
I, Daniel Blake ―わたしは、ダニエル・ブレイク
秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場
紀伊國屋ホール(東京都)
2025/09/26 (金) ~ 2025/10/05 (日)公演終了
実演鑑賞
日本初演という今作。2016年に原作となる映画が公開され、その映画で主演を務めた俳優が自ら舞台版の脚色を担当し舞台化。その戯曲を用いた上演が新宿の紀伊國屋ホールへやってきた…という、やや珍しい経路。イギリスの社会福祉制度への批判や皮肉が多く含まれており、切実な貧困問題を描いている。舞台設定はイギリスだが、日本にも、そして多くの諸外国にも通ずる内容と言えるでしょう。

「遺すモノ~楢山節考より~」上演10周年記念公演
THEATRE MOMENTS
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2025/09/18 (木) ~ 2025/09/21 (日)公演終了
実演鑑賞
過去10年に渡り、繰り返し上演されてきた演目とのことで、団体にとってある種のライフワークであり、かつ代表作と言えるでしょう。上演した年、上演した都市、そして上演した国もそれぞれで、特にこの10年というとコロナ禍の数年も含まれる訳で、そのひとつひとつの上演経験が、小さな積み重ねとなり作品へ影響を与えているのだと想像しました。物語は、映画版ではなく小説の『楢山節考』をベースにされているそうです。

われわれなりのロマンティック
いいへんじ
三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)
2025/08/29 (金) ~ 2025/09/07 (日)公演終了
実演鑑賞
26年の歴史をもつ、若手団体のショーケース企画「MITAKA “Next” Selection」。今年の1団体目にあたる「いいへんじ」の新作公演。時系列は大学時代から始まり、やがて就職し、それぞれが社会生活に翻弄されながら、自分たちの内面と向き合っていく青春群像劇、という印象でした。現代口語会話劇では割とたっぷりめと言える120分スケールで、作家の、そして団体の、本気度が伺える一作。会場内を埋め尽くす客席。静かに、かつ前のめりでステージを見つめる観客たちも相まって、とても良い上演に立ち会えたことに感謝します。

クロスワード
ミズタニ会議
Route Theater/ルートシアター(東京都)
2025/09/04 (木) ~ 2025/09/07 (日)公演終了
実演鑑賞
シチュエーションコメディ好きに是非おすすめしたい一作。僕は初見の団体で、かなり優秀な、そして純粋な、コメディの書き手と出会えたことに感謝。まだ一作しか観ていないため、予想の域を出ませんが、おそらくオールラウンダータイプの書き手だと感じます。今作は再演にあたり、これもおそらくですけど、団体にとってかなりの自信作では。僕の印象では「最も強い手札で池袋演劇祭に参戦してきた」と感じました。

私はイスを撫でたくない
劇団さいおうば
北池袋 新生館シアター(東京都)
2025/09/02 (火) ~ 2025/09/03 (水)公演終了
実演鑑賞
第37回池袋演劇祭の参加作品。僕は初見の団体でした。公式ホームページによると、明治大学を母体として2023年に発足した劇団、とのこと。旗揚げ2年。頑張って着実に活動している印象を受けました。
上演演目は約45分。中短編、位でしょうか。オムニバスではなく単体で上演するの珍しいなぁ…と考えていたら、2週間後の9/19〜21に別劇場での公演を予定しているそうです。この辺の戦略性もやや珍しく、僕は好印象。

ほぐすとからむ
彩の国さいたま芸術劇場
彩の国さいたま芸術劇場 小ホール(埼玉県)
2025/08/03 (日) ~ 2025/08/11 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
松井周×近藤良平のタッグ公演。新鮮な組み合わせとも言えるし、勿論楽しみな組み合わせとも言えます。過去にタッグ公演を上演しているそうで、今回が二度目のトライ。脚本が松井周で、演出・振付・美術が近藤良平。
個人的に特に惹かれたのは、松井さんの描く世界観。松井さんらしい内省的な一面、耽美的な一面もありつつ、非常に現代的なSF要素も含まれている。既に存在するテクノロジーや社会変化を取り入れつつ、その先の未来を描くような先見性の高い物語でした。近藤さんの演出も、的確かつ近藤さんらしい自由さがあり、振付など身体表現も含まれますが、どちらかというと、しっかり「ストレートプレイ」を感じられる、物語性を重視した演出に感じられました。そこには、松井さんの描く脚本の魅力に、近藤さん自身が強く惹かれていた、という背景があるのでは?と想像しています。

