
2 tales × 4 feelings
朗読パンダ
あうるすぽっと(東京都)
2023/03/31 (金) ~ 2023/04/02 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
鑑賞日2023/03/31 (金) 14:00
座席1階
休憩なしの2本建て。「OL三国志」は曹操と時空を超えて会話をする奇抜な発想。今どき「OL」というのもどうかなと思ったのだが、そこはご愛嬌かも。
初日の舞台の舞台とあってか、作・演出の大塩氏が前説を行った。OL三国志は経営が厳しく理事長が引退を決意した予備校で、総務部など3部が予備校のCMを作成し、最優秀の部が理事長職を譲り受けるという展開。これがどう三国志と結び付くのかと期待してみるとおもしろい。
だが、コメディーと銘打っている割には思いっきり笑えるところが少ないのが難点。前説で「マスクは外せないけど、思いっきり笑ったり声を出したりしてもいいです」とあったにに、やや誇大広告か。
続く朗読劇は江戸川乱歩の黒蜥蜴。この物語を本格的に舞台化するのはかなり難しいと思われるが、朗読劇らしい手法で映像と照明による演出で展開する。朗読劇なので仕方がないがリーディングに負うところが大きく、やはり黒蜥蜴というビジュアル重視の物語を表現するのは少し荷が重すぎたような気もする。
迫真に迫っていたリーディングだったが、今ひとつ楽しめなかった。

グッドラック、ハリウッド
加藤健一事務所
本多劇場(東京都)
2023/03/29 (水) ~ 2023/04/09 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/03/29 (水) 14:00
座席1階
初日の舞台を拝見。
いろいろなことを考えさせられる、見事な作品だった。この戯曲を選んだ段階で、半分成功していたのではないか。もちろん、残りの半分は加藤健一ら3人の登場俳優が思う存分その力を発揮したことだろう。
加藤忍は今回はいつもにまして、情感がこもった演技だった。過去の栄光が大きすぎて次のステップに踏み出せない老映画作家の背中をそっと押す優しさ、包容力が演技から十分に伝わってきた。主役の加藤健一をしのぐ出来栄えだったと思う。
もう一人、若手で勢いのある新人作家を演じた竹下景子の息子・関口アナンもよかった。ちょっと雑なところもあったが、まさに勢いだけで突っ走る若者をうまく演じた。世代交代というか、時代の波に乗る感じをとても長い手足を存分に使って全身で表現していた。
冒頭から少し驚かされる。天井の梁からぶら下がったロープで老作家が首をつろうとしているのだ。そこにたまたま若手作家が「部屋を間違えた」と入ってくるのだが、この若手作家がプロデュース会社と作品を世に出す契約を取っていることを知った老作家は、作品のクレジットから撮影監督まで自分はすべて黒子でいいので自作を使うようにこの若者を説得する。
斜陽と日出る勢い。そんな対比だけでなく、引き際の難しさや、いい作品と世の中に受ける作品が異なるという、映画演劇の芸術性と大衆性のせめぎ合いみたいなところも存分に演じられる。
今回は爆笑場面はないのだが、カーテンコールの時に起きる拍手はいつもより力強かった。

デカメロン・デッラ・コロナ
劇団山の手事情社
池上会館 集会室(東京都)
2023/03/24 (金) ~ 2023/03/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2023/03/24 (金) 13:00
座席1階
桜の花がきれいな池上本門寺。会館の集会室での舞台だが、客席数は思いのほか多い。舞台は難解といえばそうだが、オムニバス形式で進められテンポもいいので役者たちの動きを飽きずに眺められる作品だ。
パンフレットによると、絵画のコラージュのように総体として一つの印象を描く手法を「構成演劇」というのだそうだ。テーマは悪夢。確かに、恋人を兄弟に殺されてしまう女性など、悪夢と言える展開が目立つ。
しかし、山の手事情社の舞台で最も刮目すべきは役者の動き、動作だ。腕や指までそろった激しさもあるのに流れるような動作。シンプルだが光と影を使った演出も効果的。終演後の大きな拍手はやはり、鍛え抜かれた俳優たちへの称賛である。

