人生の中のひとときの瞬間
ぱぷりか
ザ・スズナリ(東京都)
2025/11/02 (日) ~ 2025/11/09 (日)公演終了
実演鑑賞
約3年ぶりとなる、ぱぷりかの新作公演。スズナリで観ることも新鮮で、新しい環境に散っていく劇団たちの動向に注目していきたいし、何よりエールを送りたいです。作・演出の福名さんが出産を経へ書き下ろした新作で、物語の中心にも「妊娠・出産」があります。演劇(小劇場)業界で活躍する人々を描いており、作り手の心情が色濃く反映された一作と想像できます。一方で、客観的・多角的な視座も多く取り入れられており、そのバランス感覚が印象的でした。個人的には「四分割されたチャート」のようなイメージで観ていました。
ネタバレBOX
登場人物は4組の、パートナーや家族(そのうち一人はシングルマザーと息子で、息子役は直接的には登場しない)。それぞれが「結婚・妊娠・出産」にそれぞれの心情を抱いており、それらがゆっくりと吐露されていく。ある人物は、自分の演劇活動に主眼を置いており、自身の妊娠に軽い戸惑いを覚えている。ある人物は妊娠を望んでいる。ある人物は結婚も妊娠も望んでいない。等々。そこにそれぞれのパートナーの存在(&意向)が加わり、物語がより立体的に立ち上がっていく。作り手の心情を込めつつ、それぞれの視座も肯定するような、優しく、俯瞰的な物語に好感を覚えました。
オオオ♪オォシゴト!
演劇ユニットタイダン
インディペンデントシアターOji(東京都)
2025/10/31 (金) ~ 2025/11/03 (月)公演終了
実演鑑賞
劇中に生演奏を取り入れて、独自の音楽劇を上演する「タイダン」の新作公演。チラシ画像から連想されるような、賑やかで楽しい雰囲気が特徴的です。モチーフが「雑誌の編集部」であり、作・演出家のリアルな労働体験が色濃く反映された一作と言えるでしょう。
ネタバレBOX
「雑誌編集部の繁忙期がとにかく大変である」という前提で物語が進行していくのですが、その前提がどの程度客席と共有されているか?が気になりました。私は雑誌の編集者なので、予備知識なく理解・共感できるのですが、それが客席全体に及んでいるか?は疑問が残ります。雑誌編集部のバタバタした雰囲気と、この団体の持つ賑やかさは親和性が高いため、その意味で良いモチーフだと思うからこそ、もう少し丁寧に説明・解説があっても良いと感じました。奇想天外な物語展開や独自のこだわりは健在で、小さな小道具や設定などもしっかり作り込んでいる点は、この団体らしい魅力のひとつといえるでしょう。
光るまで
ほろびて/horobite
浅草九劇(東京都)
2025/10/30 (木) ~ 2025/11/03 (月)公演終了
実演鑑賞
ほろびての新作公演。会場は浅草の九劇。コンパクトにまとめられたシンプルな舞台セットで上演する、夫、妻、義理の母、義理の兄、の4人芝居(モノローグは夫目線で語られる)。妻曰く「母と兄の様子が、私の知っている昔の様子と全く異なる」とのこと。久々に同じ食卓を囲み、ゆっくりとコミュニケーションを重ねる家族たち。しばらくすると、妻は実家での暮らしに順応し始めるのだが……。
ネタバレBOX
細川さんらしい「見立ての演劇」は健在で、小道具や台詞、繰り返されるモチーフなど、各所に見立てが感じられる。それもあり「この要素はどこに繋がっているのだろう?」というパズルのような見方もできるし、観客それぞれが独自の解釈を持つことができる。実際、自分なりの解釈が見つかった時は、物語にブーストがかかったような快感が。終盤に大きなどんでん返しがあり、そのまま終演を迎える展開にも驚いた。
ほろびての作品を何作か観ていて感じるのは、細川さんの一貫性。作品ごとのテイストは異なるものの、創作としての一貫性を感じることができます。それは「横から見ていたものを下から見てみる」のような、物事の見つめ方、視座のようなもので、なるべく多方向から見たい、その上で見えたものを列挙したい、という感性・欲求ではないか…と考えています。
劇場版☆歌え!踊れ!育て!ははごころの庭
うたうははごころ
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2025/10/25 (土) ~ 2025/10/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
