園田喬しの観てきた!クチコミ一覧

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二人のアリス

二人のアリス

東京芸術劇場

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2024/05/05 (日) ~ 2024/05/06 (月)公演終了

実演鑑賞

TACTフェス2024内のプログラム『TACTダンス』の公演。衣装、小道具などは一貫してコンセプチュアルでキュート&ポップ。見た目の分かりやすさ、伝わりやすさなども考慮していると感じます。見ているだけで心踊る空気が会場内に流れていました。

ネタバレBOX

歌唱シーンなどもあり、音楽や声の要素で場内を盛り上げつつ、物語性も感じられる構成でした。若く自由奔放なエネルギー、作品性、そしてパフォーマーの特徴なども噛み合っている印象を受けました。
らくだ

らくだ

CHAiroiPLIN

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2024/04/12 (金) ~ 2024/05/05 (日)公演終了

実演鑑賞

小説、海外戯曲、落語など様々なジャンルを「ダンス公演」に仕立てて上演する「おどる」シリーズ。今回は古典落語『らくだ』に挑んでいます。長屋に迷惑ばかりかけるならず者の主人公・らくだ(これはあだ名で、人間です)をオクイシュージさんが演じています。CHAiroiPLINの他作品と比較すると、ダンス要素が少し薄めで、語り要素が少し多め。話芸である落語をリスペクトした構成バランスかもしれないし、あるいは、『らくだ』のドラマ性にスポットを当てたかったのかもしれません。

ネタバレBOX

落語『らくだ』における登場人物の役割は劇中に落とし込んでいるが、登場するキャラクターの性格などはややオリジナル要素を含んでいる点が興味深かったです。平たく言うと、落語版とは異なる印象が残ります。物語の展開細部も異なり、その差異にこそ「カンパニーが今作で描きたかったもの」が凝縮されていると感じました。らくだのダメ人間ぶりの「裏側」を描きたかったのかもしれないし、社会から切り離されてしまった人々の絶望や孤独を描きたかったのかもしれません。立川談志師匠は落語を「人間の業の肯定」と説明したと言います。この言葉を思い出した観劇体験でした。
TYM Traveling your memory

TYM Traveling your memory

東京芸術劇場

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2024/05/03 (金) ~ 2024/05/04 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ひびのこづえさんの衣装が印象深く、カラフルかつ幻想的。パフォーマーの身体と組み合わさることで、力強さや「生命」が感じられ、見応えのあるシーンが多かった。CGや生成AIではなく、生の舞台表現で見られる「景色」として、こんな画が創れるのか!? という驚きもあった。

ネタバレBOX

初演が富山県のオーバード・ホールで、富山をモチーフに創作されたとのこと。海や大地など、自然を感じさせつつ、逆に都会的なイメージも含まれているような気がして、東京芸術劇場での上演もピッタリはまっている印象でした。
Rinne

Rinne

東京芸術劇場

ロワー広場(東京都)

2024/05/03 (金) ~ 2024/05/06 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

東京芸術劇場B1Fのロビーに特設会場を設けた公演。通りすがり(と言ってもあの空間に来る人は劇場を訪れた人だろうけど…)の人を巻き込める、キュート&ポップな一作でした。

ネタバレBOX

「海」がモチーフのひとつになっており、魚や海老などの衣装やオブジェを用いた上演。ひびのこづえさんの衣装が印象的で、ダンサーが身に纏うと一段を映える。音楽、ダンサー、衣装、そしてアイディアの数々。その掛け合わせがよかったです。コスチュームプレイっぽさもある海洋生物を模した衣装を、次々と着替えながらシーンを構成するため、お子さんも飽きずに観賞できたのでは…?と思います。衣装の可愛らしさ、人間の身体のなまめかしさ、どちらも堪能しました。
オロチカラ~なまぐさ天狗は龍を追う

オロチカラ~なまぐさ天狗は龍を追う

東京芸術劇場

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2024/05/03 (金) ~ 2024/05/04 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

