実演鑑賞
満足度★★★★
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阿佐ヶ谷スパイダース『ジャイアンツ』を観劇。
2011年『荒野に立つ』はイギリス留学帰国後からの二作目で、朝日新聞の劇評と私のみが「長塚圭史の大傑作!」と謳ったが、世間ではそれほど評価される事もなく散ってしまったシュールな目玉探偵ものであった。女性が自分の目玉を目玉探偵と一緒に探す旅に出るのだが、話しを散らかすだけ散らかし、脳をフルスロットルに辻褄合わせをしながら観ていながらも、全く回収せずに物語を終えてしまう、演劇手法を根底から覆す作劇に唸ってしまったほどだったが、どうやら今作も目玉探偵の再登場で期待大なのは間違いない。
今作の老人役の『私』も前作と同じく目玉探偵と一緒に自分の目玉探しの旅に出るのだが、行き先は老人の思い出したくない過去の息子との出来事だが、前作はシュールな風景だったが、今作は老人に起こった現実の風景だ。ただ老人という設定だからか、「老人の見ている風景は確かなのか?、それとも老いからくる記憶違いではないか?」と疑いを持ちながら、旅をなぞっていける面白さがある。主役が『私』なので一人称での展開するかと思いきや、老人の見た事もない息子の記憶の風景まで出現してしまうのだ。息子の風景を老人の記憶と取るか?それとも父と息子の確執の物語か?とさまざまに勘繰ってしまうと、一体全体何の話しだったのか?と迷宮入りしてしまうが、そこに落ち込んでしまうのが今作の正しい観劇法だ。
人間の記憶の粒と思われるドングリを拾って去っていく隣の大島さん、「実は目玉探偵社の大ボス・Mじゃない?」と終わり方も堪らない。
期待を裏切らない阿佐ヶ谷スパイダース、これだからやめられない!
実演鑑賞
満足度★★★★
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イキウメ『無駄な抵抗』を観劇。
ディオニューソス劇場に見立てた舞台セットを見た瞬間、ギリシャ悲劇の始まりを予感する。
登場人物達は何かに抵抗する人たちである。駅に電車が止まらなくなり、衰退して行く街並みに再度停車駅と懇願する喫茶店の店主、何もしない事をモットーとし、批判を浴びながらも芸を貫く大道芸人など、傍から見れば無駄な抵抗のようだ。芽衣が幼い頃、占い好きの同級生・桜に放たれた「貴女は父親を殺す」という言葉に抗いながら生きてきた人生も然り。
「流れに身を任せて生きる事は果たして良い人生を送れるのだろうか?」とふっと観劇中に感じ、彼らの行動が無駄ではないと思い始めると、『無駄な抵抗』というタイトルの意味が刺さってくる。
魔女の囁きのような桜の言葉に芽衣は長い間付き纏われるが、その囁きに似た体験は誰しも人生の中に一つや二つはあるだろう。
ひとりの人間が犯した罪に芽衣が長年に渡って苦しみ、他の者たちにも多大なる影響を及ぼしていく様は、現実に起こっている事件と重ね合わせて観てしまうのは間違いない。
改めてギリシャ悲劇が普遍的な物語と感じるだろう。
観劇中も後も、頭から離れないほど重厚感のある傑作である。
実演鑑賞
満足度★★
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排気口の『時に想像しあった人たち』を観劇。
三鷹市芸術文化センターの期待の若手劇団シリーズ。
かつて人気のあった街並みも今ではシャッター商店街だらけだ。
大学生らがボランティアで「以前のように活気を!」近所の人たちと盛り上げようと試みるのだが…。
想像した物語と乖離してしまう展開にはうんざりしてしまった。
物語が向かう方向は悪くないのだが、それに伴わない笑いとギャグが占めてしまっている。
