満足度★★★★
ネタばれ
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KAKUTAの【痕跡】を観劇。
大雨の深夜にバーテンダーが河川で目撃した交通事故、
ひき逃げしたドライバー、被害者の子供、その母親、そして子供を救出した人、
その人達のその後の人生を描いた作品。
息子をひき逃げ事故で失い、捜索の結果、遺体が上がらずに行方不明のままだ。だがそんな母親は、一旦諦めた息子捜しも、最近になってマスコミの協力のもと、少しづつ行方不明の息子に近づいていく。
そしてひき逃げをしたドライバーは、心にその事を残しつつ、平和な生活を送っている。更に行方不明になった子供は、救出された人に戸籍不明として育てられ、立派な大人になっている。
そしてこの先の展開は自ずと見えてくるのだが、まさしく観客の思う通りに話は進んでいく。
そこで何故、このようなありきたりの展開で話が進んでいくのだろうか?という疑問が湧いてくる。この展開の裏にか隠されているのではないだろうか?と観客はいやがでも思っていく。
そしてその疑問は、物語として決着をつけるのでなく、登場人物の感情の一面として物語の全てを納得させる手法は、大いに唸ってしまったのである。
傑作である。
満足度★★★
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青☆組の【海の五線譜】を観劇。
何気ない日常生活を細やかに表現する事が出来る劇団。
自分の人生の伴侶の選択は正しかったのだろうか?
そんな思いを妻・典子は、老いと共に痴呆が始まった自分に問いかけるようになっていった。
学生時代の典子は、二人の男性の和彦と健介を好きになっていた。健介からのプロポーズも宮崎での農業生活を考えると断ざるえないのである。
結局、典子は和彦を選んだのであるが、やはり健介への思いは忘れられない。
そしてそれから数年後、偶然にも健介と再会する機会があるのだが、典子は同じ様に健介を断ち切ってしまうのである。
女性作家が描く典型的な恋愛物語。
現実的で、ロマンスを求めようとしても、求められない女性の最終選択は、いつだって世界中何処でも同じなのである。
あのグレイトギャッビーのディズィーすらそうなのだから。
そのロマンスを求められない女性が、ロマンスを描こうとするとたちまちに悲劇が起こるのである。
それは男性にとってはシェイクスピアの悲劇と寸分と変わりないのである。
そう、だから今作は徹底した男性の失恋の物語であり、そこに視点を持って行って観る事が出来れば、傑作である。
最近の小瀧万梨子の芝居の上達度が半端ない。
今、一番の注目株だ。
満足度★★★★
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市川猿之助のスーパー歌舞伎Ⅱの【ワンピース】を観劇。
(市川猿翁のスーパー歌舞伎の新たなるバージョン)
長い原作の「頂上戦争編」を休憩を入れての5時間の長尺。
秘宝ワンピースを探しに旅に出たルフィと仲間達は、シャボンディ諸島での海軍達との戦いで、別れ別れになってしまう。
そして一人になってしまったルフィだが、兄・エースの処刑宣言を聞きつけ、侵入不可能な海底監獄に向かう。
そしてエースの救出劇と共に、兄と父親との関係など様々な試練がルフィに突きつけられる。
原作を大いに尊重しつつ、歌舞伎が持っている気質は失わず、カタルシスが感じられる出来の良い作品であった。
【劇団・新感線】以上の歌舞伎風の美しいアクションの連続、要所、要所の歌舞伎の見得、時折、あまりにも自由過ぎる表現方法が満載過ぎで、やや難色を示す箇所もあるのだが、それはあくまでも中盤の中だるみを抑える方法として、計算された演出は見事である。
そして市川猿翁が必要に描き続けていた「人を信じる」というメッセージが今作でも物語の核になっていて、やはり最後は涙してしまうのである。
これこそがスーパー歌舞伎の醍醐味であり、市川猿翁が思い描いている夢でもある。前作の出来がいまいちであったが、今作でやっと市川猿翁に追いついたという感じである。
