かずの観てきた!クチコミ一覧

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カストリ・エレジー

カストリ・エレジー

劇団民藝

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2023/05/26 (金) ~ 2023/06/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2023/05/29 (月) 13:30

座席1階

この作品を書いた鐘下辰男は、小劇場ブームだった1987年に「ガジラ」という劇団を立ち上げた。本作は94年の初演。演出のシライケイタは一世代後だが、鐘下の「門下生」だったという。アングラ劇にフィットする物語を、新劇の民藝がどう演じるのかが興味の一つだったが、脚本の面白さを損なうことなく演出しきったこの舞台、派手さはないがとてもよくまとまっていた。

だが、この作品が下北沢の小劇場、例えばスズナリとかで上演されていたらどうだったかな、と妄想する。あるいは、野外のテント劇場だったらどうだろうか。どぶ川の橋の下にあるバラックが舞台で、それこそ台風の豪雨の場面もクライマックスへと続く重要なファクターだから、唐組や新宿梁山泊がやったらすごかっただろうな、とさらに妄想する。民藝もテント劇をやってみたらどうか。

物語は終戦直後、焦土の東京で食うや食わずの底辺を必死で生きる復員兵や老人、そこを取り仕切るヤクザの夫婦ら。その中で主人公の二人はフィリピン戦線から帰ってきた戦友で、一人はやや知的に遅れがあるが優しい心の持ち主のゴローと、その相棒のケン。二人の秘密の夢は、小さな家を買って畑を耕し、動物好きのゴローがウサギを飼うこと。そんな果てなき夢がひょっとしたらかなうかもしれないというところで、物語は思わぬ方向に展開していく。
ケンとゴローのささやかな絆が夢破れていく中で裂かれていく姿に、胸が締め付けられる。欲望むき出しの底辺の世界。そんな人間関係の中でのささやかな絆なのに、と。その破局的な結末を食い入るように見つめるしかない。

やはり、これがテント劇場だったらという妄想に帰ってしまう。紀伊國屋サザンシアターという大きな舞台での演出は難しかっただろうと想像する。シライケイタのいつもの舞台から見ると少しマイルドな感じがしたのはそれも一因だったか。

民藝のお客さんだから、高齢者は多かった。しかし、シライケイタの舞台でもあり、いつもはあまり見られない若い人も目立った。民藝の俳優たちもしっかり対応していたし、新劇も変わろうとしているのを肌で感じる。民藝には、劇団の歴史を大切にしながらもこのような作品をどんどんやってほしい。

おもしろかった。ぜひ見てほしい!

ネタバレBOX

途中休憩15分込みの3時間だが、これはやはり、民藝バージョンだ。もっとコンパクトにして、一気にクライマックスへ行ってほしい。
老いらくの恋

老いらくの恋

秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場

紀伊國屋ホール(東京都)

2023/05/24 (水) ~ 2023/05/31 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2023/05/25 (木) 14:00

座席1階

どこまでも前向き。青年劇場らしい舞台だった。農業を考え抜いた作家山下惣一の作品が原作で、今風にアレンジしてある。

扱っているのは農業だが、テーマは太陽光発電と農のコラボであるスマート農業や、富裕層向けの付加価値を付けて輸出する農業の未来、飼料の高騰で危機にひんする酪農、これらをめぐる世代間対立。老いらくの恋というタイトルは、主人公のおじいさんが若い女性と恋仲になるのではなかった(当たり前か)。このほかにも、昭和の男は連れ合いに「ありがとう」を言えないとか、ラストシーンに向かって走る世代間協力とか。脚本の高橋さんは盛りだくさんの要素を盛り込んでいる。これも青年劇場らしい舞台と言えるかもしれない。

青年劇場の看板俳優である葛西一雄、藤木久美子、吉村直が舞台を引っ張る。どちらかというと高齢者が頑張っている舞台だ。客席も高齢者が大半を占める。だから、金色夜叉のメロディーが流れるとあちこちで笑いが起きた。葛西と吉村の金色夜叉の村芝居にも、大きな拍手が起きていた。数少ない平成時代以降生まれのお客さんには、どういうことなのか分からなかったかもしれない。

だが、舞台が扱っているのは現代であり、ウクライナ戦争による穀物価格の高騰、飼料価格の高騰や新型コロナ、農地での太陽光発電なども舞台の要素である。冒頭、食料自給率の問答から始まるが、高齢化が進む日本の農業をどうしたらよいのか、考えさせられる舞台でもある。

ネタバレBOX

青年劇場の舞台ではこういうシーンは初めて見た。チケットの余りがあるという告知を俳優さんがカーテンコール後に行ったのだ。「SNSでの告知を」という言葉が出たのには少し驚いた。高齢者もSNSぐらいやっているから当然といえば当然なのだが。これで、「これから撮影タイムにするので、どうぞスマホで撮ってSNSに上げてください」となったらさらに驚くところなのだが。
Spring Grieving

Spring Grieving

PLAY/GROUND Creation

サンモールスタジオ(東京都)

