オットーと呼ばれる日本人 公演情報 劇団民藝「オットーと呼ばれる日本人」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    他の方も書いているが、オットー(尾崎秀実)役の神敏将が光った。思想劇ともいえる王道の戦後せりふ劇。木下順二の戯曲・せりふのうまさもあちこちで感じた。
    (抽象的なセリフは俳優泣かせだったと、どこかに書いてあったが、本作は言葉としては平易だ。情報の出し方も、通信員のフィリップの仕事を「とんつーやるだけだよ」ですませたり巧み。比喩やイメージも工夫しており、活動の危険性を地バチのたとえで語るとか。「用心しないと、巻き込まれちまいますよ」と新妻に忠告した、検事の友人が、最後に糾問役で出てくる)
    ただ男同士の政治活動のわきで、男女の恋愛関係は今一つとってつけた感があった。とくに宋夫人(桜井明美)と尾崎の関係。ジョンスン(ゾルゲ、千葉茂則)と女給の愛人も、ジョンスンたちの崇高な仕事を汚すだけのような気がする。
    転向して屈折した友人と、直接の弾圧は受けずに首相ブレーンに食い込んだオットーの対比も、考えさせられる。

    火曜昼の回を見たが、サザンシアターの客席がほぼいっぱい。この作品への関心が高いのだろう。

    ネタバレBOX

    ソ連に情報を流した尾崎の行為が、どう日本の国内改革に役立つのか、世界平和に役立つのか。売国奴なのか平和活動家なのか、その評価は難しい。もし戦後も生きていたら、毀誉褒貶は二分しただろう(アメリカの捕虜として、対日本軍宣伝に携わった日本人の例も思い浮かぶ。その人は生涯隠し通した)。公演パンフで加藤哲郎一橋大教授が語っている内容が興味深い。我々の持つゾルゲ・尾崎像は、戦後、冷戦と国内赤狩りのためにアメリカがつくったものだそうだ。この戯曲にもある上海の場面は、関係者Aの証言によるものだが、Aはアメリカのスパイで、証言は嘘だそうだ。政治的ベールをはいで、その実像を明らかにすることは、難しい課題になっている。

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    2024/05/26 16:04

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