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バレエ・リュス ストラヴィンスキー・イブニング 火の鳥/アポロ[新制作]/結婚[新制作]

バレエ・リュス ストラヴィンスキー・イブニング 火の鳥/アポロ[新制作]/結婚[新制作]

新国立劇場

新国立劇場 オペラ劇場(東京都)

2013/11/13 (水) ~ 2013/11/17 (日)公演終了

満足度★★★★

圧巻の『結婚』
イーゴリ・ストラヴィンスキーがバレエ・リュスの為に作曲したバレエ作品特集で、音楽も振付もそれぞれタイプが異なり、ストラヴィンスキーとバレエ・リュスの革新性が良く分かる公演でした。

『火の鳥』(ミハイル・フォーキン振付)
2011年に上演された物と同じ版(その時の感想 http://stage.corich.jp/watch_done_detail.php?watch_id=83496)でしたが、前回よりも群舞にまとまりが感じられ、迫力がありました。音楽に合わせてマイム的な動きをする所で微妙にずれていることが多かったのが残念でした。
古川和則さんが演じた魔王カスチェイのいかにも悪役な身振りが楽しかったです。

『アポロ』(ジョージ・バランシン振付)
一応それぞれに役名はあるものの特にストーリーは無く、奥に階段状のセットがあるのみのシンプルなステージで装飾のない白のレオタードを着て幾何学的なフォーメーションの美しさを見せる作品で、アルカイックな雰囲気の中にユーモアが感じられました。音楽も振付も感情の表出を抑えていて、独特の浮遊感がありました。
タイトルロールを踊ったコナー・ウォルシュさんの筋肉の存在を強く感じさせる動きがまさにギリシャ彫刻の様でした。

『結婚』(ブロニスラヴァ・ニジンスカ振付)
ピアノ4台、打楽器7人、歌手のソリスト4人、合唱という特異な編成の為、あまり上演されない作品ですが、強烈なインパクトがありました。
結婚式直前の新婦の家族と友人、続いて新郎の家族と友人、再び新婦、そして結婚式の4つの場面からなり、男女それぞれが揃いの衣装を着て無表情で機械仕掛けの人形の様にユニゾンで踊る不気味さの中に悲しみや嘆きが感じられました。
1場の終わりと3場の始まりが全く同じ光景だったり、4場で壁の奥に小部屋が現れたり、双方の両親は踊らずにずっと立ったままあるいは座ったままだったりと、演出的にも興味深い手法が用いられていて、90年前の作品には見えない斬新さがありました。

体温と体温

体温と体温

前澤秀登

d-倉庫(東京都)

2013/11/11 (月) ~ 2013/11/11 (月)公演終了

満足度★★★

アナーキーな一夜
様々なジャンルのパフォーマー達が観客に媚ずにやりたいことをやっていて、アナーキーな雰囲気が漂う公演でした。

黒田オサム
物乞いの行為に基づいたパフォーマンスで、昔ながらの日本人の身体性とロボットダンスが融合したような動きに80歳を越えているとは思えない柔軟性が感じられました。

レオナ+山田あずさ
黒田さんのカスタネット演奏に重なりながら始まり、タップダンスと、ヴィブラフォンを中心にしたパーカッションのスリリングなセッションが展開しました。鉄板や鎖を用いたタップが独特の音色を生み出していました。

マコメロジー+高橋牧+伊佐千明
ギターデュオの演奏にリーディングとダンスが絡み、カントリー的な可愛らしい見た目とは裏腹に仄暗い情念の様なものが感じられました。行われているパフォーマンスを録音したものが暗闇の中で再生されるラストが印象的でした。

ibis
椅子の位置を気にする動作から始まり、J-Popと青臭い台詞に乗せてヒップホップのテクニックでがむしゃらに踊る作品で、エネルギーの空回り感が独特の味わいを出していました。

Rie Tashiro
他のパフォーマンスとは異なり、照明も含めてしっかり作り込まれた作品で、ストリートダンスのヴォキャブラリーを用いつつもダークで内向的な雰囲気が強く、引き込まれました。冒頭の小道具を用いたシークエンスは必要ないと思いました。

入手杏奈+カンノケント
ブルーシートで作った衣装を着た入手さんが、タブラを演奏するカンノさんを挑発するように踊り、終盤にカンノさんに乗っかった状態の入手さんがパウダーを撒き散らしながら会話する様子がシュールでした。

