
喜劇 有頂天団地
松竹
新橋演舞場(東京都)
2018/12/01 (土) ~ 2018/12/22 (土)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2018/12/03 (月) 16:30
座席3階
渡辺えりとキムラ緑子を中心に繰り広げられるドタバタ喜劇。昭和の香りあふれる舞台設定、ギャグの数々で「これを見にきた」という客席を十二分に満足させた。
古くからの住宅街に土地を区切って小さな一戸建てが新築される。新旧住民の小さなあつれきと、奥様がたの近所付き合いが、笑いの主役だ。しかし、なぜか小学校低学年の子どもと一緒に学ぶおじいちゃん(笹野高史)がとにかく面白い。現実社会でもこんな学びは結構いいんじゃないかと思うような子どもたちとのやりとりだ。
還暦を過ぎた渡辺えりの軽快な立ち回り、実年齢よりずっと若い奥さんをかわいく演じてみせる女優魂というか、実力には感服する。本人いわく、菊池桃子ふうの奥さん像を設定したとか。体力的には相当厳しいだろうと思われる、主役たちの演技に注目だ。
幕間に流れる昭和歌謡の数々にも癒される。

梟倶楽部
Pカンパニー
西池袋・スタジオP(東京都)
2018/11/28 (水) ~ 2018/12/02 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2018/12/01 (土) 14:00
座席1階
Pカンパニーのアトリエ公演を初めて見た。池袋にちなんだ江戸川乱歩を原作に、お客がまるでなぞのスポットに迷い込んだような感覚で楽しめる。
特に女優たちの存在感がいい。須藤沙耶のくるくる変わる表情、機敏な立ち回り。セリフが短くイキイキとしている。アトリエならではの熱量を感じることができる。
シンプルな演出も効果的だ。初冬のひと時、池袋の異空間を堪能させてもらった。

評決-The Verdict-
劇団昴
あうるすぽっと(東京都)
2018/11/29 (木) ~ 2018/12/11 (火)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2018/11/29 (木) 19:00
座席1階
迫真の裁判劇だった。それだけに、休憩を含めて2時間半は少し辛い感じも。
医療過誤で植物状態になった娘と母が、病院を訴える。病院はボストンでも有数の規模で、医師たちは最善を尽くしたと反証する。裁判官も露骨に病院寄りの訴訟指揮で、資金力もない原告弁護士は窮地に追い込まれる。だが、あきらめることのない弁護士は、形成逆転につながる重要な証人を得る。
劇団の総力をあげたという熱演が続き、さすがだと感服する。だが今日は初日のためか、舞台回しにぎこちなさも見られた。
評決というタイトルだが、評決を下す陪審員席が最後まで空席だったのは気になる。原告と被告の対決に絞るなら、舞台装置に陪審員席はない方が良いのでは。
久しぶりの昴の舞台、堪能しました。

残り火
劇団青年座
ザ・スズナリ(東京都)
2018/11/22 (木) ~ 2018/12/02 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2018/11/27 (火) 19:00
座席1階
犯罪加害者と被害者のそれぞれの家族にスポットを当てた物語。双方の家族の苦しみ、慟哭が交互に編まれる。
事件はあおり運転の末、被害者の車の前に割り込んで止め、車から降りた父、母、兄が加害者ともめているところにトラックが突っ込んで車に残った妹が死亡する。裁判で実刑になり、服役を終えたさらに数年たった時から物語が始まる。
脚本は社会の出来事に優しくも鋭い視線で舞台をつくる瀬戸山美咲。青年座が続けている若手劇作家とのタッグだ。この取り組みはこれまで、老舗青年座のテイストとうまく化学反応を起こして見応えのある舞台に仕上がっている。今回はミナモザの瀬戸山だけに期待値を上げながらシモキタに乗り込んだが、期待を裏切らない、秀逸なできだった。
司法の場ではかなり以前にけりがついていても、人の心は時間がたったからといってかたがつくものではない。悲しい現実、忘れたい事実に折り合いをつけながら被害者家族も加害者家族も生きている。残り火が再燃するように双方の家族が絡み合うとき、どんな思いが交錯するのか。
取材を尽くしたこの秀逸な脚本に命を吹き込んだのは、青年座黒岩亮の演出だ。客席に息もつかせず引き込んでいく役者たちのやりとり、舞台転換の時に音だけで事件を語る技巧。鍛え抜かれた役者たちの存在感も大きい。
見事な1時間40分だった。

