かずの観てきた!クチコミ一覧

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熱海殺人事件 - 1973初演ver.

熱海殺人事件 - 1973初演ver.

9PROJECT

上野ストアハウス(東京都)

2025/05/22 (木) ~ 2025/05/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2025/05/25 (日) 13:00

千秋楽の舞台も超満員。岸田国士賞をとった初演版を忠実に再現した作品で、つか作品を演じ続けてきた9プロならではの舞台だ。出演メンバーも北区つかこうへい劇団でつかに指導を受けた顔触れ。誰もが知るつか作品の名作だけに、アレンジを加えない初演版への取り組みは相当なプレッシャーもあったのではと拝察する。

9プロのホームページに、「白鳥の湖」が流れない“つか演出前の熱海”とあるが、他の劇団が繰り返し上演してきた「熱海」では、当然のことながら「白鳥の湖」は強烈な印象を残すポイントの一つだ。演出の渡辺和徳は昭和歌謡やニューミュージックの数々をうまくアレンジして4人の俳優の熱演を彩った。初演版は初めて見たが、とてもシンプルだという印象を受ける。ストレートにこの戯曲を楽しむことができた。
俳優が替わるたびにせりふが変わったという熱海殺人事件。さまざまな劇団が演じ、さまざまなバージョンが世に出た。熱海の浜で絞殺された山口アイ子と恋人であり犯人の大山金太郎の出自をアレンジした劇団もあった。このようにして元の戯曲が姿を多彩に変えて次の世代に受け継がれていく様子を、草葉のつかはどのように見ているだろうか。きっと楽しんでいるに違いない。

9プロのメンバー、高野愛はカーテンコール後のあいさつで感極まっていた。ミスの許されない「熱海」をやり切ったという涙だったのではないか。

マライア・マーティンの物語

マライア・マーティンの物語

On7

サンモールスタジオ(東京都)

2025/05/17 (土) ~ 2025/05/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2025/05/22 (木) 14:00

オンナナの第2回公演を見ている。「その頬、熱線に焼かれ」という原爆少女の物語で、静かに進む舞台なのだが内側からわき出るような熱量があった。今作はその熱量が激しく舞台に放射されている。このメンバーだからこそこれだけの熱量をもって完遂できた舞台であったのではないか。オンナナにこの戯曲を勧めた小田島則子の慧眼に感服する。

冒頭、薄暗い舞台で主演女優の表情もみづらい場面から始まる。自分は1年前に男に惨殺されたが、まだ遺体は見つかっていない、という趣旨のモノローグだ。舞台は一貫して暗いモノトーンを基調とした演出で進む。舞台転換のタイムラグを感じさせず、息をつくまもなく続いていく演出はさすがに寺十吾。見事だった。
物語は、英国の田舎の村の幼なじみたちの生活から、時間を追って冒頭のシーンにつながっていく。貧しい家の女性たちがどのような苦難を味わっているか、あるいはその苦難に付け入るようにしてどう自分を売っていくかという恐ろしさすら感じる日常が展開され、見ていて少し苦しくなる。しかし女たちは明るく、歌い、踊る。この落差も、客席の苦しさを深めている。

物語の結末も苦しいものだが、次の日に向かっての希望のようなものも感じた。演じきった者たちへの熱い拍手は、戯曲の難しさを自分の力に変えて全力で、全身で客席に放射した「やり切った感」への拍手だったと思う。それぞれの出身劇団では見られないような、「演劇をやっていてうれしい」という素直な胸の内への拍手でもある。

シャンパンタワーが立てられない

シャンパンタワーが立てられない

劇団シアターザロケッツ

ザ・ポケット(東京都)

2025/05/21 (水) ~ 2025/05/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2025/05/21 (水) 14:00

座席1階

ご配慮をいただき、初日の昼にあったゲネプロを拝見した。8年ぶりの再演という今作、地方都市のつぶれかけのホストクラブが舞台だ。

開演前の舞台中央にはシャンパンタワーがしつらえてあり、どのような展開になるのかとわくわくムードが高まる。「地方都市」という設定もあって、どこかあか抜けない雰囲気もある。暗転後の冒頭場面から事件が起きる。
登場するホストたちはイケメンばかりではない。何でこの人がホストなの?みたいなキャラクターも。店長が「ホストの数が多い方がいいだろ」みたいなことを言うのだが、体験入店の落語家のおじさんまで登場するのはぶっとぶ。
一方で客の女性たちも一部は怪しい。そういう女性客も実際にいるのかもしれない(いないと思うが)が、舞台ではその一人ひとりに物語が設定されている。

