
キネマの神様
秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2018/09/14 (金) ~ 2018/09/23 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2018/09/14 (金) 19:00
藤井ゴウによる遊び心満載の演出がいい。物語のサプライズもうまく扱い、原作を知る人も感動させる展開だ。サザンシアターという大きな客席を舞台に使い、映画館という小さな空間を世界に開くという見せ方をしている。
青年劇場という劇団のテイストとは少し違うのが、また、いいのかもしれない。
休憩を挟んで3時間というのは少し長いか。説明調の台詞まわしも少し気になる。また、初日の今日は、役者の硬さが抜け切っていなかった。

かのような私
文学座
文学座アトリエ(東京都)
2018/09/07 (金) ~ 2018/09/21 (金)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2018/09/08 (土) 14:00
昭和、平成、さらに次の世代へ。絵巻のように時代を俯瞰できる。見る世代によってまったく違う感想が出るだろう。
文学座とチョコレートケーキの古川健という異色のタッグということで、楽しみにしてアトリエを訪れた。古川テイストが強く出ていてなんだか文学座じゃないみたいだが、それは余計なお世話というものだろう。青年座もそうだが、老舗劇団が当代きっての劇作家と組む舞台はこのところのトレンドなのだから。
素直に楽しめる。政治の季節にどっぷり浸かって闘争に前向きだった若者が時代に流されて政治色が消えてバブリーに生きるという姿は想定の範囲内。驚きはないが、ホッとするような気持ちにもなった。

死神の精度
石井光三オフィス
あうるすぽっと(東京都)
2018/08/30 (木) ~ 2018/09/09 (日)公演終了
満足度★★
鑑賞日2018/08/30 (木) 19:00
死神が人間の姿をして人間世界に来て、自分が担当する人間が死ぬべきかどうかを七日間で判断する。
この舞台でジャッジされるのはヤクザの男。ラサール石井が演じるのだが、やや台詞がはっきりしない。体調でも悪いのだろうかと思うのだが、死神役の萩原聖人との声量が違いすぎる。
このヤクザは死ぬことになると最初に明かされるが、物語の興味をそぐこの設定を上回る盛り上がりに欠けるのではないか。
ヤクザの手下役で、結構重要な役回りを演じる植田圭輔の演技もなんだかオーバーアクションで、何を言っているか聞き取れないところもあった。

記憶の通り路
東京演劇集団風
レパートリーシアターKAZE(東京都)
2018/08/28 (火) ~ 2018/09/02 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2018/08/28 (火) 19:00
印象的な演出だ。
私はほぼ3年ぶりくらいに風の舞台を観たが、江原さんの演出は次のステージに上ったと思う。
この舞台は頭で考えては分からない。ただ感じるだけ、それでいいのだろう。海がすべての大地につながっているように、水面に映る役者たちに自分の来し方を投影したい。

3組の夫婦による「ぼたん雪が舞うとき」
劇団青年座
小劇場B1(東京都)
2018/08/22 (水) ~ 2018/09/02 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2018/08/25 (土) 14:00
高木達氏の原作台本を、3人の演出家がそれぞれアレンジ。3組の夫婦をそれぞれペアの俳優が作りあげた舞台だ。原作者の本を3チームが競うように演じる、意欲的な取り組みである。
私はB組を見ました。原発事故で屋内退避を強いられ、情報もないまま取り残されていく高齢夫婦。危機的な状況だが人間味にあふれた物語が展開する。子供の成長、結婚など夫婦の人生が、屋内退避の狭い空間で語られる。人生の最後の方の日々を思う、秀作だ。

九月、東京の路上で
燐光群
ザ・スズナリ(東京都)
2018/07/21 (土) ~ 2018/08/05 (日)公演終了
満足度★★★
鑑賞日2018/08/05 (日) 14:00
朗読劇である。慣れてない人には、教科書か何かを掛け合いしているように見えるかもしれない。そこから効果的に強烈なメッセージが発信される。
この波状攻撃のような舞台にどう向き合うかが試される。心地よい舞台とは言えないが、2時間余りがあっという間にに過ぎていく。

煙が目にしみる
加藤健一事務所
本多劇場(東京都)
2018/05/03 (木) ~ 2018/05/13 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2018/05/04 (金) 14:00
カトケン事務所の真骨頂。涙と笑いの舞台は本当に得意なのは分かっているのだけど、しっかり期待に応えるというか、安定感抜群なのである。
毎回のことだが、加藤健一の立ち回りがいい。今回は老女姿で派手な動きや台詞はないが、舞台が進むにつれ主導権を握り、存在感がぐっと増す。加藤の淡々とした台詞一つ一つに涙と爆笑を絞られる。ハンカチは必ず持っていきましょう。