「ママさんコーラス演劇」という唯一無二のジャンルをひた走る「うたうははごころ」。団体名がそのまま活動内容の説明になっている点も素晴らしいです。母心を歌う劇団。お子さん連れの方は古着持参で子供分のチケットは無料。古着を持参するとその交換会に参加でき、気に入った服を何着でも持ち帰ることができるとか。古着の輪廻システム。古着のフリマを眺めつつ、紙芝居や似顔絵コーナーなどもあり、勿論しっかり歌うライブパートもあり。母心の歌はユーモアと脱力で魅了し、多くのママパパの心を掴む。生きることと演劇が両輪となり、力強く前進する公演がとても素晴らしかったです。
ネタバレBOX
会場内に相当数のスタッフを常備しており、お子さんたちの様子などをしっかり見守っている体制に感心しました。すべての観客が安心して観劇できる環境づくりを目指しているように見えました。お子さんたちの安心や楽しさを演出しつつ、会場全体に明るい雰囲気が満ちたところで、ママさんコーラス演劇の上演。構成も練られており、おそらく「ベスト盤」的な公演だったと予想しています。
明日を落としても
兵庫県立芸術文化センター
EX THEATER ROPPONGI(東京都)
2025/10/22 (水) ~ 2025/10/27 (月)公演終了
実演鑑賞
1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災から30年。そして、兵庫県立芸術文化センターの開館20周年。更に、今作『明日を落としても』。作品自体は多義的であり、解釈も様々だと思うが、私がいち観客として考えることは、やはり震災のこと。阪神・淡路大震災はテレビ中継を恐々としながら見て(子供だったこともあり、とにかく怖かった)、東日本大震災は東京で体験したことでもある。震災前と震災後。そのふたつの時間が、地続きでありながら決して交わらないことを、強く再認識した公演でした。
ネタバレBOX
舞台は阪神・淡路大震災の被災地にある老舗旅館。旅館で働く人々たちの群像劇。若女将の友人の息子(高校生)が旅館に預けられることになり、やりたいことが見つからない若者の更生の物語でもある。生きる目的をようやく見つけた人々が、震災を経て、他界してしまったり、あるいは震災後の人生に暗い影を落としたり、全体的にシリアスで張り詰めた空気が漂う上演だった。受け継がれていくことを意識したラストシーンには、作り手たちの祈りや鎮魂が含まれていると感じた。
暮らしとペニス/音楽とヴァギナ
食む派
スタジオ空洞(東京都)
2025/10/23 (木) ~ 2025/10/26 (日)公演終了
実演鑑賞
全作ではないものの、これまで「食べ物関連」のモチーフを多く扱ってきた食む派(はむは)の新作公演。観劇前は「かなり大胆にハンドルを切ってきたなぁ」と考えていましたが、実際に観ると、食む派らしさを多く感じることのできた上演でした。はぎわら流のボーイ・ミーツ・ガールも健在。
ネタバレBOX
『暮らしとペニス』は女性による一人芝居、そして『音楽とヴァギナ』は男性による一人芝居、後にこの二人が出会う第3幕がある3部構成。劇中に出てくる性器などは多様な解釈ができ、比喩であり、心象であり、葛藤であり、等々。全編を覆う雰囲気はシリアスで、作り手の問題意識の高さ、常に問いかけ続ける真摯な姿勢が窺い知れる。男女の性差、性行為や性欲、それらを根本とした暴力などを描き、その上でなお葛藤し続ける様子が作品の誠実さを物語ります。全編に孤独感の漂う作品ですが、ラストは夜明けを想起させるシーンで幕を閉じ、一筋の柔らかな光が差し込むような余韻が残りました。
ながいみじか〜い
キルハトッテ
王子スタジオ1(東京都)
2025/10/09 (木) ~ 2025/10/12 (日)公演終了
実演鑑賞
「時間」がテーマの短編3演目を連続上演する企画公演。ナンバリングは「vol.5.5」。劇団員の吉沢菜央が3作全てに出演し、そのうち1作は一人芝居。こういう機会だからこそ、改めて「目を引く俳優さんだなぁ」としみじみ。会場が王子スタジオ1ということもあって、シンプルな舞台セット、シンプルな舞台機構、コンパクトな空間性で上演され、そのことが作品と観客の一体感を生む効果もありました。日常的でありながら非日常な世界観。小劇場らしい上演と言えます。
