『いとしの儚-100DaysLove-』
劇団扉座
座・高円寺1(東京都)
2015/10/29 (木) ~ 2015/11/08 (日)公演終了
満足度★★★★
せつない恋の物語
三途の川の渡しを待つ亡者に向かって鬼が語った、ひとりの孤独な男と無垢な女のせつない恋の物語。
孤独な男が無垢なモノに惹かれていくストーリーは、ある種の類型ではあろう。けれどその描き方は生き生きとしていて、多彩な登場人物たちが織り成す物語の豊かさに惹かれてしまう。
また、今回も和モノの要素を取り入れていることで、御伽噺的な物語の世界観を補完しているように感じられた。ステージ中央の少し高さのある舞台と背後に描かれた松が能舞台を想起させる。両脇に置かれた多くの鳴り物を、役者たちが入れ替わり立ち替わり演奏していく様子なども見どころとなった。
「検察官」
劇団東演
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2015/02/21 (土) ~ 2015/03/01 (日)公演終了
満足度★★★★
華やかさと皮肉と
見栄も打算も愚かさも多情も含めた「人間」らしさを、色鮮やかで動きのある華やかな舞台として見せた。盛りだくさんで3時間近い舞台だけれど、少しも長さを感じなかった。
ロシア人俳優と日本人がそれぞれの国の言葉で台詞を言ったり、独特の群舞めいた動きの多い演出は、ベリャコーヴィッチ氏らしく観ていて面白いが、演じる方々は大変だろう、などと思ったりもする。
一度観ただけでは咀嚼しきれないほど、いろんな意味でボリュームのある舞台。いずれまた、拝見する機会があるといいと思う。
明治の柩
劇団東演
紀伊國屋ホール(東京都)
2015/11/27 (金) ~ 2015/12/04 (金)公演終了
満足度★★★★
激動の時代を描く
観る前に漠然とイメージしていたのは、公害と闘った政治家の生涯を描く偉人伝的なものだったが、実際に観てみるとそういう作品ではなかった。
江戸の封建社会からご一新を経て立憲君主制へ。そうやって始まった明治という時代に、誇りを持っていた主人公。
長い長い鎖国が終わり、時代は音を立てて動いている。凄まじい勢いで海外から流れ込んでいく宗教や思想。まだ日本に根付いていないそれらを受け入れる者・退ける者。いや、それ以前に民主主義でさえまだ限定的なものでしかない。
そういう激動の時代の中であがきのたうつ人々。この舞台で描かれていたのは、そういう光景だった。
ここで描かれているさまざまな葛藤を、単に過去のものとはできない。そういう切実さを感じさせる舞台だった。明治から遠く離れても、なお私たちは寄るべき指針を求め続けているのかもしれない。
廃墟
劇団東演
文化アトリエ(東京都)
2015/05/29 (金) ~ 2015/06/01 (月)公演終了
満足度★★★★★
骨太な芝居
観念的な長台詞の応酬が続くのに、なんでこんなに面白いんだろう。それが最初の印象だった。
キャスト陣の熱演に圧倒されると同時に、骨太な脚本を生き生きとよみがえらせる演出が戦後の混乱に生きる人々の姿を明確に立ち上げていたように感じられた。
15 Minutes Made Volume12
Mrs.fictions
王子小劇場(東京都)
2015/07/08 (水) ~ 2015/07/14 (火)公演終了
満足度★★★★★
濃密で贅沢な約2時間
15分なんて、ぼんやりしてたらあっという間に過ぎてしまうだろう。そんな短い時間の中で上演された6つの作品は、いずれも、それぞれの世界、それぞれの物語をきっちり立ち上げて見せてくれた。そういう濃密で贅沢な約2時間。
トップを飾った『ミセスフイクションズの祭りの準備』は、これまで拝見してきたMrs.fictionsとは違う手触りもありつつ、でもいかにも彼ららしい、と思える作品だった。
15 Minutes Made Volume13
Mrs.fictions
王子小劇場(東京都)
2015/08/19 (水) ~ 2015/08/25 (火)公演終了
満足度★★★★★
祭りのあと
7月のVolume12から続く2ヶ月連続のショーケースイベント。
15分の短編を6本、よくもこんなにいろんな舞台があるものだと思うような個性豊かな創り手を集めた見応えのあるラインナップと、今回トリを務めて2ヶ月続きのイベントを締めくくったMrs.fictionsの作品の完成度が印象に残った。