アウトカム~僕らがつかみ取ったもの~
劇団銅鑼
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2023/03/17 (金) ~ 2023/03/22 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/03/22 (水) 14:00
劇団創立50周年の記念公演。千秋楽の舞台を見た。
銅鑼らしい、どこまでも前向きな物語に勇気づけられる。「演劇を見たから明日は少し、今日より元気かな」と感じるような、すてきな群像劇だった。
どこの街でもある、銭湯の廃業話。NPOが間に入って地元の市民がこの場所で起業することで再生を図るという筋書きだ。ところが、企業セミナーに応募した市民はどちらかというと失業したからここで、という人たちばかりで、果たして結果を出せるのか暗雲が漂う。
登場人物が22人という異例の多さだが、誰がどの人か分からなくなることはない。それは、登場人物一人ひとりの物語を丁寧に描いているからだ。普通の市民であるが、それまでの人生に挫折とか、転回とかがあって印象的な人たちだからだ。脚本の勝利だと思う。
企業セミナーの講師として登場するソーシャルワーカーがよかった。その人の表に出ていない力、強さを引き出し前向きに進む支援をする。ストレングスモデルといわれるソーシャルワークの実践を舞台で見るとは思わなかった。事実、ここで自分の持っている潜在能力などに気付いて新たな一歩を踏み出した市民がいる。まさに、立派なアウトカムを引き出している。
さまざまな難題と向き合い、自分を見つめながら進んでいく市民たちを見て「自分も」と感じる。演劇の力を存分に発揮した舞台に拍手を送りたい。

送りの夏
東京演劇アンサンブル
すみだパークシアター倉(東京都)
2023/03/17 (金) ~ 2023/03/21 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2023/03/21 (火) 14:00
座席1階
三崎亜記の小説の舞台化。東京演劇アンサンブルがなぜこの作品の舞台化を思い立ったのか、それにも興味がある。この作品はブレヒト劇を追求してきた劇団のイメージとは程遠いが、物語も演出も役者も「見てよかった」と思える秀作に仕上がっている。
小学六年生役の永野愛理がすばらしい。見ているうちに本当に小学生じゃないかと思えてくるほどの振る舞いだった。もちろん、せりふは小学生っぽくはないのだが、役に徹するとはこのことかと思えるほどのなりきりぶりだ。この舞台の成功の大きな要因であり、見事だと思う。
物語はこの小学六年生・麻美が、海に近い田舎町にある「若草荘」という共同住宅を訪れるところから始まる。麻美の母は家出同然で若草荘に来て、マネキンと暮らしている。他の住人たちも幼児だったり、若い女性だったりのマネキンと暮らしているのだ。麻美は父親の携帯を盗み見てこの場所を突き止めるが、母が浮気をしているのではないかと疑って家を飛び出してくる。だが、若草荘に来て母や住人たちの生活を見て、夏休みでもありしばらくここに滞在することを決める。
ご近所は「マネキンハウス」と呼んで気味悪がっているのだが、なぜ、住人たちがマネキンと暮らしているのかは物語が進むうちに明らかになってくる。ただ、麻美の母が一緒に暮らす若い男性のマネキンについては、結局正体は分からずじまい。客席としては消化不良感が残るところだ。
しかし、「メメント・モリ」の空気感が流れる中で麻美の視点で語られる物語はすんなりと胸に入ってくる。原作の力であると思うのだが、これをシンプルな舞台設定で描き出した演出も見事だと思う。
本日が千秋楽。とてもいい舞台だった。東京演劇アンサンブルのまた、違った魅力を発見できてよかった。

諸国を遍歴する二人の騎士の物語 風に吹かれてドンキホーテ 交互公演
Pカンパニー
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2023/03/15 (水) ~ 2023/03/21 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2023/03/15 (水) 19:00
座席1階
Pカンパニーの別役実シリーズ。「諸国を遍歴する」を鑑賞。不条理の中にもいくつか笑いがあるのが別役さんの芝居のいいところであり、不条理でも安心できるところなのだが、今作はさすがに笑えない。不条理の果ては背筋が寒くなる展開である。
舞台は「移動宿泊所」という看板を樹木に引っかけた宿屋で、テントの中にベッド、その脇に簡素なテーブルだけ。ここを訪れる医者と看護師、牧師、そして二人の騎士と部下というメンバーで話は展開する。テーブルにさりげなく置いてある水差しに下剤を入れて、体調が悪くなったのを見て治療をしようとか、死んだら祈りを捧げてあげようとか、医者や牧師は自分の仕事で儲けようとする下心からスタート。その先は何でこうなるのかという「事件」が次々に起きていく。背筋が寒くなるというのは、次々に起きる事件の後味がよくないからだ。
これぞ別役ワールドというわけなのだが、Pカンパニーが上演した「トイレはこちら」のような笑いはない。手厳しい展開になっていく今作の方が、この世の中で生きていると身近に起きる裏切りとか、策略とか、見たくないものが眼前に現れ、世の中の不条理を浮き彫りにしている。