都村敏子+桑原史香
揃いの格好で都村さんが語り、桑原さんが踊る作品で、観客に「長生きしてね」と声を掛けて回る都村さんがとてもチャーミングでした。テクストや選曲にあざとさが感じられました。

個性的な人を集めた企画自体は良かったのですが、開演がだいぶ遅れ終演が22時を過ぎていたのが残念でした。

オペラ「リア」

オペラ「リア」

日生劇場

日生劇場(東京都)

2013/11/08 (金) ~ 2013/11/10 (日)公演終了

満足度★★★★

凄絶な音楽を引き立てる明快な演出
近年オペラ界で流行りの読み替え演出ではなく衣装も古風で、シェイクスピアの物語世界に違和感なく入り込めました。

床に広げられた大きなイングランドの地図を分割して姉妹達に分け与える所から始まり、姉妹3人の衣装や照明に赤、青、白とテーマカラーが割り振られ、各場面が分かり易く描かれていました。
変に現代との共通性を示す様な趣向を盛り込んだりせず、オーソドックスな表現に徹することによって、愚かな人々の悲劇の普遍性が鮮やかに立ち上がっていました。
道化役は歌手ではなく、ダンサーが演じていて、軽い身のこなしやオペラ的でない素朴な歌唱法が素晴らしい効果を挙げていました。

とても難しい曲なので仕方がないのですが、第2幕中盤からプロンプターの歌の出だしを指示する声がずっと聞こえていて、集中力を削がれてしまって、残念でした。

クラスターやグリッサンド、微分音を多用した、軋むような暴力的な響き、あるいは息の詰まる様な静かな響きが続き、古典オペラの様な美しい旋律は皆無ですが、荒廃していくリア王の心象にマッチしていて、劇的な効果をあげていました。
舞台手前のオーケストラピットは弦楽器が占め、この公演の為にわざわざプロセニアムアーチを撤去して(下地の鉄骨が見える状態でした)管楽器と打楽器を舞台の両脇に配置することで、歌声が楽器の音でマスキングされることがなく、聞き取り易かったです。

下手奥から上手手前に傾斜している床面に、回り舞台や出入り口が気付かない様に仕込まれていて、それらが使われた時のインパクトがありました。
後方の壁が両側に開いたり、上に持ち上げられたりしてその奥から登場する様子がドラマテイックでした。

オーバードーズ:サイコ・カタストロフィー

オーバードーズ:サイコ・カタストロフィー

シアタースタジオ・インドネシア

池袋西口公園(東京都)

2013/11/09 (土) ~ 2013/11/13 (水)公演終了

満足度★★★

制御不可能な物との対峙
去年に引き続いてのF/T参加で、前回より規模の大きな野外パフォーマンスとなっていて、難しい印象のタイトルや当日パンフレットの文章とは関係なく、労働と儀式の演劇的表現として見応えがありました。

水を張った上に組まれた竹製の巨大な構築物の中で、司祭の様な格好の男が歌ったり祈りの言葉らしきものを語り、5人の上半身裸の男達が様々な作業を行う構成で、構築物の上まで上っていったり、ワイヤーや竹にぶらさがったりする、肉体の力強さが印象的でした。
中心に水平に吊り下げられた丸太が場面毎に様々な物をイメージさせ、それが不安定に揺れ動いて危険な状態をなんとかコントロールしようとする姿が、自然(災害)と人間の関係を思わせました。
終盤では丸太に設けられた窪みと竹の棒で香木(?)をリズミカルに挽き、擦り潰したものを観客に配って歩き、エキゾティックな香りが儀式性を高めていました。

プログラムノートに書いてあった「デシタルムードメーター」や「エモーションディスプレイ」の効果が分からず、プリミティヴな面ばかりが強調されていた様に見えてしまったのが残念でした。

偽造/夏目漱石

偽造/夏目漱石

重力/Note

アトリエ春風舎(東京都)

2013/11/04 (月) ~ 2013/11/10 (日)公演終了

満足度★★

夏目漱石を通して見る日本
夏目漱石の様々な小説のテクストをコラージュした作品で、表現したいことがあまり伝わってきませんでしたが、多様な台詞回しや視覚的な美しさが印象に残りました。

4人の役者がモノローグ的にコラージュされたテクストを語る形式で、物語性は希薄な展開でした。「東京」や「富士山」がキーワードとして度々現れ、文章の中の特定の人物を指す名詞や代名詞を発声せずに沈黙に置き換えていて、その間が訪れる度にそこに「私」や「日本人」という言葉をイメージさせられ、それについて考えさせられました。
日本をテーマにしつつ、『君が代』は用いずに、漱石の留学先のイギリスを連想させる『威風堂々第1番』を使っていたのがシニカルでした。

