私と踊って
ピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団
新宿文化センター(東京都)
2010/06/08 (火) ~ 2010/06/13 (日)公演終了
満足度★★★★★
タンツテアター
何度も繰り返される「私と踊って」というほとんど金切り声のような叫び。
すさまじい感情とダンスの身体と、白と黒と光と影のビジュアルイメージ。「男達」と「女達」の気持ち悪さと逞しさ。そして思わず吹いてしまような面白さ。
言語の段階での誤読可能性が高いので自分が果たしてどれだけ作品を理解してるのかはわからないけれど、とにかくこんなダンスなのか演劇なのか音楽なのかわからないようなものを、ダンス界が70年代にやってのけてしまっていたということが衝撃。やー、ダンスもっと観よう。
コドモもももも、森んなか
マームとジプシー
STスポット(神奈川県)
2011/02/01 (火) ~ 2011/02/07 (月)公演終了
満足度★★★★★
拡張リフレイン
拡大する世界と自意識との間の調整に精一杯であった頃の、その隙に起こったもの。
自分自身への一生懸命さは、その場にいて、一緒に過ごしていたはずの存在さえ容易に見え辛くさせる。
嗅ぎ取り間違いでなければ、作中で、日曜に起こる事のいくつかの小さな予感と、一回の重要な予兆は匂わされていたように思うのだが、それぞれの切実な視点のリフレインが、小さなそれらの断片をするりと見過ごさせてしまう。
気付くのはいつだって起こってから。しかし後から思い起こす光景もまた、何気ない。そのことがせつなさに拍車をかける。
題材を見ていてふと、藤田氏が眼を向けているのは90年代の子供なのかなと思ったり。
子供の身体の再現率には毎度ほれぼれする。本心の包み隠せてなさ、下の子に対する容赦のなさ、語彙の追いついてなさ、細かい動作で積み上げられる生命感。召田実子の見事な幼児感。
電車は血で走る(再演)
劇団鹿殺し
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2010/06/18 (金) ~ 2010/07/04 (日)公演終了
満足度★★★★★
オーサカファンタジー
彼らが東京に来てすぐぐらい、5年ほど前の立川の駅前でパフォーマンスしてた頃に遭遇して以来。てっきり今ごろバンバン鹿の首をへし折ってくような芝居をやってるのかなと思っていたら、予想外に気持ちのよい舞台でびっくり。
イメージはつかこうへいとカブキロックスを掛け合わせた感じ。
娯楽性を押しながらも含むものが多く、ローカルの固有性と身体性が台詞を生きたものにしていて完成度の高い良い作品だと思う。菜月チョビの関西弁の力がすごい。
ネコ目 HYPHY!! 鎮魂歌【ご来場ありがとうございました】
桃尻犬
参宮橋TRANCE MISSION(東京都)
2010/08/20 (金) ~ 2010/08/22 (日)公演終了
満足度★★★★★
白く高くぶちまけて
予想外に根本的な話で、予想外に笑った。
なんと言ったらいいのか、笑いか失笑かどちらに転ぶかギリギリな平均台上でなぜか三点倒立をして、何ごともなかったように前者に向かってしれっと降り立ったような作品。
下ネタ、というよりシモの話を題材にしている舞台で、しかも歌やアングラといった要素を取り入れた上で笑わようというのは個人的には背水の陣同然なのだけれど、
スピーディな間のセンス、無駄すぎる動作群のあまりの静かで自然すぎる過剰さ、なによりシモの話への真剣な取り組みが、いろんな意味で「イヤラシさ」を感じさせず、むしろ清々しくさえあった。
男優がのびのび演技をしていていいリズムを作ってた印象。特にまめ太?の人の、どう動いても笑わせる抜群の笑いセンスと、ごん太?の人の飛び道具加減は観ているだけで楽しい。
ストロベリー
国分寺大人倶楽部
王子小劇場(東京都)
2010/09/23 (木) ~ 2010/09/27 (月)公演終了
満足度★★★★★
超正統派直球ラブサマー
18歳以上の人全員が観に行けばいいと思う。むしろ18歳以下が大人の階段登っちゃえばいいと思う。20円だし。『男女7人夏物語』と聞いて鼻で笑ってしまう人にこそすすめたい。
軸はストレートな恋愛劇で手段は変化球というズラし感覚がビビットに異化効果として現れている。イメージとしては『大きく振りかぶって』の主人公三橋の「まっすぐ」みたいな球種かなと。
あと10分は短く出来そう。