アルト声の姉妹
チャカチャカプロデュース
小劇場 楽園(東京都)
2023/03/07 (火) ~ 2023/03/12 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2023/03/10 (金) 15:00
座席1階
青年座のベテラン松熊つる松の演劇人生30周年記念企画の一人芝居。東京ハンバーグの大西弘記が、松熊が書き留めたエピソードを構成して脚本をつくった。アフタートークによると、98%は松熊が書き留めたものだという(創作部分はほとんどない、とか)。故郷に残って父や母と暮らした姉と、上京して劇団に入った妹の微妙な関係性を描いた物語。家族の物語を得意とする大西脚本らしい、広がりと深みがにじみ出たいい舞台だった。
両親は先生だったといい、姉妹は児童演劇に入っていたこともあって幼いころから演劇鑑賞に触れていたそうだ。どこの家庭もそうだと思うが、進学や就職で故郷を離れてしまうと実家との距離は物理的にも心理的にも遠くなる。姉妹が分かれてしまうとその距離感も広がり、特に仲がいいということでなければ電話もあまりしない。しかし、父母が亡くなり、姉妹も人生経験を重ねて還暦が近づく年になると、離れていたそれぞれの人生の放物線が再び、重なっていく。
松熊が自分(妹)と姉を演じ分けるのだが、声が似ている(アルトの声)ということで客席に違和感を抱かせない。さらに、舞台脇につるされたいくつかの服を羽織ったり脱いだり、はだしだったり靴を履いたりで姉と妹のメリハリをつけているのはよかった。サングラスなどの小道具も効果的だった。
姉と妹の胸の内をさらけ出すせりふにもメリハリがついていて分かりやすい。ただ、妹の立場からのエピソードであったり、気持ちの揺れだったりするのが基本だから、妹の言葉や行動を姉がどう思っていたかというところが少し弱い。そこは、舞台を見ながら想像するしかない。姉は今回「私のことをネタにするの?」と言っていたというが、姉にも脚本家が話をじっくり聞いて重ねていったら、また違う物語になったかもしれない。
「自分がどう生きてきたかを記録するのは、自分は演劇しかない」というようなせりふがあったような気がする。自分の来し方を客席と共に記憶していけるというのは、俳優ならではなのだなあ、と思いながら下北沢を後にした。

しゃぼん玉の欠片を眺めて
TOKYOハンバーグ
駅前劇場(東京都)
2023/03/03 (金) ~ 2023/03/12 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2023/03/05 (日) 14:00
座席1階
かつて3人の子どもを育てた夫婦が建てた多摩川沿いの家に、今は年老いた母親が一人で住む。さして汚れも目立たないのに、母親は半年に1回だったハウスクリーニングを月に1回頼むようになり、さらに「次の日も来て」というようになった。家族経営で顧客が少なく、「お客が頼めば汚れが目立たなくても掃除をするのがプロだ」と言う社長。しかし、この母親がハウスクリーニングを頼むのには別の理由があった。
老親と子どもたちの擦れ違いは、お互いの事情を思いやる心から生まれているのではないか。今作も、「子どもには迷惑をかけず一人で暮らす」という母親に対し、3人の子は「いつ何時何が起きるか分からないから」と傘寿の祝いにかこつけて長女宅への同居を持ち掛ける。特に今回の夫婦の場合、夫が要介護となり施設に入居して死亡するという経緯をたどり、自宅で暮らせなかったという無念さが母親のかたくなさにつながっていると思われる。
どこにでもあるような親子の物語で、それぞれの事情を会話劇を通して浮き彫りにしていく。うまいと思ったのは、母親宅に入ってくるハウスクリーニング業者の視点でも語らせていることだ。実家に寄り付かない3人の子どもたちと対照的に、ハウスクリーニングに訪れる従業員たちがまるで実の子どもか、あるいはヘルパーさんのような立ち位置になっていて、親子のすきま風を際立たせる。
こうした親子の再統合の小道具がしゃぼん玉だ。ノスタルジーもあって、すこしほろりとさせられる。自分としては最後に描かれる母親の姿には残念な感じもしたが、劇中登場する喫茶店の名前が「家族」を象徴するところなどには少し、胸が熱くなった。

