YUBOの観てきた!クチコミ一覧

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月の剥がれる

月の剥がれる

アマヤドリ

座・高円寺1(東京都)

2013/03/04 (月) ~ 2013/03/10 (日)公演終了

満足度★★★★★

世界との対峙
物語世界の無限の広がりを感じる素晴らしい劇空間でした。一つの集団(思想)の始まり~終わり、過去現在未来、死生観みたいなものがない交ぜとなって、でも実感としてはもう終わっちゃうのってくらい見惚れてしまいます。あっと言う間だった。要所に盛り込まれた30名近い俳優の群舞は、何か自分が丸ごと吸い込まれていくような圧倒的な力がある。公演チラシの言葉を何度も読みながら、正しさって何だろうと考えました。

ネタバレBOX

散華(さんげ)の思想は、何だか引き込まれてしまうような魅力がある。自分の国の軍隊が人を殺した数だけ、散花のメンバーも同じ数自決する。自分の命を懸けた脅迫だ。自己責任って言葉が流行る日本人の思考にぴったり合うのかもしれない。「平和とか世界とかそのどうしようもなく大きくて抽象的な問題にどうやって向き合ったらいいのか。」、極端だけどそうした思いへの1つの答えに見えてくるから不思議だ。散花の失敗を教訓に未来の人達がたどり着く、「平和や統制のために怒る事を放棄する」という発想も、極端で悪夢のように見える。じゃあ、一体何が正しいのか。

劇の冒頭、暗闇の中で無から音や生命が生まれる。人類は進化しそして未来へとつながっていく。散花が生まれ、終わり、未来が提示される。そしてクライマックスで時計が反転して元の無にまでさかのぼっていく。どこまで遡ってやり直したら、僕たちはうまくいくのかと思ってしまう。高望みしなければ便利で快適で平和な日常。でも、退屈で空虚でそして危うい。貧困・格差・原発・戦争。自分の日常がある日突然、悪夢に変わるかもしれない危うさ。そんな時代に生きているように思う。それでも「おはよう」って目覚めるんだなぁと思うと、嬉しいのか苦しいのかわからないなぁ。

物語はわかりやすく深い。言葉も刺さるけれど、群舞のような俳優さん達の動きが本当に美しくて力強くて圧倒されました。
クレイジーハニー

クレイジーハニー

パルコ・プロデュース

PARCO劇場(東京都)

2011/08/05 (金) ~ 2011/08/28 (日)公演終了

満足度★★★★★

ヘンキョウで大嫌いと叫ぶ
魂を削るような快作。まるで狂ったような感情の激しいうねり。怒っていたかと思うと、次の瞬間笑い、泣き、ふさぎ込み、叫ぶ。2時間強の間、一体どこに着地するんだと思うくらい、主人公ひろみの感情はグルグルと回り続ける。今作も期待以上、やっぱり早くからチケット取って見に行った甲斐があるなぁって思う公演でした。

本谷有希子の描く人間は、人間らしすぎる人間が魅力だと思う。独特で生きた言葉。肥大しすぎる自意識からくる妄暴走。普通を疑う姿勢からくる自由すぎる自由。人生にそんなに簡単に答えなんか出ないんだというスタンス。エンタメとしての公演の構成。簡単に答えが欲しいと思ってしまうと、本谷作品はどこか冗長に感じてしまうが、こんなに生き方を楽にしてくれて、どうしようもない人間の愛おしさを感じてくれる作家は、僕はまだ知らない。

ネタバレBOX

 携帯小説家としてデビューし、今は若くして落ち目の女流作家ひろみ結城。トークショーに、親友でゲイの甘田と出演するも観客は少ない。トークショーの企画を立てた編集者は、この場から新たな企画を考えていた。それは、集まったひとみのファンに自由に質問させて、その赤裸々なトークを本にしようとするものだったが…。