俳優の熱量もあり、それほどつまらなくないのだが二時間は持たないようだ。
物語の過程で、笑いやギャグを使って一線を外すことはあるが、肝心の物語がおざなりになってしまったようだ。
厳しい時間を過ごしたようだ。
実演鑑賞
満足度★★★★
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ぱぷりか『柔らかく揺れる』を観劇。
2022年・岸田戯曲賞受賞作品
夫を不慮の事故で亡くした小川家の母を筆頭に、アル中で出戻りの長男、ギャンブル狂いの次女、店を火事で亡くした従妹と娘が一緒に住んでいる。
父親の三回忌に長女が帰省するが、家族らが抱えた問題が露呈していくのであった…。
登場人物たちが抱えている問題(家父長制度、不妊治療、LGBT、中毒)と原因不明の父親の死が微妙な按配になり得ているのが魅力だ。
「人が死ぬような場所ではない浅瀬の川で父親が死んでしまったのは、子供たちが殺したのか?」
サスペンスにはしていないが、常に引き摺られながら、登場人物たちと対峙していき、大黒柱だった父親の影響と田舎の慣習が与える重苦しさと生きづらさを感じてしまう。
登場人物と同じ状況下ではなくとも、我々の弱さや痛みを想起させ、針で刺されているような痛みを終始感じながら観劇していたのは間違いない。
観客も登場人物の苦悩を同化してしまい、観劇中は決して目は背けることをさせてくれない内容であった。
実演鑑賞
満足度★★★★
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絶対に観た方が良い!
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劇団アンパサンド『地上の骨』を観劇。
三鷹市芸術文化センターの期待の若手劇団シリーズだ。
下記のチラシを見て誰もが「観たい!」と思うだろうか?
チラシを参考に、面白い劇団を探していた者としては残念な出来だ。
だが侮れないのは女優・島田桃依が出演しているのだ。
彼女は常に主役ではないが、出演する作品に「ハズレなし」と言うくらいに完成度が高く、歴史に残る作品に出演していて、気がつけばかなりの本数の芝居を観ている。
小劇場界の女王は『内田慈』と思っていたが、隠れ女王は『島田桃依』のようだ。
あらすじ:
小さな会社ながら、皆で互いに助け合いながら、仕事をこなしている。
男性社員の安河内は忙しさのあまり、仕事を掛け持ちをしてしまっているが、料理好きが高じて自分で作った佃煮を皆に振舞っている。
だがそれがきっかけでどんでもない事が起こってしまうのである…。
感想:
初見の劇団で、チラシには覇気が感じられず、全く期待値ゼロだったが、三鷹市の期待の若手劇団シリーズなので観に行ったのが観劇の理由だ。
始まってみると社員の会社への不満ばかりの不毛な会話のばかりで進んでいくが、内容にリアリティーがないせいか、妙に引き込まれてしまう。戯曲と俳優の達者な演技の相乗効果が現れている瞬間なのだろうか?面白くてしょうがないのである。
だがそんな喜びも束の間、誰がこんな展開を想像しただろうか?
あの覇気のないチラシから想像がつかないくらいの怒涛の展開になっていくのである。
戯曲、俳優、演出が三位一体で、完璧は出来と言うくらいに面白い展開になっていくのである。
決して誰も想像出来なかっただろう話の流れに大笑いしかないくらい面白いのである。
『野田秀樹』も『イキウメ』も『チョコレートケーキ』も面白かったけど、今作の面白さは誰かに伝えたくてムズムズしてくる。
今年一番のお勧めの劇団であり、これこそが小劇場の自由な発想の面白さである。
今後の追っかけ劇団に決定!
