作品タイトル「時をかける稽古場2.0」
満足度★★★
タイムトラベルものは数あれど、それを“小劇場あるある”に重ねた趣向に大いに笑いました。シチュエーションコメディーという技術的に難しいことに果敢に取り組んでいる姿勢も作品からビシビシ感じられ、演劇をあまり観ない、広い層に訴える可能性があると感じます。スピーディーに展開しなくてはいけなく、テンポが命なだけに、役者たちが「準備した演技を繰り出すのに必死」な感じに見えてしまうのが惜しいと感じました。観客を案内する場内係の手際がてきぱきとしており、当日パンフレットに載っている情報(あらすじ、キャスト表、各役者のSNSなど)もコンパクトで周到。制作手腕の高さを感じました。
満足度★★★
<直球のエンターテインメント作品>ほど、創作のハードルの高いものはありません。
これまでの数多くの作品を通じて育まれてきた定石・様式を自らのものにしつつアイデアを展開し、そのプロセスをオリジナリティのあるものにしなくてはいけない。当然そこでは、俳優たちのアンサンブルの強さも必要とされますし、観客を冷めさせない細やかなスタッフワークも求められます。
「時をかける稽古場2.0」は、こうしたハードルに果敢に挑んだ秀作でした。同じ劇団の稽古場を舞台にしたタイムスリップものという、一見シンプルな設定が、圧倒的なスピード感をもって混乱していくさまは爽快。またその複雑さを観客と共に解きほぐしていくような作劇、アンサンブルの演技(つまり、観客を混乱させるのではない)にも好感を持ちました。かなりの稽古量がこの完成度の背景にあったのではないかと想像します。
惜しむらくは、ドラマを展開させる軸のひとつとなったインフルエンザをめぐるドラマ。これは昨今では、業界関係者でなくとも共有できるネタですが、そこでの感情のもつれや解決が、(精緻なボケツッコミの一方で)どこか表層的に終わってしまったように見えました。
アイデアを具現化する巧みな作劇、強力なアンサンブルを持つこの劇団に、より奥行きのある感情、関係の表現が加わるなら、困難な<直球エンターテインメント>の道もより開けるのではないかと思います。
満足度★★★
本番2週間前に台本が出来上がっていない、いや、1ページも満足に書けていないという修羅場で、小劇場劇団の劇団員たちが、公演初日を迎えるために奮闘します。稽古場の部屋で偶然見つけた“タイムマシン”で、本番前日に飛ぶというタイムトラベルもののコメディーです。
時間旅行、並行世界などのSF題材を生かした現代の娯楽作で、人間ドラマも織り込んでいることに好感を持ちました。作・演出の冨坂友さんの経歴を拝見したところ、黄金のコメディフェスティバル2014、2015において最優秀脚本賞を受賞されています。初演を経た再演で、戯曲はかなりブラッシュアップされていたのではないでしょうか。
俳優のボケ・ツッコミの呼吸があざとく感じられたり、物語の仕組みを説明するためのやりとりが多かったこともあって、私は笑えなかったですが、初日のほぼ満席の客席からは笑いがよく起こっていました。
満足度★★★★
ノンストップコメディというか、大いに笑わせてもらいました。かわいそうな人のツッコミ的な叫びが、時に思わぬ角度から来たり、それを予測できてクスクスしたり、大勢キャストがいながら、それぞれに見せ場があったような気がして、その構成は見事だと思いました。
満足度★★
果敢にエンタメに挑戦する姿勢は評価したいが、残念ながら映画や小説、漫画やアニメなど他のメディアのSFエンタメ作品と勝負できるほどのクオリティには達していない。エンタメで勝負するのであれば他のメディアとタメを張るくらいの矜持とクオリティがなければ、(小劇場)演劇全体の価値を下げることにもつながりかねないと私は考えるので、残念ながらこの作品を評価することはできない。