序盤は独特な表現に惹かれましたが、その後の展開に中弛みを感じました。中盤で床に下手奥から上手手前に線上に照らされていた所を、子供用の靴を手で動かして歩いている様に見せるラストが美しかったです。

ベニヤ板で塞がれた舞台奥の壁面の上手に4組の靴や下駄が立て掛けられ、客席のすぐ前には美術館等で見掛けるロープパーテーションポールが置かれた舞台美術が印象的でした。和洋折衷の衣装も美しかったです。

『クリプトグラム』(cryptogram)

『クリプトグラム』(cryptogram)

世田谷パブリックシアター

シアタートラム(東京都)

2013/11/06 (水) ~ 2013/11/24 (日)公演終了

満足度★★★

謎めいた会話劇
シンプルな舞台美術・照明の中で展開する3人芝居で、掴み所が無いのに不思議な求心力を感じる作品でした。

子供と母親、そして父親の友人である男性の3人の会話がはっきりとした筋が見えない状態で続き、その3人および登場しない父親の関係について考えさせられるミステリアスな物語でした。
短い台詞が畳み掛けられる場面が多く、喋っている途中で他の人が遮って話が続かなかったり、同じ言葉を繰り返したり、つっかえる様な妙な間があったりと、会話のテンポが独特で引き込まれました。それぞれの思いが台詞になりきらずに空中分解している様な雰囲気が興味深かったです。
元々そうなのか、翻訳のおかげかは分かりませんが、あまり海外戯曲らしさを感じず、内容的には入り込みにくいものの、雰囲気としては受け入れ易いと思いました。

空間に対して斜めに振ったステージに置かれたいくつかの家具や、2階に繋がる階段が群青色から白へのグラデーションで統一されていて、スタイリッシュな雰囲気を生み出していました。

谷原章介さんのタイミングを間違ったかの様な間の取り方が絶妙で、謎めいたキャラクターが表現されていました。子役の山田瑛瑠さんは大人2人と変わらない台詞の量をこなしていて、子役にありがちな臭い演技もなく、良かったです。

スガダイロー 五夜公演 『瞬か』

スガダイロー 五夜公演 『瞬か』

あうるすぽっと

あうるすぽっと(東京都)

2013/10/30 (水) ~ 2013/11/04 (月)公演終了

満足度★★★

第5夜(vs.近藤良平)鑑賞
フリージャズ・ピアニスト、スガダイローさんが音楽系以外の様々なパフォーマーと即興セッションを行う5回のシリーズで、最終回の近藤良平さん(ダンサー/振付家)とのパフォーマンスを観ました。

旅先からギリギリで会場に到着し、大きな荷物を沢山持った近藤さんが客席通路を通って現れ、舞台上で荷物を広げ、スガさんは3台のグランドピアノと1台の調律の狂ったアップライトピアノを1音あるいは1和音ずつ弾いて回るところから始まりました。
近藤さんはなかなか踊らず、物をステージ手前に並べたり、スガさんにお土産を食べさせたり、一緒にピアノを弾いたり(滅茶苦茶ではなく、音楽的な演奏でした)と、予測不可能な展開が続いてユーモラスでした。
終盤はしっかり踊り、古典的なカデンツで礼をして終わり、その後アンコール的に短いパフォーマンスがありました。

音楽やダンスの即興では言葉によるコミュニケーションは用いないのが暗黙の了解となっているのを気にせずに、普通に喋ったりホワイトボードに字を書いていたのが痛快でした。

近藤さんのパフォーマンスは小道具に頼り過ぎていると感じる所もありましたが、人を楽しい気分にさせるのが上手く、観客のみならずスガさんも笑ったり困惑したりしていたのが印象的でした。
スガさんはクラシック的な端正な響きからアヴァンギャルドで破壊的な演奏まで引き出しが多く、近藤さんが仕掛けて来るに合わせて自在に変化するのが素晴らしかったです。

国際共同制作ワークショップ上演会

国際共同制作ワークショップ上演会

アジア舞台芸術祭制作オフィス

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2013/11/04 (月) ~ 2013/11/04 (月)公演終了

満足度★★★

米/稲にまつわる6作品
アジアの5ヶ国、6人の演出家が「米/稲〜食生活の共通性と差異について」をテーマに短期間のワークショップで作り上げた15分程度の作品の発表でした。

