東京ノート
BeSeTo演劇祭
新国立劇場 特設会場(東京都)
2010/07/02 (金) ~ 2010/07/17 (土)公演終了
満足度★★★★★
【青年団版】鑑賞
新国立劇場中ホールが美術館の一角へと演出され、美術館特有の
静謐な空間がそこに自然に現れたように感じました。
時折後ろで聞こえる足音さえも不自然に思えないほど、舞台と
それ以外の空間の境界が溶け合って一つになったように。
私には思えました。
この劇の一番最初、「マヨネーズ腐らせて~」の件、ピンター「帰郷」の
出だしの台詞「ハサミは~」を何故か思い出した。
そういえば、設定も、何もかも違うけど両者そんなに遠くないように感じる。 日常にある、得体の知れないモノ、を客に感じさせる、みたいな。
ネタバレBOX
静謐な空間で話されるのは、何気ない呟きのように儚く、次の瞬間には
霧散し忘れ去られるような言葉の数々。
でも。
その中に時折微かな「違和感」が混じっていく。
それはひたひたと忍び寄る戦争の影だったり、終焉を迎えそうな夫婦の
姿だったり、未だに清算されることのない慕情だったり。
その「違和」は透明に広がる水の中にほんの一滴落とされたインクの様に
最初は目立たず、でも時間が経つにつれて表面を徐々に浸食していく。
ただの普通の、何も起こらない美術館での一日のはずが。
そこでほんのわずか同じ空間を共にする人間達それぞれが、
言葉には表れない思いを抱えて生きていることが、徹底的に
選び抜かれた言葉、恐ろしく緻密に計算された構成でもって
時折鋭く私たちの心のひだを抉ってくる。
必ずしも「強い言葉」が核心を突くとは限らない。
一見、他の言葉と一緒に聞き流してしまうような微かな言葉にだって
衝撃を与えるものがたくさんある。
それに気がつくと、この「静かな演劇」の代表作がどこか不気味で
スリリングで緊迫した雰囲気の中、一瞬も台詞を聞き逃せず、
役者の動作一つもうっかり見逃せないような、恐ろしく重厚な作品となって
私の前にあるような、そんな気がしてならなかったです。
真夏の迷光とサイコ
モダンスイマーズ
青山円形劇場(東京都)
2010/07/08 (木) ~ 2010/07/18 (日)公演終了
満足度★★
いつも通り
事前では、「今までとは違ったモダンスイマーズを~」云々という話でしたが
ふたを開けてみれば、いつも通りのモダンスイマーズでした。
ただ…蓬莱さん、ひいては劇団自体が「今までとは違う」に捉われ
過ぎてるのか、演出はものすごく力が入ってたし、構成もおー、っと
驚かされたけど、なんかそれだけだった気が。。 散漫だったかも。。
詳細、ネタバレに書きますが最後の展開は正直えー、そりゃ無いよ、と
思いました。
ネタバレBOX
女主人たる姉は、自身の夫が交通事故で死んでからというもの
その過去を乗り越えられず、赤の他人を雇い、それぞれに架空の
名前を付けるに飽き足らず、その一人には自身の夫の名前を付け、
時の止まったような屋敷で心は一人孤独に暮らしている。
その弟であるところの作家はありがちな、「良くてそこそこ、悪くて稚拙の
アマチュアに毛が生えたレベル」を出ない。 出版社から一応数冊本を
出して貰えてるが、目をかけてくれていた編集者が亡くなって以来、
その活動は徐々に先細り、本人もそれに焦る様子。
…と、この二人の空間があらゆる局面で交差する、ここ数作の蓬莱
作品の構成を踏襲している作風。 「雨」が急激に作品展開を加速させる
点も含めてアル☆カンパニー「罪」を彷彿とさせます。
というか、蓬莱さんは「雨」のモチーフが好きなんでしょうか?
