劇トクッ!

ハイバイ・岩井秀人|「引きこもり」から「演劇」へ。人生の伏線を回収し続ける表現者の原点〈前編〉

演劇界の第一線で走り続け、岸田國士戯曲賞をはじめ数々の賞を受賞してきた劇団「ハイバイ」主宰・岩井秀人氏。作家、演出家、俳優、そして近年では「いきなり本読み!」などのプロデューサーとしても多方面で活躍を見せる彼だが、そのキャリアの出発点は意外にも「4年間の引きこもり生活」にあった。

インタビュー第1回では、岩井氏がいかにして社会との接点を取り戻し、演劇という表現手段に出会ったのか、その劇的な半生を紐解く。

「人生、失敗した」ベランダでの決意

16歳から20歳までの4年間、岩井氏は自室に引きこもっていた。「バカだったから、自分が20歳になるなんて思っていなかった」と当時を振り返る彼は、成人という現実に直面した際、「この人生は失敗だ」と絶望し、ベランダから飛び降りようとしたという。

しかし、死への恐怖が勝り、一歩を踏み出すことはできなかった。「さて、まだ挑戦していないことはないか」。そう自分に問いかけたとき、引きこもり中にWOWOWで浴びるように観ていた映画の「俳優」への憧れが胸に浮かんだ。

「俳優を目指して、それが無理だと確信したらまたこのベランダに戻ってこよう」

死を覚悟した場所から、彼は新しい人生へと踏み出したのである。

他者の「自我」を知った衝撃と回復へのステップ

そもそもなぜ、彼は引きこもることになったのか。その根源には、幼少期の独特な世界観があった。小学生の頃の岩井氏は、「自分以外は無機物、エキストラのような存在」だと感じていたという。しかし、ある日突然他人に殴り返されたことで、「君たちも生きているのか」と大混乱に陥る。

他者が自分と同じように欲望や意思を持つ「人間」であるという認識が、当時の彼には耐え難い衝撃だったのだ。中学卒業後に一度は自立を試みるも、孤独に耐えきれず挫折。そのショックが4年間の引きこもりへとつながった。

そんな彼を救い出したのは、部屋の中で浴び続けていたメディアの力だった。WOWOWで観る映画や、格闘技の熱狂。「前田日明を助けに行かなきゃ」という切実な動機が、彼を夜の公園へと連れ出し、体を鍛えさせるきっかけとなった。母親の「外に出る可能性が1%でも上がるなら何でも与えよう」という献身的なサポートもあり、彼は徐々に外界との回路を繋ぎ直していった。

初舞台は「おじいちゃん・おばあちゃんとのミュージカル」

俳優を目指し、大検の予備校に通い始めた岩井氏は、母が持ってきたカルチャーセンターのチラシをきっかけに、地域の人々とのミュージカルに参加する。20歳の彼を囲んでいたのは、60代以上の高齢者たちだった。

「社会に適応している同世代と比較されない環境は幸運だった」と岩井氏は語る。そこで経験した共演者との激しい意見の対立と、本番での一体感。ぶつかり合っても「世界は壊れない」という実感こそが、彼が演劇という集団芸術にのめり込む決定的な瞬間となった。

「新作」よりも「届ける」ことへの執着

その後、劇団「ハイバイ」を旗揚げした岩井氏だが、そこでも独自の視点を発揮する。旗揚げ公演『ヒッキー・カンクーントルネード』が大成功を収めた際、彼は「次の作品を作りたい」とは全く思わなかったという。

「この面白い作品を、あと1億1000万人が見ていないと思った」

この強烈な自負が、同じ作品をブラッシュアップし、何年もかけて再演し続けるハイバイのスタイルを作り上げた。「世の中には面白い作品が既にあるのに、東京は新作が生まれすぎている」と語る彼の視線は、常に「表現が観客にどう届くか」という本質に向けられている。

死を覚悟した絶望から、他者との衝突、そして表現への渇望へ。岩井秀人の歩みは、そのまま「生きることの再構築」のプロセスでもあった。

次回:第2回「日常を劇的に変える、岩井流・創作の極意」

続く第2回では、岩井氏の独特な「話し言葉」へのこだわりや、名作を生み出し続ける執筆術、そして演劇の枠を超えた新たなプロジェクトの裏側に迫ります。https://stage.corich.jp/keicoba/report/interview-iwai-hideto-2/


※本記事は動画でお話いただいた内容の一部をピックアップし、コンパクトに集約した形になります。記事の元となった動画はこちらからご覧いただけます。
https://www.youtube.com/watch?v=8tWXOauwtrI

ハイバイ・岩井秀人インタビュー動画

シリーズ:ハイバイ・岩井秀人 インタビュー全3回

▶ 第1回|「引きこもり」から「演劇」へ。人生の伏線を回収し続ける表現者の原点

▶ 第2回|「日常」を劇的に変える。名作の再発見と、言葉の壁を越えるリアリティ

▶ 第3回|演劇の「外」へ。世界を舞台に『本読み』が拓く表現の新たな地平

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