園田喬しの観てきた!クチコミ一覧

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I, Daniel Blake ―わたしは、ダニエル・ブレイク

I, Daniel Blake ―わたしは、ダニエル・ブレイク

秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場

紀伊國屋ホール(東京都)

2025/09/26 (金) ~ 2025/10/05 (日)公演終了

実演鑑賞

日本初演という今作。2016年に原作となる映画が公開され、その映画で主演を務めた俳優が自ら舞台版の脚色を担当し舞台化。その戯曲を用いた上演が新宿の紀伊國屋ホールへやってきた…という、やや珍しい経路。イギリスの社会福祉制度への批判や皮肉が多く含まれており、切実な貧困問題を描いている。舞台設定はイギリスだが、日本にも、そして多くの諸外国にも通ずる内容と言えるでしょう。

ネタバレBOX

心臓を患い、健康面を配慮して医者から復職を禁じられている(働きたくても働けない)高齢男性、適切な社会保障から排除されかかっているシングルマザーとその娘。この三人を中心に物語は展開していく。審査の厳格化や融通の利かない窓口担当など、日本の状況と類似する点が多いことも興味深い。

そして、これは演劇作品としての感想ですが…、生活に苦しむ当事者に一向に寄り添おうとしない制度に業を煮やし、主人公がとる怒りの行動にやや拍子抜けしてしまいました。ただし、冷静に考えると、これは2016年に日本で起きた「保育園落ちた日本死ね!!」問題と類似しているのかもしれません。
「遺すモノ~楢山節考より~」上演10周年記念公演

「遺すモノ~楢山節考より~」上演10周年記念公演

THEATRE MOMENTS

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2025/09/18 (木) ~ 2025/09/21 (日)公演終了

実演鑑賞

過去10年に渡り、繰り返し上演されてきた演目とのことで、団体にとってある種のライフワークであり、かつ代表作と言えるでしょう。上演した年、上演した都市、そして上演した国もそれぞれで、特にこの10年というとコロナ禍の数年も含まれる訳で、そのひとつひとつの上演経験が、小さな積み重ねとなり作品へ影響を与えているのだと想像しました。物語は、映画版ではなく小説の『楢山節考』をベースにされているそうです。

ネタバレBOX

姥捨山の物語は日本で広く普及しており、物語の背景や概要などは多くの方がご存知だと思います。決して明るい物語ではないため、終演後の客席にはすすり泣く声が漏れ聞こえていました。僕が印象的だったのは、徹底した客観視というか、ある種「ドライ」と表現して良いほど、客観的な上演だったこと。(ただし、この感想は僕特有のものであると自認しています)。これは想像ですが、10年という長い稽古・上演期間を経て、幾度も肉付けされ、幾度も削ぎ落とし、肉付けされ、削ぎ落とし、の試行錯誤を繰り返した末の、2025年版上演ではないか…と考えます。これは、そう簡単に真似できることではなく、そのストイックな創作過程を想像すると、ひとつのことを突き詰めようとする精神の屈強さに驚かされます。その精神の屈強さは、今作に登場する、70歳を節目に山へ捨てられる「おりん」さんの精神に通ずるのかも、しれません。
われわれなりのロマンティック

われわれなりのロマンティック

いいへんじ

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2025/08/29 (金) ~ 2025/09/07 (日)公演終了

実演鑑賞

26年の歴史をもつ、若手団体のショーケース企画「MITAKA “Next” Selection」。今年の1団体目にあたる「いいへんじ」の新作公演。時系列は大学時代から始まり、やがて就職し、それぞれが社会生活に翻弄されながら、自分たちの内面と向き合っていく青春群像劇、という印象でした。現代口語会話劇では割とたっぷりめと言える120分スケールで、作家の、そして団体の、本気度が伺える一作。会場内を埋め尽くす客席。静かに、かつ前のめりでステージを見つめる観客たちも相まって、とても良い上演に立ち会えたことに感謝します。

