波間 公演情報 波間」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.0
1-8件 / 8件中
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    正直に告白すると、ブルーエゴナグ『波間』は扱っているテーマからやや警戒していた。自死を扱っていたからである。しかしそれは杞憂に終わり、本作は自死を直接的には描いていなかったし、それどころか、(よくある傾向に反して)自死へ向かうプロセスをドラマチックには描かず、したがって観客が登場人物に安易に同情したり共感したりしない構成になっていた点において、作者への信頼がおけた。

    ネタバレBOX

    自死は美化していなかったが、作品それ自体はとても美しいものだった。かなり特徴的な空間と言える森下スタジオを、その特徴を活かす形で用いていたのも評価できる。体育館のような空間で、登場人物たちの学校生活をテーマにした作品ということで相性も良かったのだろうが、演出はその場に合わせて変えているというからその臨機応変さが功を奏したのだろう。
    「安易に同情したり共感したりしない構成」と前述したが、本作は登場人物の過去と夢の景色が混在しており、物語内容を把握することがやや難しくなっている。だがそれは観客の思考も茫洋としていくのを楽しめるような構成だった。別の言い方をすれば、見る人をやや選ぶ造りであろう。そのような作品を見慣れている人からすれば楽しめるのだが、ドラマ的な造りに慣れている人からすればややストレスに感じることもあるのではないだろうか。
    演出や照明、音響は非常に美しかったのだが難点があったとすれば、機材が古いのか、スモークが焚かれた瞬間に喉と鼻がやられたことである。恐らく制作サイドもそれを把握しており、各座席にマスクと飴が置かれていたが、それらを用いても防ぎ切れない程だったのには閉口した。
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    上演される森下スタジオで創作されたことの効果を感じさせる、空間との丁寧な融合が印象的でした。とくに、横長の空間が、光により伸び縮みするさまは、夢とも記憶とも知れないあわいの空気を醸成しています。

    ネタバレBOX

    そこ(舞台上)に人がいるのにどこか現実感がなく、でも生々しさも顔を覗かせます。それこそ波間のように曖昧模糊としながらも、隙のない緻密さ。この空間の集中力をつくりあげた総合力と胆力が素晴らしかったです。

    しかし使われているのは、イスやハンガー掛けなど、おそらく会場施設で手に入りやすいものばかり。その現実的な物体たちも、あわいに溶けていくような、物質としての違和感がなくむしろ曖昧な存在として成立していくのは、組み立てられた動線と、やはり照明を主とした空間の構築にあると思います。

    丁寧に編み、計算された人とモノの動き。世界観を全員で作り上げ、こまやかに行き届いていた良さの反面、それゆえか俳優の動きにときに制限があるようにすこし見えてしまうところがあったのは残念に感じもしました。

    物語に散りばめられた、自死に至る人物の、手触りのあるエピソード。その人の生活や小さなこだわりが見えることで、いつかのどこかの誰かの死や喪失ではなく、形をもった人間にとっての生と死となっていくようでした。

    スモークがたかれているため、事前に飴とマスクが配られた配慮に助かりました。全員に配られているので、飴の袋をあけることにもそこまで罪悪感が強くなかったのもありがたかったです。
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    福岡県北九州市と京都府京都市の二都市を拠点に活動するブルーエゴナク。そんなブルーエゴナクにとって5年ぶりの東京公演となるのが、THEATRE E9 KYOTOのアソシエイトアーティストとして制作・初演された『波間』。再演はメンバーを一新し、東京で活動する俳優・スタッフ陣によって上演されました。
    物語の舞台となるのは、「死ぬことを決意した青年」の夢の中。
    (以下ネタバレBOXへ)

    ネタバレBOX

    舞台上に男(大石英史)が一人。30脚ほどのパイプ椅子をひたすら事務的に並べ終わると、男はマイクの前に立って、「自分は死ぬことを決意していて、今から話すのはその朝に見た夢の中での出来事だ」といった旨の語りを始めます。舞台奥のカーテンが閉められると、そのまま「夢」が始まるのですが、次第に、そこで描かれていることが「夢」のみではないことが忍ばされていきます。明らかに夢であることが分かるような、コンビニでの頓狂な出来事が描かれていると思った矢先に生々しくいじめの過去が再現されていき、そのことによって、男の自死の決意とその過去が深く関わっているということに観客も気付かされていきます。