シアターザロケッツの舞台の楽しみ方の一つは、前段で仕込まれた伏線がどのような形で結実するかを見ることにあるという。きちんと見ていないと伏線を見逃してしまう、と感じた。このような楽しみ方を満喫するには、何回も劇場に通うしかないのかも。

舞台 娘がいじめをしていました

舞台 娘がいじめをしていました

一般社団法人グランツ

川崎市アートセンター アルテリオ小劇場(神奈川県)

2025/05/17 (土) ~ 2025/05/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2025/05/17 (土) 11:00

座席1階

しろやぎ秋吾原作の漫画を舞台化。小学校で起きたいじめ事件を、加害者と被害者双方の親の視点で描いているのが特徴で、舞台は原作にほぼ忠実に再現されている。

中心となるのは親である大人たちだが、本作では子どもたちが多数登場し、重要な役割を果たす。いじめられた女児、いじめた女児という主役級だけでなくクラスの子たちも含め、見事な熱演だった。大人たちがかすんでしまう場面もあった。非常によく鍛えられているという印象だ。親の視点から描かれた本作を子どもがガッチリ支えている。

静まりかえった客席にすすり泣きも。原作の思いを充分に表現した役者だちの勝利だ。

障害者の劇団横浜桜座を擁するグランツのプロデュース公演。桜座のメンバーが座席の案内や前説をこなしていたのはよかった。また、障害がある客のために、舞台暗転時の暗い状態や雷の大きな音を事前に流して観劇の心づもりをしてもらったり、観劇中の音や立ち歩きもOKというような配慮をしているのもグランツらしい心配りだった。他の劇団も参考にしてほしい。

なべげん太宰まつり『逃げろセリヌンティウス』

なべげん太宰まつり『逃げろセリヌンティウス』

渡辺源四郎商店

ザ・スズナリ(東京都)

2025/05/03 (土) ~ 2025/05/06 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2025/05/05 (月) 14:00

座席1階

渡辺源四郎商店、なべげん主宰の畑澤聖悟の前説で、劇団所在地の青森は太宰治を観光資源にしているという話があった。その太宰で一番知られているのは「走れメロス」。なにせ教科書に採用され続けているから子どもたちも皆知っている。本作は走れメロスの面白さを最大限生かしながら、大胆に翻案した興味深い作品だ。

タイトルにもあるように、本作はメロスの親友セリヌンティウスにスポットを当てている。妹の結婚式を終えたら必ず処刑場に戻ってくると、メロスが人質として差し出したセリヌンティウスは親友の言葉を信じている。だが、人を信じられないという性根を持つディオニス王は、メロスが約束の日没まで帰って来られないよう、さまざまな妨害工作を繰り広げる。
ギター演奏も含め7人の俳優が、回転ドアのようにさまざまな役を演じていくアップテンポの演出はとても気持ちがいい。さて、メロスは間に合うのか、と舞台を見つめていると、想定外のラストシーンが待っていた。

あちこちの劇団に名作を書き下ろしている畑澤。年に一度は東京で舞台を行うことにしているといい、今作は大型連休中のスズナリを沸かせている。

目を向けて、背を向ける。

目を向けて、背を向ける。

TOKYOハンバーグ

「劇」小劇場(東京都)

2025/04/06 (日) ~ 2025/04/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/03/02 (土) 14:00

座席1階

迫りくる老いを真正面からとらえ、生まれてくる命と対比する。テーマは生と死で、それはとりもなおさずどう生きるか、どう死ぬかという問題である。ある意味タブーとされている問題に切り込んだ。演劇だからこそできる物語だが、重たい問題だけに突っ込み不足だったという感じもする。

