Takashi Kitamuraの観てきた!クチコミ一覧

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中村仲蔵 ~歌舞伎王国 下剋上異聞~

中村仲蔵 ~歌舞伎王国 下剋上異聞~

ホリプロ

東京建物 Brillia HALL(東京都)

2024/02/06 (火) ~ 2024/02/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

どん底から這い上がった稀代の歌舞伎役者・中村仲蔵に、藤原竜也がよくはまっていた。藤原は激しい喜怒哀楽と大ぶりの演技なので、ちまちました芝居では臭くなってしまう。今回は、この藤原の特徴を存分に生かせた。二幕の外郎売の蝶早口の膨大なセリフは見ものであった。井上ひさし「薮原検校」の芸の見せ場のようだった。久しぶりにいいものを見た。
もう一つ、「50両」しかせりふのない、「忠臣蔵」五段目の斧定九郎が見せ場。ただ、セリフはないので、歌舞伎とは何が見どころなのかを考えさせられる。戯曲中心の「会話劇」である新劇では、セリフのない見せ場は考えにくい。

上を目指すギラギラした歌舞伎役者を演じる座組の中に、お稲荷さんのコン太夫役の池田成志がトリックスターとしてうまく合っていた。自然体のユーモアと、緊張を和らげるほっとした時間を担っていた。
二役の市原隼人も、肉体派の彼の特性を生かして、荒事をきわめた市川八百蔵と、身投げした仲蔵を助けた新之助にぴったり。

場面が多いらしい(「赤旗」評によれば二幕二十六場)が、舞台に3階建ての芝居の楽屋セットを組み立て、それぞれの階でスピーディーに場面転換して、まったく転換の多さを感じさせない。しかもこのセットは下は稲荷町(大部屋)から、名題(スター)役者までの役者のヒエラルキーも示していて一石二鳥である。

「抗えないことには逆らうな」「俺には抗えないことなんてないと思える」等々、決め台詞も随所に光る。「一本の道がみえる。その先には何があるのか」「お前の中の化け物を引き出してくれる人がかならずいる」「分け前をもらう子分じゃない、獲物を狙う一匹狼」そして、「役者のさが」にいたる。

スターリン

スターリン

劇団俳優座

俳優座スタジオ(東京都)

2024/02/09 (金) ~ 2024/02/16 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

村雲隆一演出を拝見。全5場構成。1場はスターリン(小田伸泰)とユダヤ人俳優のサーゲリ(斉藤淳)の初対面。リア王を絡ませながら、互いにどこまで踏み込めるかの腹の探り合いという感じ。二人とも神学校出身。スターリンも威圧的でなく、あまり怖くない。そこがちょっと物足りない。

2場で二人は互いに裏切りの経験を持つことを告白する。スターリンは帝政内務省の密偵に誘われ、サーゲリはスパイとして、刑務所で危険分子のユダヤ人と同じ房に送り込まれた。サーゲリは「俺は裏切ってない、房に入ってすぐに、自分の目的を相手に伝えた」というが、スターリンは「俺は密偵だ」と。サーゲリの息子ユーリがシオニストとして取り調べを受ける。スターリンは「もう家に帰った」というが。

3場 30年代の農業集団化と大粛清を振り返る。スターリンはジノビエフ、カーメネフ、ブハーリンのライバルを出し抜いたこと、レーニンが(右手はマヒしたため)慣れない左手で書いたスターリン排斥の遺言を。うまく切り抜けたことを自慢する。サーゲリはウクライナへ赴き、みずから富農撲滅の先頭に立っていた。飢餓で1000万人が死んだ等々と、スターリンに面と向かって告発。だんだん話が核心に迫っていく。スターリンの2番目の妻は自殺した。労働者と農民の殺人者になったみずからの姿に絶望して。「一人が死ねば悲劇だが、100万人の死は統計だ」とうそぶくスターリン。チャップリンのモジリである。ユーリは拘束されたまま、父のサーゲリは会わせてもらえない。ユーリはジョイントの一味だと、スターリンは疑う。

4場(短め)戦後、フルシチョフたち「新しい人」が自分に服従しないことにいら立つスターリン。戦争。サーゲリは何百の赤軍将校を処刑したとスターリンをなじる。戦後、スターリンはユダヤ人の強制移住を提案するが、フルシチョフ達は先送りにする。「医師団陰謀事件」がおきる。新たな「敵」として反ユダヤ主義が強調されると、なぜ作者がスターリンの相手役をユダヤ人にしたかが見えてくる。ドイツ語で書いた芝居なので、当然ヒットラーを重ねたのではないか。
トルストイのように不死を目指し?放浪するスターリン。「いくつもある部屋を、次から次へと変える」といわれて、暗転ごとに、窓や机を示すセットを配置換えしていた理由が分かった。
スターリンも多くの人を殺してきたせいか、得体のしれない恐怖におびえる。人間スターリンの「良心」を想像するのが、スターリンにふさわしいのかどうか。全く後悔もしないのでは、芝居が成り立たないが、独裁者の内心の苦しみというのは安易な想像であり、通俗的な慰めになってしまうのは注意を要する。

