マッチ売りの少女
MODE
川崎市アートセンター アルテリオ小劇場(神奈川県)
2009/03/19 (木) ~ 2009/03/22 (日)公演終了
満足度★★★★
新百合ケ丘の街
駅を降りて劇場へはほぼ一直線だが、その間のわずかな移動にも、この劇で演じられるテーマと重なるものが感じられた。取り澄ましたこぎれいな街の外見、一皮めくると死体に群がるウジのように醜くうごめいている欲望やわだかまり。街と劇場は二重構造となって観る者を取り囲む。そして観る者自身の二重構造があばかれる。まさに名作とはいつ観ても生き生きと迫ってくるものなのだ。
電車は血で走る
劇団鹿殺し
青山円形劇場(東京都)
2008/10/29 (水) ~ 2008/11/03 (月)公演終了
つか後継なるか?
「鹿殺し」は初めて。前から気になっていた関西の劇団。モチーフの宝塚線の事故にまつわるエピソードは心にしみた。途切れ途切れだが徐々に厚みを増してくる仕掛けで、ラストの上り詰め方も堂に入ってる。チンドン屋風電車、赤い布による事故描写など象徴的な手法は見事で、見せ方のセンスがいい。楽隊や犬の動きも面白い。劇的な空間を作る手法がシャレている。視覚的には。
だが、言葉のセンスはどうだろう。「クソ〜」のように汚ない響きが繰り返されて、耳障りだ。それに主人公を無垢(イノセンス)の位置に固定するための「悪役」の仕立てが安直すぎる。それがリアリティを損なっている。そのムリが感動を減殺する。
良い点も気になる点も確かに「つかこうへい」の継承だと思う。だが、全体の統合という点ではまだまだ。やや散漫。
銀河鉄道の夜、蒲田行進曲、熱海殺人事件、ピーターパン、クレヨンしんちゃん……下敷き作品が厚みをもたらす反面、全体がオムニバス風に分断されてしまっている。音楽と言葉にもっとしなやかさが欲しい。柔らかさの中にホンネを仕込む関西弁の魅力が生きていない。
ーーもっともっと関西の味を出さなあかんでえ。
この若さの未来を信じたいと期待したくなる魅力ある劇団だ。
由比正雪 ゆいしょうせつ
流山児★事務所
本多劇場(東京都)
2008/08/09 (土) ~ 2008/08/12 (火)公演終了
満足度★★★
匿名の英雄
〈原風景〉の演劇化を目指していたのだと思う。過剰な「名付け」にこだわっていた私たちは実は「名付け」によって失われたものにこそ目を凝らすべきなのかもしれない。名付けから滑り落ちることの中に真実がある。名付けや人称にこだわることは滑稽なのだ。無名の中にこそ真実は立ち現れる。だが私たちはそのかすかに見えてきたものにもすぐ「名」を付けたがるのだが(笑)。近代を超える時代劇なのだと思う。スゴイ脚本だ。
だが、この公演が成功したかは疑問だ。時代に抗して観客を巻込むほどのエネルギーが感じられなかった。この40年の日本の歩みはまさに逆向きだったのだから。吹雪をものともせぬ凄まじいばかりの団結力(?)が必要だった。
役に立たないオマエ
ブルドッキングヘッドロック
サンモールスタジオ(東京都)
2008/05/22 (木) ~ 2008/06/01 (日)公演終了
満足度★★★★★
突破された空気を包む空気
外国人にはこの芝居は決して理解されないだろう。現代の日本に生きる者だけがリアルに感じているこの「空気」自体が主題だから。繰り返し破壊されながらもゴムまりのように包み込んでくる「空気」そのものが。
文章の場合は「行間を読む」という言葉があるが、芝居でもそれは重要。この芝居はまさにその「行間」がテーマだ。表面上のストーリーの底を流れる「空気」自体が、時に過剰で時に呑み込まれたセリフの間から妙にリアルにあぶり出されてくる。見事だ。
高校時代を思い出して、傷付き、且つ癒されるだろう。息苦しく、且つ切ないに違いない。これまさに芝居の醍醐味。「新しさ」についていける芝居ファンにはたまらない見応え。細かいアラには目をつぶって久しぶりの五つ星!
瞼の母
シス・カンパニー
世田谷パブリックシアター(東京都)
2008/05/10 (土) ~ 2008/06/08 (日)公演終了
満足度★★
大竹と草ナギのギャップ
「瞼の母」を現代風に脚色したという触れ込みで期待していたが、期待ハズレだった。草ナギは固すぎる。もっと柔らかくならないとこの芝居には馴染まない。大竹しのぶの存在感と演技はさすがだが、周囲と調和していず特に草ナギとのアンバランスがおかしいほどだった。泣かせるはずの場面でもシラッとしてしまった。観客は草ナギファンが大半のよう。隣の女性は泣いてたからファンならそれでも楽しめるのだろう。唯一楽しめたのは舞台美術。大道具や背景の大胆な転換。周囲を固める役者陣の健闘はともかく、肝心の草ナギの演技は論評に値しないレベル。興ざめだった。
歌わせたい男たち
ニ兎社
紀伊國屋ホール(東京都)
2008/02/29 (金) ~ 2008/03/23 (日)公演終了
満足度★★★★
笑える芝居笑えない現実
思わず笑えてしまうのはまだ狂ってないから。でも手放しで笑えないのは狂った現実があるから。誰も信じてないことが力をもってしまってそれに振り回されていくーーそんな愚かな回転を作ってしまったのは誰なのか。笑えるうちに止めなければならないのだが、もう命まで賭けてしまっている人さえいそうでコワイ。この嵐、はたして止められるのだろうか?
3年前の再演とは思えない「いま」が描かれている。荒れた海に引き込まれ、いつの間にか波間にあっぷあっぷしている自分がいた。吸引力をもったいい芝居だ。
ライカンスロープ
Afro13
シアターVアカサカ(東京都)
2008/02/14 (木) ~ 2008/02/19 (火)公演終了
満足度★★★
声量は十分だが…
歌も踊りもあるエンタテイメントを迫力をもって楽しくやってくれる。主役級の演技は安心して見ていられる。だが込み入ったストーリーのわりにはテーマがクリアではない。いろんなものを投げ込んで落ち着かなくなってしまったという印象。観客の緊張をほぐすマッサージ効果はあるが、深いところに届き癒しとなる声は聞こえない。これでどこまで求心力を維持できるか? 次回に期待。
欲望という名の電車
アトリエ・ダンカン
東京グローブ座(東京都)
2007/11/16 (金) ~ 2007/11/25 (日)公演終了
満足度★★★
欲望から極楽は遠い
欲望という名の電車に乗っているのは私たちも同じなのだと思う。テネシー・ウィリアムズのどん底を生きる人間への率直な目と愛が感じられる秀作であり、今回の脚本も原作にほぼ忠実で、原作のそういう良さがグローブ座の舞台からも伝わってきた。原作にある音楽や効果音へのこだわりもよく消化工夫され好感のもてる演出になっていた。
だが「死と裏合わせにある欲望」を全身で表現しながら生きるアメリカの底辺の人々を日本で再現するのは難しい。日本人はやはり控えめで礼儀正しく、やさしいからだ。
女型のブランチには救いがあった。(同時に逃げでもあったと思うが…)女性が演じた時のさらなる痛々しさは想像すると苦しくなる。スタンレーは好演だった。ミッチー、ステラは上品過ぎた。いや日本的に過ぎたと言うべきか。日本での公演が絶望的なほど難しい演目だと思うが、それにしては善戦していた。