「凡骨タウン」でも、雨の場面が重要な展開ポイントだった記憶が…。
ただ、今回は何の前触れもなく、片方の視点がいきなり宙に浮いて
片方の数日前の行動を眺めていく、という構成になっているので
結構お客さん放り投げちゃう感があるのは否めない。
「凡骨タウン」には千葉・萩原としっかり作品の引き締め役がいたのに比べ、
今作は中心となるキーマンが不在だったのも相当痛い。
YOUさん…演技はともかく(というか、車椅子なのでほとんどその余地が
無かった)、最後の場面の一番重要な台詞全部棒読みはちょっと。。
ハッと全部が腑に落ちる場面なのに、なんか白々しくなっちゃった、かな。
それと、最後。
姉が弟に水をぶっかけて「ここは現実の世界なんだから」と喝破した場面。
でも、自分も架空の自分の世界に逃げて、そこで空虚な生活を弟が来るまで
送ってきたわけだから、全然説得力無いし。
その後、屋敷の造り物の世界をかなぐり捨てて「本当の自分を探る旅」に
出る伏線だったとしても、それだったら弟について来い、じゃなくてこの
車椅子を押すのはおまえにしか出来ない役目、と言って欲しかった。
「架空のコウジロウ」さんは、二人の過去にも現在にも全然
関係ないんだから、「現実の自分が分かって無い」のは姉妹なんだから。
これから自分を知っていく必要があるのは、この二人だけなんだから。
あそこで、自分の虚像に車椅子を押させても意味が無いと思う。
二人の問題に他の人を、自分の捨てなきゃいけない過去をもうこれ以上
介在させるべきじゃない、と感じたので強く違和感を覚えました。
蓬莱作品は「罪と許し」「現実を見つめられない人たち」が重要なテーマに
なっていると思うのですが、今作はそれも含めて全体的に弱く、
ぼんやりとした作品になってしまったのが、辛く残念です。
演出は照明の絞りに加え、実際の生演奏を導入したのが非常に功を奏し、
その時々の人物の焦り、興奮、孤独等の隠された心情を分かり易く表現
していたと思います。 本当に演出は素晴らしいです。
覇王歌行(はおうかこう)
BeSeTo演劇祭
こまばアゴラ劇場(東京都)
2010/07/08 (木) ~ 2010/07/11 (日)公演終了
満足度★★★★
中国劇の力の一端がここに…
現在の世、項羽が自身の時代を振り返り、物語る形で本作は幕を開ける…。
いや、凄かったですね。
観ようかどうか迷っている人は観た方が良いと思います。
中国という国の、演劇力の高さに「わずか」に触れた一夜でした。
項羽と虞姫。二人が初めて出逢った時に姫が見せた艶やかな舞。
ひらひらと軽やかな身のこなしに合わせてふんわりと舞っていく生地の
動きに合わせるように、音楽が鳴り響いた時にははっとさせられ、
有名な「鴻門の会」のエピソードの時の、劉邦を狙う項荘の剣舞の
身のこなしの凄まじさに目を奪われる。
中国の役者は迫力があるね。 つい食い入るように見てしまう。
惜しむらくは、もっと広いステージで上演したらさらに迫力ある舞台に
なっていたのではないかということ。
ネタバレBOX
演出も素晴らしかったけど、脚本・潘軍の項羽の解釈が素晴らしい。
野心に満ちて、なおも満ち足りることを知らず、傲岸不遜であれど
誇り高く、自分を、信を曲げることをしない男。 そして夏の空のように
大きい思慮を持ち、ロマンチックな男。
正直、憧れますね。 素直に格好良いと感じます。
対して、劉邦は人質となった祖父と妻を、項羽の計略にびびって
助けることが出来ず、果ては「二人を煮汁にするのなら、その一部を
私にも分けて下さい」と言い募る、腰ぬけ男。
計略には巧みだが、本質的にはならず者で信義を知らない。
項羽の独白にも「信を裏切るのは最大の恥知らずだ」という言葉が
あるように、この辺は中国の激動の70年代を潜り抜けた作者の
人間観がそのまんまストレートに出ていますね。
結局、項羽の悲劇は自身が「見え過ぎる」ことにあるのでしょうね。
虞姫が「将軍の悲劇は常勝であること」と喝破していましたが、
項羽自身自分の気質が天下には求められていない、故に滅ぶ運命しか
用意されていないことを見通していた節があります。 その運命を
気高い項羽は甘んじて受ける。 一種の悲劇です、これは。
最後の場面での「四面楚歌」。 一般的には、自分の周りには
もう一人として味方は無いのだ、と理解されがちだけど。
項羽は言う、
「私には隠されたある一面が見えていた。あれは漢軍の敬意の
表れなのだ」
つまり、これから滅びゆこうとしていく一人の英雄に対しての隠し切れない
万人の尊敬の念と、ある時代の葬送歌だというのです。 この解釈は
ハッとさせられましたね。 深い洞察です。
虞姫がいわれてるより、出番が少なくてそこは残念だったけど
一人の男の語る「物語」としては素晴らしく、まさに時を超えて過去に
自分を重ねるような思いがしました。
醜男
世田谷パブリックシアター
世田谷パブリックシアター(東京都)
2010/07/02 (金) ~ 2010/07/12 (月)公演終了
満足度★★★★
キモ面白かった(笑
上記タイトルが、この劇の最後の場面が終わって暗転した時に
じんわりと浮かんできた正直な感想。
マイエンブルクに関しては、過去の作品を若干ながら知ってたので
元の顔を取り戻すとか、そんなレベルでは終わんない、きっと一筋縄では
いかないんだろうなぁ、と思ったら案の定。 最高に黒い皮肉に満ちた
終わり方でした。
舞台が異様に簡素なのに、照明の使い方で場面を上手く切り替えたりと
凄くスタイリッシュだったのにうっとりしたり、序盤からレッテとその妻、
ファニーのやり取りに笑わせてもらったり、細かいとこで得した舞台でした。
入江雅人演じる、整形外科医の人を喰った態度が板に付き過ぎ。
「それは出来ない相談だ。何故なら私は医者ではない!!!