本谷さんの小説「ぜつぼう」にどこか類似を感じつつも、そこから飛躍して深化したなぁという印象の本作品。小説家としてファンが作り出す勝手な理想像と、実像とのギャップ。流行の一過性で、もてはやされたかと思うと突き放される。その構造は、物語としてとても面白い。「私の小説読んで生きる希望をもらったのなら返してよ」とか捨て台詞も秀逸。

何より、魅力的に感じたのはひろみ(長澤まさみ)と甘田(リリーフフランキー)の葛藤。人とつながりたい、でもつながれない。期待して裏切られてまた期待して。〈人は簡単につながれる〉、ってどうして言えるのだろうか?〈人間はいくらでもやりなおしが出来る〉、ってどうして言えるのだろうか?世の中がみんなそうやって生きてるんだから普通出来るでしょうと迫ることに対して疑ってかかる。「人とつながることは暴力です。(つながろうとする)あなた達はモンスターです。」でも思いつめながらも、途中何度かありのままの自分を受け入れようとする。「人とつながることは大事です。つながることを否定することは悲しい人間です。」が、しかし。またすぐに落ち込んでしまう。勿論、現実でも物語でも1夜にして劇的に悩みが解消する訳がなく、答えも出ないのだけれど。その七転八倒する葛藤が魅力的だった。過去、何作品か見ているが、いつも暴走するのは主人公一人だった。でも今回は味方がいる。それはとても新鮮だと思った。普通の人の言葉は、主人公の人達には届かない。自意識にしろ、客観的にしろ、〈ぜつぼう〉を共有した仲間とだから分かり合える喜び。そして、その仲間とすら分かり合えない悲しみ。喜怒哀楽なんて区分けでは出せない感情を呼び起こされて、とても共感する。

「3・11」と関連させる意図は感じなかったけれど。でも、「つながろう日本」に息苦しさを感じてしまう人は少なからずいるはずだ。「つながりたい、でもつながれない」。考えれば考えるほど、真面目であるが故に答えの出ない実像探しにグルグルと迷いこんでしまうのだ。それでも生きていくしかない。でも、考えずに考えずにただ逃げ出すことを許さない〈普通の世間〉の息苦しさと戦って生きていくことはどうしてこんなにしんどいんだろうか。

な~んて。好き勝手書いてる僕も、当然浮ついた1本谷ファンに過ぎないんです。勝手に作品に惚れ込んですみません。…って謝ってもダメならどうしたらいいんだ~。とりあえず、今後の活動にも期待っっ!!
Caesiumberry Jam

Caesiumberry Jam

DULL-COLORED POP

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2011/08/20 (土) ~ 2011/08/28 (日)公演終了

満足度★★★★★

すっげー、芸術的っっ
きちんと調べて、まとめ、作り込まれた芸術的な脚本。登場人物になりきって観客を舞台にのめり込ませる確かな役者陣。同時多発的に風景が演じられそれが一つの画として魅せる、緻密で壮大な世界を浮かびあがらせる演出。圧倒された。自分の感性に響く、凄まじい公演だった。刺激的。美しい。でもわかりやすい。見れて良かった。良い芝居を見るとシビレル。

ネタバレBOX

チェルノブイリ原発事故現場から30キロほど離れた村の事故前から2005年までの風景。一人の日本人カメラマンは、その暗くて重い灰色な村で明るく過ごす村人達の風景を切り取り、話を聞いていく。年を経て村を度々訪れる内に他人事とは思えなくなってのめり込んでいく。村人達はある者は死に、ある者は去り、ある者は残り続ける。

驚くことに物語の終盤まで、放射能やチェルノブイリという言葉は出てこない。今でこそ当たり前に知ってるセシウムは、初演時はほとんど浸透していなかった。でも非言語的に、または言葉の端から伝わってくるただならぬ空気。これを5年前の初演時に作ったのがすごいし、今やるのもすごい。

「3・11」を知った我々の目の前に繰り広げられるのは、明日の我が身かもしれない登場人物たちだ。同じ状況におかれたその時、私達はあの楽観的に最後まで自分達の故郷で生きようとし続けた村人のように笑えるのだろうか。ノンキにこの芝居を見ることは今の自分にはとてもできない。