行きたい場所をどうぞ
秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2023/02/23 (木) ~ 2023/02/28 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/02/24 (金) 14:00
座席1階
ミナモザの瀬戸山美咲が書き下ろし、大谷賢治郎が演出。見事な舞台だった。脚本がとてもおもしろく、演出も独創的で見ている客席を飽きさせない。昨年青年劇場に入ったばかりという新人女優が、秀逸な熱演を見せた。
主役は何と人間そっくりのAIロボット「夕凪」。駅の待ち合わせ広場にいて、駅を訪れた人が生きたい場所を案内するのが仕事だ。なぜかスカートの短いJKなのだが、企画したのがおじさんたちだからこうなったというくだりは笑える。
広場に来た本物のJKの光莉に夕凪は声を掛けるが、光莉はぶっきらぼうに「ネラ」というところに行きたいという。AIの夕凪がいくら検索しても見つからないその場所。見つけられなくて悔しかったのか、AIロボットなのに職務を放棄して、夕凪は光莉の手を引っ張って旅に出る。
物語では、人間がAIロボットを酷使している会社なども描かれる。結構、現実味がある近未来の姿だが、演劇的なのはAIロボットが人間の姿であることだ。そのロボットが「人間になりたい」などと言ったり、過酷な労働に対して休息を要求したり、とても人間的なのだ。
演出もすばらしい。舞台には可動式の背の高い塔のようなものをいくつも配置。冒頭の場面などでは人間もAI人間も一緒になってパフォーマンスをしたり、舞台転換にもうまく使っている。
だから客席の目が離れることはなく、テンポよく物語をつないでいっている。ある意味シンプルな舞台装置なのだが、SF的な物語だということを踏まえ、脚本の色彩を絶妙に表現している。
中高生無料デーを設けるなど、若者をターゲットにした企画だと思うが、大人たちもいろいろ考えさせられる舞台に仕上がっている。一見の価値があると思う。

日記
カリンカ
OFF OFFシアター(東京都)
2023/02/22 (水) ~ 2023/02/28 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2023/02/23 (木) 18:30
座席1階
カリンカの3年半ぶりという公演は、劇団普通の石黒麻衣の書き下ろし。お約束の茨城弁で、家族の物語を紡いだ。
今回は、田舎の老父母を「お試し」だがかなり前向きに呼び寄せた二人姉妹の妹夫婦がまず登場。年老いてきたがまだ元気な老夫婦。でも体のあちこちに不調が出始め、将来の介護ということがちらつく。妹が半ば強引にではないかもしれないが、自宅に父母を呼び寄せた。
室内を片付けて老父母のための部屋を確保し、妹の夫は腰が痛いという義父のために高級マットレスを買ってくる。そして実は、この夫も自分の父親が入院するという事態に陥る。
妹が父母を呼び寄せたと聞いて、姉夫婦も遠方から訪ねてくる。この微妙な姉妹関係というか、お互いの夫が絡んだ関係とか。どこの家族にでもあり得る、起こりえる日常が丁寧に描かれる。茨城弁はともかく、世代間の会話スピードの差をはっきり描いているところが非常に印象的だ。老父母は耳も遠く瞬時の判断もゆっくりになるため、会話がかみ合っているようでずれている。これが実にリアリティーがある。
親と子はこうしたギャップを埋めながら、どこかで折り合いをつけて暮らしていかなければならない。ラストシーンは自分には少し意外な結末だったが、どのような形になろうとも、老父母の方は息子や娘たちの判断にある程度従わざるを得ない、頼らざるを得ないのだ。
作・演出の石黒麻衣はこのあたりの、スピードが異なる会話劇が秀逸だ。劇団普通の「病室」もそうだった。けしてテンポよく進む舞台ではなく、テーマも軽いものではないが、見終わって何だか少しホッとする感じがいい。

