おけい@広島の観てきた!クチコミ一覧

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ウィルを待ちながら

ウィルを待ちながら

Kawai Project

こまばアゴラ劇場(東京都)

2018/07/04 (水) ~ 2018/07/18 (水)公演終了

満足度★★★

題名はゴドーを待ちながらのもじり、劇中にさまざまなシェイクスピアの戯曲の台詞が引用され、台詞が代わる度に世界観がクルクルと変化する様が楽しい、筈だ。
如何にも芝居を観つくしている東京のお客さん好みの芝居で、そもそもシェイクスピアの芝居を数えるほどしか見ていない私には、交わされる台詞がどの芝居のものかが直ぐにはピンと来ないのだから、けっこう疲れる芝居だった。
ただ、ドーバー海峡で自殺をしようとするグロスター伯(田代隆秀)と騙して助けようとする息子のエドガー(高山春夫)のシーンが繰り返し演じられ、ここは「リア王」の場面だと分かった。当人が飛び降りて死にたいと思うと、実際に飛び降りなくても死んでしまうのではないかと怯えるエドガー。虚構と現実はどちらが勝つのか?
舞台は終始、二人の役者だけの芝居で、キャッチボールのように紗王の台詞を言って作品名の当てっこをする場面では、有名ではないコアな台詞を言いあって勝ち負けを競ったり。
アフタートークは、役者二人と河合祥一郎とゲストの松岡和子の4人のシェイクスピア談義。小田島訳に馴染んだ田代隆秀がつい、以前の台詞が出てしまうなどと話していた。

調べてみると、シェイクスピアの訳者ごとにハムレットの台詞も、

福田恒存「生か死か、それが疑問だ」

小田島雄志「このままでいいのか、いけないのか、それが問題だ。」

安西徹雄(主に演劇集団円)「生か死か、問題はそれだ。」

河合祥一郎「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ。」

松岡和子「生きてとどまるか、消えてなくなるか、それが問題だ。」

のように流行が移り変わってきている。今は、松岡和子訳が人気らしい。

芸術は細部に宿ると言うが、東京の観客相手でなければ上演されないであろう芝居だったということでは、いい記念になった。

日本文学盛衰史

日本文学盛衰史

青年団

吉祥寺シアター(東京都)

2018/06/07 (木) ~ 2018/07/09 (月)公演終了

満足度★★★★★

珍しく(!)大評判の新作本公演、楽日にぎりぎり間に合った。高橋源一郎の原作は、それぞれ四場の葬儀シーンで上演される。障子を開け放すと日本庭園が望める。葬儀場へ続く廊下の手間に弔問客のための膳が並ぶ広々とした大広間といった奥行きのある舞台。
一場は明治27年5月の北村透谷の葬儀、
二場は同35年9月の正岡子規の葬儀、
三場は同42年6月の二葉亭四迷の葬儀、
四場は大正五年12月の夏目漱石の葬儀、
終始舞台上に出ずっぱりの島崎藤村(大竹直)と田山花袋(島田耀蔵、女性弔問客の座布団に突っ伏す)が狂言回しで、場面が数年後の葬儀へと転換されていく。
森鴎外(山内健司)と夏目漱石(兵頭久美、付け髭!)以外は、役者が何役もの作家や女中、それぞれの喪主を演じている。これが楽しい。
錚々たる大御所の作家の若き時代、デビュー当時の衝撃なども面白い。作家の人間像を描くというより、当時の「心で思ったことをそのまま文章で描く」ための悪戦苦労振りがユーモラスに描かれ、近代文学史に疎くても、詩を捨てた藤村や、華やかな一葉、晶子の逞しさ、啄木や賢治の清新さなど、身近に思い浮かべることができ興味深い。綺羅星のごとく文壇の有名人ばかりがお喋りを交わす様子は、文学好きには堪らないかも。弔問客には近所の人も加わり、二葉亭四迷を噺家?なんて聞いている。
島村抱月や坪内逍遥(志賀廣太郎)が自由劇場で上演される翻訳劇の訳のことで揉めたり、女中たちが楽しげにカチューシャを合唱したり。
四場では一挙に戦後活躍する作家たちが登場、それぞれ胸に坂口、太宰、芥川、康成などの名札をつけている。一気にお芝居ごっこめいた雰囲気、スマホで集合写真をとる高橋源一郎も登場する。
職工でも小説を読む時代を望んだ作家たちの苦闘の果てに、小説家が長者番付に並ぶ時代を経て、読者はやがて細分化され自分だけの小説を書き始める。芝居はその先の、ロボットが書いた小説をロボットが読む近未来へ。私たちが獲得した日本語はやがてどこへ行くのだろう。
自分たちの「言葉」をもっと大事にしなければと思った。