感性を刺激してくれるレベルの高い作品であり、今年最後の目玉作品であろう。
チケット代金(¥16500)を出して、この感想を信じる勇気がある人には、大いにお勧めである。
満足度★★★★
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木ノ下歌舞伎の【心中天の網島】を観劇。
今作は前作、前々作とは演出家が変わり、羽衣の演出家・糸井幸之助が登場だ。
羽衣は、妙ジーカルという一風変わったミュージカルを手がけているのだが、その演出家が歌舞伎に挑むのは見ものではあったが、これまた何時も通りの妙ジーカル風な歌舞伎の心中物語を作ってしまったのである。
治兵衛は妻子がありながら、遊女・小春と逢瀬を重ねている。
そして数々の苦難を乗り越えて、ふたりは死への道行を歩み始めるのだが…。
木ノ下歌舞伎は何時もながら原作を尊重して、設定だけは変えながらも、内容は変えずに、深い考察の元に登場人物の心に深く入り込んで描いてくる。
そして今作も治兵衛と小春が何故心中に至った経緯、治兵衛の妻子との生活、小春の無念の思いなど、事細かの人物描写で、観客は登場人物達に魅了されてしまう。
そしてその人物達たちに生き様に沿うような変な歌のオンパレードが観客の心を更に苦しくする。
そして全てが出揃ってからのクライマックスの治兵衛と小春の心中シーンに涙せずにはいられない。
今年三本目ながら、またもや意図も簡単に傑作を作ってしまったようだ。
そして小春の島田桃子、おさんの伊藤志保、そしてダメ亭主・治兵衛の日高啓介が素晴らしいが、個人的には島田桃子が好きなので、彼女が一番である。
今作はお勧めである。
満足度★★★
良作
噺家の人情話し。
良く出来ていて、誰もが楽しめる作品。
決して外さない作品。
満足度★★★
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佃典彦の【(仮)の事情】を観劇。
阿部定の事件を軸に、彼女と同じ様な生き方をしてしまっている現代人たちを描いている。
姥捨て山(老人ホーム)を逃げてしまい、街じゅうを徘徊している痴呆老婆が生きていく糧は、過去の心中にある男の存在である。
しかしそれも本当に実在していたのかは誰もが分からない、老婆たちの妄想のようでもある。
そして現代の老婆たちには、まるで阿部定が乗り移ってしまったかのように男に対する執着は尋常ではない。
そして阿部定と老婆の二重構造の描き方に、時には両者が乗り移ってしまったように進んでいく展開には混乱をきたす。
だがそこが今作の狙いでもあり、面白さである(但し1980年代には、この手の展開の中の物語は沢山あった)
昔から演劇では、女性の情念を題材にして、女性の立場から描く事は多いのだが、恐ろしいほどの女性だけの情念というのは存在するのだろうか?
女性作家は決してそのような事は描かないので、それは男性たちが女性を理解出来ないが為に、勝手に妄想という項目の中で作り上げた物ではないかと気がする。
今作では女性を描いていながら、決して女性目線にはなれきれず、女性を妄想の存在として描いている作品であったようだ。
そして女性を描く事が、現代の最高のおとぎ話になりえるかも?という事も含んでいるようだ。
満足度★★★★
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イキウメの【語る室】を観劇。
とある田舎街で、送迎バスの運転手と幼稚園児が姿を消した。
それもバスのエンジンがかかったままで。
そしてその園児を探す母親、運転手を探す家族、それを煽りたてるマスコミ。
事件は田舎町を騒がすが、それは一瞬だけで、直ぐに静かな街に戻ってしまう。そしてその真相は.....?
という大まかな粗筋だが、ここから話は二転三転していき、ミステリーとはまた違った展開に進んでいく。
人間の意識と無意識、妄想と現実、現在と未来.....、
そんな対立する沢山の言葉の隙間に、作家は観客を強引にねじ込んでいくのである。
そして我々はどのような位置と立場でこの芝居を観るべきなのか?