実演鑑賞
満足度★★★
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EPOCH MAN『我ら宇宙の塵』を観劇。
昨年の岸田戯曲賞のノミネート劇団。
あらすじ:
早くに夫を失った宇佐美陽子と息子の星太郎。
父親は何処に行ったのかを星太郎が母に尋ねると「死んだ人間は星になる」と嘘をついてしまう。星太郎は父親譲りで星が大好きなのだ。
星太郎は行方不明になり、母親は周りの人たちに巻き込まれ息子を探す旅に出るのだった…。
感想:
出だしからびっくりするのような映像舞台美術に度肝を抜かれ「今作は間違いなく面白くなる!」と確信を持てる始まり方だ。
息子が行方不明になってしまい、苦悩する母親の姿は重く伸し掛かかってくるが、
宇宙について語られたオープニング、母親の悲しみ、星太郎の父親探しがどのように繋がっていくのか疑問を呈してしまうが、陽子が息子を探し始めると一気に加速し始め、疑問なんかどうでもよくなってしまったのだ。出会った人たちと向かう旅はロードムービー風ではなく、桃太郎が鬼退治に行くという勢いだ。「この手の展開は80年代演劇シーンであったなぁ〜」と面白がりながらも、どのようにして終着点に向かうのだろう?と不安を感じたのは確かだ。
二度ほど思考を止められたが、「死んだら人間は何処に行くのか?」という誰もが感じている疑問と今作のテーマが一致すれば納得出来る物語と感じられるであろう。
次作も観てみようと思える劇団であった。
実演鑑賞
満足度★★★★
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劇団チョコレートケーキ
『ブラウン管より愛をこめて〜宇宙人と異邦人』を観劇。
あらすじ:
ワンダーマンという特撮番組を作っている面々の話。
宇宙人や怪獣などが登場する子供向けSF番組で、以前に人気のあったヒーロー番組のパクリだが、スタッフ達は頑張っている。
だが次作は予算がなく、トレンディドラマを干された脚本家の抜擢で何とか凌ぎを削ろうとするが、果たしてどうなっていくのか…。
感想:
過去の歴史的な人物と史実を交えて、丁寧な物語作りと反骨精神を持ちつつ、一級作品を毎作事に作り続けている劇団で、「今作は特撮スタッフの熱い物語だよね?」と勘繰っていたが、どうやら違っていたようだ。
窮地に追い込まれたスタッフが難所を乗り切る姿にハラハラ、ドキドキしつつも、『差別』というテーマがずっしりと食い込んでくる。
「テーマを物語に入れるべきか?」とスタッフは葛藤するが、実のところ「差別」に対して人それぞれ差異がない事に気付かされ、登場人物と観客が一緒に寄り添いながら観れたら面白さを堪能出来るのは間違いない。だが『差別』を内容に取り込んでみたものの、テレビ局が大きな圧力をかけてくる。
放送中止か?
スタッフ解雇か?
スタッフが出した結論に「貴方だったらどうする?」と問われているようだ。
扱いづらいテーマだが、決してテーマ主義にならず、娯楽作として成り立たせてしまうのが、戯曲と演出の成せる技だろう。
見応えのある作品である事は保証する。
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満足度★★★★
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野田MAP『兎、波を走る』を観劇。
新作である。
あらすじ:
不思議の国に迷い込んだアリスを探しに時代を彷徨うアリスの母親。そこに白兎が旅を共にしするが、迷い込んだ世界は現実と妄想が入り組んだ場所だったのだ。
果たしてアリスを探す事が出来るのだろうか?
感想:
アリスと母親と白兎。この三人は一体誰なのだ?という疑問を抱き続ける事が、テーマへと繋がっていく。『夢の遊眠社』が復活したのか?というぐらいに時代と場所と歴史上の人物が急展開に飛び周り、追いかけていくのがやっとだと思っていると『妄想』という言葉が追い討ちをかけてくる。
「そうかぁ〜、全てが伏線だったのか」と思ってしまうが、それが落とし穴になってしまうのが野田秀樹の戯曲だ。観劇後に「あれとこれはどういう関係だったの?」観客同士で述べ合う声は多々聞こえたが、伏線と捉えてしまうと大事なものを見過ごしてしまうのだ。
急展開する作品を「ジェットコースターに乗っている気分だ」と例える事もあるが、これほどの乗り物は過去にあっただろうか?というぐらいにアリス、母親、白兎の道行きには驚かされる。
社会に対する怒りは毎作品に感じ取れるが、その先には一体何があるのだろうか?