ネタバレBOX

劇中に「多様なパートナーシップについて」という言葉が登場し、僕にはこの言葉が、作品を一言で現すにはピッタリだなぁ…と感じました。LGBTQ +は当然の前提として、その上でさらに多様な「(恋愛に近い、又はそのものの)感情」が登場し、登場人物たちはその感情と向き合い、傷付いたり、傷付けたりしながら、まだ見ぬ未来のために、社会、他者、そして自己と戦い続けます。そこへ現代の空気感や若者たちの感性が加わり、今を生きる観客たちと共感しやすい上演になっていたと感じました。

観劇しながらタイトルの意味を考えていて、途中で僕は「タイトルの『われわれなりの』という言葉は謙虚な自虐に近い?」と感じたけれど、ラストまで観終わると「このタイトルで良かった」と考え直しました。堂々と「ロマンティック」で良いのでは?と思ったけれど、この「われわれ」には観客やそれ以外の第三者も含まれており、更に「なり」には、当人たちの模索の意思表示が含まれているのだと、想像しました。

ものすごく熱意を込めて創作したことが伝わってきますが、取り扱うテーマの重要さを鑑みると、もう少しだけ焦点を絞って構成しても良かったかも?とは思います。やや欲張りになっちゃった感(でも、気持ちはよく分かります)。丁寧に創れる団体であることはよく分かっているので、このままの活動に期待します。
クロスワード

クロスワード

ミズタニ会議

Route Theater/ルートシアター(東京都)

2025/09/04 (木) ~ 2025/09/07 (日)公演終了

実演鑑賞

シチュエーションコメディ好きに是非おすすめしたい一作。僕は初見の団体で、かなり優秀な、そして純粋な、コメディの書き手と出会えたことに感謝。まだ一作しか観ていないため、予想の域を出ませんが、おそらくオールラウンダータイプの書き手だと感じます。今作は再演にあたり、これもおそらくですけど、団体にとってかなりの自信作では。僕の印象では「最も強い手札で池袋演劇祭に参戦してきた」と感じました。

ネタバレBOX

4編の短編と、それらを繋ぐエピローグ1編で構成され、一見バラバラだった物語が(世界線をまたぎつつ)最終的にひとつに繋がる。それぞれの短編もシチュエーションコメディとして普通に面白く、よく練られた上演だと思います。SF設定を上手に日常的世界観に落とし込み、知的で無理のないコメディに仕上がっている点も高評価。タイトルにもなっている短編『クロスワード』は、当人たちも手応えを実感している自信作だと予想します。小劇場界隈ではコメディの創り手たちが減少傾向にあるため、この団体の今後の活躍に強く期待したいです。ナンセンス系ではなく、理屈で的確に笑わせる技術に長けた一作でした。
私はイスを撫でたくない

私はイスを撫でたくない

劇団さいおうば

北池袋 新生館シアター(東京都)

2025/09/02 (火) ~ 2025/09/03 (水)公演終了

実演鑑賞

第37回池袋演劇祭の参加作品。僕は初見の団体でした。公式ホームページによると、明治大学を母体として2023年に発足した劇団、とのこと。旗揚げ2年。頑張って着実に活動している印象を受けました。

上演演目は約45分。中短編、位でしょうか。オムニバスではなく単体で上演するの珍しいなぁ…と考えていたら、2週間後の9/19〜21に別劇場での公演を予定しているそうです。この辺の戦略性もやや珍しく、僕は好印象。

ネタバレBOX

地球外生命体による地球侵略が、秘密裏に、でも日常的に行われている世界線。というSF設定のシチュエーションコメディ。その設定による奇妙な出来事でクスリと笑う、上演。単なるコメディというより、社会風刺的なややブラック展開も含まれており、団体のやろうとしていることが想起されます。移民問題であったり、異文化コミュニケーションであったり。その他諸々。