チェルノブイリ事故当時ですら、風に乗ってセシウムは日本にまで運ばれてきている。いわんや、「3・11」以降、日本は現在進行形の非常時だ。でも、テレビで「人体にただちに影響はありません」と繰り返され安心してしまう周囲の人たち。あんなに毎日四六時中流されていた福島の原発の現状は、もうテレビではほとんど報道されないのに。東京で被爆することを恐怖する自分は、考えすぎだと笑われる。でも、怖いのだ。だから、作品に登場する人達の、無理矢理にでも明るく振舞う様子を見て、その生々しさに、どうかみんな逃げて、生き延びてくれと、切に願ってしまう。そんな事を思わせるほどリアルだった。

「朽ちていった命」という本で、被爆するとどんなに苦しいか読んだ。作品中にも、終盤、事故当時に苦しみながら亡くなった消防士が描かれるが、苦しみを想像すると息苦しい。願わくば「3・11」前にこの作品を見たかった。今、見ると、衝撃が大きすぎる。

カラーパンフレットを買った。どうしても、自分は「原発」と「自分の現実」と重ねてしか作品を見ることは出来なかったが、世界を限定せずに、感性で捉える事で広がる演劇を信じる作家の魅力から、芸術の力を感じた。活動再開したDULL-COLORED POPからは今後も目が離せない。
Re:カクカクシカジカの話

Re:カクカクシカジカの話

非戦を選ぶ演劇人の会

こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ(東京都)

2010/07/20 (火) ~ 2010/07/21 (水)公演終了

満足度★★★★★

心強いっっ
平和主義は理想的で非現実的なのか?
丁寧に核抑止論の矛盾を解きほぐす第一部。
地球上で今も内部被爆してる?
ドキュメンタリー映画監督が今を語る第二部。
そして追悼井上ひさしの第三部。
圧倒的に言葉の力強さを見せつけられた。
三部共に日本演劇を支える一流の演劇人達の共演。
これで1500円!
日本の演劇の骨太さと力強さを感じます。
勇気づけられる。
来年も絶対行きたいっっ!

ネタバレBOX

会場に到着直前、
役者の戸田恵子さんが歩いているのを見ました。
オーラ、出てたなぁ…。
『サンタクロース会議』『サンタクロース会議 アダルト編』

『サンタクロース会議』『サンタクロース会議 アダルト編』

青年団

こまばアゴラ劇場(東京都)

2012/12/14 (金) ~ 2012/12/23 (日)公演終了

満足度★★★★★

すごく近しい問題意識
子供参加型は子供も大人も楽しめる作品。もちろん演出の巧みに計算され尽くした自然さはありつつもコミカルなキャラクターや、わかりやすい笑いも多くて、青年団はこういう物語も作れるんだなぁと思いました。子供参加型もアダルト版も両方観劇しましたが、個人的好みとしては子供参加型です、サンタクロースについて精微に調べて書き上げた物語も、子供の感性には追いつかないんだなぁと思ったし、役者さんのタジタジ具合も、子供の生の反応も楽しい。でも可能な限りの現実に即したサンタクロース会議への反証をアダルト版で消化していて納得もさせられました。基本の物語は同じなのに、見え方の違う2バージョンを是非多くの人に満喫してほしいなと思いました。

人魚の夜

人魚の夜

青☆組

こまばアゴラ劇場(東京都)

2014/01/10 (金) ~ 2014/01/20 (月)公演終了

満足度★★★★★

溶解する
美しくて優しい空間。繊細で理想的に見える話だけど、世の中を斜に構えて見てしまう僕自身を丸ごと包んでくれる強度があった。喪失すること、忘れること、生きること、日々の当たり前の日常が愛しくなる。こういう気持ちを大切に毎日生きていけたら良いのになぁ。頑なな自分の気持ちを溶解してくれる物語に、ただただ救われた。