舞台は、最近あちこちでできているグループリビング。気の合う者同士が一緒に暮らし、食事などのサポートがある。若者たちのシェアハウスとは異なり、高齢者のグループリビングが代表的。ただ、介護が必要な人たちのグループホームとは区別される。
男性は群れるのを好まない傾向もあり、グループリビングは女性が多いというイメージだが、今作での男女比は半々だ。人生の最後を仲間同士で過ごそうという趣旨だが、老医師が開設したこの施設には秘密があった。そのヒントが、冒頭に登場する。
人間ドラマでは定評のあるTOKYOハンバーグ。キーポイントとなる登場人物が、開設した医師の孫の男性だ。いじめを受けて精神的に追い詰められ、死にたいと思っている。ここに世代を超えた「生と死」が登場する。舞台では高齢者の「生と死」と対比して描かれるが、分からないでもないのだけど若干無理な理屈だなと感じる部分があった。

詳しくはネタバレなので書けないのだが、この人たち(入居者や医師の孫など)に社会福祉というのは無力なのだと描かれていてちょっと絶望的な気持ちになる。確かに、年金を含めた社会保障は危ういところがあるのだけど、社会福祉こそがこの人たちを支えるツールであると自分は信じたい。そんなことを言っていては演劇にならないのかもしれないけれど、自分はそればかり考えていた。

重いテーマに取り組もうとした意欲は買いたい。でも、何と言われようとも入居者たちの判断は正しいと思えないし、だからこそこの人たちを支える社会を作りたいと思うのだ。

ネタバレBOX

ラストシーンには疑問。この入居者のバイトが何であるかは、舞台の途中から何となく想像できた。やっぱりと思ったところで幕切れになったのは、消化不良。
黄昏の湖~On Golden Pond~

黄昏の湖~On Golden Pond~

加藤健一事務所

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2025/04/04 (金) ~ 2025/04/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2025/04/08 (火) 14:00

座席1階

ヘンリー・フォンダとジェーン・フォンダという実の父と娘が共演した映画「黄昏」の原作となる作品。加藤健一が老父、劇団昴の一柳みるが老母、そして娘役が加藤忍という配役。今作は爆笑するような場面、セリフはないが、随所に言葉遊びを含めたユーモアが盛り込まれ、加藤健一事務所らしい仕上がりだ。

文句の多い、頑固な男性役をやらせたら、やはりこの人は天下一品だ。実際に同事務所のラインナップでもこのような役は多い。だが今回は、頑固で嫌みなことを言う中で娘の幸せを願い、娘が新たに息子として迎える13歳の少年と心を通わせていくところを、うまく演じている。
舞台は米メーン州の「ゴールデンポンド」と呼ばれる湖畔の別荘。老夫婦はここに毎夏訪れているが、この夏は、疎遠となっている娘と恋人、その息子がやってくる。老父はやんちゃな息子にいきなり本を読めと宿題を課す。少年はタメ口をきくなど態度は悪いが、何か感じるものがあったのだろう。比較的素直に読書を受け入れ、誘いを受けて一緒に釣りに出かける。
テーマはわだかまりを抱えていた父と娘の和解であり、老夫婦の支え合いであったりするが、少年と老父の関係性も興味深い。舞台は淡々と進んでいく。休憩を挟んで2時間10分は少し長く感じた。

ラストシーンが前向きなのは、とても安心できる。黄昏というと人生の黄昏を連想するが、その光景はこの戯曲ではとても輝いて見える。

或る、かぎり

或る、かぎり

HIGHcolors

駅前劇場(東京都)

2025/04/02 (水) ~ 2025/04/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2025/04/05 (土) 13:00

座席1階

人気劇団だけあって、開場前から長い行列が階段へと伸びていた。ひきこもりの30代長男を抱えた家族の物語。重いテーマに真正面から取り組み、ひきこもりの実像もリアリティーにあふれていた。

舞台セットは、向かって左奥にベッド、その手前が台所とリビング、右手が会社のオフィスと設置され、うまく照明を使いこなすことで切れ間なく舞台転換する。最初に登場するのは病床の母だ。見舞いに来ているのは父だとしばらくして分かる。どうやら重病のようだ。ひきこもりの長男に姿を見せに来てもらえないかと、母は父に嘆願する。だが、長男を連れ出すのは容易ではない。

父は小さな会社を経営しており、次男、三男という家族らと共に、会社の番頭、女性社員もリビングに訪れ、母の病状を心配する。家族だけでない他者を重要な役割として配置したことが、物語を進める上でとても重要になっている。
演出の妙もあり、とにかく息をつかせぬ展開だ。長男の状況は、父が「レンタル彼女」を雇ってもなかなか変わらない。このレンタル彼女を演じた俳優さんはお見事だ。視線をまっすぐに長男を見つめ、「彼女ですから。私があなたを好きなんです」と真正面から対峙する。また、ひきこもりの長男を演じた俳優さんもすばらしかった。心の揺れ、自分自身への怒り、息苦しさ、他者へのねたみ、そして家族への思い。せりふがない場面でもこれらの胸の内を十分に表現して余りある見事さだった。