APOFES 2015
APOCシアター
APOCシアター(東京都)
2015/01/16 (金) ~ 2015/02/01 (日)公演終了
満足度★★★★
大森茉莉子さん渾身の一人芝居『肥後系 雪燈篭』
物語の終わりに、語り手がいったい誰だったのかわかったとき、奇妙な恋が確かな実を結んでいたことを知り、そして、その命を育むことが奄龍の恋の成就だったのだろう、と感じられた。
南国に降る雪。雪模様の燈篭。雪輪柄の着物。毎回のことだけれど、アヤメの品種からとられたタイトルを、どうしてこれほど活かすことができるのか、不思議に想ったりする。
加えて、言葉ひとつひとつのチョイスの確かさと、積み上げていくディティールの説得力。眼で味わい、耳で楽しみ、鮮やかなイメージが、余韻を残す舞台。
渾身の一人芝居と見事な生演奏にがっつりのめり込む約1時間。演じ手に合わせた脚本や演出も堪能した。
《満員御礼》雑種 晴姿
あやめ十八番
シアターグリーン BASE THEATER(東京都)
2015/07/22 (水) ~ 2015/07/26 (日)公演終了
満足度★★★★
物語を紡いで……
番外公演と銘打たれた今回の舞台は、老舗のお団子屋さん家族を中心とした15の短編が全体でひとつの物語を形づくる連作短編。
いくつものエピソードがひとつひとつ結末を持ちながら、冒頭からラストに向かって繋がる「晴れ姿」の物語を描き出す、繊細なレース編みのような、いや、やわらかな団子を丁寧に餡でくるむような、そういう優しい手仕事にも似た物語。
ひとつひとつの言葉や場面も、演じている役者さんたちの表情も、そしてあやめ十八番名物の生演奏と生歌によるカントリーの響きも、神棚を模した美術も、思い返すと愛しく感じられる、そういう舞台だった。
長井古種 日月
あやめ十八番
d-倉庫(東京都)
2015/04/09 (木) ~ 2015/04/14 (火)公演終了
満足度★★★★★
物語の豊穣
多重構造の物語の中で描かれた、何を信じるか、という問い。
詩的な言葉の響きや、生演奏・生歌、ダンスなどの豪華さを堪能すると同時に、豊饒な物語とキャスト陣の魅力に溺れる110分。
これまでとは作風が変わった、という感想と、いや、やはりあやめ十八番らしい、という思いが共存する公演となった。
岸田國士 短編四作品上演
劇 えうれか
ギャラリー・ルデコ 5(東京都)
2015/12/08 (火) ~ 2015/12/13 (日)公演終了
満足度★★★★
繊細な時間
こじんまりした空間。ヴィオラの生演奏。短い物語の中でそれぞれの時代と人物を繊細に描き出していく演出が印象に残った。
『ぶらんこ』の、いかにも日常的な朝の風景を過ごす夫婦が夢の記憶を共有している雰囲気と、『恋愛恐怖病』に登場する女の自意識と恋慕にゆれる様子が印象に残った。
従軍中のウィトゲンシュタインが(略)
Théâtre des Annales
こまばアゴラ劇場(東京都)
2015/10/15 (木) ~ 2015/10/27 (火)公演終了
満足度★★★★
そのまなざしが……
この舞台のテーマは哲学だ、と言ってしまうと、難しいと思われるかもしれない。けれどそんなことはまったくなくて、戦場の緊迫した空気や他の兵士たちとの確執や交流、そして何より、そこにはいない懐かしい大切な友との精神的な交歓が物語を牽引する。
緊張感に満ちた戦場の空気の中で、しかし彼を悩ませているのは死への恐怖ではない。手に取れないものを追う思考は、時には現実から何かを得、時に何かを与える。
俳優の心身が演じる役柄と密接に呼応し、物語は張り詰めたまま進んでいく。
クライマックスの暗闇に、ときおり閃光がひらめく。ガタガタと音をたてる世界に、客席で身体を硬くする。迫り来る敵襲に否応なく高められた緊張感と見えない舞台上を動く兵士たちの息遣い。
そして、明るくなった舞台の上で、ルートヴィヒが到達した思想。それを理解した、とは言わない。けれどたとえば、彼について書かれた本を手に取ってみようか、と思ってみたりもする。
それは、もう会うことのできない友に向けた彼のまなざしが、印象に残ったからかもしれない。
マクベス - Paint it, Black!
