鯉之滝登の観てきた!クチコミ一覧

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人魚姫の庭

人魚姫の庭

マルチリンガル演劇実行委員会

あうるすぽっと(東京都)

2022/12/12 (月) ~ 2022/12/12 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/12/12 (月) 19:15

 アンデルセン童話の『人魚姫』を下敷きにした劇が始まる前に、あうるすぽっとという劇場のホワイエに入った瞬間から、劇のタイトル『人魚姫の庭』のイメージに沿った心地良くもなんだか妖しく幻想的で、美しい音楽が流れ、目の前には人魚の住まう世界を想起させるアートマーケットが広がっていて、その一種の美しき世界観に心を洗われる思いがした。
 また、劇が始まる前のオープニングアクトでは、一人の背の高い女性が踊っている間に、もう一人の女性が巨大な白紙に大きな筆でダイナミック且つ繊細に「夢」という字と今回の劇世界に多少寄せた絵を描いていて、その二つのパフォーマンスがあまりにもさり気なく淡々と、ごく普通に行われているのに、シュール且つ、凄いと感じた。

 アンデルセン童話『人魚姫』から大きく内容は変わらないものの、今回の本編の劇『人魚姫の庭』では、王子の住む人間の国、人魚姫のいる海底王国とは別に、新たに弱小の湖の国に住まう王女様を描き、さらに人魚姫の一連の悲恋の物語を旅芸人がその仲間たちに語って聞かせている場面を導入することで、この物語が多角的、客観的に見える視点を持ち得てきているように感じ、感傷的、自己犠牲的にイメージしがちであり、そういうふうに描かれがちなところを、新しい少し距離を取った視点を取り入れることで、新鮮に感じた。
 また、弱小の湖の国の王女が陸の人間の国の王子と結婚しないと、陸の国の人間の好奇心や欲望、野望のために戦争を仕掛けられて、王国を滅ぼされ、新たな支配地にされるのは時間の問題というようなことが劇中の台詞であったり、人魚姫のいる人魚の海底王国において、人間にこの美しくて平和な海の世界が見つかったら、きっと放ってはおかないだろう。私たちの世界を手に入れる為だったら、どんな手を使ってくるか分かったものじゃないというような台詞から、支配する側、される側、植民地主義や現在のアメリカ資本主義、格差社会、多様性やSDGSといいながら、とてもじゃないが色んな価値観や人種、生まれや性差などに対して社会が寛容になったとは到底言えないし、もちろん、だから不寛容を象徴するかのような戦争や紛争、デモ弾圧が行われ、年々それらが激化し、人間同士だってそういう感じなのだから、人類が自然に対して、人類の生活をより良くするために行ってきた自然破壊も一部では、極端で露骨になってきていることを痛烈に批判しているように感じ、深く考えさせられた。
 
劇場に入った瞬間、劇の本編など全体を通して、幻想怪奇、特に本編が始まってからのエロティックな描写、少しのグロ描写、それらを包み込むような美しい世界観に気付くと、没入し、海底にいると錯覚させる照明や独特な音楽によって、しばらくは現実に引き戻されることなく、体感した。
 劇中本編の終わりの10分前頃から写真撮影OKというのも、却って海底や人魚が住まう世界観に溶け込めた。

『ダークダンス』

『ダークダンス』

尾米タケル之一座

ウッディシアター中目黒(東京都)

2022/12/07 (水) ~ 2022/12/14 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/12/14 (水) 13:00

 ある日、怪人ダークダンスとの激闘の際、突如起こった事故で死の淵をさまよい、気付くとボディネーションこと田代大人と怪人ダークダンスの中身が入れ替わっていた。
 そして時を経ること二十数年。
 かつてヒーローに憧れたものの、今ではすっかりダメ人間として自堕落な生活を送る中年男、大楠義治。突然の来客によって人生をあきらめた男が新ボディネーションになる。
 そして、廃墟に住まう謎の少女、ボディネーションこと田代大人の担当看護師、それに剣の達人で生真面目すぎて融通が聞きづらい安岡という女性など、個性豊かでアクの強い人物たちが数多く登場し、それぞれの正義感や使命感が存在し、善悪二元論で押し切るには無理があり、自分の正義感や価値観を相手に押し付けようとすると争いになるなることを導き出し、体はダークダンスだが、中身はボディネーションの田代大人は常に最後まで対話しようとするあり方に、自分の正義感や勝手な使命感、価値観を相手に押し付けたり、相手を憎悪したりするのではなく、たとえどんなに時間がかかろうとも、相手と対話をして解決していこうとすることが平和への一歩であり、戦争や紛争、核戦争を食い止めるためにもじっくり話し合うことの重要性を痛感した。
 
 また、廃墟に住まう少女がかつてお母さんがDV受けていたのを眼の前で見てきてトラウマになってたり、怪人ダークダンスの中身がボディネーションの田代大人がかつて731舞台に所属していた博士が平和利用のために生み出したのがボディネーションというヒーローだった経緯が語られたりと、社会問題や日本の歴史の闇に葬り去られた戦争犯罪の記憶、同調圧力などをさり気なくそれでいて鋭く描いて、炙り出して、浮き彫りにしていて、終始何を持って悪と言えるのか、何を持って善なのか、答えの出ない問いに考えさせられた。そもそも完全な善人や悪人というのはいなくて、大抵は知ってか知らずか二面性を持った人間が多いんじゃないかと感じ、損得で人は動くかも知れないが、時と場合によっては後悔もするし、少しの良心があったりするから、人は生涯思い悩むのではないかと感じた。

 劇中に小池百合子都知事の音声を流してきたのには、痛烈な批判精神が込められていると感じ、大変良かった。
 
 メイン舞台とは別に脇にも舞台があって、そこも同時進行で有効に使っていて、映画のような臨場感、没入感があった。

クリスマス・キャロル

クリスマス・キャロル

劇団昴

座・高円寺1(東京都)