火星の二人

火星の二人

東宝芸能・キューブ

JMSアステールプラザ 大ホール(広島県)

2018/05/26 (土) ~ 2018/05/26 (土)公演終了

満足度

ツマラなくはなかったが、チケット代8000円は、勿体なかったと悔やむ。他の芝居を二つか三つ観た方がよかった。

粛々と運針 ツアー

粛々と運針 ツアー

iaku

ぽんプラザホール(福岡県)

2018/06/15 (金) ~ 2018/06/17 (日)公演終了

満足度★★★★★

演劇は、愛や勇気や希望を与えてくれる華やかなものだと誤解されているのではないか。実は、私たちの人生にもっと必要で実用的なものなのだと気づく。

ネタバレBOX

舞台には、高さの違う3種類のイスが置かれ、舞台左右の一番高い木のイスに若い女と年配の女が座り、針に糸を通して、床まで届く反物のような白い布をひたすらチクチクと縫っている。
子どもを持たないと決めた夫婦、妻が妊娠したらしいと判り産むか産まないかで揉めている。母が倒れて病院に見舞いに行った帰り、母の希望の尊厳死について話す兄弟、結婚して別居している弟と、母と同居で独身、定職につかずコンビニでアルバイトをしている兄の二人。この二組が入れ替わりながら、舞台中ほどのイスに移動し会話を続ける。
課長昇進まじかで、いい母親になど、なりたくない妻、仕事をする自分に自信がないからせめて父親になってみたい、仕事を辞めて主夫になってもいいという夫。
お母ちゃんには手術をうけて元気になって欲しいという兄、お袋を母親役から解放させてあげたらどうかという弟。
彼らの会話が、行きつ戻りつしながら、繰り返される。その二組の会話が、時に絡みあったりするところがあったりして面白い。
だんだんと激高してくる二人を眺めていて、ふいに、産まれてくる子どもと死んでいく母親が実は、無関係と思っていた両サイドの二人の女優で、子どもと母親であると分かる、巧みな展開。
人は結局、長い時間を掛けて、時にはチクチクと心を刺すような思いをしながらでないと相手のことが理解できない。回りくどくても、無駄なような長い時間がかかっても、それが生きていくことだと、しんみりと心に沁みてくる。
いつの間にか、彼女たちが縫っていた長い布が6人の周りをゆるく囲んで繋がっている。
客席からは、若い観客だろうか、鼻をすする気配が聞こえた。
広島アクターズラボで生まれた五色劇場の試演会2 「新平和」

広島アクターズラボで生まれた五色劇場の試演会2 「新平和」

一般社団法人 舞台芸術制作室無色透明

広島市東区民文化センター・ホール(広島県)

2018/06/08 (金) ~ 2018/06/10 (日)公演終了

満足度★★★★

試演会②の「新平和」を観に行った。終演後にアフタートーク有り。
主人公の少女が人型の人形なので演技はしない。共演の役者は、この人形の表情や仕草が目に浮かぶような受けの演技が要求されるという仕掛けが絶妙。
主人公の少女の姿がありありと目に浮かぶというわけには行かなかったが、その代わりに原爆を通した様ざまな人物の日常が生々しく浮かび上がる。
諦め、やり過ごし、あるいは逞しく・・。悲惨な体験だったというのっぺりした印象の原爆が、個人個人の体験をとおして生々しく実感されることに驚く。台本としての台詞は無く、シーンごとに参加した役者たちがほぼ創作したものだという。
少女の初潮を描いたシーンが印象的だった。作者の柳沼昭徳はこんなにフェミニストだったかしらと意外だった。おそらく、参加した役者の大部分が女性だったために、彼らの共同作業のなかで創造されたに違いない。
特に悲劇的なシーンは無いにもかかわらずが、役者ひとりひとりが掴み取った感覚を観客に伝えようとする衝動が強い吸引力をもち、観客席で観ていて引き付けられた1時間半だった。

