であるのは、評価の高さからも分かろう。(追記後送)

おだまき 〜紡げども紡げども〜

おだまき 〜紡げども紡げども〜

劇団芸優座

調布市文化会館たづくり・くすのきホール(東京都)

2015/04/21 (火) ~ 2015/04/21 (火)公演終了

満足度★★★★

人と人との綾
 タイトルの“おだまき”は“いとくり”即ち中空で周りに糸を巻く器具を意味すると同時に植物のオダマキをもイメージさせるが、諏訪の製糸工場の話である。但し、物語で製糸工場のシステムなんぞ話したって何にも面白くはない。製糸工場で紡がれる人と人との関わりが、恰も繭から紡がれた生糸が様々な織物に仕立てあげれられて行くように、紡がれてゆく点が、劇化されているのである。

ネタバレBOX

描かれるのは、レーヨンが出始めた頃だが、まだまだ絹が日本の輸出を引っ張っていた時代でもある。働いていたのは、所謂“女工”である。「女工哀史」などという本も絶版になっていなければ読めるはずだから、詳細はこちらで当たって欲しいが、大体、貧農の娘が口減らしで出されることが多かった。今作でも、白米が食えるということが、彼女達の驚きや喜びとして語られているのを見ても分かろう。実際、貧農の暮らしでは、主食は稗や粟などの雑穀が多かった。米は自分達が作っても自分達の口には入らなかったのである。当然、多くの娘は字も読めない。書くことが出来ないのは無論である。だから、親元へ手紙を送るにも世話役などに頼んで書いて貰う訳だ。然し、世話役達も代筆だけやっている訳ではなく、一人で多くの女工の面倒を見ている訳だから、代筆している暇は殆ど無いに等しい。それで、先輩で字の書ける面倒見の良い人を頼る訳である。
初は、入社4年にして、指導係を務める優秀な女工で性格も良い。面倒見も良いので、自然、年端も行かぬ後輩達から頼られる。それで、忙しい世話役達に代わって代筆をしてやっていた。そんな初を新米女工達は姉のように慕い、なにくれとなく、本音を漏らす。代筆は基本口述筆記だから、女工達の言うことをそのまま書けば良いようなものだが、そうは行かない。年端もいかない娘達である。親が心配しないはずがない。ちゃんと食べているか? 健康に過ごしているか? 苛められたり困ったりして居ないか等々、心配の種など尽きるハズも無かろう。そんな親元へ親の心配するような内容を送られれば、マズイことになりかねないのは、誰しも分かる。で会社では、手紙の内容をチェックする体制が取られていた。だから、先ず、最初の手紙は、ありきたりの内容を書き、別の手紙には、本音を書いて貰って、郵便がどういう憂き目を見るかをじっくり観察した後、いざとなったら、本音の手紙を出すということにしたのが、春だった。ところで、この所、諏訪でも女工達による労働争議が頻繁に持ちあがっており、この工場でも社長以下番頭や検番は、神経を尖らせていた。そんな時、女工達の親が何人か会社に待遇が悪いと乗り込んで来た。その原因が代筆による手紙の内容だった所から、初が、単に代筆をしてやったのではなく、労働争議の首謀者ではないか、との疑いを掛けられてしまった。番頭は筆跡を比べて初は無実だと判断したが、初が僅か4年で指導係になるという異例の出世をしたことや、美人で、性格も良く、後輩達に好かれていることに嫉妬する手合もいたので、話はこんがらがってゆく。更に、彼女は、社長、和彦の実子で二男の旧制高校、最上級生の秀から、結婚を申し込まれる。然し、彼女には既に心に決めた人が居た。社長の愛人だった女の子である。社長は、愛人から息子を引き取り、連れ子として、現在の妻の所に養子に入ったのだ。それで、正妻の息子は、二男なのである。ところで、初の心に決めた人とは、この社長の連れ子、雅彦であった。二人は既に一緒になることに決めており、この工場を後にして二人だけの再出発を図ろうとしていたのである。
 だが、運命は皮肉だ。死んだと思っていた愛人、雅子は、天竜川で漁師をしていた、この製糸工場の門番の妻になっていたのである。而も、彼女は普段京都の製糸工場で女工達の面倒を見ていた為、諏訪に来ることが無かった。そんな関係で、互いに嘗ての恋の相手が、工場の社長に収まっていることも、愛した女が存命であることも知らなかった。雅子が、工場に来たのは、京都で労働運動をしているリーダーから、娘の働いている諏訪の製糸工場で労働争議を起こす、と聞いて居も立ても居られずその旨知らせに来たのである。ところが、娘は、知らなかったとはいえ種違いの兄を愛し、子まで宿していた。だが、事実を端的に言うことは出来ない。この結婚は認められない、と強行に反対するのみである。そこへ、今では鉄砲玉の竜と呼ばれる労働運動家、竜彦が現れる。無論、争議を起こす為だ。然し、この時、火の手が上がる。これは、初を罪に陥れる為に世話役が、春を吊るしあげた際、春は、例の本音の手紙があることを話し、取り上げられてしまったのを後悔して、世話役の目を盗んで手紙に火をつけた所、火の粉が飛んで火事になったのだ。身重の初は、後輩達を助けに走る。雅彦は初を追って走る。火勢の強まる中、初は後輩達に声を掛けて励まし助けたが、自らは命を落とした。雅彦も初を追って火の中に飛び込んだ為、落命した。和彦は、自らの過去を暴かれ、息子と種違いとはいえ、妹が結ばれてしまった真実を知って自殺する。結局、全部で4人が亡くなった。その顛末をかつての活動家、竜彦が、女工、春の孫娘が訪ねて来たことで話す、という作りになっている。
 労使の追突のみで終わらせず、オイディプスを想起させるような血の因縁話として持っていっている点で、流石に迫力はあるが、炎の広がる原因を、和彦が社長就任の条件として引き受けた15人のコレラ罹患女工殺害致死事件の際の放火に結び付けている点に、矢張り牽強付会を感じる。寧ろ、この点は科白化せずに観客の想像力に委ねても良かったのではあるまいか。その為には、もう少し、近親相姦が観客にショックを与えるように作る必要はあるが。
 基本的には良く出来たシナリオであり、演技力も高いし、舞台美術の質も高ければ場転のスピードも見事だ。観に行って損は無い。
キタイ

