道産子男闘呼倶楽部(東京都)
作品タイトル「漢達(おとこたち)の輓曳競馬(ばんえいけいば)」
満足度★★★
人生の挫折とそこからの再勝負、ストレートな物語。台詞が説明的と感じる部分もありましたが、うまくて味のある二人が役を膨らませ、演技を堪能しました。一人の男の成長物語、もう一人は心の中の葛藤、脳内の対話相手だとも考えられます。90分のコンパクトさもあり、演劇初心者にも「舞台って楽しいな」とすっと受け入れられそうなドラマ。北海道出身者たちばかりが集まった公演を、札幌で上演するというアイデアもステキだと思いました。自由席の観客と行列をつくった当日券の観客を段取りよくさばいて満席の会場を開演時間ぴったりに始め、諸注意アナウンスも気持ちよい制作手腕も特筆ものでした。
満足度★★★
えっ!北海道が舞台じゃないの?というのがまず痛快(笑)。歯を食いしばって曳行せねばならぬ(と思っている)あれやこれやに翻弄される男たち(俳優たち)の奮闘や悲哀、滑稽を素直に楽しむことができました。
「男たち」をめぐる表現は、ともすればマッチョな価値観を露呈しがちですが、この作品はむしろその逆なのが、現代的でもあり、(これも語弊のある表現ですが)女性作家らしくもあったという気がします。とはいえ、エネルギッシュでテンポのあるやりとりに引っ張られたせいか、二人の男が嘘抜きで分かり合う重要な転回点が掴みづらいことに物足りなさも感じました。また、書かれているせりふや設定の外部のリアリティがより意識されるようになれば、さらにドラマの奥行きも増すのではないかと思います。
俳優を中心に企画されたこの作品の魅力は、まさに俳優にありました。津村さん、犬飼さんは、高いテンションの中にも、ふと感情のアヤをのぞかせるところがあり、「人」としてそこに立っているような、不思議な引力を感じさせました。また、ちょこちょこ登場する唯一の女性キャストで、本作の作家でもある西岡知美(ニシオカ・ト・ニール)さんも、変幻自在の楽しい演技を見せてくれました。
満足度★★★★
北海道出身者で結成された道産子男闘呼倶楽部の今公演は、作・演出のニシオカ・ト・ニールさんも、会場であるSPACE雑遊のオーナーも北海道出身というこだわりぶりです。開場中の客入れ時間が心なしかアットホームで、好感をもって幕開きを迎えることが出来ました。舞台との心の距離が近くなったせいか、中年独身男性2人のダメっぷりが早い段階から可愛らしく見えて、進んで声を出して笑えることもありました。
出演者の犬飼淳治さんも津村知与支さんも舞台でよく拝見する俳優で、演技が達者であることは織り込み済みでした。お二人がいつもより魅力的に見えたのは、女性であるニシオカ・ト・ニールさんが男性像を俯瞰して描いてくださったからではないかと思います。熱さも冷静さも、かっこよく見えるところで止めると、ナルシスティックになって鼻に付くものです。弱さ、愚かしさを過剰と言えるほどにさらけ出す演出に、俳優が本気で応えたから、性別を超えて人間の地力が溢れ出たのではないでしょうか。現代口語の会話劇に演劇的な大仕掛けも用意されていて、お芝居ならではの楽しみを味わえました。
満足度★
残念ながら、俳優二人の安定感以外は全くいいと思えなかった。
暗闇の中で「シュッ」「ピシッ」「ハアハア」と音が聞こえてきて、競馬の場面がはじまるのかと思いきや中年男性二人が縄跳びをしている、という冒頭は意外性があったが、そこから「どうしてこうなったんだっけ」と回想がはじまるにも関わらず、結局のところ縄跳びにも回想構造にもほとんど意味がないという構成は大きなマイナス。
最終的に男二人がなぜ前向きになったのかもよくわからない。具体的な肉付けのない「ダメな男」は記号的で奥行きを欠く。
タイトルの「輓曳競馬」がテーマを説明するための言葉に過ぎず、しかもそれを作中で自ら説明してしまうのも巧くない。
制作面では、私の席からは(というか角度的にかなりの数の席でそうだったのではないかと思うのだが)位置の低い芝居がほとんど見切れていた点が残念。