答えを少しだけ垣間見えてきたが、「今までにはないラストには驚愕だ!」
野田秀樹の新作はあと何本観れるのだろうか?という不安もあるが、
「こんな傑作を観ないのは勿体無い」
実演鑑賞
満足度★★★
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ピンク・リバティ『点滅する女』を観劇。
初見の劇団である。
あらすじ:
父親の快気祝いに集まった家族と会社の仲間たち。
家族経営の小さい工務店だからか、皆が和気藹々だ。
そこに5年前に水死した長女に取り憑かれたと謎の女性が現れ、家族の秘密を暴いて行くのであった…。
感想:
謎の人物が家族の秘密を暴いて行き、路頭に迷わせるという不自然な設定ながらも、長女を失った各々の悲しみが垣間見え始めて、不自然な始まりが自然になっていく展開にはすんなり入れる。
興味は「秘密を暴く理由は何なのだ?」だが、それはあくまでもきっかけに過ぎず、家族の再生の物語なのだというのが分かれば、不自然な出だしも違和感がなくなっていく。
壊れた人間関係の再生方法はそれぞれだが、「今作で探し当てることが出来るかも?」というきっかけを与えてくれたようだ。
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満足度★★★
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劇団普通の『風景』を観劇。
あらすじ:
茨城県のとある場所でお通夜の後、通夜振る舞いに集まっている親戚一同。久しぶりの再会ながら、跡取り問題、近況など話している内に、互いの家族間の在り方が少しづつ見えて始めてくるのだが….。
感想:
葬式を舞台にした映画や演劇は沢山あり、描かれる家族、親戚関係のもやもやをおもしろおかしく描いている作品は多数だが、今作もその辺りに行き着いている。ただ誰もが本音を漏らさず、同じ様な内容の会話が淡々と続いているからか、触れたくない、聞きたくない、見たくない物がちらほらと感じ取れてしまう生々しさがある。
結婚、出産、子育て、親の世話、跡取りと世代によって立場は違えども、観劇中にぞっとしてしまうのは間違いない。直接的に描いてないだけ余計に目を背けたくなってしまう。
その先に行き着くのは何なのだろうか?
暗示的な答えを出しているラストは見逃せない。
毎作後、ひんやりとした気分で劇場を後にさせてくれる劇団なのである。
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満足度★★★
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『独り芝居・月夜のファウスト』を観劇。
貴方は知っているだろうか?
1970年代に六本木の地下劇場から、あの歴史的傑作劇『上海バンスキング』生まれた事を?
20代の頃、アンダーグランド・シアター自由劇場の名前は知ってはいたが訪れた事はなかった。
だが未だに存在していて、串田和美の独り芝居が行われたのだ。
既に数年前に観劇して、感想は述べているのでここでは省くが、
前芝居として『阿保劇・注文の多い地下室』も観ることが出来るが、
それを観た瞬間に観客の全員はあっと驚くのだ。
『串田和美は郷愁を求めてこの劇場に戻ってきたのではないのだと!』
見事なまでの阿保劇であったのだ。
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満足度★★★★
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劇団た組『綿子はもつれる』を観劇。
あらすじ:
再婚の綿子と悟の夫婦関係はぎくしゃくしていて、ちょっとした会話すら成り立たないくらいだ。悟の連れ子は高校生で母親に懐いてはいるが、興味あることは好きな女子のことばかりだ。
冷え切った夫婦関係はどうなっていくのだろう?
感想:
どのようにしたら妻・綿子と出会った頃の様な淡い関係に戻れるのだろうか?と悟は綿子と話し合うが、出口が見える可能性はゼロだ。
男と女が根本的に混じり合えない箇所が会話から少しづつ抉り出され、違和感を感じ、失笑してしまうが、これこそが妻もしくは女性と話している会話の中身ではないか?と捉えられていく。並行して女性を知らない悟の連れ子が、恋愛感情の芽生えから発展していく展開にうっとりと甘い感情を抱きつつも、直ぐに綿子と悟の現実の嫌な部分に戻されてしまう。もし観客自身が同じ様な悩みを抱えていたら、かなりの振り幅を感じられる作劇になっている。
『綿子はもつれる』というタイトルが示すように、もつれる先には初めと終わりがあり、もつれ初めは悟の連れ子と女子の関係、もつれている最中は綿子と悟。
そしてそのもつれた先には何があるのだろうか?
