ハンダラの観てきた!クチコミ一覧

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白夜

白夜

劇団演奏舞台

演奏舞台アトリエ/九段下GEKIBA(東京都)

2023/04/14 (金) ~ 2023/04/16 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 今作は劇団創立50周年記念公演の第二弾であり、寺山没後40年公演でもある。寺山20代後半の作品だが、彼の後”虚人”と評されることもあった独特の歪みやその底の無い虚を何とか人間の持つ能力で描こうと苦闘する様も見えてグー。

ネタバレBOX

 今作は1962年に文学座アトリエで初演。戯曲は寺山修司が書いた。従って寺山27歳頃の作ということになる。演出は、演奏・美術も手掛ける浅井星太郎さん。舞台設定は北の地にある旅館の一室。正面中ほどにドア、その下手壁にはエゴン・シーレ風の絵画が飾られ上手壁には海の見える窓。旅館から海を渡ると人気のある島へ行くことができる。やって来たのは1人の若い男。既に5年、100か所以上の旅館を回って旅を続けている。目的は女性を探すことだ。然し目的を達するどころか、手掛かりさえ未だ見付けることができずにいた。
 男がお上に案内されて入室し勧められるままにテーブルに着くと、テーブルには埃が溜まっている。余り使われていないのか? その理由は何なのかと疑問を持つもののお上は明確には答えずメイドを直ぐ呼び掃除をさせますと言いおいて部屋を出てしまった。入って来たメイドは、脚が悪い。おまけに客を揶揄うような所のある一風変わった女。客は、探している女の名を告げ、その特徴もお上にもメイドにも告げて宿帳にその名が無かったか、そのような特徴の女が来なかったかを訊ねたが手掛かりは掴めなかった。メイドも出て行った後、女たちの手が空かないからと男からの電話に応じ部屋へ用向きを尋ねに来たのは宿の主人であった。
 ところで、男が電話を掛けたのは、メイドが掃除の合間に客の遺失物があることを教え、それらを取り出して見せた物の中に探している女の持ち物が入っていたからである。この手掛かりをもとに件の女を見付けることができるのではないかと考えた訳だ。主人と男は、あれやこれやの話をするが、男の語る話に深い事情を察した主人は、酒を持って来て肝胆を照らしつつ相手をする。宿の主人とお上、男と探している女の事情の位相差に今作の深刻なテーマが在る。その内実については観てのお楽しみだが、オープニングでお上が男を部屋に案内してきた時のファーストインプレッションは、カミユの「誤解」(原題Le Malentendu)をイメージした。旅館の主人とお上の関係は、般若心経の唱える所に近かろうが、男と探されている女の関係は、絶え間なく生成流転し変容してゆく宇宙の余りの巨きさの前で成す術もなく凍り付いている、我ら人間の誤魔化しようのない無意味だと言ったら言い過ぎだろうか?
星レト短編集 『plumaje』

星レト短編集 『plumaje』

縁劇ユニット 流星レトリック

サンモールスタジオ(東京都)

2023/04/14 (金) ~ 2023/04/23 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 舞チームを拝見。場転・換気休憩5分を挟み100分で4本を演じる。各作品趣もテーマも異なるが中々良い脚本である。華4つ☆追記後送

播磨谷ムーンショット

播磨谷ムーンショット

ホチキス

あうるすぽっと(東京都)

2023/04/07 (金) ~ 2023/04/16 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 おおよその流れや今作の結末を予想する為のヒントはネタバレで書いたが、結論まで明かしてしまっては観る楽しみが失われよう。実際に観た場合、イマジネーションで結末迄の大筋は正確に予測でしるし楽しめる。
 気になったのは、時間を短縮する為とコミカルな味を出す為ではあろうが、飲み物を飲む時の仕草や乾杯のシーンでキチンと間をおかず、ぞんざいな演技に見えるシーンがあることだ。華4つ☆

ネタバレBOX

 物語冒頭は、ホリゾント2階部分に設けられた踊り場を小部屋に見立て、母が幼い子に御伽噺を聴かせるシーンから始める。内容はこうだ。太陽と月は昼も夜も交代で地球を照らし悪を監視している。彼らのお陰で悪者たちは普段地下に潜み悪さをすることは基本的にできない。太陽は一所懸命に働いていて問題は無いが、体の弱い月は身が細り遂には休む日も出てくる。そうなると悪者たちの出番だ。闇夜を利用して地上に表れ盛んに悪事を行う。
 これに対抗する為、人間は悪を狩る殺し屋集団・ナンバーを創設した。組織は孤児たちの中から才能のある者を選び徹底的に鍛錬、殺し屋のノウハウを教え込んだ。そして月の無い夜多くの悪人を狩ってきたのである。組織の名はナンバー。構成員は個々独自のナンバーを持ちナンバーで呼ばれる。
 ところで、物語は御伽噺から、実際ミッションを帯びたナンバーのメンバーの仕事に移って展開してゆく。この辺りの繋ぎ方が上手い。
 主人公は、453。現ナンバー中、組織ナンバー1の実力を持つ。453に憧れる後輩803はナイフの使い方、戦略・戦術の立て方等が453に劣るものの、453が承けた新たなミッションは、敵陣に千日潜り込む中で実行され、任務遂行中は持ち場を離れることが許されない為、この約3年の間に453に代わる組織ナンバー1に成ることを目指す。
 453の潜入先は、地方のドライブイン・播磨谷。そば、ラーメン、油揚げで地域起こしに成功しこれらのメニューの味が余りに素晴らしいことから今では遠方からの客も多い。そして453のミッションとはこの播磨谷のボスを始末すること、そして先に既に送り込まれ現在音信不通になっている2人のナンバーの捜索、可能であれば奪還であったが。
ナイゲン(にーらぼ版)

ナイゲン(にーらぼ版)

24/7lavo

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2023/04/06 (木) ~ 2023/04/11 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 エネルギッシュな舞台。