時間よ止まれ
東京タンバリン
小劇場B1(東京都)
2023/02/22 (水) ~ 2023/02/28 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2023/02/23 (木) 15:00
座席1階
忙しすぎて、時間が足りない。一日50時間くらいあったらいいのに。かつて、本気でそう思ったことがあった。そんな「夢」をかなえてくれる舞台である。でも、そんなことが夢でよかったとしみじみ考えさせられる舞台でもある。
先人も書いていたが、舞台セットが独創的で見事だ。時間がテーマなだけに、テーブルを回転させて時計をイメージしたり、冒頭の前説で砂時計を提示したり。バックのデザインも美しい。
主人公は夫が単身赴任し、二人の子どもの面倒を見ながらパートで生活を支える主婦。子どもと言っても会社員の姉と高校生の弟なのだが、この弟がゲームオタクで「ご飯まだ?」と平気で言うなど最初からもう大変なのである。
そうした雑事を全部引き受けて当たり前と考える女性だから、その時点でもう時間が足りない、物語が進む中で、さらなる難題が次々と降りかかる。
ラストがとてもさわやかでホッとする。AIの時代になっても、人間性が一番と納得できる舞台だ。
高校生役の俳優さん。どう見ても高校生に見えません。少し残念。

入管収容所
TRASHMASTERS
すみだパークシアター倉(東京都)
2023/02/17 (金) ~ 2023/02/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/02/20 (月) 14:00
座席1階
かねてより問題になっている入管の非人道的行為を詳細に描いた力作。実際にあった事件をモチーフにしており、それが極めて詳細に取材されており、役者たちの熱演も相まって大変な力作に仕上がっている。
オーバーステイというだけで何の罪も犯していない外国人を収容し、本国へ送り返すのが役割だと平然と言い放つ入管局長。虐待以外の何物でもない収容者の処遇に若手職員が疑問を持ち始めるが、局長ら上層部は「それが問題となれば、法務大臣の顔に泥を塗る」と隠ぺいの姿勢にためらいもない。東南アジアや中東の外国人=テロリストと言い、在留許可を出すことが「テロリストを野放しにして、国民の安全を危うくする」と堂々と言う。官僚たちはそこまで腐ってはいないだろうと実は思ってしまうが、この舞台ではそうした思考がある意味宗教心のように深く入り込んでいることを浮き彫りにする。
日本の刑務所・拘置所も相当な人権侵害、虐待が行われていることが明らかになっており、この国の役人たちの上から目線というか、人権意識は、戦前に中国・韓国などのアジア人を「第三国人」と呼んでさげすんでいた視点となんら変わらず、いったい日本人は何を学んできたのかと嘆息する。
作・演出の中津留章仁は「書きたいことは山のようにあり、その全部を描くことができないのが何とももどかしい」とパンフレットで書いている。この戯曲は、客席と舞台での怒りの共有だ。2時間40分、休憩なしで繰り広げられるハードな会話劇だが、舞台から目を離すことなどできない。人間はどうしてここまで人の命に無関心、無頓着になれるのか。精神病院の虐待事件が今、クローズアップされているが、ここで行われている虐待は、この舞台でこれでもかと描かれた虐待となんら変わらない。恐ろしいのはこれが素人によるものでなく、それなりに法務行政を勉強した人たち、専門職によって行われていることだ。
これが日本の一つの姿であると、そこから目を背けるべきではない。戯曲としても成功している。見ないと損するぞ!

ノア美容室
劇団民藝
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2023/02/11 (土) ~ 2023/02/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2023/02/15 (水) 14:00
座席1階
いい舞台だった。晩年の人間にとって、何が一番大切なのかを考えさせられる物語だ。劇作家ナガイヒデミの故郷である愛媛県の田舎町のパーマ屋を舞台に展開していく。相変わらず日色ともゑの熱演には感心させられる。
日色が店主を演じるパーマ屋は、お客も店主も高齢化し、今では常連の女性たちによるおしゃべりの場にもなっている。高齢化が進む全国の中山間地ではどこにでもある風景かもしれない。このパーマ屋の敷地が高速道路の予定地にかかり、立ち退きを迫られている。地元銀行の支店長である店主の息子は補償基金をもらって立ち退きに応じるよう説得するが、店を畳んで引っ越すのは、自分から人生の楽しみを奪うことだと首を縦に振らない。折しも大学の卒論を書くために帰省している孫娘も、祖母に味方する。
舞台は二部構成で、後半には旧知の戦場カメラマンが登場する。やや唐突感があるのだが、モデルは石川文洋氏だそうだ。本人がパンフレットに寄稿しているのだが、自分の慣れ親しんだ家を追われるのは、原発事故で故郷を追われた福島の人たち、戦争で故郷を失った難民と同じだと書いていて思わず納得する。二部では店主と戦場カメラマンの二人による会話劇となるが、希望の持てるラストシーンで何だかホッとした。
海外の作家の戯曲よりも、民藝にはこうした落ち着いた会話劇が似合うのではないか。若いファンを獲得する一助にもなるような気がする。