物語は少しずつ前に進んでいく。せりふなど一つ一つが丁寧に描かれ、後段では思いもかけぬ展開が待っている。
主宰の深井邦彦は「弱い立場の人によりそう」という姿勢でこれまでの舞台を作り込んできたという。劇作家の視線がよく感じられる、見事な舞台だった。満席になっている回もあるかもしれないが、ぜひこの物語を体感してほしい。

親の顔が見たい

親の顔が見たい

劇団文化座

文化座アトリエ(東京都)

2025/04/04 (金) ~ 2025/04/11 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2025/04/04 (金) 14:00

座席1階

2023年に劇団昴が上演した今作をもう一度見たいと思って出かけた。高校教員も務める劇作家畑澤聖悟の名作。テーマは名門私立中学校で起きたいじめ自殺事件。遺書に名前のあった親が学校に呼び集められ、恐ろしいほどリアルなトークが繰り広げられる。

子どもたちはいじめをしているなんて絶対に親に言わないし、携帯も見せないから、呼び集められた親たちはいずれも「うちの子に限って」と狼狽する。しかし、舞台が進むにつれて実はいじめの兆候をつかんでいた保護者がいたことも明らかになる。いじめに参加しないと次はいじめのターゲットにされるという、いじめの構造から子どもたちは抜け出せないでいて、実は周囲の大人たちに助けを求めているからだ。

昴の時も思ったが、実力のある俳優たちが演じるとリアリティーが倍加して舞台から目が離せなくなる。書かれたのはしばらく前になるが、いじめの構造が今も変わっていないから、いつ見ても戦慄するほどの恐ろしさがあるというわけだ。
公立校でなく私立の名門校という舞台ならではの浮世離れした「学校の名誉」も描かれる。しかし、公立校であっても教室で子どもが自殺するという事件は、できればなかったことにしたいという気持ちは働くであろう。この点だけをとらえても、外部の人が出入りする開かれた雰囲気があることが、いかに大切かと思い知らされる。学校内だけの秘密を作ってはならないのだ。

やはり、名作は名作だった。既に売り切れの日も出ているようだが、ぜひ見てもらいたい。

メリーさんの羊

メリーさんの羊

山の羊舍

小劇場 楽園(東京都)

2025/04/01 (火) ~ 2025/04/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2025/04/02 (水) 15:00

座席1階

「メリーさんの羊を上演する会」が前身の山の羊舎。初演に出た中村伸郎が別役実に書き下ろし、1984 年1月から1989年まで渋谷の「ジァンジァン10時劇場」で繰り返し上演されたという。テーブルにミニ機関車が走るジオラマを配置した演出は当時のままという。

別役作品はPカンパニーのシリーズでたくさん見てきたが、この作品は初見。いわゆる定番の不条理劇とは趣が違っていて興味深い。しかも、夫婦愛を描いている。ただ、せりふの応酬は別役作品ならではで、最初に登場する信号夫の男のせりふなどはいかにも別役作品という空気をまとっていて楽しい。
冒頭、線路を走っているミニ機関車を、信号夫が信号灯を手に号令をかけ止める。これが大きな伏線になっているのを、劇の後半で知る。しっかり作り込まれた戯曲だなあと感心する。
もう一つの主役は、ジオラマの中に立っている小さなメリーさんだ。スポットを浴びる場面もあるが、何せ小さな人形なので、小劇場楽園のような客席が近い舞台でも遠い席だとよく分からないだろう。自分は一番前に陣取って正解だった。

わたしの紅皿

わたしの紅皿

劇団銅鑼

銅鑼アトリエ(東京都)

2025/03/19 (水) ~ 2025/03/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2025/03/25 (火) 14:00

西日本新聞が終戦からしばらくして設けた女性の投稿欄「紅皿」を題材にした舞台。市民の投稿欄が朗読され、その物語が舞台で演じられることによって、当時の女性たちの思いが生き生きと浮かび上がった。演じるということで伝わる力、その力強さを存分に感じることができる。

