舞台芸術まつり!2022春

壱劇屋

壱劇屋(大阪府)

作品タイトル「不思議の国のアリス

平均合計点:19.0
大川智史
河野桃子
鈴木理映子
關智子
深沢祐一

大川智史

満足度★★★

 フライヤーのイメージの通り「宇宙に飛び立つアリス」という設定が楽しかったです!不思議の国というか不思議の星の登場キャラクターたちを演じた5名の全身タイツの衣裳をはじめ、宇宙へ飛び立つイメージ、不思議な星の不思議なイメージを描き出していたスタッフワークも印象的でした。

 今回の壱劇屋さんは非常にチャレンジングな企画で驚きました。当日パンフレットに掲載された脚色・演出・振付の大熊隆太郎さんのコメントによれば、今回、マイムだけで長編作品を作るのは初めての取り組みだったそうで、人気劇団の更なる進化を目指すチャレンジには頭が下がります。6月にはすでに再演が決まっているそうで、これからこの作品はどんどん洗練されていくことかと思います。

 そして、アフターイベントが非常に面白かったです。ステージ上でマイム講師を招いての出演者向けのワークショップを催し、それをアフターイベントとして見せるというのは初めての趣向でした。そして、その指導をファンの方々は劇団員の皆さんと一緒に体験しつつ、劇団員の成長する姿をその場で追うことができるわけで、ファンサービスとして非常に優れていると感じました。また、一見に近いような観客(私のことです)でも、一緒に少し身体を動かして、マイム体験ができる楽しい時間でした。

河野桃子

満足度★★

 壱劇屋が初挑戦する、パントマイムだけの長編公演。出演者5人のうちパントマイムに初めて取り組むという人もいる意欲作でした。

ネタバレBOX

 ほぼ素舞台に、紐などで空間を生み出していく。しかも物語の舞台は宇宙空間!?ということで、これは5人の息がそろっていないとこちらにイメージが伝わらないというとても難しいことに挑戦しています。もちろんパントマイムとしては未上達というところもありますが、5人が互いを全身で意識しながら、そしてお客さんの存在もとらえながら、空間をつくっていく様子は印象的でした。演じる、ということついてホスピタリティの高い劇団なのだなぁと思います。

 物語は、大人が未開の惑星?に降り立つという設定。キャラクターや展開や細部のエピソードなどは『不思議の国のアリス』をしっかり踏襲していながら、オリジナリティあふれる世界観になっていました。脚色・演出・振付の大熊隆太郎さんの描く「ヘンテコ」な景色を垣間見られて面白かったです。とくに、『不思議の国のアリス』でいうところのイモムシのイメージがありつつ、それが一人だけで演じられるのではなく複数人が同じ動きを繰り返して連なっていく様子は、身体表現やマイムの面白さが見られるキャラクター造形でした。

 パフォーマンスの内容に対して会場が大きすぎる気もしましたが、舞台スペースを広く使っており、マイムによる演出もさまざまなアプローチをもちいるなど工夫がこらされていました。

 また、劇団の初挑戦を応援するような客席の空気もあたたかく、「団体と一緒にリアルタイムに歩んでいく」という劇団の楽しさがあるなと感じます。

鈴木理映子

満足度★★★

 うさぎ頭の人物との出会いから未開の惑星へと迷い込んだアリスの物語。無重力空間とマイムのマッチングは絶妙で、舞台上の浮遊感や身体の重みに、観ている側もシンクロするような感覚がありました。ロープを使った表現、謎の生物たちの造形も印象的で、スマートさの中にも常にシュールな「不思議」が感じられる時間でした。
(個々の動きや場面展開スムーズさの一方で、さらにメリハリのある構成があっても見やすかったのではないかと思います)

 若手を軸にした公演で、テクニカルな練度にはまだ上を目指せる余地がある気もしますが、アフターイベントとして披露された「コーポリアムマイム」の解説と出演者を交えた実演では、劇団が取り組んでいる課題やビジョンの一端を、観客と共有する姿勢も伺え、「こうしてファンと地域との信頼関係が築かれつつあるのだな」と得心もしました。

關智子

満足度★★

 美しい美術と愉快な音響効果が印象的だったが、いまひとつ没入感を欠いた作品だった。

ネタバレBOX

 個々のアイデアは面白く、特にアリスが小さくなるシーンは大きさの違うロープの輪を用いて示しており、なるほどと思わされた。『不思議の国のアリス』の原作は言葉遊びを含む独特の言語を特徴の一つとしているが、台詞を用いずに身体表現のみで上演するという試みに意気込みを感じた。

 しかし、それが成功していたかは疑問である。まず、俳優の技術にやや不安を覚える部分が複数箇所あり、それがユニークな世界観への没入を妨げる要因となっていた。本来、技術的に優れているパントマイムであれば観客の想像力を喚起し得るであろうシークエンスも、何を意図しているのかを観客の側から汲み取る努力をしなければならず、観客の負担が少し大きかったように思う。結論として、アイデアは面白いがそれだけに終わってしまっている印象を受けた。劇場の造りが適していなかったのも要因だろう。学校の体育館のように客席よりかなり高い位置に舞台があり、見上げて見る形になってしまっているのは作品にとって不利だった。また、非常灯を消すことができず、暗幕を貼り付けていたが光が漏れてしまっているために完全な暗転ができなかったのも気になった。

 上演に際してワークショップを同時に開催したり、物販にかなり力を入れていたりと観客へのアプローチは十分に用意されていたため、本来団体としてはサービス精神に富んでいるのだろうと推測できる。他の作品の方が恐らく評価が高いのではと類推され、もったいないと感じた。

深沢祐一

満足度★★

アンサンブルの妙が際立つSF版『不思議の国のアリス』

ネタバレBOX

 スズムシの音が鳴り響く夜半、ひとりの女(谷美歩)がウサギ頭の人物と出会う。やがて不可思議な五つの生命体(大熊隆太郎、北脇勇人、半田慈登、湯浅春枝、吉迫綺音)が女を取り囲む。シルバーのコートに宇宙飛行士を想起させるヘルメットをまとった五体は、原色が際立つ照明変化とビート音で激しく上下に体を揺らす。冒頭の静謐な幕開けと対照的なサイケデリックな導入が、私を物語の世界へ心地よく誘ってくれた。さながらSF版『不思議の国のアリス』の幕開けである。

 私が面白いと感じたのは出演者のアンサンブルがよく取れていた点である。冒頭で指摘した踊りもさることながら、中盤で複数名の演者が白紐を使ってあやとりのようにして図形を作り、そこを谷演じるアリスが戸惑いながらも通過していく様子が面白い。あたかも舞台上に別の空間を構築するようにして物語の行く末を示すその鮮やかな動き、脚色・演出・振付の大熊隆太郎を含め演者たちの手際の良さが印象的であった。

 しかしながらこの5人の存在が強すぎたことも事実である。特に前半、タイトなスーツで体の線を強調した衣装は目のやり場に困ってしまった。加えて体のキレの良さではなく表情で演じていた点が気にかかった。この5人が車座でアリスとコミュニケーションをとろうとする場面は、日常動作の身振りや手振りよりも顔の表情が強すぎた。結果体から湧き上がる情感ではなく表情の変化で場面を押し切ろうとしているように感じたのである。動きの面白さで不可思議な世界へ誘ってくれたらよかったのにと感じた。

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