2023/05/19 (金) ~ 2023/05/31 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2023/05/24 (水) 14:00

座席1階

Side Aの「桜川家の四兄弟」を拝見。結論から言うと、とてもいい作品だった。脚本もいいし、なにせ四兄弟の演技が秀逸だ。間違いなく、泣ける。

東北の地方都市に住む母親が死んだ。母親には四人の息子がいた。膵臓がんで、事実上手遅れの状態だったようだ。四人の息子の実家には桜の木があった。母はこの木を残してと話していたらしいが、木が根を張って家の水回りに影響していることもあり、四十九日法要に集まった四兄弟の意見は割れる。さらに、この家を買いたいという業者がいて、実家を売るのはどうかという話まで持ち上がる。
長男は浦和で塾を経営、次男は東京近郊で高校教師、三男は福島市で居酒屋の店長、四男は実家に住み作曲家志望だが若干ひきこもり気味。四人も兄弟がいれば、たいがいはもめるだろう。桜の木を切るのかどうか、さらに家を売却するかどうか。舞台はそんな激論が交わされるところからスタートする。
しかし、物語が進行するにつれ、桜の木も実家の売却の話もかすんでいく。母は膨大なメモを残していた。そのメモに書かれた暗号のような文字と数字。この謎解きが進んでいくと涙腺が決壊する。

故郷が地方にあり、息子や娘が東京や近郊に住んでいる人は多いから、客席にはすぐにこの四兄弟の思いを自分のものとして受け止めていく空気が醸成される。そして、知的な労働についている上の二人に対して、三男は居酒屋、四男は未来が定まらない状態というある意味での「格差」がとてもリアリティーを持つ。学校の仕事のため母親の臨終に間に合わなかった次男を三男が激しく責める場面があるが、それは「居酒屋」の仕事にコンプレックスを持つ三男の意趣返しでもあるし、次男も仕事を言い訳にして臨終に来なかった負い目を表している。次男はそんな負の感情が破裂させ、母親の遺言である桜の木や実家を守るために婚約者の意向も無視して実家に戻って住むと強引に主張してしまう。このように四人の兄弟のそれぞれの成育歴や、現在の状況が絡み合って、いかにもそうだなというリアリティーが増していく。
母親は四人を育てるに当たり公平を旨としたというが、実際にはそうも言ってはいられないのが現実だ。仮に二人兄弟でもそうだと思う。自分の経験でもそうだが、母親はそれぞれの息子にしか言わないことがある。息子たちはお互いにその会話に込められた母親の思いを知ることはない。舞台の展開はこうした人間関係や母親の思いを丁寧に描いていく。結果、母親の隠された思いに客席は涙するのだ。

脚本も見事だが、冒頭にも書いたように四人の俳優は出色の演技を見せる。兄弟たちは、本気で泣いているのだ。小劇場の舞台だから余計に、あふれる感情がダイレクトに直撃する。泣かずにはいられない秀作のエネルギーを味わう価値は大きい。見ないと損するかも。
 

作曲家志望の四男が住み、居酒屋の店長をしている三男が福島市から車で1時間の距離を

宇宙の旅、セミが鳴いて

宇宙の旅、セミが鳴いて

劇団道学先生

新宿シアタートップス(東京都)

2023/05/17 (水) ~ 2023/05/24 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2023/05/23 (火) 14:00

座席1階

道学先生が中島淳彦の戯曲でないものを上演するとのことで、なぜこの戯曲を選んだのかが、開幕前の興味。文化庁演劇大賞を取ったから? いや、賞は関係ない。この本は絶対おもしろい。それを秀逸な出演者たちが支えている。先入観なしで見たほうがいいと思われる。感動的におもしろい。

食糧不足の地球を救うために地球へと航行を続けている宇宙船が舞台。あと数十日で地球へ到達するという時に地球上の母国で異変が起きる。一方の宇宙船でも想定外の緊急事態が発生。この宇宙船は地球を救うことができるのか。
宇宙船のメンバーは選りすぐりのエリートたちという設定だ。女性の方がやや多いが男女比はほぼ半々。中島作品でもそうなのだが、登場人物は普通の人のようで結構個性的だ。そうした人たちの微妙な人間関係を描くのが中島作品だから、青山勝がなぜこの戯曲を選んだかがこれを見れば分かるような気がする。
というわけで、中島作品を堪能するように、今作も楽しめる。しかも長期間の閉鎖空間のコミュニティーである。恋愛はご法度なのに、水面下で結構風紀が乱れているのはいかにもそうなんだろうなという感じがするし、潔癖性の女医さんが恋愛未経験で、キスの経験もなく死にたくないと騒ぎ出すなど、舞台は次から次へと波乱が起きて飽きることはない。極限状態に置かれたエリートたちの個性的な振る舞いがこの舞台の最大の見どころで、笑えるし少し泣けたりもする。
個人的には、やはり演劇ユニットOn7(オンナナ)を率いる青年座の尾身美詞が出色の出来だと感じた。四人きょうだいの長女役。きょうだいの中でも、宇宙船のメンバーの中でも確固たる存在感があり、思わず引き込まれる。

