最新の観てきた!クチコミ一覧

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深い森のほとりで

深い森のほとりで

秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場

紀伊國屋ホール(東京都)

2024/05/10 (金) ~ 2024/05/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/05/14 (火) 14:00

座席1階

ウイルスの基礎研究にまい進する女性科学者の物語。日本の女性の研究者たちが、男性が多い大学の研究環境の中で不当に見下されている現状や、「選択と集中」という名の下に文部科学省が研究費を差配し、すぐに成果が明らかにならない基礎研究に冷淡な状況など、よく取材されている。

休憩を挟んで2時間半は少し長いな、と思ったが、冗漫にはなっていない。後段ではコロナ禍での研究開発の流れなども織り込んであって、リアリティーがあった。
物語は、バングラデシュの奥地で人道支援に当たる若者が、原因不明のウイルス禍で感染してしまうという設定で、そのウイルス研究に没頭する女性たちを対比させている。ゲノム解析には成功するが、すぐに薬剤ができるわけではない。そうした現実も、この舞台では丁寧に描いてあった。このような基礎研究を結実させた薬剤を開発して途上国に提供することで日本の国際的な地位が向上するだろうとか、科学技術で貢献する外交を進めていけば戦争にはならないだろうとか、対米追従で武器ばかり買っている日本外交の強烈に皮肉るせりふが飛び出してくるところは、青年劇場の真骨頂だろう。
優秀な研究者が非常勤で契約をばっさり切られかねない不安定な状態にあるというところもきっちり盛り込んであって、世界と争って高めていくべき日本の技術開発の脆弱性も突いている。

五嶋佑菜ら若手俳優も重要な役どころをきっちり演じ、歴史ある青年劇場も次世代に向かっているところを目撃する。納得の舞台だった。

Four Hearts

Four Hearts

トランク企画

アバンギルド(京都府)

2024/05/09 (木) ~ 2024/05/10 (金)公演終了

満足度★★★★★

とても面白かった 客席も大盛り上がり❗ スリランカ風の部屋といった設定には演者もビックリだったと思うが、流石プロといった感じでした 次も是非

いつかの交差点で、僕たちは異次元の希望を探す

いつかの交差点で、僕たちは異次元の希望を探す

kazakami

スタジオ空洞(東京都)

2024/05/05 (日) ~ 2024/05/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「当事者」と言って良い30前後の登場人物の視点から、現下の少子化問題の諸要素を網羅していた
細かい場面をうまくつないでいおり、転換のテンポが良かった
リーディングでも一々前に出て「演ずる」ので変化もあり、 キャストの表情もはっきり見えて良かった
そのキャストの表情、リーディングにはもったいないくらい生き生きしていた
花火のメタファーが効いていた
第2場が説明的になりすぎていたのと、井口と江の会気で不自然に「正直」が多すぎたこと、飲食店での注文がやや唐突だったことが引っかかった点かな
当該世代が「これが問題」と思うのがどういう点かは浮き彫りにされて、シングル貫きそうな30代娘ふたりの親は耳が痛い点もあったが、やっぱり解決策は分からないねぇ

除け者(ノケモノ)は世の毒を噛み込む。

除け者(ノケモノ)は世の毒を噛み込む。

キ上の空論

新宿シアタートップス(東京都)

2024/05/09 (木) ~ 2024/05/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★

新たな3部作という事で、1部見てませんが2部見てきました。

感想は私の主観です
キャスト、芝居、間合いなどどれも悪くない、いやむしろイイ方かもしれないのに…
なぜか消化不良な感じします
新たな作品と宣伝しておきながら、ピーチanother sideの様な作品でした。
ピーチの再現にもかなりの時間費やしており
途中これはピーチ2の焼き直しなのか??みたいな感じです
色々な制限がある中、出来ない難しい表現をわざわざ入れて意味あるのみたいなシーンも多かった気がする。
小便シーンなんて本当に意味わかりませんもん

