黒い砂礫
オレンヂスタ
七ツ寺共同スタジオ(愛知県)
2020/03/14 (土) ~ 2020/03/22 (日)公演終了
満足度★★★
空間に充満する熱量に圧倒されました。多数の登場人物もきちんと整理されていて、テンポよく話が進んでいきます。計算された演出と、それを具現化するため俳優の努力がとても見て取れました。だからこそ、お客さんが呼吸できる時間があるともっと相互関係が生まれるのではないかと感じる部分もありました。
コロナ対策が徹底されており安心して観劇できました。地元名古屋の人々に愛されているのがよくわかる公演でした。
インテリア
福井裕孝
THEATRE E9 KYOTO(京都府)
2020/03/12 (木) ~ 2020/03/15 (日)公演終了
満足度★★★★★
演劇を普段どう捉えているかによって、どこに面白さを見出すか、それどころか面白いと感じるかどうかすら変わってしまう作品だと感じました。
物と空間の位置関係への異常な執着心がまず目を引きましたが、カリカチュアされているだけであって、自分の行動を客観的に見れば同じように見えるかもと若干の恥ずかしさを覚えました。
ラストに客電がついて部屋を片付けていく(=バラシていく)と、これまで意識しなかったブラックボックスの劇場が露わになっていき、リアルが剥がされフィクションが立ち上がっていくような感覚を受けました。これは通常の演劇とは真逆の体験で興味深かったです。そして物が片付けられた舞台上で、それまでと同じような動きを始めるのですが、まったく違和感なくむしろとても演劇的に感じました。観客の想像力が演劇たらしめるのではないかという当たり前の前提を、純粋直接的なものとして提示された気がしました。
ソリッドでチャーミングな動きを繰り返した俳優の貢献度もとても高いと思います。
是でいいのだ
小田尚稔の演劇
SCOOL(東京都)
2020/03/11 (水) ~ 2020/03/15 (日)公演終了
満足度★★★★★
本作のモノローグには、自分語りの押し付けがましさが一切なく、むしろ震災を間接的に扱うフィルターとして成功していると思いました。大勢の人が共に被災しているにもかかわらず孤独を感じたあの時間は、登場人物が語る私的な話のすぐ裏側に潜んでいるということを思い出させてくれます。
社会的な装置としての演劇の強さと、柔らかな劇空間のコントラストも印象的でした。4度目の上演ということですが、この先も続けて上演されることを強く願っています。
HOMO
OrganWorks
KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)
2020/03/06 (金) ~ 2020/03/08 (日)公演終了
満足度★★★★
人類を問い直すためのダンス作品。規則的な動きを繰り返す人類と、変則的なうねりをつくる人類が交錯していくことで作品は進んでいきます。
人類が別の人類に出会ったとき、お互いの差を受け入れたり拒絶したりすることで生存の可否が決まっていく。これは生物的な普遍性でもあり、現代社会においては多様性や外交的課題にも繋がってくると思います。
果たして私たちはこれからも生存できるのか、より成熟した社会をつくっていけるのか。その答えはこれからの自分たち次第なのだけれど、このコロナ禍でさっそく生存戦略を迫られている中での上演となりました。動きの美しさに魅了され、物語のロジックを解く快感を得つつも、作品と現実を何度も行き来してしまう不思議な体験でした。
ゆうめいの座標軸
ゆうめい
こまばアゴラ劇場(東京都)
2020/03/04 (水) ~ 2020/03/16 (月)公演終了
満足度★★★★★
実体験したイジメを昇華していく過程を見る体験は、鳥獣が捌かれる様子を見る時の、恐ろしくも目が離せない心理状態に似ていると思います。それは自分の中に眠る暴力性と対峙する時間でもあるかもしれません。
再再演となる『弟兄』は、これまでとは異なり実名を伏せての上演となりました。初演と再演も拝見していたため、比較するとその影響は小さくないように感じました。エネルギーの向かう先をうやむやにされたような物足りなさもありつつ、それって不必要な刺激なのではと、自分の倫理観とクリエイションへの献身性を試されるような部分があったのは事実です。
ただ何にせよエンタメとしての完成度も高く、演劇には人生を豊かにする力があると信じる方にとってはその確証となるべく作品で、多くの人に観てもらいたいと感じました。
まほろばの景 2020【三重公演中止】
烏丸ストロークロック
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2020/02/16 (日) ~ 2020/02/23 (日)公演終了
満足度★★★★
山岳信仰をベースに展開していくストーリーですが、俳優が唱える祝詞にチープさは一切なく、深い山を思わせる美術には美しさと悍しさがあり、まずその世界観の説得力が素晴らしかったです。
本物の水と照明効果によって侵食されてゆく舞台は、物語の始まりである震災を思わせ、逃げることの出来ない主人公の心理状態を高めていきます。
最後に山頂へと登ってゆく様には、それまで主人公が抱えていた感情から積極的に脱却していく力強さを感じさせつつ、登頂=解決と安に捉えてはいけない複雑さを演じた、俳優・小濱昭博さんの眼差しがとても印象的でした。
最後まで舞台奥に鎮座するチェロ奏者に畏敬の念を抱かせる構成も見事でした。アンコントローラブルなものへの畏れと強さが通底している舞台の象徴となっていたと思います。隙のない演出と、説得力を持った俳優のフィジカルが結実した作品でした。