日本国内では上演機会が少なめで、やや珍しいジャンル「影絵芝居」の公演。インドネシアの伝統芸能「ワヤン・クリッ」を学んだアーティストが独自のアレンジを加えつつ、オリジナリティのある上演に仕立てている。

ネタバレBOX

「こどもからおとなまで誰もが楽しめるフェス」のTACTフェスの演目で、会場には多くのお子さんが観に来ていた。まず、この状況がとてもいい。影絵なので場内は暗いまま上演されるのだが、お子さんたちにとってドキドキの観劇体験になってくれたら…。影絵の種類も多く、民話や伝承をベースにした物語も明快で、伝わりやすい上演だと感じました。
Lay Your Hands On Me

Lay Your Hands On Me

コンドルズ

こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ(東京都)

2024/04/06 (土) ~ 2024/04/07 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

ハンドルズ(近藤良平と埼玉県内の障がい者が2009年に結成したダンスチーム)と、コンドルズ(主宰・近藤良平)によるコラボ公演。ハンドルズ8名+コンドルズ8名+近藤(両チームを兼ねる)の構成。プロデューサーは勝山康晴(コンドルズ)。オープニングシーンを見た瞬間、「素晴らしくサイコーじゃん!!」と思いました。8名×2チームなので、基本的にハンドルズ1名+コンドルズ1名のペア構成。全員がコンドルズの舞台衣装としてお馴染みの学ランを着用し、スタンディングで踊る人と車椅子で踊る人が入り混じる。何より圧倒的に「コンドルズのダンスシーン」になっている!! 舞台上はフラットで、参加者たちの関係性も極めてフラット。ひとつのダンス公演に関わることで、対等な立場で接しているチームに見えました。

ネタバレBOX

コンドルズ公演は、集団で踊る際に必ずしも振り付けが完璧に揃う訳ではありません(勿論ほぼ揃っていますが、多少ズレたりすることも)。振りが完璧に揃うこと以上に大切にしていることがあり、揃うことが最重要項目ではないのです。このことが「ハンドルズ×コンドルズ」コラボに大きく活かされている。集団群舞で動きが揃わない。それでもダンス表現は成立する。そのことを熟知する近藤良平さんだからこそできる公演だと感じました。オープニングシーン以降も、コンドルズらしいシーンの連続。笑いあり、スタイリッシュあり、音楽あり、参加者それぞれの個性あり。元々多様性の高い集団だったコンドルズだからこその、最高のコラボ公演だと感じました。
ナマリの銅像

ナマリの銅像

劇団身体ゲンゴロウ

新宿スターフィールド(東京都)

2024/03/27 (水) ~ 2024/03/31 (日)公演終了

実演鑑賞

作品は再演ですが、僕は初見でした。この団体を観るのも初。団体名から「身体表現を活かした作風?」と想像しての観劇。15世紀に起きた、島原の乱、そして天草四郎をモチーフにした一作。時代物? と思ったけれど、パチンコ店などが登場し、時代をクロスオーバーさせた設定になっていました。パラレルワールド的と捉えられるかもしれないし、機械文明と魔法文明の融合のような、SF調の設定なのかも。

ネタバレBOX

箱馬(木箱)と木材を組み合わせたシンプルな舞台美術をブロックのように組み合わせてシーンを構成し、そこに俳優たちの身体表現を重ね合わせていく…という創作に、僕には見えました。ミュージカル調のシーンが挿入されていたり、「身体」を用いた表現への興味・関心が高い団体だと思います。ただし、ひとつひとつのシーンに粗さも見え、そこは今後の伸び代であり、課題かもしれません。今回は2時間ものでしたが、身体表現との相性という観点から、短編などもハマりそう。
Oh so shake it!

Oh so shake it!