サイパンの約束
燐光群
座・高円寺1(東京都)
2018/11/23 (金) ~ 2018/12/02 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2018/11/26 (月) 19:00
座席1階
沖縄の人たちが入植し、先の戦争で苛烈な戦場になったサイパンの家族の物語。少女の記憶を元に映画を作るという設定で、現代日本の感覚も取り入れながら舞台が進む。
状況説明も役者にセリフとして語らせる坂手劇。朗読劇のようなので初めての人は戸惑うかもしれないが、テンポよく進んでいく。サイパンが刻んだ過酷な歴史は戦後が遠くなった今、思い出されることも減っている。沖縄の歴史と交錯させてこれを語り継ぐ手法は、二つの島を生きた人たちが日本という国家に下等民族扱いされ、蹂躙されてきた歴史を真正面から客席に突き付ける。
坂手劇の特徴は、これらを現代日本の政府に対する厳しい批判としてはっきり示していることだ。現代日本と「サイパンの約束」があるとしたら、我々はまだ、その約束を果たしきっていないと痛感させられる。

ナース・コール
劇団俳協
TACCS1179(東京都)
2018/11/21 (水) ~ 2018/11/25 (日)公演終了
満足度★★★
鑑賞日2018/11/21 (水) 19:30
座席1階
ナースコールというタイトルに、コメディかと勝手に想像した。基本的にはその路線だが、謎の感染症に病院あげて闘うなど今日的要素も盛り込み、見応えのある舞台に仕上がった。
さまざまな患者に真摯に対応する看護師たち。経営のことしか考えない事務当局との対立や、ブラックといえる勤務体制など、今の看護現場が抱える問題点も描かれる。ただ、ちょっと欲張り過ぎかもしれない。見ていて忙しい感じだ。
芝居だから仕方ないと言えばそれまでだが、危険な感染症患者を毛布にかぶせて担架ではこんだり、感染防止対策がしてなかったり、リアリティに欠けるところも気になった。アウトブレイク状態になったとき、医師一人に対応させるという筋書きは現実離れしている。
2時間ちょっとという舞台が長いというわけではないが、午後7時半開演は遠方の身にはつらい。

われらの星の時間
劇団俳優座
俳優座劇場(東京都)
2018/11/08 (木) ~ 2018/11/18 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2018/11/15 (木) 14:00
座席1階
ラッパ屋の鈴木聡が脚本を書き、オフィスクレッシェンドの佐藤徹也が演出を担当。軽い認知症の高齢者5人が集団脱走し、ハロウィンの街を仮装して歩き回る、という物語。認知症の人が「ぼけている」とき、どういう思考回路になっているのかを分かりやすく提示している。認知症の人にどう接するかを一般の人が学ぶのに、とてもいい教材になっている。
演出も見事だった。特によいのが、場面転換などの音楽にボレロを使っているところだ。最初はピアニシモから始まるボレロは最後、強烈な盛り上がりを見せて幕切れとなるのだが、この舞台も、物語と共にする音楽としてはまさにぴったりなのだ。
最後の方で、タイトルの謎解きもされる。丁寧なつくりだった。
介護や認知症問題を縦糸に、報道の在り方が横糸と成って紡がれる。テレビ局ではスポンサーや関係者に配慮して本当のことを伝える番組作りができなくなっているのかもしれないが、しがらみを振り切って新人ADとディレクターが奮闘する、という物語はそれなりにおもしろい。が、それが介護の物語と良好なパートナーになっているかという点では少し疑問が残る。これはこれで重要な問題だから、「報道の在り方」単独での舞台があっていいようなテーマだ。
さすが俳優座だけに、高齢者から若者まで役者揃い。せりふもよく通るし、間の取り方もしっかりしていて安心してみていられる。俳優座は「七人の墓友」でも高齢者問題をうまく切り取って舞台化した。この作品も鈴木聡の書き下ろしだ。次作にも期待したい。
終盤では感動で涙が出た。秀作だ。

