波間 公演情報 ブルーエゴナク「波間」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    鑑賞日2024/03/17 (日) 14:00

    「夢があぶり出す現実と虚構のあわい」

    ネタバレBOX

     青年(大石英史)がひとり椅子を並べている。彼の動きに無駄はない。舞台奥に据えられているマイクに向かい注意深くかつ整然と、40名ほどは座れるであろう観客席を作り上げ、後方のカーテンを閉じると闇が空間を支配する。

     マイクの前に立ち音楽を流す指示を出した青年は、この話は夢のなかの設定であり、この夢から覚めたら自分は死ぬつもりだと観客に向けて語りはじめる。途中、足音もなく闖入者が二人(深澤しほ、田中美希恵)やってきて、椅子に座り青年の声に耳を傾ける。やがて青年は現実の世界で体験した出来事を夢のなかに再現していく。小学校のプールでうまく泳げなかった思い出や、コンビニでの気まずい出来事、学校でクラスメートから嫌がらせをされても友人の曽根ちゃん(平嶋恵璃香)が元気づけてくれたことなど。そのたびに闖入者たちがそれぞれ青年があてがった役回りを演じていく。

     青年と曽根ちゃんは復讐すべく主犯格の久保田(深澤しほ・二役)と東(田中美希恵・二役)に狙いを定めようと話していると、今度はこの二人の夢語りがはじまる。それぞれの語りの場面ではいつの間にか他の俳優が、冒頭のようにマイクに向かい椅子を並べていく。ここでは青年が受けたトラウマティックな体験が加害者の側から描かれる。こうして複数の夢が交錯し現実と虚構のあわいが描かれていく。

     本作第一の魅力はさまざまな演劇的手法を用いたうえでそれを統一して見せていた点である。登場人物が現在進行系で自分の考えや動作内容を述べながら移動する様子はヨン・フォッセの作劇に通じるものがあった。また闖入者たちはさながら能楽師のようにひたひたと舞台端を歩き、入口に見立てたハンガーラックを越えて夢の中へと入ってきた。曽根ちゃんを演じた平嶋恵璃香が夢のなかの出来事を落語のように上下を切りながら語る場面は会場の笑いを誘っていた。手数が多いながらも目線がブレることなく観続けることができた点は特筆に値する。ただし演出のトーンがシリアスなために細かなギャグが客席に通じにくくなったというきらいはあった。

     普段着姿の俳優たちが、パイプ椅子やハンガーラックといった日常的なもので夢の世界を描くという演出のコンセプトもはっきりしている。森下スタジオのがらんどうとした空間を十全に使い、たゆたうような照明と音楽で夢のまどろみを作り上げることに成功していた。カーテンを開くと外の明かりが入り終劇するというのもよく考えられたものである。

     しかし上演を終えて思ったのは、はたして私はいまなにを観たのかという疑問である。これは青年の一人称であり現実の出来事や願望が反映された世界だったのか、はたまた神の視点から複数の人物の夢の交錯を描いたものだったのかが私には得心しかねた。その前提があいまいであることに加え、作品のパーツとしての役割が大きい登場人物たちに感情移入することが難しかった。自死を選ぶまで追い詰められた青年の心の叫びや、他の登場人物が選んだ行動の動機に肉薄できなかったことは残念である。

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    2024/03/22 17:57

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