「それは各々の夫婦関係の終わりにあるものですよ!」と劇作家は言っているのであろう。
傑作である。
実演鑑賞
満足度★★★
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イキウメ『人魂を届けに』を観劇。
あらすじ:
絞首刑となった政治犯。首を吊るされた直後、臓器の様な謎の物体が身体の中から落ちてくる。そこから囁くような声が夜な夜なしてくるので、偉い人は捨ててこいと言う。
刑務官・八雲は物体を持って深い森に住む母親に届けにいくが、そこは傷ついた者たちの集まる場所でもあったのだ…。
感想:
今作はイキウメらしからぬ展開であった。何かしらの仮説を立てて、まるで実在するかの様な物語を作り出し、騙されてしまう面白さがあるのがイキウメだが、今作は一気に作風を変えてきた。だがよくよく考えてみると屍人の臓器が人魂となって蘇ってくるという話しは現実味ではないにしても、ありえなくもないな?と勘繰ってしまうほどだ。
だが政治犯の人魂に込められた意味は何なのだろうか?と考えあぐねていると、死刑廃止制度への意味も込められている意図を感じつつも、思考を一瞬でも止めてしまうと置いてきぼりを食らってしまう。難解なテーマではないが、日頃からそれについて考えを巡らせていないと追いつくのがやっとだ。
見事なまでに今作に乗り遅れてしまったのは間違いないようだ。
実演鑑賞
満足度★★★
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木ノ下歌舞伎の『桜姫東文章』を観劇。
解説:
私にとっての最高な劇団と苦手な劇団が組んでしまうというのが今作の難問だ。
木ノ下歌舞伎は、歌舞伎の長い演目でも決して端折らず、4時間超えの長いものは長いままで上演するが、音楽、衣装、演出などは毎回様々に変えていきながら、歌舞伎特有の退屈さを払拭するかのように傑作率90%の出来高だ。そこに参戦してくるのが『チェルフィッチュ』である。
『マームとジプシー』『ままごと』と同世代で、岸田戯曲賞を取り、海外では人気の劇団で、寺山修司や唐十郎などを簡単に超えてしまっている前衛劇団だ。ただ何度も観ても全く受け付けず、観るのを止めてしまったのだ。
監修・補綴:木ノ下祐一
脚本・演出:岡田利規
あらすじ:
高僧・清玄は稚児・白菊丸と心中を試みるが失敗。17年後、出家を望む桜姫が現れ、彼女こそ白菊丸の生まれ変わりだと確信するが、彼女は清玄には興味すら覚えず殺してしまう。
変転の末、女郎になった桜姫に清玄の幽霊が現れてくるのであった…。
感想:
歌舞伎は時代の世相を反映させながら、因果応報という決して逃れられない人間の性を描くことで観客を魅了し、息を呑むのだ。
清玄と桜姫の恋愛感情が巻き起こすドラマが始まる序盤から一気にトーンダウンしていく。えげつない人間模様に観客には感情すら持たせない、起こっている変化をただ見つめるだけになっているが、鶴屋南北の戯曲を過剰に解釈せず、そのまま読み解くとそのような作りになるのかもしれないが、チェルフィッチュの作品作りは何時もこうなのだ。だからか批評をしようなんて無理なのである。
木ノ下歌舞伎を初見の方には不安、ファンには衝撃的であった。
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満足度★★★
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柴幸男(ままごと)の『わが町』を観劇。
原作はソーントン・ワイルダー
野田秀樹が立ち上げた東京演劇道場の若手公演だ。
1900年代のとあるアメリカ・ニューハンプシャーでの架空の街の物語。そこでは何気ない日常が淡々と進んでいる。事件や事故も起こらない毎日だ。
そして2023年の現代の東京では、事件や事故は起こるが、毎日の営みは100年前と一緒だ。時と場所は変われども同じように世界は進んでいるのだ…。