ネタバレBOX
沢山のアルバイト歴を誇る女性が、新たな入社面接で自身の職歴を語る。他界した愛犬の弔い方を共に考える女子学生たち。等々。私たちの日常に近い世界観だが、そこに想像力・妄想力を注入させ、魅力的な非日常に変換させる。表現として、リアリティとデフォルメのバランスもよく考えられており、好感や共感の抱きやすい上演だと感じます。作・演出を担う山本真生の内面性や物事の見方、こだわり方なども感じられ、過剰な背伸びをすることなく、でも、少しだけ成長した姿を見せようと「つま先立ちをする」ような演劇、この団体が等身大で向き合おうとする表現に魅了されました。余談ですが、愛犬の弔いをモチーフにした『ダックスフンド』を観て、自分の死への恐怖が少し溶けた気がします。
Mary Said What She Said
Théâtre de la ville de Paris
東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)
2025/10/10 (金) ~ 2025/10/12 (日)公演終了
実演鑑賞
今年7月に亡くなられたロバート・ウィルソン演出による今作。16世紀のスコットランド女王、メアリー・スチュアートの処刑前夜を描いている。出演はフランスのイザベル・ユペール。不勉強ながらあまり知識のない私ですら、直感的に「…すごい上演を観た」と感じる公演でした。
ネタバレBOX
舞台セットは極めてシンプル。ほぼ何もありません。光の照射のようなシンプルな照明を巧みに使い、広い舞台に一人で立つイザベル・ユペールに影や光を纏わせます。上演中の大きな特徴は、イザベル・ユペールによる台詞まわし(モノローグ)。音として詩的な響きでありながら、そのシーンでの状況、女王の感情、そして上演中の臨場感などを含んだ表現として、観客の心を惹きつけます。私のイメージでは、落語などの「啖呵」を連想しました。言葉が矢継ぎ早に、かつ流れるように飛び出し、連なり、ひとつの物体のように大きな存在感を示す。そんなイメージを受けました。舞台上の「演劇の構成要素」は最小に絞り、そこから生まれる表現は特異なものとして強く放射される。とても直感的な観劇体験ができたと思います。
三島由紀夫レター教室
AOI Pro.
紀伊國屋ホール(東京都)
2025/10/07 (火) ~ 2025/10/12 (日)公演終了
実演鑑賞
原作は、三島由紀夫が残した異色作として根強い人気を誇る『三島由紀夫レター教室』。登場人物たちが書いた「手紙」で展開する昭和の恋愛小説であり、同時に「三島由紀夫による手紙の書き方講座」の機能を併せ持つ、凝った趣向が特徴的です。この原作を、映像をふんだんに交えた朗読劇として舞台化した今作。5名の登場人物を担うキャストは総勢48名、日替わりで組み合わせが異なり、公演ごとの特色もはっきりしていたと思います(私は俳優回の1ステージのみ観劇)。原作の持つ言葉の美しさ、奥深さが秀逸で、朗読劇として強い個性を発揮していました。
ネタバレBOX
朗読劇に映像を交える演出が予想以上に効果的で、観客へのイメージ共有を支える存在でした。そして何より、上演台本の魅力、三島由紀夫の言葉の魅力が際立つ上演でした。朗読劇におけるメインディッシュは、やはり朗読だと思いますし、そのことを思い出させてくれる一作と言えるでしょう。
劇場の魔法使い
彩の国さいたま芸術劇場
彩の国さいたま芸術劇場 大ホール(埼玉県)
2025/10/11 (土) ~ 2025/10/12 (日)公演終了
実演鑑賞
「ダンスのある星に生まれて2025」内の演目のひとつ。「劇場が踊り出す!?」というコンセプトにはさすがの一言。自由で柔軟な発想を大事にされる劇場ならでは。劇場の機構や装置をもちいて、音や光と合わせた上演。観劇前は「ダンス公演の、ダンサーが登場しない版(観客が出演ダンサーを想像で補う上演)」と予想していましたが、そうではなく、実際に「物体が動く」ことにこだわりを持った上演と感じました。
ネタバレBOX
