ハンダラの観てきた!クチコミ一覧

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Here Come The Angels!

Here Come The Angels!

ぷろじぇくと☆ぷらねっと

ブディストホール(東京都)

2023/10/25 (水) ~ 2023/10/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 Project★Planet20周年記念公演である。子供だけが罹る原因不明の奇病。片や対策を練る研究者グループ、そしてもう一方におばばと、おばばのもとに身を寄せるアリス。彼女らは、いのちのスープを作り続ける。(1回目追記)

ネタバレBOX

 さて、今作一種のSFでもあるが、描かれているのは無論ディストピアだ。人類が為している愚かな行為の結末はそれ以外に在り得ないであろうから、これは必然である。願わくはそうなって欲しくは無いものの世相を眺めている限り避けられまい。で、今作で描かれている奇病と、その前提となっているのが「大災害」だ。地軸の変化によ因るのか他の原因に因るのかは定かでないが、作中語られる処に拠れば大規模な地殻変動に伴う気候の急激な変化によってバクテリア、植物などが大量に死滅、食物連鎖上位に在った生き物はその影響を受け多くが生命の危機に向き合った。滅びたものも多い。当然人類もその煽りを食った。
明日葉の庭

明日葉の庭

ことのはbox

武蔵野芸能劇場 小劇場(東京都)

2023/10/19 (木) ~ 2023/10/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 板上には嵩上げした床。日菜子の運営するシェアハウス・明日葉ハウスのリビングルームがある。下手奥に二階へ上がる階段。ホリゾント奥にキッチンがある。上手側壁の中ほどに手洗いの扉。リビング中央には大き目のテーブルに腰かけ。建物は柱や梁の構造だけを示し観劇に適した構造のみ表現。造作の手前客席側板部分が外部であり、上手は隣家に繋がっている。隣家の稼業は農家、口喧しい爺さん・土井垣が暮らすが根は優しい。

ネタバレBOX


 Team箱を拝見。明日葉ハウスに暮らす住人は女性ばかり。というのも入居条件が女性だからである。入居者を順に上げてゆく。樫山智恵子は最も新しい入居者で然も最終入居者である。理由は簡単、最後の部屋の入居者だからだ。築70年の古民家ではあるが清潔で部屋が広く、然も周囲の環境も良く家賃が安いのが魅力の物件である。離婚届けを突きつけここに来た。食事は1食500円。食べた分だけ支払うシステムで残置の場合、ホリゾントに掛かっているカレンダーにその旨書き込む。調理は当番制、一番上手なのが良美、元専業主婦。京子はバツ3で酒飲み、地元のスーパーでパートをやっているが店長・岡田に気に入られ店長の元気の元である。が、余りにデレデレで近所の評判も悪い、と娘のあゆみに邪魔だてされ一時パートに出られなくなるものの、父が激痩せしあっと言う間に年老いたのを観たあゆみが仕方ない、と許した為、彼女はパートに戻り店長も結局復活。復活後はジョギングなどもこなし却って若返った。真紀はインドの有名な俳優の子を産んだが彼の訃報を受け此処に来た。おいしいカレーを作るが、カレーだけしか作らない。他にブロガーが居て、ブログを魅力的なものにする為にカメラの腕も磨き年中写真を撮ってアップしている。因みに一応何処へ隠れたかは明かさずに離婚届を突きつけて家を出た智恵子を訪ねて一級建築士の夫・森が明日葉ハウスを探り当てたのはこのブログがきっかけであったが、ブロガーは当然、樫山に写真掲載の許可は取っていた。夫と苗字が異なるのは旧姓を智恵子が使っているからである。メンバーの中にはインスタントラーメンしか作れないメンバーもありそれで500円は高いが、浮いた分はおいしい料理を作る人が当番になる時の食材費として流用されるので問題は無い。
ところで高齢社会を扱った作品なので当然認知症問題も出てくる。日菜子の幼馴染・円香の祖母・キヨが自分の家を明日葉ハウスと思い込んで年中上がり込むのだ。それが原因ではないのだが日菜子はこの問題に対処する為入居者が年老いて介護が必要になる事態を踏まえその為の資格を取るべく勉強に励んでもおり、このような日菜子を愛する農家の跡取り息子・はにかみ屋だが能力も高く優しい水島裕一郎から明日葉の根を貰い育て方など細かいことも教わる。この根から新芽が芽吹き大きくなった夏、島を台風が襲う。この台風で皆が避難する時、それまでの無理が祟った日菜子が倒れ危急を知った裕一郎が彼女を救った。これが、ぶきっちょな裕一郎が自然な形で彼女を射止める契機となった。この時の裕一郎の台詞が良い。「明日葉は強いが繊細だ、俺はハンノキになる」という意味のことを言うのだ。それまでに明日葉についての説明をした時に明日葉の強さと繊細さについても述べており、繊細な明日葉はその庇護者として最適なハンノキの根本に植えるのが良いという話をしていたので、日菜子を明日葉に自分をハンノキに準えての台詞である。更に台風で傷んだ明日葉ハウスのリフォームをブログを妻の旧姓を用いて検索し間違いないと再確認した森が一旦は男優位の論理で智恵子に対したことを皆から批判されて反省した上で再訪、自分にリフォームを任せて欲しいと申し出る。またリフォームの期間中、住民が何処で暮らすかについても隣の土井垣はじめ島の人々が面倒を引き受けてくれることになった。
 唯、現実に翻弄される生活を送る自分には、森の男性優位社会当たり前という価値観が、即ち複雑に絡み合うジェンダー問題がそんなに簡単に片付くとは思えないという実感は残った。
DOLL 全公演終了しました、ご来場ありがとうございました!

DOLL 全公演終了しました、ご来場ありがとうございました!

KUROGOKU

王子小劇場(東京都)

2023/10/18 (水) ~ 2023/10/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 タイゼツベシミル! この所、優れた作品を拝見してきたが、今作名作と言われるだけあって流石に凄い。兎に角図抜けた脚本の良さを丁寧にまた懸命に舞台化する姿勢が、描かれている内容と相俟って多感な高校1年女子の姿を見事に届けてくれた。華5つ☆。自分的には今年拝見した作品のトップ。尺は100分。(第1回追記2023.10.21 追記2回目同日夕追記はこれで終わり)

