ハンダラの観てきた!クチコミ一覧

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昭和歌謡コメディVol.17〜バック・トゥ・ザ 築地!~

昭和歌謡コメディVol.17〜バック・トゥ・ザ 築地!~

昭和歌謡コメディ事務局

ブディストホール(東京都)

2023/01/12 (木) ~ 2023/01/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 築地四天王!

ネタバレBOX

第一部は「バック・トゥ・ザ築地!」と題されたコメディー、間に15分の休憩を挟み第二部が「歌と笑いの歌謡バラエティーショー」の二部構成。
 ギャグは昭和を地でいったようなタイプのものなので、自分には喜劇の難しさを感じさせた。というのもギリシャ喜劇などでも傑作と言われる作品でさえ、現在の感覚からみると、悲劇の傑作「オイディップス王」には遠く及ばない訳で、その原因が時流の変遷する中にあって軽さを本質とする体のものだからという点にあるだろう。今作で描かれているのは西暦でいえば1970年代末頃から80年代という印象を持った。年号でいうと昭和53年頃からせいぜい63年頃までか。族にレディースも登場した時代だ。その後はチーマーが登場したがまるでタイプが違う。今作で描かれているタイプは、所謂不良のうち、最も良質なタイプ。硬派の不良である。従ってカツアゲや弱い者虐めを嫌い、そういうことをやる奴らを見つけるとぶっ飛ばすような、媚を売らない、自由が好きな為に大人たちの飼い慣らされた安寧や欺瞞・偽善に楯突くタイプの「問題児」であった。だからそのリーダーたちは喧嘩も強いが優しい所のある人情の分かる賢い奴が多かった。つまり理不尽な世間にはケツを捲る頼もしい若者が居たのである。物語に出てくるアメリカで成功し世界的な企業のCEOとなった人物が築地四天王の一人であったという設定はこのような気風があってこその発想だといわねばなるまい。
 喜劇の難しさについては冒頭に述べた通りだが、これを克服するためには喜劇を作る様々な技術の駆使は無論のこと、それらの普遍的視座と技術に作品で描かれた各時代の息吹と上演される時代の息吹が呼応し合う必要があるように思う、極めて困難なこの見極めができれば更に素晴らしい、そして普遍的価値を持つ作品になろう。
 第二部は、芝の劉園(正確な表記は不明)のCMに出ていた、リンリン、ランランのCMをベースにしたギャグも入った歌謡バラエティーショー。当時流行った数々のヒット曲、名曲が披露されたが、本職が歌手の出演者も居て、皆歌がうまい。

ミュージカル『CATsLa』

ミュージカル『CATsLa』

呼華歌劇団KOHANA

すみだパークシアター倉(東京都)

2023/01/13 (金) ~ 2023/01/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 にゃん

ネタバレBOX

 歌劇団と名乗るだけあって女性陣は何れもなかなかの芸達者、歌も上手い。グランドピアノの生演奏も入りピアニストも腕は良いが、男性ピアニストとしては鍵盤を弾く力が弱い。ピアノのメーカーまでは確認しなかったが、あまり上質のピアノとは言えない代物なのかもしれない。(もし間違っていたら、申し訳ないが)音響はピアノのみならず他にも用いられ、ソロの時はともかく、倉は天井タッパも高く音響効果が緻密に計算された設計ではなかろうから、かなり強く弾かないと折角の生演奏が活きない。また男性出演者の中に音程が狂っている者が居たのは残念。ミュージカルと銘打っている以上、これはあるまい。プロデューサーは何をしているのか? 
 ストーリーも余りに単純でイマジネーションを活発に働かせる必要がない。良かった点は、猫の種によってその特徴がキチンと示されている点。無論、かつてエジプトで神或いはその使いとして大切にされたことや、魔女狩りが盛んだった中世ヨーロッパで魔女の手先とされ虐殺された多くの猫(殊に黒猫)の悲惨な歴史や、現在の状況(良心的な飼い主・ブリーダーや、子猫の時だけ可愛いと飼ってその後捨てたりする心ない飼い主のことなど)も織り込みつつ描かれている点は、にゃこに飼われている小生としては評価したい。
メビウスの輪〜縁の交わり〜

メビウスの輪〜縁の交わり〜

多摩美術大学 演劇舞踊デザイン学科

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2022/12/25 (日) ~ 2022/12/26 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 2作品、同時上演。2作品総合で5つ☆