チェン・ウェイニン(台北)『イリュージョン』
遅刻したため観ることが出来ませんでした。

グエン・ホアン・トゥアン(ハノイ)『案山子』
真面目に農作業を行う妻と昼間から飲んだくれている夫、そしてその様子を見ている案山子を描いた物語で、童話的な雰囲気がある作品でした。
演出手法に伝統的な様式性あるいは革新性も見られず、また演技力で魅せる感じでもなく、凡庸に感じられました。
(評価:☆)

イ・ソング(ソウル)『My Mom』
母の一周忌の日の家族の様子を描いた作品で、韓国の法事が見られて興味深かったものの、ストーリーがありきたりに感じられました。
般若心経が書かれた屏風を用いて舞台の手前と奥を隔てた空間演出が魅力的でした。カヤグム(箏に似た楽器)の生演奏が効果音的にも使われていたのが効果的でした。
(評価:☆☆)

森新太郎『ハノイの幽霊』
エチュードで拾った出演者達の実生活でのエピソードを能の『井筒』の物語構造に落とし込んだ作品で、シンプルで洗練された空間の見せ方が美しく、印象に残りました。
スティーヴ・ライヒ作曲の『ドラミング』のパート1&4を雨音の表現として使い、次第にBGMとしての役割に移行するのが洒落ていました。
(評価:☆☆☆)

チョン・ツェシェン(シンガポール)『うえる』
家族と食にまつわる断片的なエピソードが矢継ぎ早に展開する内に、放射能のモチーフが浮かび上がってくる物語でしたが、その扱いが表層的に感じられました。
全身黒の衣装の5人の役者が緑と赤の紐を水平方向に何本も張り、小道具的に用いる演出がユニークでした。
(評価:☆☆☆)

佐々木透『アマルガム手帖』
テーマに対して米米クラブやアメリカ(=米国)と太洒落レベルの表層的なモチーフを敢えて持ち出す、確信犯的な作品で、馬鹿馬鹿しさの中に批評性が見え隠れするのが魅力的でした。
3人の役者がほとんど絡まずに並走し続けるスタイルが斬新でした。タカハシカナコさんの出オチ感が強烈でした。
(評価:☆☆☆)

秋のソナタ

秋のソナタ

ぴあ

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2013/10/25 (金) ~ 2013/11/03 (日)公演終了

満足度★★★

親子の愛憎
母と娘の軋轢を濃厚に描いた2人芝居で、迫真の演技に引き込まれました。

ピアニストの母親が牧師の妻となった娘の所へ訪ねて来て、過去の行いについて激しい言い合いと沈黙が繰り返された後、結局関係は修復せず、母が去って行く物語で、お互いが心情を曝け出す様が印象的でした。

張り出し舞台を3方から客席が囲む形になっていて、舞台中央にテーブルと椅子、その奥に宙吊りにされた窓、上手にドアが設置されたシンプルなセットでしたが、テーブルに掛けられたシーツの形を変えたり、蝋燭の明かりを用いたり、時には客席通路も用いて、空間に単調さがありませんでした。
親子の他にも数名の登場人物がいるのですが、その人物がその場にいる体裁で誰もいない所に向かって話す形で表現されていて、常に母と娘の2人の存在に焦点が当てられていて緊迫感がありました。
ドアを閉める音やグラスを置く音にリヴァーブを掛けたり、心情を表す効果音が随所で使われていましたが、演技だけで十分な見応えがあったので、過剰な音響効果に感じられました。

台詞が無いまま数分間続く冒頭シーンでの満島ひかりさんの立ち振る舞いが美しくて印象に残りました。佐藤オリエさんの強さと弱さが見え隠れする様子が魅力的でした。

第40回NHK古典芸能鑑賞会

第40回NHK古典芸能鑑賞会

NHKプロモーション 

NHKホール(東京都)

2013/10/29 (火) ~ 2013/10/29 (火)公演終了

歌舞伎のみ鑑賞
箏曲、狂言、京舞、歌舞伎、と異なるジャンルの伝統芸能をまとめて上演する毎年恒例の公演で、リーズナブルな価格で一流の芸が楽しめました。
(急用が入って遅刻した為、最後の歌舞伎しか観ることが出来なかったので、星を付けるのは控えます。)