ネタバレBOX

 理想を喪って既に長い時間を経過した現代日本に在って、鴻陵高校では文化祭・鴻陵祭に参加する各団体の発表内容を審議する内容限定会議(ナイゲン)が開かれる。ナイゲンの精神とは“自主自立”に基づき文化祭に関しては生徒自らが責任を持ち相互の自由活発な議論によって皆が納得する合意を創出すること、目指すことである。
 会議劇コメディーの傑作・「ナイゲン」。今バージョンは、役者全員が、恰も高校生に戻ったような熱い演技が際立った。上演回数も多い作品だから細かい内容については述べないが、クールを装いその実、何ら内容を持たない多くの現代日本人の現状を見るにつけ、魯迅や竹内好が懸念していた賢者、愚者、奴隷の諸関係についての寓話「賢人と馬鹿と奴隷」1925が思い起こされる。そして「賢人と馬鹿と奴隷」という寓話が何を意味しているのかを考え、その思考をベースに今作を考える時、今作の描く問題の真の深さもまた見えてくるように思う。 
紙は人に染まらない

紙は人に染まらない

藤一色

OFF OFFシアター(東京都)

2023/04/06 (木) ~ 2023/04/09 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 べし観る、華5つ☆
 板上は必要最小限の舞台美術。劇場自前の板上に大きな平台を設えこの平台の上に畳を二畳分載せた方形の平台を二段重ねて部屋に見立ててある。観客席から見やすいように板中央奥に斜めにこの部屋部分はセットされており、卓袱台が真ん中に置かれている。下手側壁前には茶箱。部屋の上手には大きな平台の上に屏風を立て袖を拵え唯一の出捌けとして用いる。尚余ったスペースに背凭れの無い椅子が数脚。場転に応じて必要な個所に置かれるべく置かれている。他に玄関等を示すコの字の開口部に脚を付けた造作(これも必要に応じて位置を移動して使用)

ネタバレBOX


 小国民世代を作り出し遂には太平洋戦争開戦から敗戦に至った帝国臣民の生き様を淡々と描く脚本は、客観性を観客に感じさせて素晴らしい。役者陣の演技は皆上手いが、さりげない演出も見事だ。同時に“三界に家なし”と蔑まれてきた女性とのジェンダーギャップが、主人公の母の立ち居振る舞いや一歩も二歩も引いた息子達への対応から見て取れる演技も素晴らしい。
 淡々と描かれている分、観客は大日本帝国時代の日本に対する正確な知識と日本社会に対する率直な視座も要求される作品である。例えば直接話に出てこないこの一家の父も戦死したと観て良かろう。太平洋戦争以前にもずっと日本は戦争をしていたのだから。他にも甲種合格で入隊して以降の態度も良く兵士としての評価も高い夫の妻が「夫の居ない今が最も幸せな女も居る」と事情を明かすシーン等もキチンとシナリオ化しDVの問題迄提起している点も高く評価したい。何故なら大日本帝国憲法で唯一の主権者であった天皇が、主権者としてではなく現人神として敬意を表される場面他、随所で疑似家族構造を以て専制主義国家体制を維持すると同時に現人神を父とし神の子として男子を、殊に長男男子を主として家父長制を構築、女子を下にみて一元管理しようとする構造が随所に描かれているからである。無論、以上のことを実際に機能させる為に特高が目を光らせており、人々は密告される恐怖や、実際に警察、特高等に見つかり嫌疑を掛けられることも恐れていた。「蟹工船」を書いた小林多喜二がどのように惨い殺され方をしたか。知らぬ者は居まい。(現在なら無数に居ようが)
Blue Bird

Blue Bird

TKmeets

ステージカフェ下北沢亭(東京都)

2023/03/29 (水) ~ 2023/04/02 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

 タイトルは往年の名車の名から。華3つ☆

ネタバレBOX

 突っ込み所満載の今作だが、出演陣は4名総て女性である。男性から見て好みは色々あろうし、女優さんから見て男の評価もそれは同様。出演の皆さん若く可愛らしい。然し、女優という肩書を背負う以上そんなことでは済まない。小劇場演劇と雖も“女優”という立場に立つ以上、若く可愛い女性は掃いて捨てる程いるというのが現実である。こんなことを言えるのも、生の舞台を生まれてから3500本以上は拝見してきたからである。その体験の中で本当に評価している女優は、五指に満たない。と言うのすら言い過ぎである。実際には、これだけ拝見してきた舞台で4名だけである。今日拝見した4名の女優は先の4名には含まれない。
 幾つか理由を上げておく。先ずオープニング早々、リボルバーの説明シーンで弾倉に弾を込めるシーンがあるのだが、このシーンは本編と直接的な関連は薄い。であればこそ、説明に徹した弾込めが要求されるはずである。にも関わらず、女優の稽古が足りないことが明らかなギコチナサが目立ち、ただ白けた。
脚本にも矛盾がある。青森へ向かう途中で拾った女の子・19歳がヤクザの娘であり、父は今作冒頭で流れたニュースの犯人で敵対組織の人物を撃ったことが報じられていた。その後の展開で自首したことも分かるのだが、自首したヤクザが犯行に用いた銃をどうしたかは警察で最重要項目の1つとして追及されることが分からない訳がない。コインロッカーならいざ知らず娘も一緒に暮らす自宅の布団に隠す等という馬鹿げた真似も決してしない。にも拘らず、娘の話では父が布団に隠していたことになっている。脚本として甘すぎよう。
「リトルGK~THE LAST~」

「リトルGK~THE LAST~」

演劇制作体V-NET

演劇制作体V-NETアトリエ【柴崎道場】(東京都)

2023/03/25 (土) ~ 2023/03/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 演劇制作体V-NETのアトリエ公演だが、ここ柴崎では最後の公演となる。リトルGK~THE LAST~と銘打たれた今公演、テーマは“会議室”だ。長めの前説と30分程の作品2本(「黒須会議」、「因と縁とがあるものそ」)を間に10分の休憩を挟んで上演した。尚観客は2本の作品を観て優劣を投票で評価する。2作品共に5つ☆