2022/12/01 (木) ~ 2022/12/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/12/09 (金) 18:30

 クリスマス・イブの夜。けちで頑固、偏屈な老人スクルージは亡くなった同僚マーレイの幽霊と過去・現在・未来のクリスマスの聖霊たちに導かれ、時空を超え不思議な時間を過ごすという、クリスマス時期ともなると定番で映画や舞台で何回か観たことがあり、原作も読んだことがあるチャールズ·ディケンズ作の『クリスマス·キャロル』だったが、劇団昴ヴァージョンは期待以上に凄くて、怖くて、恐怖を煽りつつ神秘的、また幻想的で、少し笑えて、最後は感動的で主人公のスクルージが報われる在り方に胸を撫で下ろし、ただ、ただ、圧巻で、終わってしばらくは現実に引き戻されなかったほど、素晴らしかった。
 恐怖心を煽り、不気味な雰囲気をもり立てる感じや、クリスマスマーケットが立ち並んで賑やかで浮かれた街のイキイキとした雰囲気が観客の心をつかんで離さないを自然に照明も含めて出せていて良かった。

 冷たく、金にがめつく、ドケチで、守銭奴で、底意地が悪く、心がすっかり冷え切って、ひねくれて、頑固者な初老ぐらいにも見えるスクルージ役を演じた俳優の宮本充さんが、まさに本から飛び出てきたかのような風貌と鋭い眼光を備えた雰囲気で、スクルージの複雑な性格を身振り手振りも使って表現していて、しわがれた声も含め、さらには、幽霊を見ての恐怖心や、自分の未来の報われない死への恐れ、素直になれない気持ちなどの表し方が一人物として際立っていて、スクルージの人間味をも自然に出ていて完璧に見えた。
 ただ、スクルージ役を演っている時と、パンフレットに載っている宮本充さんの素顔の平凡で地味で困ったような雰囲気の写真とが違い過ぎ、さらには年齢も初老よりかは若く見える雰囲気だったので、二重に驚いた。
 美輪学さん演じるジェイコブ·マーレイの幽霊を演じている時のオドロオドロしく、鎖を引きずり、不気味さをたたえ、相手を凍りつかせるような雰囲気を出している時と、厳しく冷徹な校長役など、他の役を演じているときに、同一人物が違う役を演じてる感じに多少なりともならず、その見事な演じ分けぶりに感服した。
 林佳代子さん演じる過去の精霊は、衣装や持っているステッキがかなり今時アニメで流行の魔法少女ものを気持ち大人しめにしたような格好で、口調も個性的で、良い意味で眼に焼き付いて離れなかった。
 現代の精霊を演じる牛山茂さんは、王侯貴族風な出で立ちと、自信家でイケオジな感じで出てきて、その独特な魅力に引き込まれた。
 スクルージの良く出来て、明るく振る舞ってはいるが、実は病弱な妹ファンを演じた上林未菜美さんは、健気に自分よりも他人の心配をし、兄を気遣う優しく、純真な感じを引き出せていて良かった。同じく、上林未菜美さんが演じた街の少年は調子が良くて元気一杯でむぎゅい雰囲気になっていたが、ここまで早変わりで、更にその他の役も何役か努めて、それでいて上林さんは『クリスマス·キャロル』の劇中何役演じようとも一人たりとて気を抜かず、演じ分け切っているのには、役者としての才能を感じました。
 スクルージの恋人ベル役の舞山裕子さんのとてもハスキーな声に味わいがあって良かった。
 
 しかし、未来の精霊をスポットライトで表していたのは、かえって安っぽく見えたし、何よりも死を匂わせる性質上、何者か分からない、ただ、ただ恐怖心を煽る存在自体として描かなければいけない筈なのに、むしろ急激に冷めてしまったのは良くなかった。もっと、未来の精霊の表し方が他にあったのではないかと悔やまれてならない。
 少年子役が演じたクラチットの足が悪いし友達も少なく、あらぬ言葉をかけられることも多いが、明るく振る舞って見せる息子ティムは、雰囲気も出ていて良かったし、少年子役が無知を演じたときの心の底から滲み出てくる負の雰囲気、ヤバい感じを出している豹変ぶりが良かったが、他に幼いスクルージ、ベルの子供と何役も似たような役を演じ分けるには子役には無理があると感じざる負えなかった。

Xmas fool

Xmas fool

ROUND TREE プロデュース

千本桜ホール(東京都)

2022/12/07 (水) ~ 2022/12/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/12/08 (木) 19:00

 がん宣告され、100日後に死ぬと医者に言われた喫茶店の店長。SNSで配信する。
ただ、これ… 真っ赤な嘘!その嘘が拡散し、閑古鳥が鳴くぐらいいつ潰れてもおかしくないぐらい客の来ない喫茶店存続の為、マスターの知り合いの思い付きで始まったことだったはずなのに、尾ひれに尾ひれが付きまくって、もう後戻りできなくなるところまで追い詰められていく主人公の喫茶店の店長や、あくまで嘘を最後までバレずに医師の診断書まで用意して、用意周到に押し切ろうとする知り合いの半田など癖が強く個性的な登場人物が次々に登場し、それらの人間模様や騙し合いを徹底的にコミカルに馬鹿馬鹿しく描いていて、さらにノンストップで次から次へと息を吐く暇もないほどジェットコースター級に場面が展開され、ウクライナ侵攻の話題をネタにしたり、医師の不正ネタなど大いに笑えて、面白く、時々鋭く痛いところを風刺しているところにハッとさせられた。