    本作の素晴らしいところは、スタジオの無機質さをうまく利用しながら瞬く間にその場を異質な空間に仕立て上げ、「夢と現実の間」を表現するにふさわしい劇空間を創出していたことでした。
    冒頭に並べられたパイプ椅子をはじめ、夢へのエントランスに見立てた空のハンガーラックなどはおそらく全てがスタジオ備品なのではないでしょうか。特別なものを使わずして空間を劇的なものにする、という挑戦を美しく成し遂げていたと感じます。会場の選定がどこまで意図的であったかは分からないのですが、本作と森下スタジオが非常に合っていたこと、その特質を余すことなく活用しきっていたことも魅力だと感じました。スモークや照明の活用も夢を夢たらしめる上でキーとなっていました(スモークの演出があることから観客にマスクが配られている配慮も細やかであったと感じます。)

    俳優の物理的な配置、他の俳優との距離感も、夢らしい絶妙な違和を築き上げていました。
    だだっ広い空間にぽつりと人間が立っていること、言葉を発すること、そのことによってフィクションと現実が近づいては離れ、絡まってはねじれながら現在へと繋がっていく。そうして、波と波の間で夢と現実とが擦れ合って音を立てるような演劇でした。
    男を演じた大石さんのみならず、深澤しほさんの佇まいや田中美希恵さんの声色、男の唯一の友人を演じた平嶋恵璃香さんの舞台での居方も印象深かったです。感情を綴るセリフを極力抑えた上演台本であったにも関わらず、引き算によって魅せる存在感や表現力の技術が高く、俳優の全うした役割もクオリティを大きく支えていたと思います。

    ただ、空間の構築が鮮やかな手つきで行われていただけに、「夢」という曖昧な風景の中に「いじめ」という凄惨な現実を混ぜ込み、投影することで削がれてしまうものや、整理された演出が際立つことによって登場人物たちの意図や真意、心のうねりがこぼれ落ちてしまったような感触もありました。一言で言うと、主題に対して美しくパッケージされすぎているような心持ちになった節もありました。「すごい作品を観た」という感触は大きく残ったのですが、人物にその心の抑揚をほとんど語らせない手法も相まって感情移入が難しく、「この主題によって何を訴えていたのか」ということを掴みきれずにいる自分もいました。

    しかし、家に帰って改めて考えてみると、それらは、必ずしも重要なことではなかったような気もしてきました。
    現代社会ではあまりにも加害者が矢面に立ち、語らせられ過ぎていて、「被害を受けた上に、さらに声をあげなくてはならないのか」ということが多すぎると感じます。それは、周囲の無頓着、社会の無関心、世界の無慈悲によって引き起こされていることで、そういったことも含めての主題なのであったとしたら、「死ぬことを決意した男の感情」に寄せずに淡々と風景を描き出していく演出は、観客に想像の幅を持たせる意味合いでも成功していたように思います。
    実際に本作が「いじめ問題」と「自死」を扱った作品であることが明確になってから、冒頭シーンに立ち返ると、事務的に行われたパイプ椅子のセッテイングは男の死後に訪れる葬列への準備だったのかもしれないという風にも思いました。当然、死んでしまってからは何もかもが手遅れです。そんな風に口数こそ多くないものの、実はものすごくたくさんの示唆的な演出が忍ばされていたのかもしれません。私がそのことに気づけなかっただけで。

    その「気づけなかったこと」について考えを巡らせること。
    それもまたこの作品が導いた大きな余韻であったのではないでしょうか。
    舞台上で描かれた「男の現実と夢の間」は、今まさに「現実と虚構の間」に居座っている観客にとっても決して他人事ではない。
    ラスト、カーテンが開けられ「現実」が空間を包み込んだ瞬間に、ふとそんな気づきを得るような作品でした。

    【2024年7月11日に「CoRich舞台芸術まつり!2024春」グランプリ発表ページより以下を転載しました】

    本作はCoRich舞台芸術まつり!2024春の最終審査において複数の審査員から準グランプリへの推薦の声が挙がりました。
    惜しくも受賞とはなりませんでしたが、最後まで拮抗した団体であり、作品であったこともここに明記しておきたいと思います。
  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    鑑賞日2024/03/17 (日) 14:00