ネタバレBOX

 LチームとRチームがあるが、Lチームを拝見。今作、今回は再演である。一昨年vol.7として1度公演しているということだが、前回は女子高生を演じた同じメンバーで語り部役もこなしたが、今回は別建て。今回はより深くより忠実に原作を解釈した、という。出来は上記で記した通りだ。また諸般の事情により当初演出を予定していた浅川拓也氏及びシングルキャスト2名が降板するということもあり、急遽主宰の黒柳安弘氏が企画・政作・照明の他に演出も担当した。主宰とはいえ過重な負担をキチンとこなしている。その労に報いた役者陣のきめ細やかで役の意味する処を生きている演技が死という誰も己の死ぬ瞬間を知ることが出来ない未知に向かって突進してゆく方向に舵を切ってゆく道程が余りに悲しい。出帆してゆく5名の少女は、寮制の高校に入学した1年生。人生のうちで最も多感な時期を同部屋で過ごしたルームメイトである。因みに5人それぞれのキャラを挙げておくと両親の離婚後母に引き取られ放任主義で育てられ自分独りで生きてきたという感覚が強く酒・煙草もやり髪も染めロングスカートを履いて、規則等の方が自由な判断で動く自分の基準より害があると主張する突っ張りであるが、男女間の乱れは余りなさそうな京子。中学時代は生徒会長をやっており、面倒見が良いとみられ、またそのように観られるような行動を取ってしまうが、内奥ではそのような自分を決して好きではないづみ。父の医院を継ごうと医師を目指し、その為勉強に励む秀才、中学時代の成績も学年で1番、今回の入試でもトップの成績で入学した麻里。神経質で内心では自由に振舞っているように見える不良っぽい京子に憧れているが、現実には最も激しく京子と張り合ってしまう。ルームメイトの恵子は中学時代からの友人である。この高校に入学するまで1人では電車に乗ったことも買い物をした経験もなく、入学式当日も大きな枕を抱き何かあれば母に電話を入れ迎えに来て貰って対処する。学業成績も振るわないみどり。一見極めて普通に見えるが、親しくなったようでも必ず何処かに距離を保ち自らは決して矢面に立とうとせぬよう殆ど無意識に振る舞ってしまう惠子。5人のうち唯一、熱烈なラブレターを貰い、デートを重ねた経験を持つこととなった。その相手は、この女子高でもファンの多い他校の生徒会長、上村であった。が、上村を真剣に恋して居たのはいづみであり、真剣な恋であったればこそ、上村が本気で好きになった惠子に譲っていたのである。上村が如何にもてたかは、ルームメイトの中にもバレンタインデーにチョコを上げようと憧れていたみどりが居たことでも明らかだ。ところで丁度そのバレンタインデーにデートの約束をしていた上村とのデートを惠子はキャンセルしてしまう。理由は頭痛であったが、この頭痛の真の原因は、上村が惠子にそっくりな人格を持ち、そのことが重く圧し掛かって彼女を苦しめくたびれさせてしまうからであった。ハッキリ恋の是非を問う上村に理由は応えることがでいず彼女はただ非と答えた。上村は自殺してしまう。
 各々のキャラ説明に物語の展開を若干交えて説明した。凡そのイメージは掴めただろうか? 初見の作品だし原作も読んだことさえ無いのでハッキリしたことは言えないが、今作の脚本で見る限り脚本家が生きた魂を鋭利な刃物で腑分けするような生々しく痛々しい台詞が随所に書き込まれていて衝撃を受ける。恰もランボーの詩節でも読むような衝撃感である。だが、それだけだろうか? 自分はそうは思わない。それだけであればタイトルに表現する者である劇作家が“doll”とは付けまい。様々な意味がある単語・dollではあるが、最も一般的な日本語訳である“人形”と解釈してみる。人形ならば持ち主が居るであろう。少女たちの持ち主と言っては何だが法的責任者は親であるから、一応親が少女たちの護り手、庇護者ということになろうか。少女たちも無論物ではない! それでは「親」を敢えて単語化すれば「家」と言えるのではないか? もっとハッキリ言えば、この国の見えない制度即ち明文化されず唯影のようにその当事者が存在する限りまた僅かな光源が在る限り必ず付いて廻る雰囲気や暗黙のタブーといった規制そのもののように自分には思われるのである。ラストシーンでは死後の少女たちの会話が描かれるが、このシーンもありきたりの、観客を演劇空間から日常へ戻す為の装置として描かれているのではない。むしろ敢えて明文化されず実際に人間の自由や個別の尊厳に対してお門違いの規制を掛け、縛り付け、差別する現実世界への抗議、否もっとハッキリ言おう。アイロニーとして描かれているのであろう。そして観客は衝撃と共にこのアイロニーをも共有するが故に名作と呼ばれ続けているのであると考える。観客として観たことの内実を決して忘れぬ為に!
恋の焔炎

恋の焔炎

ARTE Y SOLERA 鍵田真由美・佐藤浩希フラメンコ舞踊団

日本橋公会堂ホール「日本橋劇場」(東京都)

2023/10/17 (火) ~ 2023/10/18 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 約90分強。これほど義太夫とフラメンコが合うとは、驚嘆!

ネタバレBOX


 アルテイソレラは、これ迄も能、歌舞伎等とのコラボを経験してきたが今回は歌舞伎と並ぶ江戸文化の華人形浄瑠璃、中でも太夫の語りと太棹のコラボで華やかさ、劇的効果を高めた義太夫とのコラボを目玉の1つとしている。オリジナルとして藤間清継さん脚本で
「摂州合邦辻」から紡いだ『玉手』は有名な俊徳丸(継子)に命懸けの恋をした継母(玉手御前)の凄絶な愛の形が描かれ圧巻!
Programは以下の通り
1. 恋の焔炎
2. 梅酒 高村光太郎が妻、智恵子が狂う自分の後始末をしだし、己の死後に飲むように作った梅酒に纏わる詩にインスパイアされた作品。
3. 狐火 史実には反するが武田信玄の息子、勝頼に恋した上杉謙信の娘、八重垣姫。勝頼の危機を救う為、湖の神の使い狐の力を借りて湖を飛び越え追手の危機を知らせる。
4. 玉手~摂州合邦辻~
5. 愛の終焉
6. 蝶の道行
7. 秘想~petenera~
8. 永遠のまにまに
尚、3と4、5と6の間に解説が入る
ちょんまげ手まり歌

ちょんまげ手まり歌

劇団演奏舞台

演奏舞台アトリエ/九段下GEKIBA(東京都)

2023/10/13 (金) ~ 2023/10/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 べし、観る! 素晴らしい。華5つ☆ 追記後送
 劇団創立50周年記念公演Ⅲとして上演された今作。50周年記念公演としては最終作である。何れの公演も何れ劣らぬ素晴らしい公演であったが、今作の脚本、演出、演技、演奏、舞台の使い方など見事な完成度である。原作は上野 瞭、脚色・台本が江深シズカ、演出・音楽・美術が浅井 星太郎である。

ネタバレBOX


 板上は上手ホリゾントと側壁に沿い奥の出捌けに向かって階段状にせり上がるように平台を積み重ね登退場が効果的に見えるように工夫されると同時に、下手演奏者の奥の側壁に更に出捌けを設けることで今回登場人物が多い点を難なくクリアしている。上手側壁には大きな扇子が開いた状態で掛けられている。これら以外の空間が基本的な演技空間である。オープニングでは、この板上にかなり大きな手毬が置かれ明転と同時に女児が手毬を投げ上げて掴まえる遊びを繰り返している。背景には無論、手毬唄が流れている。重ねるように、このやさしい国の殿様の名代を務める玄蕃から、女児・みよの父・池之助に「池之助、みよは幾つになった」との声が掛けられる。
 物語は山がちの内陸国で田も畑も極めて乏しく海にも面していない為漁獲も望めず、できる物といえば夢見の実という万能薬の原料のみという限界集落の極めて必然的な政治形態とそこで暮らす人々の生活を対比的に捉え一方に為政者の論理とその論理を成立させる為の政治的欺瞞、それらの嘘を擁護・補完する為の詭弁を他方に自らの頭で考え疑問を抱き事実を求めて真実を見出そうとする民と民の代表として為政者サイドと交渉する殿の相談役・弥平と先に年齢を問われたみよが規定の年齢に達し池の助は既に妻とみよの姉たち2人をお花畑に送ったこともあり、末娘のみよだけは優しい女となる儀式に参加することと決まったことを通して、みよの命が永らえることを喜び、玄蕃直々にみよを迎えに来ることにも感謝をしていたが、弥平に取りついた“虫”が自分にも取り憑いたと感じる出来事があった。然しお花畑へ赴くことは還らぬ人となることを意味し、命を永らえる為にはもう一つの選択肢やさしい女か男児であればやさしい男になるしか道は無かった。
Strangerーよそ者ー