「Ten Commandments」広島公演

「Ten Commandments」広島公演

ミナモザ

JMSアステールプラザ 多目的スタジオ(広島県)

2018/04/05 (木) ~ 2018/04/06 (金)公演終了

満足度★★

東京公演を観た観客の感想をネットで調べてから出かけた。
芝居に吸引力が乏しく内容のどこに共感したらよいか当惑したお客さんが多かったらしい。少し気が重くなる。

ぽつぽつと席が埋まり、観客は30人ほどだろうか。
舞台はまばゆく青いアクリルの床に、シンプルなデザインのイスとテーブル。白い衣装の役者たちは素敵だった。
彼女の居間と同時に大学院の研究室にもなる。ほとんどが手紙文と独白の声、ことばを失った彼女ひとりの台詞が多い。

原子爆弾を発明した科学者と原発事故以降に原子力を研究し始めた研究者の彼らは、わたしには同じとは思えなかった。やはり違うような気がする。
詩のような言葉の流れは眠気を誘う。80分は限界だった。

残念ながら、私はことばの細やかな差異や意味のある繰り返しに気づくこともなかった。神経はぼんやりしたまま、何も刺さりはしなかった。長々と劇作家の愚痴を聞かされたようだった。

広島の観客として忸怩たる思いだ。

ブロードウェイと銃弾

ブロードウェイと銃弾

東宝/ワタナベエンターテインメント

博多座(福岡県)

2018/03/24 (土) ~ 2018/04/01 (日)公演終了

満足度★★★★

地方都市在住だとミュージカルの舞台を観る機会はほとんどない。
初演の評判が良かったので、思い切って福岡まで観に行くことにした。売れない劇作家が、自作をブロードウェイで上演できることになり・・というストーリにも興味があった。

地図だけを頼りに初めて出かけた博多座、劇場に入ってからも豪華な雰囲気に驚いた。オーケストラピットでは開演前からすでに音合わせ中だ。幕が開くと、回り舞台や迫りの装置が舞台を華麗に演出する。

あらすじは、ほぼ公演チラシより。
自分の戯曲をブロードウェイの舞台に懸ける願いがかなったデビッド(浦井健二)。ところが出資者であるマフィアの親玉ニック(ブラザートム)は、ロクに台詞も言えない大根役者の愛人オリーブ(平野綾)を主役につけろと要求し、部下のチーチ(城田優)を稽古場にボディガードとして送り込んでくる。プライドの高い主演女優ヘレン(前田美波里)は脚本を書き換えろと色仕掛けで迫る。ひと癖もふた癖もある彼らが無理な注文を要求してくるなかで、芸術至上主義でまじめなデビットは困惑する。その上、稽古を監視していたチーチまでが脚本と演出に口を挟んで来る。さらに、残してきた恋人のエレン(愛加あゆ)と自分を誘惑してくる主演女優ヘレンの間で揺れ動くデビット。
舞台を完成させたい一心のデビッドは、脚本と演出に数々の妥協を余儀なくされる。しかも、ギャングの子分であるチーチの提案は、いちいち的確な指摘ばかり。神は意外なところに才能を授けたわけである。二人はともに苦心して脚本を書き直していく。そして舞台は見事に大成功を収めるのだが、初日の舞台の後にデビットは重大な告白をする。

