ポニョの観てきた!クチコミ一覧

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ひとよ

ひとよ

KAKUTA

本多劇場(東京都)

2020/09/03 (木) ~ 2020/09/13 (日)公演終了

満足度★★★★★

映画「ひとよ」を見たとき、田中裕子演じる母親の開き直りに、どうしても違和感が拭えなかった。DV夫とはいえ、人一人殺しておいて、「お母さんは殺したことを誇りに思っている」はないだろう、と。再再演になる舞台は、母親役に渡辺えりを配し、ドタバタ喜劇にした。そのことによって成功したと思う。(初演、再演は見ていない)。渡辺えり扮する母親の、子どもを守るためなら、なんだってやる、盲目の母性愛。子どもたちに及ぼした苦難にたじろぐものの、自分はまちがっていない、と信じて疑わない。その偏狭さは渡辺えりだから、笑える。そこに長男の嫁に扮した桑原裕子が加わり、面白さは倍増する。

ネタバレBOX

そしてラスト。母親は、ある出来事から酔って暴れる従業員を介抱しながら、「もしかしたら、お父ちゃんにも優しくできたかもしれない」と、子どものように大泣きする。ここで初めて母親は夫を殺してしまったことへの罪悪感に目覚めるのだ(と思う)。一人、合点がいき、気持ちがスッと軽くなった。良い芝居だった。
「明日の幸福」「神田祭」

「明日の幸福」「神田祭」

松竹

三越劇場(東京都)

2020/01/02 (木) ~ 2020/01/20 (月)公演終了

満足度★★★★★

第一部「明日の幸福(こうふく)」の初演は昭和29年。これまで26回上演されてきた名作だ。舞台は三世代同居の松崎家。経済同友会の理事長である当主の寿一郎に入閣話が持ち上がる。舞い上がる寿一郎は、推薦してくれた党の実力者に家宝である馬の埴輪をプレゼントする、と言い出す。ところが、この埴輪がワケありで‥。その埴輪をめぐるてんやわんやの物語。大奥様を演じる水谷八重子、奥様に扮する波乃久里子の芸は必見。戦後10年ではあるが、まだまだ家父長制度の名残りは生きていたことがうかがえる。当時の政治状況、封建的なるものを風刺しつつ、未来への展望を示したことが人気を呼んだのだろう。新しい世代が古い慣習を打ち破っていく。タイトルの「明日の幸福」にあるように、明るさに満ちていて時代の息吹が感じられる。第二部の「神田祭」は、ただただ美しい。喜多村緑郎はどちらにも出演。女形・河合雪之丞の色気に引き込まれる。

ネタバレBOX

「桜を見る会」に総理枠でご招待された、というセリフが飛び出したのには笑ってしまった。今回、書き足したのだろうが、初演の2年前、昭和27年には吉田首相が「桜を見る会」を開催しており、全く架空の話とも言えないところが面白い。
雉はじめて鳴く

雉はじめて鳴く

劇団俳優座

俳優座劇場(東京都)

2020/01/10 (金) ~ 2020/01/19 (日)公演終了

満足度★★★★★

横山拓也の書き下ろし。舞台は、とある高校。独身の担任教師(女性)と、精神的に問題のある母親を世話する教え子(男子)との〝恋愛〟事件を軸に、ヤングケアラーという極めて現代的なテーマを投げかける。家庭に事情を抱えた生徒とどう向き合えばいいのか、女性教師の悩みが手に取るように伝わってくる。おそらく真面目で熱心な教師ほどぶつかる難問なのだろう。よく取材された脚本。俳優陣の熱演もすばらしかった。特にトンチンカンな教頭役は、シリアスドラマに唯一笑いをもたらす存在として光っていた。問題作。

ネタバレBOX

物語の序盤と終盤に、30年後の教員と教え子が登場する。しかし、それが30年後であることに、最初は気づかない。その演出をどう見るか、評価は分かれるのではないか。
渦が森団地の眠れない子たち

渦が森団地の眠れない子たち

ホリプロ

新国立劇場 中劇場(東京都)

2019/10/04 (金) ~ 2019/10/20 (日)公演終了

満足度★★★★★

藤原竜也、鈴木亮平の小学生姿に違和感を覚えなくなるほど、主役2人の演技が光っていた。考えてみれば、なんとも意味深なタイトルである。夜もおちおち眠れないほど、子どもの世界は大変なのだ。そして、その子どもたちの世界には、当然ながら大人たちの人間関係、家庭の事情が影を落としている。嫉妬、憧れ、憎しみ、悲しみ、寂しさ‥、さまざまな感情が渦巻く社会で天真爛漫に生きることは、子どもにとっても容易いことではない。藤原竜也演じる鉄志と鈴木亮平演じる圭一郎も、それぞれに複雑な感情を隠し持ちながら生きている。木場勝己の吐く、ごく当たり前のセリフが心にしみる。「子どもはえこひいきしてはいけません」。秋元松代のエッセーでもこんな一文を見つけた。「子供は親の愛情の照り翳りに敏感なものだ」。蓬莱竜太ならではの、いろいろと考えさせられる芝居だった。