5場は悲劇的な、しかし厳粛なラストとなる。2時間10分

勉強になる芝居であった。それにしても「若き日のスターリンは皇帝権力の二重スパイだった」(亀山郁夫)とは本当なのか。この芝居もそう書いているが、それがスターリン生存中、公に知られなかったのはなぜだろう。

ネタバレBOX

5場はサーゲリが捕らえられた独房での対話。かつてサーゲリが刑務所でユダヤ人とかわした神をめぐる対話。スターリンは自分をネタにしたジョークを教えてくれとせがみ、サーゲリはそれにこたえる。「このジョークは傑作だ」「教えてくれ」「だめだ。それをしゃべったために、5年間収容所に入って出てきたばかりなんだ」等。スターリンが朝、排尿し、排便し、それから起床するというジョーク。自分の衰えが知れ渡っていて驚くスターリン。ユーリの死。サーゲリは低い、力の抜けた声で、淡々とリア王がコーディリアの死を嘆くかのようなセリフを語る(そんな場面はシェイクスピアにないが)。悲劇を見つめる人々が背後から現れて、幕。
夜は昼の母

夜は昼の母

風姿花伝プロデュース

シアター風姿花伝(東京都)

2024/02/02 (金) ~ 2024/02/29 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

アル中の父親(山崎一)をもつ4人家族の話である。場所はデンマーク。最初は兄(樫山隼太)が弟ダヴィド(岡本健一)のセクシャリティ(女装、女性へのあこがれ?トランス?)を攻撃するところから始まり、朝、父、母(那須佐代子)も食堂におりてくる。母のしつこい咳や、食材費の工面の父の悩みと続く。父が酒で失敗したこと、施設に入っていたことが語られ、そして…父がついに隠れて酒を飲む。ここまでの過程が長い。ここから父のごまかしがおかしくて、家族同士の本気の肉弾戦になり、舞台が面白くなる。葛藤の原動力は父の酒への執着だけなのだが、その執着がとにかく半端ない。山崎一の独擅場だ。
3時間20分(15分休憩)

ネタバレBOX

後半の、父と他の三人とのくんずほぐれつの「闘争」は生々しい。現場を押さえられても、隠していた酒瓶をダヴィドに床下から掘り出されても、「俺は一滴も飲んでない」と白を切る父親が面白い。人間、あんな開き直って嘘がつけるのだ。妻に「また飲んだら別れる」と迫られ、「もう絶対飲まない。信じてくれ」と約束したのも、全部その場しのぎに過ぎなかった。しかし妻に縋り付いて約束するときは、本当に改心したとしか見えない真剣さなのである。こうした家族のせめぎあいが見どころである。ただし芝居を通して、さまざまな表情を見せるのは父親だけ。他は、16歳!の上目遣いの弟、なぜかいつもいら立っている兄、疲れ切った母親、という表情があまり変わらない。最後に父は酒に酔ってすべてを超越し、心も崩れてしまい、いつまでも不気味に笑い続ける。この山崎一の演技がすごい。

父親がなぜアルコールにおぼれたのかが描かれないので、家族の葛藤は肉体的衝突より深くならない。ユージン・オニールの「夜への長い旅路」は、母が麻薬におぼれたのは、かつて赤ん坊を死なせたからであり、父はその時浮気(か仕事か?)で家にいなかった負い目があるために強く出られない。今作は、家族のこれまでの歴史、状況の必然性が透けて見えないところが、決定的に違っている。父が「護送船団に乗っていた」というから、戦争のPTSDか?と思ったら(もしそうなら、芝居の見え方がだいぶん変わる)その話もでたらめらしい。

途中、母親が急にダヴィッドに船に乗れと言い出して衝突する。このように兄と弟、母と弟も互いにうまくいっていない。(兄は弟にサックスを「ちゃんと断れば貸してやる」と優しいところも見せるが)。でも、父親に対しては、3人が団結する。ただし父を見捨てて憎み切れないため、葛藤はずるずると続くのだ。