千と千尋の神隠し

千と千尋の神隠し

東宝

博多座(福岡県)

2024/04/27 (土) ~ 2024/05/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鑑賞日2024/04/28 (日) 12:00

*

新生!熱血ブラバン少女。

新生!熱血ブラバン少女。

博多座

博多座(福岡県)

2024/04/06 (土) ~ 2024/04/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鑑賞日2024/04/13 (土) 16:00

*

いつかの交差点で、僕たちは異次元の希望を探す

いつかの交差点で、僕たちは異次元の希望を探す

kazakami

スタジオ空洞(東京都)

2024/05/05 (日) ~ 2024/05/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/05/05 (日) 13:00

少子化を筆頭とした家族/家庭の問題に関する会話のスケッチ集……であるがシンポジウムや討論会のように大上段に振りかぶった堅苦しいものではなく、飲みの席や終業後の職場などでのものなのでカジュアルでとっつき易く大胆な説(ってか暴論?(笑))まで出てあれこれ考えさせられる。
また、複数の場での会話だが場が代わる度に舞台上手にその場の情景画像を掲示し、演者が上衣や眼鏡の脱着で人物の違いを表現するのもイイ。(とか言って気付くのが遅れてしばし戸惑ったが(爆))
さらにそれまで併走していた各場が終盤で「花火」によって一つに収束してゆくのが巧いしドラマとしてのまとめ方として好み。

『阿房列車』『思い出せない夢のいくつか』

『阿房列車』『思い出せない夢のいくつか』

青年団

こまばアゴラ劇場(東京都)

2024/05/08 (水) ~ 2024/05/15 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/05/12 (日) 10:30

「思い出せない夢のいくつか」
アゴラ劇場サヨナラ公演もあと3日を残すところとなり、建物外観の写真を撮る人が目につく。
大人3人の夜行列車の旅。
木製の座席とランプの灯りが、”大人の銀河鉄道の夜” を柔らかく見せる。

ネタバレBOX

芸能人の女性、ベテランマネージャーの男性、それに若い付き人の女性の3人が
夜行列車の座席に座っておしゃべりしている。
星座の話、結婚式の話、煙草を吸いに行ったら変な乗客がいた話など。
付き人の女性が星座盤を持っていること、鳥捕りや灯台守など、
「銀河鉄道の夜」のエピソードがいくつも織り込まれ
この列車はひょっとして、死者を乗せているのかと思ったりする。
あるいは死にゆく人を乗せているのかと・・・。

会話の ”間” は、信頼関係の度合いを表すものだが、
彼らのそれは緊張感を伴うものの、苦痛は感じない。
この静けさとテンポが、心地よかった。

駒場東大前というこの駅、この街、この商店街が好きだったなあと思う。
アゴラ劇場が無くなるなんて、考えもしなかった。
だがこの芝居のように、全ては夢のごとく過ぎ去って、
私たちは皆いつか、銀河鉄道の乗客となるのだろう。

ありがとう、さよなら、アゴラ劇場・・・。

ブルーアイデンティティ

ブルーアイデンティティ

X-QUEST

王子小劇場(東京都)

2024/05/03 (金) ~ 2024/05/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

それはその男の夢なのか夢想なのか、まあどうとっても良いのでしょう。それよりも殺陣やダンスや衣装や役者陣の素敵なところを見惚れて終わる80分。
その後の撮影タイムはステージから一人ひとり観客をみんなで見つめてくれる、一瞬の幸せでした。
途中何回かの公演が中止になってしまったので、いろいろ購入して応援したいところですが諸々事情もありまして、次回公演もきっと観に行きます。

風と共に去りめ

風と共に去りめ

かーんず企画

シアター711(東京都)