と自問自答すればするほど路頭に迷い、客電が灯く時の寝ざめの悪さは最悪である。
しかし脳はしっかりと冴えわたっていて、帰りの車中はその芝居の事を考えこんでしまうほどである。
毎作ながら、今作も期待を裏切らない出来であった。
満足度★★★
ネタばれなし
高橋萌登の【まどろみのしろ】を観劇。
シルヴィ・ギエムには遠く及ばずとも、高橋萌登の踊りは、何時観ても何かを感じさせてくれる。
ただ今作は踊りが少なすぎてやや不満。
満足度★★★
ネタばれ
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【その頬、熱線に焼かれを観劇】
劇団チョコレートケーキの史実に基づいた話である。
広島原爆でケロイド状になった女性達が、ニューヨークの病院で皮膚の再生手術を受けたヒロシマガールズの話。
今作は実話をもとに描いている。
ヒロシマガールズに選ばれた女性たちは国家の勧めもあって、ニューヨークで手術を受ける決意をするのだが、選ばれた人数はわずか25名で、その中での彼女達の葛藤、敵対国アメリカに対する様々な思いが交差していく。
とても静かな会話劇だけで構成されているのだが、彼女達の複雑に抱えている心情が時には大きく爆発していき、非常に熱い物語になっている。
その中で炙り出されていく国家同士が争う意味、そして戦争体験がない観客達、その隙間を埋めていくような語り口に、今の我々は一体何が出来るのだろうか?という重たい荷物を戦争体験者から受け取って、今作を見終えるのである。
良作である。
満足度★★★★
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玉田企画の【果てまでの旅】を観劇。
再演で、二度目の観劇である。
中学生の修学 旅行の 宿泊先で、異性に興味深々な男子生徒が女子部屋を訪ねにいくかどうかの話である。
どうでも良い内容なのだが、玉田企画の上手さが存分に出ている芝居である。今作の面白さは、クラスでもあまり目立たない存在の男子生徒達で、女性には奥手で、ツッパリと呼ばれている仲間にはお調子者を演じてしまう地味な男性生徒達を中心に描いている点だ。
誰もが経験した事がある少年期の淡い思いを堪能出来る芝居である。
そして玉田企画こそ平田オリザの口語演劇の真の後継者ではないか?
と思わせる演出力は抜群である。
そしてもう一度言おう!
可笑しさは抜群だが、全くどうでも良い内容な演劇であるのは間違いない。
でも必ず毎回観てしまう玉田企画である。
くだらないけど傑作である。
満足度★★★
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劇団HIT!STAGEx14+の【血の家】を観劇。
異母姉妹達が父の訃報を聞き、長崎の実家に帰省して起こる家族の諸問題を描く物語である。
主に長崎と福岡で活動をしている地方劇団らしい。
地方劇団が概ね題材に選ぶのは、家族の人生観のずれが生じて起こる争いを描く事が多いのだが、今作も典型的な家族観を描く芝居だ。
作家は決して外から見ようとせず、当事者の視点で描く事が多いからか、客観的にはならず、なお且つ芸術的要素が皆無に等しい分、土着的な部分の印象が強くなる。
が、その分創造性はあまり感じられないが、リアリティーがある分だけ、何かが心に突き刺さる深さは半端ないのである。
だが共有出来ないと、何も刺さる事もなく終わってしまうのが芸術的要素が欠けている演劇の弱さでもあるようだ。
今作に至っては、観客の各々でかなり感じ方が違うようである。
満足度★★★
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八月納涼歌舞伎の【ひらかな盛衰記】と【京人形】を観劇。
先月の歌舞伎nextに続いて、今月も中村観九郎。
彫刻の名工・左甚五郎は、廓で見た太夫が忘れられず、そっくりの人形を作ってしまう。
そしてその人形と二人っきりで酒盛りをするのだが、その人形が魂を持ってしまい、一緒に踊りだしてしまうという物語。
こんな話はバレエのコッペリアでも扱っていたが、今も昔も片思い男性のやっている事は変わらずというとこか。
甚五郎と人形が一緒に踊るという行為が、バレエのコッペリアのように美しいわけではなく、歌舞伎ならではの滑稽に踊る姿が、何とも甚五郎の切なさと愛情の深さを表しているようだ。
満足度★★★
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劇団・野の上の【東京アレルギー】を観劇。
観音林まりあ(35歳)は地元の青森で恋人を失い、失意の為、東京に上京してきたのだが、何故か鼻がムズムズ、喉がイガイガと東京での生活で、アレルギーになってしまったようだ。
そして都会での生活もなかなか上手くはいかず、何時も心のよりどころはK(希望)ちゃんとZ(絶望)ちゃんである。
そんな彼女の希望から絶望の人生を歩んでいく物語である。