アーティストだからだ!!!」には笑った。 おまえ誰だよ(笑
ネタバレBOX
最後、自分の顔そっくりに整形したカールマン(マザコン息子の方)と
向き合い、コレが自分の顔か!と気付くレッテ。 そこでお互いに抱き合い
自分への愛情(カールマンへの愛情ではない…と信じたい)を再確認
し合ったところで、老婦人のファニーが「一緒にベッドへ行きましょう!!!
私たち、理想の自分とお金を手に入れたのだもの」と〆て幕。
…をいをい、それぶっ飛び過ぎだろう、と突っ込まずにはいられない。
「自分と寝る」気分って…いったいどんなもんなんだ??
結局、レッテは「現代人の肖像」なんでしょうね。
自分のことは本当は良く分からないのに、自意識過剰でいっつも
人とは違った形で認められたがっている。
人と違う自分。それを求め続けた結果が、最後「グロテスクな自己愛」に
帰結するのはものすごい皮肉と感じました。 こういうこと、形を変えて
結構現実でもありそうだなぁ…。
峯の雪
劇団民藝
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2010/06/22 (火) ~ 2010/07/04 (日)公演終了
満足度★★★★★
ただ、ただ美しい人たち
長塚圭史氏がイギリス留学中に「胎内」をワークショップで選択、そして
翌年には仲代達矢氏が「炎の人」に出演予定、と今もなお古びない
三好十郎。 一体、何がその生命力の源なのか。
前々からその作品を観てみたい、と思っていた矢先に本作。
即決で観ましたが…。
出てくる人たちが皆凛としていますね。 佇まいから、台詞から。
仲代さんもそうなのですが、良い役者は姿を見るとただ「美しい」と
はっとさせられるのですが。 本作は皆「美しい」です。
ネタバレBOX
内藤安彦氏の演じる治平は本当に素晴らしかった。
台詞一つに、無骨でいささか不器用ではあるけど、優しさに満ちた
深みのある性格が出ていて。。 特に、娘のみきに対する複雑な
心情の表現が本当に、なんといってよいのか。
脇を固める人たちも皆レベルの高い演技。
特に新吾役の塩田氏の、きりっとした佇まいも観ててこっちが
背筋がしゃきっとしそうな、良い男っぷりでした。 最後の最後なのに
かなり良いとこもってった、かな。
戦中のいわゆる「戦意高揚モノ」に括られているらしく、三好十郎本人は
この作品を恥じていた、とパンフレットにはあったけど。
世間の片隅でひっそりと、自分のなすべきことを精一杯にやり遂げる。
そういう、なんというか、職種に限らない「人生の職人」達への尊敬と
深い愛情だけが観終わった後は心に焼きつくような作品でした。
それはとりもなおさず、きっと三好十郎本人が職人だからでしょう。
本作品は「戦時中」のものですが、混沌とする情勢の中、
「戦時体制」は今なお厳しく継続中、といわんばかりです。
現在と照らし合わせてみると、恐ろしいほど古くない上に
一つの清冽な生き方を想わされるよう。
この作品は観ないと損ですね。 観終わった後「人生」を考えます。
電車は血で走る(再演)
劇団鹿殺し
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2010/06/18 (金) ~ 2010/07/04 (日)公演終了
満足度★★★★
電車は「思い」で走る
本劇団所見で、正直「電車は血で走る」っていうタイトルに若干得体の
知れないモノを感じ気味だったんですけど、終演時には少々泣きつつも
晴れ晴れとした気持ちの自分がいました。
あらゆる迷いと悩みを吹き飛ばして、未来を前向きに見られるような、
そんな「パワフルで優しい」作品だと感じました。いや、劇中劇は
ぶっ飛んでるんだけど(笑
ネタバレBOX
鉄彦を乗せてきた電車が楽団で構成されているのが、本作タイトルも
相まって象徴的でした。 人々の、それぞれの「思い」が形になって
電車を走らせているし、電車は人々が思わなければ、願わなければ
走る事が出来ない、のだと思う。
終盤、虎川にいいように弄ばれていたのに気がついたフルシアンテが
鉄彦に向って、
「他の人の人生だもん…僕がどうこうすることは出来ない」
「でも、どうすることも出来ないのが悔しくって…」
「僕にはこれしか書けないんだもん!!!!」
と独白するところで、危うく号泣するところだった。 アレはヤバい。
何でもいいからとにかくひたむきに打ち込んだ人は、あれは本気で
心に響くと思う。 私の後ろの席の人も泣いてましたね。。。
子供のように純真で、レッチリのように渋くて熱い奴らの、体を張った
抒情スペクタクル。 堪能させて頂きました。
余談ながら、男前田ドクロをはじめとした、宝塚奇人歌劇団の面々の
毎回の大立ち回りが、なんか良く分かんないけど猛烈に決まってて
カッコ良過ぎ!!!
