舞台芸術まつり!2017春

匿名劇壇

匿名劇壇(大阪府)

作品タイトル「レモンキャンディ

平均合計点:22
川添史子
鈴木理映子
高野しのぶ
橘 康仁
山﨑健太

川添史子

満足度★★★

故障した飛行船の7日間を描いた群像劇はテラスハウスのような様相でどこかコミカル。恐怖はありますが、やり遂げられなかった夢や残した家族…つまりこの世への未練が薄く感じますし、「性欲」「食欲」が動物状態で出ることもありますが、最後まで理性が充分残っているように感じました。最初は不思議に感じたのですが、「若い人たちの時代感覚なのかもしれない」と思ったら、むくむくと興味がわいてきました。日本の未来は「落下」していくように不安だけれど、彼らは実に理性的に淡々と受け入れているのかも…それは上の世代が簡単に批判できない、現代を生き抜く合理的リアリティーのような気もします。対話の切れ味もよい(「絶対曲げちゃいけない間接曲げた」「そんな間接ないだろ」は笑いました)。劇中、レイプの扱い方には違和感が残ります。有料パンフだけではなく、当日パンフにも配役表がほしいと思いました。

鈴木理映子

満足度★★★★

「10億キロの上空から落下し続ける宇宙船の最期の7日間」を、ちょっとした皮肉を利かせつつ描くコメディー。半球の傾斜舞台(今にも動きそう……)には、開演前から期待が膨らみましたし、何よりテンポのよい会話、多彩なキャラクターで、ダレることなく物語をひっぱる手腕に劇団力を感じました(当日パンフにもキャスト表があると嬉しかったです)。
死を前にしたという設定ながら「涙」がなく、ちょっとドライな筆致もいい持ち味になっていたと思います。最初は「面白くて賢いだけなのかな……」と思っていた会話中のツッコミも、三大欲求、特に「性」や「食」をめぐる展開、問答の中には、根源的と感じさせる部分が多々あり、刺激的でした。ただ、それだけに、あともう少し粘って、これらの問いをドラマの根幹に使うことはできなかっただろうか、そうしてもっと恐ろしい(シュールな?)場所に手をかけることはできなかったか、と妄想してしまったことも事実です。多様な関心をどう戯曲に取り込み、生かすか(敢えて生かさないのか)は、常に難しい問題です。もちろん、墜落数秒前からの時間を、怪しいタブレット「レモンキャンディ」で引き延ばし、恐怖を先送りにする人々の姿も十分、皮肉で面白いんですけどね。
ちなみに、この作品、宇宙を舞台にしていますが、科学的な整合性、論理性はあまり気にされていないようで、普通の服のまま、宇宙船の窓を開けて外に出たりもしていました。シチュエーションコメディーですし、そのへんのおかしさは味にもなりうるのですが、一方で宇宙や物理について語る場面もあるので、やはり……気になっちゃいますね。整合性はもちろんですが、もしかしたらそこを(解決しないまでも)調整したりすることで、さらなる展開や笑いを見つけられたかもしれません。

高野しのぶ

満足度★★★

劇場エントランスにチラシと「CoRich舞台芸術まつり!2017春・最終選考作品」の看板があり、嬉しくなりました。そして劇場内に入るなり、舞台美術(柴田隆弘)を見て気分がアガりましたね~!超急こう配の円形なんです。こういう空間に入り込んだ瞬間、「小劇場って素晴らしい!」と思いますね。当日パンフレットに書いてあった通り、開場時間のBGMの選曲とミックスが楽しかったです。

「上空10億kmから7日間落下し続ける飛行船」が舞台のシチュエーション・コメディーでした。終演後のトークで作・演出の福谷圭祐さんが「自分は自分の戯曲のセリフの応酬が好きで、物語や起承転結はそれほどでもない」とおっしゃっていたとおり、辻褄を合わせるとか、整合性をとるといったことは重要視していない作品でした。極限状態の集団に起こる事件を滑稽に見せる趣向だと思います。福谷さんは『悪い癖』(2015年)で第23回OMS戯曲賞・大賞を受賞されています。