舞台の完成とデビットの恋の行方にはらはらし、ギャングに追われるチーチの運命はいかにと手に汗を握る。舞台を創る側の悪戦苦闘と出来上がった舞台の華やかさを同時に味わえるという予想以上にお得なミュージカルだった。今、人気のプリンス浦井健二を芸達者な共演者たちがしっかりと脇を固めて、ショーアップされた歌やダンスも勿論のこと、思わずニヤリとさせられる台詞のやり取りも洒落ていて、小劇場ファンの私が観てもなかなか楽しめる舞台だった。観客としては、平凡な幸せを選ぶより、悪魔に心を売ってでもいい芝居を作ってくれる人を望みたいところだが。

舞台の上を、役者を乗せた本物のクラシックカーがゆっくりと通り抜ける。日生劇場始まって以来という煽情的な衣装の踊り子たち、ダンスは颯爽として華やかだった。ギャングたちのタップダンスシーンは事前に動画で観ていたが、生の迫力はやはり違う、ため息が出るくらいカッコいい。
思わず身を乗り出して、隣の席の人からやんわりと注意をされる。(幕間には身を乗り出して観劇しないように繰り返しアナウンスされるのだ)3階席の最前列だったので、オペラグラスも初めて用意した。役者の表情の動きがよく見える。いちいち舞台全体と見較べるのは面倒だけど、後方席には必需品ね。

LOVE ME DO

LOVE ME DO

公益財団法人広島市文化財団 アステールプラザ

JMSアステールプラザ 多目的スタジオ(広島県)

2018/03/16 (金) ~ 2018/03/17 (土)公演終了

満足度★★★★

19時開演、会社帰りでも悠遊間に合う。1時間ほどのダンス公演は苦にならない。
コンテンポラリーダンスってのは相変わらずよく分からないのだけれど、前回観たときも、なかなか楽しいステージだった。

プログラムには出演者14人の名前と血液型!だけ。
ACDCはオーディション合格者が10日間のワークショップを兼ねた稽古をして舞台に臨むらしい。

ほとんど女性だったけれど、男っぽい激しい動きのダンスも迫力があった、地元劇団が劇中に見せるダンスとは段違いだ。ただ、さすがに目が慣れると一人一人の技量の差が見えちゃう。

テーマは恋。舞台を見ていると、男と女の出会いや別れに見えなくもない。逞しく自律的な女性像と、相変わらずか弱い女性を求める男性の視線とが舞台に交錯する感じで面白い。

普段着にベレー帽で舞台挨拶をした近藤良平さんが、そのままの姿でソロで踊るシーン、キレのいい動きと軽やかの身のこなしはさすがプロだね。

訳が分からなくても、コンテンポラリーダンスは、脳の老化を防ぐと平田オリザが書いていた。ダンサーの華麗な動きを見ているだけでも血流がよくなりそうだ。

昼下がりの思春期たちは漂う狼のようだ

昼下がりの思春期たちは漂う狼のようだ

公益財団法人広島市文化財団 アステールプラザ

JMSアステールプラザ 多目的スタジオ(広島県)

2018/02/21 (水) ~ 2018/02/25 (日)公演終了

満足度★★★

上演は、2月21日(水)~25日(日)5日間で、全7ステージである。広島と蓬莱竜太がタッグを組む三年計画集大成と銘打たれたこの公演。その蓄積が何を産み出したか興味深いところだ。
中央の舞台を挟んで、対面形式の観客席はあわせて100名ほど。
中学の同じクラスで、十数年ぶりに再会した双子の在日二世の姉妹を中心に、クラスの彼・彼女たちの日々がさまざまなエチュードで描かれている。
観客にも一つや二つは思い当たるだろう青春の思い出、片思いと部活仲間とに行き違い、漫画家になる夢を打ち砕くクラスメートの心無い言葉、演劇部での幼い演技論の衝突など甘酸っぱいエピソード。
好きな彼女と同じ高校には行けない受験問題、仲良し3人娘の中でいじめの当事者が入れ替わり、クラスの乱暴者が父子家庭の父親から受けている虐待、引きこもりの息子に暴力を振るわれる母親の苦悩などの社会問題もほどよく散りばめられているが、その経緯やその後をうかがい知ることは出来ない。ただ、思い出の記念写真の中の彼ら彼女らが動き出すだけだ。
27人の出演者それぞれに、芝居の見せ場があり、全員が歌う合唱シーンやダンスシーンは、なんとも楽しげである。まるでハイレベルの学芸会のようだ。
16歳で姿をくらました姉ソジン(李そじん)の謎を妹のゲン(鈴政美穂)は、10年前の中学時代の思い出の中で見つけることができただろうか。
アフタートークでは、芝居に感激した若い観客の感想や質問が相次いだ。あたかも現在同時進行中のオリンピックのように、演じる側も観る側もこの取り組みに参加することに意義があったのかもしれない。