『双蝶々曲輪日記 引窓』
立場上敵対関係になってしまった、義理の兄弟である長五郎と与兵衛のお互いを思いやる深い情を描いた作品で、ビジュアル的に派手さは無いものの演技に引き込まれました。
この作品の通称となっている引窓(紐で開閉する天窓)を用いたやりとりが味わい深かったです。
大仰な見得は切らないのですが、手水鉢の反射越しに与兵衛が長五郎を見付ける場面や、長五郎を引窓の紐で縛る場面が印象的でした。

無料配布のパンフレットが程良い情報量で、上演の前には簡潔な解説があり、上演中は浄瑠璃の歌詞が舞台上部に表示されていたので分かり易かったです。

最初から観ていた友人によると京舞『お七』も仕掛けのある美術が凝っていて良かったとのことです。

nora(s)

nora(s)

shelf

アトリエ春風舎(東京都)

2013/10/25 (金) ~ 2013/10/31 (木)公演終了

満足度★★

ストイックな語り
イプセンの『人形の家』を再構成した60分間の作品で、音響を用いず、照明の変化も控え目の演出で、役者の声や身体がストイックに現れていたのが印象的でした。

時間軸に沿った戯曲通りの展開ではなく、終盤のノラと夫の対話の場面を前後に分割して、その間に様々な場面の断片が挟まれた構成でした。開場すると既に4人の女性と1人の男性がそれぞれ異なる姿勢で佇んでいて、そのまま静かに始まりました。
女性は基本的に4人ともノラを演じつつ他の役も演じ、男性は場面によっては落語の様に1人で2役の会話を行うこともあり、アイデンティティーについて考えさせられました。
ほとんど動かずに台詞を語り、動く時もとてもゆっくりですが、緊張感に満ちていて独特の求心力がありました。原作には無い歌が挿入され、繰り返し現れる度に歌い方が異なり、強く印象に残りました。

「近代的自我」というテーマに焦点を絞った構成で、パフォーマンスとしての個性と強度は感じましたが、原作に備わっている様々な思惑の交錯によるスリリングなドラマ性が除外されていて、この戯曲が発表当時にテーマが先進的だったということだけではなく、物語としても面白いという一面が損なわれているのが勿体なく思いました。
何も無い素舞台での上演でしたが、5人の立ち位置の配置や動きが美しく、空間的な物足りなさは感じませんでした。

主宰の矢野靖人さんの開演前・終演後の挨拶が丁寧でありながら程良くフランクで、とても印象が良かったです。

ファスビンダーの 「ゴミ、都市そして死」

ファスビンダーの 「ゴミ、都市そして死」

SWANNY

紀伊國屋ホール(東京都)

2013/10/25 (金) ~ 2013/10/27 (日)公演終了

満足度★★

都市のゴミ達
反ユダヤ的な内容が問題視されてドイツでは長い間上演されなかった戯曲の日本初演で、単純に笑えたり泣けたりする物語ではないものの、退廃的ないかがわしさが魅力的でした。

DVを受けつつも恋人を愛す娼婦と、土地を買い占める金持ちなユダヤ人の男を中心とした物語で、社会の底辺層のやりきれない思いが卑猥な単語が続出する台詞に現れていて、ギスギスとした雰囲気がありました。

良いキャストやスタッフが揃っているのに上手く噛み合っていない印象があり、終盤になってやっと流れが良くなってきたのが、勿体なく思いました。
シーンの切り替わりで生演奏や録音による音楽が流れ(当日パンフレットによると戯曲で曲が指定されているそうです)、ダンスやマイム的なパフォーマンスが行われる構成となっていて、パフォーマンス自体は魅力的な物もありましたが、わざわざパフォーマンスを加える必要性が感じられませんでした。

主役の娼婦を演じた緒川たまきさんが妖艶で美しかったです。深緑のドレスで金色の壁面の前に立つ姿がクリムトの絵画の様でした。横町慶子さんのダンスは動きは少ないものの、非常に洗練されていて引き込まれました。主人公の父を演じた伊藤ヨタロウさんが独特の存在感を醸し出していて魅力的でした。

未来を忘れる

未来を忘れる

文学座

文学座アトリエ(東京都)

2013/10/18 (金) ~ 2013/11/01 (金)公演終了

満足度★★★★

シニカルに描かれた日本の姿
新興宗教、先進医療、国際関係、自然災害、原発といった現代の日本にくすぶっている問題が全部悪化してしまった近未来を舞台にした、ブラックユーモアに満ちた脚本を、リアリズムではない身体表現や映像を多用した演出で描いた怪作で、エッジの利いた雰囲気が刺激的でした。