ダヴィドがナイフで母ののどをかき切る黙劇、父ののどを切る黙劇がインサートされる。ダヴィドの妄想と見える。これらのシーン、セリフはないが、戯曲にあるのだろうか? 
自転車の6日間レースとか、アメリカの死刑になりそうな作家についてのラジオニュースとか、あまり意味のない話があれこれある。作者の体験から取り込んだものだろうか?アメリカの処刑方法が青酸ガスというがカリフォルニア州でそんな方法をとっていたのか?ホロコーストのガス室を示唆しているのか?
ウィキッド

ウィキッド

劇団四季

JR東日本四季劇場[秋](東京都)

2023/10/19 (木) ~ 2024/01/27 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

オズの魔法使いの前日譚ということだが、途中からオズ本編の裏話になっていく。そしてすべてが最後はつながる。すべての伏線を回収して見せるストーリーが非常に巧み。西の「悪い」魔女の親友だった、南の良い魔女が、けんか別れや憎しみもないのに、なぜ西の悪い魔女の「死」を祝福しているのだろう?と、見ながらずっと疑問だったが、その疑問も最後にはほどけた。

オデッサ

オデッサ

ホリプロ

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2024/01/08 (月) ~ 2024/01/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

笑いに次ぐ笑いのうえに、ミステリーは意外な展開を見せる。それで終わったかと思うと、最後にどんでん返し。100分、十分に楽しめる。ただ三谷幸喜は今回もメッセージをこめることには非常に禁欲的である。ニール・サイモンのように。

殺人事件の取り調べ。互いに話の通じないアメリカ人警部(宮澤エマ)と日本人容疑者(迫田孝也)、日英両語ができる青年(柿澤勇人)が、日本人を救おうと間に立って悪戦苦闘する。数十年前の最初の思い付きは、日中戦争中の中国での、日本人と中国人の話だったそうだ。間に立った通訳が、戦闘を避けようと嘘の通訳を繰り広げて、爆笑コメディーになる。この設定なら、笑いだけではなく、戦争回避という大きな目的を背景にした、奥行きのある話になったと思うのだが。「笑いの大学」のように。

ネタバレBOX

開幕10分後、取り調べが始まるや否や、日本人旅行者(迫田孝也)は米国人警部(宮澤エマ)に「私が殺しました」と突然告白する。客席はびっくり。通訳の日本人青年(柿澤勇人)もそれ以前の彼とのやり取りで、無実を確信しているから、思わず「He says he didn't kill him」と、嘘の通訳をしてしまう。ここから、旅行者が演じる殺人の状況の再現を、そば打ちの様子に変えて訳したり、あの手この手の爆笑場面が続く。最後のどんでん返しの伏線が、最初からはっきり示されているのはさすがである。まさか、そうなるとは。観客も騙されても腹が立たない。
みえないくに

みえないくに

公益社団法人日本劇団協議会

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2024/01/18 (木) ~ 2024/01/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ケストナーやスターリンなどの評伝劇で、近年急速に頭角を現した鈴木アツト氏が、評伝劇とは違う、現代の世界と翻訳の問題に切り込んだ。日本の敵どころか「世界の敵」になった国の言葉を広める辞書を作ることは、日本国民を敵に回し、会社もつぶれるのではないか。ロシア語・ロシア文学をめぐる現在のジレンマを、架空の小国の話に置き換えて、敵とみなしたら、その国に関わる全てが否定されてしまう現代の極端な風潮を見つめ直させる。なかなか難しい課題に取り組んだ意欲作である。グラゴニアが隣国に侵攻した、というところで、舞台三方の大きな本棚が倒れて、どばーッと本が散乱する演出は、ダイナミックだった。

架空のグラゴニア語をいろいろ肉付けして、舞台に乗せたのは面白かった。日本語は、雨に関する言葉がたくさんあるが、グラゴニア語は物のにおいについての単語が豊富なのが特徴とか。「ムルケアス」ということばは、「老木の香おり」の意味で、同時に「老人の生きた時間」という意味があるとか。このマイナーな言語を学ぼうと、べてらん編集者(土居裕子)が、家じゅうの物に、グラゴニア語を買いたポストイットをつけていた、というのは「なるほど!」と思った。モノになりそうな学習法だ。

一方ストレートな議論中心で、遊びというか、芝居にゆとりがないのが残念。人物の生活と感情にもう少し厚みが欲しかった。

ネタバレBOX

いろいろ、突っ込みたいところはある。グラゴニアは人口60万の認知度の低い小国という設定だが、そういう国の話題が急にニュースになったら、グラゴニア関連書は売れるのではないか? 今こそ出版しようとなっておかしくない。大国ロシアへのバッシングをそのまま小国に当てはめたためにズレを感じた。それをいえば、そもそも小国は、戦争を仕掛けたりしない。反撃されて、負けるのは自分たちと分かっているから。実際、グラゴニアは、空爆を受けて国連?に占領統治される。独裁政権で人権抑圧をしている、世界の孤児(北朝鮮やミャンマーのような)という設定がよかったのではないか?
パートタイマー・秋子【石川公演中止】