日時限定の、30分で書き上げたというおまけ公演のいい加減さといったらなくて爆笑。
ポロリもあるよ。
露出狂
柿喰う客
王子小劇場(東京都)
2010/05/19 (水) ~ 2010/05/31 (月)公演終了
満足度★★★★★
スポ百合
好き好き大好き楽しいな。
演出に舌を巻くのはいつものことだが、今回は女優達が一心同体となってトルネードのような運動を産んでいた印象。中屋敷さんが「サル山」と表現したセットに相応しい、ジョシコーセー幻想を叩きかち割る野生のメス達ここにありけり。
白百合なんちゃらとか聖なんちゃらとかでなく、高天原って校名がなんとなく、日本全土を産んどきながら最終的に黄泉の国の鬼神になって夫殺そうとしちゃうイザナミとか、天岩戸にひきこもって皆を困らせちゃうアマテラスとか存外パワフルな日本の女神を連想させていいなと思う。
女の顕在的な恐ろしさをあますところなく肥大化すれば、むしろドロドロ泥試合になりそうなものなのに、実際残るのはちょっとしたすがすがしさというのがすごい。
もう一回観たかったなー。
とりあえず寝る女
箱庭円舞曲
駅前劇場(東京都)
2010/04/02 (金) ~ 2010/04/06 (火)公演終了
満足度★★★★★
感傷ではなく、事実として認めること
タイトルの言葉のトリックは観るまで気付かなかった。
始まって初っぱなの調子に、わりとノリのよい家族ジレンマものってな所か?と思って観ていたら、進むにつれ見えてきたのは人は信用するに足らぬという諦めが根底に流れる、ドライなドロドロ人生劇だったというカウンターパンチ。
あけっぴろげでハードなことにはあまり首を突っ込まないで生きたい自分にとってはピリピリと肌に染みる濃ゆい塩水のような芝居だった。
観終わって時計をみたら予想以上に時間が経っていてびっくり。
内容のハードさを前面からは感じさせぬ演出と演技で、笑いも上手い具合に織り込まれ、2時間強があっという間だった。
個人的にはあのラスト、今年に入って一番印象に残ったラストシーン。
しばらく引きずりはするだろうが、ああ観てよかったと思えた作品。
01272125★たくさんのご来場ありがとうございました。★
ソテツトンネル
神楽坂die pratze(ディ・プラッツ)(東京都)
2010/08/12 (木) ~ 2010/08/15 (日)公演終了
満足度★★★★★
第一回公演とは思えぬ
今後の展開が楽しみな完成度。人というものは基本的にすんなりと残酷なのだ、と淡々と説く脚本に、役者の演技が上手く行間を醸し出している。語りすぎない美学が非常に好み。
脚本も演技も安定度が高く、人と人とのあれやこれがメインとなりながらも緩やかに数式の謎が全体を牽引していて、2時間の長丁場を集中力とぎらせることなく観させる。
しかし見終わった後の印象がなんとなく地味だったので、もう一瞬ほど、なにかえぐりとるようなものが欲しい気もする。
役者では当て書きのようにも見える役を演じていた吉田啓子の個性がひときわ目に付いた。
ジーンズ -gene(s)-
劇団銀石
ザムザ阿佐谷(東京都)
2010/09/29 (水) ~ 2010/10/03 (日)公演終了
満足度★★★★★
ハッピーエンドと言うために
ダーウィンの時代と進化論の過程を、恋と音楽の引力で束ねるなかなかアクロバティックなストーリー。物語の展開は歴史を生物史観から再編成することで現在と未来と存在を肯定的に把握し直す時に向かうための道筋であって、観終えると確かに熱くひたむきなメッセージが残る。きちんと「物語、物語る」という劇団理念に正面から取り組む姿勢を感じ取れた。
音楽家と組んでるだけあって、音楽の感性できめるシーンがキレてて最高に気持ちよし。野田秀樹的想像力と派手な身体動作って今どきむしろ新鮮。
言葉遊びにほころびが見える瞬間もあったが、基本的にハッタリ力でどうにかしてて嫌いじゃない。あとは笑い所で笑わせられるだけ全体の演技に余裕が出てくるぐらいになったらエンターテイメントとしては安心して観られようになるだろう。今回はまだ多くの役者がいっぱいいっぱい。
スポーツ演劇「すこやか息子」
柿喰う客
王子小劇場(東京都)
2009/12/25 (金) ~ 2009/12/27 (日)公演終了
満足度★★★★★
短く長い家族史
人が生まれ、育ち、縁を結び、「さようなら」をするまでの、約3世代の家族を廻る大河ドラマ。
エアロビのリズムに乗せられた記号的な言葉の中でふとむき出しになる生き生きとした人間性に、思わずボロボロ涙。