キタイ

劇団ガソリーナ

ザムザ阿佐谷(東京都)

2015/04/09 (木) ~ 2015/04/12 (日)公演終了

満足度★★★★

命と放射能
 1957年11月3日、ソ連は、宇宙飛行犬、ライカを載せた地球周回衛星を打ち上げた。今作に登場する犬士達は、ライカの子供達ということになっている。

ネタバレBOX

此処まで書けば、誰もが「南総里美八犬伝」を思い出すだろう。その通り。今作は、様々な借り物によって成り立っている。ゝ大法師が登場するが、その役割も八犬伝と共通である。但し、犬士達の能力は、其々が持っているロボットの能力である。彼らは各々ミッションを持っているのだが、気付いていない者もおり、兄弟で敵対している者もある。ところで、肝心のミッションとは、城を目指し天主を取ることだ。
 兄弟同士争っていた者も、員外とされて居た3名も加わりミッション遂行に邁進するが、難易度はいやが上にも高い。当然、全身全霊でぶつかった結果力尽きることもある。だが、やらねばならぬ。体制に仇為すとされるが故、その切れ味とは裏腹に名刀ではなく妖刀と世間では呼ばれてきた村正をもじった村雨が神剣として扱われているのは、敵対する者が、圧倒的反動と理不尽という怪物である為、権力によって、仇為すものとされた勢力の象徴として村雨と名付けられた宝剣が大きな意味を持つのは当然である。
 察しの良い読者は既に、敵の正体を正確に見抜いたと思うが、まあ、もう少しお付き合い願いたい。
 城はF1人災事故中枢に在る。ここから排出された放射性核種は200種以上。半減期も様々である。ウラン系のものでは、α崩壊を起こす核種の半減期が長い。興味のある人は調べてみるが良い。(たまには自分で調べろよな。ヒントはあげているのだから)さて、本題に戻ろう。誰しも知っているように、そして分かったつもりになっているだけであるように、放射性核種は、一切、五感では捉えられない。五感で捉えることが出来ないから、知的に考えることが出来ない人、生き物には、危険が具体的なイマジネーションを産まない。だから、村雨なのである。村雨は、この危険極まりない放射性核種(物質)を可視化する染料なのである。これをメルトダウンを起こして現在デブリとして堆積しているであろう炉心へ注入するのである。
 作劇方法が言葉遊びを基本としている為、凄まじい破戒や人間のみならず地球上の全生命への危険は、その分減殺されているので、核物理に詳しい人は、己で実態を予測するが良い。一般の観客には、このように柔らかい感覚から入ってゆける方が良かろうし、素直に言わんとすることが通じよう。
 同時にF1事故から4年が経ち、人々の気持ちも事故当初の打ちのめされたようなメンタリティーよりは、対象化できるようになっている方が多かろう。だが、矢張り、忘れてならないことは、放射性核種が与える圧倒的エネルギーが、生命維持に対して如何に甚大な被害を及ぼすかについてである。放射性核種によっては半減期が44億7千万年などというものもある。生命に安全なレベルまでこの値が下がる為には更に10倍の年月を必要とするから、そんな先には、地球は無論、肥大する太陽に呑みこまれて跡かたも無い。だが、そんな遠い未来ではなく、我らの子が、孫が、我ら自身が、重大な危機に晒されていることをキチンと押さえている点を高く評価したい。
悲喜もごもご