不滅
鵺的(ぬえてき)
「劇」小劇場(東京都)
2010/06/23 (水) ~ 2010/06/27 (日)公演終了
あちゃー、こりゃダメだ
最後の場面の、ぶっ飛んだ展開に唖然とするか、失笑を隠さずに
観ることが出来た人は相当凄いと思う。 無茶苦茶過ぎ。
脚本家が、細かいとことか詰めずに頭の中で考えたストーリーを
まんま書いたはいいけど、最後まとめ切れなくなって無理やり
綺麗系で終わらせた感ありありの、なんかマンガかなんかで見たような
展開でガッカリ。
ネタバレBOX
前半からちょこちょこ出てきてたんだけど、台詞も演技もなんか
バランスが取れてないというか、正直大げさすぎ。
それに追いつかず役者が噛んだり、身振りが過ぎてもはや
コメディになってたり、で、また演出が照明落として場面代えて…の
繰り返ししか無かったんで全体的にすっごく安っぽくなってた。
あと、人殺して世間を震撼させてヒーローに…っていう展開は
マンガか何かでよく見るからいいとして、政治家まで仲間に
引き込んでます…って飛躍し過ぎでしょ。 人殺し少女の
マネージャー(?)ってただの一介の興信所社員に過ぎないのに。。。
裏に闇の組織があるにしても説得力が無さ過ぎ。
思ったけど、脚本家が自分の、「人殺した奴はこうだ」
「興信所の人間ならこうじゃないか?」、「人殺しにあこがれる少女は
いっつもこういうことばっか考えてるに違いない」なんかの先走った
イメージにとらわれ過ぎててギャグになってる。
イキウメの前川が以前「話に説得力を持たせることに神経を使う。
それが無ければ物語は破綻し、一気に陳腐化する」というコメントを
してたけどホントにそれを実感した。 この作品、子供っぽすぎる。
庭劇団ペニノ『アンダーグラウンド』
庭劇団ペニノ
シアタートラム(東京都)
2010/06/06 (日) ~ 2010/06/13 (日)公演終了
満足度★★★
擬似解体ドキュメンタリー
演劇、というよりは「見世物」。
気の利いた台詞や、アッと驚く展開の妙に期待してはいけません。
というか、作・演出家もこの作品が「一発ネタ」的なモノだと完全に
分かった上で、「ショー」として客に見せていることは明白です。
ジャンル違いますが駕籠真太郎のグロバカ漫画とか楽しめる人には
ものすごく向いていると思います。
ネタバレBOX
とりあえず演出が良かった。 特に、右端に設置されてたテレビ。
アレで逐一解体の様子を映し出したり、脳波(?)の乱れをリンクさせたり、
果ては患者の何だかよく分かんない変顔コーラス(笑)を見せてくれたり。
アレがなかったら、舞台上の様子が全然分からないんで評価も
落ちてたかなぁ。 ライトの使い方も洒脱でサーカスかなんかの
ショーみたいな感じを与える事に成功してました。
音楽も地味に良かった。 ジャジーで華麗な曲に乗せて内臓摘出したり、
全体的にブラックユーモア満載。
最後の方で、ショーの終わりに間に合わなくなりそうな手術スタッフ陣が
大慌てで、生掴みで心臓抜き出しちゃったシーン。
実際はかなりヤバ目のとこなのに、どこかコミカルなのは
この作品のチャーミングさだと思う。
木をめぐる抽象
モナカ興業
こまばアゴラ劇場(東京都)
2010/06/02 (水) ~ 2010/06/08 (火)公演終了
満足度★★★★
人をめぐる抽象
タイトルと内容説明で、うんと損をしているとしか思えない本作。
これだけで内容分かれ、という方が無理だと思う。
ある人が見ているその人の姿と、別の第三者が見ているその人の姿は
全然違う、どれが本当なのか、どれも本当だろう?
皆がかっこ良いと認めていた人が自宅の敷居を跨げば、はやだらしない
格好に早変わりというのはよくあること。 誰もその人の本当の姿はコレだ!