WHO CARES
ヨーロッパ企画
新宿シアタートップス(東京都)
2025/08/02 (土) ~ 2025/08/10 (日)公演終了
実演鑑賞
ヨーロッパ企画・大歳さんのユニット「イエティ」の公演。トップスで上演してくれるのは嬉しい限りで、その昔、トップスで観たヨーロッパ企画本公演のことなども思い出します。特定のモチーフをクローズアップした企画性の高いコメディ。今回のモチーフは「三択」。三択クイズも含まれますが、それよりも「ピンチが訪れた! この状況下で選ぶなら、次のうちどれ?」という三択なので、アドベンチャーゲームのシナリオに近いのかも。個人的には初期の『ハンターハンター』や、福本伸行作品などを連想しました。

ワイルド蛍をつかまえろ
岡本セキユ☆シングル芝居
早稲田小劇場どらま館(東京都)
2025/08/01 (金) ~ 2025/08/04 (月)公演終了
実演鑑賞
くらやみダンス主宰の岡本セキユによる一人芝居。僕は初見ですが、今回は再演にあたるそうです。上演時間は約85分。初演や、この再演での事前アナウンスでは70分と聞いていたので、15分足された要素が気になりました。一人芝居の15分増はなかなかのボリュームアップ。
物語は、夢の断片をつなぎ合わせたような不条理さを持ち合わせつつ、登場人物たちの日常や葛藤などが描かれます。昭和と令和を行き来する、現代的な一人芝居だと感じました。

新しい国家のための緩やかなる反抗
(劇)ヤリナゲ
SCOOL(東京都)
2025/08/01 (金) ~ 2025/08/03 (日)公演終了
実演鑑賞
かなり久しぶりのヤリナゲ。まず何より、若い団体がこうして活動継続を試みていることが嬉しい。久しぶりに観たヤリナゲは、作風が以前と大きく変わっていて、それに驚いた。以前は、現代口語を用いて、20代の焦燥に焦点を当てた物語性に惹かれていた(←あくまで個人的な記憶です)のですが、より実験的かつ前衛的な作風に。作り手の「絶望」がひしひしと伝わる一作に感じられました。

キャプテン・アメイジング
世田谷パブリックシアター
シアタートラム(東京都)
2025/07/26 (土) ~ 2025/08/03 (日)公演終了
実演鑑賞
一人芝居でキャスト3名。同時出演ではなくトリプルキャスト、という珍しい企画性。見比べる楽しみを(ある程度)前提としていると推察できるので、三作観ることで、より多彩な感想が生まれそう。僕が観たのは近藤公園さんの出演回。セットはシンプル、壁や椅子、机など最小限。時折シーンの情景を想起させるイラストが壁に写し出され、「このシーンはこんなイメージです」と提示してくれます。上演時間は約70分。

「さよならノーチラス号」/「ナナメウシロのカムパネルラ」
演劇集団キャラメルボックス
サンシャイン劇場(東京都)
2025/07/20 (日) ~ 2025/07/27 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
キャラメルボックスの劇団創立40周年記念公演の第一弾。(年末に第二弾が控えています)。今夏は過去作の再演と新作の二本立て。『さよならノーチラス号』は作家の成井豊の自伝的内容を含む一作、新作の『ナナメウシロのカムパネルラ』は現代を意識したリアルな物語に、キャラメルボックスらしいファンタジー設定を加えた、劇団の現在地を感じさせる一作。両作とも成井戯曲の魅力と劇団員たちの表現力が際立つ、40年の実績を感じさせる上演でした。

紅鬼物語
劇団☆新感線
シアターH(東京都)
2025/06/24 (火) ~ 2025/07/17 (木)公演終了
実演鑑賞
45周年記念公演でありつつ、今もなお「新しい新感線を模索する」という姿勢。素直に尊敬に値すると思いますし、その試みをしっかり感じられる点も「さすが」の一言。メインキャストは劇団外から多く招へいし、新鮮味のある座組ですし、全体的に「劇団固有のらしさと新しさの融合」のような印象を受けました。

アクラム・カーン『ジャングル・ブック』
彩の国さいたま芸術劇場
彩の国さいたま芸術劇場 大ホール(埼玉県)
2025/06/20 (金) ~ 2025/06/22 (日)公演終了
実演鑑賞
視覚面の感想としては、アニメーション映像を多用した演出、動物たちの映像表現などは見応えがありました。そして何より、ダンサーたちの身体表現には強い意思と説得力が宿っていたと思います。物語面の感想は、独自解釈や要素がしっかり挿入されており、アクラム・カーンが今作に寄せる想い、情熱などが伝わってきます。物語だけを抽出して捉えれば、かなり大胆な改訂と言えるでしょう。ただ、賛否が巻き起こるような改訂ではなく、現代社会を強く意識した、いま上演する意義のある改訂作だと思いました。