若い団体なので、エールを込めて書きますと、せっかくの設定をもっとこねくり倒して、もっともっと遊んで欲しかったな〜と感じました。やりたいことは伝わってくるので共感はできるものの、既視感のあるネタにも感じられ、そこが惜しくもあります。演劇で上演する意味を意識された創作であることは理解できるので、それを踏み台にして、もっともっと高くジャンプする方法を、劇団員全員で楽しみながら考えて欲しいです。劇団運営や集団創作の面白さを、全身で体感しながら前へ進んで欲しいと感じました。
ほぐすとからむ

ほぐすとからむ

彩の国さいたま芸術劇場

彩の国さいたま芸術劇場 小ホール(埼玉県)

2025/08/03 (日) ~ 2025/08/11 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

松井周×近藤良平のタッグ公演。新鮮な組み合わせとも言えるし、勿論楽しみな組み合わせとも言えます。過去にタッグ公演を上演しているそうで、今回が二度目のトライ。脚本が松井周で、演出・振付・美術が近藤良平。

個人的に特に惹かれたのは、松井さんの描く世界観。松井さんらしい内省的な一面、耽美的な一面もありつつ、非常に現代的なSF要素も含まれている。既に存在するテクノロジーや社会変化を取り入れつつ、その先の未来を描くような先見性の高い物語でした。近藤さんの演出も、的確かつ近藤さんらしい自由さがあり、振付など身体表現も含まれますが、どちらかというと、しっかり「ストレートプレイ」を感じられる、物語性を重視した演出に感じられました。そこには、松井さんの描く脚本の魅力に、近藤さん自身が強く惹かれていた、という背景があるのでは?と想像しています。

WHO CARES

WHO CARES

ヨーロッパ企画

新宿シアタートップス(東京都)

2025/08/02 (土) ~ 2025/08/10 (日)公演終了

実演鑑賞

ヨーロッパ企画・大歳さんのユニット「イエティ」の公演。トップスで上演してくれるのは嬉しい限りで、その昔、トップスで観たヨーロッパ企画本公演のことなども思い出します。特定のモチーフをクローズアップした企画性の高いコメディ。今回のモチーフは「三択」。三択クイズも含まれますが、それよりも「ピンチが訪れた! この状況下で選ぶなら、次のうちどれ?」という三択なので、アドベンチャーゲームのシナリオに近いのかも。個人的には初期の『ハンターハンター』や、福本伸行作品などを連想しました。

ネタバレBOX

物語終盤で、登場人物たちが実際に三択クイズに挑戦するシーンがあり、あの臨場感と即興を上手に笑いに変えていくセンスはさすがヨーロッパ企画、と感じます。それにしても「三択」という演劇化しやすいとは言い難いモチーフで、ここまで劇を展開できる点もさすが。ほんと、特殊技能集団だなぁと感じます。
ワイルド蛍をつかまえろ

ワイルド蛍をつかまえろ

岡本セキユ☆シングル芝居

早稲田小劇場どらま館(東京都)

2025/08/01 (金) ~ 2025/08/04 (月)公演終了

実演鑑賞

くらやみダンス主宰の岡本セキユによる一人芝居。僕は初見ですが、今回は再演にあたるそうです。上演時間は約85分。初演や、この再演での事前アナウンスでは70分と聞いていたので、15分足された要素が気になりました。一人芝居の15分増はなかなかのボリュームアップ。

物語は、夢の断片をつなぎ合わせたような不条理さを持ち合わせつつ、登場人物たちの日常や葛藤などが描かれます。昭和と令和を行き来する、現代的な一人芝居だと感じました。

ネタバレBOX

劇中に「刹那!」と言う単語が何度か登場するのですが、これが格好いい。ここまで情感を表せる「刹那!」もあまりないと思う。岡本さんは劇作も演出もするけれど、いち俳優としても魅力溢れる存在と知り、それも大きな収穫でした。彼を客演に呼びたがる団体の気持ちがよく分かりました。不条理系の物語の導入を、もう少しだけ丁寧に客席へ届けれられると、中盤から後半へ向けたジェットコースター的展開が更に盛り上がるかも、と感じました。
新しい国家のための緩やかなる反抗