ストリッパー物語
Project Nyx
ザ・スズナリ(東京都)
2023/02/09 (木) ~ 2023/02/12 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2023/02/10 (金) 14:00
座席1階
「飛龍伝」よりもずっとプロジェクト・ニクスらしい舞台。美女劇の冠がぴったりで、今回はせりふにぴったりはまった選曲、切れのいいダンス、そして何よりも「きれい」という形容詞で表すのが一番な舞台を楽しんだ。
地方を行脚するストリップ劇団員たちの群像劇。踊り子とヒモのペアがそれぞれユニークで楽しめる。微妙な力関係、恋愛感情の交錯、そして近いようで遠い普通の結婚。舞台はダンスと音楽で楽しいのだが、何となく哀愁が舞台を流れていくのもいい感じだ。
暗幕への映写をうまく使って最初に出演者の紹介があるのがおもしろい。ラストシーンも劇団員の行く末を記した字幕で結ばれる。
ストリッパーの踊りというと「淫靡」と連想するが、今回登場する女優たちは鍛え抜かれた身のこなしで新体操選手並みの華麗な演技を展開する。2021年にストリッパー物語を上演した中野の「満天星」より「スズナリ」の方が舞台が若干大きいこともあって、ダンスの切れが余計にさえて見えたのかもしれない。とはいえ、今回の舞台も男性陣の殺陣などが入ると役者同士の間隔の余裕があまりなく、あれだけ激しく動いて衝突しないかとドキドキした。
東京に大雪が降った日だがスズナリは満席。客席の拍手も大きかった。

初級革命講座 飛龍伝
Project Nyx
ザ・スズナリ(東京都)
2023/02/02 (木) ~ 2023/02/06 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2023/02/03 (金) 14:00
座席1階
つかこうへいの名作。プロジェクト・ニクスが扱うとどうなるかなと考えながらスズナリに来た。当然なのかもしれないが、ニクスがこれまで売りにしてきた「美女劇」とは趣を変え、この劇団が新たな挑戦をしているように感じた。
学生運動は、その時代をリアルタイムに感じてきた年代と、自分のようにそれ以降に生まれた年代とは決定的に受け止め方が違うと思う。この舞台では、最初に用語集の解説があるなど異例の展開でその溝を埋めようとしたが、やはり舞台へのパッション、含蓄あるせりふへの理解度など溝を埋めるには及ばなかったのではないか。中島みゆきの「世情」には少し心を揺さぶられたが、「シュプレヒコールの波 通り過ぎてゆく」をリアルで経験していないのは決定的だ。
終幕の拍手に力が入ったお客さんは大多数が初老の世代。いつものニクスの舞台のお客さんとは明らかに違っていた。
ニクスらしい見せ方もあった。幕あいのところで若い女性看護師さんが白衣姿で歌い、踊る場面などはインターミッションとしてうまい盛り上げ方だった。
安保闘争や三里塚闘争など、当時の学生たちは政治に怒りをたぎらせ行動に出た。機動隊は権力の象徴として描かれているが、本当の政治権力は国会議事堂や永田町の中でかすり傷一つ負わず、平然としていたのだ。結局、学生運動は政治の流れを大きく変えることはできず、日米安保条約は今も継承され、成田空港は開港する。その後の世代はシラケ世代とか無関心世代とかやゆされるが、前世代の若者たちの挫折こそが、政治への無関心、もはや政治への怒りの表出すらあまりない世の中につながっている。そう考えると、この世代が、パッションが失われた反動による無関心という大きな負の遺産を残したと言わざるを得ない。舞台ではそういうところに触れた部分はないのだが。
世代の感覚もじゃまして、飛龍伝には心から感情移入はできなかった。これは、他の劇団による舞台を見ても、きっと変わらないだろうと思う。

