満足度★★★★
ルサンチカは河井朗さんが主宰し、演出する舞台芸術を制作するカンパニー。
劇団の主宰が作・演出をともに手掛けることが多い中で、「演出」に注力したアーティストによるカンパニーは貴重であると感じます。「過去」の戯曲を上演する形式とその広がりをテーマに据えるとともに、今、そこにいる観客、現代を生きる観客に向かって「過去の言葉を、戯曲をどう扱うか」を問うこと。そういった試みは、観客に新たな気づきをもたらすことにも、忘れてはならない何らかの風化を止めることにも繋がるのではないでしょうか。
私はルサンチカというカンパニーのその姿勢、演劇を通じて社会を見つめる眼差しの深さに強く感銘を受けています。また、CoRich舞台芸術まつり!2024春の一次選考通過の賞金をそのまま観客へと還元する取り組みも素晴らしく、一人の観客としてこの場を借りて感謝を申し上げたいと思います。
そんなルサンチカの新作は、1992年に太田省吾によって初演された『更地』の野外劇。本作を野外劇として上演した前例はあったのだろうか。そう考え、調べたところ特に見つからず、まず驚きました。野外で観ることで戯曲の言葉が広く羽ばたいていくようでもあり、同時に内に向かって濃く浸透していくようでもあり、その光景を非常に意義深く感じたからです。また、上演場所は戸山公園 陸軍戸山学校軍楽隊 野外演奏場跡とあり、まさに文字通り「跡地」。「言葉」と「場」の関係にこだわった公演を体験し、会場選びから演出が始まっているということを改めて感じました。
上演に向けたステートメントにこんな言葉がありました。
【本作は、映画『ゴジラ』の中で、ゴジラが踏み荒らした東京の「更地」から着想を得たと言われています。震災やテロ、戦争など、いつか起こってしまうだろうと思ってはいるものの、それが今日だと誰も考えていないものが、現実には起こり続けています】
是非全文読んでいただきたいのですが、これら言葉を上演前に掲げることもまた社会運動の一つであると私は受け取りました。
満足度★★★★
雨の中での観劇。ときどき人が通りがかり、鳩が横切るなかで、とある夫婦がかつて自宅があった更地にやってきて……。柱だけが立つその場所は、更地というよりも廃墟というきらいもあるけれど、「かつてここに生活があったのだ」という感覚が夫婦の会話とともに立体的になっていきます。
満足度★★★
『更地』は太田省吾作品の中でも人気が高く、これまでも複数の演出家が取り上げている。元々太田自身による上演が話題となった作品に挑戦する精神はそれだけで評価に値するが、ルサンチカの本公演はテキストへの誠実さが窺え、名作の新演出という点について考えさせられる作品となっていた。
満足度★★★
「心のよすがを取り戻す作業」
1992年に246TANK+花光潤子が初演した本作は、日本国内はもとより世界各国で上演され続けている。今回はかつて旧日本陸軍戸山学校のあった戸山公園での上演が実現した。
日差しはもとより風も強い、鳩が舞い降りては飛び立っていく、そんな日和の公園に突如目に入ったのは円形の木枠とむき出しの柱に白布がかけられた特設舞台である。近くに寄るとサッカーボールや植木鉢などの日用品、ブロックなどの廃材が散乱している。ここは家の解体を終えた更地という設定である。上演が始まるとそこに向かって全身白ずくめの男(御厨亮)と女(永井茉梨奈)が階段を下りやってくる。無表情で足音を立てないその佇まいはさながら幽霊のようだ。