舞台の場所は東京なのだが、登場人物が全編津軽弁なので、一体ここは何処なのか?と終始錯覚してしまう。
一生懸命に生きているのだが、決して同情出来ない彼女の人生に対して、津軽弁という言葉の海に泳がされてしまって、観客の我々は、終始奇妙な感覚を彷徨ってしまった2時間であった。
満足度★★★
出来は良い
俳優も戯曲も演出も良く、非常に良く出来た作品。
小劇場ファンが喜ぶような手法や戯曲ではないだけに、個人的にはやや満足度は低い。ただ兎に角、完成度は高い。
この実際にあった史実シリーズを続けていけば、人気が出るのではないかという感じがする。
満足度★★★★
旬な作品
2年後の再演で、内容も変えていないのに、まるで旬の作品に見えてしまうのが、今作の素晴らしところでもある。
見応えあり。
満足度★★★★
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長塚圭史の【かがみのかなたはたなかのなかに】を観劇。
海沿いの部屋で、一人で出撃の準備をしている兵隊のタナカさん。そのタナカさんの心を映している鏡の向こうのカナタさんも同じようだ。
そんな二人が女性に恋をしてしまうのだが、互いの心が分かっているだけに上手くいかないタナカさんとカナタさんの運命や如何に?という物語である。
鏡の向こうの世界とこちらの世界を行き来して、自分と自分の分身という現実と妄想が行き来している不条理な世界である。
不条理を生み出すという事は、そもそもが己の心の葛藤でもあるのだが、出撃前の不安に脅える心の葛藤、女性に恋してしまった
心の葛藤が分身を生み出してしまい、そこから更なる葛藤が始まるのだが、その葛藤を上手く乗り越える事が出来るのかどうかは
やはり己の葛藤でしか解決出来ないという答えを出している作品である。
相変わらず難易度が高い今作は、長塚圭史の傑作舞台【荒野に立つ】の様な不条理演劇っぽく見える作品である。
今作は子供が観れる芝居と謳っているが、これこそが精神疾患の患者を常に薬のみで治そうとしているヤブ医者が観るべき芝居である。
満足度★★★★
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歌舞伎nextの【阿弖琉為】を観劇。
13年前に劇団・新感線がいのうえ歌舞伎と銘打った【アテルイ】を新たに歌舞伎に仕立てた直した作品。
前作は歌舞伎役者と小劇場俳優が混成して、ロック音楽と派手な照明、立ち回りを駆使した、新感線らしい
舞台だったが、今作は歌舞伎として作品を成すという事らしいが、そんな事は微塵もなく、何時もの新感線らしい作品になっていた。
国家統一を図ろうとする大和朝廷の帝人軍(みかどびと)とそれに反乱する北の民・蝦夷(えみし)との戦いの物語。
帝人軍の征夷大将軍・坂上田村麻呂と蝦夷の大将・阿弖琉為の国家の存亡をかけた戦いでもあるのだが、互いが求めるのは国家の平和であり、権力争いではないのだが、そこにまた悪の化身が存在するという荒唐無稽な物語になっている。
前作の【アテルイ】では、敵対する相手を認めながらも、理想の国造りが出来ない中での葛藤と友情を元に描いていたのだが、今作では、悪の化身が悪ではなく、己が信じている神様が最大の敵という複雑な展開になっている。
前作のこぎみよい展開を踏襲しつつも、主人公達の悩みは前作に増して最大であり、観客はその主人公達と共に悩まなければいけないという流れに導かれるのが、何時もの新感線とは違う見所である。
そしてその見所は、13年後に出した新感線の問いかけであり、その答えを歌舞伎を通して考える事が、今作の本当の面白さである。
チケット代金は高いが、お勧めである。
満足度★★★
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新宿梁山泊の【二都物語】(作・唐十郎)を観劇。
初演は1972年に状況劇場が、上野・不忍池を朝鮮海峡に見立てて行った伝説の舞台である。
今作は、池のない新宿花園神社のテント芝居で、どのように朝鮮海峡を描くかが見所であったが、驚くような方法で海峡を表現してきたのである。
唐十郎の描く世界は、社会の底辺でうごめいてる人々の個人のアイディンティーや宗教観などを背景に描きつつ、純愛を高らかに歌い上げる展開で、今作も日本と朝鮮の国境の狭間に生きる男女の三角関係の物語だ。
特に唐十郎の作品は、主役、ヒロインの他に少年や少女が重要な役回りを担っていて、その俳優の力量次第では作品の評価も二分する。
以前でいえば小林薫というところか。
今作では、大鶴義丹と水嶋カンナというベテランで攻めてきたが、光子役(6/26日)を演じた若手女優が、実力か?演出力か?兎に角、唐十郎の描く世界の少女感を体現していて、リーランの愛よりも光子の愛が勝ったのは観客の誰もが納得するところだ。
まぁ、ただあえて希望を言うと緑魔子の妖艶さが少し欲しいかな?
そして唐十郎の戯曲は、本人が演出しようが、蜷川幸雄、金守珍など様々な人が演出しようが、やっぱり第七病棟の石橋蓮司が一番上手いという結論に達したようだ。