さよならだけが人生か

さよならだけが人生か

青年団

四国学院大学ノトススタジオ(香川県)

2018/02/06 (火) ~ 2018/02/08 (木)公演終了

満足度★★★★

開演が19:30なので、善通寺の駅から会場までは真っ暗で、うどん屋もとっくに閉まっている。ノトススタジオ(キャパ:100席)のある大学構内も人っ子ひとり歩いていなくて心細いこと限りなかった。
劇場の明かりにホッとする。
会場に入ると例の通り舞台には既に二人の役者が居て、退屈を持て余し、ひと悶着があったりの中での客入れだ。
時間になると休憩なしの110分の芝居が始まる。
相も変わらず、何となく気になる他人のいとなみはついつい興味があり、無責任な感想やら強引な持論やらに、うん、うんと肯きつつ自分も首を突っ込んでしまっている。青年団の芝居は相変わらずである。
アフタートークで平田オリザに、25年後の再演はどんな意味があるのかを訪ねると、劇団のレパートリーとして上演していくつもりだとのこと。自分の芝居には努めて時事性を除いて創作するように心がけているそうだ。そうするといつまでも芝居は古びない。ただ、携帯電話に関しては頭が痛いという。25年前にはもちろん携帯電話は今のようには普及していなかったので、舞台の役者たちはひとりとして携帯を使わない。劇作家は人とのすれ違いを描くことが多いので、携帯電話があったら「ロメオとジュリエット」は成立しない、だから最大の敵だそうで、頭が痛いという。
ロビーで販売していた著書の最新刊を購入し、サインを貰って、夜も10時過ぎ、凍てつく夜風の中を帰路についた。

ネタバレBOX

特に事件があるわけでもないまさに静かな演劇が繰り広げられる。1992年に初演され、「そのとき日本の演劇界が青年団を発見した」とも言われる劇団の出世作だが、あまり昔っぽい感じはない。
遺跡が発見され工事が中断された現場は雨降りの中で、工事現場の人や発掘の大学生、工務店の社員、文化庁の役人などが入れ替わり板張りの休憩所に出入りしてお茶を飲んだりお喋りをしたりする。一人娘の結婚相手の男に会いたがらない宮内のおっさんと訪ねて来た求婚者の男性、自分の留学の決定を恋人に話しそびれている女子学生が、相手の男に留学から戻ると分かれちゃう恋人が多いねと呟いたり。そんな中でのミイラ男の目撃情報がちょっとした事件か。
ウタとナンタの人助け

ウタとナンタの人助け

一般社団法人 舞台芸術制作室無色透明

広島市東区民文化センター・ホール(広島県)