ネタバレBOX

 2022年度多摩美術大学演劇舞踊デザイン学科卒業制作演劇公演である。2作品を上演した。舞台美術はやや観客席に近い天井からメビウスの輪の一部が吊るされた空間。その奥、床上に下手から上手迄延びるフェンス状の仕切り。この仕切りには白っぽい薄い紗のようなものが貼られ開閉が可能である。他に大小様々で高低差があり何種類か形の異なるオブジェと腰掛けが場転、作品各々によってレイアウトされる。衣装を含め全体的に白っぽい色調を用いることによって若者らしい未だ世間の灰汁にそれほど染まってはいない状況を示唆しているかのようだ。
 パート1は『解体されゆくアントニン・レーモンド建築旧体育館の話』 
 登場人物たちの名前がユニークである。息吹、敬虔、奔放、哲学、癇癪、沈黙、平穏、飴玉だ。無論、各々の名がその性質を象徴している。物語は在る大学の学生達の日常を描くが、その中心になるのが皆が集まってダべリングしたり、サークル活動したり、学生らしく自由で夢見がちで、経験が少ないことがちょっと不安で、或は他の人から非難されることが気になってとことん突き進むことを躊躇してしまうモラトリアムを生きていることを殆ど意識せずに何となく気に入っている建物を背景とする。ところが学生たちのこのような感覚を許容する空間を提供する旧体育館が、解体されるという。するとある学生(哲学)の解体を契機とした修士論文が提出された。論文は賞を獲り校内誌のみならず教授たちにも注目されて再考を促す者、解体反対論を主張する者も現れて議論された。然し哲学が大学を卒業した2年後には反対意見も静まり解体されてしまった。思い出に埋もれかけた敗北感と空虚を通して日本の特質たる非本質的属性をやんわり描いた点に青春の稔りなき頼りなさ・甘酸っぱさがキチンと学生らしい視点で描かれて在る。華4つ☆
 パートⅡは、野田秀樹の原作であるが、流石に一流の書き手の原作ということができる。満州での人体実験の話が出て来るが、ツッコミが上手く、大胆である。史実を多少なりとも知っていればいくらでも深読み可能であるし、現在のCovid-19に対する政府・官僚らのいつも通りの民衆無視にも通じるからだ。華5つ☆
獄中蛮歌

獄中蛮歌

生きることから逃げないために、あの日僕らは逃げ出した

四谷OUTBREAK!(東京都)

2022/12/28 (水) ~ 2022/12/29 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

 激情キネマ舞台『生きることから逃げないために、あの日僕らは逃げ出した』という源から派生した集団演じるフライヤーには、囚人服姿の登場人物たちが描かれている。無論上演中、何度か呟かれるように「僕たちは笑う為に、泣きながら生まれて来た」という美しいフレーズに結晶するリリックな部分が無い訳ではないが、脱獄を試みて失敗し続ける姿を描く今作から感じるのは、諦めないことは評価するにせよ、失敗から本質的な教訓を学ばず敗北主義に甘んじ真の対決を避けようとする甘さと決意性一般で総てを曖昧化しようとしている意志である。真の戦いは、論理による勝利を確実にし、当初の計画を実現するものである。その辺りを勘違いしてはいけない。華3つ☆

道産子男闘呼倶楽部 新作先出し読み合わせ『きのう下田のハーバーライトで』

道産子男闘呼倶楽部 新作先出し読み合わせ『きのう下田のハーバーライトで』

モダンスイマーズ

ザ・スズナリ(東京都)

2022/12/28 (水) ~ 2022/12/28 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 今回は新作先出し読み合わせというコンセプトの公演なので朗読の形式を採っているが、通常の演劇公演の形での上演は2023年の10月に同じ下北での上演を予定している。脚本が実に良く練られていて面白いと同時に役者2人の演技も素晴らしい。ナレーションも緩急上手く案配し作品進行中は蔭になり日向になってフォローし、ラストは照明ともタイアップして深い余韻を醸し出してセンスの良さを際立たせている。今回の舞台を拝見して本チャンも是非観てみたいと思わせる内容であった。無論、今回の形式でも2人の役者の掛け合い、緩急の付け方と脚本内容との見事な照応を堪能できる。(追記後送)

