暴くな
INUTOKUSHI
早稲田大学大隈講堂裏劇研アトリエ(東京都)
2010/05/15 (土) ~ 2010/05/23 (日)公演終了
学生劇団の特権を存分に
前回のBOOKENDから観てる。今回は「相撲」がテーマということで、どこまで本当なのかなあ?と期待していったら、ガチで相撲だった。しかもむちゃくちゃ面白かった。話の筋が前回よりはしっかりしていたけれど、ある種のハチャメチャさは健在。ここまでど派手にふざけられて、ストレートなギャグで笑わせられる劇団ってのは本当貴重な存在だと思う。
劇場入ったときからこれは舞台広がるのかしらとは思ってたけど、あそこまでとは。序盤で与える驚きは、ぐっと観客を劇世界に引き込むことができる。舞台美術もすごい。学生劇団だからこその作り込み方が非常に作用していて、こういった学生劇団がもっと増えれば、また小劇場界に新たな旋風を起こせるような気がする。
制作面で思ったのは、劇場をこれだけ長く借りられるのはこれもまた学生劇団の特権だな、と。週末を二回公演に挟めることで、クチコミがとても有効に働いてくる。僕が行ったのはちょうど公演中盤だったけど、客席は見事に満員だった。稽古時間が多く取れる分、2ヴァージョンにしても完成度が変わることなく高い。1000名動員したというのも頷ける話だ。
じゃじゃ馬ならし
Studio Life(スタジオライフ)
博品館劇場(東京都)
2010/07/08 (木) ~ 2010/07/25 (日)公演終了
解りやすく親しみやすい
独特の観客層とのことで多少覚悟しつつ観劇に赴くものの、平日マチネの博品館劇場ということもあってか、普段とは違った客層のようであった。というより、役者さんが確実にやりにくそうなほど冷め切っている。後半にはアドリブで「ずいぶん静かな観客席だな」と言われてしまうほど。こういう公演は楽屋で「今日のお客さん怖いよ」と話題になっていそうだ。ラストでようやく手拍子が入り、僕までホッとした。
作品について。何より良かったのは、古典劇とはかけ離れたシェイクスピアになっていたということ。最初と最後に脚色が入っただけで、松岡和子さん訳の台詞もしっかりシェイクスピア調なのだけれど、そこには持って回った古臭さがない。作品自体はさすがにプロットの組まれ方が上手いので、物語に自然と入り込める。脚色も機能していたが、終盤はもっとスマートに終えて欲しかった気はする。あと、やはり『じゃじゃ馬ならし』の脚色は『Kiss Me, Kate』に敵うものはないかな、と。
劇中のナンバーはともかく、音響はどうしても馴染めず。親しみやすさやポップな感じを出そうとしているのかもしれないが、安っぽさというか「ハチャメチャ劇」みたいな感じが苦手。個人的な好みの問題ではある。
何より気になったのは、通じないギャグ?をあまりにもしつこく繰り返していたこと。「ファラウェイ」とか「ジョイナス」とか。全然わかんなくて、そのくせ後半になるにつれ使用頻度が多くなって、困った。客席でも理解している人がいなさそうだったから、途中で捨てた方がいいネタだったんじゃないかなあ。。
役者さんは岩﨑大さんのダンスと林勇輔さんの歌が周囲を圧倒していた。上手い人が一人でもいるとその人に自然に目がいくので楽しめる。
この劇団のアットホーム的な雰囲気はファンにとって嬉しいはず。終演後、主演がロビーに物販しに出てくるあたり、規模がなかなか大きい割には凄いこと。余計なお世話かもしれないが、今後どういった客層にアピールし、マーケティングを進めていくかが大切だと思う。
モジョ ミキボー
モジョミキボー上演委員会
OFF OFFシアター(東京都)
2010/05/04 (火) ~ 2010/05/30 (日)公演終了
企画に惹かれる
下北OFFOFFで鵜山仁演出。一ヶ月のロングランという珍しい試み。小劇場では作品が次々に消化されて言ってしまうから、こういうことを実力も知名度もある人たちがやってくれると、小劇場の可能性が広がる。『兵器のある風景』で浅野さんの演技の巧みさを知っていたので、さらに興味が出、観劇。