南四局は終わらない
マグマ∞(フォーエヴァー)
浅草九劇(東京都)
2023/02/01 (水) ~ 2023/02/12 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2023/02/02 (木) 14:00
青年座のメンバーが居酒屋で盛り上がり、「自分たちで納得できるおもしろい芝居をやろう」と結成が決まった「マグマ∞(フォーエバー)」。作・演出に田村孝裕を迎えての初公演というので、観ないわけにはいかない。浅草の奥深くへ観劇に出掛けた。
舞台はその浅草にもありそうな、昭和の空気を重く引きずる雀荘。かつて、雀荘は大学のある街とか下町とか、そこかしこに存在したのに、昭和が過ぎ平成の世になって少しずつ姿を消してしまった。浅草は今も、昭和の空気をまとった場所が残っているだけに、浅草を上演の地に定めたメンバーたちの思いが伝わってくるようだった。
そしてその雀荘は、今、高齢者たちを中心にはやっている「飲まない、吸わない、賭けない」の健康麻雀などどこの世界かという「昭和」だ。ビールを飲みペヤングのソース焼きそばを片手にリーチをかけ、たばこの煙でトイメンの顔がかすむという環境で徹夜をし、最後は勝者も雀荘代を差し引くとマイナスになるという、学生時代の「徹マン」を思い出す舞台セットだ。
まあ、こういう雰囲気を味わえたらと期待して出掛けた自分はまず、来た甲斐があった。物語はこの雀荘を経営する姉妹をキーパーソンにして、夜な夜な現れる常連たちの人間関係を描く。ここに現れるのが、この雀荘を買い取ろうという女(松熊つる松)と、「近くに住んでいるから」と現れた謎の未亡人(ひがし由貴)。物語は「もう、この店を閉めてしまおうかな」と時代の流れで消えていくような世間の雀荘と同様な空気が描かれていく。
さらに、この雀荘も時代の波に洗われるように、健康麻雀への流れにはあらがえない。ラストシーンは何となくハッピーかもしれないが、見終わったあとの寂しさは時代に取り残されたような人たちの心をえぐっていく。

時をちぎれ
劇団青年座
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2023/01/20 (金) ~ 2023/01/29 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2023/01/25 (水) 14:00
青年座としては異色の舞台だったと思う。土田作品をテンポよくきりっと仕上げた秀作だ。
会社など日本の組織ならどこにでもあるような人間関係をおもしろく展開した。社の幹部が室町幕府が好きというだけで京都の本社を室町御殿と呼び、調度品などもそれを思わせるつくりにしてある変な会社が舞台。サプリメントがバカ売れしたということで成長した会社で、冒頭、コマーシャルと思われる珍妙な歌が流れる。
社長がちょんまげ姿でその奥さんもお姫さまのスタイル出てくるのだが、本当におもしろいのはこのようなルックス、お互いの呼び方や古風な名称を付けた役職ではなく、今の会社に通じる不倫やパワハラなどの人間関係だ。地下の倉庫であいびきをするというのも古風だが、室町幕府だからこれでよいのか(笑)
しかし、こうした会社の人間関係を中心とした展開であるなら特に室町幕府にしなくてもよいのだが、そんなことは邪推なのか。話の面白さをベースに爆笑ポイントが多々あり、純粋に楽しめる舞台に仕上がっている。

はやくぜんぶおわってしまえ
果てとチーク
アトリエ春風舎(東京都)
2023/01/19 (木) ~ 2023/01/22 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2023/01/22 (日) 14:00
チクチク刺さるような言葉が浮遊する不思議な感覚だった。
唯一実際に出てくる大人が女性の先生で、この人が一身にJKたちの標的となってしまっているようだ。客席はこの先生と同じ、大人たち。客席に引っ込んで眺めているから深手は負わないが、舞台に立っていたらたぶん、浮遊する言葉で血を流すかもしれない。
物語は、女子校でミス・ミスターコンテストが先生の圧力で中止になるところから始まる。中止の理由が、容姿などに順位を付けるのはいかがなものかという点と、性自認の観点からということだった。性自認の観点は「多様な人、多様な性があるから、男女という単純なカテゴリーでランク付けしてはならない」と言ったのかと思ってしまったが、当時の大人たちがそんことを言うはずはない。
舞台には、女性であることに違和感を感じている生徒が登場していて、仲間の生徒たちは比較的ナチュラルに受け入れているように見える。ただ、10年前の女子校という設定だから、まだまだLGBTという言葉が浸透していないころだ。世の中には男と女しかいないという大人たちによる空気で育ってきたJKたちだから、やっぱりどう扱っていいか分からない微妙な空気も流れたりする。
そんな細かなところまで感じさせるうまい会話劇だった。ラストシーンを飾る、余りにもありがちな事件に、大人たちはやはり、上から目線ではなくきちんと現実を知ることから始めなければいけないと感じる。生徒が発する強烈なひと言は身震いするほどだった。
1時間とコンパクトな舞台だが、余計な登場人物やシーンを出さず、きっちりと余分なものをそぎ落としたシャープな舞台だ。しかも、うまく構成されていたと思う。ただ、ラストシーンのメタファーはよく分からなかった。断絶の象徴? それとも…。