流山児★事務所
座・高円寺1(東京都)
2015/08/14 (金) ~ 2015/08/23 (日)公演終了
満足度★★★★
混沌の面白さ
物語の舞台をベトナムに移し替えたマクベスは、歌や群舞を含めた詩的な印象と、狂言回し的に登場する3人だけでなく全部で17人もいる魔女たちのうごめく様子、客席が揺れるほど迫力ある大人数での殺陣など、多くのみどころに加えて、現代に通じる批評精神のこもったチカラ技ともいえる舞台だった。
男性が演じる魔女の歌声が、観終わったあとも長いこと耳に残った。
「贋作幕末太陽傳」
椿組
花園神社(東京都)
2015/07/10 (金) ~ 2015/07/21 (火)公演終了
満足度★★★★
重なる想い
夏の風物詩ともいえる椿組のテント芝居。今回は鄭義信氏の作・演出で、映画を題材にした群像劇だった。
つぶれかけた映画館。映画の撮影現場。少年時代の思い出。笑いと郷愁、そして映画への愛情を重ねながら描く風景はどこか懐かしさを感じさせた。
チャンバラ ~楽劇天保水滸伝~
流山児★事務所
ザ・スズナリ(東京都)
2015/01/17 (土) ~ 2015/01/25 (日)公演終了
満足度★★★★
そうか!
休憩を含め2時間40分という長尺で、生演奏や立ち回りもたっぷりの盛りだくさんな舞台。
パワフルで、したたかで、滑稽で、猥雑で、哀切で、アナーキーで、
そうか、これをひと言で言うとアングラってヤツなのかな、と思ったりする。
2010年に亡くなった山元清多氏の初期の名作戯曲をゆかりの4団体が参加し、ご出演予定であったが上演前に亡くなった斎藤晴彦さんと、お2人の追悼公演となった。
山元さんの弟子である鄭さんが演出されたということで、鄭さんのカラーも色濃く感じられて、どの辺りまでがもともとの戯曲にあったものなのか、たとえばあの人形劇の部分などはどうか、などと言うことが気になった。
人形劇から繋がるあのラストがあるとないとでは、ずいぶん印象が変わるだろう、などと考えたりもした。
天邪鬼
柿喰う客
本多劇場(東京都)
2015/09/16 (水) ~ 2015/09/23 (水)公演終了
満足度★★★★★
濃密な時間
ひと目でウソだとわかる虚構らしい虚構。独特のリズムで放たれるマシンガンのようなセリフ。身体性の高いステージング。
象徴性の高い物語にどっぷりひたる、たった90分とは思えない濃密な時間だった。
マクベス
パルコ・プロデュース
PARCO劇場(東京都)
2015/07/12 (日) ~ 2015/08/02 (日)公演終了
満足度★★★★★
ほぼひとり芝居のマクベス
精神病院という枠組み。そこでマクベスを演じ始めるひとりの男。
これまでに何度も観ているはずの『マクベス』が、まったく別の緊張感と切実さを感じさせる舞台となっていた。
こういう演出ができるんだなぁ、芝居ってホント面白いな、そんなことを思うと同時に、二十数人の登場人物(とその膨大な台詞)を演じきった佐々木蔵之介さんの熱演が印象に残った。
藪原検校(やぶはらけんぎょう)
こまつ座
世田谷パブリックシアター(東京都)