 喫茶店の経営のためとはいえ、嘘を突き通して、隠し切ることに不器用で、妙に人間味があって小心者の店長の性格に共感した。
 また、小心者で大掛かりな嘘を付いたり、仮に小さな嘘でも付くことが難しく、物腰からして小物感が半端ない喫茶店の店長役の俳優のタカギマコトさんは、うだつが上がらず小心者だが、どこか憎めない感じが全体の雰囲気や喋り方などから滲み出ていて、良い味を醸し出していた。
 広告代理店に勤める喫茶店店長の知り合いの半田役のKいちさんも、思い付いたら後先考えず行動し、呑気で軽〜い業界染まりした男を、雰囲気や大袈裟な所作や口ぶりなどから表していて、良い意味でアクが出て目立っていて印象に残った。
 サツキ役の森崎りなさんの、情緒の振り幅の激しい感じも眼に焼き付いた。
中学生の梨花役の塚田光虹さんの少しひねくれて頑固なところがあって、思ったことを正直にズバズバ言う役どころをサラリと自然な演技でやっており、大人が制服着て演じているにも関わらず、全然違和感が不思議なくらい一切なかった。

2222年の雨宿り

2222年の雨宿り

The Stone Age ブライアント

サンモールスタジオ(東京都)

2022/11/30 (水) ~ 2022/12/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/12/02 (金) 19:00

 西暦2222年。選ばれた優秀な人間が火星に移住を始めて100年近く経った頃、
かつて地球に存在していた建物・乗り物・生き物などを復元した「万博2222」が開催されている。
物語の舞台になるのは、タバコ屋の軒先で雨宿りするだけの「雨宿り館」。相当な未来が舞台のSF劇なはずなのに、舞台セットも含めてどこか懐かしい感じがして、まるで時が止まったかのような感じに、心地良さを感じた。

 「雨宿り館」に毎日通う(四葉)という見た目40代、実年齢141歳の女性が現れる。
 遠すぎる日に地球で見た“雨の日の思い出”を探すためということだったが、その過去を想い出した時、その事実が楽しい記憶ではなく、とても辛く重苦しい過去だったことを知り自責の念に駆られるが、「雨宿り館」のスタッフたちになだめられ、励まされ、何とかその重苦しい過去の記憶を心に深く留め、お母さんのぶんまで生きようとする老女四葉の不器用だが誠実でマイペースなようで芯が通っていて、今、この瞬間を懸命に生きようとする力強さに心打たれた。
 しかし、最後の方で、ドームを突き破ってデカくて大量の隕石が落ちてきて、四葉らしき人が万博の遠くの方で、その大量の隕石の一部が地面に当たって爆発する、その爆発に巻き込まれたと解釈できるような壮絶な終わり方に、不安と言いしれぬ悲しみを味わった。

 ただ、最後の最後で主人公の老女四葉や「雨宿り館」のスタッフそっくりの、おそらくは生まれ変わりと見られる人たちが、「雨宿り館」に似た地球の古ぼけた建物の中で雨宿りしていると、通り雨が去ったあと、狐の嫁入り行列に出くわすという終わり方に、ある意味で狐につままれたような、それでいて少し救われたような終わり方に、少し安心することができた。

 米澤剛志さんという俳優が演じたのは、少し空気が読めず、好奇心旺盛だが真面目で距離感がない気象台技師空知という少し捻りのある登場人物でしたが、今まで何回かテントで観た時とは違った新たな雰囲気を醸し出していて、米澤さんの役柄において、新たな新開地が切り開けたように感じた。

ASAKUSA THUNDER GATE

ASAKUSA THUNDER GATE

妖精大図鑑

浅草九劇(東京都)

2022/11/25 (金) ~ 2022/11/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鑑賞日2022/11/26 (土) 19:00

 劇の内容としては極めて単純で、つまり、宇宙人の少女が好きなアーティストグループのLIVEのチケットに当たって、地球に向かうが、キツネさんという同じアーティストの地球に住んでいるファンと待ち合わせて浅草観光をするが、天丼を食べている最中にチケットを自分の惑星に忘れたことに気付き慌てるが、キツネさんの計らいもあって何とかアーティストグループのLIVEに間に合って安堵して終わるという、本当に他愛もないはっきりいってあんまり中味のない脱力系コメディだった。

 ただ、前編通して癖が強くて個性的な登場人物たちの喜怒哀楽や焦りなどの感情表現、性格、オーバーリアクションにアクション、独白、ダンスシーンにデモンストレーションの場面、疾走感、イメージシーンに、過去の場面、歌舞伎などの伝統芸能のイメージ、宇宙空間、下町感、未来感、風神雷神像に至るまで、サブカルやポップな要素も盛り込んだコンテンポラリーダンスを使って具現化し、体現してるのには驚いた。
 しかもそのどのダンスもが、1つとして似通ったものが無いのには、感心した。
 英国の某有名救命人形アニメの音楽がいきなり掛かったり、風神雷神像にも有給がちゃんとあるんだということで、目の前で起きていることは相当摩訶不思議であり得ないはずなのに、それがさも当たり前のことのように描かれたり、amazonの有名cmや有名なアレクサやTwitter、Facebookにinstagramを明らかにもじったネーミングやSNSのパロディなど心憎いほどに小ネタが入っていて面白かった。
 特に、グレムリンが乗っかったお掃除ロボットはシュールで、設定的にはブラックジョークで冷っとしつつも大いに笑え、タイムマシンでタイムスリップする場面で、意味はないが雷が落ち、そこを車ですっ飛ばすと過去に飛ぶという往年若年含めの『バック·トゥ·ザ·フューチャー』ファンや本作品への確実なオマージュ、さらに『バック·トゥ·ザ·フューチャー』の曲が大音量で流れたのには感無量で、ファン心を鷲掴みにしたと感じた。

 スクリーンに映像を写していたのも雰囲気を盛り上げてくれたし、役者が着ている衣装もポップでサブカル臭がして、昔のレトロフューチャーな雰囲気が出ていて良かった。

 今回は、コンテンポラリーダンスと演劇、そして映像という組み合わせで、それは斬新な試みだった。それが見事に成功しているのは奇跡的で、良い意味で眼を疑り、その世界観に没入した。
 だが、一番肝心の劇の内容が薄すぎたのには、もったいないと感じた。脚本があんまりにも単純過ぎても駄目なんだなと感じた。 
 いくら脱力系コメディ劇だからといってあんまりにも深みや捻りがないのはどうかと思った。