とはいえない。
だから、「人」というままならないものをめぐる「具象」じゃなくて「抽象」。
ネタバレBOX
ある会社の説明会を運営するイベント会社の社員と、説明会主宰会社の
社員達が会を翌日に控えてから、無事説明会の終了を迎えるまでの
28時間をえがく作品。
自分のことで頭いっぱいで要領悪過ぎる、どこにでもいそうな仕事出来ない感じの内村さん、面倒見がよく気遣いも上手い犬上さん、その二人が
認めている多田さんが運営会社社員。
仕事バリバリ出来る、いかにもやり手なキャリアウーマンの小林さんが
説明会主宰責任者。
劇が進むにつれて、犬上さんがフラストレーションためまくりの、ありがちな
人で、しかも自分の旦那と多田さんの浮気を疑っていたり、
いかにも出来る、皆のあこがれの的だった多田さんは、自分の上司との
不義の愛に溺れた挙句、妊娠中絶の為、会社を休んでいたという事実が
分かったり、
キャリアウーマンな小林さんは、その直情一本っぷりが上司はおろか
部下にまで密かに疎まれ、栄転という名ばかりの左遷で近々飛ばされる
だけでなく、自分の旦那との別れ話はこじれにこじれてる。。。
人に見せている顔と、裏の顔は実は違うんだよ、ということを皮肉たっぷりに
描く秀作。 台詞と構成が上手いですね。
最初の方の伏線の張り方も見事でした。
多田「(明るげに)部長、終りました」
部長「ああっ、ご苦労だったな」
ブラック過ぎでしょ、ここの場面。
内容自体は結構ありきたりだけど、最後まで時間を気にせず観れました。
エビパラビモパラート
インパラプレパラート
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2010/06/03 (木) ~ 2010/06/06 (日)公演終了
満足度★★★★★
音楽と共に死んで、生き続ける奴らの話
「音楽」というものを心底愛し続けた経験がある人はその思いが深いほど
また、音楽でなくても何か、何でもいい、自分がわき目も振らずただ
一直線に突き進んだモノがあるといえる人は、
この劇を見るべきだと思う。 必ず、その場で、その場でなくても
帰り道にふと色々な場面を思い返して涙が出そうになるはずです。
とにかく、何も誇るものの無かった連中が「音楽」に出会って、英雄になって
まっすぐに突き進んでいく。 その熱くて純粋な姿が今思い返せば
思い返すほど眩し過ぎて、冗談抜きで涙が止まらない。
劇団員と年齢が近いせいか、他人事に思えないほどこっちの感情を
揺さぶってくるんですよね。 10~20代が見た方が揺さぶられるかな。
ネタバレBOX
舞台は現代なのか何処なのかよく分からないどこかの島。
そこでは王を頂点に、貴族が牛耳る一種の階級社会で、
前代の王が死んでから政治は混乱し、王女と王子を擁立する
二つの派閥がついには戦争を起こす…。
その激動の中で、戦意高揚に利用されつつも最後に戦争を止めようと
する思いの詰まった「ただいま、おかえり」の詩を響かせ、カナデーラ、
一般にいうところのバンドは散っていく…。
音楽を見つけてそれに純粋に思いをぶつけていく様が、役を演じる役者、
果ては全ての夢を追う人たちとオーバーラップして、劇中胸打たれる
ところが余りにも多過ぎた。
演出や台詞、演技も変に小難しくなくストレートで気持ちよく、なんか
トンでもないものを見てしまったような気がする。。
今は、「インパラプレパラート」「エビビモpro.」の両劇団にただただ
感謝したい。 Thank You!