『わが町』というタイトルを聞くと、ままごとの代表作『わが星』を思い出すだろう。同じような視点で毎日の日常を描いている。決して『わが星』のようにグルグルと円を囲んで動き回ったりはしないが、地球の外から作家が俯瞰して見ている視線は変わりない。
各々の登場人物を俳優が人形を操りながら演じてみたりと人形劇とまでは行かないが、それに近い形で表現したり、街の風景がパズルのように組んだり崩したりと実験精神旺盛だが、奇抜に描いているように見えず、市井の人物の風景が更にやんわり見えてくるのが興味深い点だ。
この戯曲が発表された当時は何も起こらない日常を描くことがかなり革新的であったそうだが、今では平田オリザを先頭に「日常こそが大事件だ!」と描いている演劇人の多い事。
何はともあれ、不思議な体験をした夜であった…。
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満足度★★★★
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ぱぷりかの『どっか行け!クソたいぎい我が人生』を観劇。
昨年の岸田戯曲賞受賞の劇団の新作。
あらすじ:
夫と離婚して、娘とふたり暮らしのシングルマザーのかすみ。
その事を引きづりながら、大学生の娘なしでは生きられない状態だ。
そんな中、かすみの知り合いが恋愛感情のもつれから殺人事件を起こしてしまい、
彼女たちの心境に変化が現れ始めてくるのである…。
感想:
離婚が原因で、常に何かに頼って生きる母親と逃れられない娘が描かれている。
心が病んでいながらも、かすみが仕事仲間や弟夫婦、娘などと仲良く暮らしている生活は微笑ましいが、たがが外れた場面は唖然としてしまう。だが彼女の苦しみと娘の苦悩を直に感じ取ることが出来る瞬間でもある。
離婚後、占い、スピリチュアル、潔癖、娘の溺愛など生きて行く為に何かに取り憑かなければ生き延びれないかすみと同じように、我々も何かに頼って生きているのは間違いない。その事に気づくと同時に「もし宗教が当たり前の様に周りに存在していたら、かすみも我々も少しは楽に生きられるのだろうか?」と考えてしまう作品でもある。
実演鑑賞
満足度★★★★
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二兎社の『歌わせたい男たち』を観劇。
解説:
2005年の初演で物議を醸し出し、今回は再再演。
国歌斉唱問題が取り上げられた時期と並行して作られたので、関心度と完成度で演劇賞を総なめしたようだ。
14年たった今での受け止められ方はどうなのだろうか?
粗筋:
卒業式を2時間後に控え、シャンソン歌手・音楽教師のミチルはコンタクレンズを無くてしまいピアノが演奏出来ない状態だ。初の生演奏での国歌斉唱だ。国歌斉唱を拒否する生徒や先生が出ないことを願っている校長は、ミチルの様子伺いをする。それは昨年の音楽教師は演奏を拒否し、同じことがないことを願うばかりだ。国歌斉唱を拒否する社会科・拝島先生と校長が議論をするが平行線のままだ。彼も同じ考えを持っていたのに今では推進派だ。
そんな最中、退職した桜庭先生が国歌斉唱反対のビラを巻き、警察が来てしまいてんやわんやだ。校長はとんでもない行動に出るのだが、果たして上手くいくのだろうか…。
感想:
歴史認識を踏まえた上で国歌斉唱反対を唱える拝島先生、その内心には同調するも賛成派の校長、歴史認識すらない他の先生と関心がないシャンソン歌手がどのように変わっていくのかが鑑賞点。観客もどれだけ歴史認識があるかでかなり見方は変わってくるが、そんな時はミチルと一緒に物語に入っていけば良いのである。
物語の進行と共に理解が進んで行くと拝島先生の考えに行き着くか?校長の様に成り下がっていくか?と作家に問われるのは確実だ。そこで初めて今作への接し方が見えてきて、メッセージを受け止めることが出来る。鑑賞後の深い余韻が「我々はこれからどうするのか?」を考えるきっかけを与えてくれる。
何故、ミチルはシャンソン歌手という設定なのだろうか?