僕はついつい「想像力で補えば何でも演劇になる」などと考えてしまうのですが、今作はそうではありませんでした。一本のホウキが登場し、歩いたり、空を飛んだり、様々な表現をします(余談ですが、このホウキが妙に人間らしい存在に思えてくることが不思議でした)。その他、大きな布を用いたり、機材を吊るすバトンをダイナミックに動かしたり、大音量の音楽でシーンを演出したり(大音量が出せることも劇場のひとつの機構ですね)、普段は舞台上で黒子役に徹する「劇場機構」が主役に躍り出た上演でした。時間にして約10分強ですが、観客の脳内にはそれぞれの物語が浮かんだと思います。
クロッシング☆落語
彩の国さいたま芸術劇場
彩の国さいたま芸術劇場 小ホール(埼玉県)
2025/10/11 (土) ~ 2025/10/11 (土)公演終了
実演鑑賞
「ダンスのある星に生まれて2025」内の演目のひとつ。タイトル通り「ダンスと落語の交差・交流」と解釈できます。演劇やダンス公演でよく使用される「小ホール」の中央に高座を設け、上方の噺家さんなので見台・膝隠しも用意されています。通常の客席に加えて、桟敷席のような座布団席も用意。会場内にはカラフルな風船が置かれ、お子さんもリラックスして鑑賞できる配慮を感じます。演目は、前座さんは古典落語『平林』を、桂三四郎さんは自作の新作落語『一番のファンでいて』を口演していました。
ネタバレBOX
クロッシングということで言えば、三四郎さんの『一番のファンでいて』がそれに該当します。とあるラジオパーソナリティ(女性)と、天然キャラのパートナー(男性)の二人が登場。日々の失敗談などをおもしろおかしくラジオで紹介することで、その番組は人気を博します。ある日、男性が女性にサプライズを仕掛けようと、フラッシュモブを手配するのだが……。
このフラッシュモブがダンス要素となり、実際にダンサー役の出演者が高座を取り囲みながら踊るなど、新作落語の中に複数回登場します。落語は座った状態での身体表現も豊富なので、そこへ敢えてダンスを導入する方法に着目していましたが、こういう展開は予想しておらず、新鮮に観ることができました。途中でLINE風画面を用いた映像ネタを注入するなど、寄席ではできないことに果敢にチャレンジしている印象を受けました。
佐々木蔵之介ひとり芝居『ヨナ-Jonah』
東京芸術劇場
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2025/10/01 (水) ~ 2025/10/13 (月)公演終了
実演鑑賞
日本とルーマニアの国際共同製作による、日本人俳優・佐々木蔵之介の一人芝居。演出を担うシルヴィウ・プルカレーテとのタッグは、2017年、2022年に続き三度目とのこと。モチーフ、原作、演出、舞台美術などはルーマニアサイド、出演者は佐々木蔵之介含めて日本サイド、と捉えることができ、その共同創作、相乗効果などが作品の個性へ強く影響しています。物語を理解したい方は、可能な限り事前に下調べしておくことをおすすめします。逆に、舞台上で起きていることを直感的に受け止めたい方は、予習なしで観るのも良いかもしれません。
ネタバレBOX
物語は、旧約聖書に登場する、漁師であり預言者の「ヨナ」がクジラに飲み込まれた逸話を土台に創作されています。その背景にはルーマニア文化史なども敷かれ、かなり多層的な視点から描かれている一作と言えるでしょう。僕自身は資料を読み、全体の輪郭を掴みましたが、知識の乏しい僕にどこまで正確に読み解けたかは、あまり自信がありません。開演10分前までロビーで待機し、多くの観客がなだれ込むように劇場内へ入ると、ステージ上には出演者の佐々木蔵之介の姿が。物語自体が「クジラに飲み込まれた」設定なので、ここはクジラの体内と想像できます。そこから一枚ずつ脱皮するように世界が変わっていき、終盤近くになると一際大きく世界が変わるため、そういう新鮮な驚きも。また、一人芝居なので、舞台俳優・佐々木蔵之介の存在感、佇まいと言った、「舞台俳優の生き様」を直視できる点も魅力だと感じました。
誠實浴池 せいじつよくじょう
庭劇団ペニノ
東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)
2025/10/03 (金) ~ 2025/10/05 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