新しい国家のための緩やかなる反抗

(劇)ヤリナゲ

SCOOL(東京都)

2025/08/01 (金) ~ 2025/08/03 (日)公演終了

実演鑑賞

かなり久しぶりのヤリナゲ。まず何より、若い団体がこうして活動継続を試みていることが嬉しい。久しぶりに観たヤリナゲは、作風が以前と大きく変わっていて、それに驚いた。以前は、現代口語を用いて、20代の焦燥に焦点を当てた物語性に惹かれていた(←あくまで個人的な記憶です)のですが、より実験的かつ前衛的な作風に。作り手の「絶望」がひしひしと伝わる一作に感じられました。

ネタバレBOX

上演時間は約70分。その中でも、映像を多めに用い、上演テキストのボリュームは少なめ。全体的にライブパフォーマンス度が上がっている印象。以前は、どちらかというと「言葉」のイメージがあった団体だが、それを意図的に捨てた作品に感じられました。ただし毎公演こうなのかは分かりません。作品全体を覆う絶望は、社会にも、時代にも、そして自身にも向けられており、時にアイロニカルでありつつ、同時に内省的な内容でもあります。シーンの構成にアイディアが感じられるものの、やや記号的にも感じられ、個人的には、もう少しだけ俳優にスポットを当ててあげて欲しいと思いました。また、この表現を街へ繋げると違った反応が返ってきそうで、その意味で、野外劇場などで上演できたら印象も大きく変わりそう…などと考えました。
キャプテン・アメイジング

キャプテン・アメイジング

世田谷パブリックシアター

シアタートラム(東京都)

2025/07/26 (土) ~ 2025/08/03 (日)公演終了

実演鑑賞

一人芝居でキャスト3名。同時出演ではなくトリプルキャスト、という珍しい企画性。見比べる楽しみを(ある程度)前提としていると推察できるので、三作観ることで、より多彩な感想が生まれそう。僕が観たのは近藤公園さんの出演回。セットはシンプル、壁や椅子、机など最小限。時折シーンの情景を想起させるイラストが壁に写し出され、「このシーンはこんなイメージです」と提示してくれます。上演時間は約70分。

ネタバレBOX

「キャプテン・アメイジング」という架空のヒーローが登場し、彼の恋愛や育児、娘との関係性などが描かれる。「ヒーローの人間的苦悩」のようなテーマは、近年のヒーロもの漫画などでもよく見かけるテーマであり、その意味で世界観に入りやすかった。ネタバレになってしまいますが、「そもそも本物のヒーローなのか?」と疑問符を打てるようなシーンもあり、解釈は観客にかなり委ねられそう。日本は欧米と比べると「スーパーヒーローもの」の普及度・浸透率が低いと推察できるが、このモチーフがもう少し日本人に馴染んだ土壌があれば、物語への共感が増すのかもしれない。…と思いつつ、日本にもアメコミやマーベラスを愛する人たちは多いので、この感想は単に僕個人のものかもしれません。そして、「じゃあ日本に置き換えると何が良い?」と考えても、ウルトラマンや仮面ライダーも国民全員が親しんでいるわけでもなく、なかなか難しいのかも…と思いました。戯曲自体も自由に解釈できる様式のようで、多彩な上演が可能なポテンシャルを秘めている一作と言えるでしょう。
「さよならノーチラス号」/「ナナメウシロのカムパネルラ」

「さよならノーチラス号」/「ナナメウシロのカムパネルラ」

演劇集団キャラメルボックス

サンシャイン劇場(東京都)

2025/07/20 (日) ~ 2025/07/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

キャラメルボックスの劇団創立40周年記念公演の第一弾。(年末に第二弾が控えています)。今夏は過去作の再演と新作の二本立て。『さよならノーチラス号』は作家の成井豊の自伝的内容を含む一作、新作の『ナナメウシロのカムパネルラ』は現代を意識したリアルな物語に、キャラメルボックスらしいファンタジー設定を加えた、劇団の現在地を感じさせる一作。両作とも成井戯曲の魅力と劇団員たちの表現力が際立つ、40年の実績を感じさせる上演でした。