シンプルな演出だけに、役者たちの個性を十分に引き出している。秀作だと思う。残すは千秋楽。見ないと損するかも。

走れメロス

走れメロス

東京演劇アンサンブル

新座市民会館(埼玉県)

2023/05/19 (金) ~ 2023/05/20 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2023/05/19 (金) 19:00

座席1階

新座市民会館の舞台と客席をフルに使った体育会系舞台。メロス役の俳優はかなり引き締まった身体をしていたが、この舞台を成し遂げるためのけいこがどんな具合であったかは容易に想像がつく。ワンステージ演じるだけで俳優陣は4~5㌔は体重が減るだろう。物語は教科書にも出てくるほど有名なだけに、これをどう見せるかに心を砕いた舞台だった。

メロスが人質になっている友人のために戻ってくるまでに遭遇する数々の困難。これをダンスと効果音、光でうまく演出した。メロスほどではないが、これらのダンスチームの俳優陣の体力消耗度もかなりのものだ。オジサンはただ、あきれて物が言えない状態に追い込まれてしまった。
こうした演出も、いかに地元の子どもたちを喜ばせるかと工夫されたものだろう。東京から新座に移ってきたTEEが、将来を見据えて出血サービスで上演している舞台であると思った。

ネタバレBOX

子どものお客さんもたくさんいるのだから、せりふが聞き取りにくい部分があったのは難点だった。
Wの非劇

Wの非劇

劇団チャリT企画

駅前劇場(東京都)

2023/05/17 (水) ~ 2023/05/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2023/05/19 (金) 15:00

座席1階

今作はチャリT企画の作品でも間違いなくトップレベルに入る面白さだ。茶化した時事ネタが向こうから歩み寄ってきたというか、時代が味方したというか、実にタイムリー。舞台となる「芸能事務所」(どこかはお分かりですね)の性暴力被害だけでなく、チャットGPTとか今話題になっている時事ネタを徹底的に小道具化。笑わずにはいられない。笑いすぎて涙が出てきた。

開幕前に会場に流れる音楽は、よく聞くと薬師丸ひろ子のオンパレードだ。タイトルが「Wの悲劇」だから? ん?よく見ると「悲」劇ではなく「非」劇だ。その理由は舞台上で明かされるのだが、薬師丸ひろ子とタイトルの関係も劇中で種明かしされる。ここが最大の爆笑ポイントか。昭和に歌謡曲を聴いたり映画を見た人たちのツボを直撃する。
しかし、やはり何と言ってもラストシーンか。この替え歌は秀逸だ。秀逸すぎてもうどうしようもない。チャリTの本領発揮とも言えるこのステージを、見逃してはならない。これだけ時事ネタを笑い飛ばしてこのチケット代は安い!

被害者か加害者か。世の中の事件は、見方によって180度転換することがあるのだが、一面的な思考を警告している舞台でもある。ついでにいうと、ダンスも切れがあってよかった。
ほんと、見ないと損するぞ。

金閣炎上

金閣炎上

劇団青年座

紀伊國屋ホール(東京都)

2023/05/12 (金) ~ 2023/05/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2023/05/16 (火) 14:00

座席1階

青年座と縁の深い水上勉の作品だ。初演は41年前といい、なぜ今この作品を再演したかに思いをはせる。「金ぴか」をこの世から消し去ろうとした鹿苑寺の小僧。幾重にも横たわる世の中の差別構造は終戦直後から今も変わっていない。自分は今回の舞台から、水上が描こうとしたこの変えがたき世の中の暗闇を感じさせられた。

若狭湾に面する寒村の末寺に生まれた息子は重い吃音があった。父は結核患者。貧乏な寺の息子が生き残っていくためには、立派な寺の僧侶になるほかはないと両親は金閣寺に弟子入りさせるが、そこでも吃音に対する差別があり、貧困に対する差別があり、寺の住職をトップとするヒエラルヒーが厳然と横たわっていた。出世するにはトップである住職に気に入られるしかない。清貧を尊ぶ宗派なのに、寺は金ぴかで観光地としての拝観料で潤っている。
住職は金の亡者というわけでなく、小僧に人の道を説く宗教人であった。とはいえ、やはり僧侶の末端に過ぎない小僧にとっては支配者なのである。母の願いはこの歴史ある寺で栄達を果たすことだが、小僧にとってはこうした差別構造の頂点に立とうということ自体が唾棄すべき人生であった。そしてついに、彼は金ぴかの城を灰じんと帰すことを決意する。
決行の直前、彼は京都の茶屋で女郎を買う。やはり寒村出身である彼女と寝ることもなく、「近いうちに自分が新聞に載るから」と犯行をほのめかす。ここにも抜け出しがたい差別の構造がある。
小僧は金閣寺を燃やした後、山中で大量の薬をのんで刃物で自殺を図るが、追っ手に捉えられる。事件を報じる新聞は「狂人の仕業」と書いた。彼は精神的に追い詰められていたかもしれないが、狂人がやったことと簡単に片付けてしまったことが、結局複雑な差別構造をそのまま後世に残していく道筋となったのではないか。
小僧は父から受け継いだ肺病が悪化し、「狂人」のまま命を落とす。今、自分たちが安くない拝観料を払って足利義満の金満趣味を見学する。青空に映える金閣は美しい。そして、紅蓮の炎に包まれた金閣が砂上の楼閣だということをこの舞台は教えてくれる。