さなぎになりたい子どもたち
演劇集団 Ring-Bong
座・高円寺1(東京都)
2023/01/18 (水) ~ 2023/01/22 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/01/19 (木) 14:00
座席1階
ヤングケアラーの女子生徒を中心として、いまどきの中学校が抱えがちな問題点を鋭く突いた舞台。「生徒はこうあるべきだ」「家庭はこうあるべきだ」という教育現場にありがちな暗黙の規範意識への異議申し立てである。
主人公は、精神疾患の母親をケアする中学三年生。彼女は学校にはまったく自分のことを話すことなく、母親のケアのための遅刻や早退を繰り返している。学校側は、この子は素行が悪く「いくら指導してももう仕方がない」とみている。彼女が抱える事情は劇の中盤で明らかにされるのだが、食事や洗濯など家事を母親に代わって一身に背負っている状況を、校長が「すばらしい。これを生徒の前で発表すれば、彼女への見方が変わる」などととんちんかんなことをおっしゃるのにはため息が出る。さすがにここまで、男性管理職の意識はひどくないとは思うのだが、「ひょっとして似たようなことがあるのではないか」と客席に思わせるに十分だ。
物語は中学三年が卒業するまでが描かれるが、成績抜群の優等生やスポーツ推薦を受けられるような男子生徒の苦境も真に迫っている。ラストシーンの卒業式の場面はハラハラドキドキ、思わず涙が出てきてしまった。これは脚本のよさだけでなく、演出の妙という部分もある。
先生たちも事なかれ主義の人がいたり、個人的な事情を抱えて苦労する人がいるなど多彩で、これも見る人を飽きさせない。主役はヤングケアラーだが、それぞれの事情が明かされていく群像劇でもあるので、テンポよく進む2時間の上演時間はあっという間だ。
リンボンは前作も拝見したが、今作の方がはるかによかった。それは取りも直さず、リアリティー満載の舞台だったからだと思う。

炎の人
劇団文化座
俳優座劇場(東京都)
2023/01/11 (水) ~ 2023/01/18 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2023/01/18 (水) 14:00
本日は千秋楽。これから旅公演に出るのだという。この迫力のある舞台はぜひ、全国のファンにも届けてほしい。
文化座は創設の時代から三好十郎の戯曲を上演してきた。これまでも「獅子」など多くの作品を上演してきたが、この「炎の人」は民藝が初演し、レパートリーとなっていたことは知らなかった。文化座にしてみると、これは里帰りをした作品のようなものなのかもしれない。三好自身が画家を志していたこともあっての戯曲だが、天才画家と「狂人」は紙一重なんだとこの舞台を見てつくづく思う。
だが、炎の人をみる限り、ゴッホは努力家でもある。デッサンをまともに描けず、懸命に練習する様子が序盤で出てくる。子持ちの娼婦を愛し結婚すると宣言するところを見ると、自分の信じる愛に生きた人なのだろうとも思う。さらに、炭鉱労働者に代わって会社に直談判に行くという、ある意味で自己犠牲の固まりのような側面もあると知る。
物語は絵が全く売れず弟の稼ぎを頼りに絵に没頭し、それを重荷に背負って果てしない苦しみが続く画家の姿をダイナミックに描いている。今の時代から見るととても共感や同情ができないゴッホの姿だが、周囲の人たちは寛容、おおらかな感じで見守っているのが印象的だ。
今回、老婆役で少しだけ登場した佐々木愛は、役柄を変えて何度も出演している。佐々木の孫娘が最終場近くでダンスと共に力演するのを見ると、文化座の世代交代の空気を少しだけ感じる。