『from HOUSE to HOUSE』
終のすみか
劇場HOPE(東京都)
2025/06/19 (木) ~ 2025/06/22 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
「家の中」を舞台にした二作品の再演企画。『Deep in the woods』は昨年の上演を別の劇場で拝見していたので、今回は『I'll BE OKAY』を観劇。観劇後にはタイトルの意味が染みる。上演の特徴として、男女二人の出演者が全登場人物を演じ、特に中心的存在の男性「カキヤ」を二名が交互に演じること。演劇上演においてそれほど珍しいことではないものの、観客の想像力が介入する余地が生まれ、良い効果を生んでいました。

Pica
ハトノス
現代座会館(東京都)
2025/06/15 (日) ~ 2025/06/22 (日)公演終了
実演鑑賞
広島の「黒い雨」訴訟をモチーフに、戦中、戦後、そして現代を描いた一作。広島と関連する題材を取り扱う団体ですが、東京を拠点に活動しているそうです。今作で初の広島公演を行うとか。良い意味で若い世代が中心となり創作した一作に感じられ、状況を客観視しようとする姿勢や現代人としての素直な感情の吐露など、戦争を取り扱いつつ、等身大の表現を模索する姿が印象的でした。

BORN TO RUN
コンドルズ
彩の国さいたま芸術劇場 大ホール(埼玉県)
2025/06/07 (土) ~ 2025/06/08 (日)公演終了
実演鑑賞
タイトル通り、テーマは「RUN」。コンドルズにぴったりのテーマ。RUNをモチーフにした振付、映像、コント、人形劇、等々で構成され、コンセプチュアルな楽しみ方もできる。また、割とスタンダード仕様のコンドルズとも言えるため、昔からのファンには嬉しい構成とも。途中、ロックが爆音でかかるなか踊る群舞シーンがあり、照明や美術も格好良く、コンドルズらしさ全開の空間作りに圧倒されました。ガンズアンドローゼズが似合う日本人といえば、僕の中ではコンドルズです。

秘密
劇団普通
三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)
2025/05/30 (金) ~ 2025/06/08 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
全編茨城弁で綴られる、とても静かな会話劇。登場人物は主に、両親、子どもたち、孫たち、親戚などで、家庭内での日常が描かれる。物語の起伏は少ないものの、リアリティの高い繊細なシーンが多く、見入っているうちに飽きることなく終演。劇団普通は、その名の通り「普通」を極めようとする団体だと思う。

チョコレイト
キルハトッテ
小劇場 楽園(東京都)
2025/05/21 (水) ~ 2025/05/25 (日)公演終了
実演鑑賞
僕は初見の団体でした。チラシや舞台美術から「ポップ過ぎないポップさ」というか、ちょいズラしたポップ(を狙っているように見える)を感じます。レトロといえばそうかもしれないし、やや内向性を感じるポップ。本編は、登場人物もさほど多くなく、上演時間も90分。ストーリーも難解ではなく、小劇場で見るには程よい「見易さ」がありました。それでいて「あまり言いきらない(特別な結論を求めない)」作風は、想像力が介入する余地もあり、演劇らしいポイントだと思います。

舞台『祈りの幕が下りる時』
ナッポス・ユナイテッド
サンシャイン劇場(東京都)
2025/05/17 (土) ~ 2025/05/25 (日)公演終了
実演鑑賞
東野圭吾作品の舞台化に挑む企画「東野圭吾シアター」の第一弾公演。あくまで僕の体感ですが、ここまで高濃度に「ミステリー(謎解き)」に特化した舞台作品は、かなり珍しいと感じます。そのミステリー演劇が終盤一気に「人間ドラマ」へと舵を切る展開は、今作の大きな特徴であり、魅力であると言えるでしょう。殺人事件に関与する登場人物など、かなり難しい役どころもありながら、出演俳優たちの献身的な貢献が作品世界全般を支え、より見所の多い上演に感じられました。

『ベイジルタウンの女神』
キューブ
世田谷パブリックシアター(東京都)
2025/05/09 (金) ~ 2025/05/18 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
5年前の初演時から大好きな演目でした。この再演版も、初演で感じた魅力はそのままに、より「ならでは」の魅力が増した印象。この出演者ならでは、ファンタジー作品ならでは、映像演出ならでは、物語ならでは、etc…。ベイジルタウンという架空の貧民地区を舞台に、市井の人々の前向きな生命力を描き、「夢を見ることの大切さ」を感じさせる一作だと思います。