ネタバレBOX

「黒須会議」
世界征服を企む怪人たちの組織、黒須VS人々を護る組織、ジャスティスの闘いはずっと続いてきたが、3月の戦闘で怪人組織・黒須の総帥が破れ、命を落とした為組織は新たな総帥を選ぶべく会議を開いている。物語は、この会議室で展開する。新総帥候補は2名。どちらもその候補たるに充分な実力を具えた人物であるが、問題が1つある。互いにそれぞれの派閥の長であり且つ犬猿の仲であることだ。どちらが新たな総帥になっても黒須自体が分裂し力が半減することになれば怪人組織そのものが存亡の危機を迎えかねない。対するジャスティスのメンバーは極めて手強い。亡き総帥の幼馴染でもあったNo.2は新総帥になる気が無い。然し彼は、秘策を用意していた。第3の新総帥候補である。会議は進行するにつれて混迷の度を増し建設的であるというより泥仕合となりかけた刹那、No.2は第3の候補を招き入れた。観た所、若造で体も小さく大きな戦闘力を具えているようには見えない。直ぐに査問が始まった。
結果は観て頂くとして、二転、三転、四転と思いがけない展開が続き、結末のどんでん返しも見事な展開、笑わせる工夫も随所に仕込み随所に知恵を散りばめた脚本が良いこと。2作品共通で用いられる舞台美術の構造は良く考えられており、その使い方が上手いので実に良く機能していること、役者陣の演技、演出の良さ、照明・音響の上手さも相俟って流石にラビ番とも繋がりの深いV-NET作品に仕上がった。
「因と縁とがあるものそ」
 こちらは別の意味で知恵を感じる作品であった。物語は新作の制作現場である。脚本家、プロデューサー、ディレクターが侃々諤々の討議をしているが、互いの罵り合いになってしまって一向に話が煮詰まらない。毎度のことなのであるが、どういう訳か、この3名が組んだ作品は必ずヒットする。今回は、アシスタントディレクターが不思議な人物を連れてきた。極めて優秀は催眠術師である。他の番組にレギュラー出演している人物であったが、会議中の3名は、この女性催眠術師の実力を信じることができなかった。そこでアシスタントディレクターは、彼女に頼んで各々に術を掛けてもらう。忽ち彼女の実力が本物であることが判明し、3名がこれほど相容れない原因として前世に原因があるのではないかということが考えられた、果たしてそれが正しいか否か、彼女の催眠術を用いて3名各々の前世を探ってみると。予測通り前世の確執が現世の不仲に影響を与えていた。然るに前世に於いてこのような因縁が現れるということは前々世に於いても悪縁があったと考えられる。そこで更に前世を遡ってみると予想通りであった。詰まりこのままでは永遠にその前に遡らねばならないことになる。完全なトートロジーの罠に嵌ってしまう訳だ。
 一般に論理の展開というものは、そのオーダーを決めて仕舞えば、その後の展開は先鋭化する他に無い。これがトートロジーの罠に嵌った原因である。ここから抜け出る為には発想を転換する知恵が必要となるのだ。その転換を今作の脚本家は見事にやってのけた。その鮮やかな手並みに応え、役者陣の演技も良く演出もグー。こちらも流石V-NET作品と感心し、自分の評価はドロー。イーブンとした。
手のひらに、春

手のひらに、春

ツイノ棲ミ家

新宿眼科画廊(東京都)

2023/03/24 (金) ~ 2023/03/28 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 繊細で上質、観るべし!

ネタバレBOX

 鰻の寝床のような空間であるが、ホリゾント手前に白い幕を天井から床まで垂らして袖を作り、開演時は画廊という設定なので板上はフラット、両側壁には絵の描かれたパネルが3点づつ掛けられている。場面に応じて袖の幕の手前に立方体を並べてカウンターを拵え、コンビニのレジとして用いたりもするが、袖を構成する幕自体が、開演時画廊としての設定では個展の出展者が一番描きたいと望んでいた作品を据える場所として選ばれた場所という設定になっており、今作の中心的なテーマと関わる非常に重要な場所である。今作が優れている点の中でも出色だと思われるのは、最後迄此処には実際の作品が展示されず、観客のイマージュの中にその姿が想像される点にある。極めてセンシブルな作品なので内容の詳細は差し控えるが、表現する者の抱える絶対的な孤独と社会参加を何とかし続けることで自らを確認し生きてゆく人々との微妙で精緻なずれや内面的齟齬を、連れ子を持つ親同士の再婚という形で二卵性双子姉妹という具合に見られ乍ら育った姉妹の物語として編んだ秀作である。因みに出捌けは観客席裏と袖を利用。演技、演出、スタッフの対応も良い。
少女の魂は謳う

少女の魂は謳う

シアターX(カイ)

シアターX(東京都)

2023/03/20 (月) ~ 2023/03/21 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 長い人生を生き抜いてきた4人の女性の人生を歌とドキュメンタリー仕立ての表現で構成し、観客に活力をくれる舞台。本日まで。べし観る!