母【5月11日~14日公演中止】

母【5月11日~14日公演中止】

劇団文化座

俳優座劇場(東京都)

2023/05/05 (金) ~ 2023/05/14 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2023/05/10 (水) 14:00

座席1階

文化座を率いてきた佐々木愛の主演作品。パンフレットによると、「主演作品としては最後にする」という。女優生活60年という記念の舞台。まもなく80歳を迎える佐々木愛にとっては記念碑的な作品なのだと思う。
小林多喜二の母親を描いた物語。三浦綾子の原作をアレンジしてある。母親小林セキが中心ではあるものの、多喜二とその兄弟、そして、多喜二が身請けをしたタキも重要な役割を果たしている。小林セキを取り巻く群像劇になっている。
昨年の舞台「しゃぼん玉」でスーパーカブに乗って舞台を駆け回った佐々木愛には驚かされたが、今回は回り舞台を活用してそれほど派手な動きはない。しかし、主演だけにせりふの量は最も多く、しかもせりふの裏側にある主人公の思いを表現しながらの演技は、さすがというしかない。先日に亡くなった民藝の奈良岡朋子も生涯女優を貫いたが、佐々木愛もきっとこの先ずっと舞台に立ち続けてくれるだろう。そんな思いを込めたカーテンコールの拍手だった。

会場の俳優座の客席はほぼ満員である。年齢層が高いのは仕方がないが、夫婦で見に来ていた高齢男性の大いびきには閉口した。隣の奥さんは止めるべきだ。せっかくの舞台なのに、とても残念な客席だった。

オンディーヌ

オンディーヌ

浅利演出事務所

自由劇場(東京都)

2023/04/29 (土) ~ 2023/05/06 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2023/04/29 (土) 13:30

座席1階

浅利慶太の生誕90年という。パンフレットによると、浅利はこの演目を節目のたびに演出し、515回もの公演を重ねた。後を継ぐ野村玲子は「この作品があったから今の私があると言っても過言ではない」とも言っている。それだけ思い入れのある舞台の初日に足を運んだ。

三部構成でその間に15分の休憩を挟むのは、舞台セットの大きな転換があるからだろう。第一幕は水の精オンディーヌを育てた漁師夫婦の粗末な小屋。第二幕は宮廷、第三幕はオンディーヌを裁く裁判が行われる城の中庭という具合に、大きく模様替えをする。第二幕で魔術師に化けた水界の王が、タイムマシンのように過去を再現する魔術をやってみせるが、「本当に魔術ができるのか」と言われて披露する魔術は光と音による舞台セットがおどろおどろしいが効果的だ。

婚約者がありながらオンディーヌに一目ぼれする騎士ハンスが「自分は女を見る目がある」と言う場面とか、古典作品だから仕方がないとは言え、ジェンダー重視の今ではギョッとするせりふもある。また、「接吻」という言葉が乱発されるのには少し閉口する。ここはもう、「キス」にしてもいいのではないだろうか。
歌の場面が少なく、もっとミュージカル仕立てにしてもいいように思う。個人的にはオペラ歌手出身の松井美路子の声をもっと聞きたいと思った。ラストシーンは切ない場面だが、さりげなく過ぎていくような感じもした。
一方、気のせいかもしれないが浅利が劇団四季でたたき込んだ明瞭な発声、劇団四季メソッドは、その独特な感じが少し薄まっていたようだ。分かりやすい発声であることには違いないが、より自然な感じになったようだ。このあたりに変化を感じた。

妄想先生

妄想先生

プレオム劇

ザ・スズナリ(東京都)

2023/04/26 (水) ~ 2023/04/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2023/04/27 (木) 14:00

座席1階

個人的な趣向だが「ああ、観てよかった」と劇場を出て思える舞台は、やはり笑いあり涙ありの会話劇だ。期待通りに満足させてくれた中島淳彦作品はやっぱり、そんな力がある。