あえて、クリスマスに 詩画による戦中戦後という時代

あえて、クリスマスに 詩画による戦中戦後という時代

シアターX(カイ)

シアターX(東京都)

2022/12/25 (日) ~ 2022/12/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 詩画家、森田さんを中心とした朗読と作品背景解説、関連書籍、歴史事実の紹介等、非常に濃い内容の会であった。途中、休憩を挟み3時間超。

ネタバレBOX

 森田さん御自身、小国民世代ということもあり戦中、戦後の体験談も織り交ぜ貴重な証言も随所に在る伺っておくべきお話の数々を体験させて頂いた。
リーディング&シネマ 「川端康成 葬式の名人 」

リーディング&シネマ 「川端康成 葬式の名人 」

株式会社ムーブマン

シダックス・カルチャーホール(東京都)

2022/12/22 (木) ~ 2022/12/22 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 パート2で川端が卒業した現在の茨木高校(川端在学時は旧制中学・大阪にある学校である)も協力した映画をも併映。

ネタバレBOX

 上演は2パートに分かれパート1では川端の短編、日記、エッセイ等の朗読がエレクトーンやチェロの生演奏を伴って行われた。開始早々の伴奏は「アヴェマリア」をアレンジした演奏から始まった。エレクトーンによる演奏だが、上手い。10分の休憩を挟んでパート2は、朗読と大いに関係のある内容を盛り込んだ映画上映。
 私自身の好みとしては、映像化されると朗読で自由に羽搏かせることのできたイマジネーションが狭められ、映画はパート1程酔うことはできなかった。だが、映画のラストで用いられている曲が矢張り「アヴェ・マリア」でこちらは録音の再生だが通常聴くアヴェ・マリア」を用いて全体をサンドイッチにしつつ、変化を付けるという悪戯をも加味している。途中休憩10分を挟み実質18時50分開演の約2時間35分から40分の作品。
マザー4

マザー4

サヨナラワーク

劇場HOPE(東京都)

2022/12/20 (火) ~ 2022/12/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 フライヤーには、5名の女優が写っているが1部Wキャストの為、登場するのは4名である。華4つ☆

ネタバレBOX

 板上は基本的に素舞台。三方奥に黒幕を張り、ホリゾントにはほぼ全体を覆うような薄いグレーのパネル。上辺のコーナーのみ角が切り取られている。50㎝程間を開けて幅30㎝程の真っ白な板が天井部、ホリゾント部分、床をコの字に覆っているが奥より客席側の方が幅広くなっているため、丁度絵画の遠近法のように、中央パネルに観客の視点が集中する仕組みになっている。完全なシンメトリーである。この演劇空間を照明が実に効果的に照らし出すことで演技がくっきり浮き上がるように見えるのは実に効果的だ。
 明転すると登場するのは4人の女性、何れも同い年の24歳、全員同じような指輪をはめている。物語はエレベーターの内側と出た場所、即ち内側と外側で展開する。而もほぼ同じ場面が延々と繰り返される。というのも奇妙なことに新たに乗って来た女性が「何階ですか」と尋ねられ「5階をお願いします」と応えるとこのシーンが延々と続くからである。乗客は5階で降りる女性を含めて4名、服装は夫々異なる。彼女達は、この不可解の原因をあれやこれやと考えるのだが、この思考過程を通して解を見付けてゆくのが今作の中心的な流れであり、物語である。意外にもあるジャンルの話で、それをこのように表現している発想が卓抜。脚本と舞台美術のセンスの良さ、演出の良さ、照明の見事なことが評価できる90分弱の作品。5つ星を付けなかったのは、前説で着席をキセキと発音したことで国語力の余りのお粗末を露呈したから。演劇は総合芸術だ。ジョークでやっている可能性を100%排除する訳では無いがジョークとは思えなかった。
馬鹿(オンガウ)

馬鹿(オンガウ)

立教大学演劇研究会

立教大学 池袋キャンパス・ウィリアムズホール(東京都)

2022/11/04 (金) ~ 2022/11/21 (月)公演終了

映像鑑賞

満足度★★★★★

 いい作品だ。よくぞ、これだけの作品を書き、演出し、演じた。
見事!