Strangerーよそ者ー

劇団 Rainbow Jam

シアター711(東京都)

2023/10/11 (水) ~ 2023/10/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 物語は、フランチャイズの加盟店、府中東店スーパーサンエーの休憩室で展開する。如何にもそれらしく下手客席側の側壁には着替えスペースに通じる通路。その目隠し用にクロスが床まで垂れ、通路沿いに荷物等が置けるようにボックス形式の凹みが幾つも作られている。ホリゾントの壁、下手側側壁、上手側側壁にはカレンダー等の他たくさんの張り紙。部屋の中央にテーブルと丸椅子。上手側壁壁際には様々な小物等が入った収納棚と予備の丸椅子。出捌けは下手のドアと上手側壁、着替え場所を袖として使えばここも出捌け可能である。尺は90分。RとJ、一部キャストは配役を入れ替えて演じられる。小生はRを拝見。(今回、挙げた場面で終わりではない、追記後送)

ネタバレBOX


 オープニング早々、早く出社してきたパート女性達が雑談の最中、経営者の息子、ぼっちゃんが血相を変えて飛び込んで来たシーンで急転。何でも父親(店長)が失踪したという。書き置きがあり、それには一言、ゴメンとだけ記されていた。やや遅れて到着した別のパートが駅で店長を見掛けたという。ぼっちゃんは近場の駅名を3つ挙げ、父を見掛けたという駅に大急ぎで駆け出してゆく。この頃になるとパートの人々も揃いぼっちゃんの応援をして盛り上がっている。ぼっちゃんが皆に好かれていることが良く分かるシーンだ。
 場転、フランチャイズ本社で代理店長への辞令が下される場面から、新任の店長として赴任して来た店長の挨拶。それから数日後のミーティングで、この店の置かれている状況が話されている中で新任店長がお仕着せの改革案を出すがこの地域の個別事情、各パートの事情等にも疎いことをパート従業員の中で最も冷静に世の中を見、論理立てて見解を述べることのできる太田(岬)から突っ込みを入れられる。侃々諤々があり元々優秀な新任店長も胸襟を開き皆と本音で対峙することとなった。自らの赴任事情、立て直しに与えられた時間、また立て直しに僅か3か月しか与えられないことの意味として業績の悪い店舗の整理であることなども明かされる。また、自らが派遣されたのは自分が上司から受けたセクハラを告発した為昇格措置を取られ別の部署に送られていたことなども話した。面白いのは、この会議の直前、それまでのメンバーは綽名で呼び合うことを正式決定していたことであった。但し綽名は呼ばれる本人が自ら気に入った綽名を選ぶのが基本だ。そうすれば気に食わない綽名で呼ばれなくとも良いからである。目的は互いの距離感を縮めることにあった。こんなこともあり、新任店長も綽名で呼び合う仲間として溶け合ってゆく。こうして地盤ができたところで新店長は全員からの忌憚のないアイデアを求めた。様々なアイデアが基本的にお客目線から提案され実行に移されていった。然し、フランチャイズ本部の部長から至急電話が店長に入った。内容は“業績回復が思わしくない。従って府中東店は今月限りでフランチャイズから外れて貰う、との内容であった。同時に新店長の進退も強制はできないものの、業績回復を果たせなかった者として進退を自ら決めて欲しい”というものであった。さて、どうする?
或る夜の

或る夜の

劇団芝居屋かいとうらんま

OFF OFFシアター(東京都)

2023/10/06 (金) ~ 2023/10/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 一風、変わった作品だが面白い。(華4つ☆)

ネタバレBOX

 物語は某地下鉄駅のホームで展開する。従って舞台美術は地下鉄のホーム。板上には太い円柱が2本少し前後をずらし適度な距離を置いて天井へ向かって伸びており、下手は駅の側壁とみえる。即ちホームの端に当たる場所だ。上手はホーム側に迫り出した部分があるので階段があるのかもしれないが狭くなっている。ホーム上にはやや不規則な市松模様。線路があるのは客席側という設定だ。
 最終を待つ人々は原因不明のシステムトラブルに巻き込まれ地下鉄のホームに閉じ込められてしまった。当初帰らなければならない理由だとか、締め切りに間に合わないとか、スマホの送受信が出来ない等様々な不平が聞こえる。そんな乗客たちは、平身低頭の駅員に詰め寄る。何とかならないのか? との切実な思いから。駅員は兎に角、出来ることを全力を尽くしてやる。然し防火シャッターが閉ざされ、緊急時職員の通る非常用出入口も閉ざされ、通信も一切通じない。外界からの受信も出来ないのだ。乗客たちのスマホも総て送受信できないことは先に記した通り。2時迄にバイト先へ到着できなければ仕事を失うと悲痛な叫びを挙げていた若い女性が線路伝いに歩いて脱出すると線路内立ち入りを決行しようとするが、駅員のみならず他の乗客たちも外界の状況が全く不明の折、急に回復して列車が走ってきたら確実に死ぬ、と諭して漸く収めた。この時の対話でバイトを失いそうな女性が反論した際、現代日本の極端な格差を生む雇用形態の差が如実に表れる点もグー。
 ところで、今作には不思議なキャラクターが登場する。乗客によってその人物は、高校時代の教師に見えたり、不倫相手であったり、犯罪者仲間であったりと様々に変容するのだが、実際には誰なのか分からない。然も乗り損ねた乗客の中には週間誌の記者とスタッフが居て記者は現在芸能人などのスキャンダルを扱う部署にいるが、本来は社会的な事件を扱う事件記者や社会部が扱うような記事を書きたいと望み普段から気がかりな事件についてはデータを集積していた。そしてこの不思議な人物が凶悪な殺人犯に極めて良く似ているとスタッフにもデータ写真を見せ警戒しだしたのである。
 次第にこの話が皆に伝わり結果、不思議な人物と記者は対決することになるが。不思議な人物はある質問を記者にぶつける。それは記者の生き希望していることに対する最も本質的な問いであった。記者は応えることができない。
 あとは読者の想像力に任せる。尺は約80分。
カムパネルラとジョバンニ

カムパネルラとジョバンニ

劇団紐すとり

アートスタジオ(明治大学猿楽町第2校舎1F) (東京都)

2023/10/06 (金) ~ 2023/10/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 旗揚げ公演とは思えない完成度。

ネタバレBOX

 おしゃれ且つ合理的な舞台美術だ。板中央左右に階段を設けた高い平台を置き、銀河鉄道の背凭れを真ん中にした座席が2つ真横から見た形で設えてある。座席奥には車両の窓。ホリゾント、両側壁、観客席に最も近い、板と客席の間に分度器を中心から間二つに割ったような小さなパネルを置き各パネルには諸星や宇宙の渦の一部分をあしらったような文様が描かれ極めて幻想的なイマージュを形作っている。出捌けは最も手前のパネルのある上手、下手の袖から各1か所。
 登場するのは、カムパネルラ、ジョバンニの2人だけである。然し原作の本質を見事に抽出しカムパネルラの与える人としての遠慮がちで思慮深い性格でありながら物事の本質を良く掴み弱者に手を差し伸べる賢者の優しさが見事に表れているのは、間の取り方の上手さをみても良く分かる。その掌(たなごころ)で傷つきつつ成長してゆくジョバンニの前進し成長してゆく様が痛々しくも哀しみを誘うが、逆境に置かれた者のこれが宿命というのが残念乍ら世の中の現実である。ジョバンニは、この宿命を背負い雄々しく逞しく生きる知恵をも得ると信じたい。
 感心したのは、原作は主人公や登場人物を子供中心に描きながら極めて哲学的な作品に仕上げているように思われ、子供向きというより寧ろ読者としては大人を対象としていると思えるほど哲学的な作品であるが、今作では子供たちがホントに面白がりそうなシーンを急勾配を銀河鉄道が下るシーンでカムパネルラもジョバンニも座席から転がり落ちそうになるほどつんのめったりするシーンを入れて真の子供らしさを作品に織り込んでいる点だ。見事である。役者2人の演技も各々の役回りを生きてグー。キャスティングも良く、先に挙げたように舞台美術もセンスの良さを感じさせるしスタッフの対応も良い。お勧めである。終演後には舞台美術の撮影もOKだ。尺は1時間弱。人間の本質が描かれた作品である。
A.R.P festival ~2023~

