実演鑑賞
満足度★★★
鑑賞日2022/10/15 (土) 16:00
「菜の花日記~飛龍伝より~」とは
つかこうへい作「飛龍伝」を8人芝居にアレンジしたもので、hreeQuarter時代に清水みき枝が手掛けた、演劇ワークショップ初心者用の戯曲ということで、いわゆる一般的な『飛龍伝』のイメージを大胆に脚色したということで、当日は期待して観に行った。
劇の舞台は、1970年時代安保闘争。学生運動が激しくなってきた頃のお話である。何のために男と女は愛し合うのか、真に闘うべきものは何なのか、そのような熱いテーマが漂う、安保闘争の時代を生きた若者たちの物語である。
今回、2019年3月上演「菜の花日記Ⅳ~飛龍伝より~」の戯曲を使い、原作の飛龍伝とは一風変わり、「主人公の神林美智子が小劇場の座長だったら…」と一ひねり脚色を加えた作品である。
あの激動の60年代学生運動の中でひっそりと活動を続けるある劇団の物語が、現代に
生きる小劇場の役者を目指した者たちと重なり合わせ描いている。
学生運動の中で純真に生きた6人の女学生と、男機動隊2人に焦点を絞って安保闘争時代の「ロミオとジュリエット」とも言える内容に、感動し、学生運動の全責任を持つ立場にありながら、小劇団のリーダーも努め、誰に対しても分け隔てをせず親切に振る舞い、偏見を持たず、平等に考える神林美智子と機動隊隊長の山崎一平と、立場や考え方の違いから、純粋に愛し合えず、悲惨な結果が待っており、学生闘争で神林が殺されたことで、山崎は気が狂ってしまうという壮絶な終わり方になっていくことに救いようがないと感じ、涙した。
途中、神林の劇団の仲間や学生運動仲間が、神林と機動隊隊長山崎のために時間稼ぎをして、次々に殺られていく場面も、やけに武器の音がリアルで、また、それに合わせた役者の動きが、鬼気迫るものがあって、衝撃的だった。
ただ本当に終盤の場面で、もっと後になって、学生運動に携わり、生き残った人たちが、その当時の事を劇にしていて、それを観た息子と気が狂っている父親山崎一平が何か記憶を思い出す感じで終わっているのには、少し救いを感じた。
ただ、つかこうへい作品にしては皮肉がふんだんに詰まった笑いや、後半期の複雑で二重三重構造の劇といった感じが見られず、脚本がというよりも、元々のつか台本を大幅に脚色したことによって、物語が実に安直になって、やや押し付けがましいメッセージ性が強まって、脚本としての面白さや深みに欠けると感じた。