庭劇団ペニノと、台湾の団体「Shakespeare's Wild Sisters Group」による合同公演。初演は2024年に台湾にて、今年2025年に豊岡、富山、そして東京とツアーを行ってきました。タイトルを日本語で表記するのなら『誠実浴場』でしょう。浴場又は欲情。あるいは浴場で欲情。かもしれません。ホームページには、「夜毎、大衆浴場に戦死した男たちがやってきて、残してきた女を想い〈プレイ=演劇〉する─。」との記載があり、これも的確なコピーだと感じます。スタッフクレジットを見ると、その大部分が台湾の方々。にも関わらず、僕の記憶にあるペニノの様相や世界観を強く想起させられたことが驚きでした。平たく言えば「すごくペニノっぽい」と感じつつ、合同創作であることは間違いないため、とても相性の良い二団体による合同公演だと思います。
ネタバレBOX
当日パンフに記載されたタニノさんのコメントに「海で戦死した兵士たち専用のSMクラブ」という言葉があり、それに深く納得。戦死した兵士たち専用なので、風俗店を訪れるのは、いわゆる「魂」のような存在。その魂が、現世に残してきた後悔や戦死した状況などを語り、それらと向き合うようなイメージプレイ(=
演劇)を行う。演劇そのものと言える内容でもあり、呪術的、儀式的と捉えることもできます。一般的に語られる「泣ける演目」とは異なるのかもしれませんが、個人的にはすごく泣ける上演だと感じました。ラストへ向かう展開も、魂の浄化や平穏を連想させるもので、心に迫るものがありました。にも関わらず、見た目がユーモラスであることも、ペニノらしい魅力と言えます。
ドント・ルック・バック・イン・マイ・ボイス
公益財団法人三鷹市スポーツと文化財団
三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)
2025/10/03 (金) ~ 2025/10/13 (月)公演終了
実演鑑賞
2025年の MITAKA“Next”Selection 26th における2演目は「東京にこにこちゃん」の新作。某国民的アニメを彷彿とさせるアテレコ現場を舞台に、その創成期から成長、成熟期までの数十年を描いている。笑いを得意とする団体なので、笑いのシーンが多めだが、個性豊かな声優たち(登場人物)の内面的葛藤やバックグラウンドなども描いており、人間ドラマの一面も。
ネタバレBOX
序盤15分程はギャグのラッシュが矢継ぎ早に起こり、かなりハイテンポな空気に。ここで乗り遅れてしまうと終盤程度まで前のめりに観劇できない可能性もあり、観客によって評価が分かれそう。僕が観劇した回は序盤から笑っている人が多い印象でした。ただし、好き嫌いが分かれる笑いというより、コント的なボケ・ツッコミのレベルは高いと感じます。特にツッコミはひねりの効いた秀逸なものが多め(という印象)。中盤から徐々に登場人物たちの内面が見え始め、それぞれが葛藤を抱えていることが分かってきます。そして、そのアニメが国民的長寿番組へと成長を続けるなか、初期メンバーの声優たちが、ひとり、またひとりと、様々な理由で降板していき、物語は終盤へ向かうことに。
笑いに特徴のある団体なので、やはり作・演出の手腕に注目が集まりますが、それに加えて、今作の大きな魅力は出演俳優たちが支えていると言えます。的確な間や抑揚でボケ・ツッコミの役割をこなす俳優たち。そして、笑いにかき消されない人間味を上品に滲ませる俳優たち。俳優たちの力量や存在感が、作品世界の構築に大きく貢献していると感じました。
I, Daniel Blake ―わたしは、ダニエル・ブレイク
秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場
紀伊國屋ホール(東京都)
2025/09/26 (金) ~ 2025/10/05 (日)公演終了
実演鑑賞
日本初演という今作。2016年に原作となる映画が公開され、その映画で主演を務めた俳優が自ら舞台版の脚色を担当し舞台化。その戯曲を用いた上演が新宿の紀伊國屋ホールへやってきた…という、やや珍しい経路。イギリスの社会福祉制度への批判や皮肉が多く含まれており、切実な貧困問題を描いている。舞台設定はイギリスだが、日本にも、そして多くの諸外国にも通ずる内容と言えるでしょう。
ネタバレBOX