ネタバレBOX

 物語は、母が子にせがまれて祖父の話を語るという設定で展開する。物語の舞台はかつて香港の一角に実在し警察もおいそれとは入れないと恐れられた時期もあった九龍寨城がベースとなっていようが、今作では七龍地区という名称で語られる。登場人物達はフィルムノワールで描かれるような黒社会のメンバーを中心に市井の貧しい屋台業従事者や青い目の新任警察署署長(ユンヤン)、スラム化したこの街の風俗・情報屋(フーロン)、娼婦と客との間に生まれたストリートチルドレン等である。スラムの常として麻薬の氾濫と売春、闇取引や黒社会、殺人事件等凶暴犯の横行、人身売買等は当たり前。
 そんな街で育ち、10歳頃に饅頭1つを安心して食う為に人を殺して生きる道を見出した男が居た。黒社会・大熊猫(ダージョンマオ)のボスに拾われ、命じられるままに人を殺し、東地区リーダーを任され、鏖の金鹿(ジンルー)と仇名され恐れられる男だ。そんなジンルーをある時10歳位の青い瞳を持つ女の子(アシマ)がパパと呼んで近寄ってきた。腹を空かせたジンルーが初めて人を殺した時と同じ年頃の女の子が腹を空かせて頼ってきたのだ。ジンルーは偶々持っていた饅頭を「喰いたくなくなった、捨てておけ」とぶっきらぼうに与える。アシマはジンルーの優しさが理解できた。そしてパパと呼んでつけてきた。彼の部屋にそのまま居座った上、このままでは眠れないから「おやすみ私の可愛い子、お前に幸せな明日が訪れますように」と言ってくれとせがむ。ジンルーは毎夜、彼女のこの望みを叶えて9年が経った。
 ところで最近この地区では変死者が多発していた。何れも藥に絡んだ死だったが死体からは甘い香りが漂うのが共通点だった。皆ダージョンマオの売人から買ったと噂されていたが藥の供給元に確認してみても調合は変えていないとの返事、嘘をついているとも思えなかった。ジンルーは昔馴染みのフーロンに情報が無いか当たる。そして次に藥が売買される時刻と場所に関する情報を入手して張った所、マッポが来た。そこでこのような変事が始まった時期から、この機密情報を漏らした仲間内のスパイが居る可能性を詮索すると銃撃の才能が極めて高く2年程前にダージョンマオのメンバーになり、ライバル・ユーシーに可愛がられるチシンに疑いを掛けたが、ユーシーが次の取引に関する日時と場所をチシンには知らせず四六時中監視をつけてそれでもマッポが現場に来るようなら彼女は無実だ、との主張に同意しその機会を待つと、チシンが無実であることが分かった。一方七龍地区警察署の新署長となったユンヤンは、七龍地区を黒社会の支配から解放し健全化することこそ正義だと主張、七龍地区を解体整備する過程で自らの権力と富を増そうと画策する。その方策の1つが藥売買で売人は実際には自分の息の掛かった者を用い、ダージョンマオの名を語って藥による殺害の罪を被せ、正義と解体整備の名の下、七龍地区を破壊することによって総ての証拠隠滅を図っていた。この辺りの悪どさが実に興味深い。まるで日本の政権与党そのもの(無論、中国の政治に対する間接的批判もあろうが)ではないか!
 他にも義と人情を標榜するユーシーが優秀ではありながら、そのメンタリティーの甘さからプラグマティズムを援用し、人間性等一切無視して冷徹に敵と見做した者を虫けらの如く殲滅して歯牙にも掛けないユンヤンのような人間には無効であること、それを何らかの形で阻止し得るのは、このような下種の遣り口を充分に知りながら己が命を張り弱い者の側に立って行動すること、そのような真の優しさだけだということをも明らかにした。今作でジンルーが主役であるのは、その所為だ。最後に近い部分で一家がジンルーの仮借ない借金取りたてによって解体したとして彼を射殺した饅頭屋の弟によって殺されたのも本当の父は自分だと言った青い目のユンヤンにではなくジンルーをパパと呼ぶ事を止めず自分の側についたアシマを護る為だった。ラストシーン、母が子供に語る台詞が「おやすみ私の可愛い子、あなたに幸せな明日が訪れますように」であるのは、この母子が饅頭屋の弟の末裔であることをも暗示していよう。
しまいこんでいた歌

しまいこんでいた歌

劇団かに座

横浜関内ホール(神奈川県)