TeXi’s

北とぴあ カナリアホール(東京都)

2024/03/20 (水) ~ 2024/03/24 (日)公演終了

実演鑑賞

上演会場は王子にある「北とぴあ カナリアホール」。ここは天井のシャンデリアが特徴的なんだよなぁ…と考えつつエレベーターで14階へ上がる。受付には喪服のスタッフさん、会場内も喪服のスタッフさんが。なんと客席も黒い服装が多め。客入れの音楽が静かに流れるなか、席に座り天井のシャンデリアを見上げ、このセレモニー感に「なるほど」と思う。タイトル通り、TeXi'sによる「擬似的葬儀」をモチーフにした一作。(上演が始まると、ステレオタイプな葬儀風景をあまり連想させないため、そのギャップも印象的でした)。

ネタバレBOX

主な登場人物は3人。オンラインゲーム内で出会った若者らしい。3人はお互い顔も本名も知らず、4年の長い年月をゲーム内で共にし、コミュニケーションを深めてきた。コロナ禍もあり、社会との接点を上手く作れずストレスを抱える3名は、ある者は引きこもり状態となり、またある者は社畜状態を連想させるなど、現代社会での「生きづらさ」と直面している。

発信上手の受信下手。幼少期からSNSに囲まれて育った世代の、自我や生きづらさを強烈に感じる…と書くと、世代間ギャップの論調に陥ってしまうかもしれないが、観劇しながら「…生きづらいのだろうなぁ」と感じてしまいます。人間は大なり小なり生きづらさを抱えるものです。でも、若い世代のそれは、世代特有の形をしているのだろうし、その姿を覗き込みたい衝動に駆られました。

ただ、物語全編に登場するオンラインゲームの描写が、ゲーム知識や経験の有無で理解しやすさ/しにくさが生じるなど、やや分かりにくい構造になっていたのは残念でした。時系列を組み替え、シーンを何度も反復させるなど、全体的に観劇難易度高めの「ハードモード」に感じられました。

生きづらさを抱える3名の若者が「直接会いたい」「いや会いたくない」と各々の意思を錯綜させ、その結果が「擬似的葬儀(=これまでの関係性を終わらせる)」であれば、それは3名にとって悪い結論ではないはず…と思いたい。個人アカウントを急に削除するような「死」であって欲しい。その先に、少しでも希望が見えることを望みます。
ホームシック!?

ホームシック!?

演劇ユニットタイダン

荻窪小劇場(東京都)

2024/03/15 (金) ~ 2024/03/17 (日)公演終了

実演鑑賞

舞台奥に生バンド(ギター・キーボード・パーカッション・トランペット・etc)を配置し、ダンスあり、生演奏による劇中曲あり、のミュージカル調上演。個人的には小道具へのこだわり方に興味を持ちました。きっと、観客に見せたい「画」が沢山あるのだろうなぁ。 老舗の温泉旅館を生家にもつ姉弟。訳あって実家を離れた姉は、これまた訳あって15年ぶりに帰郷する。温泉街の観光協会を切り盛りする幼馴染み、姉が去った後に一人で旅館を継いだことを根に持つ弟、年老いた母。15年ぶりに過ごす故郷が迎える結末とは…。

ネタバレBOX

タイダンを観るのは2回目で、前回はオムニバス公演のため、本公演は初。小劇場の作品は生演奏が少ないため、バンドを入れてくれる公演はそれだけで嬉しい。劇中曲もダンスも、出演俳優たちも、キャッチーな雰囲気で良い空間形成ができているなぁ、と感じます。構造的な意味で空間がコンパクトなため、文字通り「所狭しと駆け回る」上演。それが良い効果になっていました。

その「所狭し」にも関わらず、シーンに登場させる小道具へのこだわりが強く、色々なモノが飛び出してきたことが印象的でした。段ボール製の書き割りや、自作のオブジェ?など。一度出てきた小道具をひっくり返すと別の小道具に様変わりするなど、各所に工夫が感じられます。おそらく、創作の根底に「見せたいシーン・画」があり、そこから逆算して創っているのかも。その意味で、音楽、ダンス、そしてビジュアルにこだわる作風なのだと想像しました。
イノセント・ピープル