A.R.P festival ~2023~

A.R.P

小劇場B1(東京都)

2023/09/29 (金) ~ 2023/10/02 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

Team Aを拝見。演目は以下の6本。「アキバの中心で愛を叫ぶ」「上京物語」「心の声、激しめ」「父親の苦悩」「46」「タロットカードが決めた恋」

ネタバレBOX


 この小屋としては極めて珍しく入口右手の客席は取っ払ってあった。従って客席は板の対面のみである。ホリゾントと下手側壁に板から天井まで斜めにテープが張られ板上には、バーカウンタ状の箱、丸テーブル2つ、その各々に椅子が2脚ずつ。尺は約100分。テイストも尺も異なる作品がオムニバス形式で演じられる。各作品タイトルは細い帯状のものに記されたタイトルを役者が持って示してくれるが、席によってちょっと見えずらいケースもあった。基本短めの喜劇をオムニバス形式で上演するので、ネタバレは野暮というものだろう。



「HATTORI半蔵‐零‐」

「HATTORI半蔵‐零‐」

SPIRAL CHARIOTS

シアターサンモール(東京都)

2023/09/27 (水) ~ 2023/10/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 Aキャストを拝見、途中10分の休憩を挟み2時間45分。全く飽きさせない。(追記2023.10.1 )

ネタバレBOX

 時はアズチモモヤマ、群雄割拠の戦国時代である。残ったのは尾張・織田ノブナガ、三河・徳川イエヤスを始め武田シンゲン、上杉ケンシン、伊達マサムネ、毛利モトナリら六将。各将軍は天下布武を目指し覇を競っていたが、三竦みならぬ六竦みの状態が長く続いてきた。この局面を打破し天下布武を為す為に彼らが目を付けたのが伊賀の里・赤目に暮らす忍者集団であった。この里出身の忍者達の力、一騎当千と噂されジパング統一を目指す各将軍は中でも最も優れた忍者を召し抱え自軍の勝利を得んものと里の上人に世話を頼んだ。忍びの定めは例え親子・兄弟、恋人同士でも仕えた者の敵とあらば己の受けた任務を果たすことである。即ちヒトであるより先に忍びであることを強制されそれに従ってくることによって忍者集団として生き延びてきたのである。各将軍の下に配属された忍びは各々得意な術を誇り、各将軍の下に散った。物語はこれらの忍びと各将軍とが係る戦、各将軍と忍びとの関係等を通して各々の人間性、忍び同士の人間関係、里の赤目との関係を本質を突いた台詞と華麗な衣装と見事でソフィストケイトされた殺陣で表現してゆく。殊に忌み子として育ち絶えず石をぶつけられたり、時には手裏剣すら投げつけられる伴左衛門(サエモン)は傷の治りも早く多くの術が効かぬとされたが、彼の術は表向き唯一つ、人を惚れさせる能力であった。然しその術は六人の忍びの中でも最も高いレベルにあった。その彼が命を懸けて愛したくノ一、カズラはイエヤスに仕え、サエモンはノブナガに仕えたのである。戦国末期を代表する両雄に、愛し合う純粋な若い忍びの恋が絡み序盤から最終場面迄強い吸引力を持ち続ける。同時にノブナガの明晰な頭脳の能力の高さ、例えば状況把握の的確、驚嘆すべき分析、パースペクティブの広さと深さ、揺るぎない意思、実行力等に対抗するにイエヤスは天下泰平をスローガンに民を理解することを最優先事項と定め、民を富ませフランクに対応しようとする。ノブナガの面白い点はヒデヨシの言によれば、非道無情と悪評が立つこと自体、仮に両雄が争ってノブナガが敗れた場合には、非道無情の将を討ったということでイエヤスは英雄視されその後の治世に安定を齎すということまで読んだ上で戦うことを考えている、とのことが語られる。他の将たちもそれぞれ魅力的な側面を持つ、例えばマサムネ支配の城下では、各々の将に付いた密偵が集まる茶屋の如き商家があった。当初、密偵達は互いに探りを入れ合い可成り剣呑な状態であったものの、暫く同じ商家で働き、共に食い、共に飲んで徐々に互いの警戒心や疑心暗鬼を解きフランクな付き合いをするようになっていた。一種のユートピアが実現していたのである。これも将軍としての独眼竜・マサムネの魅力を示す事例である。モトナリは頭脳派。権謀術数に長け多くの他家をその冷徹の餌食にしてきた。ケンシンは毘沙門天を崇拝し毘沙門天の恩恵を民に分け与えることを目指していた。シンゲンは豪放磊落の武将として名を馳せていた等々である。
 舞台美術。基本はシンメトリックな作りであるが、板上平台の奥に更に重ねた平台の左右に階段を設け下手側にのみ、二階部分が設けられている。中央奥ホリゾント側に両開きの襖。これらの造作が強いプロジェクター画像の照射によって下地が見えないほどに造形されて千変万化の情景を見せる。出捌けはホリゾンントの襖、その手前の高い踊り場の上、下手側。板の下・上手の五カ所。衣装は豪華で流麗、殺陣も先に述べた通り、流麗でソフィストケイトされた見映えの良いものである。厳しい戦国の世の忍びの掟の宿命に翻弄されつつ、常に人間的で優しいサエモンの生き方は、人間としてかくありたいと思わせるような靭さを持ちながら、一歩引いてカズラに対する愛の形が余りに美しく哀しい。その実際の愛の形とは、男が命を懸けて愛する女を護る姿である。
 然し六将が忍びを探した時点では未だ初心であったカズラには疑念が湧いた。その疑念とはサエモンの他人に惚れさせる術であった。カズラは自らもどんどん惹かれ恋人という関係に立ち至ったことがサエモンの術による結果なのか、それとも本当に人間としての恋の結果なのかが分からなくなってしまっていた。それが赤目最強と言われた彼女がイエヤスの求めに応じた理由である。かスラの判断が正しかったか否かはもう一つの秘密同様殆ど最終場面に至らなければ明かされない脚本もグー。
雨の終わりかけに怒鳴りたて

雨の終わりかけに怒鳴りたて

劇団東京座

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2023/09/28 (木) ~ 2023/10/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 中々念の入った舞台美術である。しっかり作り込まれ、色彩的にも美しい。照明はほぼ総てのシーンで昏め。注意しておきたいのは上手箪笥の上方に小さいが神棚が在ることである。また、尺が2時間32分と長いので気を付けること。途中休憩は無い。初日を拝見したが、もぎりも暗い。内容に合わせて気の利いたセッティングだ。総てが物語の内容にマッチするように組み立てられているわけだ。華4つ☆(追記2023.10.1)