雪が降ってるのなど見たことないが気のせいか

雪が降ってるのなど見たことないが気のせいか

ガレキの太鼓

こまばアゴラ劇場(東京都)

2014/01/23 (木) ~ 2014/02/03 (月)公演終了

満足度★★★★★

ぶっ飛んでる!
何度かガレキの太鼓の公演拝見してますが、深化したなぁと思います。個人的に今作はもの凄いツボに入って、アガリまくりました。マンションの1室で上演していた覗き見公演と、劇場でやっていた見たことの無い独特な世界が融合して、何かすげーもの見たなと思いました。見たことの無いワクワクを見せてくれるんで、今後の作品にも期待です。

ネタバレBOX

ツボはたくさんありますが、おしりかじり虫の唐突の無さに爆笑でした!
いないかもしれない 動ver.

いないかもしれない 動ver.

青年団若手自主企画 大池企画

アトリエ春風舎(東京都)

2012/06/16 (土) ~ 2012/06/24 (日)公演終了

満足度★★★★★

動きまくり
え、本当に「静」と同じ物語??って感じ。「動」vrの方が楽しかった。(うさぎストライプの【役者に負荷かかりまくりのアグレッシブさ】にガツンとやられて惚れ込んでるかもしれません)でも、きちんと物語を楽しむには「静」vrくらい言葉が必要なんだなと実感。大事な根幹は伝わるけど、「動」と「静」で受ける印象はまるで違う。

ネタバレBOX

小学生の時のいじめっこといじめられっこが同席する、同窓会の2次会。それぞれが小学校時代の事を回顧しながら、話をしてる中で人一倍同級生の皆の事を知ってるのに、誰もその子の事を思い出せない女が混ざってる。「静」vrの時は、この誰だかわからない女が終始その空間にいるので、終盤まで何だか不気味な緊張感のある空間だった。

一方で「動」vrは過去と未来も言葉と動作も一貫せず、唐突に役者に負荷の掛かるようなパフォーマンスと共に回想が語られたり、リフレインしたりするのでその重苦しい空気を全然感じなかった。その代わり、壁を押したりルールに則ってゲームしながら集中力を削がれ、体力を消耗しながらなので、役と素の役者の中間にその存在は追いやられて、生々しくて力強い発声や動作に観客として心動かされる場面は多かった。「静」vrの際にネガティブに感じたラストの3次会のシーンも、「動」では前向きな未来を想起させるように見えた。

「静」できちんと物語を伝える事も、「動」で追い込まれた役者の素の部分まで見せて表現の深化を問う演出も両方出来るんだなと実感して、今年、予定されているこれからの作品も是非体感したいなと思いました。
『熱狂』『あの記憶の記録』ご来場ありがとうございました!次回は9月!

『熱狂』『あの記憶の記録』ご来場ありがとうございました!次回は9月!

劇団チョコレートケーキ

サンモールスタジオ(東京都)

2013/03/23 (土) ~ 2013/03/31 (日)公演終了

満足度★★★★★

「熱狂」観劇
手に汗握る、ただただ興奮の2時間!!もう本当に目の前で演技が見れて、まばたきするのも勿体無いくらい、まさしく熱狂して観劇しました。歴史は詳しくないのですが、十二分にワクワクして心鷲掴みにされる公演でした。ナチスの持つドラマティックで緊張感がある史実を並べて見せることで、圧倒的な強度のある物語に仕上がっていました。それを演じきる役者さん達も本当にうまい。関連資料が配られたのも嬉しい。何より、演説。不謹慎を承知で、あの演説ならば騙される。だって、かっこよかったもの。これは、観れて良かった。

バルカン動物園

バルカン動物園

青年団

こまばアゴラ劇場(東京都)