ネタバレBOX

『さよならノーチラス号』は、劇を構成する要素ひとつひとつが魅力的。音楽とダンスはスタイリッシュかつ情熱的で格好いいし、登場人物たちがそれぞれ活躍する群像劇の魅力もたっぷり。個人的にはサブリナという老犬がとても好きでした。『ナナメウシロのカムパネルラ』は劇団を長く支えた岡内美喜子と筒井俊作のバディっぷりが秀逸。それぞれのキャラクターの良さを最大限引き出す能力はさすがの一言。ファンタジー設定はキャラメルボックスの十八番と言えるが、全編通して「現代」を感じさせる劇世界は、この作品がいま上演される意味を考えさせる。二本同時上演だが、どちらにも出ている俳優も複数いて、特に多田直人と石森美咲の演じ分けが印象に残りました。
紅鬼物語

紅鬼物語

劇団☆新感線

シアターH(東京都)

2025/06/24 (火) ~ 2025/07/17 (木)公演終了

実演鑑賞

45周年記念公演でありつつ、今もなお「新しい新感線を模索する」という姿勢。素直に尊敬に値すると思いますし、その試みをしっかり感じられる点も「さすが」の一言。メインキャストは劇団外から多く招へいし、新鮮味のある座組ですし、全体的に「劇団固有のらしさと新しさの融合」のような印象を受けました。

ネタバレBOX

シアターHは昨年オープンした新しい劇場、とのこと。キャパ700といえど、新感線が使用すると小さく感じるのも不思議な体験でした。全編を通して感じたのは、音響や照明など、スタッフワークがとても安定しており、その基盤があるからこそ、華やかで臨場感のある上演が成立するのだなぁ…ということ。キャスト陣に見どころが多いのは勿論ですが、こういうスタッフワークも含めて、45年目の劇団の強みだと考えました。
アクラム・カーン『ジャングル・ブック』

アクラム・カーン『ジャングル・ブック』

彩の国さいたま芸術劇場

彩の国さいたま芸術劇場 大ホール(埼玉県)

2025/06/20 (金) ~ 2025/06/22 (日)公演終了

実演鑑賞

視覚面の感想としては、アニメーション映像を多用した演出、動物たちの映像表現などは見応えがありました。そして何より、ダンサーたちの身体表現には強い意思と説得力が宿っていたと思います。物語面の感想は、独自解釈や要素がしっかり挿入されており、アクラム・カーンが今作に寄せる想い、情熱などが伝わってきます。物語だけを抽出して捉えれば、かなり大胆な改訂と言えるでしょう。ただ、賛否が巻き起こるような改訂ではなく、現代社会を強く意識した、いま上演する意義のある改訂作だと思いました。

ネタバレBOX

そして、これは個人的な感想になりますが、アニメーション映像、音楽、物語と、多層的な魅力が掛け合わさることが最大の特徴と頭では理解しつつ、やはり、最も説得力に溢れた表現は、出演者たちの身体表現と、それに特化したシーンであると感じました。本気の身体(という表現が適切かどうか怪しいところですが…)が観客を魅了するという観点から、今作はやはり「ダンス公演」なのだと思います。
『from HOUSE to HOUSE』

『from HOUSE to HOUSE』

終のすみか

劇場HOPE(東京都)

2025/06/19 (木) ~ 2025/06/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「家の中」を舞台にした二作品の再演企画。『Deep in the woods』は昨年の上演を別の劇場で拝見していたので、今回は『I'll BE OKAY』を観劇。観劇後にはタイトルの意味が染みる。上演の特徴として、男女二人の出演者が全登場人物を演じ、特に中心的存在の男性「カキヤ」を二名が交互に演じること。演劇上演においてそれほど珍しいことではないものの、観客の想像力が介入する余地が生まれ、良い効果を生んでいました。