イノセント・ピープル

CoRich舞台芸術!プロデュース

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2024/03/16 (土) ~ 2024/03/24 (日)公演終了

実演鑑賞

副題の「〜原爆を作った男たちの65年〜」が正に的確で、1945年8月に日本へ投下された原子爆弾の開発に携わった米国人たちの半世紀以上に渡る物語。史実を織り交ぜて描かれる群像会話劇は、友人や家族の相関を丁寧に見せる人間ドラマ。かつ、日本人作家だからこそ書けたであろう踏み込んだ台詞も多く、良い緊張感を保ちつつ観劇することができました。

ネタバレBOX

若き青年たちが原子爆弾の開発・製造に携わった1945年と、太平洋戦争後の20世紀後半の時間を行き来しながら物語は進みます。朝鮮戦争、ベトナム戦争、イラン・イラク戦争など、常に戦争の存在を感じながら過ごす日常は、観劇者である私たちのそれと、ある意味通じるところがあると言えるでしょう。登場人物たちの人物相関は時間経過と共に変化していき、戦争や原爆が各々の人生に大きな陰を落としていきます。

劇中盤から、登場人物たちによる原爆の肯定や人種差別が、はっきりした口調で語られます。(日本人観劇者には特に強く感じられる)強い言葉の数々は、米国の正統性の主張、そして自身たちの人生肯定を連想させ、かなり踏み込んだ表現になっています。「原爆が太平洋戦争を終結させた」という論調を、日本人劇作家がこの角度から執筆したことは、かなり珍しいし、同時に意義があると言えるでしょう。鋭い台詞の数々に感情的にならず俯瞰的に観劇できるのは、劇作、演出、そして出演者による明確な表現意思が、しっかり客席へ届くから、だと考えます。

原爆開発時を回想するシーンでは、登場人物たちの内面や心の動きが露見します。ある者は開発を強く後悔したり、またある者は殺傷能力の生体実験に従事したり。命懸けで製造作業に参加し、目の前の使命に没頭し、様々な人間ドラマが展開され、モチーフが原爆である以上に、観客が受け取れる感情は多種多様。極悪な殺人兵器でありながら、ひとつの科学技術が発展していく過程に発生してしまう「陰」から目を逸らさない一作と言えます。

観終わってみると、タイトルの『イノセント(無垢)・ピープル』の意味を噛み締めたくなります。内容、副題、そしてタイトル。それらを反芻しながら、作品の感想を頭の中で巡らせる公演でした。
波間

波間

ブルーエゴナク

森下スタジオ(東京都)

2024/03/15 (金) ~ 2024/03/17 (日)公演終了

実演鑑賞

僕は、現実の心残りが夢に作用してしまうことがあります。「先週会えなかった人が夢に出てきた」「先月訪れた飲食店が夢に出てきて〜」、等々。今作は、自死を望む青年が、最後の朝に見た夢の話。夢の中には青年の「過去の記憶」が度々登場して…。

ネタバレBOX

「夢の話」なので、わりと簡単に「何でもアリ」の世界を構築できることは、演劇上演と相性が良いと思います。舞台上に並べられた20脚程度のパイプ椅子を、タテ・ヨコなどに何度も並び替える演出があり、青年の脳内風景を連想したり。青年が語る「夢の話」は、徐々に過去の記憶が混ざり、自身を自死まで追い込んだ(と予想できる)中学時代のいじめ体験が紐解いていく。登場人物たちが、どのような経緯を経ていじめと関わるようになったのか? が描かれ、その感情のすれ違いが切ない。物語は悲しい結末で幕を下ろします。「どうしたら止められたのだろう…?」、終演後はそんなことを考えました。
あたらしい朝

あたらしい朝

うさぎストライプ

こまばアゴラ劇場(東京都)

2023/05/03 (水) ~ 2023/05/14 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