2011/03/18 (金) ~ 2011/03/28 (月)公演終了

満足度★★★★★

今、見るということ
情勢が不測の大惨事で混乱する中ですが、出会えて良かったと思える心動かされる舞台でした。舞台のテーマの科学と、情勢の原発とを無理やり重ねて見てしまう自分もいましたが、生きる事の当たり前の喜びを感じさせてくれる内容だなぁと思いました。目の前で自分の人生とは別の日常がリアルに、でも淡々と描かれる、青年団の舞台では日常が何でこんなにドキドキするんだろう。そして幸運にも、劇場に足を運んで芝居を見れる自分の日常をとても喜ばしく思います。

ネタバレBOX

当たり前のように信じている進化の果てのホモサピエンスという、心を持った存在を、観劇後は何だか不確かなものに感じてしまうフワフワした気持ちです。手塚治虫の漫画の様に、100%機械でも感情を持ち、人が脳だけでも生きられるようになった時に、それでもまだ未知な世界を探求し続けるんだろうなと思うと人間ってすげーです。その歴史の大きさ、過去と未来にクラクラします。
玉田企画『果てまでの旅』

玉田企画『果てまでの旅』

玉田企画

アトリエ春風舎(東京都)

2012/02/24 (金) ~ 2012/02/29 (水)公演終了

満足度★★★★★

こういうのっっ
何でもない事がとてつもなく大事で、空気と友だちが全てで、自分の居場所を作るのに一生懸命で、空回りまくった自意識の暴走が、このみょ~な緊張感を産むのかな。登場人物達の居心地の悪さが、とてつもなく面白い。ふざけたり、遊んだり、それだけなのに、絶妙。何だか、神がかって見える位、笑った。

ネタバレBOX

中学生の修学旅行中の宿。夜、男子たちが女子の部屋に勇気を出して遊びに行く。女子部屋で、加藤役の方の膝がバキバキ鳴ったとき、あぁ僕の観た回は笑いの神が降りたなと思いました。自由度が高そうで、でもこの気まずい空気を作り出せる役者さんの力量はやっぱりすごいなと思います。
カップルズ

カップルズ

鵺的(ぬえてき)

「劇」小劇場(東京都)

2012/01/27 (金) ~ 2012/01/31 (火)公演終了

満足度★★★★★

フツウを問う
目の前に起こってるのは事件。人が超える一線の手前とその先。リアルで生々しい空気と、それを魅力的に包み込む物語の嘘の心地よさ。そのバランス感覚が絶妙。会話劇で応酬されるメリハリの効いた、耳に残る効果的な言葉の数々。重たい内容で衝撃的なシーンもありつつ、観劇後の感じは悪くない。むしろとても心地よい事に驚く。それだけ、丁寧に物語を伝えているから共感や共鳴というより、鵺的の公演に遭遇・同席という感じ。観客と物語の距離感が近く感じる。

ネタバレBOX

普通のセックスとは何か。性的な指向の「セックス」はまだまだ個人的なものに追い込まれているし、生物学的な「セックス」はタブーとすらされてる気がする。そんなセックスマイノリティという問題に真っ向から向き合う本作にとても共感する。アフタートークで作演出の高木さんが過去の作品「クイアK」との同一性に触れ、もう一度やりたかった思いを語っていた。幸運にも「クイアK」を観劇し、台本を購入していたので読み直してみると確かに同じテーマだ。どちらの作品にも自分の性的欲求に関して受け入れてしまうと「世界が変わる」という台詞が出てくる。僕の友人にもゲイだとカミングアウトしてくれた人はいるが、誰彼に言える話ではないし、偏見も多いと思う。嗜好というには軽すぎるし、依存や逃避のための行動に貶めるのは不幸だ。劇中に何度も言われる「普通のセックス」とはなんだろう?それを楽しめる人がどれだけいるだろうか?という問い掛けを感じる、良質なエンタメ作品だった。

物語の中心は、吉川と池谷の男2人だが、その周囲を取り巻く女性陣がリアルで魅力的で、特に宮嶋さんの演じる亜里香に圧倒された。「相手の事を考えてやらないと気持ちよくないよ」と語られる一方でクライマックスで「私のことなんて考えない自分勝手なセックスのほうが興奮する」とも語られる相反するようで相関する哲学。「私と池谷は特別な関係でつながっているのよ」という重み。ラストの「これでつながれたね」も良い。「素直になると壊れてしまう」の台詞が印象的な登場人物の中村の複雑な気持ちもとても丁寧に描かれていたと思う。
モナカ興業#12「旅程」