2022/12/16 (金) ~ 2022/12/18 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 横浜で活躍する地元劇団のようだが、初めて拝見した。今回の上演作品は山田 太一さんの作である。演出は馬場 秀彦さん。華4つ☆

ネタバレBOX

 ホールで明転すると舞台美術が余りに立派なことに仰天した。業界3位か4位のガス器具メーカー研究所所長の家の居間が表現されているのだが、絵画が壁を飾り家具調度の類も品のある落ち着いた雰囲気を醸し出している。上演回数だけからみても歴史のある劇団であることは一目瞭然だが、実際拝見してみて役者陣の演技は自然で落ち着きのある力量を感じさせるものでありつつ、作品内容に含まれる内部告発問題に就職氷河期に所長自らが紹介して入社した女性が絡んでいたこと、実際内部告発が為されれば所長自身の出処進退に関わるであろうことと、これらの事情を鑑み中に入って何とかしようと立ちまわる、この告発当事者である娘の母の行為が周囲を巻き込み、遂には「浮気」問題にまで発展しかけ、所長夫婦と告発者父母夫妻の夜の関係までもが赤裸々となる中、真の告発者は、研究所の若手ホープであり実は彼が彼女に内部告発をさせたこと、そしてそれにはそれなりの正当性があり、現実に現幹部の経営は汚辱に塗れ、こうでもしなければ改善が望めなかったこと等々が明らかになる。然し・・・。という内容でこのラストに様々な歌が入って大団円を迎えるが肝心の腐敗は「明転」することがない。即ち事大主義を告発することなく、明示することで終わる。これが日本の限界だ。との位置も示した作品であった。
ある母の記録

ある母の記録

NonoNote.

コフレリオ 新宿シアター(東京都)

2022/12/14 (水) ~ 2022/12/18 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 旗揚げ公演とのこと、それでこれだけ質の高い作品を創れるとは!

ネタバレBOX

 ちょっと舞台美術もユニークだ。丁度凸の字を手前に引き倒したような平台の高さ位の構造のホリゾント側センターにその背後を遮る大きなパネルが設置され袖を為している。凸の字の底辺から凸部のセンターに浅い掘り炬燵の凹みのような穴がありその中に可成り大きな座卓が据えられている。その両側に座布団が2つずつ敷かれている。この凸型構造物の周囲が板剰余部分だ。この剰余部分側壁側には壁にそってそれぞれ4つずつ、箱馬が置かれ、一旦役を演じた役者が座れるようになっている。
 旗揚げ公演ということだが、役者陣は中々修行を積んできたとみえる。脚本も一般の人々が日常的に経験する夢へのチャレンジと挫折の繰り返しの中での家族個々人の葛藤と居直りを母と長女との関係を中心に、姉妹同士の葛藤のうちにも在る、自己保持の為のプライドとそのような形でしか自己実現し得ない窮屈な発想から抜けられない硬直した思考の様を描くことによって多くの人々の共感を得る作品となっている。このような視座で書ける限り、作品の種は尽きぬであろう。今後にも注目したい劇団である。
明烏-akegarasu-

明烏-akegarasu-

猿博打

中板橋 新生館スタジオ(東京都)

2022/12/14 (水) ~ 2022/12/18 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

 確かに落語を下敷にしてはいるが、こんなに小さな小屋で唯,
がなり立てるような台詞回し、センスも粋も無いギャグ。いくら何でも芸が荒い。ラストだけが見事であった。

時代絵巻AsH 其ノ拾六『赤雪~せきせつ~』

時代絵巻AsH 其ノ拾六『赤雪~せきせつ~』

時代絵巻 AsH

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2022/12/14 (水) ~ 2022/12/18 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 舞台レイアウトがこれまでと若干異なる。下手側壁側には渡り廊下手前に場面に応じ出城や櫓に見立てた二層構造の高楼。二階部分が踊り場になっている。また奥の渡り廊下には丁度能舞台の橋懸かりに三本の高低差のある松があしらってある風情で松が3本見える。但し高低差はなく廊下手前のみに配置されている点が能舞台とは異なる。いつものように廊下全体の中央に襖があり出捌けとして用いられる他、櫓に見立てた構造物が袖を形成しているのでこの袖の裏側も出捌けとして用いられているのは無論であり、上手には、こちらも場面に応じ武田の本拠地、評定所、武者溜まりにもなるエリアが設けられている。こちらは大きな沓脱石が置かれている点も通常の舞台美術とは異なる。いつも用いられる沓脱石の横幅は今回のそれの五分の三程度という感じだ。出捌けは無論、上手側壁側にもある。華5つ☆ ベシミル!

