満足度★★★★
そのまなざしが……
この舞台のテーマは哲学だ、と言ってしまうと、難しいと思われるかもしれない。けれどそんなことはまったくなくて、戦場の緊迫した空気や他の兵士たちとの確執や交流、そして何より、そこにはいない懐かしい大切な友との精神的な交歓が物語を牽引する。
緊張感に満ちた戦場の空気の中で、しかし彼を悩ませているのは死への恐怖ではない。手に取れないものを追う思考は、時には現実から何かを得、時に何かを与える。
俳優の心身が演じる役柄と密接に呼応し、物語は張り詰めたまま進んでいく。
クライマックスの暗闇に、ときおり閃光がひらめく。ガタガタと音をたてる世界に、客席で身体を硬くする。迫り来る敵襲に否応なく高められた緊張感と見えない舞台上を動く兵士たちの息遣い。
そして、明るくなった舞台の上で、ルートヴィヒが到達した思想。それを理解した、とは言わない。けれどたとえば、彼について書かれた本を手に取ってみようか、と思ってみたりもする。
それは、もう会うことのできない友に向けた彼のまなざしが、印象に残ったからかもしれない。