照明の差し方、音の流し方、空間の使い方など、さすがに細かいところまで凝っている。鵜山さんがこのキャパで演出すると、このようになるのか、と。物語は古い映画のようで哀愁漂う。どこか空間がセピア色に見えてくるような、そんなイメージ。全体的に演劇の面白さに溢れているけれど、演劇通ではない若い人には向かないのでは。
カーテンコールで出演者が二人だと改めて意識して驚き。二人で17役やっていたのだから納得だが、そう感じさせたキャスト及び演出の勝利か。
レベッカ
東宝
帝国劇場(東京都)
2010/04/07 (水) ~ 2010/05/24 (月)公演終了
酷評です。
ええと、始めに言っておきます。『Rebecca』の制作者である脚本家Michael Kunzeと作曲家Sylvester Levayのコンビは僕の最も好きなミュージカル制作者です。『Rebecca』の楽曲も大好きで、オリジナルキャストのCDを何百回と聞いています。そういうわけで、この作品自体は好き。でも日本版がどうしても気に入らない。だから酷評です。
よろしければ、ネタバレBOXどうぞ。
はつかねずみと人間
ワザヲギプロジェクト
東演パラータ(東京都)
2010/04/28 (水) ~ 2010/05/05 (水)公演終了
意義ある上演だが。
入った瞬間舞台美術に驚く。小劇場でここまで作り込むのも珍しい。見事に時代風景が反映されており、劇空間がパッと映える。照明の入れ方なども幻想的で綺麗だ。
主演二人の演技力はかなりの実力だと感じた。一方、端役、特に女性陣の素人演技がどうしても目にかかる。キャスト数がそもそも非常に多く、下手に弱い演技で作品全体を色褪せさせるのならば、もう少し人数を削れば良かったのではないかというのが正直なところではある。
原作は未読だが骨のある脚本に仕上がっており、作品のテーマ的にも現代日本で上演する価値のある作品であったことは確か。それだけにチケット定価の高さと観客席の空白がもったいなかった。とは言え、何を目的に上演するかは劇団それぞれだろうから仕方ないのかもしれない。
松山流
シガラキ
RAFT(東京都)
2010/04/16 (金) ~ 2010/04/18 (日)公演終了
一人芝居で満腹
大学時代から才能ある役者さんだったとの話を聞き、谷さんの新作短編もやるということで観に行った。巧みで小粋な演技がとても良い。
一番好きだったのはRazif Hashimさんの短編。遅れて入ったために最初の数分を見逃してしまったが、それでも他の作品との圧倒的な空気感の違いが楽しめた。
谷さんの短編はアイデア一本で通した感じがしてしまったかな。『アムカ』が好きすぎるのだが、残念ながら再演はもうしないだろう。精神が飛び散るような血の滾る作品をまた期待したい。
サ・ビ・タ~雨が運んだ愛~
アトリエ・ダンカン
本多劇場(東京都)
2010/03/26 (金) ~ 2010/04/04 (日)公演終了
「楽しませる」心意気
東宝が以前ミュージカルの宣伝イベントみたいなものを無料(抽選)でやっていた。僕は高校生男子(当時)という特権からか、3~4回ほど抽選に当たって行ってきた。無料とは言えどもさすがにしっかりしていて、帝劇で幾つかの有名なナンバーを取り上げて歌って踊ってくれる。1時間ちょっとのイベントの終わりには、700人ほどの観客と一緒に簡単な振り付けを練習し「劇場全体で踊ろう」みたいな事もあった。
『サ・ビ・タ』はそのイベントに似ている。観客を楽しませよう、劇場のみなが一緒になって楽しもうというパワーが伝わってくる。こういう作品は物語を堅苦しく論じてああだこうだいってはいけない。ただその場所にいる一同と空気を共にし、ひとときの幻想の世界に身を任せるべきなのだ。
ミュージカルは内容が薄いという人がいる。僕は結構なミュージカルフリークなので、例外が数多くあることは知っているものの、確かに短絡的な内容が多いことは認める。だがミュージカルにはミュージカルの楽しみ方がある。それはそれで素晴らしいものだ。なにも硬派なストレートプレイだけが高尚な舞台芸術というわけではないだろう。
はなよめのまち【ご来場誠にありがとうございました!】
キコ qui-co.