ネタバレBOX

酩酊し財布を失くしたカキヤ。そのことに気付いた朝、カキヤは自宅ではなく既婚者の友人宅にいた。その友人は一年程前から蒸発しており、カキヤは友人の妻・ミサキと奇妙な同居生活をしている。カキヤが財布を失くした前後(と思われる状況)や、ミサキとの会話、友人との会話、などが回想シーンとして語られ、この状況に到るまでの、カキヤやミサキの過去が描かれていく。

昨年観た『Deep in the woods』で感じた「うっすらとした恋情の欠片」みたいな描写が記憶にあり、今作にもそれに似たものを感じました。個人的には『Deep in the woods』より今作の方がその傾向が濃かった気がします。ただ、それを隠れ蓑にして、本質的に描きたいものは別にあると想像します。劇中に「やらかし」という言葉が何度か登場し、凡ミスというか、本番に弱いというか、そういう「間の悪さ」の悲哀も感じました。カキヤもミサキも、失くしたものに固執した日々から離脱できたとして、その先にある続きの物語も気になるエンディングも印象的でした。
Pica

Pica

ハトノス

現代座会館(東京都)

2025/06/15 (日) ~ 2025/06/22 (日)公演終了

実演鑑賞

広島の「黒い雨」訴訟をモチーフに、戦中、戦後、そして現代を描いた一作。広島と関連する題材を取り扱う団体ですが、東京を拠点に活動しているそうです。今作で初の広島公演を行うとか。良い意味で若い世代が中心となり創作した一作に感じられ、状況を客観視しようとする姿勢や現代人としての素直な感情の吐露など、戦争を取り扱いつつ、等身大の表現を模索する姿が印象的でした。

ネタバレBOX

1945年8月6日当日のシーンもあるけれど、物語の軸足は「黒い雨」及び「黒い雨訴訟」に置かれています。黒い雨による被曝、及び被曝者の方々のその後の人生、等々。人々の感情、生活、社会との接点、を描いているため、より繊細な感情の行き違いや、社会が抱える諸問題が浮かび上がってきます。広義で捉えれば「反戦劇」と言えますが、より生々しい人間の生き様が感じられる「人間ドラマ」寄りの印象が残りました。

BORN TO RUN

BORN TO RUN

コンドルズ

彩の国さいたま芸術劇場 大ホール(埼玉県)

2025/06/07 (土) ~ 2025/06/08 (日)公演終了

実演鑑賞

タイトル通り、テーマは「RUN」。コンドルズにぴったりのテーマ。RUNをモチーフにした振付、映像、コント、人形劇、等々で構成され、コンセプチュアルな楽しみ方もできる。また、割とスタンダード仕様のコンドルズとも言えるため、昔からのファンには嬉しい構成とも。途中、ロックが爆音でかかるなか踊る群舞シーンがあり、照明や美術も格好良く、コンドルズらしさ全開の空間作りに圧倒されました。ガンズアンドローゼズが似合う日本人といえば、僕の中ではコンドルズです。

ネタバレBOX

小林顕作さんが出演されていました。やはり、顕作さんが出るコンドルズは一味違いますね。
秘密

秘密

劇団普通

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2025/05/30 (金) ~ 2025/06/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

全編茨城弁で綴られる、とても静かな会話劇。登場人物は主に、両親、子どもたち、孫たち、親戚などで、家庭内での日常が描かれる。物語の起伏は少ないものの、リアリティの高い繊細なシーンが多く、見入っているうちに飽きることなく終演。劇団普通は、その名の通り「普通」を極めようとする団体だと思う。

ネタバレBOX

封建的で意固地な父親。父親を立てることで家庭を保ってきた母親。実家を離れた長男夫婦、同じく実家を離れたが両親の看病や支援のため帰省中の長女、等々。リアルな設定が活きる物語。淡々と綴られる日常がここまで観客を惹きつけるのは、この団体の特性だと思う。ごく個人的なことですが、僕自身の状況とかなりオーバーラップするため、他人事として観ることはできません。この感想が、僕個人のものなのか、多くの観客たちに共通するものか、その辺りに大変興味があります。
チョコレイト