2024/05/02 (木) ~ 2024/05/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

あらすじにあった通りに
『裕福な家庭』『無機質なオフィス』『1Rマンション』『画家のアトリエ』
を白線で分けて舞台上に四つの世界を表現してるので
結構狭い感じに見えたかなぁ
中心は一人の男であり
彼がオフィスの人間に罪をかぶせられて放逐され
画家のアトリエからも逃げ
ネット配信していた女性の元も追い出され
傷つき倒れていたところを
医者夫婦の裕福な家庭にて助けられるのだが・・・
と展開がクルクルと
舞台上の四つの世界を男が巡ってゆく作品

う~ん
ドニーダーコみたいな感じだったかなぁ と

ネタバレBOX

最終的に男が隕石の衝突を認めて
受け入れてくれてた医者夫婦の一人娘が
その隕石落下という事象を受け入れる?
という感じであっているのだろうか・・・

隕石とタイトルの風とかは
あまし繋がりを感じなかったかしら
風の名はアムネジアみたいな話の方が
分かり易かったかなーとも
『緋色の研究』『四つの署名』

『緋色の研究』『四つの署名』

東映

サンシャイン劇場(東京都)

2024/05/02 (木) ~ 2024/05/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「四つの署名」を観劇
広い洋館の一室、ソファーには名探偵ホームズとワトソン
てっきり二人の回想録で物語を紡いでいくものかと思っていたら、次々登場してくる人物達も全てこのお二人で演じ分けていくという
場面転換も変幻自在、リーディング公演の自由度を大いに活かしながら、海外ミステリー独特の世界観をみるみるうちに創り上げていくテクニックには驚かされました
ストーリー的には雰囲気美人な印象でしたが、莫大な利権の匂い、浮かび上がってくるきな臭い人物達、段々と立ちのぼってくるおどろおどろしい空気感にはゾクゾクさせられます

『阿房列車』『思い出せない夢のいくつか』

『阿房列車』『思い出せない夢のいくつか』

青年団

こまばアゴラ劇場(東京都)

2024/05/08 (水) ~ 2024/05/15 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『阿房列車』

1991年初演、『思い出せない夢のいくつか』(1994年初演)と同じ会話があったがこっちが先だった。オチのない話を皆で回す『すべらなくもない話』。何か落語っぽいよね。主演の中藤奨(なかとうしょう)氏の喋り方が太田光みたいで、笑いのない漫談を聴いている感じ。掛けっ放しの深夜ラジオを何となく聴いているような。
奥さん役のたむらみずほさんが流石だった。会話の何気ない一言に急に大声を上げてブチ切れるツッコミが客席を沸かす。
何気なく席についた田崎小春さんは話好きの夫婦に延々と捕まってしまう災難。

ネタバレBOX

見た目は老夫婦にした方が味があったと思う。
「何だかよく分からないが、でもこれが人生」みたいな感慨を狙った作品なのだろう。
まるで同一人物が二人いるような田崎小春さんのネタだけが特殊な仕掛け。

「噛むのは本能、飲み込むのは迷信」とか何かよく分からない平田オリザ節連発。生と死だとか日常と非日常だとか、まあよく分からない。作品の狙いは何となく判るのだが、もっとガチガチに面白くしてもいいのではないか?笑いで会場をうねらせても最後の余韻まで辿り着くと思う。ガラガラの名画座で老人と並んで観るような作品も悪くはないのだが。
「AM0時のFMで」

「AM0時のFMで」

劇団Funplace

STAGE+PLUS(大阪府)

2024/05/11 (土) ~ 2024/05/12 (日)公演終了

満足度★★★

千秋楽拝見 満席🈵💺
内容はそれなりで、涙している人も生きる目標を持って生きている人は…自分の好きなことをして生きている人は…そのきっかけを教えてくれる物語

初級革命講座飛龍伝

初級革命講座飛龍伝

一般社団法人シアター&アーツうえだ

THEATRE E9 KYOTO(京都府)

2024/05/08 (水) ~ 2024/05/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/05/10 (金) 18:30

当時のつかこうへいの熱気が大いに伝わる。連続した台詞の量に圧倒される。中学出の機動隊とインテリの学生運動家との対比、お互いが青春を捧げた70年安保の戦いの思い。権力が東大生と日大生に手心に差をつける。楽しく興味深く観劇。

空夢

空夢

劇団papercraft

すみだパークシアター倉(東京都)

2024/04/26 (金) ~ 2024/05/06 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

セットを見たときに不安を覚えましたが、やはり私には響かなかった。
演ってる方もつらいのでないかとまで思いましたが、なんかWコールでした。(形式的なのかな?)