    「夢があぶり出す現実と虚構のあわい」

    ネタバレBOX

     青年(大石英史)がひとり椅子を並べている。彼の動きに無駄はない。舞台奥に据えられているマイクに向かい注意深くかつ整然と、40名ほどは座れるであろう観客席を作り上げ、後方のカーテンを閉じると闇が空間を支配する。

     マイクの前に立ち音楽を流す指示を出した青年は、この話は夢のなかの設定であり、この夢から覚めたら自分は死ぬつもりだと観客に向けて語りはじめる。途中、足音もなく闖入者が二人(深澤しほ、田中美希恵)やってきて、椅子に座り青年の声に耳を傾ける。やがて青年は現実の世界で体験したことを夢のなかに再現していく。小学校のプールでうまく泳げなかった思い出や、コンビニでの気まずい出来事、学校でクラスメートから嫌がらせをされても友人の曽根ちゃん(平嶋恵璃香)が元気づけてくれたことなど。そのたびに闖入者たちがそれぞれ青年があてがった役回りを演じていく。

     青年と曽根ちゃんは復讐すべく主犯格の久保田(深澤しほ・二役)と東(田中美希恵・二役)に狙いを定めようと話していると、今度はこの二人の夢語りがはじまる。それぞれの語りの場面ではいつの間にか他の俳優が、冒頭のようにマイクに向かい椅子を並べていく。ここでは青年が受けたトラウマティックな体験が加害者の側から描かれる。こうして複数の夢が交錯し現実と虚構のあわいが描かれていく。

     本作第一の魅力はさまざまな演劇的手法を用いたうえでそれを統一して見せていた点である。登場人物が現在進行系で自分の考えや動作内容を述べながら移動する様子はヨン・フォッセの作劇に通じるものがあった。また闖入者たちはさながら能楽師のようにひたひたと舞台端を歩き、入口に見立てたハンガーラックを越えて夢の中へと入ってきた。曽根ちゃんを演じた平嶋恵璃香が夢のなかの出来事を落語のように上下を切りながら語る場面は会場の笑いを誘っていた。手数が多いながらも目線がブレることなく観続けることができた点は特筆に値する。ただし演出のトーンがシリアスなために細かなギャグが客席に通じにくくなったというきらいはあった。

     普段着姿の俳優たちが、パイプ椅子やハンガーラックといった日常的なもので夢の世界を描くという演出のコンセプトもはっきりしている。森下スタジオのがらんどうとした空間を十全に使い、たゆたうような照明と音楽で夢のまどろみを作り上げることに成功していた。カーテンを開くと外の明かりが入り終劇するというのもよく考えられたものである。

     しかし上演を終えて思ったのは、はたして私はいまなにを観たのかという疑問である。これは青年の一人称であり現実の出来事や願望が反映された世界だったのか、はたまた神の視点から複数の人物の夢の交錯を描いたものだったのかが私には得心しかねた。その前提があいまいであることに加え、作品のパーツとしての役割が大きい登場人物たちに感情移入することが難しかった。自死を選ぶまで追い詰められた青年の心の叫びや、他の登場人物が選んだ行動の動機に肉薄できなかったことは残念である。
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    北九州で10年ほど前に旗揚げし、京都に、また宮古へとその活動を広げている穴迫信一の関東での最初の足掛かりとでもいうべき公演で、これからは関東でも年1回はやっていきたいという
    森下スタジオは初めて行ったが、演劇・舞踊の分野を対象にした、稽古専用施設ということで、コンクリ打ち放しの壁に鏡やバーがある
    アフタートークでは夢という空間性に相応しいと考えたという話だった
    そこで開演前(?)から20個のパイプ椅子を並べ始め(フロアに椅子は23個あった)、カーテンを閉めて行く
    アフタートークで生前葬の印象という話があったがなるほどと思う
    また、始まりはカフカの「変身」に影響を受けたという(夢から覚めたら)
    シュールだが流れは分かりやすい
    ただ「時間」をつかみにくいところはあった
    非常にナイーブな内容で、大量のモノローグが多くを占める
    中学のいじめが一つの要因となり、「夢は現実に影響され、現実もまた夢に影響される」状態を経て自死へ
    ラストで窓が開き光が差し込む(照明により表現)ところが救い
    照明がとても印象的だった