モナカ興業#12「旅程」

モナカ興業

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2012/10/19 (金) ~ 2012/10/28 (日)公演終了

満足度★★★★★

人生という旅
浮かび上がっては消えていく点の風景が、徐々につながり何本もの線になっていく。とっても静かに始まって終わる、でも中身はとても深い。一見シンプルだなと感じていた舞台空間に役者が立ち、光と音が加わると一気に荘厳な印象を受ける。セリフが独特に感じるのは、要所で文語体のような響きがあるからだろうか。動きも無駄が削ぎ落とされていて、洗練された風景は、一瞬一瞬が美しい。どうなるか先は全然読めない物語の展開は、観客側にも緊張を与える。緊張感のある空間は硬質なのに、とても居心地が良い。テーマも良かった、こういう味わい深い作品は、余韻も楽しい。

バカのカベ~フランス風~

バカのカベ~フランス風~

加藤健一事務所

本多劇場(東京都)

2012/11/15 (木) ~ 2012/12/02 (日)公演終了

満足度★★★★★

カトケン、満喫っっ
すごいなー、もう冒頭から引き込まれて、ただただ笑って、そして観劇後に見事に何も残さない。満足感と幸福感だけを胸に帰路につける。長年演劇に携わり、劇団公演を重ねてきた貫禄と安心感。普遍的でさりげないし、ありえない様な設定のはずなのに、何でこんなに面白いのか。人間って情けなくて愛らしくて良いなって思える上質なコメディ。ようは、すげー舞台だった。

若手演出家サミット2011

若手演出家サミット2011

アトリエ春風舎

アトリエ春風舎(東京都)

2011/12/15 (木) ~ 2011/12/25 (日)公演終了

満足度★★★★★

唯一無二
普段見ることの出来ない演出家ワールドを堪能っっ。演出家の方達の思いを片鱗でも垣間見れる機会、物語以前の役者さん達の躍動、繰り広げられるアフタートークのモロモロ。あぁ、とっても覗き見てる感じで甘美な時間だった。

無差別

無差別

柿喰う客

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2012/09/14 (金) ~ 2012/09/24 (月)公演終了

満足度★★★★★

神掛かってる
観客に、そして神に捧げる(!?)演劇、美しいなぁ。「言葉」も「動き」も「音」も「光」も一体となって、もう寸分の隙もなくて、ただただ見惚れる。この役者達の身体性の高さはなんだろう、圧倒的なフィクションに身を委ねるだけでこんなに心震わされるんだなという感じ。まるで、漫画「火の鳥」を読んでいるような、壮大な世界観、日本人の進歩と調和、視点は人間に留まらず、世界は無限に広がる。見る度に、もう1回見たくなる麻薬のように刺激的な劇空間は今回も顕在でした。

従軍中の若き哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン....

従軍中の若き哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン....

Théâtre des Annales

こまばアゴラ劇場(東京都)

2013/03/29 (金) ~ 2013/04/07 (日)公演終了

満足度★★★★★

興奮しまくり
知的好奇心と演劇の面白さを最大限に刺激する、極上の劇空間。観劇するまでウィトゲンシュタインの名前も知らなかった僕でも楽しめたので、予備知識なくても安心して観れると思います。個々の正しさを主張しあう事がそのまま物語につながっていく無駄のなさ。でも観客に考えさせる余白をしっかり残す。役者さんの演技も迫真で、舞台上の演出もキレッキレで、息飲む劇空間!!文句なしに大満足っっ!!