いつか、ある夜。ノクターン。

いつか、ある夜。ノクターン。

演劇ユニット41×46

劇場HOPE(東京都)

2024/05/10 (金) ~ 2024/05/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

中川浩六さんの作るめんどくさい人の話が私にはとても面白かった。
2話目のバーテンさんはかっこよかったです。私はシナトラのFlyMeToTheMoonの方が好き。エヴァンゲリオンのもいい。
ほかのも総じてよかったです。ギターも。
あ、前説(録音?)の『本公演』のアクセントが私の想像するアクセントと違っていたけど北海道方言でしょうか?

『阿房列車』『思い出せない夢のいくつか』

『阿房列車』『思い出せない夢のいくつか』

青年団

こまばアゴラ劇場(東京都)

2024/05/08 (水) ~ 2024/05/15 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『思い出せない夢のいくつか』

どさ回りの落ち目の歌手(兵藤公美さん)が列車に乗っての地方巡業。かつては一斉を風靡したこともあり、それに憧れた歌手志望の少女が今は付き人(南風盛〈はえもり〉もえさん)に。長い付き合いの裏も表も知るベテラン・マネージャー(大竹直〈ただし〉氏)。

兵藤公美さんは室井滋っぽい。会話の雰囲気が小林幸子を思わせる。結婚離婚のエピソードは大原麗子を連想。カンパニーデラシネラ、『気配』で主人公の奥さん役だった。

舞台美術が凄い出来。撒かれた白と灰色の砂利、敷かれた線路、昭和初期の木製の客車。車輪に見立てたバーベルが前後に転がっている。星座早見盤を取り出す南風盛もえさん。三人は蜜柑や林檎を食べながら窓の外の星を探す。煙草を吸いに行ったりジュースを買いに行ったり。

ネタバレBOX

『銀河鉄道の夜』の同人みたいな作品。沈黙の三角関係を深読みする人もいるが、どうもそんな風には受け止められない。足りない話を宮沢賢治の匂いで補完した感じ。

自分的には物足りない。手が合わないのか、この配分が気に食わないのか。『銀河鉄道の夜』のコロンがないと、とても観ていられない薄さ。深読みする程、興味が持てない。

ただ、夢のシーンが秀逸。このワンシーンだけで今作を忘れることはないだろう。

ジュースを買いに行かされる南風盛さん。なかなか帰って来ない。歌手もマネージャーも寝てしまう。すると、客席後ろの通路を通って南風盛さんが現れる。歌っているのは間延びした「星めぐりの歌」。二人に林檎を置いて去って行く。呆然と眺める兵動さん。しばらくして南風盛さんが本当に帰って来る。「あんた、死んだのかと思った!」「死んだのは私の方か?」
深い森のほとりで

深い森のほとりで

秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場

紀伊國屋ホール(東京都)

2024/05/10 (金) ~ 2024/05/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

バングラデシュで待っている人のために、次々直面する困難を乗り越えて、ワクチンつくりに挑む科学者の物語。素直に感動した。運営交付金を減らされる弱小国立大学、金のない人たちが死んでも、多額の資金のかかる薬の開発に腰を上げない製薬会社(「死の谷」という)、海外からは何をしているか見えないガラパゴスの日本の研究者など、新聞かテレビのドキュメンタリーのように今日的実情が盛り込まれている。また、ビル・ゲイツ財団やワクチン開発支援機構など、ハードルは高いが支援の手があることも分かる。2017年2月から2023年3月31日まで、最後の場面ではコロナ禍もかかわってくる。