チョコレイト

キルハトッテ

小劇場 楽園(東京都)

2025/05/21 (水) ~ 2025/05/25 (日)公演終了

実演鑑賞

僕は初見の団体でした。チラシや舞台美術から「ポップ過ぎないポップさ」というか、ちょいズラしたポップ(を狙っているように見える)を感じます。レトロといえばそうかもしれないし、やや内向性を感じるポップ。本編は、登場人物もさほど多くなく、上演時間も90分。ストーリーも難解ではなく、小劇場で見るには程よい「見易さ」がありました。それでいて「あまり言いきらない(特別な結論を求めない)」作風は、想像力が介入する余地もあり、演劇らしいポイントだと思います。

ネタバレBOX

結婚式を来週に控えた、婚約済みの若い男女が、劇中に起こるアレコレから「結婚とは何だろう?」と、恋愛&結婚について再考する物語…と捉えました。劇作家が述べる「ロマンチック・ラブ・イデオロギーへの懐疑」は、正に創作の根底にあったテーマだと考えます。恋愛観や結婚観は時代と共に目まぐるしく変化しますし、このテーマも多くの人に届き得る汎用性の高いものと言えるでしょう。

そして、小劇場界隈では恋愛をメインテーマに据える作品が極端に少なく、そういう意味でも希少性が高いと感じました。
舞台『祈りの幕が下りる時』

舞台『祈りの幕が下りる時』

ナッポス・ユナイテッド

サンシャイン劇場(東京都)

2025/05/17 (土) ~ 2025/05/25 (日)公演終了

実演鑑賞

東野圭吾作品の舞台化に挑む企画「東野圭吾シアター」の第一弾公演。あくまで僕の体感ですが、ここまで高濃度に「ミステリー(謎解き)」に特化した舞台作品は、かなり珍しいと感じます。そのミステリー演劇が終盤一気に「人間ドラマ」へと舵を切る展開は、今作の大きな特徴であり、魅力であると言えるでしょう。殺人事件に関与する登場人物など、かなり難しい役どころもありながら、出演俳優たちの献身的な貢献が作品世界全般を支え、より見所の多い上演に感じられました。

ネタバレBOX

原作小説の、ミステリーとしての魅力は舞台上でも健在で、原作ファンやミステリーファンも納得の上演だと思います。そして、演劇的な見どころとしては、出演俳優たちの「舞台俳優としてこの物語を支えよう」という、自分たちの特技を活かした献身性だと感じました。殺人事件の背景や動機、不幸な巡り合わせなどについて、説得力を伴う上演となったのは、俳優たちの力が大きいと感じています。
『ベイジルタウンの女神』

『ベイジルタウンの女神』

キューブ

世田谷パブリックシアター(東京都)

2025/05/09 (金) ~ 2025/05/18 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

5年前の初演時から大好きな演目でした。この再演版も、初演で感じた魅力はそのままに、より「ならでは」の魅力が増した印象。この出演者ならでは、ファンタジー作品ならでは、映像演出ならでは、物語ならでは、etc…。ベイジルタウンという架空の貧民地区を舞台に、市井の人々の前向きな生命力を描き、「夢を見ることの大切さ」を感じさせる一作だと思います。

ネタバレBOX

公演チラシのビジュアルにある「カートゥーン調」のイラストが劇中でも用いられます。その結果、カートゥーン映像から俳優へ、俳優からカートゥーン映像へ、のスイッチング演出が多用され、より「フィクションだからこその夢物語」が強調された印象を受けました。キャスト陣には初演を経験済みの俳優が多く、そこに再演版から参加した俳優も加わり、見応えも十分。難解すぎず飲み込み易い物語は、後半に進むにつれて大きく揺れ動き、ラストシーンまで飽きることなく楽しめます。劇場体験の少ないお子さんなどを連れて、家族みんなで夢中になってもらいたくなる一作です。

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