ネタバレBOX

 シアターXルナ・パーティーの第12回公演は丈夫ならぬ「ますら女」4人による歌とドラマの実験的作品。伴奏は無論、生ピアノ。奏者は志村 百子さん。歌うは今回脚本・構成も担当した渡邊 嘉子さん他総勢4名だが、以下順次紹介してゆこう。渡邊さんは毎年銀座某所でたくさんのお仲間とシャンソンコンサートを催し、季刊誌・OPINION♀を編集なさっているキャリアウーマンだ。因みに今回歌ってくださる女性は、総ての方がキャリアウーマンとして男性優位社会のガラスの天井を砕き女性の社会進出や権利拡大に貢献してきた方々ばかりである。無論、お子さん、お孫さんもいらっしゃる。日本でもつい最近実現した育休や、遡ると零歳児保育等への先鞭をつけたパイオニアでもあるから、サブタイトルに“ますら女”と入っている訳だ。
 歌い手紹介は、脚本・構成も担当なさった渡邊さんから始めたので逆あいうえお順で紹介してゆく。
宮崎 絢子さんは、アナウンサーを続けてこられた。ラジオ・TVどちらも放送している放送局から民放に移りずっとこの仕事をなさってきたが、現在はボイストレーナーなどもこなしていらっしゃるようだ。
 次に黒田 恵子さん、宝塚出身だ。男役希望であったが、身長が届かなかった為、脚本家が少年役を作ってくれたこともあったが遂に宝塚を退団。その後は歌や演技で活躍、若手育成も続けている。一度、癌で活動を休止せざるを得ない時期もあったが、復帰後現在に至るまで活躍なさっている。
 最後に紹介するのは、父はドイツ系ロシア人、母はウクライナ人のエカテリーナさん。現在はボニージャックスと共演することが多いというが、来日28年。ソ連崩壊後の1990年代に息子さんと一緒に日本に来て暮らしてきた、子供の頃から歌などで舞台に立っていた方だから歌の上手さは勿論、ちょっとした仕草も茶目っ気も、とてもチャーミングな方である。
 舞台は、紹介した4名の女性の人生それぞれを描くと共に、歌を挟む形で進められたので、シャンソンの本質をキチンと捉えた上で地に足のついた自然で深いものになった。4名の歌い手それぞれの歌の上手さは無論のこと、生き抜いてきた人生の侘び寂も表現されているばかりではない、当に今を力いっぱい生きている姿を見せて活力を観客に与える舞台であった。
丹青の水屋の富

丹青の水屋の富

深川とっくり座

江東区深川江戸資料館小劇場(東京都)

2023/03/17 (金) ~ 2023/03/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 落語の「芝浜」を下敷きにしたのかと思ったが、「水屋の富」という噺があるそうで、そちらが下敷きになっているようだ。

ネタバレBOX

 江戸下町の長屋での暮らしは、至って暮らしやすいものであった。長屋の住人といえば、金の無いのは当たり前、自分も2~3歳当時(1953~4年)深川の長屋で暮らしていたのだが、皆住人は貧しくて亭主は朝仕事に出掛ける、女房は内職するか、仕事がある時は仕事に出るから結構昼の間は長屋のお兄ちゃん、お姉ちゃんが我々幼児の面倒を見てくれた。だから長屋全体が本当に大きな家族のような感じで、どの子が、どの部屋に上がり込んで遊んでいても問題は無かった。それどころか時には鍋釜まで貸し借りするほど貧乏だったから、マッチ(大箱)などもどの時点でどの部屋にあるのか、働きに出たお母さんが戻ってきた時、分からないことが多い。そうすると子供が、困っているそのお母さんに「今日は誰々ちゃんちにあるよ」などと教える。そんな生活であった。長屋の作りは、一部屋四畳半の部屋を繋いだ何棟かを通路を挟んで平行に建て通路の端に井戸があってそこで煮炊きの下準備をしたり、盥と洗濯板を使って洗濯をしたりできるようになっていたから、お母さんたちはそこで皆日々顔を合わせていた。(井戸端会議などという言葉もこんな所から生じたのではないかと思っている)四畳半の部屋は通路側が障子、鍵等無論無い。従って鍵代わりになるのは心張棒のみである。まあ、泥棒が仮に入っても盗むべき物なぞ何も無いというのが通例であった。
 こんな思い出を書いたのは、下町の人々の人情というものが、実は今に始まったものでは
なく江戸時代には既にあったという資料を読んだことがあるからである。江戸幕府は、人別帳を結構しっかり機能させていたから何時、何処に、誰が居るかもそれなりにキチンと把握していた。今作でも新たな住人となった“おてる”の請負人の話題が出てくるが(そしてそれを同心が確認している)公式には大家が承認していると住人が証言する形で同心からの信任を承けている。貧しい暮らしから生じる苦労や苦悩を人と人との繋がりを創ることで乗り越えてきた人々は他人の苦しみを自分ごととして捉える力を持つから、人別帳から訳あって除外されているような階層の人々をも包み込むような優しさを持つのである。承知の通り、太閤検地以来、各農家の収穫量は為政者である武士に筒抜けである。また人別帳がキチンと制度化されていたから為政者はこの2つを組み合わせることによって誰にどれだけの年貢を課すか計算できる。日本では長らく人口の大多数を占める農民の長男男子が親の遺産を相続するというのが歴史的に続いてきた相続の形式であった。身分制も士農工商で基本的に自らの意思に従って職業選択ができた訳でもない。従って人口の大部分を占めていた長男以外の次男、三男等は幕府の政策次第で下働きに甘んじるか何とか雑役に就くか或いは渡世人になるか等の他生きる術を失っていた(女性の立場は更に厳しかったのは言うまでもない)のである。長屋は、このような階層の人々が暮らす空間であった。
 以上のような情況が今作の拠って立つ社会形態である。このような社会で“おてる”は、序盤から一人だけ垢抜けている。つまりトウシロウではないことが一目で分かる。それが分かった上で観客は、何でもかんでも犯罪と結び付けて考えがちな同心即ちお上を或る意味おちょくってみせる長屋の住人を目撃するのである。と同時に長屋住人のお人好しの側面を見せて笑わせもするのだ。その見せ方が場毎に上手に纏めてあり、それぞれの場をこれも自然に観えるように構成している。流石に長い間地元で公演を続ける劇団の力を感じる。最後の落ちも深い。
果てのない 物語のない 旅にでる

果てのない 物語のない 旅にでる

精華高校演劇部・芸術総合高校演劇部合同東京公演実行委員会

シアター風姿花伝(東京都)