坂の上の家
(公財)可児市文化芸術振興財団
吉祥寺シアター(東京都)
2017/11/03 (金) ~ 2017/11/10 (金)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2017/11/03 (金) 14:00
座席1階
岐阜県可児市で制作されたということで、名産のバラが一輪ずつ、客席にあった。たくさん舞台を見てきたが、こんなプレゼントは初めてだった。
さて、長崎の夏、精霊流しを頭に浮かべながらの舞台である。淡々と進む家族の会話劇だからこそ、客席での想像は膨らんでいく。それを狙った演出だろう。何かを力を持って伝えていくという舞台ではない。それが何となく心地よい。
何というか、優しく効く薬のような舞台。じっくり反芻したい。

幻の国
劇団昴
Pit昴/サイスタジオ大山第1(東京都)
2017/09/12 (火) ~ 2017/09/24 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2017/09/18 (月) 14:00
劇団チョコレートケーキの古川健さんは、歴史の舞台を切り取る演劇脚本では定評がある。今回、見に行った動機の一つは古川作品であるからだし、同劇団の日沢雄介さんの演出というのもある。
舞台は東ドイツ崩壊の前夜。一般家庭であるが、夫は秘密警察シュタージの幹部であり、妻は一般住民を監視する役目を夫から請け負っている。普通の人が普通の人を監視するという世の中は、珍しくない。日本では秘密保護法や安全保障関連法案ができても戦前の密告社会には戻らないだろう、と言う人は多いが、この舞台で描かれている悲劇は、昭和から平成に変わる直前の東ドイツでの出来事だ。日本人だけが「歴史の過ちは繰り返さない」と言い切れるはずはなく、そのあたりをこの舞台は訴えかけている。
二つのステージを切り取って2画面テレビのように連続していくテンポのいいステージだ。東独の歴史を知らなければ少し難解かもしれないが、分かりやすい舞台であることは、客層がかなり若いことからも証明できる。
主役のマリアを演じた落合るみさんの迫真の演技は涙を誘う。全身を振るわせて恐怖する瞬間を実に見事にやり切っている。女優主体で物語は動くのだが、シュタージの非正規雇用職員ララを演じた舘田悠悠さんも出色であった。

アトリエ
秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場
紀伊國屋ホール(東京都)
2017/09/15 (金) ~ 2017/09/24 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2017/09/17 (日) 14:00
座席1階e列11番
価格5,500円
藤井ゴウさんの会話劇、キレはいいがちょっと長いなと感じる人もいるかもしれない。戦後のパリ街中の仕立て屋さんが舞台だが、あまりフランスっぽくないのがぴったりくる感じだった。
いつもの青年劇場と少しテイストが違うのが興味深い。しかし、舞台からはちゃんとメッセージは伝わってくる。働くということ。生きていくということ。自分で生き抜いていくということ。このあたりは、やっぱりこの劇団と私のお約束のようなものだ。
厳しい現実ではあるが、何となくホッとする。みんな、元気なんだな、と。

旗を高く掲げよ
劇団青年座
青年座劇場(東京都)
2017/07/28 (金) ~ 2017/08/06 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2017/08/06 (日) 14:00
座席1階
ピリッと心を突く社会派舞台を堪能させてくれる劇団チョコレートケーキの古川健さんに、老舗劇団青年座が声を掛けた。化学反応が起きた。青年座のテイストとは違う、新たなステージに融合したと言っていい。
テンポよく、分かりやすく進む舞台は、第二次大戦の歴史に疎くても入り込んでゆける。歴史を庶民の目で見ているからだ。そして、何よりも、庶民が歴史の流れを作っていることを教えてくれる。
知らなかった、ナチスにだまされた、と語らせている。だまされた原因は無関心であり思考停止であり、想像力の欠如だ。青年座の黒岩亮さんの演出も、うまく客席をリードしている。
硬派なタイトルはとっつきにくいかと思ったが、客席には若い人が多かった。新劇の老舗が化学反応で新たな道を持った、それを目撃した舞台だった。青年座の役者たちも見事に反応してみせた。

キョーボーですよ!
劇団チャリT企画
新宿眼科画廊(東京都)
2017/06/09 (金) ~ 2017/06/13 (火)公演終了
満足度★★★★
圧倒的におもしろい‼︎
国会審議が大詰めの共謀罪。法律ができたらどうなるかを笑いと共に学べる。チャリTは、この国の危ない未来を見せるのが最高にうまい。しゃれも効いていて飽きさせない。

MOON
SPAC・静岡県舞台芸術センター
舞台芸術公園 野外劇場「有度」(静岡県)
2017/04/29 (土) ~ 2017/05/03 (水)公演終了
満足度★
鑑賞日2017/04/30 (日) 18:30
価格4,100円
観客がフルフェースのヘルメットを着用し、役者と舞台を作り上げる。しかも、夜の野外劇場だ。いやがおうにも期待は高まる。開園時間となり案内された劇場入り口にはずらりと並んだ白いヘルメットが。何が起きるのか。ワクワク感は最高潮に達した。
ここまで書いておいて申し訳ないが、はっきり言って期待外れだった。
勝手に盛り上がった私が悪かったのか。岸田国士賞を取ったばかりの最近売り出し中の異彩の劇作家という期待感もあったかもしれない。
演出家のメッセージは確実に伝わったと思う。だが、このワクワク感を2倍にも3倍にもして返してくれるのが演劇なのではないか。特に期待をせずに見れば(参加すれば)「なるほどそうか」という納得は得られると思います。