ネタバレBOX

 物語が展開するのは、或る廓である。時代設定は曖昧化されているが、概ね江戸末期。というのも登場人物の一人が、矢鱈“エレキテル”と言う言葉を用いこんな言葉が日本で用いられるのは江戸末期、平賀源内が1770年代に長崎で入手したエレキテルを修理して使えるようにしてからであろうから。(正確にはエレキテルという言葉がいつ頃から日本で使われたか調べていないから興味のある人は自分で調べたまえ)まあエレキテルという言葉の多用、これも怪異が登場するから当時としては実に驚くべきもの・こととして受け取られたであろう。時代を超えて続く怪異と矢張り同じように何も見えないのに物質を引きつける静電気を利用したエレキテルは民衆には怪異同様不思議で訳の分からない怪異と見えたに違いない。当然計算づくの遊びであろう。怪異はオープニングで、廓で起こる様々な揉め事や問題を解決してシノギを得ている地回りの山本とその子分に対し圧倒的な力量を見せることでその超能力が並々ならぬものであることを見せつけるシーンから本筋の物語が始まるが、この時狐の面を付けてちょっとギミックな所作で子分を痛い目に遭わせる超能力者の弟分の所作が暗黒舞踏にも少し似て実に効果的に用いられるのも良い。
 さて、物語は、この廓で最もしっかり者で賢く、裁縫や読み書きの才能もあるトキは、妹の麻衣子が高位の武士と恋に落ち剰えこの若侍から是非とも妻に、と言い寄られることに一方で複雑な念を感じながらも廓全体で応援してゆく流れに取り敢えずは協力する。然し相手は武士、それも位の高い、家格の高い家の息子であるから嫌が上にもハードルは高い。当然、数々の困難が押し寄せ。若侍は廓に来れなくなってしまう。これが原因で妹は気がふれた。その顛末を追いながら超能力者二人と納屋にあった廿楽から珍しく高価な菓子や矢張り豪勢な簪類を見付けた遊女たちやお上、廓の男衆にひょんなことから遊郭に雨宿りを頼んだエレキテルと名乗る男。寄って集って菓子を喰らい、高価な簪を自らの物にしようと荒らしまわる。そこへやって来たのは件の超能力者達。来る早々、雷を鎮めて力を見せつけた後、この乱行を皮切りに廓の秘密を暴いてゆく。若侍と麻衣子との恋も、トキの乱心や失踪とその結末も怪異が現れた訳も一つずつ明かしてゆくことで観客は自らの想像力と劇中に鏤められたヒントによって正解を得るが、ここで用いられた超能力を用いて実は或ることが行われていたことがラストで示され幕。
 やや冗長な部分はあるものの趣向は面白く、ギミックな所作も実に良い。
AIRSWIMMING  -エアスイミング-

AIRSWIMMING -エアスイミング-

WItching Banquet

アトリエ第Q藝術(東京都)

2023/09/26 (火) ~ 2023/09/27 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

 板上は下手客席寄りに斜めに置かれた椅子Ⅰ脚、板中央に円周上を囲むように置かれた椅子5脚、下手の椅子とシンメトリックに置かれた椅子1脚。上手ホリゾントと側壁に面してスタンドピアノと椅子。

ネタバレBOX


 ドリス・デイの活躍が終始横糸となり、精神薄弱と診断された患者たちの施設での暮らしが縦糸となって収容以降数十年の生活が描かれるが如何にリーディング公演とはいえ、演劇でドラマツルギーが成立し対立が先鋭化してエスカレートしなければ本質は露わにならないし、焦点が呆ける。原作を原文で当たっていないから何とも言えないが脚本の選択ミスを先ず疑った。縦糸と横板が行き交うだけでは不十分である。そもそも現代アメリカ文明で語られるような愛は、ギリシャ文明を継いで汎神論的であったローマでキリスト教が国教とされて後、ローマの為政者達の中で知恵ある貴族らが、本来弁証法的であったキリスト教を二元論に置き換えて後、神と子の話として広めて以降であろう。現代アメリカのキリスト教もこれに近いのではないか? そのようなキリスト教が中世二元論を中心に構築され聖書に書かれたことを絶対とし唯一神としてヤハウェを称え反するもの総てを悪魔と関連づけてヨーロッパを覆った。為に科学は遅れイスラム世界に遅れをとったのである。ルネサンスが当時地球上で最も進んだ文明を誇った中東を介してのみ、ヨーロッパに再流入したからこそ、re-naissanceなのである。
 まあ、余り詳しい世界史の講釈は無しにしておこう。中世ヨーロッパで魔女裁判が頻りに行われ、猫が魔女と絡めて大量に虐殺されたことも読者の多くがご存じだろう。このように歴史的宗教が絡んだ問題は奥が深い。そのような問題を扱うにドリス・デイが活躍した僅かな時間軸で少なくとも二元論を根底とした長期に亘るジェンダーギャップをキチンと表象し得ると考えること自体、如何かとは思う。
 精神障碍者とされ、社会から排除された人々は何も女性だけではないし、精神障害とされること自体、要は一般的な考えとはかけ離れて居る為多くの者は理解できず、不安になって排除するという構造が在るハズであり、そういったことの中でジェンダーギャップがあるならば、それをキチンと抉り本質を深く掘り下げたうえで被差別者たちの呻き声が伝わってくるように描かなければ、演劇公演としては極めて弱いのではないか?
 結果、全体として緊張感を欠く、また焦点のハッキリしない泡のような作品になってしまった。良かったシーンはラスト。椅子に乗った精神薄弱の「患者」たちが、自分達を縛ってきたテキスト(演劇を演じるという意味でもテキストに縛られ社会規範との二重の意味を持ち得る)を真ん中の窪み(イマジネーションを膨らませれば例えば魔法陣でも良い)に投げ込んでエアスイミングを試み空を翔けてゆくシーンである。彼女らは自由(つまり世間が魔とみたもの)の方へ翔けてゆく。それが『ワルプスギスの夜』と呼ばれるものであったとしてもだ!
第11回西谷国登ヴァイオリンリサイタル

第11回西谷国登ヴァイオリンリサイタル

西谷国登リサイタル

浜離宮朝日ホール(東京都)

2023/09/23 (土) ~ 2023/09/23 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 音楽は何と言っても生演奏に限る。