パートタイマー・秋子【石川公演中止】

ニ兎社

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2024/01/12 (金) ~ 2024/02/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

つぶれそうな下町スーパーで、わけあってバイトを始めた山の手の奥様・樋野秋子(沢口靖子)。さえない店長派と、ぐーたらバイトの反店長派の対立の余波を受け、頭がくらくらしてくる。そんな世間知らずの奥様に、沢口靖子がうまくはまっていた。
生瀬勝久の「焼肉ヨーデル」のスイス風の節回しは傑作で、客席が大いに沸いた。ロッカーから突然飛び出してくる意表を突く場面と言い、生瀬氏の喜劇度は非常に高かった。
2時間45分(休憩15分込み)

ネタバレBOX

バイトのボスの春日(土井ケイト)たちは、レジを通さないで店の物を持ち帰ってずるしている。店長は、賞味期限切れの肉を「リパック」して再び店頭に並べ、その片棒を担ぐ精肉担当には特別手当を出している。担当が辞めたため、秋子が8万で引き受けるが、前の精肉担当の手当は10万だったことが分る。こういうせこさが、いじましい。どちらにも正義のない店長派とバイト派のかけひきが、日本社会の縮図のように見える。

そこに「新店長赤っ恥セール」が絡むのだが、豆腐や牛、豚のシャッポをかぶったり、調子っぱずれの替え歌(「夏の扉」を「店の扉」にしたり)を歌ったりと、浮世離れしたセールス。反店長派ならずとも、とてもついていけない気がする。

二兎社には珍しく出演者が多い。12人。ちょっと多い気がする。誰が誰かを理解するのに少々かかった。21年前に上演した青年座では、これぐらいがちょうどいいのだろうか。
開演時間を間違えて、30分遅れてしまったせいもあるので、仕方がないかもしれない。
ひばり

ひばり

劇団四季

自由劇場(東京都)

2023/12/24 (日) ~ 2024/01/20 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ジャンヌ・ダルク役の小柄な五所真理子が、無邪気なほど無垢でりりしくて、声もよく響いて素晴らしかった。舞台装置は簡素ながらも紋章や林立する槍で歴史を感じさせる。なんといっても素晴らしいのは衣装。甲冑や、貴族の豪華な服、司祭たちの赤いビロードのような服など、見た目にもゴージャスだった。

前半の神の声を聴いてから、ボードリクール隊長を説得して隊を整え、シモンで皇太子を起ち上らせるまでは、ジャンヌの知恵と純真さに心現れる。すがすがしい。
後半の宗教裁判は、審問官とジャンヌの対決がなかなか重い。そのなかでも、最初の方の「人間こそが神の奇跡」「人間が自ら選択し、実現することができることこそが奇跡」というジャンヌの言葉は、きらめく輝きを感じた。(井上ひさし「きらめく星座」を連想させる。もちろんアヌイの方が先だが)

ネタバレBOX

宗教裁判の中盤はついていけなくて、少々眠くなった。
史実を知らなかったので、ジャンヌが一度「改悛」をして、「はい」とうなずきサインするくだりはもどかしいし、「あれっ?」思った。入牢してから、再度自分を取り戻して、改悛撤回、火あぶりになる。第二次戦争直後に書かれたここの下りをどう解釈するか、私は混乱した。生き延びるより自分らしく死ぬことを選ぶのは、戦争中は勇敢な行為だが、平和になった後では、戦後社会への順応の拒否にならないか。
火あぶりのさなかに、「戴冠式がまだ演じていない。ジャンヌの物語の最後は、戴冠式でなければ!」ととボードリクールが客席後方から駆けつけて、「この芝居はハッピーエンドだ」と、場面は火あぶりから一転、戴冠式へ。なるほど(平和の時代の芝居らしい)と思う一方、あわただしいバタバタに少々唖然とさせられた
「アンチゴーヌ」が最高傑作。「ひばり」はそれに次ぐ傑作である。
こうもり

こうもり

新国立劇場

新国立劇場 オペラ劇場(東京都)

2023/12/06 (水) ~ 2023/12/12 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