舞台で取り上げられている投稿が書かれたのは、朝鮮戦争特需で日本が経済復興し、自衛隊の発足(再軍備)が進められているころだ。戦争で家族を失った女性たちの多くが「もう戦争はこりごりだ」と感じており、舞台では「再軍備は絶対に反対」と言い続ける母親が登場する。その息子が「大国に守られているだけでは自分の国は守れない」などと言って自衛隊への入隊を打ち明け、母親と激しく衝突する。

複雑化する国際情勢、パワーバランスの中で、自国をどのようにして他国の侵略から守るかというのは、戦後80年たった今も変わらない論点だ。しかし、舞台が扱っている当時と決定的に違うのは、「再軍備反対」と声高に叫ぶ女性たちの姿が今は見られないこと。また、それに加えてさしたる議論もないまま、自衛のための再軍備どころか、敵基地を先制攻撃する軍備までそろえようとしているところが大きく異なる。
「戦争などもうこりごり」という市民の姿がはっきり見えないところが当時よりいかにも危うく映る。舞台ではこうした現状まで直接的に触れられていないが、原作者がここを意識しているのは明らかだ。客席もこうしたメッセージを受け止めて、舞台に見入っていたと思う。

単に投稿を読むだけならそれで流れてしまうかもしれないが、舞台化されることで、客席では投稿によって何度も涙をぬぐう姿もあった。「読む」から「見て感じる」へ。演劇という伝え方のパワーを知った貴重な時間だった。

劇団狼少年『嘘つきたちのアモーレ』

劇団狼少年『嘘つきたちのアモーレ』

ravencompany

「劇」小劇場(東京都)

2025/03/19 (水) ~ 2025/03/26 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2025/03/21 (金) 19:00

座席1階

劇団狼少年結成十周年公演。メガヒットを飛ばし紅白にも出たが、その1曲だけで表舞台から消えた女性歌手の半生を描いた。メガヒットの曲を母親から何度も聞かされて育った若い女性が書いた戯曲を、崩壊寸前の劇団が上演するという物語をもう一つの軸に展開する。舞台後半は感動の連続。客席のすすり泣きが続いた。

この女性歌手の子ども時代の物語が秀逸だ。詳しくは舞台で見てほしいが、現実でも十分あるだろうと思われるリアリティーを感じた。そこで登場する周囲の大人たち、家族の群像劇もよかった。細部まで綿密に練られた台本であるのだろう。
タイトルは、この女性歌手が出したたった一つのヒット曲名だ。最後の最後で披露されるのだが、この曲自体、誰か有名歌手が歌って世に出したらヒットするのではないかと思われる完成度の高さだった。こうした数々の見どころに驚かざるを得ない。
場面転換の切れ目を感じさせない演出もよかった。2時間という長さだが、舞台から目を離すことができない工夫がされていた。劇中に登場するのは昭和の歌だけでなく、今はやっている曲も盛り込まれるなど、世代を超えて舞台に没頭できる。

少しだけ盛り込まれているギャグにはすべったものもあったが、舞台の面白さには何の影響もない。次回作は本多劇場に進出ということで、内容が明らかにされてないのにチケットの前売りをしているのには少し笑った。

人間ドラマが好きな人にはたまらない、いい作品だった。これは見ないと損するぞ。

白い輪、あるいは祈り

白い輪、あるいは祈り

東京演劇アンサンブル

俳優座劇場(東京都)

2025/03/19 (水) ~ 2025/03/23 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2025/03/21 (金) 14:00

座席1階

ブレヒトの「コーカサスの白墨の輪」を題材に劇作家鄭義信が創作・演出。「焼き肉ドラゴン」などの作品群にいたく感動した自分としては、どんな作品かと期待して閉館間近の俳優座劇場に出かけた。

ミュージカル仕立て。劇団の若手とベテランが息の合ったダンス・歌唱を聴かせた。このあたりはさすがに鍛えられていて、見ていてとても楽しい。
裁判官のアツダクが狂言回しのような役割を担っていて興味深い。討たれた領主の男の赤ん坊を拾って戦乱の中を逃げ延びて育てたグルシェを演じた主役の永野愛理は、クルクル回るような視線での演技など、細かいところまで秀逸だった。
原作があるので無理は言えないかもしれないが、人情味があふれ、権力を持つ者への鋭い批判の目が或る戯曲を書く鄭義信らしさがあふれていたかというと、そうではない。ラストシーンはとても印象的で、ここが鄭義信らしいところだとは思ったものの、基本的には客席を楽しませる仕掛けを重視したつくりだった。期待する部分が違っていたのかもしれない。