2015/02/23 (月) ~ 2015/03/20 (金)公演終了
満足度★★★★★
人間ってヤツは……
陽気なふてぶてしさと哀切さが同居する主人公の印象、劇中で語られる早物語の完成度、時代の風俗も織り込んだ物語の面白さなど多くの見どころがあったが、それ以上に、人間というモノのおろかさやみにくさ、あるいは業(ごう)とでもいうしかない何かが感じられて、何度も冷たいものが背筋を上っていくような気がした。
再生ミセスフィクションズ
Mrs.fictions
新宿シアター・ミラクル(東京都)
2015/03/27 (金) ~ 2015/03/30 (月)公演終了
満足度★★★★★
珠玉!
『伯爵のおるすばん』以来1年数ヶ月ぶりのMrs.fictions単独公演は「再演とかしない村」出身の彼らが禁を犯して挑んだ(!?)再演作品集でした。
それぞれ趣向を凝らした(作・演出・キャストすべて初演通りだったり、外部演出家を起用したり、別メンバーの戯曲のリメイクだったり)ラインナップに加えて、インパクトの強い怪人ビジュアルのチラシや怪人カードみたいなチケット、予約者全員に公演DVDプレゼントなど、いろいろと面白い試みもあり、企画力の確かさを感じました。
かねてから評価の高い『東京へつれてって』や『お父さんは若年性健忘症』の安定感はもちろん、登場人物のチャーミングさが印象的な『ねじ式』、奇妙な味わいでじわじわとしみてくる『まだ僕を寝かさない』など、まさに珠玉の作品集だったと思います。
スポケーンの左手
シーエイティプロデュース
シアタートラム(東京都)
2015/11/14 (土) ~ 2015/11/29 (日)公演終了
満足度★★★★
キャストに惹かれて……
予習不足のまま客席に座った。
舞台は、どうやら安ホテルの一室。部屋には、落ち着かない様子の年配の男がひとり。男はカーマイケル。ずっと昔に失くした左手を捜している。トビーというヤクの売人が、ガールフレンドのマリリンとともにカーマイケルに左手を売りつけようとしていた。ホテルの従業員 マーヴィンも妙な男で、そういう4人がホテルの一室で繰り広げる物語。
それぞれがそれぞれの思惑で、食い違ったり騙そうとしたり脅したりしながら進んでいくストーリーは、ややひりひりするテイストながらしっかりと笑いを誘い、最後まで緊張の緩まないストーリーに引き込まれた。
サヨナラサイキックオーケストラ
ITOH COMPANYプレゼンツ
シアター風姿花伝(東京都)
2015/11/03 (火) ~ 2015/11/08 (日)公演終了
満足度★★★★
世界の終わりに屋上で。
「世界の終わりは、いつも夏。」という魅力的なフレーズどおり、小惑星が地球に衝突する当日に集められた、へなちょこ超能力者たちの物語。
何度もクスッと、あるいは声を立てて笑ううちに、しだいに切なさが胸に積もって、壮大さとは無縁な人々の弱さや孤独が愛しくなる。
初日に拝見した後、脚本の中嶋さんと演出の上野さんによるアフタートークにまんまとつられて、11月6日に2回目の観劇。キャラクターそれぞれのバックボーンを踏まえてから観ることで、いっそうせつなく感じられた。