プレオム劇は女性だけの劇団で、中島主宰のホンキートンクシアターが解散後に分かれてできた。もう一つは中島作品も手掛ける劇団道学先生。道学先生の中島作品もいいが、こちらは女性だけの舞台で果たしてどうか。中学校の職員室は女性の方が多いのかもしれないが、女性しか出てこない不自然さを全く感じさせない。これは、登場する先生たちのキャラクター設定がとてもバラエティーに富んでいるからだと思う。
物語は中学の国語教師を中心に展開する。小学校の時にあこがれた先生を追うようにして教職を得た女性教師だが、いろいろ悩みの尽きない毎日だ。家には少し認知症気味のお母さん、国語教師だからと卒業式のあいさつの起草を押しつけられ、てんてこ舞いの最中に担当するクラスの花壇が荒らされるという事件が起きる。
親にたたかれたことがない女性教師が生徒を初めて殴った件で一発で懲戒免職にされるとか、関係者の話も聞かずに事件の白黒を付けたがる体育教師、校長の顔色ばかりうかがう教頭とか。そうした多彩なキャラクターに加え、タイトルにもあるこの国語教師の「妄想」、胸の内の物語をきっちり描くことで、この教師が子どもだったときの教室の話や、初恋の話など、それこそ多彩な妄想が次々にさく裂する。
ネタバレになるので控えるが、演出もよかった(メメントCの嶽本あゆ美。劇場に出掛けた理由の一つでもある)。少し不自然とも思える左右の壁は何なんだろうとずっと思っていたが、ラストに感動的な展開が待っている。
昭和の色濃い曲の選択も自分のツボにはまった。まさか伊藤咲子の「乙女のワルツ」が美しいハーモニーで聞けるとは思わなかった。他にも名曲が登場する。中島が作った歌も入っている。

悩みというのは一人で抱えることが多いが、そもそも人間は一人では生きていけない。弱音を吐いたときに隣にそっと手を差し伸べる人がいたら世の中、それほど捨てたもんじゃない。これまで何回も演劇を見に行ったが、「やっぱりそうだよね」と心に響く作品はそれほど多くない。今作は胸を打つ舞台として新たに記憶に残るだろう。

ネタバレBOX

キーワードはチューリップ。ここに着目していると、舞台は何倍も楽しくなる。
熱海殺人事件〜売春捜査官

熱海殺人事件〜売春捜査官

9PROJECT

上野ストアハウス(東京都)

2023/04/19 (水) ~ 2023/04/23 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2023/04/21 (金) 19:00

座席1階

あちこちの劇団が取り組むつかこうへいの名作。自分が最近見たのはプロジェクト・ニクスのバージョンだった。劇団の個性がダイレクトに反映される作品なのだが、9プロジェクトの魅力は、つか作品へのまっすぐな思いがあふれているところではないか。今作は2年前に続く上演。作品初演時の単行本やゲネプロ映像をベースにしつつも、せりふや演技を俳優と演出家が討論し新たに練り上げたという。

今も変わらぬ差別構造を鮮明に切り取った本作。それは、朝鮮半島から五島列島に渡ってきた大山金太郎の父母に対するものであったり、五島から上京して売春を糧に生きざるを得なかったアイ子たちだったり。敏腕部長刑事木村伝兵衛が上司(警視総監)から酌婦のように扱われる場面もある。
その差別構造は表には出ないところで今もしぶとく生きている。そのあたりを体現するのが木村伝兵衛・アイ子役だ。前回に続けて熱演した高野愛は、今回の舞台でも体当たりの演技で客席の視線をくぎ付けにする。節目で織り込まれる昭和の名曲も、効果的に舞台回しの役割を果たす。
プロジェクト・ニクスのバージョンは女性劇団だけに、あだ花のように咲いたアリランの花たちが印象的だった。これに対し、今回の9プロ版は高野愛の細い腕に思いっきり重圧をかけてひねりだしていくようなイメージがある。こんな舞台の空気を感じるたけでも、今回の上演は見る価値があるのではないか。また、作品の空気を文字で理解できるパンフレットもいい出来だと思う。

9プロはつか作品に取り組む使命を負っている劇団だ。「熱海殺人事件~売春捜査官」は再び取り組んでいくことになる。次の舞台では何が起きるのか。他の劇団の上演にも足を運びながら、継続して見る楽しみがある作品だ。

あたしら葉桜 東京公演

あたしら葉桜 東京公演

iaku

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2023/04/15 (土) ~ 2023/04/23 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2023/04/19 (水) 14:00

岸田國士の「葉桜」は、近年は劇団民芸などで上演されているようだ。iakuの今回の舞台はこの岸田作を朗読劇という形で母と娘の物語とし、現代版・葉桜というべきオリジナルの物語を本体として上演するスタイルだった。当然ながら、関西弁の軽妙なトークも相まって現代版の方が圧倒的におもしろい。そして、岸田作の朗読劇を見た後だけに、時代の鏡が映し出すものが手に取るように分かって興味深い。
岸田作はお見合いをした娘がどうも煮え切らない態度でいるのを母親が問い詰めていく会話劇。横山作では、娘が付き合っている相手に海外赴任先に付いてきてほしいと言われ、今ひとつもろ手を挙げて前に踏み出せない思いを母娘の会話で描く。ここでは母の恋愛観や長い結婚生活なども語られて、物語の幅は広がっていく。
横山作は、母娘のゴキブリ退治から物語が始まるところが「うまいなあぁ」と感心する切り口である。テンポよく進み、前半のリーディングを入れても上映時間はコンパクトだ。