歴史ある俳優座劇場の終幕にかける戯曲として、東京演劇アンサンブルのブレヒトというのはふさわしいものだったと思う。外部の劇作家に書き下ろしてもらうより、これまでのアンサンブル作品のようにブレヒトに真正面から挑んでいくのもありだったか。

ホモ・ルーデンス~The Players~

ホモ・ルーデンス~The Players~

秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場付属養成所

青年劇場スタジオ結(YUI) (東京都)

2025/03/15 (土) ~ 2025/03/27 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2025/03/18 (火) 14:00

座席1階

高校演劇をテーマにした作品で、若手劇団員を中心に出演。震災で亡くなった生徒が書いた台本を、5年の歳月を経て同級生たちが集まり、上演するという物語だ。元生徒たちの現在の生活と、劇中劇「ホモ・ルーデンス」という演劇の稽古をクロスオーバーした作りで進行する。

「青少年に寄り添い、励ましになるような舞台づくり」を貫いている青年劇場らしく、中高生を含めた若者の心に訴えかけている。実際の客席は高齢者が圧倒的に多かったが。
高校演劇という出演者たちの年齢に近い台本だけに、役者たちが生き生きと輝いているという印象だ。はじけるような若さ、というのも古い表現だと思うが、まさにそんな言葉がぴったり当てはまるような1時間半を楽しめる。
ホモ・ルーデンスの上演は、震災後に衰退し財政難に陥った地元自治体が高校生たちが公演場所やけいこ場に使っていた公民館を売却する計画が持ち上がった、という事態がきっかけ。このあたりは青年劇場らしい社会性を感じる。何とかして公民館を存続させられないか。演劇は、その力にならないか。まさに、青年劇場が貫いてきた精神だ。
内容は高校演劇だが演じている役者はさすがプロ。明瞭なせりふ、分かりやすく大きな体の動き。「演劇の力」を実感できる快作だ。

『フォルモサ ! 』

『フォルモサ ! 』

Pカンパニー

吉祥寺シアター(東京都)

2025/03/13 (木) ~ 2025/03/17 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2025/03/17 (月) 13:30

座席1階

面白さで定評のあるPカンパニーの「シリーズ罪と罰」。その演目としてどのような経緯でこの作品を上演することになったのかの経緯は分からないが、上演するに当たってスタッフ・キャストでこの演目の舞台となった台湾の山奥に出かけ、先住民族の集落を訪ねたという。真摯に物語と向き合う姿勢が、今作の秀逸さに現れていたと思う。

戦前、日本が台湾を植民地化した。その時に、山岳地帯に割拠していた複数の先住民族を武力で平定して従わせたという歴史があったとは知らなかった。この舞台は、この先住民族を研究していた人類学者が主人公だ。
北海道のアイヌ民族に対して、日本政府は民族の文化や言語の否定や、あるいは人類学的研究対象として遺骨を収集したりとかしてきた。それに対するきちんとした謝罪は政府や人類学会からもなされていない。今作で、山岳民族の遺骨を黙って持ち帰ってきた場面が出てくるが、当時占領者としての暴虐は武力で殺害していうことを聞かせるということに限らず、アカデミックの世界でも平気で行われていたことがよく分かる。
当時のことを史実に基づいて描く以上、現代の視点からみると、主人公の人類学者の学問的振る舞いが先住民族を見下して虐げているのは事実だ。「罪と罰」にはその視点も入っているかもしれないが、今作では、この人類学者が単身、台湾総督府に逆らってまで先住民族と友好関係を結ぼうとしていたというヒーローとして描かれる。
しかし、石原燃の台本はよかった。研究者としての矜持、熱意を貫くあまり、それは愛する家族を否定するような結果につながり、その妻と子ら家族との関係で物語が進行していくという形にしたのはドラマティックで感動的だった。職場の人たちも含めた人間関係も丁寧に描かれている。それを劇団員たちがきっちり演じているというのも、Pカンパニーの罪と罰シリーズの安定した面白さを裏打ちしている。