第75回「a・la・ALA・Live」

第75回「a・la・ALA・Live」

a・la・ALA・Live

角筈区民ホール(東京都)

2022/11/09 (水) ~ 2022/11/09 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/11/09 (水) 14:30

 三人芝居、落語、オペラ座の道化師、パントマイムと色々あって、色々楽しいという多種多様で意外な組み合わせなバラエティーショー第75回a·la·ALA·LIVEは、前に1回観た時以上に進化していて、終始飽きさせないうえ、前よりも今回は2時間以上で休憩なしと、現代寄席的な取り組みにしては相当大変だったと思ったが、観ている側にそれを感じさせず、さらには観ている側に長い時間もあっという間に感じられるぐらいのパワーを感じ、一気に引き込まれた。
 
 荘厳で激しいイメージのあるクラッシックの代名詞とも言えるベートーヴェンの『第九』を基に、9個のお酒とグラスを用意して、『第九』の曲を水の入ったグラスを叩いて奏でていくがどうも最後のグラスが良い音がでないので、お酒を入れてみるが、入れた矢先から女性のミュージック·クラウン ミマさんが飲んでしまうので意味がなく、最終的に茶碗に変えたところ『第九』として完成するがその頃にはみまさんはお酒を飲みすぎて歩くのもやっとになっているという、とぼけたコメディだが、伝統格式があり、身動きが取りづらく、近づきがたいクラッシックのイメージがつきまといがちなところを皮肉っているようにも感じられ、二重の意味で面白かった。
 みまさんが本当によっているかのような身体の動き方には、天性の演技の才を感じ、劇中で本当にお酒を飲んでいたのには驚いた。

 女性落語家弁財亭和泉さんの身近な、それもコンビニという身近すぎるところが題材の新作落語は、コンビニあるあるを多少誇張してはいるが、あるあるな内容に頷きつつ、和泉さんの声の変え方、顔つきの変化なども含めて、お腹がよじれるほど笑えて面白かった。
 それに弁財亭和泉さんは、巧みに人を引き込むトーク力もさることながら、何がという訳でもないが、出てきただけで存在感があり、それまでの緊張感をほぐして何となく人を笑わせてしまう才を感じた。

 パントマイムの山本光洋さんの『私と金魚』における金魚すくいの客と金魚の攻防をシュールに、時に誇張して演じていて、大いに笑えた。
 『チャーリー山本』では自虐や決め顔、毒のあるギリギリな発言、山本光洋さんが操り人形に扮し、上で操っている設定の黒子との噛み合わないやり取り、客イジりなど細かい部分を含めて、独特な世界観があって面白かった。

 『シースルー·パニック』から断続的に続いた新作劇では、アクが強過ぎる悪役も含めて、個性の強すぎる登場人物が登場する上に、予想に反してお婆さんが透明人間第一号になったり、『妖怪人間ベム』をそっくり音楽も含め流用して使っているパロディ要素もあったり、医療ドラマの一部をパロった部分があったりと、シリアスな場面とコメディ場面が入り混じっているその独特な感じに、ついつい感情移入し劇世界に入り込んで楽しむことができた。

「5…」

「5…」

四分乃参企画

JOY JOY THEATRE(東京都)

2022/10/14 (金) ~ 2022/10/16 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鑑賞日2022/10/15 (土) 16:00

 「菜の花日記~飛龍伝より~」とは
つかこうへい作「飛龍伝」を8人芝居にアレンジしたもので、hreeQuarter時代に清水みき枝が手掛けた、演劇ワークショップ初心者用の戯曲ということで、いわゆる一般的な『飛龍伝』のイメージを大胆に脚色したということで、当日は期待して観に行った。

 劇の舞台は、1970年時代安保闘争。学生運動が激しくなってきた頃のお話である。何のために男と女は愛し合うのか、真に闘うべきものは何なのか、そのような熱いテーマが漂う、安保闘争の時代を生きた若者たちの物語である。
 今回、2019年3月上演「菜の花日記Ⅳ~飛龍伝より~」の戯曲を使い、原作の飛龍伝とは一風変わり、「主人公の神林美智子が小劇場の座長だったら…」と一ひねり脚色を加えた作品である。
あの激動の60年代学生運動の中でひっそりと活動を続けるある劇団の物語が、現代に
生きる小劇場の役者を目指した者たちと重なり合わせ描いている。
学生運動の中で純真に生きた6人の女学生と、男機動隊2人に焦点を絞って安保闘争時代の「ロミオとジュリエット」とも言える内容に、感動し、学生運動の全責任を持つ立場にありながら、小劇団のリーダーも努め、誰に対しても分け隔てをせず親切に振る舞い、偏見を持たず、平等に考える神林美智子と機動隊隊長の山崎一平と、立場や考え方の違いから、純粋に愛し合えず、悲惨な結果が待っており、学生闘争で神林が殺されたことで、山崎は気が狂ってしまうという壮絶な終わり方になっていくことに救いようがないと感じ、涙した。
 途中、神林の劇団の仲間や学生運動仲間が、神林と機動隊隊長山崎のために時間稼ぎをして、次々に殺られていく場面も、やけに武器の音がリアルで、また、それに合わせた役者の動きが、鬼気迫るものがあって、衝撃的だった。
 ただ本当に終盤の場面で、もっと後になって、学生運動に携わり、生き残った人たちが、その当時の事を劇にしていて、それを観た息子と気が狂っている父親山崎一平が何か記憶を思い出す感じで終わっているのには、少し救いを感じた。

 ただ、つかこうへい作品にしては皮肉がふんだんに詰まった笑いや、後半期の複雑で二重三重構造の劇といった感じが見られず、脚本がというよりも、元々のつか台本を大幅に脚色したことによって、物語が実に安直になって、やや押し付けがましいメッセージ性が強まって、脚本としての面白さや深みに欠けると感じた。