厳しい環境に適応する為に作られた、ゴキブリの遺伝子を含んだ薬品を用いた夫婦と、ゴキブリとして生まれた息子の物語が、時系列を細かく前後しながら描かれ、様々な問題が存在する中で「個」として生きることについて考えさせられる内容でした。
かなりグロテスクな話なのに全編に渡ってユーモアが感じられ、独特の毒のある世界観が強烈でした。

前半では6人の役者が常に舞台上に存在していて、客席に背を向けて立つ時や、動きの途中で静止したままの時はそのシーンには登場していないものとすることによって次々に変わる時間や場所をスムーズに繋げていたのが見事でした。

ネタバレBOX

新興宗教の親子2代の教祖が登場するシーンでドヴォルザークの『新世界より』が流れるのが曲名と活動内容が繋がり、かつ牧歌的な曲調がシニカルに響き、さらに『家路』として知られる旋律が夕方の雰囲気を醸しだしたりと、様々なレベルで物語とリンクしていたのが巧みで印象に残りました。
客席側以外の5面をベニヤ板で覆う横長の空間に様々な方向から光が照らされ、影がセットに長く落ちる様子が美しくかつ不気味でした。奥の面が少し後退してその隙間から舞台への出入りを行うのも斬新でした。
6畳間ソーキュート社会

6畳間ソーキュート社会

快快

トーキョーワンダーサイト渋谷(東京都)

2013/10/18 (金) ~ 2013/10/20 (日)公演終了

満足度★★★

iPhone/6畳間/宇宙
テクノロジーに生活を支配されている若者をポップで賑やかなテイストで描き、人に対する温かみが感じられる物語でした。

畳6枚が敷かれた演技エリアを肩の高さ程度に持ち上げられた客席が囲む形で、前半ではiPhoneの画面がベッドに投影され、iPhoneネタのエピソードが語られて依存症の様になっている姿が描かれていました。
後半で、女が妊娠したことを男に告げた後、「わたし」「あなた」「わたしたち」「あなたたち」という単語が連発され、200億年先までの未来の歴史が激しい身体表現を伴ってスピーディーに語られる展開が圧巻で、壮大に拡がる話が再び女の告白に戻るのがユーモラスでした。
男がペンで女の腹に顔を描き、iPhoneの呼び出し音をサンプリングした音楽に合わせて男が尻を出して叩き、女が腹を出して踊るラストシーンが後に続く子孫達を祝福している様で幸福感に満ちていました。

現実の困難を受け入れつつも過度に深刻ぶらずに軽やかに振る舞っている感じがして魅力的でした。
当日パンフレットとは別に作られていた、メンバーへのインタビューをまとめた小冊子が読み応えがあって良かったです。

DUEL~チェロとピアノのゆかいな決闘~

DUEL~チェロとピアノのゆかいな決闘~

世田谷パブリックシアター

世田谷パブリックシアター(東京都)

2013/10/19 (土) ~ 2013/10/20 (日)公演終了

満足度★★★

クラシック音楽でお笑い
チェリストとピアニストのデュオが確かな技術を用いて馬鹿馬鹿しいパフォーマンスを繰り広げ、小さな子供から大人まで気軽に楽しめる作品でした。

下手にピアノ(但し通常とは異なり、奏者の左側が客席に向く方向)、上手にチェロという配置で、普通のクラシックコンサートの様にお辞儀をして始まるものの、チェロのエンドピンが床に刺さらず演奏の途中で楽器が滑って行ったり、スポットライトが消えたりとハプニングが連発し、2人が片手でピアノもう一方でチェロを同時に弾く曲芸を行ったり、楽器でない物を演奏したり、楽器を人や動物に見立てたり、歌詞に因んだネタを盛り込んだりと、様々なタイプの笑いが入っていました。
終盤では、腕の震えが止まらない、車椅子に座って点滴を打たれているピアニストがチェリストにピアノの前で左右に動かされることによって、ブギウギスタイルの演奏になり、そのまま死んでしまうという展開もあり、ブラックなテイストが新鮮でした。

ドタバタな展開の中にも所々で演奏をじっくり聴かせるバランスが良かったです。
カーテンコールがあって終わりかと思いきやまだ続く展開が数回あるのは、なかなか終わらないクラシックのコンサートを風刺しているのだとは思いますが、盛り上がりのピークを過ぎた所で終演になってしまっていて、勿体なく思いました。

Whenever Wherever Festival 2013

Whenever Wherever Festival 2013

Body Arts Laboratory

森下スタジオ(東京都)