ネタバレBOX

圭一郎の心の闇は震災が影響していた。生きている実感を得るために、生きているものを傷つける。そのねじれた感情を鈴木亮平が丁寧に演じていた。
組曲虐殺

組曲虐殺

こまつ座 / ホリプロ

天王洲 銀河劇場(東京都)

2019/10/06 (日) ~ 2019/10/27 (日)公演終了

満足度★★★★★

井上ひさしはこの作品を通じて何を言いたかったのか。これまでは、「あとに続くものを信じて走れ」というメッセージばかりに注目していたが、それだけではない。ほんの一握りの支配者を除いては、敵も味方もない、ということを言いたかったのではないか。そんな気がした。その象徴が、ひさし作詞の曲「胸の映写機」である。誰しも生きてきた中で、かけがえのない光景を持っている。それは敵である特高とて同じ。その人間観は、おそらくはひさし自身のものなのだろう。合唱を聞きながら胸がつまった。井上芳雄や高畑淳子の名演技は言わずもがなだが、新たに多喜二の恋人タキ役に抜擢された上白石萌音も、適役。イメージにぴったりだ。

終わりのない

終わりのない

世田谷パブリックシアター

世田谷パブリックシアター(東京都)

2019/10/29 (火) ~ 2019/11/17 (日)公演終了

満足度★★★

今更なのだろうが、前川知大氏ただものではない、との思いを強くした。とてつもない底の知れなさというのだろうか。途中、理解不能のところもあったが、気候変動問題を資本主義を切り口に論じているのには驚いた。日本の演劇では珍しいのではないだろうか。人間はどこから来てどこに向かうのか。異次元の世界を描きつつ、鋭いメッセージを放つ。

ネタバレBOX

このまま突き進むと、人類は破滅に向かう。人類を救えるのは人類でしかない。その自覚を持つことが、歯止めをかける一歩なのだろう。
ドライビング ミス デイジー

ドライビング ミス デイジー

ホリプロ

紀伊國屋ホール(東京都)

2019/06/22 (土) ~ 2019/07/15 (月)公演終了

満足度★★★★★

気難しい未亡人のデイジーが息子に運転免許証を取り上げられるところから始まる。息子が雇ったのは黒人の運転手・ホーク。当初、彼女は彼に気を許さないが、少しずつ距離を縮めていく。2人が親友になるまでの心の交流が草笛光子さんと市村正親さんという名優によって描かれるか。字が読めないホークに、読み方を教える元教師のデイジー。少しもバカにせず、さりげなくドリルをプレゼントするところがしゃれている。人生、友情についてしんみりと考えさせられる。

渡りきらぬ橋

渡りきらぬ橋

温泉ドラゴン

座・高円寺1(東京都)

2019/06/21 (金) ~ 2019/06/30 (日)公演終了

満足度★★★★

笑えた。笑えた。無邪気に笑える作品は、ストレス解消の何よりのクスリになる。男が女を演じるのもいい。女性の観客にとっては鑑賞の対象になるからだ。「青鞜」については少しは知っていたが、「女人藝術」のことは全く知らなかったので、新鮮だった。緩急のテンポもいい。若いセンスを感じた。

ビューティフルワールド

ビューティフルワールド

モダンスイマーズ

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2019/06/07 (金) ~ 2019/06/23 (日)公演終了

満足度★★★★★

どこがビューティフルワールドなのだろう。描かれているのは現在の負の部分をてんこ盛りにしたような世界だ。元エリート青年の引きこもり、夫のモラハラ、妻の浮気、娘の道ならぬ恋‥。傷ついた心がインナーボイスで示される。舞台はそれぞれが新しく一歩を踏み出す場面で終わり、わずかに希望がしめされる。人生は思い通りにはならないが、それでもこの世界は生きる価値がある、といいたいのだろうか。「覆水盆に返らず」ということわざがあるが、この夫婦は全てをなかったことにできるのか。もっとも「雨降って地固まる」ということわざもあるが‥。どしゃ降りの雨だったなあ。出直すにはこれくらいどしゃ降りの方が全てを洗い流せていいのかもしれない。皮肉を込めたタイトル、心の奥底をえぐる脚本、さすが蓬莱竜太だ。

笑う門には福来たる〜女興行師 吉本せい〜

笑う門には福来たる〜女興行師 吉本せい〜

松竹

新橋演舞場(東京都)

2019/07/03 (水) ~ 2019/07/27 (土)公演終了

満足度★★★★★

「吉本」の創始者、女興行師・吉本せいの一代記。「おもろい女」でミス・ワカナを演じた藤山直美がここでは吉本せいを演じている。藤山直美という稀代のコメディエンヌの芸をこんなに間近で堪能できる幸せ。同時代に生きていて本当に良かった。〝人情〟を演じさせたらピカイチだ。例えば、夫の死後、その浮気相手に示す気遣い。姿が見えなくても顔と声を思い浮かべるだけで、ホロリとする演者はそうはいないだろう。全身全霊をかけて演じている姿が胸を打つのだ。体調は完璧なのだろうか。一つでも多く、私たちに至極の芸を見せてほしい。演出も素晴らしかった。あの世とこの世の交感。お客を喜ばせるサービス精神がハンパない。