SessionYoshiya・語り

SessionYoshiya・語り

かわせみ座

プーク人形劇場(東京都)

2022/10/18 (火) ~ 2022/10/22 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/10/21 (金) 19:00

 私は、10月21日(金)に観に行ったが、アーティスト性が強い人形劇団のかわせみ座の山本由也さんと、詩人で多才な谷川俊太郎の息子でピアノ、作曲を手掛ける多忙な谷川賢作さん、現代詩をうたうバンド“DiVa”のボーカルの高瀬麻里子さん、ベースの大坪寛彦さんという豪華アーティストとの夢のようなコラボレーションを、プーク人形劇場という人形劇専門の本当に小さな小屋で間近で観て、聴けたことに感激した。

 かわせみ座の由也さんは、谷川賢作さんの父谷川俊太郎の詩やまどみちおの童謡、中原中也の詩、その他子ども向けの童謡や子守唄、子ども向けの物語詩などの内容や雰囲気に合わせて、その都度、手作り感溢れ温かみのある童女のマリオネットや現代風な少女のマリオネット、美しい日本か中国とかの女神風なマリオネット、ユニークで味がある鬼のマリオネット、怪しげな老婆のマリオネット、眼が爛々と輝き不気味で、観たものを恐怖のドン底に陥れる感じのマリオネット、クマのぬいぐるみの形をしたマリオネット、木馬の形をしたマリオネットなどを選び出し、巧みに操り、器用に踊らせたりとダイナミックな動きをさせ、谷川賢作さんや高瀬麻里子さん、大坪寛彦さんと共演しつつも、お互いに目立ち過ぎず、バランスがよく取れていて、程よい絡み合い方に、ここにマリオネットと詩と音楽が良い意味で影響し合っているように感じ、無限の可能性を感じた。
 
 全体的には幻想怪奇で時にエロチックで、緊張をどことなく強いる感じの中で、河童のマリオネットを使って養命酒の昔のCMソングに合わせて、時々谷川賢作が自虐ネタを盛り込んだりと、河童のマリオネットが酔っ払った雰囲気で踊るないようはかなりコミカルで、肩の力を抜いて観れて、気楽に楽しめて面白かった。

ビブリオライブ4

ビブリオライブ4

本気の本読み!ビブリオライブ

NOS Bar&Dining 恵比寿(東京都)

2022/10/15 (土) ~ 2022/10/16 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/10/15 (土) 10:00

 毎ステージ脚本と配役が変わり、即興演劇もあり、まさに俳優を味わう一日!俳優の役に入る瞬間、鼓動とパッションを劇場では味わえない近さで感じることができて非常に充実した空間を味わうことができた。
 
 しかし、毎回ゲストが来るといっても、小劇場演劇の延長線上の関係者が多いんじゃないかと思っていたら、なんと、僕が今日観た回では元SKE48で現在はモデルをしていらっしゃる平松可奈子さんがかなり狭い空間で、それも、目と鼻の先ぐらいの近さで演技したりしているのが滅多にないであろう状況で、貴重な経験ができて良かった。
 前半の別役実風なお互いに言葉が噛み合わないで進行していき、どんどん行動がエスカレートしていく女に嫌々断り切れず付き合い続ける男のやり取りの会話劇での、感情の起伏がどこにあるのか分からず、急に激昂したり、また静かだがややサイコパスで普通じゃない女を、平松さんは見事に演じ分けていて、感心した。
 また、エチュードの時も、無茶振りに余裕で答えていて恐れ入った。
 最後の朗読劇の際に、自然に涙が溢れて言葉も詰りつつ、台詞を言っているのが、いかにも演技してますといったわざとらしい感じじゃなく出てきているのを見て、平松さんに演技の才を感じた。

 俳優の人たちと、ゲストのフリーの俳優さん、元SKE48で現在モデルの平松可奈子さんとの赤裸々でぶっちゃけたトークや、俳優による自虐や毒舌がない混ぜになった会話が面白かった。

嘘ぎらい

嘘ぎらい

『OYUUGIKAI』製作委員会

本所松坂亭(東京都)

2022/10/05 (水) ~ 2022/10/10 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/10/07 (金) 19:00

 『嘘ぎらい』という劇のあらすじは、私はここであなたを見てる。俺は君を忘れてる。
という嘘のお話。というとても抽象的だったので、実際の舞台はどんなものかと思って、観に行ったら、考えていた以上に独特な作品世界に没入した。

 主人公の末廣理の少年時代の自分、青年時代の自分、中年で現在の自分がそれぞれ登場して、その時々の彼女と会話したり、独白したかと思うと、それぞれの時代の自分が、同時に話し始め、斬新で詩的な音楽が掛かり、それぞれの時代の彼女や妹が言葉に覆い被せるように話し始めたりするところが、現代パフォーマンス的でもあって衝撃を受け、引き込まれた。

 アフタートークでのテーマが面白く、いろいろ深堀できていて、興味深く聞けた。

みんな友だち

みんな友だち

こわっぱちゃん家

上野ストアハウス(東京都)

2022/09/29 (木) ~ 2022/10/02 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/09/30 (金)

 バーというか、カフェというか、スナックみたいな所を舞台にした、一人の女性が生涯を生き切る話で、このお店に来る人はみんな
柚葉のことを最高の友達と呼んでくれる。
 それが、柚葉が医者から余命宣告を受けたことから、物語が劇的に展開していく劇で、先が読めない展開に引き込まれた。

 CoRichで劇のストーリーを読んだだけだと、永遠に生き続ける女性と、周りとの絡み的な少し不思議な話かと勝手に思い描いていたら、実際の劇は全然違って、良い意味で第一印象を裏切ってきてくれた。
 バーというか、カフェというかスナックみたいなところに通う常連客であり、友達みたいな存在とさえ柚葉が思っていた個性溢れる面々に勇気を持って自分が白血病で、治る確率が低い病気だと打ち明けると、今までと態度が急変して次々に店を去っていったシリアスな展開や、その時々に挟まれる笑える場面、感動的な最後のほうの場面とよくバランスが取れていて、面白かった。
 生前葬の場面での、柚葉が白血病で余命宣告を受けていることを勇気を持って打ち明けたことに対して、普段仲良くしていたつもりだった常連客たちがそのことを受け止められなかったことを深く反省していることを柚葉に伝えるところが非常に感動的で、真の友だちとは何かを本気で考えさせられた。