2013/10/07 (月) ~ 2013/10/27 (日)公演終了

満足度★★★

『エクスペリメンタル・ パフォーマンス day1』鑑賞
対面客席の中で、奇妙な音を伴う男女デュオのダンス2作が踊られ、作風の違いが印象的でした。

京極朋彦×山崎阿弥
不可解でエロティックな声とダンスのパフォーマンスでした。
山崎さんの特殊な発声による自然音や動物の鳴き声の様な音が響く中、京極さんが腰を落とした姿勢で踊り、途中でお互い服を脱がせて相手の服を着て架空(?)の言語によるモノローグのシーン、おそらく即興のポエトリー・リーディングと激しいダンスのシーンと続きました。
山崎さんの声のパフォーマンスは魅力的でしたが、全体としては求心力が弱く感じられ、あまり伝わってくるものがありませんでした。

生西康典(演出)×外山明(演奏)×伊佐千明×山崎広太
パステルカラーの花柄ワンピースを着た伊佐さんとエスニック調のシャツを着た山崎さんが、外山さんのドラムに乗せて(あるいは乗らずに)踊り、素っ頓狂なユーモアが魅力的でした。
定常的なビートや激しい乱れ打ちを用いず、耐えず変化する演奏が、絶妙な不安定さを生み出し、シュールな展開のダンスとマッチしていました。
外山さんが新聞紙を投げ入れ、ダンサー2人がそれを捻って両端を掴んだまま踊る展開が楽しかったです。

伯爵のおるすばん

伯爵のおるすばん

Mrs.fictions

サンモールスタジオ(東京都)

2013/10/07 (月) ~ 2013/10/14 (月)公演終了

満足度★★★

時を超える「ありがとう」
不老不死の男とその恋人達の長い年月に渡る物語が、押し付けがましさの無い笑いと切なさでスマートに描かれた、ウェルメイドな作品でした。

18世紀のフランスの貴族の家から話が始まり、現在より少し前の時代の高校、現在より少し未来のヤクザの事務所、1000年後の人類が滅びた時代、56億年後の宇宙消滅の日を舞台に、それぞれの時代で恋人との出会いと別れが描かれ、「ありがとう」を伝えることの大切が優しく表現されていました。

各時代で主人公の職業が異なっていて、歴史物、学園物、任侠物(ボーイズラブ風味)、SF物、と様々なテイストを盛り込んでいたのが楽しかったです。
後のシーンで活きてくる台詞や、時代設定をネタしたジョーク等、言葉の流れが巧みでありながら自然で心地良かったです。
「宇宙が終わった後に行われる、生まれて死んで行った人全員が集まる飲み会」というイメージが素敵で、ラストにその場面が演じられ、そのままカーテンコールに繋がって行くのが洒落ていました。

学園物の場面は連作ショートコントの様な仕立てだったので、暗転がテンポ感を出していて気になりませんでしたが、他のパートでも時間の経過を示すのに暗転を多用していたのにはしつこさを感じました。
脚本と役者が良かったので、それをしっかりと見せるオーソドックスな演出にしていたのは、それはそれで良かったと思いますが、個人的には、映像や文章では出来ない、生の舞台ならではの表現をもっと見せて欲しかったです。

正義の人びと

正義の人びと

コロブチカ

ギャラリーCASA TANA(東京都)

2013/10/11 (金) ~ 2013/10/16 (水)公演終了

満足度★★

相対的な正義の尺度
ロシアの革命勢力の物語で、正義とは何かを考えさせられる内容でしたが、途中での軽い感じの演技が作品に合っていないように感じられて、物語の世界に入り込めませんでした。

大公を殺害しようとする革命組織のメンバーが、いざ実行となると、それぞれの「正義」や「潔白」に対する考え方の相違があらわになり、さらに「愛」という要素も加わって葛藤する物語でした。

部屋の出入りを特徴的な身体表現で表す以外はストレートな演技スタイルで演じられていましたが、中間辺りで新たに登場する役が、それまでとかなり異なる、おどけた要素を強調していて、せっかく高まっていた緊迫感が壊されて以降を集中力を持って観ることが出来なくなってしまいました。重い内容なので観客の集中力がに途切れないように笑いを入れる意図だったのならば、逆効果だったと思います。
開演前の注意のアナウンスがあるより前からマイム的な動きが行われていましたが、劇中では出て来ない様な現代的な動きがあったりして意図が良く分かりませんでした。