主人公原陽子(湯本弘美)の研究者歴もきちんと語っている。恩師本田教授(広戸聡)のおかげで今があるという背景が、物語の奥行きを深めている。わきに配された人々も、それぞれモデルがいておかしくないつくり。東大史料編纂所の学術支援専門員という、知り合いの娘さんが来ていて「まさに自分も、作中の産学連携支援の山口さんと同じような立場」と言っていた。女性研究者たちの直面する壁、挫折、それでも持ち続ける研究への思いを、過たず描いていた。

夢と生活のはざまで悩んだことのある、多くの人の心を打つ舞台である。主人公の壁にくじけず挑戦し続ける姿に励ましをもらえるだろう。
俳優たちは、青年劇場らしい楷書の演技で、ユーモアさえまじめさがみえる。看板役者たちは今回はおらず、広戸さん以外は知らない顔だが、よかった。若い五嶋佑菜さんには太めキャラの愛敬があり、八代名菜子さんは清楚な美しさがよかった。

白狐伝

白狐伝

SPAC・静岡県舞台芸術センター

駿府城公園 紅葉山庭園前広場 特設会場(静岡県)

2024/05/03 (金) ~ 2024/05/06 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「アウトサイダーの嘆き」

 岡倉天心が1913年に亡くなる直前に書いた唯一の戯曲を宮城聰が劇化した。「ふじのくに野外芸術フェスタ2024」の新作である。

ネタバレBOX

 舞台上には上下に御簾の掛かった演奏スペースが設置され、草花の意匠をあしらった衝立が目につく。真ん中の衝立の向こうから現れた美加理演じる狐のコルハは、口に青く光る魔法の玉を咥えている。SPACの劇団員による演奏も相まり、白皮の狐姿の美加理は愛らしくも妖しく我々を劇世界へといざなう。

 魔法の玉の力を狙う悪右衛門(動き:貴島豪/語り:吉植荘一郎)は、歌舞伎や京劇を思わせるようなメイクで強いインパクトを与える。悪右衛門一味の放った矢で負傷し窮地のコルハは、土地の領主である保名(動き:大高浩一/語り:若菜大輔)に助けられる。このあたりでいよいよ宮城がコルハの語りで物語に加わり客席が湧いた。

 保名は許嫁の葛の葉(動き:美加理/語り:宮城聰、共に二役)と彼女の誕生日を祝っているところを、葛の葉に横恋慕する悪右衛門一味に屋敷を侵略され、彼女を奪われてしまう。野外劇場の舞台機構をフルに使った軍勢や立ち回りは見ごたえがあった。葛の葉の破れた片袖を握ったままさまよい歩く保名を救うため、コルハは葛の葉そっくりに姿を変え保名を山中の隠れ家に匿う一方、悪右衛門を罠にかけ崖から突き落とす。

 葛の葉に姿を変えたコルハは保名とのあいだに生まれた幼子を育てながら静かに暮らしていたが、ある日保名の留守中に家の前を通った巡礼の一隊から、保名を探すことを諦めた葛の葉が明日剃髪することを知らされる。恐れおののくコルハを美加理の動き、宮城の語りが絶妙なコンビネーションで表現しここが一番の見ごたえがあった。心を決めたコルハは保名に万感を込め最後の願いを告げる。

 昨年の『天守物語』同様に人間界と自然界の対立と調和に通じる作風ながら、本作が特徴的なのは人間にも狐にもなりきれないのコルハのアウトサイダーとして嘆きである。古典芸能の世界で散々描かれてきた世界に、現在私たちが直面している人種間やジェンダーなど、さまざまな状況を重ねて観られる、きわめて間口の広い上演であった。

かもめ

かもめ

SPAC・静岡県舞台芸術センター

静岡芸術劇場(静岡県)