おもしろかった。「ウインの森の物語」の曲を、中心のワルツに使っている気がする。屋敷と舞踏会と留置場と、3幕がそれぞれ全く違う話で、そこが面白い。でも何度も見てきて多少あきた感はある。新国立劇場にはそろそろ別のプロダクションを作ってほしい。

モモンバのくくり罠

モモンバのくくり罠

iaku

シアタートラム(東京都)

2023/11/24 (金) ~ 2023/12/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

横山拓也らしい安心して楽しめる、アットホームで深みのある芝居だった。真澄(枝元萌)と夫(永滝元太郎)と娘(祷キララ)の、別居はしているが仲の良い家族かと思っていると、意外な裏が次々出てくる。夫がスナックを任せている沙良(橋爪未萠里)と実は…と。でもまた、そうおもわせておいて、沙良はその気がなくて、夫の片思いとか。

話の手が込んでいて、少し落ち着くと、また新しい情報でざわつかせ、最後まであきさせない。真澄が足が悪いのは、実は過去に事故があったせいで、それに隣人の俊介(八頭司悠友)が絡んでいるとか。

ネタバレBOX

後半は、そこまで父母の仲介役だった娘が、自分の母への恨みをぶちまける。ヤマ暮らしをしたい母が、自分に生き方を押し付けてきた。そのせいで自分は普通でなくなってしまった。町で普通の暮らしがしたいのに、できなくなったと。そこに、ヤマ暮らしを見学に来ていた健治(緒方晋)が、宗教二世の子の話をもちだす。なるほど隠しテーマがここにあったかと、感心した。

母子に、母の男(ここでは夫)、不倫?相手が絡むという人間関係は「あつい胸さわぎ」と共通する。不倫は、「あつい」では娘のボーイフレンドを奪うという形だが、どちらもコケットリーな女性を橋爪が演じてぴったりの雰囲気を出してくれる。家族と、過去のトラウマという作劇法でいえば「逢いに行くの、雨だけど」とも共通点がある。この二作は横山拓也の代表作だと思うので、彼の作劇の特色がよく出ている。
海をゆくもの

海をゆくもの

パルコ・プロデュース

PARCO劇場(東京都)

2023/12/07 (木) ~ 2023/12/27 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

おもしろかった。小日向文世の悪魔役がすばらしい。他のうらぶれたガサツな労働者たちと違い、嫌みなスマートぶりが絶品。弟役の平田満と二人っきりになったとき、正体を現して魂を懸けた勝負を挑む。ぞっとするような怖さがあった。
上演3時間(休憩20分)

ネタバレBOX

最後のどんでん返しも素晴らしい。浅野和之が登場してからずっと探していた眼鏡を、ひょいと見つけることで、勝負の結果をガラッと変えてしまう。見間違いには爆笑だった。この舞台の笑いは浅野の細かい所作が多くを担っており、素晴らしい喜劇訳者だ。捨て台詞して去る悪魔に、悪魔とは知らない兄が「ナンダ未練たらたらじゃないか」と毒づくのも笑えた。

神の恩寵で、最後は悪魔が負ける展開は「ファウスト」だと思った。パンフを見ると、ポーカーに悪魔が参加して最後は負けるというアイルランドの「ヘルファイア・クラブ」の民話がある。それを作者はもとにしたそうだ。でも「ファウスト」も似ている。
東京ローズ

東京ローズ

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2023/12/07 (木) ~ 2023/12/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

アイバ・郁子・トグリは、戦争中、米軍向け「戦意喪失」放送でDJをつとめたアメリカ生まれの日系二世。UCLAを卒業し、医学部の大学院への進学が決まっていたという、当時としては超がつく才媛である。ちょうど叔母の見舞いのために日本に来ていて、日米開戦で帰国できなくなった。戦争中も特高の圧迫に抵抗してアメリカ市民権を手放さなかったのに、それが災いして、戦後米国で国家反逆罪に問われ、禁固10年、市民権はく奪の判決を受ける。なんという悲劇、なんという不条理。この人生だけでも最高のドラマの素材だ。

米穀からの来日、叔母の家、帰国失敗、同盟通信勤め、ラジオ東京勤めときて、戦後はDJ「東京ローズ」を探す米週刊誌記者の誘いに乗って、2000ドル(3万円=日本円で3年分の給料)という報酬と引き換えに「自分は東京ローズ」という契約書にサインし、インタビューを受ける。記事でも、そして裁判でも「真実はわかってもらえる」という甘い考えが裏目に出て、米国の裏切り者探しのスケープゴートにされてしまう。