2018/01/13 (土) ~ 2018/01/13 (土)公演終了

満足度★★★★

こんなにたくさんの障害を持った人たちと芝居を観る経験は初めてかもしれない。静かな熱気があふれる満員の観客席だった。
出演者にもたくさんの障害を持った人が参加している。車いすの人もいる。台詞や演技を覚えて舞台で演じることは大変だったろうと思うのだが、実際の舞台は、どこまでが演技でどこまでが素の当人だが分からないような緊張感をはらんだ演劇空間であり、とても30分の芝居だったとは思えない豊饒さが溢れている。
京都の柳沼昭徳が芝居を書き、宮崎の永山智行が演出した舞台だが、劇中には広島の地名がたくさん登場し、当時の少し古風な広島弁が随所に登場する。
アフタートークで聞いたところによると、上演時間はちょうどウタとナンタがマサルを送って行った広島駅(ピロシマ駅)から宇品港までのピロ電の乗車時間と同じだそうで、まさに同時進行の芝居だった。自ら長老役で舞台にも出演した山口隆司さん(NPO法人ひゅーるぽん)が、孤児になってもまわりの仲間たちに助けられしっかりと生きていくであろうユタとナンタの姿に多くの人が共感したとしても、現実は「児童養護施設を探そう」となる。私たちの世界は優しそうでいて実はとても冷たい社会だという言葉に、考えさせられることが多かった。
舞台演劇を都市圏に観に行くことは出来よう。でも私たちは自分たちの物語を必要としている。そんな舞台が地元でたくさん上演されるようになることを祈っている。

ネタバレBOX

印象的だったのは、死ぬことになった母との別れが納得できないウタが、別れのあいさつをできないまま母は死の国へ旅立つ場面だ。現在の日本は世界一の長寿を謳歌し、もはや子どもは親の死を悲しむ余裕があるだろうか。
ウタはその別れのあいさつのために、マサルを人間の世界に返す旅に出るのだ。その道中で、かつては人間と猿猴達は仲良く暮らしていたが、原爆を境に、猿猴達は自分たちだけのピロシマという世界を作ったことが明かされる。のんびりと仲良く暮らす彼らの世界。それは同時に、今の人間たち、私たちが作れたのかもしれない世界でもある。
人間界に戻れたマサルを迎えに来た母は車いすの役者が演じた。それまでは嫌っていた母なのに、柔らかい言葉で話しかけ、ゆっくりと車いすを押す彼の姿に胸がいっぱいになる。猿猴達のようなのんびりとした平和な世界は失ってしまったけれど、私たちが、心の中の猿猴達の世界を持ち続けることが出来たら、まだやっていけるんじゃないかと、勇気をもらい背中を押してくれたそんな舞台だった。
広島ジャンゴ

広島ジャンゴ

公益財団法人広島市文化財団 アステールプラザ

JMSアステールプラザ 多目的スタジオ(広島県)

2017/02/16 (木) ~ 2017/02/19 (日)公演終了

満足度★★★★

たった一人の木村になるために

直前まで観に行くかどうか迷った。西部劇らしい?!
あまり期待できない気がしたのだ。客席には200名近くの観客席、しかもほぼ満席である。
それは私の予想を裏切る舞台だった。
まさか広島で、まさかアステールで、広島作のこんな骨太の舞台が見られるとは思わなかった!
西部の町「ヒロシマ」の舞台は、違和感なく目の前で繰り広げられる。アクションがらみのダンスシーンもなかなかの迫力だ。
一人っきりの異質な人間を、和の国日本では、「なぜ折り合いが付けられぬ」「なぜ諦めて人と同じように出来ぬのだ」と公然と追い詰めるところがある。
終幕部の穏やかな静けさが、ことに印象的。
誇り高き弱者のために、私たちは「たった一人の木村」になれるだろうか。

不信 ~彼女が嘘をつく理由

不信 ~彼女が嘘をつく理由

パルコ・プロデュース

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2017/03/04 (土) ~ 2017/04/30 (日)公演終了

満足度★★★

念願の三谷幸喜の舞台を観た。チケットが手に入ったのだ。
観客席が対面に設えられ中央が舞台だ。間取りが対称な隣同士のマンションに住む、2組の夫婦。休憩を挿み、2時間余りの舞台だが、テンポのいいセリフとスピーディな舞台転換で飽きさせないのはさすが。
4人の役者の中では、テレビの印象と違い、優香、声も台詞もキレイで、対する戸田恵子に一歩も引けを取らない。三谷の芝居では常連の、段田安則が見られたのもよかった。
シチュエーションコメディだから、三谷幸喜の面目躍如の筈なのだが、期待があまりに大きすぎて、いささか消化不良気味。後半の殺人の場面が、説明台詞だけだったのもガッカリだった。
地方の演劇ファンにとっては、評判作の演劇チケットを入手するのは至難のわざだから、辛いところである。