送り火
劇団民藝
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2017/04/14 (金) ~ 2017/04/24 (月)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2017/04/16 (日) 13:30
日色ともゑの澄んだたたずまい、身のこなし、台詞。経験を重ねた彼女らしいかっこたる存在が、この戯曲を光らせている。女優の力を目のあたりにできる、素晴らしい舞台だ。

ミュージカルお菓子放浪記
チーム・クレセント
あうるすぽっと(東京都)
2017/04/12 (水) ~ 2017/04/16 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2017/04/15 (土)
昨年亡くなった西村滋さんの自伝的小説を舞台化した。ミュージカルにしたことで、戦争孤児という今では重いテーマもすっと胸に入ってくる。もちろん原作にあるのだが、鋭い台詞が散りばめられている。軽快に進む舞台だが、戦争孤児という言葉を風化させないぞという、作り手の迫力がビンビン伝わってくる。

白い花を隠す
Pカンパニー
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2017/02/28 (火) ~ 2017/03/05 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2017/03/05 (日) 14:00
座席1階
従軍慰安婦の国際市民法廷をめぐるNHK番組の改変事件を、家族の人間模様をうまく絡めて描いた力作だ。台本の完成度の高さに感動する。石原燃という劇作家はこれまで見たことはなかったけど、注目すべき社会派作家だ。
ドキュメンタリーは、現場の人たちの声をきちんと伝えることが最低限の基盤だ。それを政治的圧力によって時の政権が変えてしまうのは、表現の自由の侵害で立派な憲法違反だ。しかし、メディアの端くれといえども制作会社の社員たちにも生活がある。特に巨大なNHKから干されてしまえば、会社が行き詰まって「路頭に迷う」ことになる。プロデューサー一人では戦えない。組織が存亡を賭けて戦うのは、ましてや現実的ではないのである。こうやって表現の自由はねじ曲げられ、抑圧された物言えぬ社会が作られていくのだ。
石原氏はこの事件を題材に戯曲化するのに3年をかけたという。十分に温め、考え、完成度を高めた作品だ。これを演じたカンパニーの役者たちにも拍手を送りたい。
米国でトランプ政権がメディアと対決し、自由な言論が厳しい局面に立たされている今、この戯曲を世に問う意味は大きい。

炎 アンサンディ
世田谷パブリックシアター
シアタートラム(東京都)
2017/03/04 (土) ~ 2017/03/19 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2017/03/04 (土) 18:00
座席1階
再演の舞台、今日が初日。戦火が絶えない中東の現実を本質的な部分で刻み込まれる。中東の人たちに門戸を閉ざすトランプ大統領に見てもらいたい力作だ。終わった瞬間から体が震えるような感覚になる。3時間半という長さを感じさせない濃密な舞台は、小空間のシアタートラムならではか。演出も見事だった。

たわけ者の血潮
TRASHMASTERS
座・高円寺1(東京都)
2017/02/02 (木) ~ 2017/02/12 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2017/02/05 (日)
座席1階
中津留さんの新作を見たくて、久しぶりに東京に出てきた。舞台設定が特殊なのだが、ヘイト法案を軸にして展開する中津留ワールドは、今回も鋭い。曖昧さと軽さ、自分にだけ都合のいい言葉て空気が蔓延する今への直撃弾だ。相対する客席も相当な返り血を浴びる覚悟で臨む覚悟が必要だ。

SHAKESPEARE IN HOLLYWOOD~ハリウッドでシェイクスピアを~
加藤健一事務所
本多劇場(東京都)
2016/08/31 (水) ~ 2016/09/14 (水)公演終了
満足度★★★★
知的なドタバタ劇
カトケン事務所の笑いは意表を突かれるものが多いが、今回もカトケンファン納得の笑いだ。シェークスピア戯曲の名セリフのパロディーがいい。
各劇団から意外な顔が出ているのも楽しい。中でも、カトケン舞台のフランス喜劇に初めて出て「カトケンさんに呼んでもらえるのが夢だった」などと語っていた瀬戸早妃が再び起用され、存在感を発揮している。

八百屋のお告げ
グループる・ばる
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2016/09/01 (木) ~ 2016/09/05 (月)公演終了
満足度★★★★★
元気の素がいっぱい
3回目の再演という。グループは30周年で、はや円熟の舞台である。新たな演出者を迎え一新したという今回は、元気の素が散りばめられた見事な舞台だった。
松金よね子ら3人の女優はぴったり息の合った軽妙なリズムで舞台を引っ張ったし、大谷亮介らゲストの男優3人もそれぞれ個性を発揮。リズムは
大きく振幅して客席を飽きさせない。
盛大なカーテンコールも納得だ。見てよかったと言える舞台。