6人の女優たちの芝居。主人公のアイバを、6人がバトンリレーのようにして交代で演じる。シルビア・グラブの演技がぴピカイチである。ドラマの一番のかなめである戦後、「東京ローズ」とみなされ、米国で有罪判決を受け、刑期短縮で6年で出所するまでを担っている。孤立無援のたたかいを歌う「クロスファイヤー」の重苦しいうめきのような歌も迫力があった。
70年代になって、全米日系人協会が支援を決め、フォード大統領の恩赦が出る。どん底からの逆転勝利の喜びは、歌も大いに盛り上がり、涙が出た。

他の女優は名前は知らないが、パンフを見ると、私が見た舞台にも出ている人が多い。いわば隠れた実力派ぞろい。叔母を演じた飯野めぐみが、拘留中のアイバに面会に来た時の歌がよかった。弁護士コリンズと最後のアイバを演じた森加織も、苦しくてもあきらめない正義派の感じがよく出ていた。最初のアイバと、平ラジオ局員を演じた山本咲希は小柄なのが目立ったが、まだ現役の学生とは驚いた。
2時間半、休憩15分込み

ネタバレBOX

舞台の感想を書こうとして、どうしても概説的なことが先に立ってしまう。ここにこの芝居の難しさがある。救いは全編ミュージカルになっていること。出来事の説明の場面が続くので、音楽がなければトグリ人生のエトキのような芝居になっただろう(民藝、俳優座、文学座など老舗劇団でもこういう芝居はあった)。

先日の青年座「同盟通信」(作・古川健)で、アメリカに帰国できなくなった女性タイピストが出ていた。あれがアイバ・トグリか!と、予想もしなかった二つの芝居のつながりに驚いた。(アイバのほかにも、同じ境遇の二世の女性はいたのかもしれないが)
「慈善家-フィランスロピスト」「屠殺人 ブッチャー」

「慈善家-フィランスロピスト」「屠殺人 ブッチャー」

名取事務所

「劇」小劇場(東京都)

2023/11/17 (金) ~ 2023/12/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

屠殺人ブッチャーを拝見。 かつて ラビニア (架空の国、もとソ連の一国か)で残虐な拷問を行った男(高山春夫)に対して、 若い女(万里紗)が 復讐を始める。 その冷酷さが怖い。 最初は何も関係なく見えた若い男(西尾友樹)が、実は意外な関係があって事態に巻き込まれる。その過程がスリリング。最後に どんでん返しもあり、息をつかせない。
100分とコンパクトだが、最後まで緊張感に満ちた 芝居だった。

ネタバレBOX

高山春夫は最後までラビニア語しかしゃべらない。スラブ系の響きがあるが架空の国の言葉なので、いわば出鱈目ことば。結構な分量のセリフだが、こういう出鱈目を覚えるのは極めて大変だ。台本通りに覚えていたのか、適当にアドリブなのか。余計な世話だが少々気になる。
空ヲ喰ラウ

空ヲ喰ラウ

劇団桟敷童子

すみだパークシアター倉(東京都)

2023/11/28 (火) ~ 2023/12/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

山に入って木の高所の枝打ち などを行う作業員を空師というらしい 。山深い集落で、林業が衰退する中、かつて7つもあった空師集団が今 2つしかない。そのうちの大きい方の梁瀬組が、もう 女3人しか残っていない 中村組 に共同作業を呼びかける。しかし 中村組としては今までの経緯 もあって素直に受けられない。そんなところに、山に迷い込んだ若者が中村組見習いとして入ってくる。
山育ちの人間と都会の人間との対立や、天井までセットされたうっそうとした木組みを、縦横に上がり 下がりする姿は素晴らしい。群像劇ならではのパワーがある。
惜しむらくは後半、新人青年春一(吉田知生)が、命の危険を感じるほど追手を恐れている設定に説得力が乏しい。吉田氏は白のつなぎで図体はでかいが気の弱い青年を好演していた。もう少し無理のない設定を考えてほしい。

無駄な抵抗

無駄な抵抗

世田谷パブリックシアター

世田谷パブリックシアター(東京都)

2023/11/11 (土) ~ 2023/11/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

前回「終わりのない」は「オデュッセイア」がモチーフだったそうだ。今回は「オイディプス」だというから、どのように「母と交わり、父を殺すのだろう」と思いながらみた。だいぶん変形した形で「運命」は姿を現す。最後に明らかになる運命には、驚きがあった。

いつもの前川知大のような異次元の体験がないのは残念だった。
休憩なし2時間

ネタバレBOX

DV父が娘(池谷のぶよ)には手を上げず、恐れていたようだった理由は、娘が母と伯父の間の不倫の子だったから。その娘が伯父の子を妊娠・出産していたとは。母が書き残した手紙を読んで「こんなこと、墓場まで持って行けよ」という気持ちはわかる。
シモン・ボッカネグラ