南島俘虜記

南島俘虜記

青年団

こまばアゴラ劇場(東京都)

2017/04/05 (水) ~ 2017/04/23 (日)公演終了

満足度★★★★

Bチーム
竹と木の葉で編んだ南の島らしい簡易づくりの医務室にのんびりとだらしなく寝転ぶ捕虜たち、熱帯の木々に囲まれた舞台美術は客席も覆い尽くすばかりで、まるで南の島にワープしたようだ。
近未来の日本は戦争中で、だが捕虜としてとらえられた日本兵たちの収容所は、平和そのもの。努めて緊張感を持たせないような演出で、捕虜たちの怠惰な日々が描かれる。
若い役者の卵たちはさすがに演技も台詞も達者だが、舞台に登場しない部分の奥行と言うか演技の深みが乏しい気がする。きっと、もっと面白い芝居になったろうな。

フェードル

フェードル

パソナグループ

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2017/04/08 (土) ~ 2017/04/30 (日)公演終了

満足度★★★★

大竹しのぶの舞台をやっと見ることができた。ギリシャを舞台とする堂々とした台詞劇だ。シンプルな舞台装置。ギリシャ劇の耳慣れない台詞回しは、さすがにしっかり耳から心に届く。時おり客席には吐息のような笑い声が広がる。
何といっても、大竹しのぶがステキ。愛おしく、狂おしく、憎らしくと緩急自在な台詞の蠱惑的なこと。

広島アクターズラボから生まれた「五色劇場」の試演会「新平和」

広島アクターズラボから生まれた「五色劇場」の試演会「新平和」

広島アクターズラボ

広島市東区民文化センター・ホール(広島県)

2017/06/09 (金) ~ 2017/06/11 (日)公演終了

満足度★★★★★

演劇とは他者の世界観を見に行くものだと言った人がいる。
まさにそんな演劇に出合えた。
それぞれの演者にとって世界がどう見えているのか。それが生き生きと伝わってくる。役者は、自分に見えたその世界観を演じるために、演技以外のさまざまの勉強をしたそうだ。その集合知の重さが舞台にある。切り取った世界のコラージュの巧みさと、センスの良さで、見る者を飽きさせない。
悪戦苦闘の手探りの中、やっと試演にこぎつけたというが、観客席の私には、演劇にはこんな描き方もできるのだと、まさに目からウロコであった。
台詞と役者の本音が交錯した舞台のように見えながら、実はアドリブは全くないとアフタートークで聞き、更に驚かされた。
残すところ2ステージです、観ておいて損はないと思う。

人形の家

人形の家

第七劇場

広島市東区民文化センター・ホール(広島県)

2017/09/01 (金) ~ 2017/09/03 (日)公演終了

満足度★★★★

ノラの物語は想像していたのとは違って、夫のヘルメルはそれほど無神経な鈍感な男ではなく、ノラは思っていたより遥かに思い込みの強い、世間知らずで驕慢な感じの女だった。
だが、社会や世間と同じように、女を一人前の人間と見ない、信頼に値しない未熟なものだとする見方を、夫がした時のショックは計り知れない。
舞台では家を出ていく前のノラと、出て行った後のノラが同時に現れ、時に互いに語り掛けたりもする。出て行った後のノラをもっと幸せになったように描くこともできたのではと歯噛みする思いだ。
自分の不運を、とともすれば身近な夫や父親の責任だと思い込む。真の敵は国の大きな仕組みや昔からの宗教観、長い間の習慣の影響であるかもしれないということに、なかなか目がいかない。
出て行ったノラと、ノラが出ていかないでこの家に踏み止まったとして、女はどちらを選んだら幸せになるのだろうか。この日の観客に聞いてみると、残った方が幸せという人が4割、出て行った方が4割、どちらでもない人が残りだったようだ。残る方に手を挙げた人は男性が多かった気がする。
彼女が置かれた状況・自身の資産や信頼できる知人、世の中の景気次第で、選択は様ざまだろうと演出の鳴海さん。
ノラは何と戦えばよかったのだろうか。