今回もとてもよかった。吉祥寺シアターという空間の大きな舞台を有効に使った演出も秀逸だった。

Lovely wife

Lovely wife

劇団青年座

本多劇場(東京都)

2025/03/06 (木) ~ 2025/03/16 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2025/03/13 (木) 13:30

座席1階

高畑淳子への書き下ろし。青年座のビッグネームと根本宗子の作・演出で期待して出掛けたが、期待が大き過ぎたか。

高畑を長女とする4姉妹と家族の物語。高畑は編集者、夫役の岩松了は作家という役。岩松は次々に担当編集者の若い女性と浮気をしているが、高畑は結果的に耐え忍んでいるという具合。結婚当初と現在を舞台を回転させることでクロスオーバーする演出だ。

4姉妹の話は近年、他劇団でもその人間模様が扱われている。今作は高畑以外の3人のストーリーも盛り込まれているが、少し突飛と思える設定もあってうまく共感できなかった。また、全般的に感情むき出しの場面が多くて、見ている方が引いてしまった。

岩松了演じる夫も少し極端で、それが終盤でもう一方の極端に触れる感じ。女性の思いに寄り添った作りなのだが、大笑いというのもなんだかなぁと思った。
出ている俳優さんは青年座の名優なのだから、その演技力が遺憾なく発揮されるようなもっとジーンとくる人間物語を見たかった。

フロイス

フロイス

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2025/03/08 (土) ~ 2025/03/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2025/03/12 (水) 13:00

座席1階

見応えのある舞台だった。井上ひさしがラジオドラマ用に執筆したという台本「わが友フロイス」を長田育恵が新たに戯曲化。織田信長の信任を得たというイエズス会の宣教師フロイスの半生を生き生きと描いた。フロイスを演じた風間俊介が秀逸だった。

説き起こしは、フロイスが子ども時代に体験したユダヤ人の処刑。これが最初にあることで、ラストシーンの問いかけが強烈に浮き上がってくる。現代の戦争、当時のいくさ。この残虐性に宗教がどう立ち向かっていけるのかを、長田の脚本は問いかけている。考え抜かれた秀作であると思う。
栗山民也の演出もシンプルかつ重厚で、宗教自体が持つ残虐性に十分な光を当てている。光と影をうまく使って脚本のポイントを浮き上がらせたのは見事だった。

こんなことを書いては失礼だが、どことなく優しげな雰囲気があると思っていた風間俊介がこれほど印象深く鋭い存在感を発揮するとは思わなかった。年齢を得てベテランの力が増していったのだろうと思う。長せりふにも臆することなく、堂々と舞台の中心に鎮座した。こまつ座は初出演とのことだが、次の登場が待たれる。

女歌舞伎「新雪之丞変化」

女歌舞伎「新雪之丞変化」

Project Nyx

ザ・スズナリ(東京都)

2025/03/04 (火) ~ 2025/03/13 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2025/03/05 (水) 14:00

座席1階

前回はコロナ禍であったか、その時よりも着実にグレードアップしている。扇子を落としたり、せりふをかんだりする人もいたが、折に触れて挟み込まれるダンスは妖艶かつ激しく、スズナリの狭い舞台に目いっぱいの俳優を縦横無尽に動かした演出は感動モノだ。

雪之丞は中村屋の名優で、江戸での舞台は大盛況。しかし、彼には胸に秘めた「やるべきこと」があった。それは理不尽な経緯で命を絶たれた両親の仇討ち。芝居を見に訪れほれ込んでしまった姫との恋物語をもう一つの軸に、物語は進んでいく。
プロジェクト・ニクスは、1月に米ニューヨークの演劇祭に招聘されて寺山修司の「青ひげ公の城」を演じて大喝采を浴びた。その時のあいさつで、主宰の水嶋カンナが「次は女歌舞伎をNYでやりたい」と公言、ニクスにとって次の大きな目標となるのが今作のNY公演だ。
演出の金守珍は亡き唐十郎とNYのハドソン川で「ここでテント演劇をやりたい」と語り合ったという。もし、新雪之丞変化がテント演劇で行われるなら、摩天楼を借景としたラストシーンはどうなるのだろうか。実現すれば絶対に見たいポイントである。いや、花園神社でもいいから見たい!