シモン・ボッカネグラ

新国立劇場

新国立劇場 オペラ劇場(東京都)

2023/11/15 (水) ~ 2023/11/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ヴェルディのオペラに、こんな作品があるとは知らなかった。あらすじにあるように、少々話が複雑。第一幕になって、プロローグから25年たっているとはわからなかった。とはいえ、人間関係がわからないほどではない。アメーリアをめぐる実父シモンと、養父。恋人と横恋慕するパオロの三角関係が軸になる。パオロがイアゴーのような、恨みっぽい策略家で複雑。2幕でシモンが「おれは犯人を知っている」とうたうので、パオロをはめるつもりなのかと勘違いした。実は犯人を知らない強がりだった。

歌手たちの歌の聞かせどころはたっぷりあって、それは見事なものだった。
初日に見たが、天皇陛下がきており、手荷物検査などあり、天皇の入場退場には拍手が起きた。残念ながら3階席から、その姿は見えなかった。

ねじまき鳥クロニクル

ねじまき鳥クロニクル

ホリプロ

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2023/11/07 (火) ~ 2023/11/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

初演を見たので2回目。蜷川幸雄演出の「海辺のカフカ」よりも、村上春樹の世界観をうまく舞台に現出させたと思うので見に行った。が、仕事で70分遅れていったので、前半90分のうち見られたのは15分と、後半75分。休憩込み3時間。

「ねじまき鳥」=村上ワールドの持つ、深部の暴力性の噴出を、ダンスと生バンドのドラムなどを使って、表現しているところが一番の見どころと思う。身体性と音楽性がカギで、言葉はあまり響いてこない(「6歳の時から声を出さなくなったの。何かあったのか、決意したのか」など、説明やほのめかし)。
音楽は大友良英が演奏しているんだから、そりゃあ力が入ってる。

ネタバレBOX

前半は、①プールサイドで岡田(渡辺大知)と笠原メイ(門脇麦)がしゃべり、ももの長い古めかしい型のピンクの水着の人々がその前を泳ぐ②金髪の娼婦(加納マルタ/クレタ=音くり寿)が綿谷ノボル(大貫勇輔)に暴力的にもてあそばれる二人のアクロバティックなからみ。「何かがかいくぐるように抜け出てきて、私は以前の私とは違ってしまった」③井戸の底へ降りていく=6人くらいがまるい列になって次々舞台中央の穴に吸い込まれる
(見てないが、この前に、ノモンハンで皮をはいで殺される回想しーん、満州の動物園で動物が殺されるシーンもある)
後半はホテルから。フロントがナツメグ(銀粉蝶)と息子の声を出さないシナモン(松岡広大)。①岡田(成河)がダンサーたちに逆さにされながら、着替えるパフォーマンス②「彼女たち」が壁をすり抜けるように現れて群舞…この後は眠くて、記憶が飛んでいる。起きていたつもりだったが、かなり寝たようだ。③ちびの牛河(さとうこうじ)と岡田のシーンもあったが、何を話していたか覚えてない。③時々、明るく軽快な曲をバックにメイが髪の毛をたくさんおさげにして壁に張り付けた書き割りのように出てくるが、何をしゃべったか? 行方不明の妻のクミコが青い裾長のワンピースで出てきて、やはり何か話していたが…。
最後は岩の上?に腰かけたメイと岡田で、綿谷ノボルは、クミコが人工呼吸器を外したため死んだことがあかされる。そして幕(あまりカタルシスはない)
マクベス

マクベス

日生劇場

日生劇場(東京都)

2023/11/11 (土) ~ 2023/11/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

ヴェルディのオペラの中では、それほど演奏機会が多くないが、意外と面白かった。もっと演じられていいと思う。そもそもシェイクスピアのマクベスが見せ場の多いドラマチックな芝居なので、ヴェルディのオペラの作風とぴったり合う。
一幕はマクベス夫人(田崎尚美)の登場のアリアや、夫(今井俊輔)妻の二重唱など、伴奏なしでアカペラの部分が多い。これが意外と緊張感を醸し出して聞かせる。ダンカン王殺害が判明しての、1幕最後のフィナーレは金管などが響くど迫力で、最大の盛り上がりだった。それまでがマクベス夫妻の密談のような抑えた音楽なので、その落差が効果的だった。
二幕のバンクォー(伊藤貴之)殺害場面も見ごたえ・聞きごたえがあった。その後のマクベスの宴席での錯乱(バンクォーの亡霊におびえる)も、一種の「狂乱の場」になっていて、音楽的にも聞かせる。二幕冒頭だったか、一幕だったか忘れたが、マクベス夫人が権力欲にとりつかれた野心を歌うアリアも一種の「狂乱の場」で迫力があった。
三幕・四幕はなぜか飽きてきちゃって、一・ニ幕がよかった。見ながら、「マクベス」は「罪と罰」にに散ると思った。野心から殺人を犯した犯人が、犯行後に心の平穏を失って自滅していく展開が重なる。