ワンピース

ワンピース

松竹

新橋演舞場(東京都)

2017/10/06 (金) ~ 2017/11/25 (土)公演終了

満足度★★★★★

歌舞伎座の前を通って、新橋演舞場へ。骨折した猿之助に変わり尾上右近が主役のルフィを演じることになったので、劇場入口でチケットの一部返金サービスをしている。3階席の私は500円の払い戻し。
演出は横内謙介、3幕で幕間休憩を挿んで5時間近い上演時間。1幕より2幕、2幕より3幕の上演時間の方が長くなっているのに、後半に従ってこれでもかこれでもかと面白くなっていく。せりと回り舞台を使ったダイナミックな場面転換で、特に本水を使った滝の流れを背景にした戦いの場面では、流れてくる水を飛び散らしながらの派手なアクションに度肝を抜かれる。私の席は、花道が真下で全く見えない3階席だったが、おかげで宙乗りでルフィたちを目の前で見られて大感激。3幕のエース決戦シーンは圧巻で、クルクルとトンボを切って動き回る炎役の役者の動き、流れるように美しい壮絶な対決シーンだった。
歌舞伎の役者さんと小劇場の俳優の共演でこんなに面白い芝居が観られるとは正直思っていなかったので、3000円のチケットでこれだけ楽しめれば、文句はない。又ぜひ観に来たい。

きらめく星座

きらめく星座

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2017/11/05 (日) ~ 2017/11/23 (木)公演終了

満足度★★★

まあまあの芝居が観られる割に、チケットが比較的取り易いのがこまつ座で、急に東京方面に行くことになったときに結局「こまつ座」ということが多い。チケットが一律8000円というのがちょっと痛い。前の方の席が取れないと損だもの。
3時間近い長丁場の芝居で、時おり集中力が切れたりしたけど。音楽学校の受験生役が弾くピアノの生演奏で役者が歌ったり踊ったりするコミカルな芝居は、懐かしい歌謡曲が何曲も歌われ楽しい。再演のためか細部まで行き届いた演技で呆れるほど役者は巧いし。「こまつ座」ファン、『きらめく星座』ファン(こまつ座では何度も上演されている)が多いのも頷ける。
栗山民也の巧みな演出で芝居の楽しさ満載ではあるが、登場人物たちのささやかの幸せを押し潰していくものの正体が、今ひとつ私には明確に見えなかった気がするのは残念だった。

プライムたちの夜

プライムたちの夜

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2017/11/07 (火) ~ 2017/11/26 (日)公演終了

満足度★★★★

リーズナブルなサイドの2階席が取れた。多少観にくいが舞台がとても近い。久々に浅丘ルリ子も観ておきたかった。ご高齢なので、これが最後かもしれないなどと失礼な(!)思惑もあり。
平田オリザのロボット芝居もある中で、役者がアンドロイドを演じるのは興ざめかもしれないと危惧したのだけれど。これがなかなか良かったです。
亡くなった人とそっくりのアンドロイドが開発された近未来。
浅丘ルリ子の80歳過ぎの老女の芝居は、さすがに真に迫った感じがあり、見事だった。ところが次の場面でアンドロイド役で登場した時には、ひややかにシャキッとしたアンドロイド振りで感心した。女優というは凄いものだ。
娘が老いた母のために頼んだのがアンドロイドである彼女の夫(しかも若い頃)、その娘が死んだ後に娘の夫が頼んだ妻のアンドロイドと、役者が本人役とアンドロイド役の二役を演じるのだが、その演じ分けがスゴイ。「それは記録されていません」という台詞が笑える。
そして最後のアンドロイドたちの会話、これが衝撃だった。
アンドロイドたちは、あとからインプットされた情報しか持っていない。ロボットにない、一番の人間らしさは、弱さであり狡さなのであろうかと考えさせられた。

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