ネタバレBOX


 今回の主人公は武田信玄の後を継いだ勝頼。演ずるは無論、黒崎氏。戦国の世に在って人としての倫理と武士の意気地、武士が武士である為に必ず守らねばならぬと信じられていた領地と家(即ち血統を含む家名)。これらが劣勢時には状況の中で矛盾し合い血で血を洗う戦闘や、その戦闘を有利に戦う為の敵を欺く攪乱戦を含む情報戦、情報と状況分析に基づく戦略・戦術と婚姻関係を常套手段とし、互いに人質を取りあいつつ権謀術策を行使する家康が得意とした政治的手法に信長の仮借なき戦略。そしてこれらに対するは人間が人間として生きようとする倫理。軍事力の強弱が同等であると仮定するとこの条件での勝者が何れになるかは必然である。命も生きる価値も時代と場所に限定されつつ生きている我らヒトが、全うに生きようと欲すれば決して避けては通れぬ宿命を背負い戦国時代を生きた武将勝頼の人間性とその悲劇を観客の魂にキチンと送り届ける灰衣堂さんの脚本は流石である。同時にこの脚本を見事に身体化し、時に見る者を凍らせ、或は脈打たせ、身体を硬直させたり、和ませたりしてくれる役者陣の演技と演出の良さ、そして様々な要素をトータルで人間の悲喜交々、宿命の苛烈等を貴族の目で眺めている近衛役の演技がいやが上にも観客に一抹の相対的視座を齎し
舞台による演者らと観客の魂の交感を実現している公演に感謝する次第である。
『ダークダンス』

『ダークダンス』

尾米タケル之一座

ウッディシアター中目黒(東京都)

2022/12/07 (水) ~ 2022/12/14 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 優れた作品というものは、人々の世界の観方を変える力を持つ。(追記後送)

ネタバレBOX

 ひとまず、勧善懲悪物のジャンルに区分けされようが、‟ものごと“というものはことほど左様に単純では無い。それはヒーローにせよ、怪人にせよ人々にそう見られることを含め、世の中の様々な人々との様々な関係の総体に影響を受けてアイデンティファイしているのであって、人々の評価が如何様なものであれ、何らかの形で目立ったヒーローなりアンチヒーローなりによる行為は、多くの人々の一種の代表としての行為に他ならないとすれば責任を負うべきは、単にヒーロー、アンチヒーロー当事者のみとは言えず、彼らにそのようなレッテルを貼り、レッテルを貼ることによって評価した多くの一般人にもその責任の一旦がある。この当たり前過ぎる事実を、匿名性に隠れて認めたがらない人々の怠惰に今作は杭を打ち込む如き作品である。
人魚姫の庭

人魚姫の庭

マルチリンガル演劇実行委員会

あうるすぽっと(東京都)

2022/12/12 (月) ~ 2022/12/12 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 ファンタジーで現実を抉った傑作、華5つ☆。 デンマークにある人魚姫の像は余りにも有名だが、人魚に纏わる様々な伝説やファンタジーの類は、その幻想性が極めて魅力的でイメジャリ―な点、舞台でどう表現するか? 相当に難しいのではないか? そう案じていたのだが杞憂に終わった。今回は1回切のプレ公演として演じられた舞台だったが、本公演は2023.2月25日(土)13時30~21時15分及び26日(日)10時~18時30分にプレ公演と同じあうるすぽっとで上演される。1日券は前売り3000円、2日券は4000円で当日券は各々500円増しである、予約開始は2023年1月中旬からを予定しているとのことだ。