家の内臓【作・演出 前田司郎】
アル☆カンパニー
【閉館】SPACE 雑遊(東京都)
2010/05/21 (金) ~ 2010/05/30 (日)公演終了
満足度★★
本気でやるユルさ
前作「罪」では蓬莱竜太を迎えたアル☆カンパニーが、今度は
五反田団の前田司郎を迎えての新作。
前回の、恐ろしいほど簡素なステージと比べ、今回は畳張りに
所狭しと置かれた荷物や布団と雑多でユルい独特の旅館の
雰囲気がまんまそこに切り張りされてました。
1時間15分のほとんどが、動きなしのほぼ山なし・オチなし・意味なしの
ユルくてありそうな雑談で埋め尽くされて、小ネタとしては面白いのも
あったけど、ちょっと長く感じられたのが正直なところ。
ネタバレBOX
「桶狭間、って何よ?」
「だからー、アレでしょ、桶と狭間のことなんでしょ」
「何だよ、その桶と狭間ってのは」
「だから、こうでしょ、(役者、手で二つの桶状の円を描く)こんな
形してるやつでしょ」
大体↑みたいな、言葉尻をとらえての突っつき返し、混ぜっ返しの
オンパレードで、正直このネタで一時間突っ切られるとキツい。
平田満の、どこの会社にもいそうな、やったら馴れ馴れしげで
追求好きな上司役はハマってたけど、「ある人たちの旅館の風景」を
抜け出てなかったような気がします。
良く知ってると思ってた他人の事を、実は自分は何一つ知らない、
他の人のことは家族でさえ不明瞭だ、というのが最後の最後で
出てきたけど、取ってつけたようなもので、基本あのドツキ漫才
みたいな雑談のノリについていけるかどうかだと思います。
守り火(まもりび)
FINE BERRY(ファインベリー)
ザ・ポケット(東京都)
2010/05/25 (火) ~ 2010/05/30 (日)公演終了
満足度★★★★★
重なり合う
事前に、チラシ等で紹介されていた以上に暗くて緊張感のある
ストーリー構成でしたね。 観ながら、え?まだ不幸が続いちゃうの?と
落とされ、食い入るようにさせられることが多かった。
この作品の登場人物達は、それぞれが違うように見えて、実は
皆同じような境遇におかれていて、唯一つ、あのバラック小屋みたいな
家で一つに結びついて、または呪縛されている、と感じました。
ネタバレBOX
母親が、もし捨て子を拾ってこなかったらどうなっていたか。
多分あのまま狂って、近所の鼻つまみ者になっていたのは
タケシの母親じゃなくて、四姉妹の母親だったかもしれない。
または、四姉妹が母親に拾われなかったら。
幸せを知ること無く、そのままあのやくざのように身を落としていた
かもしれない。
そう思うと、各人物達が置かれていた状況が、大きく食い違って
いるのではなく、実はほんの偶然だったことに過ぎない、と気がついて。
そう考えると、四姉妹は幸せだった、のじゃないか、母親に、父親に
守られて幸せだったのじゃないか、といえると思います。
最後に家を焼いたのは、母親への甘えや依存を断ち切り、新しく一歩を
家族が踏み出すためには「守り火」のように必要な「儀式」だったのかな。
ちょうど、人形を燃やすことで災厄から逃れようとするように。
そう思うと、最後はほんの少し希望のある作品でしたね。
四姉妹が、母親のよく聴いていたカセットを聴きながら、その歌を
皆で口ずさむシーンがあったけど、あのシーンの美しさは屈指。
沈黙亭のあかり
劇団俳優座
紀伊國屋ホール(東京都)
2010/05/21 (金) ~ 2010/05/30 (日)公演終了
紛うことなき駄作
と結論付けるよりほかないです。
相当前の山田太一脚本「星ひとつの夜」等も観てきて
改めて思ったことなのだけど、「人は一人では生きていけない、
例え日陰におかれていてもそれでも必死で生き続けよう」という
メッセージが強過ぎて作品のバランスが保てなくなっていることが
多く見受けられます。
結果、結末に進むにつれて設定から何から全部破綻していくのが
ただただ恥ずかしくて、席を立ちたくてしょうがなかったです。
ネタバレBOX
この作品の難は以下の二つ。
1. 設定に意味が無い
主人公を「喫茶店の、聞こえない、話せないマスター」にしたのは
失敗だったかと。 マスターと登場人物の会話になった時、相手が
客席にも分かるように全部話し出すので、とにかく長々としてて
テンポが悪い。 マスターが話せないので、一人語りになりがち。
総じて人物達が、それぞれの思いを全部言葉でぶちまけてしまうので
劇というより「主張の会」みたいでした。 なんか恥ずかしかった・・・。
2. 構成が悪い
最後、マスターが「聞こえる・話せる」ようになったのは良かったけど
特に後半の展開上意味は無かった、と思う。 エンドもなんか
締りの無いものになっちゃってて。。
それよりなにより、最後あたりの「一人でいても寂しいんだよ!!!