悲喜もごもご

サメノテ

新宿眼科画廊(東京都)

2015/04/17 (金) ~ 2015/04/19 (日)公演終了

満足度★★★

日本人の非政治性 これ問題だろ!!
短編3本の上演だ。1本目は「餅」カミナリフラッシュバックスのニシオカ・ト・ニール作。2本目は鵺的の高木 登作「今後ともよろしくお願いいたします」。そして3本目がローカルトークスの西山 聡作「駐車場、そして愛」である。

ネタバレBOX


 各タイトルから類推できるように何れも日常の細々とした事象をコント風の短編に仕立てた作品で、何れも笑いを含んだ作品であることに共通項がある。3篇もあって1篇も政治的に鋭い風刺を利かせた作品が無い所に現代日本の知的退廃が現れていると見ることができよう。それでタイトルも悲喜こもごもでは無い訳だろう。深読みのし過ぎか?
幕末!天命、投げ売りのクマさん

幕末!天命、投げ売りのクマさん

演劇企画ハッピー圏外

TACCS1179(東京都)

2015/04/17 (金) ~ 2015/04/22 (水)公演終了

満足度★★★★

時代 てんやわんや編
 町飛脚の熊八は、最近おかしな夢を見て魘されている。長屋の皆が煩いと起きて騒ぐ程である。然し、その夢とは、正夢であり天命であった。(追記後送)

ネタバレBOX

彼に天命が下されたのである。その夢の一端を明かせば、黒船の現れる前から黒船を見、和船がケシ粒ほどにしか映らないその巨大な様子も彼は予知していたのである。そんな彼の住居の傍には、北辰一刀流の千葉道場があり、道場には、土佐を脱藩した坂本 龍馬が居た。“太平の眠りを覚ます上喜撰たった四はいで夜も寝られず”という狂歌で有名な黒船来航(浦賀着1853.7.8)であるが、実際、江戸末期にこのことがあってから、幕府は言うに及ばず、町人、農民、商人、朝廷は混乱を極めた。おまけに、コレラが大流行するのも、この頃、政治や社会経済の大変動だけでなく世は上を下への大騒動だった。
【ありがとうございました!】朗読劇 西加奈子短編作品【舟の街/炎上する君】

【ありがとうございました!】朗読劇 西加奈子短編作品【舟の街/炎上する君】

ユニットマミカ

black A(東京都)