ネタバレBOX

3月3日の鬼頭先生の講座にも参加しました。作品を作る過程を垣間見れたのも、ウィトゲンシュタイン研究者の先生の話を聞けたのもとても刺激的でした。ウィトゲンシュタインの激動の人生、そしてウィトゲンシュタインが言葉で世界を説明しうると理解を深めていく過程が丁寧に描かれている。神はいるのか、いるとしたらどこにいるのか。ウィトゲンシュタインが理解した哲学がどこまで世界に通用してどこまで通じなかったのか。それと同時に目の前にある戦争という現実に対して、その明らかにした哲学はどこまでが通用して、どこまでが無力なのか。

物語終盤、光の無い、真っ暗な空間で音と声だけがする不気味さで描かれる戦争風景にゾッとする。怖い。戦争なんかなくなればいいと思う。20世紀。科学の進歩で兵器も進化してたくさんの人が簡単に殺せるようになった。人間には想像力があって、その想像力があれば人が人を殺すことへの無意味さや恐ろしさが容易にわかるはずなのに。

哨戒塔の上に立ったときに初めて僕の戦争が始まるってどういうことなのか。どうして志願して戦地の最前線に来たんだろう。ウィキペディアでウィトゲンシュタインを調べると、彼の兄弟は結構ウツで自殺しているらしい。彼自身も、発達障害なのかと思うくらい、気性の激しい生涯を送っているように見える。彼にとって、生きることへどういう意味を見出したのだろう。やっぱり生きづらかったのかな、この世界が。だとするとすごくウィトゲンシュタインが身近に感じる。哲学なんて深遠なものは、僕自身のクソみたいな人生には無縁だと思っていたけれど、その思想や考えが人生をより良くしたい、知りたいという衝動から導かれたものなのだとしたら、共感できる。

そこに人間が生きている、極上の劇空間だと思いました。「趣味は読書。本を読んでると良いなと思う言葉があって。意味はわからないけどグッとくる」みたいな台詞が出てきて、その感動に激しく共感しました。とても良い言葉だ。
グルリル

グルリル

sunday

パルテノン多摩【旧情報】(東京都)

2013/01/11 (金) ~ 2013/01/12 (土)公演終了

満足度★★★★★

キラキラした世界
ずーーーっと見ていたい、壮大な物語空間!!ものすごく期待して見に行って、それを上回る驚きと感動をもらいました。まだ1月上旬にも関わらず、2013年のマイベスト舞台なんじゃないかと思うほど見とれて、あぁ永遠に見てたいと思いました。10の世界が少しずつずれながら並行世界として表現される物語のスケールにはただただ圧倒されます。本当に10人で演じ分けているのかと思うほどのたくさんのキャラクターが登場しているのに、瞬間、瞬間で別のキャラクターに切り替わっているのが目に見えて分かり、徐々に世界同士の連関が見えてくるのが本当に楽しいです。そして、美術や音楽や照明と合間って、その瞬間、瞬間が美しい。この世界を体現出来る役者さん達は本当にすごいし、舞台でしか見れない至福の時間でした。もう、ただただ楽しかったです。しばらくはパンフレット見ながら余韻にひたります。

ソウル市民五部作連続上演

ソウル市民五部作連続上演

青年団

吉祥寺シアター(東京都)

2011/10/29 (土) ~ 2011/12/04 (日)公演終了

満足度★★★★★

昭和望郷編、観劇
「ソウル市民」「1919」に続いて3作目の本作見てみて、改めて現代口語演劇と「ソウル市民」の持つ史実の相性は良いなと感じる。でも、自分の知識の足りなさから「圧倒された」としか言えない語彙能力の浅さが悔しい。「ソウル市民」「1919」と比べると、重たい空気が増すのは時代性なのだろうか。その息苦しい空気さえも伝わってくる感じが魅力だ。「占領された韓国の人への「無関心」に加えて、日本人としての居心地の悪さが印象深い快作。

マリア

マリア

Straw&Berry

王子小劇場(東京都)