なんとも心地も気持ちもよかった。
吾妻橋ダンスクロッシング
吾妻橋ダンスクロッシング実行委員会
アサヒ・アートスクエア(東京都)
2010/07/16 (金) ~ 2010/07/18 (日)公演終了
満足度★★★★★
大満足
出演者ラインアップを見てこれ面白くないわけないだろうと行ったダンスクロッシング。お酒も飲んでいいパフォーマンス観て、お腹いっぱい大満足。3時間だけれど時間の長さなんてちっとも感じない。ジャンル越境に興味のある人全てにお勧め。
飴屋さん達とか皆本当いいパフォーマンスを観せてくれたけど、中でも車ABの「スカイツリー」は、今後ここからもっと展開していって欲しいと思わせるような新しい感覚があった。
ライン京急はオチ役が加えられていたためか「EKKYO-!」で観た時よりも受け取めやすかった。
『SHIBAHAMA』 遂に本日千秋楽!!!当日券出ます!!ぜひぜひおこしください。
快快
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2010/06/03 (木) ~ 2010/06/13 (日)公演終了
満足度★★★★★
ポジティブさに恐怖
どうもこれはChim↑Pomに遭遇した時と似た感覚。
今はまだただ、UMAに遭遇した直後のような放心状態。
芸術劇場ってああいう空間になるのか。
おすすめはしないが観ておくべき舞台な気はする。
視点 vol.1 Re:TRANS(MU×ミナモザ×鵺的) 満員御礼、審査発表をblogにて公開しました!
視点
ギャラリーLE DECO(東京都)
2010/09/21 (火) ~ 2010/09/26 (日)公演終了
満足度★★★★★
ある視点
☆は企画自体への評価ということで。公演の位置づけがはっきり自覚的だったので、予め観方を準備できたのがよかった。もちろんただ観るだけでも楽しいけれども、せっかく『トランス』との関係を示してるのだから、なるほどふむふむと考えながら観るのがやっぱり面白い。
今回の公演は「トランス」と「スタンダード」というキィが具体的でかつ解釈の幅が広かったのがいい方向に働いていたように思う。『トランス』のどの面を切りとり返答として提示するのか、三者三様の視点が楽しめた。
逆に三者三様の視点でそれぞれ良さがあっために、多元的な評価基準を採用しないと単純でつまらない気もするので、結果発表ってどういう感じになるんだろ?とか思ったりも。
例えば様々な場所で上演されうるスタンダードなバランス感覚は『無い光』が一番ではなかったかと思うが、2010年の立場からの『トランス』への返答を最も抉って表現していたのは『クィアK』ではないかと。ちなみに自分の一番の好みは『クィアK』。
またあとでネタばれに書く予定なのでとりあえずこれで。
八百長デスマッチ/いきなりベッドシーン
柿喰う客
タイニイアリス(東京都)
2010/04/15 (木) ~ 2010/04/18 (日)公演終了
満足度★★★★★
人力爆走列車
まだ数回しか行ってはいないが、観に行く度、柿喰う客ってすごいんだなあと思う。そのバイタリティの面においても、コンセプチュアルなものを観客に見世物として提供する段階にまで毎回きちんと建設する意識と実力の面においても。
今回の公演、特に40分を噺だけで引き込んでしまう一人芝居を観ていて、作品自体が持つ強度にまた改めてすごさを実感した。
なんというか、もはやこれは、普遍性に近づくことで生まれている強度なのではなかろうか。
観ている最中、身体の若さや年齢的なあれは置いとくとして、これをもし、落語のようにずっとやり続けて名人芸のようになったら一体どういうものになるんだろうだとか、あるいは他の役者が演じたりしたら、ということを考えていた。
もちろん今回の2作は当て書きであると公言していたし、この3人でしか表現し得ない緊張感を観せつけていたのも確かなのだが、それでももし他の人がこれを演じたら・・・と想像してしまうのは、やはり作品自体にどこか普遍的な強度を感じるためだろう。
見世物としての強さと作品の普遍的な強さ。中屋敷法仁作品がもし時代を越えたらどうなるんだろうとか考えると、ちょっと面白い。
遠ざかるネバーランド
空想組曲
ザ・ポケット(東京都)
2010/02/10 (水) ~ 2010/02/14 (日)公演終了
八月花形歌舞伎
松竹
新橋演舞場(東京都)
2010/08/07 (土) ~ 2010/08/28 (土)公演終了
満足度★★★★★
中村屋!