王子小劇場(東京都)
2010/03/25 (木) ~ 2010/03/29 (月)公演終了
演劇の刺激に溢れる
多分僕はずっと演出の視点からこの作品を観ていたのだが、大きな衝撃を受けた。1シーン1シーンがとても美しく構成されている。留まるところを知らない詩的でアーティスティックな芝居。目の前で響く音や声、役者の動きなど演劇でしか出来ないことを美しいヴィジュアルと共に完成させていた。
小栗さんの意図したることかはわからないが、物語の奥に非常に高い社会性も読み取れた。こういうのは、大好きだ。本当に、正にツボに嵌まったと言っていい。観られて幸せ。
シャボン玉とんだ宇宙までとんだ
音楽座ミュージカル
ル テアトル銀座 by PARCO(東京都)
2010/03/13 (土) ~ 2010/03/30 (火)公演終了
高校生招待にて
観劇当時は高校生だったので招待されて観てきた。なんというか案の定劇場には殆ど女子高生しかいず、完全に浮きまくりの状態であった。
作品は久々の大劇場で、超大量にシャボン玉が出てきたり、緑のレーザー照明で幻想的な空間が作り出されていたり、面白かった。が、物語の薄さがどうにも。Rカンパニーは演出が複数人なので、そこら辺も観ていて気に掛かる点はあった。
終演後の劇場内でのラジオ番組撮影に、どうせだからと残っていたら、メインテーマをみんなで歌うことになったりして困った。そんなわけで周囲に男一人で中途半端にひねくれていた僕はグループから外れていると、カンパニーの人が隣に来てくれ、話し相手になって下さった。大所帯の劇団になってからでも、観客にそういった親密な態度で接してくれる劇団の雰囲気は素晴らしいと思う。
農業少女
東京芸術劇場
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2010/03/01 (月) ~ 2010/03/31 (水)公演終了
遊び心とテーマ性
超格好いいオープニングとラストシーンを筆頭に、かなり様々な演出的遊び心には溢れていたものの、戯曲を掘り下げる演出でなかったような印象。野田の本はふざけているようで、深いテーマ性があるからこそ骨子が成り立っているのであって、松尾スズキの演出だと確実にそれが浅い。「面白い楽しい」ではあるが、野田特有の「響く考える」作品としては伝わってこなかった。
もちろん「そうあるべき」というわけではないけど、戯曲が意図するところを観客に伝えるための演出になっていなかったのは残念である。伝えるべき場所はしっかり伝えなきゃこの脚本を今の時期に上演する意味がなくなってしまうんじゃないかなあ、と。
多部ちゃんは可愛くて、急に踊り始めるダンスも上手くてきゅんきゅんしたけど、ラストの独白はさすがに。あそこぐらいもっと演技指導してあげればいいのに…。雰囲気や声は特有のものがあり、そういった意味で演技が新鮮さに溢れていて良かった。
兵器のある風景
俳優座劇場
俳優座劇場(東京都)
2010/03/14 (日) ~ 2010/03/22 (月)公演終了
骨太な
気にならない程度の新劇色。心にずっしりとのし掛かるものがある。間違いなく骨太で良くできた芝居だったと言える。特に演出は「そういう風に場の流れを持って行くのか」と思ったりして、なかなか面白い目線で観られた。出演者四人もそれぞれ圧倒的な個性を持っていて胸に強く響く。
アプローチの仕方は違うものの、研究者の苦悩という点、同じく俳優座劇場で観た「東京原子核クラブ」と通じるものがあった。俳優座劇場プロデュース作品は3~4作ほど観ているが、どれも脚本演出役者スタッフの完成度が高く、上質な芝居をみせてくれる。こうも毎回外れがないと自信を持って人に薦められるからとても助かる。
スイングバイ
ままごと
こまばアゴラ劇場(東京都)
2010/03/15 (月) ~ 2010/03/28 (日)公演終了
随所へのこだわり
すでに多くの方が仰っているが、作品が始まる前から随所へのこだわりが感じられる。そういった観客の期待感を膨らませていく演出は小劇場という規模だからこそできる面白さだと思う。
ワークショップっぽくキャストと共に芝居を作っていくらしく、様々なアイデアや演劇的要素が散りばめられている。お芝居は斬新で面白かったし、多くのインスピレーションをもらったけれど、何か今一つ物語に親切さが欠けるような。物語である以上、ほんの細かいことにも意味を持たせてほしい気はする。まあ一応、それ以上をもらい、受け取ったから満足ではある。