ラビット・ホール

ラビット・ホール

パルコ・プロデュース

PARCO劇場(東京都)

2023/04/09 (日) ~ 2023/04/25 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2023/04/13 (木) 13:00

座席1階

2006年初演のこの演目は米ピュリツァー賞を取った名作。私は昨年10月に劇団昴が上演した舞台にとても魅せられた。昴は小劇場、今回はパルコ劇場という全くタイプの異なる劇場で「ラビット・ホール」を堪能できるとは思わなかった。この幸運に、まずは感謝。

ニューヨーク近郊の一戸建てに住むベッカとハウイーは、数カ月前に交通事故で4歳の一人息子をなくす。ベッカはまるで息子の死を認めたくないかのように、子どもを失った人たちによるピアサポートの会への出席を拒否し、残されたおもちゃや絵本を処分しようとする。一方、夫のハウイーは息子の死を受け入れてピアセラピーに参加し、前に進もうとする。息子の姿が残るビデオを見たり、子ども部屋をそのままにしておいて、その死を惜しんでいる。そんなある日、道路に飛び出した息子を死なせた車を運転していた少年からの手紙が届く。こんな筋書きで物語は始まる。

劇場の大きさが違うのだから当たり前だが、ベッカとハウイーの自宅の居間、キッチンなどの舞台設定は大きく異なっている。劇団昴の舞台は客席をくの字型に折ってキッチンと居間を続けるような舞台装置だったが、パルコ劇場ではその大きな空間を利用して中央にカーブした階段をしつらえ、子ども部屋は二階に、キッチンと居間はゆったりと上手・下手に配置してあった。どちらがいいとは言えないが、ベッカが息子の残した衣類を売るためにきれいに畳んだり、おもちゃを片付けたたりという冒頭のシーンが目の前で激しく繰り広げられる迫力は小劇場の勝利かもしれない。
そしてあんどうさくらのベッカと宮澤エマのベッカ。これはある意味好対照だった。あんどうさくらは激しい気性を前面に押し出した迫力がすごかったが、宮沢エマは最初はクールで、妹のイジーの妊娠話にも驚きこそあれきっちり受け止める感じの演技。このあたりも、どちらがよいかは好みの問題かもしれない。
勝負はベッカの胸の内がどこまでストレートに客席に響くか、だ。息子の死を受け止めきれずに夫と激しく対立するベッカだが、そういう場面ではやはりあんどうさくらの方が一枚上手か。宮沢エマは舞台初主演とは思えないほど、洗練されたせりふの流れや演技で客席の目をくぎ付けにするが、ほとばしる感情表現はあまりない(抑えるような演出だったのかもしれない)

広い舞台空間をゆったりと使った演出は、それはそれで心地よいのだが、役者が空間を持て余すように左右に移動するのはラビット・ホールのような感情の揺れが大きい本だと効果が薄れると思う。ぎゅっと凝縮された小さな空間で激しく火花が散る会話もこの台本の魅力だと思うので、自分的には昴のラビットホールの方が心に染みた。
宮沢エマ、成河、土井ケイト、シルビア・グラブという豪華メンバーの座組みは魅力だった。米国などにルーツを持つ役者たちの独自の空気感が出ると、もっとリアリティーが増したのではないか。

きらめく星座

きらめく星座

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2023/04/08 (土) ~ 2023/04/23 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2023/04/12 (水) 13:00

座席1階

こまつ座創立40周年の井上ひさし「昭和庶民伝三部作」の第1弾。自分は3年前の舞台に続いての鑑賞だ。今回はレコード店「オデオン座」夫婦の息子で脱走兵という役柄を、ミュージカル俳優として進境著しい村井良大が演じた。

「青空」など当時の流行歌がふんだんに歌われる舞台。ラストシーンの日付は先の大戦の開戦日の前日、12月7日。嫌がおうにも戦争に巻き込まれていく日本国民の生活が、レコード店夫婦の家庭を通じてクリアに描かれる。直接物語とは関係ないが、舞台の日めくりを見ると開戦の年の8月15日という日もある。4年後に日本が破滅するという運命を、客席は呪わずにはいられない。
ただ、庶民が一方的な犠牲者であるという描き方もしていない。すき焼きを食べるシーンでにおいが外に漏れると「あの家は何かよからぬことをして儲けている」と密告されるから雨戸を閉める、という場面がある。隣組もそうなのだが、庶民がお互いを監視し合う世の中が戦争を後押ししたわけだ。これは最近のコロナ禍でもあった自粛警察を思わせるし、この舞台を見れば現代が新たな「戦前」であることは明白に分かる。
前回の上演で紀伊國屋演劇賞を受けた松岡依都美の演技はやはり、見事だった。さらに、その義理の娘を演じた瀬戸さおりもよかった。村井良大はこまつ座初出演とのことだが、きれのいい演技と歌はとても安定感があった。こまつ座作品への今後の出演も期待できるのではないか。