心臓を患い、健康面を配慮して医者から復職を禁じられている(働きたくても働けない)高齢男性、適切な社会保障から排除されかかっているシングルマザーとその娘。この三人を中心に物語は展開していく。審査の厳格化や融通の利かない窓口担当など、日本の状況と類似する点が多いことも興味深い。
そして、これは演劇作品としての感想ですが…、生活に苦しむ当事者に一向に寄り添おうとしない制度に業を煮やし、主人公がとる怒りの行動にやや拍子抜けしてしまいました。ただし、冷静に考えると、これは2016年に日本で起きた「保育園落ちた日本死ね!!」問題と類似しているのかもしれません。
「遺すモノ~楢山節考より~」上演10周年記念公演
THEATRE MOMENTS
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2025/09/18 (木) ~ 2025/09/21 (日)公演終了
実演鑑賞
過去10年に渡り、繰り返し上演されてきた演目とのことで、団体にとってある種のライフワークであり、かつ代表作と言えるでしょう。上演した年、上演した都市、そして上演した国もそれぞれで、特にこの10年というとコロナ禍の数年も含まれる訳で、そのひとつひとつの上演経験が、小さな積み重ねとなり作品へ影響を与えているのだと想像しました。物語は、映画版ではなく小説の『楢山節考』をベースにされているそうです。
ネタバレBOX
姥捨山の物語は日本で広く普及しており、物語の背景や概要などは多くの方がご存知だと思います。決して明るい物語ではないため、終演後の客席にはすすり泣く声が漏れ聞こえていました。僕が印象的だったのは、徹底した客観視というか、ある種「ドライ」と表現して良いほど、客観的な上演だったこと。(ただし、この感想は僕特有のものであると自認しています)。これは想像ですが、10年という長い稽古・上演期間を経て、幾度も肉付けされ、幾度も削ぎ落とし、肉付けされ、削ぎ落とし、の試行錯誤を繰り返した末の、2025年版上演ではないか…と考えます。これは、そう簡単に真似できることではなく、そのストイックな創作過程を想像すると、ひとつのことを突き詰めようとする精神の屈強さに驚かされます。その精神の屈強さは、今作に登場する、70歳を節目に山へ捨てられる「おりん」さんの精神に通ずるのかも、しれません。
われわれなりのロマンティック
いいへんじ
三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)
2025/08/29 (金) ~ 2025/09/07 (日)公演終了
実演鑑賞
26年の歴史をもつ、若手団体のショーケース企画「MITAKA “Next” Selection」。今年の1団体目にあたる「いいへんじ」の新作公演。時系列は大学時代から始まり、やがて就職し、それぞれが社会生活に翻弄されながら、自分たちの内面と向き合っていく青春群像劇、という印象でした。現代口語会話劇では割とたっぷりめと言える120分スケールで、作家の、そして団体の、本気度が伺える一作。会場内を埋め尽くす客席。静かに、かつ前のめりでステージを見つめる観客たちも相まって、とても良い上演に立ち会えたことに感謝します。
ネタバレBOX
劇中に「多様なパートナーシップについて」という言葉が登場し、僕にはこの言葉が、作品を一言で現すにはピッタリだなぁ…と感じました。LGBTQ +は当然の前提として、その上でさらに多様な「(恋愛に近い、又はそのものの)感情」が登場し、登場人物たちはその感情と向き合い、傷付いたり、傷付けたりしながら、まだ見ぬ未来のために、社会、他者、そして自己と戦い続けます。そこへ現代の空気感や若者たちの感性が加わり、今を生きる観客たちと共感しやすい上演になっていたと感じました。
観劇しながらタイトルの意味を考えていて、途中で僕は「タイトルの『われわれなりの』という言葉は謙虚な自虐に近い?」と感じたけれど、ラストまで観終わると「このタイトルで良かった」と考え直しました。堂々と「ロマンティック」で良いのでは?と思ったけれど、この「われわれ」には観客やそれ以外の第三者も含まれており、更に「なり」には、当人たちの模索の意思表示が含まれているのだと、想像しました。