2024/05/03 (金) ~ 2024/05/06 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「愛情と承認の物語」

 ドイツの演出家であるトーマス・オスターマイアー率いる劇場、シャウビューネが2023年に初演した『かもめ』である。初演からわずか1年あまりの来日に満場の客席が大いに湧いた。3時間半の上演が苦にならない充実ぶりである。

ネタバレBOX

 いつもの静岡芸術劇場の舞台上に馬蹄形に客席が配置され、奥のホリゾント幕前には数脚の木製の椅子や机、ビーチチェアやカウチが置かれている。定刻になるとホリゾントには墨絵のような筆致でゆっくりと山肌が、つぎに大樹が描かれて、ここが自然のなかなのだとわかる。

 幕開きから意外だったのは平時から喪服を着ていることを嘆くマーシャ(へヴィン・テキン)と彼女に叶わぬ思いを寄せる教師のメドヴェージェンコ(レナート・シュッフ)の対話がボールを蹴りながら交わされた点である。まったくしめっぽくないばかりか演技スペースと近い客席にもボールが届くことになり戸惑いの笑みがこぼれる。この軽さと親密さが本作を貫く新しい感覚である。登場人物がまとっている衣装も現代の我々のそれと大差ない。これは誰しも経験しうる物語なのだという主張がここでわかる。

 とはいえ大筋はほぼ原作通りである。作家志望の青年トレープレフ(ラウレンツ・ラウフェンベルク)が恋人で女優志望のニーナ(アリナ・ヴィンバイ・シュトレーラー)に屋敷の庭で組んだ仮設舞台で新作を演じさせる様子を、トレープレルの伯父で屋敷の主であるソーリン(トーマス・バーディンク)をはじめ屋敷の人びとが鑑賞するも、トレープレフの母で女優のアルカージナ(シュテファニー・アイト)に失笑され上演を取りやめてしまう。原作ではニーナがトレープレフの書いた抽象的な台詞を謳いあげるが、ここではトレープレフはマイクを客席に向け小鳥のさえずりのような声を集めたり、全身タイツで世界創生のときにいたのであろう原始生物を演じたりしていてキワモノ感がより強く出る。

 挫折感に苛まれ森の中に迷い込むトレープレフをよそに、女優としての野心に満ちたニーナはアルカージナの愛人で新進気鋭の作家トリゴーリン(ヨアヒム・マイアーホッフ)に強く惹かれる。原作では30代の設定だが、後の幕で「年寄り」「理髪店のおやじみたいな髪型」と揶揄されるくだりがあった。この設定変更によってニーナの先行世代への羨望、もっと言えばファザーコンプレックスに近い感覚がより強く出るようになった。

 シュテファニー・アイトのアルカージナは貫禄ある大御所女優というよりも女盛りといった感覚で、マーシャの若さへの嫉妬やニーナとトリゴーリンが惹かれ合うことへの焦りの芝居が印象深い。自殺未遂をしたトレープレフの包帯を取り替えるときに互いに激しく罵り合うやり取りも、愛する息子への忠言というよりはまるでもう一人の若い恋人を批難しているように見えた。そうなるとトレープレフもアルカージナに対して、一人前の男として認められたいという願望を強く抱いているように見えてくる。これらの人物のやり取りを観るにつけ、『かもめ』は世代間対立の物語という側面だけでなく、愛情の行き違いから起こる承認の物語でもあるのだということがわかってきた。

 2年後にソーリンの体調を気遣い屋敷に戻ってきた人々が再会し、シャムラーエフ(ダヴィット・ルーラント)がトレープレフが撃ち落としたかもめの剥製をトリゴーリンに見せるくだりも原作通りだが、台詞をいくつかカットしてトレープレフが自身に向けた銃声が鳴り暗転して幕を閉じる。ここでもう一捻り、現代における上演意義を示してもらいたかったというのは叶わない願いか。

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