2023/03/11 (土) ~ 2023/03/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

「ファウスト-大阪、ミナミの高校生5-」2023.3.12 17時 風姿花伝
 素舞台、上手に階段を設え登場しない生徒たちが座って待機する。タイトルに入っている5という数字は、ミナミの高校生がシリーズ化されており、今作が5作目であることを表していよう。
ところで今作を拝見し既発表作品も脚本を読みたくなった。何より最も本質的な問題に真正面から挑んでいるからである。この勇気を高く評価したい。

ネタバレBOX


 ミナミと関西人が聞けば、その雰囲気は誰でも知っているが少し説明しておこう。自分は最初に入った大学が京都にあったせいで夏休みにミナミでアルバイトをした経験があり、いきなり度肝を抜かれた。キタが東京でいえば銀座辺りの高級イメージだとすれば、ミナミはその真反対、現在の情況は知らないが当時は真昼間からタチンボが道頓堀にもうようよ居た。その姿に驚いたのである。ガキの頃から渋谷、新宿等を中心に遊んでいたからタチンボの存在は当然知っていたが、真昼間から公然と仕事をしていることに驚かされたのである。
 で、この話である。恋バナだ。どんな学校でも若い男女の恋は頗る大切な問題であり、誰しもが経験することでもあるが、実際問題の最たるものは、妊娠ということであろう。自分たちの時代にもスケバングループやグループに入っていなくとも我々、不良と付き合いのあった女生徒からは時々その深刻な話題は伝わってきていたこともあり全くヒトゴトでは済ますことのできない作品として拝見した。恋をして最終的に最も大きなリスクを負う女性が、経済的自立の覚束ない年齢で妊娠をしてしまうという状況で、人間として、女性として、母となる身として、恋する乙女でありながら余りにも若すぎる己の未来へ向けてはリスクしか無いと判断する大人に対し、母の心配も理解しつつウザイと蹴って彼の下へ走りたい純な念は、現代学歴社会に於いては現実社会的には下層へ落ちるしかない中卒乃至高校中退というレッテルに甘んじ乍ら生きてゆくか、悲観して自殺するか或いは心ならずも堕胎するか、最悪大きな悩みを抱えながら隠れて出産し自ら我が子を殺害するか迄を含めて悩まねばならぬ問題を同じ女子高生の助けで最善の方向に持ってゆく内容も実に温かく人間的で心を打った。ゲーテの「ファウスト」が外延として絡んでいる点もグー。
果てのない 物語のない 旅にでる

果てのない 物語のない 旅にでる

精華高校演劇部・芸術総合高校演劇部合同東京公演実行委員会

シアター風姿花伝(東京都)

2023/03/11 (土) ~ 2023/03/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「Twinkle Night」 2023.3.12 17時 風姿花伝 埼玉県立芸術総合高校演劇部
 某侯爵邸が舞台の作品である。板上は下手奥に侯爵令嬢の肖像画を懸けたイーゼル。上手奥に絨毯を敷いた応接セット。ソファの豪華さでその富を偲ばせる。

ネタバレBOX

時は錬金術師が未だ残っていた時代のイースターの時期。肖像画に描かれた女性は宝石を収集していることで著名であった。ところで侯爵令嬢は張り紙を街に張らせた。「求む、錬金術師」とあった。屋敷を訪れる数多の自称・錬金術師。然し大半は既に亡くなった侯爵の遺産を高価な宝石に換えて所有しているという令嬢の富を狙った詐欺師、盗人などであったが、本物の錬金術師も交じっていた。
 全く同じセットの中に登場人物が入れ替わり立ち代わり現れる。新たに現れた二人組は未婚のまま生涯を終え寂れて居た侯爵邸を購入し謎だった隠し場所から令嬢の集めた宝石を見つけたらしかった。彼らもまた張り紙を出した。「求む、超能力者」張り紙にはそう記されていた。成功報酬は、豪華な旧侯爵邸であった。令嬢が張り紙を出した約200年後の矢張りイースターの頃であった。無論、今回も集まった連中の殆どは碌な者ではなく、単なる手品師だの人語を話し二足歩行できる兎等であったが本当に特殊な超能力を持った者もいた。
 さて美しく富に恵まれた侯爵令嬢は、何故か独身を通して世を去った。原因は彼女が恋した同じ貴族が、ある日訪れていた侯爵邸から突然消えてしまったことにあった。理由はこの屋敷の建っているエリアはかつて錬金術師が用いた特殊な力を秘めた石が多く採掘された場所であり、そこに別の何らかの石か宝石が持ち込まれたことで相互作用を起こし一時的に時空に歪みを生み、その歪みに呑まれ彼はタイムスリップしたということが分かった。
 即ち不可思議な力を持つ石と照応した宝石が、今再び出会い互いの力が衰えて居なければ再び時空の歪みを生みタイムスリップができる可能性は零ではない。寂れていた屋敷を購入した紳士は、この可能性に賭け成功した。200年の時を遡り、彼は彼女の下に還り夫婦となった。肖像画は睦まじい二人を描いた物に替わっている。


レプリカ

レプリカ

ハツビロコウ

シアター711(東京都)

2023/03/14 (火) ~ 2023/03/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 この内容は当然5つ☆
尺は休憩なしの2時間15分を超える程度。然し一瞬たりとも気の抜けない舞台だ。観る者は、普段自分が拠って立っている存在感の基盤を揺すられ極めて濃厚な時間を過ごすことができよう。良く考えられた照明、音響、舞台美術効果も体験すべし。いつも通り、スタッフの対応も素晴らしい。