太陽の棘
劇団文化座
シアターX(東京都)
2018/11/08 (木) ~ 2018/11/18 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2018/11/08 (木) 19:00
座席1階
原田マハの小説を舞台化。戦後間もない沖縄で、当地の若き芸術家たちと占領軍の米兵との交流を描く。
老舗文化座のイメージとは違い、舞台はとにかく明るいムードで進んでいく。賄いのおばちゃん役を務めた佐々木愛の寒いおやじギャグは台本通りなのだろうが、凄惨な沖縄戦のにおいはしない。それは、戦争が終わって若者たちが自由に芸術ができるという喜びだ。
その一方で、やはり血の海に沈んだ沖縄と占領軍という、交流というにはきわめて釣り合わない現実も合間に顔を出す。占領兵にしてみれば、単なる母国へのおみやげなのかもしれないが、沖縄の若者たちは生きるために絵筆を取るのである。
舞台はテンポ良く進む。佐々木愛の演技はさすがだ。実年齢よりかなり若く見えたので、最初、この賄いのおばさんが佐々木愛だとは気付かなかったくらいだ。一方で芸術を演じた若者たちのはつらつとした動きが印象に残る。
パンフレットに劇団温泉ドラゴンのシライケイタが一文を寄せている。こっちも文化座との取り合わせでいくと、かなり異質な感じがして注目してしまう。それを分かっていてかシライは大まじめに「もはや、新劇とそれ以外という区別があるべきではない」と語っていて、幕間の時間を大いに盛り上げてくれている。

移動
(公財)可児市文化芸術振興財団
吉祥寺シアター(東京都)
2018/11/07 (水) ~ 2018/11/14 (水)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2018/10/07 (日) 19:00
座席1階
別役作品を竹下景子が鮮やかに演じた。
家財道具を積んだリヤカーを引いて、ひたすら歩き続ける老夫婦を含めた家族。途中で年老いた父が亡くなり、動かなくなったリヤカーを直しては進み続ける。後戻りをせず歩き続けたその先には。
別役氏がこれを書いたのはきっと、もっと前だろうから、強烈なラストシーンは今風のアレンジなんだろう。しかし、このラストは予想外だった。一定のスピードで静かに進んでいた舞台がちゃぶ台返しされたようだ。逆に言えば、そこまで我慢してこの不条理に耐える価値は充分にある。
さらに想像を巡らせれば、現実のこの世こそが別役氏の想像を超える不条理であるということが、痛烈なテーゼとして示される。
何も考えずに一つの方向に進み続けることの怖さを噛み締めたい。
このような別役劇を初めてみた。拍手を送りたい。

テクニカルハイスクールウォーズ 鉄クズは夜作られる
劇団スーパー・エキセントリック・シアター(SET)
サンシャイン劇場(東京都)
2018/10/12 (金) ~ 2018/10/28 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2018/10/25 (木) 13:00
座席1階
三宅裕司率いるSET。三宅と小倉久寛のお約束コントを期待してくる中高年層と、若手役者のキレのあるダンスや演技を応援する若い客層。サンシャイン劇場は幅広いお客が一緒にカーテンコールの拍手をする、他ではなかなか見られないおもしろさだ。
また、昭和のギャグで笑い転げる人と、最近のギャグ。幅広い年齢層を喜ばせる丁寧な脚本だ。
とにかく面白い。物語も、取材に基づく現代の日本の課題がベースだし、社会派劇といってよい。現実味がある物語の中で、笑えるし共感できるというのは、この劇団ならではだ。

女の一生
文学座
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2018/10/23 (火) ~ 2018/10/28 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2018/10/24 (水) 13:30
座席1階
文学座のアイデンティティである演目。劇団初の座付き作家森本薫の最後の戯曲で、終戦の年に空襲の合間を縫うようにして上演されたという。主人公の布引けいは、その当たり役として杉村春子が長年演じてきた。そのレガシィをどう後世に引き継いでいくか、というのは文学座最大のテーマであると言っていい。この演目は、その答えを観客に示す舞台でもある。
山本郁子が布引けいを初めて演じたのは2年前という。演出補として名前を出しているベテラン鵜山仁は、「杉村春子や平淑恵の不在が、後に続く俳優たちの成長を促すことを知った」とパンフレットに書いている。それこそが、アイデンティティの継承ということなのだろう。
休憩を挟んで3時間に及ぶ長編だが、幕あいの切り替えもテンポがよく、しっかりついていける。大正・昭和の女性がどう社会と付き合い、どう生き抜いていくかを客席はしっかり目にすることができる。平成の終末にこれを演じることの意味は大きいと思う。
焼け野原でダンスを踊ろうとする有名な幕切れは、やはり印象的だ。舞台装置は初演時より進んでいるのだから、焼け跡がもっとリアルだったらより、印象に残ったのではないか。
登場する俳優はどの人も、鍛え抜かれた演技を見せてくれる。一つの老舗劇団の魂に触れることができる舞台だ。