2013/04/17 (水) ~ 2013/04/23 (火)公演終了

満足度★★★★★

葛藤のその先
わかりやすい絶望。「孤独で不安で寂しい」普遍的な気持ちを過剰なエログロナンセンスでしっかりエンタメに仕上げていて、作・演出の河西さんの作る世界は毎回観劇するたびに居心地が良いなと思います。出演者の方達も見事に世界を体現していて、なんでもない会話の言葉1つ1つが物語世界を引き立てているなと思いました。

ネタバレBOX

国分寺大人倶楽部の過去作品を幾つか見ていますが、これまでの作品を通じて繰り返し用いられる思いの共通項のようなものは何だろうなと考えました。

例えば「閉ざされた空間での内向的な人間関係」。物語の中の登場人物の中だけで世界が完結していて、彼ら彼女らはどこにも行けないんだろうなという寂しい感じ。過去作品を振り返ってみても、会話や設定から、物語の外側はほとんど描かれてないように見える。

「現実はこんなもんだと突きつけるような暴力的でシニカルな視点」。永遠の愛なんて無いことを、死や暴力や絶望でこれでもかと見せ付けるシーンは、どの作品にも共通しているのかなと思います。

「常に緊張感の漂いながら観客を引きつけて離さない展開の早い盛り上がりの連続の物語構造」。キラキラした一瞬が面白くて、その間の余白も、その後の長い人生にも興味がないように思う。

それらが浮かび上がらせる物語は、極端な自己肯定感の喪失や共依存を通じての逆説的な問題提起なのかなと思います。ご都合主義なほど絶望的な物語が突きつけられるほどに、反面希望が浮かび上がってくるところが不思議です。もっと周りの大事な人を、そして自分自身を信じても良いよなと逆説的に感じさせてくれるところが面白いと思います。

開場中に流れる神聖かまってちゃんの「死にたい」を連呼する歌詞を聞きながら待つ開演、目の前は天井から布がたらされていて舞台美術が見えない。この時点で既にテンションあがってしまう!開演して作りこまれた1LDKの部屋の舞台美術にびっくり。そして、しばらくして場転してシーンが変わると舞台美術がガラッと転換!!左半分に主人公の実家の自室、右半分は喫茶店になって2つの異なるシーンが並列で語られるのに再度びっくり、すごい作りこまれてる。

今作の主人公のシゲルは、作中に3年間の時間が流れても全く成長しない。五体満足で家族も仲間もいても、自分は誰にも愛されていないと感じる自己肯定感の低さ。一方でありふれた幸せを見せて、他方でそれらは自分以外の人の手にあって僕の手元にはないという認知の歪み。

物語のラスト(2013年)
舞台の左側では、愛されたいと思うけど皆離れていってしまうと思ってしまう主人公シゲルは、最後は血まみれで母親とキスをする。それは絶対に裏切らない無償の愛を与える母親への、現実逃避なのかなぁ。
舞台の右側では、過去(2011年)にシゲルと「ずっと手をつないでいる(一緒にいる)」と話していた彼女(まりあ)が、別の男と幸せに生きていく風景が描かれる。
ラストでシゲルは絶望して、まりあは幸せになったように終わっているけれど、2人にも、もちろんそれ以外の登場人物にも、その後の長い長い余生があって、その瞬間の幸せや不幸だけで人生は規定できないんだけれど、その瞬間、刹那が全てだと錯覚してしまう感じ。まさとの死や、あっという間に物語が1年後に進み、その間の情景が最小限にとどめられているのは観客に想像する余白を多く持たせるというよりも、そこは面白くないから省略といった感があるのかなと考えてしまいます。あくまで観客が見たいものを見せるエンタメ精神に徹する姿勢はスゴイなと思います。そうした物語の内側の余白を想像させるよりも、外側を想像させる。登場人物達のその先、葛藤のその先に思いを馳せることが本質なのかなと思います。

そしておまけ公演。こんなにスゴイ作品作ってる役者さん達が、グダグダでバカバカでめちゃくちゃなことを演じることで、物語は全部嘘なんだと、改めて突きつけるところも含めて、やっぱり好きだなぁと思います。

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