ネタバレBOX

 途中20分の休憩を挟み以下の演目を演奏。
1:ラヴェル作曲のヴァイオリンソナタ(1927)から第2楽章
 なんだかんだとcovid-19の影響を受けざるを得なかったこのコンサートも今回は基本的にはコロナ禍以前に法的には近くなり、開催に至り付いた。西谷さんご本人はもとより関係者の方々も少し肩の荷が軽くなったかとは存ずる。数多くの名曲を作曲したモーリス・ラヴェルの曲を前半では日米両国で現代風にアレンジしたりクラシックとジャズを世界で初めて融合させたりと様々に現代化した作品群を演奏。休憩後は、クラシックらしさを残しつつオリジナルのカデンツァを付けることで西谷さんの仕事としている。
2:湯山昭作曲ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ(1953)
 湯山さんが芸大大学院時代に作曲なさったソナチネを新納さんが演奏。流石にいい音色を聴かせてくれる。切れのある演奏がグー。
3:ルドルフ・ハケン作曲ヴァイオリンとヴィオラのための「スレンナタリア」
 ハケンさんは極めて稀な五弦ヴィオラの奏者、筆者の友人にも某オケのヴィオラ奏者が居てヴィオラによる独奏曲が余りに少ないことを漏らしていたが、オケの中でそのような位置づけをされるヴィオラでも五弦ヴィオラの存在を知ったのは今回が初めて。世界でも稀なその五弦ヴィオラとヴァイオリンの合奏とは! 単に音の競合や響き合いの面白さのみならず、演奏時の身体パフォーマンスもユニークで面白く、ハケンさん、西谷さんのサービス精神が遺憾なく発揮され技巧的な素晴らしさと共に楽しさも存分に味わえる舞台であった。
休憩
4:メンデルスゾーン作曲ヴァイオリン協奏曲ホ短調作品64 オリジナルカデンツァ付きの弦楽合奏版西谷国登編(世界初演)
 西谷さんは、ヴァイオリン演奏の他にタクトも振るのでカデンツァの際の超絶技巧と指揮の絶妙なコントラスト、協奏して下さる皆さんとの息の合った演奏にも感銘を受けた。
更にドッキリで、9月23日がピアノを演奏して下さった新納洋介さんの誕生日とあって特別にご本人によるピアノ演奏も組まれその音色に聴き惚れることもできた。
 また、ヴァイオリン協奏曲終焉後に鳴りやまぬ拍手に応えたアンコールには、メンデルスゾーンが極めて若い頃に作曲したヴァイオリン協奏曲ニ単調第三楽章が奏された。
442

442

ICU劇団黄河砂

ICU内 ディッフェンドルファー記念館東棟1F オーディトリアム(東京都)

2023/09/22 (金) ~ 2023/09/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 必見! 華5つ☆。初日を拝見、行きはそれほどでもなかった雨が帰りには雷を伴った激しい雨、シャツ、ズボン、バッグ、靴下までずぶ濡れになって帰宅したが、観劇の満足感で報われた。脚本はうら若い女性、これだけ戦争の本質を掴んだ作品を書くとは! 心底感心した。リーフレットを拝見すると共同執筆とも取れるが主として一人が中心になって書かれているように思われる。
 当て書きをかなりしているということで役者4人のそれぞれの個性も生き、思春期を漸く終えた新兵たちのデリカシーも経験を積まぬ年代の男の背伸びや矛盾に対する鋭敏な感性も見事に表現された舞台である。戦争という不条理(この単語absurdeという単語を訳すのに難しい漢語を当てた結果広まったと聞いたこともある、馬鹿げたという意味も含む単語である)に対する真摯なそしてもっともな人間的論理が対置されて瑞々しく躍動している。見事である。観るべし。(追記2023.9.24:09:30)

ネタバレBOX

 多少、日米開戦状況を知っている者なら聞いたことくらいあるだろう。日系アメリカ人志願兵によって結成された志願兵部隊、442の兵士の話である。板上は必要最小限の舞台美術。オープニングでは箱馬が中央にせり上がるように置かれ、最上部にラジオ(当然当時、アメリカで一般に使用されていたと思しきタイプ)がさりげなく置かれている。ほぼ、素舞台と言ってよい状態だ。因みにこの442部隊は、太平洋戦争突入の契機となった真珠湾攻撃を契機に結成されたが、冒頭で記した通り志願兵の部隊であり、志願の経緯には差別される側であったことが在る。
序盤この経緯を本土で暮らしてきた若い2人の日系アメリカ人の対話やハワイ出身の矢張り若い幼馴染の日系アメリカ人との対話を通じて描いて行く。この時ラジオから流れるニュース等が極めて大きな役割を果たすという訳だ。この導入部の上手さは実に自然でこれ以上説得的な導入はあり得ないほど完璧である。然も同じ日系でも対白人に対しての意識が全く異なり、日系移民の比率が圧倒的に低い本土出身者は比率が3割ほどに達するハワイの某集落出身の2人から見ると日系としての誇りに欠け情けないと感じられる等同じ日系でも意識差があり、同一を装いたがる日本の本土社会とは異なる米国社会の在り様をこれも極めて自然に理解させる。対白人に対する態度は、米本土出身者とハワイ出身者で異なるものの、民族としてのアイデンティティーに関しては日系人は遠い故国・日本の出身地域の風習等を色濃く残すことで他国で暮らす時の縁(よすが)とする傾向が強い。(この傾向はどの民族にも言えることだ)ただ、現在でも海外でキチンと現地の人々と付き合う日本人は少ないがそのような生き方をした日本人なら、日本より遥かに多様で幅広く深い社会を体験的に知るのが普通である。序盤で被差別に抗する為と大きく纏められる彼らの志願動機が描かれる訳だが、中盤、後半では熾烈な戦闘の中で、当に生死を賭け身体は疲弊の極みに達し乍ら神経が苛立ち中々寝付けない夜を過ごすと同時に白人上官から苛烈な命令を受け従わざるを得ない軍法の下で命を落とし傷を負うと同時に、彼らの勇猛果敢が喧伝され著名になってゆく中で英雄というプロパガンダに巻き込まれつつ戦闘の中で培われた末端兵士としての、使い捨てられる実態を生きる個々の若者の、押さえても押さえきれない葛藤が描かれる。その様は以下のようなセリフに集約されている。体の半分千切れた兵士が望むことは、国の為なんかじゃない。助けて! 生きて帰りたい。大切な人、愛する人に会いたい! というような余りに切ない念である。
脚本・演出:近藤彩夏さん、ヒデ役:大嶋優介くん、ベニー役:有賀大輔くん、
レニー役:内藤怜歩くん、ケン役:田中凛くん。皆さん良い作品作りである。裏方の対応もグー。照明・音響も良い。
福寿庵【再演】

福寿庵【再演】

演劇企画アクタージュ

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2023/09/14 (木) ~ 2023/09/18 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

 初日を拝見。今回の舞台美術は劇団の皆で作ったというが、蕎麦屋らしい茶と黒、白がベースの落ち着いた佇まいを見事に表現しており美しい。出捌けは正面奥のカウンター席裏に導線を設けて1か所、下手側壁の暖簾の掛かった場所、そして上手側壁に設けられた福寿庵(ぽんぽん)の入口の3か所で合理的。尺は105分程。(追記後送)初日が終わったばかりなので、後は観てのお楽しみ。華4つ☆

ネタバレBOX


 因みに福寿庵の横の()内に示したぽんぽんは、店長・庸助が溺愛した妻・咲が近くの神社にお参りした際、狸の像を見て子宝に恵まれるよう、またその可愛らしさに絆(ほだ)されて提案し広まったこの店の愛称である。面白いのは咲は毎日お参りにお供えとして持参するのが、店の隠れ人気メニューの稲荷寿司であることだ。当然、狐を神としたお稲荷さんへのお供えに対するジョークである。まあ、咲が極めて重要なキーパースンなので店の中央奥のカウンター席に設えた棚には水差しなどと共に狸の置物が鎮座まします。このカウンター上手には、履物を脱いで上がれる客席があるが、物語の中で余りキチンと用いられないのが残念ではある。
 さて物語は、この店の歴史に関わって展開するが、庸助が、咲とのデートの際食べに行った蕎麦屋の味が格別で咲が「このお蕎麦おいしい」と呟いたのが原因である。それほど庸助は咲にぞっこんであった。福寿庵と名付けたのは七福神にあやかったのか否かは不明だが、当初この店名に同意していた咲がそば処・ぽんぽんと命名し直したのはお参りに行った際の狸の像のお腹を見て妊娠を想像し早く子宝を授かりたいと強く願ったという経緯がある。結局、咲にぞっこんの庸助は、これを暗に認め常連客の間ではもっぱら、ぽんぽんの名が使われるようになったという訳だ。
『幸せな時間』『心のかけら』『君へ』