シャンソンは抵抗の歌なのである。
これこそが真のアングラである!
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満足度★★★★
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3○○の『ぼくらが非情の大河をくだる時〜新宿薔薇戦争』を観劇。
50年前の今、作・清水邦夫、演出・蜷川幸雄、石橋蓮司、蟹江敬三にて公演された革命劇。
10代だった渡辺えりが戯曲に感激し、念願の公演を果たした。
桜の満開の森の下には武士の死骸が埋められているように、新宿の公衆便所の下には革命戦士たちが埋まっていると信じる詩人の弟。
弟を裏切りながらも庇い続ける兄と父。
彼らが生きた時代は学生運動で社会が盛り上がり、社会党の浅沼稲次郎刺殺、マラソンランナー円谷幸吉の自殺、あさま山荘事件、イージーライダー、三島由紀夫と様々な事件が流れていく最中、学生たちは何を想い考え、どのようにして革命の大河をくだっていたのだろう?
清水邦夫の戯曲には物語などなく、詩のようなセリフの数々と時代背景を比喩表現で用いることで当事者たちの心情に肉薄していく。観客は登場人物に
なかなか追いつくことが出来ないながらも、「追いつこう!」「逃さないぞ!」と舞台に前のめりになっていく。そこに蜷川幸雄のダイナミズムが追い討ちをかけ、圧倒的な興奮を得てしまうのである。
人物の内向的な部分を得意とし、そこで評価を得てきた演出・渡辺えりにはダイナミズムは期待出来ないながらも、当時の若者たちへの想いは、遥か山形県から眺めていた感覚に近いのが今作の出来上がりだ。
現代から50年前、そして現代への戻っていく終わり方は、清水邦夫の革命戯曲への新しいアプローチを発見したのかもしれない。
だからこそ今作は貴重な公演であった。
実演鑑賞
満足度★★★
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ばぶれるりぐるの『いびしない愛』を観劇。
以前から気になっていた劇団。
あらすじ:経営難で潰れる寸前の魚のふし(節)工場だが、何とか持ち堪えようと策を練っているが上手くいかないようだ。そこに障害がありながら成功を収めた長女・しおりが戻ってくる。経営を立て直すはずのつもりが、幼い頃からの姉妹同士のわだかまりが爆発してしまうのであった…。
感想:全編通しての高知県土佐清水市の方言・幡多弁で、ふし工場の事務所のみで展開される背景はゾクゾクするが、時間が経てどなかなか物語が見えてこない。姉妹の確執が問題だと分かってきた辺りで大きく動いてくるかと思いきや、それもあっさり解決してしまう。
泥棒の存在も物語を掻き回すだけの存在だった。
田舎の見慣れない職場での風景を描きたかったのか?
だが物語を期待させるような展開にしている。
何故だろう?
不完全燃焼の時間を過ごしたようだ。
実演鑑賞
満足度★★★★
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ほりぶんの『一度しか』を観劇。
今作は三鷹市芸術文化センターの期待の若手劇団シリーズだ。
ほりぶんはナカゴーから派生したユニットのようだ。
北区の団地では老人たちが週一に来る野菜販売を楽しみに待っている。世間話に花が咲きワイワイガヤガヤしているが、どうやら到着が遅れているようだ。そこに「団地内で幽霊が現れる?」という情報を聞きつけ、老人たちは慌てふためいてしまうのだが…。
川上友里、墨井鯨子、上田遥の三人が揃うだけで価値が高い公演だが、まさかの大傑作であった。今までに全く感じたことのない面白さと興奮を得たのも大収穫だ。演出、戯曲の出来もそうだが、それを大きく膨らませる女優陣のすごいのなんの。ナカゴーはあまり引っかかってこなかったが今作は抜群だ。過去作の評判を聞くと同じような面白さを秘めていて、偶然の傑作ではないようだ。
これは後追い決定な劇団である。
女優陣の破壊力は抜群だが、墨井鯨子の破壊力は震えてしまう。
今年一番のお勧めである。