ネタバレBOX


 物語の内容そのものは、知らずに観た方がインパクトがあって良かろうし、原作は鐘下辰男さんと発表されているから興味のある方は原作も読んで比較してみると良いかも知れない。役者陣の誰しもが優れた演技を見せ、上演台本、演出、演技と三面六臂の活躍を見せる松本光生さんの底力をも見せる力作である。
 舞台美術はちょっと変わった作りになっている。板上に下手から上手迄両側に狭い通路スぺースをとった平台を置き、平台のやや奥に物語が進行する山奥の部屋が再現されているからである。板上は、窓やカーテンを夏でも締め切るという物語内容の設定もあり上演中殆どの場面で落とした照明である。室内のメイン照明は天井から下がる電灯だが、上演中はランプや大型懐中電灯を用いる場面も結構長く、いやがうえにも緊張感を高めて効果的な演出だ。出捌けは下手側壁及び上手側壁、劇場入口に設えられ、下手は玄関を通して外に繋がり上手は奥の部屋に繋がる構造を示す。更に始終仄暗い空間の正面、ホリゾントの中央には壁掛けの鏡が掛かっており、四転、五転する緊迫した物語の中で出演者の隠れた表情まで映し出される効果が抜群だ。下手奥のコーナーには冷蔵庫その上手にはポットやコーヒーを飲む為のマグカップやシュガー、スプーン等の載った収納家具、その更に上手にも収納家具やイーゼルに掛けた楽譜等が並び、上手側壁には壁に沿うように奥から小型の机、間にスツールの入った化粧台が置かれ、上手客席側コーナーには扇風機、下手客席側コーナーには電話台に置かれた受話器がある。また、部屋の真ん中辺りにダイニングテーブルとイス。尚平台客席側残余の板空間は家屋の外のシーンで用いられる。この辺りの工夫も決して広いとは言えない劇場空間を利用している今回の公演で演出の知恵であろう。
The Reed

The Reed

犬猫会

川崎市アートセンター アルテリオ小劇場(神奈川県)

2023/03/03 (金) ~ 2023/03/08 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 板手前やや上手に葦を模した細工物。似たような物が板上に適度距離をおいて置かれている。物語はこれら葦の生命力に依拠する集団と葦の生命力の源であるその地下茎が吸いあげる命の水、そして不思議な存在・ソ。ソを射る者たちとその長、葦の管理等をする長、そして葦の世界とソの世界を結ぶ世界を差配する長らとのコラボレーションによって成り立っている。

ネタバレBOX


 ところで、このソという「存在」少し厄介である。恐らく今作の劇作家は量子論に興味があるに違いない。一般に膾炙されている量子論では量子は観察者によって初めてその存在を明らかにしうるものの観察された瞬間に何処かへ行ってしまう。つまり観察者の観察するという行為そのものの影響を受けて質量が余りに小さい量子は変化を受けるのである。また、量子の振る舞いは古典的な物理学では理解できない。この辺りの物理学が理解できていないと観客はこの時点で本質的に物語の埒外に置かれてしまう。その懸念から、今作は神話展開を図ったのだろうが、その展開の仕方が量子としてのソとそれを射ることによって地上に生命を齎し実りや生産物を齎すことと直接繋がりようがないことが作家に分かっておらず、葦が吸い上げる命の水の齎す生命サイクル神話であるかのように組み立ててしまった点に今作の弱点が存する。論理的に明快な繋がりが無いからである。
 役者陣は可成り頑張っているし、懸命にこのギャップを何とか埋めようと頑張っているのだが、その溝は埋まり切る訳がない。
 作家は、量子物理をもう少し勉強して、この弱点を克服すると同時に、生きることの意味を明らかにする為にももう一度我々ヒトは何処から来て何処へ行くのか? ヒトとは何か? を問い直し更に先へ進んで貰いたい。
Dramatic Jam 5

Dramatic Jam 5

feblaboプロデュース

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2023/03/10 (金) ~ 2023/03/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 珍しくコントのような作品がかなり多い。全9作の内、短編の劇作は2本。コントと捉えた作品が5本、曖昧なのが1本。何れにせよ全体の作品を拝見した印象は、舞台から客席へのメッセージが送られているということであった。(追記3.12)

ネタバレBOX

 脚本は、ラストの短編・「殺し屋」を除き、総てfebLaboの作品ではないが、基本的には素舞台の板上に必要な小道具総てを準備し極めて短時間で場転を為してゆく。手際の良さは当然のこととしても、各作品の上演順をも含めて見事なものである。
 ところで、電車に乗ればどんな時間帯でも殆ど総ての人が四六時中スマホ画面に顔を埋め、自分好みにカスタマイズされた情報群によって「アイデンティファイ」してでもいるかのように見える。然しホントだろうか? 自ら進んでお1人様情報のみを選択したということになっているのではないか? 街中を歩いていても同様である。歩きスマホ、チャリスマホ、運転スマホを見掛けることは年中である。チャリスマホの自転車に後ろからぶつかられた経験をお持ちの方々もおられよう。こういった危険以外に案外気付かれないのが、先に挙げた自分で選んでいるように思わされているが、実はあからさまな現代資本主義によって選ばされているということに気付かない危険である。これはぶつかられることより自分にとっては恐ろしい。何れの作品の発するメッセージも我々の生きる現代日本に於ける普通の人々の、地に足を下ろし根を張って衣食住総て。即ち生きることの本質が己と社会、世界観の内的一致を同時に満たすことでアイデンティティーを確立し、ポジションを得ているような生き方とは正反対の、殆ど当事者性を喪失し、恰も生きながら幽霊と化したような非当事者性、即ち己が位置喪失及び自主性と自由喪失の危険性を描いているように感じられたのである。無論、その方法は歌舞伎術とでも名付ける他ない演劇独自の形を通して為されている。
鉄音、轟然。

鉄音、轟然。

スタジオ「HIKARI」(神奈川県)

2023/03/10 (金) ~ 2023/03/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 三里塚闘争の投げ掛けた普遍的問題を見事に浮き上がらせた。現在に続くこの欺瞞国家の姿を目撃すべし。華5つ☆(追記後送)