ドアをノックする音や馬車が走る音といった効果音や、転換時の音楽を役者が生演奏で出していたのが良かったです。
邸宅の広間の様な高級感があるギャラリー空間の奥に赤い布を上部から垂らし、そのまま床に水平方向に敷いただけの質素なセットが劇場とは異なる雰囲気を醸していて、新鮮でした。

正義の為ならテロリズムも肯定する役を演じた濱仲太さんが迫力がありつつもうるさくなく聞き取りやすい台詞回しで、急進的な革命家の雰囲気が良く出ていました。

Stick & uS

Stick & uS

STスポット

KAAT神奈川芸術劇場・中スタジオ(神奈川県)

2013/10/11 (金) ~ 2013/10/13 (日)公演終了

満足度★★★

振付家/ダンサー
振付家/ダンサーの白神ももこさんと酒井幸菜さんがお互いに振り付けした作品のダブルビルで、自身が踊らなくても作品に振付家の個性がはっきりと出ていたのが印象的でした。

酒井幸菜作品(出演:白神ももこ)
3本の棒が水平に吊されていて、眼鏡&腕カバーを身に付けた冴えない感じのOLに扮した白神さんがそれを数分間動かずに見つめる場面から始まり、日常の様子がダンスとして表現され、後半では箸で器からグラスへ豆を移し替える動作がじっくり描かれた後に豆を撒き散らして踊り、最後は倒れ込んで棒の様になる展開でした(休憩時間中もずっと固まったままでした)。
アフタートークで酒井さんが触れていましたが、安部公房の『棒になった男』の影響が感じられました。感情が伝わって来る様な、滑らかなフォームの振付が美しかったです。

白神ももこ作品(出演:酒井幸菜)
ぴったりとした白い衣装を着た酒井さんが、『リボンの騎士』の音楽や三輪明宏さんの歌に乗せて、様々なサイズの棒と関わりながら踊る作品で、性的な要素がありながらも嫌らしさがなく、朗らかな雰囲気を感じました。
撒き散らされる多量の割り箸の中で、足と棒で床を打つ動きを繰り返す最後の場面に何とも言えない神々しさを感じました。
髪飾りと思わせておいて実はハタキだったり、OL姿のままの白神さんが上手奥でひっそりと佇んでいて次第に酒井さんと関係を持ち始めるといったユーモアがいかにも白神さんらしくて楽しかったです。

両作品とも悪くはなかったのですが、振付家自身が踊った方がもっと作品の魅力が増す様に思えて、もどかしさを感じました。

中村恩恵×首藤康之 Bプログラム「Shakespeare THE SONNETS」

中村恩恵×首藤康之 Bプログラム「Shakespeare THE SONNETS」

新国立劇場

新国立劇場 中劇場(東京都)

2013/10/09 (水) ~ 2013/10/10 (木)公演終了

満足度★★★★

闇と静寂
シェイクスピアのソネットを下敷きにして作られた作品で、シェイクスピアが生きていた時代の夜をイメージさせる闇と静寂の中に上品な色気が感じられる、密度の高い70分間でした。

暗闇の中で帯状に照らされた部分を首藤康之さんが舞台奥から手前にゆっくり歩いて来て、観客に話し掛ける様な動き(少しだけ台詞もありました)が次第にダンス的な表現になり、舞台奥に設置された鏡台の手前に座る中村恩恵さんと踊るところから展開していくシークエンスが3回繰り返される構成でした。
1回目はクラシックバレエ的なムーブメントを多用した優雅な雰囲気、2回目は服を着せたトルソーとデュオを踊ったり、道化的な動きがあったりとユーモラスな雰囲気、3回目は同じ髪型・服装をして鏡像の様なユニゾンを踊る不思議な雰囲気、とそれぞれのパートで異なるテイストが感じられました。

どのソネットに基づいているのか具体的には提示されないので、テクストとダンスの関係性については良く分かりませんでしたが、精密に身体をコントロールして空気の量感を感じさせるダンスが素晴らしかったです。派手さはないものの、無駄の無い、研ぎ澄まされた動きやポーズが美しかったです。

広い床を局所的にしか照らさない照明が闇の空間の存在感を強調し、基本的に絶えず鳴っている音楽も逆に静けさを際立たせていて、印象的でした。

一番最後は音も光も完全になくなる終わり方だったのですが、無の状態を味わうには早過ぎるタイミングで2人が捌ける物音が聞こえたのが残念でした。せめてあと3秒待って欲しかったです。

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