『幸せな時間』『心のかけら』『君へ』

T1project

小劇場B1(東京都)

2023/09/07 (木) ~ 2023/09/18 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 「心のかけら」を拝見。SF小説「模造記憶」の持つ、怖さを思い起こしながら拝見。追記後送
 今回、上演されているMEMORY三部作は再再演、再演が各1作、今作のみが新作で友澤氏80作目の舞台脚本である。他の2作と異なり新作「心のかけら」は、今までに書いたことがない物語を書きたいとインターネットとヴァーチャルリアリティーの中間辺りを仮想領域とするメタバースを梃に、我ら現代人の不確かな記憶・愛が描かれる。(追記2023.9.16)

ネタバレBOX

 
 物語が展開するのは、廃園となった遊園地職員の休憩所だった建物。カルト宗教団体としてマークされている教団メンバーは、この建物内で困窮した人々に食料配布等をしながら共同生活をしているという。そんなメンバーの過去を取材したいとTV番組のクルーと名乗る若者が撮影機材を持って取材を強行している。偶々、この日は食料配布日、正午から配布を開始するというのでメンバーも三々五々集まってきた。
 奇妙にも窓外からは、砲弾の炸裂するような音や、機銃掃射のような音もする。取材クルーも「多摩川の橋が落とされた」などと不穏なことを語っている。
 こうして物語は幕を開けるが、読者は異様な感じを私の書いた文章から感じないだろうか? この宗教団体がカルト教団としてマークされながら慈善事業を公然と行っているという点、通行人に対してなら兎も角取材アポも取らずに教団の用いている建物内に居る人物に突撃取材を試みるなど、マスメディアに少しは通じている人間なら、最初から在り得ないと否定して掛かる所だ。住居不法侵入で訴えられれば如何にマークされているカルト宗教者の居る場所とはいえキチンとした法的手段が行使され得る。そんなリスクを冒すハズが無いからであり、そもそも取材者自身この後の展開でアイデンティファイすることを避けているのであるから、これはもう取材拒否の権利行使という形で撃退できるのは明白である。また、窓外では戦争が始まっているとしか考えられない音がし、真偽の程は兎も角、多摩川の橋が落とされたと言っている取材者を名乗る者に対し誰一人反論しない等々である。然し、これらの不自然こそ作家により仕掛けられた状況説明なのであり、観客はこの序の序部分で物語が尋常の世界を描いていないことに気付く。この時点で気付けなければ更に先に進み、クライマックスを迎える辺り迄分からないかも知れない。
 今作の肝は少し覚めた観方で世の中を観ている者にとって、現実に我らが暮らす世の中は、既にして完全なディストピアに他ならないという点である。何も日本に留まらない。先進国も途上国もその中間に居るとされる他のすべての国々も気候変動による災害の甚大化、汚染や他の環境破壊による生態系そのものの崩壊、人間の欲望のみに照準を合わせた経済の限界、人間の能力に対する過信と傲慢が生み出し現に機能している政治や政策。実証され続ける事実を葬り去ろうと努力し続けている愚かな勢力の拡大等々、枚挙に暇はない。以上掲げられた総ての事情に最も大きな影響力を行使しているのが所謂成功者、即ち人間の中で最も「強い」、力を持った支配層と追従者集団である。残る大多数、負け組と軽視される人々こそマジョリティーであり、今作に登場するカルト教団の信者たちに象徴される者たちである。結論から言えば弱者たちは救いを求めるにあたって強者の一部であるカルト教団教祖や幹部から「望んで」搾取される人間になっているという悲喜劇の実態である。即ちマジョリティーを構成する総ての人々が主人公なのだ。それは、我々自身だ。この実情が、極めて強い没入感を持つメタバース世界を利用して描かれている訳だ。従って不自然な行動や言い訳を用いていた取材者はアバターであり、その実態は、家族にも理由が分からぬながら変わってしまい行方を晦ました母を探す娘だったりするのである。『模造記憶』によるマインドコントロール等が、このカルトに居続けることになった個々人に大きく作用したことは否むべくもないが、問題は入団を望む深層心理が個々に入団した人に働いていたであろうことだ。つまり何らかの不如意や個々にしか分からないトラウマ等に対する事実認識に向き合う深い覚醒が個々人の中で具現化しない限りいつまで経とうが本質的に覚醒することはできず、解決とはならないことである。今作では幸い、個々人の殆どがこのことに気付き覚醒してゆくが。
 観た者総てに関して拭えぬ感覚はメタバースという状態がイマイチハッキリしないことではないか? それも当然、現時点では例えIT専門家と言われる人々の間でも統一見解は無いようだし、そもそも、目指している実態がどのような具体像を結ぶのか? についての統一見解も無い模様である。当然の事ながらIT技術の進歩は当に生き馬の目を抜くという表現が疾うの昔にロトイと感じられる御時世である。混乱は百も承知ということであろうが、作家は、現実と殆ど見分けのつかないレベル迄進化したヴァーチャル世界が現実世界と殆ど一体化している世界をイメージしているようである。この点さえ弁えていれば、余り頭を悩ませる必要はなさそうだ。素直に物語の展開に身を委ね楽しんでもらいたい。
 その上で問題は、別の処に或る。即ち通常我々がアイデンティファイするのは、己の思考・傾向が自身内部で矛盾せず、統一イマージュを結ぶと同時に、その者の属する集団社会の論理・倫理等の諸規定。諸規制と己を律する内的論理・規制が矛盾しないことで成立しているのだが、これに似て全く非なるモノが合体してしまった時、ヒトは果たして今までのような形でアイデンティファイし得るのか? ということであり、し得ないということであれば今後どのように自己の統一感覚を得ることができるのか? という問いを如何様に解決するか? という大問題である。今作の訴える真の怖さを多くの人々が体験するのは、実際にメタバースが世界を席巻した後のことになるのであろう。


『幸せな時間』『心のかけら』『君へ』

『幸せな時間』『心のかけら』『君へ』

T1project

小劇場B1(東京都)

2023/09/07 (木) ~ 2023/09/18 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 拝見したのは「君へ」。今作も華5つ☆ ベシミル! ほんの少しだけ追記。2023.9.16