米国に追随して兵器を爆買いし、今にも戦争が起きるのではないかと不安が募る今だからこそ、戦争前夜の国民生活がどうだったかを知るためにも、ぜひ若い世代に見てほしい舞台だ。こまつ座のお客さんはやはり高齢者が主体で、今回もそうだった。多少、演技が荒っぽくても若い世代にアピールする俳優をあえて起用しても、上演を繰り返してほしい。

彼の男 十字路に身を置かんとす【再々演】

彼の男 十字路に身を置かんとす【再々演】

LiveUpCapsules

シアターサンモール(東京都)

2023/04/10 (月) ~ 2023/04/16 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2023/04/11 (火) 15:00

第1次大戦当時、三井や三菱をしのぐ勢いで国家の経済成長を支えた神戸の総合商社「鈴木商店」の物語。男たちだけによる熱量あふれる舞台で迫力満点だが、勢い余って滑ってしまうところもあった。欧米列強に追いつけという当時の時代の反映でもあるが、低成長でも何とか生きていかねばという現在の社会に生きる自分たちから見ると、実感が今ひとつないという気もする。

出演者たちはいずれも、我こそが世界に伍して立つという熱意と勢いを体現している。それは、大番頭の金子を演じた山田準平もそうだし、英国政府を向こうに回して次々に商談をまとめていったロンドン支店長高畑誠一を演じた横関健悟もすごかった。
一方、少し引いたところで血気盛んな社員たちをまとめていく本店の西川役を演じた狩野和馬は、抑え気味の演技に味わいがあった。JACROWの政治シリーズで演じていた田中角栄の印象が強いが、今回は角栄の残像をきれいに落としていた。過労死という言葉などなかった当時に生きた男の末路に悲しさが募る。

史実に基づいているかどうかは分からないが、こうした破竹の勢いの商社に冷や水を浴びせる大阪朝日新聞の描き方には、少し違和感がある。いってみれば裏も取らずに悪口をかきまくったのか。当時のメディアは今のようにファクトに基づいた報道をしていたかどうかは疑問があるにせよ、一方的に悪者扱いなのはどうなのか。
政治状況や国際情勢を機を見るに敏とつけこんで金もうけに走った商社に批判される余地はないのだろうか。日本経済を我こそが支えているという意識におごりはないのか。そうした視点がこの舞台に欠落しているのは、自分としてはとても残念だった。

熱い舞台で好感は持てるが、熱すぎて引いてしまうところがある。自分があまのじゃくだからかもしれないが。

ブレイキング・ザ・コード

ブレイキング・ザ・コード

ゴーチ・ブラザーズ

シアタートラム(東京都)

2023/04/01 (土) ~ 2023/04/23 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2023/04/06 (木) 13:00

座席1階

切れのいい舞台というのはこんな感じかも。いろんなテーマが詰まっている物語を、無駄をそぎ落とした演出で提示して見せた。40年近く前に初演された戯曲とは思えない現代性、社会性を工夫を凝らした演出で描いている。ナチスの暗号を解読して戦勝に貢献したアラン・チューリングの物語。AIが戯曲を書いてしまうという時代の幕開けにふさわしい舞台だった。

チューリングがゲイであり、ゲイが犯罪であったという時代に起きた悲劇というところに焦点が当たっているが、この舞台はいろんな角度から楽しめる。亀田佳明がこなした長せりふの中にはコンピューターが自ら思考し、感情を持つことができるかというところにも重点が置かれている。コンピューターを電子計算機と呼んでいた時代の話なのに、まったく古くさく感じないのはチューリングの先見性であり、それをうまく客席に届けることができた演出だった。それは、2幕冒頭のチューリングの演説のような「授業」を聞けばよく分かる。

先人が書いているように舞台から消える左右の階段も効果的であるし、さまざまな場面を違和感なく一つのステージで表現する演出が印象的だ。特によかったのは天井からつるされた蛍光管の照明。これが主人公の心を照らし出しているかのように光のアートとなっている。冒頭、役者たちが小道具のセッティングをするというのもおもしろい。

コンピューターを思考や感情を持つ人間にように思っていた研究者がとても愛らしく思えた。いい舞台だった。ゲイの部分をもう少し切り取っても、彼の人間くささのようなところをもっと見たいと思った。

2 tales × 4 feelings

2 tales × 4 feelings

朗読パンダ

あうるすぽっと(東京都)

2023/03/31 (金) ~ 2023/04/02 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鑑賞日2023/03/31 (金) 14:00