第3部、「東海道四谷怪談」のほぼ全幕を観劇。
最初歌舞伎を観に行ったときは「すごいなー」とかぐらいしか感想がなかったが、何回か観ているとなるほど歌舞伎にも上手い下手があるのだなとそれなりに算段がついてくる。
勘太郎の熱演が今回の公演の全てと言ってもいいくらいすばらしかった。メインのお岩役にはいくら拍手をしても足りないぐらい。一つの作業だけで10分ぐらい平気で観させてしまうことができる役者がはたしてどれだけいるんだろう。
(サーコさんに習って)AB(笑)は立ち姿は素敵なのだが、びっくりするような演技力で、ラスト以外の殺陣に関してはまるで観るに耐えなかった。
音楽劇『巨人達の国々』 ご来場ありがとうございました☆小説化決定しました!!
舞台芸術集団 地下空港
ザ・ポケット(東京都)
2010/06/30 (水) ~ 2010/07/04 (日)公演終了
満足度★★★★★
咥内神話大全
ユーラシアの西と東の創世神話を、極東中野の四畳半のからひも解き転がす、壮大そうに見えて妙に人間臭のするエンターテイメント。
歌あり演奏あり観客参加ありで、足を踏み入れた時から徹底した世界観を味わせてくれる。
ストレートな教訓話だと理解した上で行く分にはとても楽しめる舞台。
エ キ ス ポ 【満員御礼!!】
トランジスタone
ザ・ポケット(東京都)
2010/03/31 (水) ~ 2010/04/04 (日)公演終了
満足度★★★★★
女はたくましい
桐朋学園周辺の、スタンダードかつ独特に古風な感じの演劇スタイルを勝手に桐朋カラーと呼んでいるのだが、この芝居は個人的にはザ・桐朋カラーと言いたい。腰の据わった脚本と演技、時代の再現率の高さに身を任せ、最後まで安心して観劇することができる。
大きな物語が機能していた最後の時代の仄かな希望感、女性のたくましさを感じさせる、いい出来の芝居なのではないだろうか。
ハッピー!!―夢ヲ見ルマデハ眠レヌ森ノ惨メナ神様―
おぼんろ
GALLERY LE DECO 1F(東京都)
2011/04/28 (木) ~ 2011/05/05 (木)公演終了
満足度★★★★★
創意工夫と想像力
使用をめぐって管理人を口説き落としただけのことはある、大分アナログな創意工夫が凝らされたギャラリー空間の使い切りっぷり。
空間との関わり方を頭に入れて作られた作品はそれだけでもうかなり好きなのだが、通路もままならぬ観客のぎっちりさと、高さのある無造作なルデコ1Fと、観客と役者の空間作りの間で絶妙なバランスができていて、それはもう今まで観て来た中で「この演劇空間がいい」の3指に入る空間だった。
参加型というか巻き込み型なのが特徴的。観客と役者の間に他愛ないやくそくごとを取り決める、この距離感なんか懐かしいなあと思ったら児童演劇での観客の巻き込み方だ。このアットホームさにのれるかのれないかが分かれ目かも。引導されるがままに身を任せ、楽しもうという心意気を持ち想像力を働かせば、スペクタクル間違い無し。個人的には飛んでるシーンと食べてるシーンに超ワクワク。
一つ一つの言葉にのびのびとした力がこもっていて聞いてて気持ちいい。
シアターコクーンでの上演を目指しているらしいが、全国の小さな劇場や学校みたいないびつな空間の方がこの団体のおもしろみを上手く伝えられるんじゃなかろうか。むしろバラックとかで観てみたいな。
アンチクロックワイズ・ワンダーランド
阿佐ヶ谷スパイダース
本多劇場(東京都)
2010/01/21 (木) ~ 2010/02/14 (日)公演終了
満足度★★★★★
スマートな迷宮
ひたすら実存的な言葉(しかも現実虚構の実存入り乱れた言葉)で会話がなされるので、頭を全力で開いていないと置いてかれる。コメントを参考にずいぶんと気合を入れて臨んだのだが、一瞬気がそれたらだいぶ置いてかれかけた。
けれど内容はといえば、虚構と現実についての考察と実践という点からみて、その入り混じり具合も台本上での言葉と演劇の仕組みと組み合わせバランスも非常に上手いことやっており、似た試みをしてきたあまたの作品の中でもかなり成功してると言えるもの。虚構と現実らしきものの境目にあるラビリンス。少なくとも自分はワクワクしっぱなしで2時間みれた。
小説に書かれた言葉は必ず物語とかかわりがある、みたいな言葉(詳細不確か)をどっかで聞いたことがあるが、みていてその言葉を強く想起させられた。物語、特に文字で書かれた物語というものは常に恣意的。それをひっくり返して考えた所にこの舞台の始点があるように思う。