藍ノ色、沁ミル指二
演劇集団円
吉祥寺シアター(東京都)
2018/10/18 (木) ~ 2018/10/28 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2018/10/23 (火) 19:00
座席1階
心を揺さぶる家族劇だ。藍染という、ビジネスからはみ出してしまった伝統芸術を横糸に、家族の思いを縦糸に、ここでしか作れない色の布が織りあがった。
タイトルの沁みる指に、という言葉が象徴的だ。藍染の仕事は指が染め上がってしまう。自分の娘を仕事場から遠ざける、というのも、家族の関係に微妙な影を落としていた。お父さんとおじいちゃんは自分の好きな仕事をして、稼ぎや子育ては女たちに押し付け。当たり前だからと従ってきた妻や娘たち。男たちはそんな思いに気付くよしなもなかった。
三人きょうだいの妹を演じた木原ゆいがいい。舞台のリード役を自然にこなしていた。無口だが誠実な職人であり、きょうだいの父を演じた金田明夫はさすがだった。

うリアしまたろ王
劇団山の手事情社
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2018/10/18 (木) ~ 2018/10/21 (日)公演終了
満足度★★★
鑑賞日2018/10/18 (木) 19:30
座席1階
声を出す、動く、舞台で舞う。超スローモーションも滑らかにこなす山の手メソッドを十分に堪能できる。リア王は、ぴったりの題材かもしれない。
安田雅弘によると、リア王と浦島太郎の語感が似ていて、さらに老いがテーマであることからタイトルを混ぜてしまったそうだ。演出や構成はユニークで、竜宮城の姫が舞う。劇画調の舞台を楽しめるが、それをリアルに見せることができるのは、やはり鍛えられたメソッドのなせる技だ。
有名なシェークスピア劇だからいいのかもしれないけど、物語を知らない人には難解だ。

The Dark City
温泉ドラゴン
ブレヒトの芝居小屋(東京都)
2018/10/15 (月) ~ 2018/10/21 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2018/10/16 (火) 14:00
座席1階
価格4,000円
終戦直後の埼玉県本庄町(現・本庄市)。銘仙の闇取引で暴力団が牛耳り、警察も検察もその仲間という小さな町。そんな暴力の街はおかしいと書いた朝日新聞本庄通信部の記者に対する元暴力団組員の町議による殴打事件をきっかけに、新聞がキャンペーンを張り、市民が立ち上がる。本庄事件と呼ばれるこの経緯を題材に、社会派劇作家シライケイタが今に暮らす市民に訴える。「本当に、生きているか。立ち上がっているか」と。
唐組で暮らした怪優・大久保鷹がひときわ、光を放つ。舞台が現代と70年前を行き来する構成で、出演俳優は一人何役もこなすのだが、70年後の今に生きる老人を演じる大久保が、この70年前の事件の意味をストレートに客席に問い掛けるさまは、圧巻だ。まさにぴったりの配役であると言える。
フェイクニュースなどが横行し、ジャーナリズムに背を向ける人が目立つ今。しかし、ジャーナリズムとは民主主義を支える基盤であり、書く自由はすなわち、私たちが生きる自由だ。これが政権や暴力団で切り取られていくとすれば、それは、生きる自由を制限された戦前・戦中に戻ることになる。
新聞は書いているのか。市民はそれを手に立ち上がっているのか。
民主主義であるはずのわが国で、独裁政権のようなやりたい放題が通る今。声を上げることの重要性を、見た人たちに強く訴えかける。70年前の市民の力を今、思い起こしたい。

ゲゲゲの先生へ
東京芸術劇場
東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)
2018/10/08 (月) ~ 2018/10/21 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2018/10/08 (月) 14:00
座席1階
作演出の前川知大は、徹底的に水木作品を読み込んだという。舞台はタイトル通り、全編が水木作品へのオマージュであり、とても人間的な妖怪が、いや、とても妖怪的な人間が舞台を駆け回る。
妖怪を恐れるのは、人間の心に自分たちにないものへの怖さとか、後ろめたさがあるからなのだろう。
水木作品がそうであるように、前川の舞台でも妖怪への怖さが笑いで彩られている。それは金にあざといところだったり、いかにも人間らしい浅はかさが笑いの種になっている。出てくる妖怪も現代社会への風刺を存分にまとっていて、このあたりは水木ワールドそのもの。詳しい人なら、この舞台は数倍楽しめる。
豪華な出演者たちも、きっちり期待に応えている。主演の佐々木蔵之介のおとぼけ詐欺師ぶりはさすがだし、白石加代子は妖怪そのものというかぴったりはまっている。松雪泰子はあまり動きがないようにみえて、存在感抜群だ。
とにかく楽しめる。