ネタバレBOX

 鉄塔に対する攻撃音の度に天井から下がった電球が点滅する。而も点滅する電球の場所は一様ではない、今作の冒頭シーンである。この轟音と複数の電球が、攻撃される轟音の度に別の場所で繰り返される点滅が所謂三里塚闘争の経緯と、理は農民・空港建設反対側にあるにも拘らず相手が国家という責任無化システムであるという事実の齎す結果を象徴している。
 千葉県に建設された成田空港は1966年7月4日に佐藤栄作内閣によって閣議決定され、地元農民への通知も相談も無しに強行された。つい先日強行された鉄塔撤去も一旦は国家のミスを認めているにも拘らず、身勝手な立法と圧倒的不均衡の暴力によって強行されたものである。少し背景を述べておこう。成田に空港用地を閣議決定する直前には冨里が候補最適地とされ三里塚から10㎞程離れたこの地が新空港建設の対象地であったが反対運動によって頓挫していた。三里塚が選ばれた理由は幾つかある。政府は米軍によって極めて広大な空域を占拠されている航空管制、気象条件などの条件面で富里と差異がなく、「天皇」の牧場・下総御料牧場並びに県有地を最大限に利用できたこと、この為民有地買収を少なくできることなどに着目した。
無償の愛

無償の愛

Orgel Theatre

東中野バニラスタジオ(Vanilla Studio)(東京都)

2023/03/03 (金) ~ 2023/03/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 極めて詩的な作品。

ネタバレBOX

 奥中央に衝立を立て袖として用いる。下手壁に沿うように長方形の台、載せてあるのは奥から白っぽいトートバッグ、赤いトートバッグ、ペンギンのぬいぐるみ、ノート。台の前に紙コップと水の入った容器を載せた机、衝立の手前客席側にベンチとテーブル、上手には斜めに設えられたベッドがある。因みにベッドのあるエリアは、狭い小屋なので部屋の仕切り迄は作れないものの病室を表している。後で説明するようにこの病室である事件が起こるのを遮蔽物なしに見ることができるので却って効果的ですらある。(他にもイツキの娘の部屋になったりするシーンもある。)
 物語は病院の従業員休憩室で出会った2人の女性を中心に展開する。1人はイケメンだと直ぐついて行き、遊ばれては捨てられるという経験をしてきた掃除婦・イツキ、もうすぐ10歳になる娘・サラが居るが産み落とした時以来会わせて貰えない。サラは現在イツキの母が育てている。
 もう1人はミヅキ、現在は看護助手だが、看護師になる為の勉強をしており、この道を取るか偶然イツキの娘と同名の恋人サラを取るかで紛糾、結局同棲していたLの連れ合いと別れてしまった。
 この2人各々の最も大切な人それぞれに対する愛が中心となって展開するが、イツキは自称・バカで読み書きも苦手だが丁度山下清が精神薄弱児とされながら実に本質的に物事を観ていたような鋭さを持つ。彼女は今、数日後の娘の誕生日に最高のパーティー、最高の贈り物をする為に現金が欲しいのだが生憎経済的にはかなり厳しい。そんな折、病室の年老いた患者から頼み事をされた。老婆は、既に筆記する力も無いから娘への伝言をノートに書きとって欲しいというのであった。老婆はその言葉を言い終えると息を引き取ってしまった。ベッドの脇に老婆のバッグがあった。何気なくそれをみると中には現金が入っていた。イツキはそれを盗む。
 暫く経ってイツキは娘の誕生日に実家を訪ね娘にプレゼントを渡したものの娘は余り喜ばなかった、既に似た物を持っていたからである。だが、娘はペンギンの話をした。何でもペンギンは自分の連れ合いが死ぬと生涯その亡骸を保持し死骸と性行為迄するというのである。
 さて、娘の誕生日が終わった後休憩所で再び会ったイツキとミヅキだったが、互いにいつもと違う。ミヅキは何があったかを尋ねるが、イツキは互いの秘密を共有することを提案した。ここに至ってイツキが老婆から124万円入りのバッグを盗んだこと、然し娘の誕生日にはその金に手を付けなかったこと、遺言を書いてくれと頼まれたことを話す。ミヅキは自分がレズでパン職人で恋人のサラと別れたこと、経緯を話した。その上で老婆が言い残そうとしたことをイツキが娘に対して述べたいことに置き換えて創作しようと2人で文面を作成してゆくのだが、この文面が当に詩として昇華されたものになっている、殊にその前半は完全に詩である。
 ところで、詩に迄昇華したこの文章は、ラスト イツキが破り捨てる。
 その意味する所は明らかである。様々な困難や思うようには回らない人生に怖気をふるい落ち込んで人生から降りて仕舞わず、それらを総て引き受けて生きてゆく態度表明である。
 ところでパン職人のサラが随所に登場するが、イツキの反応がグー。パン屋の匂いの心地良さを子供同様に喜んだり、知恵遅れとされる子供たちのように五感を用いて興味を持った対象に積極的にアプローチしてゆく仕草が、我々頭でっかちになりすぎた凡庸な人間に多くの可能性の扉を拓いてくれるからである。
マギーの博物館

マギーの博物館

劇団俳小

サンモールスタジオ(東京都)

2023/03/03 (金) ~ 2023/03/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 物語と作品内容は観て頂くとして、欧米の演劇作品は何と言っても論理的な展開をみせるな、と改めて感じた次第だ。(追記後送)

ネタバレBOX

作品の主張は労働争議を中心テーマとして弱者即ち被雇用者としての労働者と資本家即ち雇用者としての支配者との相関関係を描く。要約すれば、力VS人間として生きる誇りの争闘である。どちらを選ぶか、そのギリギリの状況を提示することで、今作は観客に究極の選択を問う。
カミサマの恋

カミサマの恋

ことのはbox

萬劇場(東京都)