まず何より、出演者たちの好演が光る作品だと思います。リアリティと特異性の境界を行ったり来たりする、独特の存在感を放つ俳優たち。この身近な存在があるからこそ、演劇上演としての魅力が増したことは間違いないでしょう(勿論その演出を手掛けた演出家にも拍手)。コロナ禍に執筆された一作で、旅や人間関係に想いを馳せる物語は、ステイホームやソーシャルディスタンスを経験した人々から共感を得やすく、同時代性の高い作品と言えます。個人の夢の中を散策するような私小説風の語り口や、ファンタジー要素を含む世界観も良いアクセントになっていました。

半魚人たちの戯れ

半魚人たちの戯れ

ダダ・センプチータ

王子小劇場(東京都)

2023/04/13 (木) ~ 2023/04/16 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★

直感的に浮かんだのは「かけ蕎麦みたいな上演」という感想でした。戯曲(物語や詩など)×俳優というシンプルな要素で構築する作品世界。セットらしいセットもなく、ほぼ素舞台と言えるでしょう。ある意味で「気」の魅力が求められるため、潔い方法を選択したと思います。言葉にウエイトを置く一作と言えますが、ストーリー性より、言葉の響き方や詩のような機能性を重視した作風なのかも。シーンひとつひとつは輝くものの、全編を通してややまとまりのない印象が残りました。ただ、どこか沸点の低い会話を基調とした現代口語劇は、若い団体の世代感覚を反映している気がして、妙に心に残りました。

本人たち

本人たち

小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク

STスポット(神奈川県)

2023/03/24 (金) ~ 2023/03/31 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★

これまで過去上演を何作か観劇してきて、その飽くなき実験精神をひしひしと感じてきた団体です。「舞台芸術とは何か?」について、ストイックに解体・再構築を試みる姿(僕にはそう見えます)は傍から見ても刺激的です。今作にもその精神を感じつつ、でも同時に、観客への依存度がやや高い印象も受けました。乱暴な言い方をすれば「観客の心持ち次第」というか、観客の積極的な作品没入・作品解釈を必要とする一作だと思います。上演会場で体験した諸々を観客自身が持ち帰り、各々の解釈で時間をかけて自身の血肉とする。そういう積極性が問われる作品と言えるでしょう。第一部、第二部と分かれており、その双方に多くの「言葉」が登場します。その言葉の海を漂い、脳内で反芻する心地良さも感じました。

きく

きく

エンニュイ

SCOOL(東京都)

2023/03/24 (金) ~ 2023/03/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

タイトルの『きく』。この「きく(聞く)」に特化した演目で、コンセプト通りのパフォーマンスが展開されます。あらゆる角度から「聞く」ことの実例が提言され、「それは何か?」「どういうものか?」について考察・検証が繰り返し行われ、それらに関する明確な解答はなく、受け止め方も観客それぞれ。それでいて多くの表現が日常的であり、私たちの生活や人生に深く関わる内容となっています。実験的パフォーマンスと捉えることもできるけれど、僕には非常に刺激的な体験であり、自身の記憶や経験に変換しやすい身近な一作に感じられました。観劇後は「聞くこと」に関する様々な解釈や可能性が頭の中を駆け巡り、作品の余韻にじっくり浸ることができました。

令和5年の廃刀令

令和5年の廃刀令

Aga-risk Entertainment

としま区民センター・小ホール(東京都)

2023/05/01 (月) ~ 2023/05/02 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

観劇後に残した自分用のメモには「横綱相撲」の四文字が。それほど磐石な上演だと思います。団体が得意とし、かつ多くの上演経験を有する「会議劇・討論劇」の新作であり、演出家、俳優共々、その経験値を大いに活かしています。安心して観劇できるシチュエーションコメディとして、観客を選ばない一作だと感じました。選んだモチーフも多くの社会問題に置き換えられるため、深掘りをして楽しむことも、エンタメとして割り切って楽しむことも、どちらも可能だと思います。一人ではなく誰かを誘って観に行きたくなる。そう思わせてくれる団体であり、作品と言えるでしょう。

あげとーふ

あげとーふ

無名劇団

無名劇団アトリエ(大阪府)

2023/03/17 (金) ~ 2023/03/21 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度