終演後のトークでの「この美術を東京まで運んでくるのが大変」という福谷さんの発言を受けて、ゲストの北川大輔さん(花まる学習会王子小劇場芸術監督)が「地域の劇団の東京公演は輸送費、交通費にかなりお金がかかる。ご興味あればグッズをご購入下さい」とおっしゃいました。ロビーでは過去公演のDVDや公演公式Tシャツなどの物販が充実してまして、私は戯曲(1000円)と公演パンフレット(800円)を購入しました。

ネタバレBOX

白と薄い灰色が基調の美術に白装束の俳優たちが登場し、カラフルな照明(西崎浩造)が映えます。ムービング照明がリズミカルで、特に客席にも当たるレーザー照明がとても良かったです。花まる学習会王子小劇場 のロフトのパイプの色と舞台美術がマッチしていて、この劇場に合わせて作られたのかと思えるほどでした。

飛行船に閉じ込められたのはイケメンのホスト・快晴(佐々木誠)、現実と虚構を区別できない病気にかかった男性・曇天(福谷圭祐)、新興宗教の女性信者・雨水(松原由希子)、地下アイドルグループ「しゃかいもんだいっ!」のメンバー・綿雪(東千紗都)、スタントマンの雷鳴(石畑達哉)、大学院生の女性・夜霧(芝原里佳)、綿雪のファンで同人誌を発行する男性・砂嵐(杉原公輔)、風俗嬢の朝凪(吉本藍子)の8人。

砂嵐が歌う「しゃかいもんだいっ!」の曲がすっごく可笑しかったです(作詞・作曲:福谷圭祐)。もう一度聴いて笑いたい。一番笑ったのは、死を超越したようなことを偉そうにのたまっていた雨水が、いよいよ衝突が近づいてきた段階で「死にたくない!」と叫んだ時です。本気で取り乱す姿が滑稽で愛らしく見えました。

題名であるレモンキャンディーは“6秒を1時間に感じさせるドラッグ”で、スマホに電波が入り、地上が目視できるほど近づいて、とうとう衝突まであと12秒という最後の瞬間を2時間に延ばしてくれます。死を目前に、人間は何をするのか…。雷鳴が、日課なのであろう筋トレをしていましたが、他の人たちはうなだれていたり、立ち尽くしていたり、全体的に静かでしたね。個人的には誰もがジタバタする姿が見たかったなと思いました。

演技については次々に起こる出来事や会話が「振り」に見えることが多く、残念ながら引き込まれなかったです。夜霧役の芝原里佳さんの演技には真実味を感じられることが多かったですね。匿名劇壇の出演者は劇団員のみだそうです。女優さんが美人揃いですね~。

橘 康仁

満足度★★★★

福谷さんの問題意識、葛藤のようなものが本質的で、そして正直に込められ、素晴らしい俳優陣と共に作り上げられていた。90分という時間は丁度良い気もしたが、欲を言えば、稽古中、問い続けたものへの答えが、物語の中で観たい気がした。

山﨑健太

満足度★★★

劇団としての力を感じられるよい上演だった。首の動きが揃っているなど、細かい点に演出が行き届き統一されていた点に好感。はじまる前からワクワクさせられる舞台美術もいい。
台本はやや穴が多いものの、見ている最中はさほど気にならず楽しく見られたのも手腕のうちだろう。ただ、オチない話とはいえエンタメとしてはきちんと落としてほしかった。SF的には重要な設定を導入するレモンキャンディが登場してすぐ終幕となる点も物足りない。
もう一点、単に話を展開させるためにレイプ場面があるのは大きなマイナス。人間の欲を描きたいのはわかるが扱いが雑過ぎる。

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