母と暮せば
こまつ座
紀伊國屋ホール(東京都)
2018/10/05 (金) ~ 2018/10/21 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2018/10/05 (金) 19:00
座席1階
素晴らしい二人芝居だった。拍手鳴りやまず。見事というしかない。
山田洋次監督の映画もあり、こまつ座としてはチャレンジングな舞台であったと思う。作に、渡辺源四郎商店率いる畑沢聖悟を起用したのがすべてだったのではないか。パンフレットのインタビューで本人が語っているように、こんな仕事を受けて「こんな馬鹿は見たことがない」
だが、母子の言葉のやり取りは舞台中盤から降り注ぐように胸に刺さる。これは畑沢のなせる芸術だ。また、その高いレベルの要求を見事なまでにクリアした富田靖子はすごい。松下洸平も、事前の予想を覆す素晴らしい演技を見せた。
映画を見た人にこそ、必見の舞台である。見なきゃ損するぞ。

時を接ぐ
劇団民藝
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2018/09/26 (水) ~ 2018/10/07 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2018/09/28 (金) 18:30
座席1階
今更ながら感銘するのだが、日色ともゑさんという人は女優として時空を超えている。10代の女の子から実年齢近くまで、全く違和感を抱かせない。しかも今回の舞台では衣装もメイクも変えないままそれぞれの年代を演じ切っているのだ。
先の戦争のさなか、旧満洲に作られた国策映画会社満映の編集者だった岸富美子の半生を描いた。敗戦の混乱で中国に残らざるを得ず、その編集技術を中国共産党に捧げる。日色はモノローグもこなし、舞台を走る。若い役者を従えて、と書くのがぴったりの驚異的な力強さだ。
今回の脚本はかなり若手の黒川陽子。テンポがいい舞台運びは飽きさせない。開演前の時間の使い方の工夫は、ベテラン演出家の丹野郁弓のなせる技か。まさにタイトル通り「時を接ぐ」ように進み、岸の人生と、生きるとは何かということを思わせる上質な舞台に仕上げた。

Out of Order イカれてるぜ!
加藤健一事務所
本多劇場(東京都)
2018/09/26 (水) ~ 2018/10/10 (水)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2018/09/26 (水) 19:00
座席1階
舞台初日に見た。雨の中、混んだ電車に乗ってシモキタに行く価値は十分にあった。いやぁ、今回も強烈だ。カトケン事務所は期待を裏切らない。out of orderとは故障中という意味だが、その何倍もこのタイトルに意味を重ね合わせて、もう爆笑の連続なのだ。
日本語訳のイカれてるぜ、というのもぴったりだ。全員残らずイカれてる。さらに、これが政治を職業とする主人公だというのがまた、強烈なのだ。うそを隠すためにうそを重ねるというのは、どこかの国の総理、取り巻きのお友達、そして物語を忖度する官僚と同じ構図。そういう嘘つきたちに、叫びたい。お前らみんな、イカれてるぜ!

彼女たち
劇団BDP
CBGKシブゲキ!!(東京都)
2018/09/20 (木) ~ 2018/09/24 (月)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2018/09/20 (木) 18:30
座席1階
嶽本あゆみ演出で、3度目再演のこの舞台はどんな変化を遂げたのか。この演出家は舞台を作り上げる為に徹底的に取材を重ねるから、かなり、ドラスティックな化学反応があったのではないだろうか。
10代の若い俳優たちの舞台だから、荒削りなところはある。だが、演技もダンスも歌も、完成度が高い。台詞もはっきりしているし、舞台上の動きもメリハリがある。学園ものだけに、ミスが出ると学芸会のようになってしまう危険性があるが、完成度の高さでクリアし、その分ハツラツなまぶしさを堪能することができる。

星の王子さま
Project Nyx
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2018/09/16 (日) ~ 2018/09/21 (金)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2018/09/19 (水) 19:00
寺山修司の舞台をニクスがアレンジ。水島カンナさんによると、再演だが毎回新たな仕掛けがあるという。星の王子さまが見るシュールな世界を思い切り楽しめる。
あらためて感じるのは、この劇団の女性たちの身体能力は高く、かっこいいということだ。だからこそ、金守珍さんの厳しそうな演出に全力で応えられるのだろう。