雪之丞を演じた寺田結美は長身で見応えがある。桟敷童子の主要メンバーであるもりちえは新宿梁山泊出身。外に出ても堂々としていて安定感があり、何度も笑いと取っていたのはさすが。今回は雪之丞のそばに仕えた雨太郎を演じた紅日毬子がすばらしかった。ニクスのアングラ劇は、この「雪之丞」で一つの方向性が明確になったような気がする。

にんげんたち ~労働運動社始末記

にんげんたち ~労働運動社始末記

劇団文化座

俳優座劇場(東京都)

2025/02/21 (金) ~ 2025/03/02 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2025/02/27 (木) 14:00

座席1階

閉場する俳優座劇場で行う文化座公演としては、とてもフィットした演目だった。無政府主義者の大杉栄と伊藤野枝を描いた演劇はたくさんあるが、これは雑誌「労働運動」をアングラで発行しようとする人たちの群像劇。彼らの人間関係や友情も描かれていて、「仲間たち」に焦点を当てた舞台であったように思う。

パンフレットには登場人物たちの履歴が書かれているのだが、「幼少期より角膜の病気で小学校にもあまり行けず、でっち奉公に」「幼年時代に一家離散」などと、厳しい生い立ちの人が目立つことにいまさらにように気付く。「主義」の違いで対立するなどセクト的なところはあるとしても、労働争議やストライキなどが頻発する世相で、自分の周囲の空気を何とかしたいという熱い思いが舞台から伝わってくる。

劇作や演出がシンプルだったのが奏功していると思う。15分の休憩を挟んで3時間と長いのだが、わかりやすい舞台だったと思う。和田久太郎の母親を演じた佐々木愛は今作でも健在。存在感のある演技で、見ている方も安心できた。
文化座のこうした硬派な舞台も時にはいいかな。若い世代に受けるかどうかということを考えないで、やり続けることも大切だと思った。

他者の国

他者の国

タカハ劇団

本多劇場(東京都)

2025/02/20 (木) ~ 2025/02/23 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2025/02/22 (土) 13:00

座席1階

秀作だ。2時間余り、かたずをのんで舞台を見つめ続けた。以前から、社会派劇を創作する劇作家として注目してきた高羽彩だが、これほどまでの舞台を見せてくれるとは。タカハ劇団としてはあこがれてきた本多劇場だそうだが、この作品で大きく羽ばたいたと言っていいと思う。

舞台は戦時色が濃くなりつつあった戦前の日本。東京の大学の解剖室に、当時の医学界の権威とされる医者たちが集められていた。彼らが待っていたのは、とある死刑囚の遺体だ。凶悪犯罪を重ねる人間には、肉体的・精神的に特異なものがあるだろうという仮説に基づき、脳を含めた詳細な解剖を行う予定だった。ところが、遺体が刑務所から届かない。イライラを募らせながら解剖について話す医師たちだが、しばらくすると、この解剖に異議を唱える医師が現れた。議論の行方はどんどん微妙な方向にずれていく。そして、一同は担当の教授が伏せていた重大な事実を知ることになる。

過去作でも鋭い会話劇を提示してきた高羽だが、今回は医師や看護師、教授夫人まで交えて息をもつかせぬ会話劇を展開する。テーマとなっているのは、精神障害者、知的障害者、犯罪者は優秀な国民の中にあってはならない人間だとして、解剖で犯罪傾向の身体的特性がつかめれば、犯罪を起こす前に対処する(抹殺する)ことで優秀な遺伝子だけを残していくことができるという発想だ。
このような考え方は戦後までひきずられ、優生保護法によって断種や不妊を強いられた障害者らにようやく政府は謝罪して、補償を始めたばかりだ。重い知的障害や肢体不自由で言葉を発することもできない障害者は生きている価値がないと主張して、大量に殺害した事件から、まだそれほどたっていない。この国では、戦前からの優生思想がまだ、生きているのだ。
そうした事実を、この舞台は真正面から鮮烈に提示している。人事権を握る教授に取り入ろうとする医師とか、教授の娘と結婚すれば出世に有利だとか、そうした小さな物語も織り込まれて見る者を飽きさせないが、舞台の本質は「生きる価値がない人間はいるのか」という劇作家の叫びが太い幹になって貫かれているところだ。

自分が見た日は、舞台手話通訳者を袖に配置し、視覚障害者などにもアクセシビリティが図られていた。今回は本多劇場という席数の多い会場にして正解だ。
見ないと損するぞ。

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