 劇が終わったあとのトークショーでの、Ateamのゲストと、一応司会進行の柚葉役の晴森みきさんと、時々晴森さんを一生懸命フォローするこわっぱちゃん家の劇団員と作·演出·出演のトクダタクマさんたちの時に困惑したりしながらの、ゆるいトークが面白かった。

新訳「あわれ彼女は娼婦」ワークインプログレス

新訳「あわれ彼女は娼婦」ワークインプログレス

NICE STALKER

スタジオ空洞(東京都)

2022/09/21 (水) ~ 2022/09/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/09/22 (木) 19:30

 「あわれ彼女は娼婦」(原題「’Tis Pity She’s a Whore」)は、1630年頃にイギリスの劇作家ジョン・フォードによって書かれた古典作品であり、シェイクスピア等を輩出している「エリザベス朝演劇」の末期に上演された、ジョン・フォードの代表作であり、フォード版「ロミオとジュリエット」とも評されるその物語は、「近親相姦」という禁忌を犯したジョヴァンニとアナベラ兄妹の恋愛を軸に描かれる愛憎劇。今なお賛否分かれながら、世界中で上演され続けている「妹萌え」の問題作ということで、それをさらに、今時のライトノベルなどと紐付けつつ、劇の途中経過を見せてくれるというので、大いに期待して観に行ったが、良い意味で裏切った内容だった。

 実際には、ラノベと比較したりして本編が進行するわけではなく、格調高い小田島訳と比較してイトウシンタロウ台本だと時々ラノベに出てくる用語をかなり使いながら砕けた表現にして役者に台詞を言わせているところなど、捻りがあって面白かった。
 劇の途中経過を見せるというだけあって、劇の解説指南役である東京ドム子さんという役者が登場し、聞き手役のイグロヒデアキさんという役者との掛け合いをしながら、物語を進行させていくのだが、俳優が一人何役も兼ねることを自虐してみたり、翻訳·構成·演出のイトウシンタロウさんが自分たちが演じている斜め向かいにいて演り辛いことを軽くディスってみたり、第三者の立場であることを良いことに劇作家ジョン·フォードの戯曲「あわれ彼女は娼婦」に出てくる登場人物や時代背景、物語に勝手にケチをつけたり、批評したりと、テンポがよく軽快で、大いに笑えた。楽屋落ち的なネタも面白かった。
 ちょっとしたハプニングとして先輩劇団員が少し腹を立てて退場したりといったことや、劇作家のイトウシンタロウさんがダメ出しを求められて、ドギマギしているところなど、劇の途中経過を見せるという試みならではだと感じ、完成した劇とは違った面白さを感じた。
 しかし、こういうハプニングもあらかじめ計算し尽くした上での演出効果だとしたら、まさに観客は演出家の術中にはまらされたということで、これは凄いことだと感じた。

 個性豊かな登場人物たちと、それらを演じるクセが強く、アクが強すぎる俳優たちの熱演ぶり、特にヒポリタ役を演じたイグロヒデアキさんの見苦しい、それでいてなかなか終わらないヒポリタの最後の場面での演技が眼に焼き付き、大いに笑えた。
 また、馬鹿のベルゲットを演じる森耕作さんの、まるで本当に馬鹿なんじゃないかと思わせる演技に腹筋崩壊するぐらい爆笑しつつ、その徹底ぶりに感服した。

 ジョバンニが実の妹アナベラにキスを何回も迫る場面や、半裸の状態でアナベラに声をかけられ、何度も戻ってくるところなど、しつこい場面も多く、滑稽に見え、爆笑した。

三年前のリフレイン

三年前のリフレイン

劇団東京座

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2022/09/16 (金) ~ 2022/09/18 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/09/17 (土) 18:10

 『三年前のリフレイン』という劇のチラシをCoRichで見た際、まず、そのチラシのデザインが変わっていて惹かれた。
 また、内容もかなりぶっ飛んでいて、面白そうだったので、実際に観に行ったら、期待していた以上に、良い意味で裏切ってきて、気付くと作品世界に没入していた。

 俳優と同じ名前にしてある主役の役名に妙なリアリティや、親近感を感じた。
 また、全てに自信のない弱小ボクサー馬場清人が、とある試合をきっかけに、光の速さで動く超能力を手に入れたことによって、次々に試合に勝ち続け、スポンサーも付き、プロボクサーどころか、世界チャンピオンも夢じゃなくなっていくという展開に目が釘付けになった。
 しかし、光の速さで動ける超能力を他にも、いくらでも使い道はありそうなものなのに、あくまでボクシング試合の時にだけ基本的には使うという主人公馬場の姿勢が面白かった。
 また、彼の能力を利用しようと魔の手が近づき、時空を超えて人々の思惑が交差していき、実は新しくトレーナーとして入ってきて、何かと馬場を気にかけるふうな女の子西内由加が段々とサイコパスな本性が時々現れ、その西内が実は○○○○だったりと、謎が謎を呼び、劇の後半になるに従って、シリアスで、緊迫し、どんどん過酷で、味方だと思っていた人や、信頼していた人物が本性を顕にし、今までライバルだった人物が馬場を庇って殺されたりと、衝撃的で、予想もつかない展開に次々となっていく様に、いつの間にか魅入られていた。
 
 タイムマシンとして登場する道具が時計型な上、年代や日付などを正確に紙に書いて時計の上に穴が空いているところに入れなければいけない上、さらに充電式というところが、どこか現実味がありつつ、ハイテクとは程遠い、いちいち面倒くさいシステムになっているのが、何だか面白く、共感出来た。