2015/04/18 (土) ~ 2015/04/19 (日)公演終了

満足度★★★★

言語表現について
素直なユニットである。こういう言い方をするのは、軽蔑では無い。褒め言葉である。

ネタバレBOX

何故ならキチンと世の中を観ようとする人間にとって現在は、知識人が太平洋戦争に向かうに当たり、日本近代の趨勢に対して、一面真っ当な嘘をついていた戦前とは異なり、完全な戯画であるからだ。その戯画性たるや、批評性の一切を欠き、本質ではなく、プロパガンダとしての言説を“根拠”と看做し、直前に指摘したような位相を金科玉条として喧伝しているからだ。安倍、そして自民党の殆どを占める下司共、及び政教分離のできない公明党の権力欲に凝り固まった、これまた殆どの糞共、恥じを知るがいい。
短編二編の朗読劇だが、“船の街”について先ず記そう。言葉の生成している場所が浅いという印象を受けた。イマジネーションで作り込んでいる部分にも詳細なメンタリティーがついてきて初めて作品はリアル感覚で捉えうるものとなるが、それがないことが明らかなのだ。そえrが原因で、役者は、テキストに本質的に出会えない。謂わば、記号としての言語に肉体が対峙する形になってしまうので、ギャップを埋める術がないのだ。最後は、猫街であることが知れるのだが、猫は、このイメージほどふわふわした存在ではないし、厳しい現実を生きつつ、余裕があるように見えるからこそ、素敵な動物なのではないか? 彼らが命懸けで生きている事実は、怪我をした時に決して頼るべき人間を間違えないことによっても知れる。冷徹な目があってこその余裕であることを忘れてはなるまい。そこに、甘ったれた記号など入る隙間はないのだ。言葉と存在の出会いとは、本来命懸けのものである。即ち、言葉にならぬものを表現する為に命を削るのが、言語による表現者という存在なのである。この作家は、言葉は単なる記号には置き換えられないことを知るべきだろう。
 次は“炎上する君”についてである。こちらを後に持ってきたのは正解である。何故なら言語表現は突き詰めれば、相聞と辞世に尽きるだろうからである。今作は相聞に入るが、言う迄も無く、女性は恋愛のプロである。その女性が、恋に最も縁遠いと周囲から思われて来た親友女性2人が、初めて恋をした。そのめくるめく魂の飛躍を現実にはあり得ない踝から下が燃える男というキャラを発明することで表しているのだ。既に指摘したように、言葉にならないものを表現する為にこそ、言語による表現者は命を削るのであり、その現れが、足の燃える男となって結実しているのであるから、物語としての必然性がある。それ故に普遍性にも結び付く。その証拠に、彼の視線は、女性を性の為の玩具や商品として見るものではなく、一人の人間として性差の区別なく真っ直ぐ見る目である、という点に集約されている。その男が、現れる街が高円寺であるという点でも、東京中の街の中で、都市伝説が自然に広がる雰囲気を持った街区の選定として適確なものを感じる。また、女性二人が銭湯大好きというのも、高円寺に関わりがあろう。自分も大好きな銭湯、小杉湯があるのは、高円寺だからだ。
 今作に関しては、役者達の演技も水を得た魚のような良い演技である。
職業「嘘つき」

職業「嘘つき」

Pudding☆Ring

遊空間がざびぃ(東京都)

2015/04/14 (火) ~ 2015/04/19 (日)公演終了

満足度★★★

更に勉強が必要
 表は便利屋、裏は詐欺師集団。社長以下僅か3人の三ッ矢商事。

ネタバレBOX

表で入る仕事と言えば、買い物、犬の散歩など殆ど金にならない仕事ばかりだが、裏では口から出まかせで振り込め詐欺まがいのことをこなして生計を立てている。社員の神田は、さつきの暮らした町にあった近所の駄菓子屋のお兄ちゃん、花村は、AVか何かに出ていた弱みを握られているようだ。社長のさつきは、元警官で、仕事はできるが母に捨てられたことがトラウマとなり、優しく言葉を掛けられると男に貢いでしまうという弱みを持つ。
 この事務所に大学新聞部の部長を務める北村が、働かせてくれ、と頼み込んでくるが、無論、やっている裏稼業が裏稼業なので雇う訳にはゆかない。だが、神田が、社長と間違えられ、その気になったこともあり、北村は強引に事務所にコネをつけようとした。結果、一応、翌日面接ということになったが、彼女は、どうやら、何かを探っている模様。社員の目を盗んで書類等に目を通し、裏稼業を見抜いてしまう。面接結果は当然のことながら不採用。
 一方、事務所にはトンデモナイ依頼が舞い込んでいた。母を殺してくれ、と母娘、村松雪子・翔子が依頼して来たのである。報酬は1千万。ほぼ同時期、癌に罹ったヤクザの組長、安達が、幼馴染を描いた絵を探してくれと頼みに来る。こちらの依頼も報酬は1千万。
 ところで、この事務所には出入りしている人間が何人か居る。さつきの親友で警官の薫、隣のビルの電器屋、サブロー、そして、最近、さつきの元カレ坂本が借金をする為、結婚詐欺として現れた。一応、担保として絵を1枚置いていったのではあるが。更に、殺されたい母そっくりの会社社長、鈴木 花子。彼女は、三ッ矢商事の仕掛けた詐欺の被害者なのだが。
 詐欺については、北村が駅前で、三ッ矢商事の実態を記したチラシを撒いて人々の注意を喚起するという事態が起こり、このチラシをサブローが入手して事務所に持ち込んだ。ここから、今作は面白くなってくる。ホントのことがバレそうになった所でさつきは辻褄合わせの嘘を考え出し、実行に移すのだ。而も、それが、実現してしまうことで、三ッ矢商事の実態はバレずに済み、北村は薫に警察署で事情を聞かれることになり、死にたがっていた村松 雪子とは実家が貧しかった為養子に出され、その後音信の途絶えていた鈴木 花子の妹であり、而も、この二人こそ、安達が探していた幼馴染であることが判明した。更に、坂本が持ち込んだ絵は、安達のおじ、岡本が無名時代に描いた姉妹と安達3人の肖像画であった。
 難を言えば、中盤後半迄は、わざとらしく作り過ぎ。また、北村が、三ッ矢商事の実態をバラしたのは、就職面接で落とされたことへの腹いせということになっているが、落とされる前から、資料を漁っていたので、矛盾が生じている。この辺り、シナリオは、注意を払うべきだろう。
 演技に関しては、スタニスラフスキーの演技論をキチンと学んでおいた方が良かろう。
春の東京アザラシ団祭り