連鎖街のひとびと【11月29日~11月30日公演中止】

連鎖街のひとびと【11月29日~11月30日公演中止】

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2023/11/09 (木) ~ 2023/12/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

2000年の初演、翌年の再演から22年ぶり。ソ連軍将校にいわれて、余興の台本作りに取り組む二人の劇作家(高橋和也、千葉哲也)…という設定はおぼろげに覚えているが、後は全然忘れていた。若い作曲家(西川大貴)とマドンナ(霧矢大夢)の破局を防ぐため、「ハゲを隠す坊主頭」「嘘を隠す大嘘」で、マドンナと元満州国役人の俳優(石橋徹郎)の衝撃シーンを芝居の中に組み込んでしまおうという大芝居。演劇の「キネマの天地」のように、演劇は人を救えるという思想を前面に押し出した演劇賛歌である。そこに、政府の満州引揚者を受け入れない棄民政策の告発をちょいときかせている。

後半、芝居の稽古の場面がみごとに笑わせる。石橋徹郎が長ーいロシア人の名前を云えずに口ごもったり、止むにやまれず選出家に泣きついたり、その困りぶりがコミカルかつ生々しくて爆笑に次ぐ爆笑。

ネタバレBOX

『井上ひさし全芝居』の扇田昭彦の解説で、井上ひさし自身が参考文献に挙げた芝居が元ネタになっていることを知った。よくできてはいるが、敗戦後満州を舞台にしている割には軍部批判や戦争責任問題がなく、井上ひさしにしてはシンプルな芝居だなと思ったが、そういうことなのかと納得した。
ラストの、背景が動いて舞台の俳優が歩いている風に見せる浅草劇風シチュエーションの紹介も一種の演劇論になっている。
アメリカの怒れる父

アメリカの怒れる父

ワンツーワークス

駅前劇場(東京都)

2023/10/26 (木) ~ 2023/11/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

みる前は韓国系アメリカ人の父親の話かと思っていたが、違った。ウォール街の仕事でクズになり、仕事も失って、麻薬とアルコールに身を持ち崩したビル(奥村洋治)。息子のウイル(米澤剛志)もやはり証券トレーダーらしいが、虚業に嫌気がさして、アラブ系の妻ヘバ(北澤小枝子)をのこし、スーダンの支援活動へアフリカに行ってしまう。題材としては重い。韓国で上演した時、客席からしじゅう笑いが起きたというが、ホント、どうしてだろうか?

ネタバレBOX

息子がアルカイダに処刑され、その映像が全世界にながれるという衝撃的な事件。ビルは再び薬と酒に逃避し、周囲の忠告にも耳を貸さず、無為に閉じこもる。その自閉的状況を、若いビルの幻(金光柊太郎)との対話で芝居として立ち上がらせる。また若いナンシー(東史子=彼を振って、デイビッドに走ったヒッピーの女性)、死んだデイビッド(山下雷舞=髪を上半分だけ金髪にして目立つ)も幻になって現われ、彼の錯乱、堂々巡りは深まっていく。

しかし、これは物語。実話の父親マイケル・バーグは、息子を殺したアルカイダの男達よりも、報復戦争にまい進するブッシュ大統領を批判し、声を上げた。「息子を奪った殺人者たち以上に、私は命を終わらせるための政策を立てる人々を非難します」という手紙を、息子が殺された直後の、ロンドンでの反戦デモに送った。舞台が終わった後の帰りに、観客はその手紙を受け取り、舞台とは別の感動を味わうことになる。
劇で殺されたウィルが「一瞬だけど、僕は彼らと友達になった。お互いにのぞまないことをせざるを得なかった」という。背景にある事実に粛然とした。

私も9・11後に、「平和を求める9・11遺族の会」だったか、報復戦争の中止を求めて活動する遺族(歌手だった)を取材したことを思い出した。まさにアメリカの良心ともいうべき人たちだ。その良心の声が、こうして日本でも伝えられることをうれしく思う。いまガザ攻撃に狂奔するイスラエルの中にも、こういう良心の声はあるはずだが、日本のメディアには出てこない。

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