2023/03/01 (水) ~ 2023/03/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 再演である。箱チームを拝見。常日頃から丹念に紡がれた言の葉を、見事に台詞化した脚本を上演することのはboxの面目躍如たる傑作。
 タイゼツ、べし観る! 脚本の良さは無論のこと、演出、演技も素晴らしい。長尺だが、一切それを感じさせない、華5つ☆(追記後送)

ネタバレBOX

 このような作品の深い味わいが分かるような次元に漸く自分も達した。
 物語は津軽の某巫(かんなぎ)つまりシャーマンの神との会所で展開する。舞台美術はシンメトリックなつくりで四角い餅を二段重ねたような造り。この構造を更に囲うように板全体が設えられている。上段の畳敷の部屋が会所。会所の両側面と手前が渡り廊下というのが基本構造だ。会所の下手奥に水屋が置かれ、茶を出す為のポットや湯呑などが置かれている。その上手に祈祷所、祈祷に用いる太鼓と撥、巫用の座布団が在る。また、水屋の手前、客席側には白いカバーの来客用座布団が重ねられ、上手客席側のコーナーにはソファ、テーブル、椅子の応接セット。劇場両側壁に障子が入っており、その丁度真ん中辺りに出捌けを設けてある。ホリゾントへ伸びる通路の奥も出捌けだから、出捌けは都合四か所。
コウセイ

コウセイ

ラビット番長

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2023/02/23 (木) ~ 2023/02/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 実話がもとになっているという。如何にも人を人として扱わないこの国の状況をよく映し出している。
  オープニング、自分ならもっと残虐な台詞を置く。とは思ったものの、そこは「ラビ番」の戯曲家・井保さんの温かいお人柄のよく出た冒頭である。当初予想していた通りタイトルに当てはまる表記は幾通りも在る。(追記2.26)

ネタバレBOX

 もとになった事件は、今作を観て初めて知ったが岡田更生館事件と呼ばれる。今作で描かれているように収容者の1人(詩人)が脱走に成功(1949年2月)し、施設内の凄惨な実情を訴えた事がきっかけであった。凄いのは詩人の訴えを受け本当に毎日新聞社会部の記者2名が潜入取材を行ったことである。
 衆知の如く戦後の混乱期に於ける一般都市庶民の飢えは、食うや食わずの戦中よりも酷かった。というのも戦中は曲がりなりにも食料分配自体が配給制で庶民に行き渡っていたが、敗戦後のどさくさの中では弱者には行き渡らない。ハイパーインフレの影響で不法な闇市や買い出し で食料を調達しなければ飢えて死ぬのみであった。実際、法を順守して餓死した裁判官が実在した、という噂話は自分たちが小学生時代には何度も聞かされ“愚かな奴”と考えて居たことを思い出す。大人になって、本当にそんな裁判官が居たのであれば、その頃は未だこの「国」にも正義の観念は生きており実践した大人が居たのだと考えるに至ったが。
 By the way,サンフランシスコ講和条約がオペラハウスで結ばれたと同じ日、アメリカは旧安保条約調印式を、オペラハウスではなく米第6軍の下士官クラブで、吉田茂との間に上げた。この2つの条約の内、旧安保条約に現在の地位協定と実質は殆ど変わらない日米行政協定が含まれていたわけだ。アメリカは2つの条約発効(1952.4.28)によってポツダム宣言でもサンフランシスコ講和条約でも禁じられていた占領軍撤退を免れ、その真の目的を果たした。即ち日本はこの協定によって実質アメリカの植民地と化したのである。(詳細を知りたい方は、地位協定や行政協定について書かれた書物、資料を自分で渉るべし。上記の文章に若干矛盾があるように感じる方々は秘密協定もあるからと答えておく、調べてみなされ。)
 さて基の話・岡田更生館事件に戻ろう。当時は未だ、復員兵や引揚者、被災者、戦災孤児が溢れ浮浪者化していた。GHQはこの有様を問題視、解決するよう命令した。これを受け日本政府は浮浪者強制収容施設を全国62ケ所に設置、岡田更生館はそのうちの1つであった。
  実際、施設内で行われていた虐待、虐殺、死体遺棄、施設費等の横領は、今作に描かれた通りの凄まじいものであったようだ。また、今作で描かれている通り施設長の巧妙な施設実態隠蔽工作及び巧みな偽善的言辞によって、記者たちの命懸けの潜入取材によって実態が暴かれる迄は模範施設との評判を得ていたことも事実である。
 これらの隠蔽構造や詭弁は、現在の愚劣極まる政治とそれを許容している、臣民としか思えない事大主義者・日本人の大多数に呼応するが、この事大主義を支えているものこそそれを殆ど意識できていない日本人の差別意識の慣習化としての財産贈与の基本形・男子・長子相続を浮かび上がらせているのであろう。法的実態は美濃部達吉らが主張した天皇機関説に近かったかもしれないが、この形は大日本帝国憲法で天皇を唯一の主権者と規定し国民を臣民として差別化・人間として扱うというより単なる戦場の駒として扱う本質的非人間化をも意味している。そして非人間化されたヒトは最早人間では無くなっているから、奴隷としてアメリカに今も収奪され続けていることに痛痒を感じることも無い。それどころか、この事実を指摘されると悪あがきをするのである、滑稽なことだ。ということまで深読みしてしまった。
 一方、今作が如何にもラビ番の作品であるのは、棋士・増山の天衣無縫と温かさ(当然、某著名棋士を想像させる)とその妻・葉子{(将棋以外は何もできない夫をそれでも、見捨てず掌で遊ばせているような素敵な女性。而もそれができるのは、彼女が田畑を遺産として受け継いでいるからである)この相続の形が男子・長男でないことに着目したい}そして隣家の娘・帰って来るお兄ちゃんとの対局の為駒を動かす里子との関係、脱走した詩人が実は里子の兄を殺害していたという悲劇に、にーさんと(棋譜)が絡む諧謔。新聞記者4名の関係、配役の面白さ等々だ。
 コウセイにどのような漢字を当てるかは簡単だから幾通りも考えて欲しい。


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