ネタバレBOX

 上演中のMEMORY三部作のうち今回拝見の2作目・「君へ」を拝見。前回「幸せな時間」の観てきたでも述べたことだが、友澤氏の脚本は深い。更に詳しくは後に記すが、彼の脚本傾向について少し語っておこう。
 作品内容が深いということは、本質的だということと殆ど同義である。それは哲理が通っているということだけを意味しない。演劇脚本である以上、それは実人生の様々な経験知を通しても納得のゆくもの・ことの連なりであり、因果でもあるから、伏線の敷き方はそれが結実するまで殆ど気付かれることのない形で提示されていなければならないし、気取られてもならない。
今回も若い役者が大変活躍しているが、若者の多くがT1projectが主催する24ヶ月プロジェクト修了生であり、今回MEMORY三部作には16名が参加している。
 さて、友澤作品の深さは、このような若手にとって可成りハードルの高いものであったハズである。というのも若さには人生経験の乏しさというのっぴきならない事情があり、人生の深みを本当に理解するには、経験が必要なケースも多い為、良い演技をしようとすれば頭でっかちになりすぎ、間の取り方や台詞回しに不自然な調子や不適当な取り方が出易いからである。多くの役者が極めて長い年月を掛けてこの難問を解決する為に努力するのだが、
T1project出身の若者たちは、ベテランに対してもと迄はいかない部分があっても、若者ららしい傷つきやすい感じ等が出ており極めて自然で説得力のある演技をものにしている。このようなことが僅か2年で達成できるのは、適格な指導とサジェッションの他に各役者の個別の才を適格に見抜きそれぞれに合った育て方をしてきた友澤氏の力もあったと同時に作品が簡単に理解できるほどありきたりな発想で書かれておらず、演じてみたいと個々の役者に思わせるだけの力を持って居る為だろう。役者のインセンティブがこの作品をやってみたいという個人的な欲求をベースにし得た時、役者は、役を生きることに没入できる。このように基本的なプラス要素が、役者個々人の年齢や人生体験を超えて一つの舞台創造に対しプラスの連鎖を引き起こしているからこそ、素晴らしい舞台を形創っているのである。このことは、舞台美術、照明、音響、小道具に至る迄総てに言えるし、裏方の案内等も理に適っている。以下、今作のほんの触りだけ挙げておく。観て頂きたい作品群である。
 開演前、鳥や獣たちの発する声が流れ、楽曲も組み込まれてずっと流れているのは、今作が私設動物園を舞台にした物語であるからだ。7年前、先代の園長から経営危機に陥っていたこの動物園を継承したのは、歯科医であった現園長の花川慎太郎と妻・凛であった。花川らは私財を擲ってこの危機を立て直したが、それから7年の月日が経ち、動物園は、借金園となっていた。そんな中、園長に「余命3か月」の診断が下された。既に胃のみならず骨に迄転移しており、回復は見込めない。然も園長は尊厳死を望んでいる。このことを巡っても、また借金園となった動物園の今後についても逃れられないドラマが複層的に構築されているのは無論のこと、1人とても興味深いキャラが登場し、物語に先鋭的な緊張感を持続させ続けると同時に、このキャラクターが何故そのような行動を取るのかもさりげなく示されており、これも納得のゆく内容である。
 出演者それぞれの演技力というか役を生きる力が素晴らしいが、脚本に極めて上手に対立項を拵えている(とんがって体験的就業を主張する若い女子)のが、今作の素晴らしい点である。小道具でラストシーンが夫婦の愛の深さを象徴している点も、その演技(田中 理美子さん)も素晴らしい。
新ハムレット

新ハムレット

明治大学シェイクスピアプロジェクト

アートスタジオ(明治大学猿楽町第2校舎1F) (東京都)

2023/09/08 (金) ~ 2023/09/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 ちょっと変わった配置である。板は会場内センターに設けられ、周りを観客が囲む形。オープニングでは板上に白、茶、グレイなど大小さまざまなの円形のシートを敷き、会場入り口から観て上手の観客席の切れ間に人の背丈ほどの四角い骨組みが立てられ、丸い演技空間の四カ所の床上に投光器が1台ずつ置かれている。演技空間の真ん中には六角形の底面を持つ箱馬が1つ。天井からは演技空間外周を囲むようにレース状の布が誂えてある。

ネタバレBOX

 第20回明治大学シェイクスピアプロジェクトのラボ公演である。ご存じの通り、今回上演の「新ハムレット」は太宰 治の原作であるが、本公演で演じられるシェイクスピア原作の「ハムレット」とも見比べることが出来る訳だ。是非、観ておくとよかろう。
 ラボ公演ということで、会場は可成り小さく収容人数も少ないものの、内容的には極めて面白いし、様々な工夫、学生さんらしい気の利いた茶目っ気も施してあって気持ちが良い。シェイクスピア作品ではハムレットの苦悩自体の深刻さが重点を為すが、今作・新ハムレットでは、世相としての政治、日本が長きに亘って行っていた戦争の最中に書き続けた太宰という作家の位置を含め、大人の事情が政治・世相と絡めてより大きな位置を占めている点でも極めて意味深長である。
俺たちはどう生きるか!

俺たちはどう生きるか!

株式会社L4

シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)

2023/09/06 (水) ~ 2023/09/12 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

 表層的。

ネタバレBOX

板は凸型の天地を逆さにした状態をベースに反転した凸の欠けた部分に階段を設え(即ち客席側の下手、上手の欠損部分に階段がある訳だ)客席側を踊り場としたうえで平台を置きその中央辺りに階段となる幅の狭い台を置く。登り切った処から奥が更に高くなった踊り場である。他に小道具などの設置は無い。
 物語は某研究所(実績も能力もあるが、学会からは離れ山奥で研究を続ける一風変わった科学者の研究所)から盗み出した研究データと思しき物が、評判通り10億の価値を持つか否かを確認する為、まんまと盗み出したブツが更に高く売れるかも知れないと内容確認をした男が、その機器に収められたデータを再生してみたことで進む。オムニバス形式の作品である。上演時間105分。
 各作品のタイトルは以下の通り。
「パニッシュメント」「悪魔に願いを」「アンドロイドケータイ」「これから正義の話をしようぜ」何れも随所に現代日本に対する揶揄が散りばめられてはいるが、余り深く掘り下げられた脚本とは言い難い。ニュースの表層をちょっと深読みした程度の内容に留まるからである。結果個々の登場人物の人生に具体的・宿命的に状況と対峙し、己の人生の総てを懸けて挑まねばならぬほどの必然性として立ち上がってこない。タイトルが気に入ったので観に行ったのだがその意味では的外れであった。脚本が甘いのでは演出も役者陣の演技にも深みが出ない。もっと練った脚本にして欲しい。
 脚本が甘いからスモーク等単純な演出を多用する他ないのだ。以上の欠点が役者陣の演技にも反映してしまった。
ニューアナログな君へ

ニューアナログな君へ

劇団ヒラガナ( )

ウエストエンドスタジオ(東京都)

2023/09/07 (木) ~ 2023/09/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

 ウーム、チャレンジ精神は高く評価するので華3つ☆。チャレンジする姿を観たい方にはお勧めかも。

ネタバレBOX

 50回以上の公演を打っている劇団としては極めて実験的な試みであるが、成功とは言い難い。こう言うのも、場の設定がしっかりしていないと考えるからだ。イマージュを物化する為に詩は象徴や喩によってイマージュを単なる言語ではなく物として表現し、その強度によって詩行なり詩節なりを自由に何処に置こうと有効な部分とする。このように詩行なり節全体の独立性を保ちながら同時に場の自由を獲得するという挙に出ることが可能となるのであるが、それは一方で韻の踏み方、詩の形式(ソネットや、アレクサンドラン等詩形式・詩行の韻律形式を含んで)などの厳密な規則の上で形式が担保されるからなのである。然し、戯曲は一般的に散文と詩表現の中間に位置するものであるから詩に要求される韻律や詩形に関する規制は無く、散文の如き事実に則すことを第一義とするものでもない。掛かるが故に脚本では物語が生起する場が基本的に同一であることが要求される。然るに今作ではこの点が無視され複数の場が同じテーマを追求する為に幾つも設けられ互いの場が何ら有機的関連を持たずに展開する。このような構造に劇的効果が生じる訳がない。言わんとすることは総ての場面を通じて同一なので分からずにはいないが、各々のシーンが有機的に結びつく必然性が欠けているせいで、総てが空中分解する仕組みになってしまっており、結果劇的効果を齎す収斂というクライマックスが成立し得ない。このようなことも恐らく感じられつつチャレンジしたのであろうが、どんなに短く見積もっても演劇の歴史は数千年の過去を持つ。そのような芸能形式にアタックするには未だ力不足を感じざるを得なかった。

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