ものすごく熱意を込めて創作したことが伝わってきますが、取り扱うテーマの重要さを鑑みると、もう少しだけ焦点を絞って構成しても良かったかも?とは思います。やや欲張りになっちゃった感(でも、気持ちはよく分かります)。丁寧に創れる団体であることはよく分かっているので、このままの活動に期待します。
クロスワード
ミズタニ会議
Route Theater/ルートシアター(東京都)
2025/09/04 (木) ~ 2025/09/07 (日)公演終了
実演鑑賞
シチュエーションコメディ好きに是非おすすめしたい一作。僕は初見の団体で、かなり優秀な、そして純粋な、コメディの書き手と出会えたことに感謝。まだ一作しか観ていないため、予想の域を出ませんが、おそらくオールラウンダータイプの書き手だと感じます。今作は再演にあたり、これもおそらくですけど、団体にとってかなりの自信作では。僕の印象では「最も強い手札で池袋演劇祭に参戦してきた」と感じました。
ネタバレBOX
4編の短編と、それらを繋ぐエピローグ1編で構成され、一見バラバラだった物語が(世界線をまたぎつつ)最終的にひとつに繋がる。それぞれの短編もシチュエーションコメディとして普通に面白く、よく練られた上演だと思います。SF設定を上手に日常的世界観に落とし込み、知的で無理のないコメディに仕上がっている点も高評価。タイトルにもなっている短編『クロスワード』は、当人たちも手応えを実感している自信作だと予想します。小劇場界隈ではコメディの創り手たちが減少傾向にあるため、この団体の今後の活躍に強く期待したいです。ナンセンス系ではなく、理屈で的確に笑わせる技術に長けた一作でした。
私はイスを撫でたくない
劇団さいおうば
北池袋 新生館シアター(東京都)
2025/09/02 (火) ~ 2025/09/03 (水)公演終了
実演鑑賞
第37回池袋演劇祭の参加作品。僕は初見の団体でした。公式ホームページによると、明治大学を母体として2023年に発足した劇団、とのこと。旗揚げ2年。頑張って着実に活動している印象を受けました。
上演演目は約45分。中短編、位でしょうか。オムニバスではなく単体で上演するの珍しいなぁ…と考えていたら、2週間後の9/19〜21に別劇場での公演を予定しているそうです。この辺の戦略性もやや珍しく、僕は好印象。
ネタバレBOX
地球外生命体による地球侵略が、秘密裏に、でも日常的に行われている世界線。というSF設定のシチュエーションコメディ。その設定による奇妙な出来事でクスリと笑う、上演。単なるコメディというより、社会風刺的なややブラック展開も含まれており、団体のやろうとしていることが想起されます。移民問題であったり、異文化コミュニケーションであったり。その他諸々。
若い団体なので、エールを込めて書きますと、せっかくの設定をもっとこねくり倒して、もっともっと遊んで欲しかったな〜と感じました。やりたいことは伝わってくるので共感はできるものの、既視感のあるネタにも感じられ、そこが惜しくもあります。演劇で上演する意味を意識された創作であることは理解できるので、それを踏み台にして、もっともっと高くジャンプする方法を、劇団員全員で楽しみながら考えて欲しいです。劇団運営や集団創作の面白さを、全身で体感しながら前へ進んで欲しいと感じました。
ほぐすとからむ
彩の国さいたま芸術劇場
彩の国さいたま芸術劇場 小ホール(埼玉県)
2025/08/03 (日) ~ 2025/08/11 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
松井周×近藤良平のタッグ公演。新鮮な組み合わせとも言えるし、勿論楽しみな組み合わせとも言えます。過去にタッグ公演を上演しているそうで、今回が二度目のトライ。脚本が松井周で、演出・振付・美術が近藤良平。
個人的に特に惹かれたのは、松井さんの描く世界観。松井さんらしい内省的な一面、耽美的な一面もありつつ、非常に現代的なSF要素も含まれている。既に存在するテクノロジーや社会変化を取り入れつつ、その先の未来を描くような先見性の高い物語でした。近藤さんの演出も、的確かつ近藤さんらしい自由さがあり、振付など身体表現も含まれますが、どちらかというと、しっかり「ストレートプレイ」を感じられる、物語性を重視した演出に感じられました。そこには、松井さんの描く脚本の魅力に、近藤さん自身が強く惹かれていた、という背景があるのでは?と想像しています。