座席1階

休憩なしの2本建て。「OL三国志」は曹操と時空を超えて会話をする奇抜な発想。今どき「OL」というのもどうかなと思ったのだが、そこはご愛嬌かも。

初日の舞台の舞台とあってか、作・演出の大塩氏が前説を行った。OL三国志は経営が厳しく理事長が引退を決意した予備校で、総務部など3部が予備校のCMを作成し、最優秀の部が理事長職を譲り受けるという展開。これがどう三国志と結び付くのかと期待してみるとおもしろい。
だが、コメディーと銘打っている割には思いっきり笑えるところが少ないのが難点。前説で「マスクは外せないけど、思いっきり笑ったり声を出したりしてもいいです」とあったにに、やや誇大広告か。
続く朗読劇は江戸川乱歩の黒蜥蜴。この物語を本格的に舞台化するのはかなり難しいと思われるが、朗読劇らしい手法で映像と照明による演出で展開する。朗読劇なので仕方がないがリーディングに負うところが大きく、やはり黒蜥蜴というビジュアル重視の物語を表現するのは少し荷が重すぎたような気もする。
迫真に迫っていたリーディングだったが、今ひとつ楽しめなかった。

グッドラック、ハリウッド

グッドラック、ハリウッド

加藤健一事務所

本多劇場(東京都)

2023/03/29 (水) ~ 2023/04/09 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2023/03/29 (水) 14:00

座席1階

初日の舞台を拝見。
いろいろなことを考えさせられる、見事な作品だった。この戯曲を選んだ段階で、半分成功していたのではないか。もちろん、残りの半分は加藤健一ら3人の登場俳優が思う存分その力を発揮したことだろう。

加藤忍は今回はいつもにまして、情感がこもった演技だった。過去の栄光が大きすぎて次のステップに踏み出せない老映画作家の背中をそっと押す優しさ、包容力が演技から十分に伝わってきた。主役の加藤健一をしのぐ出来栄えだったと思う。
もう一人、若手で勢いのある新人作家を演じた竹下景子の息子・関口アナンもよかった。ちょっと雑なところもあったが、まさに勢いだけで突っ走る若者をうまく演じた。世代交代というか、時代の波に乗る感じをとても長い手足を存分に使って全身で表現していた。

冒頭から少し驚かされる。天井の梁からぶら下がったロープで老作家が首をつろうとしているのだ。そこにたまたま若手作家が「部屋を間違えた」と入ってくるのだが、この若手作家がプロデュース会社と作品を世に出す契約を取っていることを知った老作家は、作品のクレジットから撮影監督まで自分はすべて黒子でいいので自作を使うようにこの若者を説得する。
斜陽と日出る勢い。そんな対比だけでなく、引き際の難しさや、いい作品と世の中に受ける作品が異なるという、映画演劇の芸術性と大衆性のせめぎ合いみたいなところも存分に演じられる。

今回は爆笑場面はないのだが、カーテンコールの時に起きる拍手はいつもより力強かった。

デカメロン・デッラ・コロナ

デカメロン・デッラ・コロナ

劇団山の手事情社

池上会館 集会室(東京都)

2023/03/24 (金) ~ 2023/03/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2023/03/24 (金) 13:00

座席1階

桜の花がきれいな池上本門寺。会館の集会室での舞台だが、客席数は思いのほか多い。舞台は難解といえばそうだが、オムニバス形式で進められテンポもいいので役者たちの動きを飽きずに眺められる作品だ。

パンフレットによると、絵画のコラージュのように総体として一つの印象を描く手法を「構成演劇」というのだそうだ。テーマは悪夢。確かに、恋人を兄弟に殺されてしまう女性など、悪夢と言える展開が目立つ。
しかし、山の手事情社の舞台で最も刮目すべきは役者の動き、動作だ。腕や指までそろった激しさもあるのに流れるような動作。シンプルだが光と影を使った演出も効果的。終演後の大きな拍手はやはり、鍛え抜かれた俳優たちへの称賛である。

アウトカム~僕らがつかみ取ったもの~

アウトカム~僕らがつかみ取ったもの~

劇団銅鑼

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2023/03/17 (金) ~ 2023/03/22 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2023/03/22 (水) 14:00

劇団創立50周年の記念公演。千秋楽の舞台を見た。
銅鑼らしい、どこまでも前向きな物語に勇気づけられる。「演劇を見たから明日は少し、今日より元気かな」と感じるような、すてきな群像劇だった。

どこの街でもある、銭湯の廃業話。NPOが間に入って地元の市民がこの場所で起業することで再生を図るという筋書きだ。ところが、企業セミナーに応募した市民はどちらかというと失業したからここで、という人たちばかりで、果たして結果を出せるのか暗雲が漂う。
登場人物が22人という異例の多さだが、誰がどの人か分からなくなることはない。それは、登場人物一人ひとりの物語を丁寧に描いているからだ。普通の市民であるが、それまでの人生に挫折とか、転回とかがあって印象的な人たちだからだ。脚本の勝利だと思う。

企業セミナーの講師として登場するソーシャルワーカーがよかった。その人の表に出ていない力、強さを引き出し前向きに進む支援をする。ストレングスモデルといわれるソーシャルワークの実践を舞台で見るとは思わなかった。事実、ここで自分の持っている潜在能力などに気付いて新たな一歩を踏み出した市民がいる。まさに、立派なアウトカムを引き出している。

さまざまな難題と向き合い、自分を見つめながら進んでいく市民たちを見て「自分も」と感じる。演劇の力を存分に発揮した舞台に拍手を送りたい。

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