ネタバレBOX


 脚本は劇作家の醒めた意識が光る。今作に登場する人魚の寿命は300年。大人になると人間の世界を見学に行く許可が下りる。姫たちの生活は穏やかで平和だから退屈でもある。長い寿命が退屈に満たされるのでは堪らない。而も姫たちは寿命を迎えると泡となって消えてしまうのだ。この空しい宿命は、生きていることの輝きを奪わぬばかりである。そんな姫たちの最も楽しい遊びはヒトの魂を集めることである。当初遭難等で死んだ魂を集めて、その光輝く永遠の魂を宝物として保持していたのだが、或る時から積極的に集めるようになった。その方法は観てのお楽しみである。数多い姫たちのうち1番多くこの宝物を持っているのは長女であった。彼女以下末娘を除く他の姉妹たちは皆同じように楽しく宝を集め平和な時を送って寿命が来たら泡となって消える運命を肯んじていたが、末娘だけは人間になりたいという望みを持っていた。彼女は、この望みを叶える為に海の底深く潜り願いを成就できなかった者達が海の魔女と呼ぶ女性に遭い、契約を結ぶ。魔力で人魚姫は人間の姿にはなれるが、言葉を奪われ肉体は鱗を生き乍ら剥がされる痛みに常に晒される過酷な条件であった。然し人魚姫はそれらの苦悩を背負っても尚人間になる望みを捨てずにいた。その原因は先頃人間の世界を見た際、大国の王子を見初めたことにあった。姫は人間に姿を変えその王国に入ることに成功した、然し言葉も碌に喋れない。手話はできるが万人に通用する訳ではない。宮廷で王子に見初められるにはダンスを上手に踊り、王子の相手として誘われる必要もある。相手は大国の王子、競争相手の女性達は何れもこの大国には敵わないまでも何れも別の王国の王女やそれに匹敵する娘たちである。初めの頃こそ珍しがられ少し注目を集めはしたものの人間界に来て1年程度では言葉も完璧には程遠く、ダンスも上手とは言えない。王子との恋は実らぬ方へ誘われていった。大嵐の際、王子の乗った船が遭難し命懸けで王子を救ったのが人魚姫であったにも拘わらず、王子の妻の座は小国の王子の手引きでその姉の才長けた王女のものとなり、願いを成就できなかった人魚姫はその寿命を全うすることなく泡と消えた。センチメンタリズムを排し、プラグマティックでドライな世界を如実に活写し微塵も仮借の無い世界のリアルが担保されている点が素晴らしい。現実に世界で起こっていることの理由が端的に示されその残酷性が如実に物語られているからである。
 板上は木材をたくさん用いて段差のある足場を組み照明と音響効果を最大限に活かして煌びやかな衣装とスタイリッシュなダンスで物語を紡ぐと同時に物語の展開する舞台をその海中の幻想的な雰囲気迄紡いで魅せるレベルに達し実に美しい! まあ、内容が如何にシビアでも、否だからこそ、ダンスの動きは、その華麗で柔軟な衣装や美しい女優、実に美しく幻想的な照明と音響効果とでいやが上にも対比されてひしひしと観客の胸を撃つ。
 殆ど総ての時間をこのような視座で描いた今作もファンタジーであるから、終盤若干、人間になって心血を注いで王子を愛し、生皮を生きたまま剥がれる痛みに耐え、無視や愛されぬ絶望にも、言葉拙く愛の伝え方すら覚束ぬのみならず、社交界の常識である上流社会へ関与する為の必須条件であるダンスも上手く踊れない人魚姫の、遭難した王子を実際に命懸けで救った事実を肝心の王子に意識されることもなく、泡と消えた人魚姫を探索する話が挿入され、本当に関わりの深かった人間の関与も描かれはする。然しそれは更なる世界の残虐性を描く為であるように思われる。その残虐性とは、最後まで人魚姫に関わろうとした幸せな者が存在する時、必ず不幸せな者がその代わりに幸せ者の足下に踏みつけられ呻吟しているという事実である、即ち自分が幸せならば、必ずそれは他者の不幸せを代替物として持つという残虐性なのだ。
Xmas fool

Xmas fool

ROUND TREE プロデュース

千本桜ホール(東京都)

2022/12/07 (水) ~ 2022/12/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 かなりキッチリ作り込まれた舞台美術は中々洒落ている。

ネタバレBOX

殊に小さな鉢植えや植生がバーカウンター奥壁に設えられた棚やカフェ店内のコーナー、バーカンの隅に置かれていたり、下手・上手側壁には洒落たランプが灯されているなどである。また下手側壁客席側は舞台上に少し迫り出す様に作られて居るか目隠しとして用いられるシーンも在る。バーカン手前には作り付けの椅子、板中央奥は出捌けにも用いられるが梁上部を透かし彫りにし真ん中にはXmasリースが飾られているのもお洒落、他の出捌けは上手側壁。店内随所にラウンドテーブルと椅子。
 基本が嘘から始まっているので、それを糊塗してゆく他に無いため嘘の構造が露わ故パターンが予め分かり切ったものになってしまう点で自分には退屈だったが、マスターの離婚した女房を演じた女優さんの演技が素晴らしい。また、ラストの纏め方も秀逸であった。
超科学戦闘機スーパーホーク1号の着陸(再演)