 西内由加役の声優の植田ひかるさんが、本業は声優なはずなのに、そういうのをあまり感じさせないサイコパスな時とそうでないときの使い分けも含め、声はアニメ声だったものの、その熱量が演劇の俳優顔負けだと感じた。

伯爵のおるすばん

伯爵のおるすばん

Mrs.fictions

吉祥寺シアター(東京都)

2022/08/24 (水) ~ 2022/08/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/08/25 (木) 19:00

 この『伯爵のおるすばん』という劇は、不老不死の男として歴史に名を残した稀代の詐欺師サンジェルマン伯爵に焦点を当てた、その謎めいた人生を解き明かす内容に胸がときめき、期待が膨らんだ。

 サンジェルマン伯爵が人々に300年以上生きてきたと言って回って信じ込ませ、金持ち連中から金をせしめていた詐欺師時代は、ほんの百年ほどの間だけというのは意外だった。
 その後、近世、近代、現代、近未来、それからずっと気の遠くなるような未来を経て、宇宙の全部が静かに終わりを迎える最後の瞬間までの間、永遠とも思えるような時間をずっと、何一つ成し遂げられず、惰眠と後悔にまみれて生きていた彼と、彼が愛した伯爵夫人、女子高生、男性、宇宙人、大人の女性など様々な人たちとのやり取りを通して、サンジェルマン伯爵にも独りよがりな面があったり、相手に弱い面を見られたくなくて、強がってみたり、長年一人で、寂しく孤独で不安な面があったり、不老不死な男だって、白髪が多少増えてきて、歳は確実に取っていたりとサンジェルマン伯爵の人間味が見て取れて、この劇を観て、サンジェルマン伯爵だって一人の人間なんだなぁと感慨深くなり、前よりも親しみを感じるようになった。
 最後の場面で、サンジェルマン伯爵と関わりを持った人たちが、伯爵を真ん中に一同に会すところには圧倒された。

 サンジェルマン伯爵役の人もそうだが、他の登場人物もとても個性的でアクが強く、面白かった。

座布団劇場 二人会其の二~分け入っても分け入っても青い山(山頭火)

座布団劇場 二人会其の二~分け入っても分け入っても青い山(山頭火)

占子の兎

阿佐ヶ谷ワークショップ(東京都)

2022/08/19 (金) ~ 2022/08/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/08/20 (土) 19:00

 途中休憩を挟みながら、3つの演目を観て、聞いたが、今回の座布団劇場という団体は、いわゆる演劇でもなく、かといって、朗読劇、または寄席といったふうにはっきりとジャンル分けすることができない、演劇や朗読劇、寄席というか落語の良い部分巧みに取り入れた、新しい劇の在り方を観て、聞いて、新鮮で、感慨深かった。
 
 最初の演目「老婆の休日」では、どう見ても元気そうで、何も病院に来なくても良い婆さんと、爺さんが、病院の待合室で会話することで話が始まるが、何か身体の具合が悪くて病院に来ているというよりかは、待合室で話し相手を見つけて、世間話をするために、病院通いをするという、本末転倒なあり方に、高齢化社会への皮肉とユーモアたっぷりで憎めない登場人物たちに共感し、大いに笑えた。
 「茶漬けえんま」では、閻魔が茶漬けを食べ、洋風でモダンにスーツを着こなしていたり、閻魔もコンプライアンスを考えなければいけなかったり、あの世で閻魔と釈迦とキリストという違う宗教が同居して、仲良くしていたり、天国と地獄にそんなにはっきりとした差がなかったりと、憎いぐらいに皮肉と現代社会への批判がユニークに、ハイスピードに展開されていて大変面白かった。
 また終盤での、釈迦とキリストとの聖人であるはずの2人にあるまじき、浅ましく卑しく、醜い、まるで人間か、それ以下の醜態を晒し、本性丸だしの俗っぽさが、観ていて大変滑稽で、気付くと、大笑いしていた。
 最後に、リクエスト企画というものを演った。お客さんの拍手の多さで作品を選ぶという発想自体が、ありそうでない試みだと思い、大変面白かった。
 作品は「幽霊蕎麦」だったが、幽霊になっても女房に言いくるめられてしまう、気が弱く、小心者の旦那と、堂々としていて、図々しく、浪費癖が激しい女房と、蕎麦屋の客との、それぞれの噛みそうで、噛み合わず、ずれたやり取りが可笑しく、最後の女房の一言に、なんだかんだ言っても、世の中図太く生き抜くことが出来るのは女性なんだなぁと感心してしまっていた。
    

蝶々結び

蝶々結び

LUCKUP

上野ストアハウス(東京都)

2022/08/03 (水) ~ 2022/08/14 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/08/12 (金) 19:00

 夏の日差しが強い中、旅人の男ははっきりとどこといった固有名詞のない駅に降り立ちつ。
 閑散としていた駅はやがて人々で賑わい、遊び、歌い、そして踊っているが、それを傍から眺め、時に関わる旅人の男は彼らに、そして今自分がいる空間に何か違和感を感じ、この駅に降り立った本当の理由を懸命に必死になって探し、物語が進むにつれて段々と旅行者の男の本当の名は牧陽介で、今自分がいるのは牧陽介の記憶の中の世界だということ、現実の未来の牧陽介は、心を閉ざし、現実から目を背け、部屋にずっと引きこもっていること。
 また、記憶の中の自分は、現在の牧陽介だということ、そして記憶の中で関わった学生は過去の自分だということ、過去の自分がある事をきっかけに責任を感じて、将来的には引きこもってしまったことなど、過去と現在と未来の牧陽介を同時に介在させて、さらに記憶の中にはもう亡くなった若かりし頃のお母さんが出てきたりと、伏線が複雑に絡み合い、色んな要素を同時多発的に盛り込み、進行させ、余計に物語を分かりづらくしている部分もあったが、その複雑化し、終わり方は多少希望が見えるものの、はっきりとした答えを出さず、記憶の中の出来事が、本当に記憶の中だけで繰り広げられていたのかどうかも判然とさせない終わらせ方に共感し、眼にしっかりと焼き付いて離れない、素晴らしい劇だった。