だからハグして!!!」
・・・すみません、「ハグ」って・・・何?? その前後に、何の前振りも
伏線も無かったのでホント唖然とした。
四人が沈黙亭を襲撃~ハグの辺りの展開はとにかく観てて
恥ずかしくて、席を立って思わず帰りたくて仕方なかった。
シリアスな場面に強引に笑いを取るような台詞も浮いててキツかった。
中野誠也さんの、ステージにいるだけでじんわりするような存在感と
音楽はものすごく良かったです。
プランクトンの踊り場
イキウメ
赤坂RED/THEATER(東京都)
2010/05/08 (土) ~ 2010/05/23 (日)公演終了
満足度★★★★★
その時空
他の人の言うように、恐ろしく簡素な舞台がどんどん転換していく。
ある時は東京のオフィス、ある時は地方都市の開店間際のお店、
喫茶店 etc etc... 回転ドア式に展開する仕切りを挟んでどんどん
展開していく。 その有様がなんかすんごくスマートだった。
スマートといえば、役者達。 なんか皆恐ろしく役柄に合っていて
見事としか。 安井順平の、相当引きこもり入った兄と、伊勢佳世の、
妹とのすっ飛んだやり取りに何度笑ったことか…。
このようにコメディ要素も魅せる要素も高く、初心者から玄人まで楽しめる
高レベルな作品だと思います。
ネタバレBOX
兄に背を向けシゲル3人目を必死で抱きしめるカナメに、兄テルオが
「忘れられんのかよ?」カナメ「忘れられるよ」
…あの辺り、この劇の中で瞬間最高風速じゃないかと思いました。
それだけに、最終場で誰も3人目シゲルに触れなかったのがもう、
気になって気になって…。 でも、多分、カナメの様子をみると
もうシゲルとの事は過去になりつつあるようだったので…遅かれ早かれ
消えてしまうの…かな??
シゲルはなんか…如才無い感じだけど、要領良さそうだけど、
最後まで勘違いしたまんまで終わるタイプなんだろうなぁ。。。
次回公演も楽しみです。
甘え
劇団、本谷有希子
青山円形劇場(東京都)
2010/05/10 (月) ~ 2010/06/06 (日)公演終了
満足度★★★★★
変わることを望みながら
変われない人たちの物語。
小池栄子は熱演でしたね。 危うい位にピュアで世間を知らない、
知らず知らずの内に破滅に向かっていってしまう「ジュン」という
役柄を正面から演じ切っていたように思います。
水橋研二の、どこか壊れてしまったような、虚無的な雰囲気を
湛えた「先輩」役も良かった。 余談ながら、この作品ではこの人が
一番可哀想な気がする。
ネタバレBOX
頭が良いのに世間と繋がれず、結果ズレてしまっているばかりか、
それが自分の純粋性にあるのだと思い込んで、全然問題の本質には
「気づけていない」ジュン。
汚れている周囲、自分が好きだと思い込んでいるのに、実はひそかに
そこから抜け出したいと願いつつ、素直にはなれない先輩。
そんな二人は甘えあいつつも、結局は理解しあえない・・・。
ジュンは家に戻らず、雀荘でそのまま働き続けていればよかったのに。
そうすれば気づく事もあっただろうに、最初から最後まで思い込みが
あったので、結局破滅からは抜けられなかった。 救いは無いです。
前から思っていたけど、本谷さんは「生真面目で純粋、非常に
道徳的な」人だと、今作を観て感じました。 天然で不道徳な
雰囲気はせず、全部計算されているような。。
この作品、本谷さんが語るようには「不道徳」には思えなかった。
むしろ、直球の悲劇。 全編通してすごくダークでしたね。。
最後、自分を夜這いしにくる男達の、雨だれのように鳴り響く
ノックの音の中、自分、男たち、観客に向けてポツリと放たれる
「私よ、禊がれろ!」
という台詞が今でも忘れられないです。 あの辺りすごく怖い。
賛否両論ありますが、本谷さんのターニングポイントとして記憶される
作品は、この「甘え」になりそうです。
ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶
チェルフィッチュ
ラフォーレミュージアム 原宿(東京都)
2010/05/07 (金) ~ 2010/05/19 (水)公演終了
満足度★★★
空虚な言葉がコミカルに浮き彫りに
まず、あの繰り返されつつも、微妙に細部が異なっている厄介な台詞を
語りつつ、切れの良い動きを見せ、もとい魅せてくれた俳優達にエール。
何度も何度も執拗に繰り返される、一見意味の無い言葉の数々、
「ホットペッパーって役に立つんですよねー」「クーラーが寒くて地獄
みたいなー」「女性ってそうですよねー」…
何回も繰り返される動きと共に、見ているうちに俳優達がまるで
「演技している人間」というよりも「律動するゼンマイ人形」か何かのように
見えて仕方がありませんでした。
ネタバレBOX
結局、派遣の社員達はクビにされた同僚の送別会をやる、といいながら
その実皆自分のことで頭が一杯で、同僚をタネにしてどれだけ自分のことを
語る、というか、押し付け合うか競っている。 そんな空虚過ぎる風景。
正社員達も互いのことなんてどうでもいいし、クビになる同僚も会社の
人間なんて素でどうでもいい。 どうでもいい人たちが開いてくれる
送別会より、それにかこつけて自分のことを話す方が大事。
暗転直前、派遣の「小松さん」がクビになる「エリカさん」に、
「私達も遅かれ早かれ後を追いますんでー」って言った時笑った。 ヒドッ。
『ホットペッパー』が一番面白かったかな。 登場人物が三人と
三者三様違う動きを見せてくれるし、台詞もヴァリエーションがあったし
一人が躍るような動作で自己主張してる時の、他の二人の反応も
何気に面白かった。 うちわであおぎ出したりするし(笑
ぎこちなく、不穏なjohn cageの音楽もマッチし過ぎです、本当に。
『クーラー』『別れの挨拶』は動きの切れは凄く良いのだけど
いかんせん人物が二人ないし、一人なのでどんなに良くても
基本同じ動作の繰り返しなので冗長にはなった、かな。
少し時間も長いような気がした。
でも、動き的には『別れの挨拶』が一番良かったと思います。
裏切りの街
パルコ・プロデュース
PARCO劇場(東京都)
2010/05/07 (金) ~ 2010/05/30 (日)公演終了
満足度★★★★
緊張の「人間ドラマ」
観終わって感じたのが、「演劇」というより、三時間弱の「ドラマ」、または
「映画作品」だな、と。 構成も、ストーリーの流れも、すごくそこを意識
しているように思えました。
テレビの画面、スクリーンの中ならこう、カット切るだろうな。
そう思う場面が結構あった。 「ボーイズ~」脚本を手がけていた影響?