原作は十数年前に高校演劇の全国大会で準優勝した作品だそうで、僕は初見でした。台本のエモさ、そして出演者による熱量高めの上演は、アトリエ公演特有のコンパクトな空間と相まって、客席へ届きやすい環境だったと思います。高校演劇のルール(上演時間60分以内)に則った原作なので、内容や展開が圧縮状態にあり、青春群像劇の細部や人物相関の背景なども知りたくなりました。ただ、(これは僕の嗜好の領域ですが…)せっかくのアトリエ公演、しかも地元の方々が多く来場して下さる客席ですから、その地域をモチーフにした作品を観てみたい感情にかられました。そういう創作もされていると聞き、その想いが更に強くなりました。

松竹亭一門会Ⅱ 春の祭典スペシャル

松竹亭一門会Ⅱ 春の祭典スペシャル

afterimage

七ツ寺共同スタジオ(愛知県)

2023/03/17 (金) ~ 2023/03/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「ダンスカンパニーによる落語会」。この発想そのものにチャレンジャースピリットを感じますし、実際の上演からも、その気概を感じ取ることができました。落語へのリスペクト、上演する上での創意工夫、演者それぞれの独自性を加える心意気、等々も理解できます。ただし、個人的にはもっともっとダンス側からのアプローチが見たかった。せっかくのチャレンジですし、より混在となった「ダンスカンパニーによる落語」に期待していました。その意味で、僕が好きだったのはズブロッカさんの『蒟蒻問答』。冒頭でコンテンポラリーダンスの用語解説をした後、本編の『蒟蒻問答』に入り、最後はしっかりダンスで締める。オチもスッとキレイにまとめられ、「振付家による一席」という印象でした。逆に、僕の中で少々ガッカリしたのは、ごみ箱さんが「すし組/そば組」の双方で同じ噺をかけられていたこと。これは、正直あまり嬉しくない。気合の込められた熱演でしたし、この噺でトリを務めようとする責任感がひしひしと感じられるからこそ、同じ噺をかけたことにやや違和感が残りました。

少女仮面

少女仮面

ゲッコーパレード

OFF OFFシアター(東京都)

2023/03/16 (木) ~ 2023/03/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「戯曲の魅力・面白さ」を再認識できた観劇でした。瑞々しく、幻想的で、情熱に溢れた、言葉の数々。劇中のモチーフが「俳優」や「演劇」であり、その上で「私達はどう生きるか?」に迫る物語なので、観劇や取材を生業とする僕にとって惹かれる上演だったと思います。それを踏まえて、非常に悩ましいのは「『少女仮面』という戯曲の良さを審査にどう反映させるか?」でしょう。これが、劇団の特性や独自性を大いに取り入れた上演なら、演出面の高評価に繋がります。ところが、今回の上演は戯曲が元々持っている魅力を引き出すことに力点が置かれていると感じます。そのアプローチに反論する意思はないのですが、要するに「最大の功労者は劇作家」という着地点をイメージしてしまうのです。この上演を思い出す度、ずっとそんなことを考え続けています。

橋の上で

橋の上で

タテヨコ企画

小劇場B1(東京都)

2023/03/08 (水) ~ 2023/03/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★

実際に起きてしまった痛ましい児童殺害事件を下敷きにしており、観客の注目度も高い一作だと思います。該当事件に関する知識の有無で作品の評価が変わる上演ではなく、全ての観客へ丁寧に情報を伝えようとする意思を感じました。その意味で、いま舞台上で起きている事柄を、観客が受け取りやすい状況と言えるでしょう。ただ、僕個人は、今作で過去の実在事件を取り上げた創作上の意図を明確に感じ取れず、少しモヤモヤした気持ちになりました。実際の事件を取り上げることで「これは他人事ではない」という凄みを増幅させる効果はありました。そこから更に、一歩、二歩、三歩、踏み込むことで、物語は劇的に広がりを見せると思います。(←勿論高いハードルであることは承知していますが、期待を込めて)。

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