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    久々のブルーエゴナク、青?エゴナク?(今更な疑問)以前観た微かな記憶を手繰れば、、ある仕掛け(ルール)を施した時間の中で俳優が動いている。法則に準ずる事により示唆的な空間が浮かび上がる。最後までしぶとくそのタッチを維持して中々挑戦的ではあるな、と感じたように思う。ワークショップ的な発想と言うか、思考実験の要素が強いが、作品としての統一感はある。。

    実は北九州市で10年以上続けられた、市井の人々の人物史を掘り起こす『Re:』なる試みの集成を一昨年芸劇にて目にしたが、戯曲化を北九州在住の若手劇作家たちがやっていて、コンスタントに作品発表している名前の一つが穴迫信一氏。戯曲は北九州芸術劇場のサイトにupされており、時折楽しく読み進めていたので本ユニットの主宰という顔とは別の「書き手」としての印象が自分の中で育っていたのが、「そう言やそうだった」と今回符合した。

    森下スタジオは好きな場所であるのでそれが大きく後押しして観劇に至ったが、「試み」のためのスペースにとも思える空間で、文字通り試みそのもののステージであった。未知なる領域に足を踏み入れる静かな感興があり、4人の役者が「出来る」若手(と言っても相見えてより10年経ってればもう中堅の部類か)でもあり場面を面白く味わえる。「夢」の風景を夢から覚める直前まで再現する、との宣言から始まる舞台では、文脈があるようで無く、無いようである夢らしい浮遊するような、逆にじっとりとした手触りの中から次第に、現実に起きたある事の輪郭が、ちょうど夢から醒めようとする時間に現実感が増すあの感じと重なる案配で浮上して来る。着想は面白く、舞台としても面白く観られる部分は観られたが、掴めない部分もあり、惜しいという感じを残した。
    アフタートークでは役者4名と演出が登壇したが、役者のコメントに演出が逐一それが責務だというように返そうとしていてそれ要らんかなぁと。まあキャラのようであるが。。
    実は私の観劇回ではハプニングがあり、奇妙な体験になった。

    ネタバレBOX

    開演十分後あたりの事。
  • 実演鑑賞

    僕は、現実の心残りが夢に作用してしまうことがあります。「先週会えなかった人が夢に出てきた」「先月訪れた飲食店が夢に出てきて〜」、等々。今作は、自死を望む青年が、最後の朝に見た夢の話。夢の中には青年の「過去の記憶」が度々登場して…。

    ネタバレBOX

    「夢の話」なので、わりと簡単に「何でもアリ」の世界を構築できることは、演劇上演と相性が良いと思います。舞台上に並べられた20脚程度のパイプ椅子を、タテ・ヨコなどに何度も並び替える演出があり、青年の脳内風景を連想したり。青年が語る「夢の話」は、徐々に過去の記憶が混ざり、自身を自死まで追い込んだ(と予想できる)中学時代のいじめ体験が紐解いていく。登場人物たちが、どのような経緯を経ていじめと関わるようになったのか? が描かれ、その感情のすれ違いが切ない。物語は悲しい結末で幕を下ろします。「どうしたら止められたのだろう…?」、終演後はそんなことを考えました。
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     極めて良く構成された作品である。(追記の可能性あり)

    ネタバレBOX

     演じられるのは校内での“苛め”に纏わる物語であるが、これを夢というキー概念と現実との被膜レベルで描いていると言えようか。設定としては虐めを受けている1人の生徒が自死を選んだその朝見る夢と、彼が対峙してきた苛めを受けた学校という社会即ち生徒にとっての世界との相克を感情的にではなく、寧ろ淡々と描いている点に集約されようか。この点は重要である。即ち観客にとっての想像力の幅を広げる工夫が為され観客自身のこの問題に対する関与の深さ、人間としての立ち位置が露わにされるような鋭さを秘めているからである。

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