棄憶~kioku~
G-up
青山円形劇場(東京都)
2010/03/05 (金) ~ 2010/03/11 (木)公演終了
緻密な
照明変化は転換時のみ。曲の使用はラストのみ。男七人役者で見せる硬派なストレートプレイ。史上の事件を絡ませて作る物語が興味深い。観る人は選ぶが、確かに観客の心にズシリと重い碇を残していく一時間半。
青山円形はでかい、というのは確かにあるかもしれない。演劇の良さとして、「逃げられない」というのがある。目の前で生身の人間が汗や唾を飛ばしながら演じている。観客席は所狭しと敷き詰められている。途中で逃げさせる隙間を持たない。映画ならまだ席を立ちやすい。しかし演劇は違う。どれだけ作品で恐怖や悪夢を観たとしても、劇場というのは実に逃げにくい機構をしているである。
この作品には、「逃げたい」と思わせる力がある。目を閉じ、耳を塞ぎたくなる。ただしそうさせてはいけない。真実は突き付けなくては、生温い日常に遊ぶ観客たちに直視させなくては。そういう意味で、もっと小空間だったら、集中力もより高まり、さらに観客の心を凍り付かせられただろうと思う。
遠ざかるネバーランド
空想組曲
ザ・ポケット(東京都)
2010/02/10 (水) ~ 2010/02/14 (日)公演終了
伝えたいこと
伝えたいテーマがある。感動のシーンで感動の曲を流し、観客の感情に丁寧に寄り添った作品を作る。それは下手にとんがった反骨意識を持って観客の意図を外れさせようとする創作者よりもよほど素晴らしいことだと、個人的に思っている。というのも、観客が「その作品」だけの独立した評価ではなく、「あの人は何を作りたかったのか」と考えるという、よくわからない傾向が蔓延しているように感じるからだ。「意味が理解できぬ作品」は観客が悪いのではない。伝えようとする意志のない創作者側に問題がある。そういうときは、素直につまらなかったと言っていいと思う。
話がずれすぎたけれども、ほさかさんは「伝えようとする」創作者だ。ストレートすぎる伝え方を嫌がる観客はもちろんいるが、それは人それぞれ。観客の好みに関しては、創作者に責任はない。そして少なくとも僕はまた観たいと思える作品だった。
ファンタジックでどこか幼さのある序盤から、「異人」が入り込むことによって展開が変わる。夢の世界が崩れていく不快感が、次第にそれを望む気持ちに移行していくという不思議な感覚。希望のあるラストが、これもまた個人的にかなり好きだった。
えれがんす
シス・カンパニー
紀伊國屋ホール(東京都)
2010/01/29 (金) ~ 2010/02/14 (日)公演終了
作りが無難?
決して楽しめなかったわけでも、逆に眠くなったわけでもないのだけど、内容が薄かったような。二時間ドラマでやるのなら、いい話だったね、となるかもしれないが、演劇でやる必要性は果たしてあったのか疑問ではある。それと、残念ながら中村倫也さんの演技が見ていられなかった。周りがベテランだから尚更かもしれない。
音楽劇「雨を乞わぬ人」
黒色綺譚カナリア派
ザ・ポケット(東京都)
2010/01/20 (水) ~ 2010/01/24 (日)公演終了
カナリア派初見。
舞台美術が毎回凄いとのことで期待していたら、本当に凄かった。劇空間をあそこまで作品の世界観に作り込まれると、観客としてはやられてしまう。ラストシーンの衝撃は小劇場ではなかなか感じられないことだろう。
ただ全体的に歌謡ショーみたくなってしまっていたように思う。正にミュージカルを食わず嫌いしている人が想像しているような、あの感じ。突然取り出すマイクにどうしても違和感がある。その分、生声で歌うアンサンブルのシーンは印象深かった。
作品の構成や設定が良かった割に、登場人物の感情の流れが上手く見えてこなかったのももったいない。もっともっと丁寧に人物を描けたのではないか。
美しいヒポリタ
世田谷シルク
小劇場 楽園(東京都)
2010/01/13 (水) ~ 2010/01/17 (日)公演終了
コラージュ演劇という形
炎さんの演劇の作り方はとても面白く、興味深い。小劇場だからこそ魅力的に見せられる表現方法であり、また同時に非常に演劇的である。台詞の擦れや、同時多発していく身体の動き。「スタイリッシュ」という言葉がこれほど似合うこともない。
そして何より休むことなく次々に公演を打つその姿勢、高校生以下に超割引価格で観劇させようという心意気が凄い。