超科学戦闘機スーパーホーク1号の着陸(再演)

劇団鋼鉄村松

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2022/12/08 (木) ~ 2022/12/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 ボス村松さんの演技がグー。(華4つ☆追記後送)

ネタバレBOX

 今作の脚本はバブルムラマツ氏、演出は新宿ムラマティ。実は誰だか当てて欲しい。
 また今回の舞台美術では赤が多用されているのだが自分は好みの色なので可成り気に入った。作品自体は少年の頃、男の子の誰もが憧れた強くて正しい子供達の味方、スーパーヒーローと悪の権化・人類の敵の戦いを描くが、そのような悪と戦い地球を守る者は子供達のヒーローである。無論、強い正義の味方はエリート中のエリートでもある。そんな道を歩んでいた御陵(みささぎ)は、誕生日に彼女にフラレ、ファミレスの副店長になった。
全部、知っている。

全部、知っている。

SPIRAL CHARIOTS

アトリエファンファーレ高円寺(東京都)

2022/12/07 (水) ~ 2022/12/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 物語は地方の旅館で進む。外は吹雪で外出は極めて危険、車も照明が届くのは精々2m迄で実質運転は不可能である。舞台美術は極めてお洒落な和風旅館、正面奥下手は畳が敷かれ畳の奥には円形の明り取りの障子がありその円周に添わせるように壁の上下から竹が壁に貼り付けられている。(華4つ☆、追記後送)

幕末サンライズ

幕末サンライズ

URAZARU

ザムザ阿佐谷(東京都)

2022/12/07 (水) ~ 2022/12/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 ラチェットレンチチームを拝見。多くの落語をベースに史実をも織り込みつつ、幕末を描いてみせた。落語ベースなので殺陣で用いる刀も総て扇子という演出もグー。

ネタバレBOX

 ペリー来航からの約十数年間、所謂幕末を吉田松陰を中心とした松下村塾塾生、松陰が師と仰いだ落語家・燕枝やその弟子達、町民たちの関わりを通して松陰の人間としての開放性、謙虚、忌憚の無さ、ヒトとしての真摯な姿勢、即ち真に優れた知性の最上の部分を持ち、剰え単に知を敷衍するのみならず実践し得た丹力をも示した。自分は今迄松陰が「幽囚録」で唱えた拡張主義、力によりその目標を実現しようとする思想に対して嫌悪感を抱いてきたが、そして未だにその事実に対する嫌悪感は変わっていないが、彼の心象が今作に描かれたようなものであったなら、己の論理の中で松陰を再評価できるか否かを問う為に今迄嫌って調べてこなかった多くの事象についてもキチンと自分で調べてみたい。少なくとも今作、そのように思わせるだけの内容を持った。今迄私自身に持ち得なかった視座を提供してくれたことに感謝すると同時に燕枝の持つ人間性に関してよく表現しまた今作では体力の衰えを微塵も感じさせずに走り回り、若い世代と互角に張り合えるだけの肉体一元論の正しさを立証してみせたた山口太郎さんに諸手で拍手を送る。同時に壮年の松陰を演じた役者酒井孝宏さんにも同等の拍手を送りたい。
キンモクセイの頃

キンモクセイの頃

アダチコレクション

ユーロライブ(東京都)

2022/12/07 (水) ~ 2022/12/08 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 ‟あかとんぼ”という名のスナックで起こる客とマスターとのあれこれを70分のムービーと30分の舞台で見せるという趣向の作品。

ネタバレBOX

前説をやった女性が今作のシナリオ担当者に懇願して叶った企画ということであったが、企画自体の実現成果はまずまず。斬新感は感じない。この小屋の構造そのものがムービー向けということもあるだろうし、台詞には可成り擽りもあって楽しめる作品ではあったものの生舞台の感動よりは、お茶の間TV番組的な発想と作りという感が強かった。意外性も若干盛り込まれているが、それは観てのお楽しみだ。

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