 牧陽介とお母さんとの物語や学生時代の事故があった後のやり取り、奥さんとのやり取りの物語が印象的で、グッと来て、感動した。

 劇中、シリアスで緊張する場面も多く、また、大人の引きこもりをテーマにしていて、かなり重い内容なはずだが、良い意味でくだらなくも、笑える場面も多く、自然と大笑いできて、気分もスッキリと出来て良かった。

 
 劇が始まる前にあらすじを読んだ感じの印象だと、別役実に大きく影響を受けた作品なのかなと思ったが、確かに劇の途中まではそう思わせるような不条理劇の節があったが、後半になるにつれ、真相が明らかになっていき、良い意味で、予想を裏切られたと感じ、大いに劇を楽しめたと感じた。

遡行の記憶にて

遡行の記憶にて

カスタムプロジェクト

コール田無 多目的ホール(東京都)

2022/08/12 (金) ~ 2022/08/14 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/08/14 (日) 12:00

 今回観た作品は、観客参加型ミステリー劇だったが、最初に主人公の女の子?がタイムリープしたところから始まり、真犯人究明の後半戦では、主人公が何回か経験するタイムリープは実は○○だったことや、犬飼教授が読んでいる本が実はカルト的人気を誇った小説○○○○○○だったりと、カレンダーの日付のことも含めて、細部に至るまで入念に仕掛けが仕組まれていて、更にはゼミの仲間の他愛のない主人公との会話も実は、○○○だったりと、意外どころか、想定外の出来事の連続に、緊迫し、思いがけない結果に足元を救われ、推理って思った以上に難しいと感じた。
 後半戦が終わった後の、解説コーナーで俳優のリアクションも含め、程よく息抜きしながらも、大いに笑えることができて良かった。
 
 劇中、笑える場面が意外と多くて楽しめた。そして、登場人物の性格やアクが強すぎて、更にそれを演じる俳優が訳に入り込みすぎているように見えて、圧倒された。

風のサインポール

風のサインポール

劇団俳優難民組合

下北沢 スターダスト(東京都)

2022/07/22 (金) ~ 2022/07/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/07/22 (金) 19:00

 真夜中のベンチに男が1人。
その傍には床屋のクルクルが立て掛けてある。何故ここにあるのかは分からない。
そこへもう1人の男がやってきて、パチーン!とぶつかった瞬間からへんてこな攻防がはじまり、劇が始まったが、いつまで続くとも分からない男2人の、噛み合わず、一方通行な会話が続き、そのうち床屋風の男がもう一人の男に向かって、あなたは熱海の盗塁王だと言い出して、強引にその方向に持っていこうとする滑稽さや、シニカルさ、勘違いによる笑い、そして最終的に使われなくなった野球場にいたもう一人の男がかつて、甲子園の盗塁王であった可能性が強まっていき、最後はベンチの横においてあった床屋の壊れたクルクルが誰が新しい電池を入れたでもないのに、一人でに回りだす展開には呆気にとられ、闇の中で妖しく回る床屋のクルクルが不気味に点滅する光景に不条理さと同時に、急に恐ろしくなり、気付くと、身体が強張っていた。終わった後しばらくの間は、余韻が残って、劇場の椅子から立ち上がれなかった。

 劇団俳優難民組合の公演は、前にも、別役実作の劇を見たことがあるが、今回も、独特な間や、急に興奮して大声を出すところや、不条理でナンセンスで、最後には何となく不穏で恐怖を呼び起こす終わり方になっていて、それが劇団俳優難民組合の特徴でもあり、良い意味で、別役実に多大な影響を受けていると感じた。役者の台詞術や、急に興奮するタイミング、あえて、あんまり相手の顔を見ず、相手に合わせてるようで、合わせないやり取りも含めて、よく出来ていた。

昭和歌謡コメディVol.16〜たまたまバズって、お世話サマ~!~

昭和歌謡コメディVol.16〜たまたまバズって、お世話サマ~!~

昭和歌謡コメディ事務局

ブディストホール(東京都)

2022/07/14 (木) ~ 2022/07/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2022/07/15 (金) 17:05

 2019年にも、江藤博利プロデュースの昭和歌謡コメディシリーズを観て、今回は2回目で、出演者も多少変わって、内容も変わっていたが、前の作品に全然引けを取らず、大変面白かった。

 第1部のコメディでは、築地にある老舗の寿司屋をメインにしながら、主人公の卵焼き店たま屋の麻子がクッキング動画で人気YouTuberになったことから、ドタバタ喜劇が展開し、途中バズるなどの若者言葉を沢山盛り込み、現代的な要素も取り込みつつ、阿佐ヶ谷姉妹を完コピしつつ、アレンジしたネタなど懐かしくもシュールで面白い笑いも挟み込み、勘違いネタや、連発するしつこいギャグ、勝手に妄想し始め、じぶんの理想を勝手に作り上げていくことによる笑いなど、沢山笑える内容でありながら、一方で、地方で養鶏場を営むと言う近藤が実は結婚詐欺師なんじゃないかという緊迫した場面がありつつ、でも実はそれはという意外だが幸せな展開の終わり方に繋がっていっていて、スリルもありつつ、最終的にちょっと感動しつつも、個性豊かで、一癖も、ふた癖もある登場人物たちも含めて、全体としては、徹底的にただ、ただ、大笑い出来て、とても楽しかった。

 第2部の歌謡ショーは、現代の曲で始まり、途中から、昔のポップスなどが入ってきたが、聞き馴染みのある曲が多く、盛り上がる曲も多くて、私も、知らずか知ってか、気づくと、ノっていた。
 途中、コミックソングやショートコントを結構挟んでくるのも、観ていて飽きず、面白く、大変充実出来た。

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