全体通して緊張し通しで三時間あっという間。
舞台を前面に使ったセットが次々に切り替わって時に緊迫、
時に弛緩し切った雰囲気を上手く出してましたねー。
観る前は「え?三時間?」「裏切りの街、って何か二時間ドラマの
タイトルみたい…」と思ってたけど、終わった後は何だか納得。
ネタバレBOX
二幕開始直後に、秋山演じる「智子」の妊娠が発覚してからの展開が
どんな修羅場になるのか想像がつかなくて、正直胃が痛くなった…
結構あっさりと流してくれてて本当にホッとした。
皆、明日の自分より今日の自分に忠実、欲望のまま生きてきたら
こうなっちゃいました、って感じの人ばかりだけど、米村演じる「伸二」は
したたかだね。 おかれてる立場は田中圭の「菅原」と同じだけど
器用で身軽で。 この先、どうなっても要領よく楽しんでるのは彼だね。
他にも不幸体質っぽい上京者の「裕子」とか、あんま要領よくなさそうな
「田村」くんとか、脇役がむしろ光ってたのに登場の場が少なくて残念。。
個人的には松尾スズキの「浩二」がホント怖い。
妻や部下の前では、少し譲歩しがちな愛情たっぷりの夫、上司なのに
「菅原」の前に出てきた時にはヤクザみたいにじわじわなぶってくる。
自分の子供が別の男のものだって知ってるのに、それを育てようとする
その心情。 白タイ焼きくわえながら「俺がさー、こんなんでつられるとでも
思ってんの?」って一瞬素の表情を見せる瞬間。
全て知ってて、それを上手いようにコントロールしているような。
一番キャラ的に興味深いのは「菅原」でも「智子」でもなく
「浩二」だと思いました。
アメリカン家族
ゴジゲン
吉祥寺シアター(東京都)
2010/04/29 (木) ~ 2010/05/02 (日)公演終了
満足度★★★
団欒ぶち壊し系ホームバースデイ・コメディ
とにかく出てくる人が皆リアル。
いや、過剰なほどの演出で「笑い」に昇華されているんですけど。
うわー、かなりイタいけど、こういう人いそうだよね、っていうのが
土佐和成演じる伊原夫と吉牟田眞奈演じる次男の恋人のウザさ(笑
特に、伊原夫のテンション高めなのに、空気読めな過ぎて滑り続け、
嫁はおろか父親にまで邪険にされる有様は結構作品の中でも
光っておりました。
個人的には目次立樹演じる次男カウンセラー・リョウさんがツボ!
見せ場はそんな多くないけど「リョウサン、ホントはニホンジン!!」の
怪演には思わず痺れました。 笑いの部分では一番貢献してたかも。
ネタバレBOX
勿体ないな、と思ったのは時間の長さと過剰な演出。
前者はもっと短く出来たんじゃない? 要らないエピソードが多いような。
伊原夫が刺されるのなんか、後でフォローも無かったし…。
後者は台詞間の「間」の部分まで皆で騒いで、の演出で埋めちゃったので
逆に鼻白んでしまったかな。
最後の場面、一家が来訪者達をバットやら傘やらでつつき回して
強制的に追い出すのは、言っちゃ悪いけど大いに共感した。
自分達だけの「空間」に空気読まないで居座り続けるのを叩き出して
何が悪い?って感じなんだろうね。
役柄では長女と父親が好き。 大成のさりげない優しさも良いね。