ネタバレBOX

せいの息子であるエイスケと笠置シズ子のエピソードは知らなかった。2人の結婚を決して許さなかったせい。今ならどうしただろうか。古くて新しい問題か。
奇跡の人

奇跡の人

ホリプロ

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2019/04/13 (土) ~ 2019/04/29 (月)公演終了

満足度★★★★★

初めて見た。驚いたのは、こんなに激しくぶつかりあう舞台だったのか、ということ。そしてアニー・サリバンの生い立ち。彼女の原動力はどこにあったのか、謎が解けた気がした。それにしても、サリバンを演じた高畑充希はすごい。滑舌も完璧である。彼女とヘレン・ケラー役の鈴木梨央の体を張った演技は、まるで格闘技のように見えた。物には名前があり、そこには意味があると知るまでの長い道のり。言葉を獲得することで、世界を手にすることができる。知る喜び、教育のあるべき姿、とても深い内容を含んだ舞台だった。大竹しのぶのサリバン先生も見たかったなあ。

毛皮のマリー

毛皮のマリー

パルコ・プロデュース

新国立劇場 中劇場(東京都)

2019/04/02 (火) ~ 2019/04/21 (日)公演終了

満足度★★★

1967年に寺山修司が美輪明宏のために書いた作品。退廃的でいかにもアングラといった風。片方の胸をはだけた男娼・マリーと、18歳なのに半ズボンをはき、応接間に放たれた蝶を標本にすることが日課の美少年。その奇妙な取り合わせに、まずギョッとさせられる。美輪のセリフが聞き取りづらかったのは残念だが、グイグイ引きつけられた。見終わったあと、なんとも言えないさみしさが残った。

ネタバレBOX

美少年はマリーの養子で屋敷の外に出ることを許されない。彼にとっては、「大草原」と呼ばれる応接間が世界の全てなのだ。見るうちにハッと気づいた。これは男娼と美少年に形を借りた寺山修司と母の物語ではないか。母一人子一人で、息子に人一倍執着していた母親。母の支配に息を詰まらせていた息子。公演後、パンフレットを買って読んだら、同じことが書かれていた。ますます興味がわいた。
パラドックス定数第45項 「Das Orchester」

パラドックス定数第45項 「Das Orchester」

パラドックス定数

シアター風姿花伝(東京都)

2019/03/19 (火) ~ 2019/03/31 (日)公演終了

満足度★★★★★

心が震えた。ベルリンフィルの常任指揮者のフルトヴェングラー (固有名詞は出てこない)が楽団員の三分の一を占めるユダヤ人の解雇とベルリンフィルの国有化を迫るナチスとたたかう物語だ。歴史上の人物の実話をモチーフにしながら、退屈な伝記物語にせず、緊迫感のある群像劇に仕上げていた。

ネタバレBOX

優秀で勇敢なユダヤ人の女性秘書官が叫ぶ。「音楽を守るために音楽を‥‥闘え」。「音楽で闘え」ではなく、「音楽を闘え」であることに注目した。音楽は純粋に音楽そのものとして存在する。国家に傅くものでもなければ国家と闘うための道具や手段でもない、と読み取ったのだが、いかが?
母と惑星について、および自転する女たちの記録

母と惑星について、および自転する女たちの記録

パルコ・プロデュース

紀伊國屋ホール(東京都)

2019/03/05 (火) ~ 2019/03/26 (火)公演終了

満足度★★★★★

一言では言いがたい、重くて凄みのある芝居だった。笑えるところもあり、特に鈴木杏が演じた次女のあっけらかんとしたキャラクターは、救いでもある。自分本位で自堕落で、褒められるところの一つもない母。男に頼るしか生きる道はなく、思いを満たすためには娘をも足蹴にする。その母を否定しながら、母の呪縛から逃れられない娘たち。それぞれが心の奥底に沈殿した思いをぶちまけ、ようやく3人は母の呪縛から解き放たれる。田畑智子がしっかり者のようでいて、抜けたところのある長女を好演。三助役の芳根京子も屈折した思いを丁寧に表現していた。なんといっても凄みがあったのは、母を演じたキムラ緑子だ。立ち姿一つで、やさぐれた中年女性を表現している。先がない切迫感が、滑稽でもの悲しい。若さへの妬み。飛びたくても飛べないジレンマ。蓬莱竜太の脚本は、人間の心の奥底を覗き込むようで、ちょっと怖くもある。

ネタバレBOX

舞台が長崎であることにも意味があるのだろう。母親もそのまた母親も、不幸の始まりは原爆なのだと思う。三女が身ごもっていると知った時、母は言う。「産め!」。母親にとって、娘たちは単なる重しに過ぎなかったのか。生きるよすがでもあったのではないか。「産め」の言葉の裏にある思いがなんだったのか、今も考え続けている。

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