その先の凪 公演情報 チーム・クレセント「その先の凪」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鑑賞日2024/06/08 (土) 15:30

    座席1階

    病気で亡くした息子の生きた証を、とある喫茶店を舞台に老夫婦が少しずつ取り戻していく物語。起伏があったり悲劇的な出来事が起きるわけではない。淡々と進む会話劇に、客席は劇の途中から涙が止まらなくなる。見事な舞台だった。

    女子高校生やその先生など、客席には日ごろ演劇とは無縁そうに見える若者たちがたくさんいた。出演者の関係者なのだろうか。その女子高校生たちはハンカチを握り締めながら食い入るように舞台に見入った。それほど強い力を持った演劇だった。
    物語は、ザムザの客席入り口から夫婦が喫茶店に入ってくるところから始まる。そこで待ち合わせしているのは、特別な人のようだ。明らかに緊張している夫婦。遅れて現れた女性は、夫婦の息子と23年前に別れた恋人だった。
    息子が電話でどんなことを話していたか。夫婦は亡くなった息子の面影を追うように質問を重ねる。女性は真摯に質問に答えていく。だが、聞いていると夫婦の方が明らかに少し「うしろめたさ」のようなものをまとっていることが分かる。劇中でそれがどういうことだったのかが少しずつ明らかにされていく。
    コロナ禍の最中に亡くなった場合、コロナウイルスが直接の死因でなくても、遺体は防護服のような袋に詰められ、遺族は火葬場にも行けず、遺骨が戻ってくるだけだった。この息子もそのような形で両親の元に帰ってきただけに、やり場のない怒り、悲しみが夫婦を包んでいた。それだけに、恋人であった女性の語りは老夫婦にとってとても大切なものだった。
    つい最近のコロナ禍を私たちはもう、忘れているかのようだが、コロナ禍が大切なものをたくさん奪っていったことを舞台は静かに記憶していく。23年前の悔恨が決定的なことであっただけに、コロナ禍最中での息子の死は、両親には堪え難き経緯だったのだ。
    この脚本は、「逆縁」を描きながら先に旅立っていった息子の知られざる思いを浮き彫りにしていく。息子がいかに彼女のことを思っていたかが会話が進むごとに色濃く客席に届いていき、涙が止まらなくなる。
    とても静かであるが効果的な演出が、見事な脚本を際立たせる。本当にすばらしい会話劇だった。



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    2024/06/08 20:33

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