春の東京アザラシ団祭り

東京AZARASHI団

ウエストエンドスタジオ(東京都)

2015/04/16 (木) ~ 2015/04/29 (水)公演終了

満足度★★★★

Floorsを拝見
 二部構成になっているのだが、一部では、謎の犯罪者、マジックピエロを追う警察のドタバタを、二部では、警察に監視されている、ミステリー愛好家のオフ会で起こっていることについてを。

ネタバレBOX



 警察のドタバタは、演出なのかもしれないが、ちょっと作り過ぎて、わざとらしく感じた。パート1とパート2を対比させるのなら、パート1では、ケレン味を強調して、ズッコケ感を出し、パート2での推理の面白さと対比させた方が効果的であったように思う。
愛しきは

愛しきは

劇団 きみのため

テアトルBONBON(東京都)

2015/04/15 (水) ~ 2015/04/19 (日)公演終了

満足度★★★★★

坩堝の時代
 物語は敗戦直前の1945年7月から始まる。

ネタバレBOX

尚、舞台の作りは下手半分が小原家の暮らす空間、上手半分は、その大家で馬鹿一と称される絵描きのアトリエ兼寝室であるが、この絵描き、石や花ばかりを描いている。絵を描く為に必要なスペースはキチンと確保してあるのに、寝る場所は片隅のソファである。要するに、石と花は、何の文句も言わずに画家のモデルになってくれるので、絵を描ければ、それだけで楽しいこの天才肌の絵描きのお気に入りなのである。然し、いくら彼が天才だと言っても、普通の生活者から見れば、石っころばかり何十年も書き続けて、馬鹿じゃねえの? か、良く言って変人どまり。まして太平洋戦中・戦後の日本は、日本近代史の中でも最もアナーキーな時代であったから尚更である。
 無論、この舞台作りには、キチンと考えがある。舞台の設えそのものをこのように脳天気で憂き世離れした天才肌のアーティストと時代の変遷に翻弄され続ける庶民の姿を、恰も一つの額縁に収まった絵画のように対比させられるように作られているからである。
 この対比が、時代のめまぐるしい変転と絡み合って近代日本史中最もアナーキーな時代の坩堝の渾沌と最も純化された魂とそこから生まれてくる生活を対比してもいるのだ。
劇団だるめしあん「あの子の飴玉」 劇団きらら「ぼくの、おばさん」

劇団だるめしあん「あの子の飴玉」 劇団きらら「ぼくの、おばさん」

劇団だるめしあん

王子小劇場(東京都)

2015/04/15 (水) ~ 2015/04/19 (日)公演終了

満足度★★★★★

「あの子の飴玉」を拝見

 フライヤーが、実に良く今作の雰囲気を表している。隋所に笑いを鏤めながらも、観客の過去の個人的体験に、どこかで必ず向き合わせるだけの内実を持った作品。お薦めである。(追記後送)おまけ:2団体の共演であるが、一つの団体を観た半券を持ってゆくと、もう一団体も割引料金で観ることができる。

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