満足度★★★★
山岳信仰をベースに展開していくストーリーですが、俳優が唱える祝詞にチープさは一切なく、深い山を思わせる美術には美しさと悍しさがあり、まずその世界観の説得力が素晴らしかったです。
本物の水と照明効果によって侵食されてゆく舞台は、物語の始まりである震災を思わせ、逃げることの出来ない主人公の心理状態を高めていきます。
最後に山頂へと登ってゆく様には、それまで主人公が抱えていた感情から積極的に脱却していく力強さを感じさせつつ、登頂=解決と安に捉えてはいけない複雑さを演じた、俳優・小濱昭博さんの眼差しがとても印象的でした。
最後まで舞台奥に鎮座するチェロ奏者に畏敬の念を抱かせる構成も見事でした。アンコントローラブルなものへの畏れと強さが通底している舞台の象徴となっていたと思います。隙のない演出と、説得力を持った俳優のフィジカルが結実した作品でした。